特許第6409553号(P6409553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6409553フェライトコア、電子部品、及び、電源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409553
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】フェライトコア、電子部品、及び、電源装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/38 20060101AFI20181015BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20181015BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C04B35/38
   H01F1/34 140
   H01F27/255
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-253867(P2014-253867)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-113330(P2016-113330A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 義人
(72)【発明者】
【氏名】米澤 祐
(72)【発明者】
【氏名】安原 克志
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−286119(JP,A)
【文献】 特開2014−80344(JP,A)
【文献】 特開2005−213100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/38
H01F 1/34−1/38
H01F 27/255
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄をFe換算で50.5〜55.5mol%、酸化亜鉛をZnO換算で7.0〜11.5mol%、残部が酸化マンガンである主成分を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、NiをNiO換算で500〜10000ppm含むこと、TiをTiO換算で100〜6000ppm含むこと、CoをCoO換算で500〜4000ppm含むこと、SiをSiO換算で50〜300ppm含むこと、CaをCaO換算で200〜3000ppm含むMnZn系フェライトであって、前記MnZn系フェライトはスピネル構造を有する多結晶体であり、結晶粒界中のCa濃度が最大になる点AのCaとSiの組成比Xと点Aから5nm粒内方向に進んだ点BにおけるCaとSiの組成比Yが以下の関係式を満たすことを特徴とするフェライトコア。
関係式:0.5≦X≦1.0、X+0.05≦Y≦X+0.50
ただし、X、Yは以下の式で表され
X、Y=Ca濃度(at%)/Si濃度(at%)
とする。
【請求項2】
前記主成分に対し、NbをNb換算で50〜750ppm、TaをTa換算で50〜1500ppm、VをV換算で50〜1000ppm、SnをSnO換算で500〜8000ppmを1種または2種以上含むことを特徴とする請求項1に記載のフェライトコア。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれか1項に記載のフェライトコアを用いて構成される電子部品
【請求項4】
請求項3に記載の電子部品を備えた電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100℃近傍の飽和磁束密度が高く、駆動時の音鳴きが抑制され、且つ、強度の高いフェライトコアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電源用トランスなどの磁心材料として、フェライト焼結体が使用されている。コア(磁心)を形成するフェライト焼結体は、フェライトコアと呼ばれ、MnおよびZnを含有するMnZn系フェライトが広く使用されている。近年では電源の小型化に伴いフェライトコアも小型化、低背化により高い飽和磁束密度が求められている。また、フェライトコアは電源への実装時、輸送時、使用時に割れや欠けが発生しやすく、コア強度が問題となっている。さらに使用時の音鳴りも問題となっており、低騒音化も求められている。
【0003】
コアの強度を高める方法として、例えば特許文献1ではZnO:10.0〜15.0mol%、Fe:52.0〜54.0mol%、MnO:残部の成分組成になる基本成分中に、Bi:0.0050〜0.0200mass%、SiO:0.0050〜0.0500mass%およびCaO:0.0200〜0.2000mass%を含有していることが記載されている。
【0004】
音鳴りを抑制する方法として、例えば特許文献2では複数の脚部を持つコアの脚と脚の間に制振材を挟むことによって、トランス鳴きが低減または防止されるトランスを提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−138117号
【特許文献2】特開2013−118308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1ではコア強度は向上するが、この技術では、音鳴りの原因である飽和磁歪の低減ができていないため駆動時の音鳴きの抑制については十分ではない。特許文献2では音鳴きは低減しているものの、磁歪を低減しているものではなく根本的な解決の方法とはいえない。
【0007】
そこで本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した課題を解決できるフェライトコアを提供することにある。特に100℃における磁歪を小さくすることで駆動時の音鳴きを抑え、100℃における飽和磁束密度が高く、且つ、高い強度を持つフェライトコアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明者等はMnZn系フェライトに含まれる主成分として酸化鉄、酸化亜鉛、副成分として酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化チタン、酸化ケイ素および酸化カルシウムの組成および粒界や粒界近傍のケイ素とカルシウムの組成比に着目し、その特性について鋭意研究を行った。その結果100℃において駆動時の音鳴きを抑え、飽和磁束密度が高く、かつ、高いコア強度を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るフェライトコアは、酸化鉄をFe換算で50.5〜55.5mol%、酸化亜鉛をZnO換算で7.0〜11.5mol%、残部が酸化マンガンである主成分を含むMnZn系フェライトであって、この主成分に対して、NiをNiO換算で500〜10000ppm含むこと、TiをTiO換算で100〜6000ppm含むこと、CoをCoