(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409493
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】受信信号処理装置及び受信信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20181015BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20181015BHJP
H04L 27/18 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
H04B10/079
H04B10/61
H04L27/18
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-213892(P2014-213892)
(22)【出願日】2014年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-82485(P2016-82485A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正
【審査官】
前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−229718(JP,A)
【文献】
特表2013−514692(JP,A)
【文献】
特開2005−064905(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0341595(US,A1)
【文献】
国際公開第2014/189107(WO,A1)
【文献】
特開2009−232082(JP,A)
【文献】
特開2011−160162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/079
H04B 10/61
H04L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調するとともに、前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力するデジタル信号処理手段と、
前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力するとともに、前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力する誤り訂正手段と、
前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める制御手段と、
を備える受信信号処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ペナルティを、前記第1のQ値と前記第2のQ値との差分に基づいて求めることを特徴とする、請求項1に記載された受信信号処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記シンボル間のユークリッド距離をd、前記シンボルの雑音分布の分散をσ2としたとき、前記第1のQ値を
d/(2σ)
で求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載された受信信号処理装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記前方誤り訂正の際の符号誤り率をBER、相補誤差関数の逆関数をerfc-1、2の平方根を21/2としたとき、前記第2のQ値を
21/2×erfc-1(2×BER)
で求めることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載された受信信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された受信信号処理装置と、
局発光を生成する局発光源と、
受信光を同位相信号と直交位相信号とに分離し、分離された前記受信光を前記局発光と結合させてそれぞれのビート信号を生成する90度ハイブリッドミキサーと、
前記90度ハイブリッドミキサーから出力された前記ビート信号を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記電気信号をデジタル信号に変換して出力するアナログデジタル変換手段と、
を備え、
前記受信信号処理装置が備える前記デジタル信号処理手段は、前記アナログデジタル変換手段から入力された信号に対してデジタルコヒーレント復調処理を行って受信信号を復調することを特徴とする、光受信器。
【請求項6】
入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調し、
前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力し、
前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力し、
前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力し、
前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める、
受信信号処理方法。
【請求項7】
受信信号処理装置のコンピュータに、
入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調する処理、
前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力する処理、
前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力する処理、
前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力する処理、
前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める処理、
を実行させるための受信信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受信信号処理装置及び受信信号処理方法に関し、特に、光ファイバの非線形光学効果による信号光の特性劣化を監視可能な受信信号処理装置及び受信信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広く普及してきた、伝送速度が2.5Gbit/sや10Gbit/sである光伝送システムに代わり、伝送速度が40Gbit/sや100Gbit/s、あるいはそれ以上の超高速長距離光伝送システムが実用化されている。超高速長距離光伝送システムにおいては、強度変調−直接検波受信方式に替わってコヒーレント伝送方式の採用が有力視されている。コヒーレント伝送方式が採用された光伝送システムでは、光送信器には光位相変調技術が用いられる。光受信器には、コヒーレント受信技術及びデジタル信号処理技術を組み合わせたデジタルコヒーレント受信技術が用いられる。光位相変調方式は、信号光対雑音耐力特性、波長分散耐力特性、及び、偏波モード分散耐力特性などの長距離光ファイバ伝送において要求される特性に優れる。
【0003】
光位相変調方式の中でも、特に伝送特性、実現容易性及びコストのバランスから、BPSK、QPSK及びPM−QPSKなどの変復調方式の研究及び開発が盛んに行われている。BPSKは、2値位相変調方式(binary phase shift keying)を意味し、QPSKは、4値位相変調方式(quadrature PSK)を意味し、PM−QPSKは偏波多重4値位相変調(polarization multiplexing-QPSK)を意味する。PM−QPSKでは、使用する光周波数帯域幅を増加させることなく伝送容量を拡大するために、光周波数利用効率に優れる4値位相変調信号が、直交する2偏波で多重される。
【0004】
光直接増幅器が用いられる長距離光多中継伝送においては、変復調方式にかかわらず、信号光の受信特性に最も影響を与えるパラメータは信号光対雑音比(optical signal to noise ratio、OSNR)である。そして、伝送距離が長くなるほど、OSNRの悪化による信号劣化に加えて、光ファイバの持つ非線形光学効果に起因する信号劣化の影響が大きくなる。光受信器において受信する信号光の受信特性及びその劣化原因を特定することは、伝送装置の性能を監視する上で非常に重要である。
【0005】
本発明に関連して、特許文献1は、信号光伝送装置において、信号品質劣化の要因が分散によるものかどうかを識別した結果に基づいて、分散補償器が制御される構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−232082号公報([0037]〜[0050]段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
信号の重要な伝送特性の一つに、符号誤り率(bit error rate、BER)特性がある。超高速長距離光伝送システムにおける第1の課題は、BER特性における、符号誤りの発生原因の特定が困難であることである。BER特性は、一般に、前方誤り訂正(forward error correction、FEC)の際の誤り訂正数によって監視可能である。しかしながら、BER特性から、誤りの発生原因、すなわち信号品質の低下の原因を特定することは容易ではない。
【0008】
超高速長距離光伝送システムにおける第2の課題は、信号品質の低下の原因を、運用中に、リアルタイムかつ信号伝送特性に影響を与えることなく特定することが困難であることである。すなわち、信号品質の低下の原因を特定するためには、光受信器に入力される信号光を分岐して、光スペクトルアナライザのような波長分光機能を有する測定器又は同等の機能を有する分光デバイスを用いてBERやOSNRを測定する必要があった。しかしながら、信号光を分岐させてBERやOSNRを測定する構成では、主信号光パワーが分岐によって減少することに加えて、高価な測定器あるいは特殊な専用デバイスがさらに必要となるという課題があった。さらに、分光デバイスの動作は一般に低速なため、分光デバイスの測定結果に基づいて信号品質の低下の原因をリアルタイムに特定することが困難であるという課題もあった。
【0009】
特許文献1には、信号品質劣化の要因が、分散によるものか否かを識別し、波長分散が原因でない場合は、可変分散補償の制御を行なわない技術が記載されている。しかしながら、特許文献1には、簡単な構成で信号品質の低下原因をリアルタイムに特定する技術に関しては記載されていない。
(発明の目的)
本発明は、簡単な構成で信号品質の低下原因をリアルタイムに特定するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の受信信号処理装置は、入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調するとともに、前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力するデジタル信号処理手段と、前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力するとともに、前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力する誤り訂正手段と、前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める制御手段と、を備える。
【0011】
本発明の受信信号処理方法は、入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調し、前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力し、前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力し、前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力し、前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の受信信号処理プログラムは、受信信号処理装置のコンピュータに、入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調する処理、前記復調された信号のシンボルの分布及び前記復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、前記受信信号の品質を示す第1のQ値を求めて出力する処理、前記復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力する処理、前記前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて前記受信信号の品質を示す第2のQ値を求めて出力する処理、前記第1のQ値及び第2のQ値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求める処理、を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、簡単な構成で信号品質の低下原因をリアルタイムに特定し、非線形光学効果に起因する信号品質の劣化量を示すペナルティを求めることを可能とするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態の光受信器の構成を示すブロック図である。
【
図2】受信信号のコンスタレーション上のシンボルの分布の例を示す図である。
【
図3】シンボルS1及びS2の間の距離の例を表す図である。
【
図4】Q_const値とQ_ber値の計算結果の例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態の受信信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】第2の実施形態の受信信号処理装置の動作手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下では、自己位相変調(self phase modulation)をSPM、相互位相変調(cross phase modulation)をXPM、相互偏波変調(cross polarization modulation)をXPolMと記載する。
【0016】
SPM、XPMあるいはXPolMなどに起因する、光ファイバの非線形光学効果(以下、単に「非線形効果」という。)により引き起こされる信号劣化は、定常的に一様に生じるのではなく、短時間で集中的にビット誤りを発生させる場合が多い。
【0017】
一方、光信号の品質指標として、Q値が用いられる。一般に、Q値が高いほど信号品質が高いことを示す。以下の実施形態では、Q値として、算出方法が異なるQ_ber値及びQ_const値が用いられる。
【0018】
Q_ber値は、FEC(前方誤り訂正)の誤り訂正数から計算される。FECの誤り訂正数には、非線形効果によるインパルス的なビット誤りも確実にカウントされる。これに対して、Q_const値は、光ファイバ増幅器から生ずる自然放出光(amplified spontaneous emission、ASE)雑音などのランダム雑音による分布広がりが支配的なコンスタレーションマップから、ガウス分布による近似計算で求められる。Q_const値の計算では、非線形効果の影響によるインパルス的な信号劣化分は、近似計算によって平滑化される。その結果、Q_const値は、非線形効果による信号劣化を含まないQ値である。従って、Q_ber値とQ_const値とを比較することにより、非線形効果による信号品質の劣化量(以下、「ペナルティ」という。)を求めることが可能となる。
【0019】
Q_ber値は、FECを行う誤り訂正部から出力される誤り訂正数から、リアルタイムに計算で求められる。Q_const値は、光受信器で生成されるコンスタレーションマップの信号分布から、やはりリアルタイムに計算で求められる。ここで、Q_ber値とQ_const値を計算するために、測定器や信号光の特性劣化の要因となるデバイスを光受信器に追加する必要はない。その結果、以下の実施形態によれば、信号光の特性への影響や装置の価格の上昇を抑えつつ、信号品質の低下原因をリアルタイムに特定し、非線形効果に起因するペナルティの監視がリアルタイムに可能となる。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の光受信器200の構成を示すブロック図である。光受信器200は、QPSKデジタルコヒーレント光受信器である。光受信器200は、局部発振光源(局発光源)203、90度光ハイブリッドミキサー204、光電変換部205、アナログデジタル変換部206、デジタル信号処理部207、誤り訂正部208、制御部211を備える。
【0021】
90度光ハイブリッドミキサー204は、例えば光導波路デバイスで構成される。90度光ハイブリッドミキサー204は、入力された信号光(受信信号光)を、同相位相(in phase)信号光及び直交位相(quadrature phase)信号光に分離する。局発光源203は、分離されたそれぞれの受信信号光とのビート信号を生成するための局発光を生成して、90度光ハイブリッドミキサー204に入力する。局発光源203は、例えば半導体レーザを含んで構成される。
【0022】
光電変換部205は、90度光ハイブリッドミキサー204で生成されたビート信号を、電気信号に変換する。光電変換部205は、例えば、高速フォトダイオードである。アナログデジタル変換部206は、光電変換部205から出力された電気信号をデジタル信号に変換する。デジタル信号処理部207は、デジタル信号に変換された電気信号にデジタルコヒーレント復調処理を行って受信信号を復調する。以上の局発光源203、90度光ハイブリッドミキサー204、光電変換部205、アナログデジタル変換部206、デジタル信号処理部207の構成及び動作は一般的なデジタルコヒーレント光受信器として知られているので、これらの詳細な説明は省略する。
【0023】
デジタル信号処理部207は、さらに、復調された受信信号のコンスタレーションマップの分布からQ_const値を求めて制御部211に出力する。誤り訂正部208は、復調された受信信号のFEC処理を行い、復調電気信号として出力する。また、誤り訂正部208は、FEC処理における誤り訂正数からBER(符号誤り率)を計算し、BERに基づいて計算されたQ_ber値を制御部211に出力する。デジタル信号処理部207及び誤り訂正部208は、例えば、DSP(digital signal processor)で制御される演算回路として構成されてもよい。
【0024】
制御部211は、デジタル信号処理部207からQ_const値を取得するとともに、誤り訂正部208からQ_ber値を取得する。制御部211は、Q_const値とQ_ber値とを比較することで、非線形効果によるペナルティをリアルタイムに監視できる。制御部211は、CPU(central processing unit、中央処理装置)220及び半導体メモリ等の記録装置221を備えてもよい。CPU220は、記録装置221に記録されたプログラムにより、デジタル信号処理部207、誤り訂正部208、制御部211を含む光受信器200の全体を制御してもよい。
【0025】
以下に、Q_const値とQ_ber値との計算手順、及び、Q_const値とQ_ber値とに基づいて非線形効果によるペナルティを求める手順について説明する。
【0026】
誤り訂正部208におけるFECの誤り訂正数から計算されるBERとQ_ber値との関係は、相補誤差関数erfc(complementary error function)を用いて式(1)のように表される。
【0027】
従って、Q_ber値は、相補誤差関数の逆関数erfc
−1を用いて式(2)のように表される。
【0028】
次に、デジタル信号処理部207で生成されるコンスタレーションからQ_const値を求める手順について説明する。
図2は、受信信号のコンスタレーション上のシンボルの分布の例を示す図である。
図2の横軸Iは同相位相の信号の振幅を示し、
図2の縦軸Qは直交位相の信号の振幅を示す。
図2には、振幅(I,Q)が(1,1)、(1,−1)、(−1,−1)、(−1,1)の4個のシンボルが示される。
【0029】
図3は、コンスタレーション上の任意のシンボルS1及びS2間の距離を表す図である。
図2及び
図3のシンボルにおいて、シンボル間のユークリッド距離をd、シンボルの雑音分布を平均0で分散σ
2のガウス分布と仮定する。この場合、
図3のシンボルS1がシンボルS2に誤る確率BER
constは、式(3)で表される。
【0030】
従って、Q_const値は、式(4)のように表される。
【0031】
図4は、Q_const値とQ_ber値との計算結果の例を示す図である。
図4は、伝送路である光ファイバへの信号光の送出パワー(以下、「送出パワー」という。)を実際に変化させ、伝送路を介して光受信器200で受信された受信信号光に基づいて計算されたQ_const値とQ_ber値との例を示す。Q_const値は、受信信号のコンスタレーションマップの分布から計算された。Q_ber値は、受信信号の誤り訂正部208における誤り訂正数から計算された。
図4の横軸は相対的な送出パワー(以下、「相対送出パワー」という。)である。
図4の縦軸は、コンスタレーションから求めたQ_const値(破線)と、BERから求めたQ_ber値(実線)とを示す。
図4の縦軸で示されるQ_const値と、Q_ber値とは、いずれも相対値(任意目盛)を示す。
【0032】
図4において、Q_const値とQ_ber値との差が非線形効果によるペナルティを示す。送出パワーを初期値(相対送出パワー=0dB)から上げていくと、徐々にQ_const値とQ_ber値の差、すなわちペナルティが大きくなる。
図4では、特に、相対送出パワーが7dBを超えるとQ_ber値が減少に転じるため、ペナルティが急激に増大する。
【0033】
すなわち、
図4の場合は、相対送出パワーが7dB付近でQ_ber値は最適値となる。すなわち、相対送出パワーを7dBよりも増加させると、非線形効果の影響でQ_ber値は悪化する。一方、相対送出パワーを7dBよりも減少させると、ASE等のランダム雑音の影響によりQ_ber値が悪化する。
【0034】
従って、相対送出パワーの増加によりQ_ber値が上昇する場合には、信号劣化の主な原因はASE雑音などによる線形劣化によるものと特定できる。信号劣化の原因がこのようなランダム雑音による線形劣化である場合は、送出パワーを高くすることにより、Q_ber値及びQ_const値が改善される。これは、送出パワーの増加により、受信信号光のOSNRが高くなるためである。
【0035】
しかしながら、非線形効果による信号劣化が大きい場合は、送出パワーをより高くすることで受信信号光のOSNRが向上してQ_const値が改善される一方、非線形効果によってQ_ber値は低下する。その結果、非線形効果による信号劣化が大きい場合は、Q_const値の改善効果よりも、Q_ber値の低下によるペナルティの増大が支配的となる。このような場合には、送出パワーを高くすると、信号品質はむしろ悪化する。従って、相対送出パワーの増加によりQ_ber値が低下する場合には、信号品質の劣化原因は非線形効果によるものと特定できる。そして、領域非線形効果に起因するQ_ber値の悪化が信号品質を支配する領域では、送出パワーを低下させることで非線形効果に起因するQ_ber値の悪化を抑制することでペナルティを小さくし、信号品質を改善できる。
【0036】
このように、第1の実施形態の光受信器200は、光受信器の電気回路で算出されるQ_const値とQ_ber値とをリアルタイムに算出する。そして、これらを比較することで、光ファイバの非線形光学効果によるペナルティを、測定器や分光デバイスを用いることなく、リアルタイムで求めることが可能になる。
【0037】
ここで、Q_const値とQ_ber値とをリアルタイムに比較する手順は、伝送速度に依存しない。また、変調方式はQPSKに限定されない。すなわち、変調方式はBPSKや8値の位相変調であってもよい。あるいは、変調方式は、NRZ(non-return-to-zero)やRZ(return-to-zero)などの強度変調であってもよい。さらには、変調方式は、m−QAM(m値 quadrature amplitude modulation)などの、位相変調と強度変調とを組み合わせた方式でもよい。このように、第1の実施形態の効果は、変復調方式にも依存しない。
【0038】
以上説明したように、第1の実施形態の光受信器は、符号誤り発生原因を、測定器や主信号光の特性劣化を生じさせる恐れのあるデバイスを追加することなく、簡単な構成でリアルタイムに特定し、非線形効果によるペナルティを求めることができる。
【0039】
その理由は、コンスタレーションマップ上のシンボルの分布から求められるQ_const値と誤り訂正数から求まるQ_ber値とを用いて、ASE等の雑音に基づく信号品質と、光ファイバの非線形光学効果に基づく信号品質とが独立に計算されるからである。
【0040】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態の受信信号処理装置300の構成を示すブロック図である。受信信号処理装置300は、第1の実施形態で説明したデジタル信号処理部207、誤り訂正部208及び制御部211を備える。第1の実施形態で説明したデジタル信号処理部207、誤り訂正部208及び制御部211の機能は、以下のようにも記載できる。
【0041】
デジタル信号処理部207は、入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調する。デジタル信号処理部207は、さらに、復調された信号のシンボルの分布及び復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、受信信号の品質を示すQ_const値(第1のQ値)を求めて出力する。
【0042】
誤り訂正部208は、デジタル信号処理部207で復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力する。誤り訂正部208は、さらに、前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて、受信信号の品質を示すQ_ber値(第2のQ値)を求めて出力する。
【0043】
制御部211は、Q_const値及びQ_ber値に基づいて、光ファイバの非線形効果による信号品質の劣化量(ペナルティ)を求める。ペナルティは、例えば、Q_const値とQ_ber値との差分から求めてもよい。
【0044】
図6は、第2の実施形態の受信信号処理装置300の動作手順の一例を示すフローチャートである。デジタル信号処理部207は、入力された受信信号のコンスタレーションに基づいて受信信号のシンボルを復調する(
図6のステップS01)。そして、デジタル信号処理部207は、復調された信号のシンボルの分布及び復調された信号のシンボル間の距離に基づいて、受信信号の品質を示すQ_const値を求める(S02)。
【0045】
さらに、誤り訂正部208は、復調された信号の前方誤り訂正を行い、訂正した信号を復調電気信号として出力し(S03)、前方誤り訂正の際の符号誤り率に基づいて受信信号の品質を示すQ_ber値を求める(S04)。
【0046】
制御部211は、Q_const値及びQ_ber値に基づいて光ファイバの非線形光学効果に起因するペナルティを求める(S05)。
【0047】
ここで、制御部211は、第1の実施形態と同様に、受信信号のシンボル間のユークリッド距離をd、シンボルの雑音分布の分散をσ
2としたとき、Q_const値をd/(2σ)として求めてもよい。さらに、制御部211は、前方誤り訂正の際の符号誤り率をBER、相補誤差関数の逆関数をerfc
-1、2の平方根を2
1/2としたとき、Q_ber値を2
1/2×erfc
-1(2×BER)として求めてもよい。また、
図6のステップS02が実行される位置は、ステップS01とステップS05の間にあればよい。
【0048】
このような構成を備える受信信号処理装置300は、第1の実施形態と同様に、受信信号のQ_const値とQ_ber値とをリアルタイムに算出できる。そして、Q_const値とQ_ber値とを比較することで、光ファイバの非線形効果によるペナルティをリアルタイムに計算で求め、信号劣化の原因を特定できる。すなわち、第2の実施形態の受信信号処理装置300も、簡単な構成で信号品質の低下原因をリアルタイムに特定し、非線形光学効果に起因するペナルティを求めることを可能とする。
【0049】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態に限定されない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0050】
200 光受信器
203 局部発振光源(局発光源)
204 90度光ハイブリッドミキサー
205 光電変換部
206 アナログデジタル変換部
207 デジタル信号処理部
208 誤り訂正部
211 制御部
220 CPU
221 記録装置
300 受信信号処理装置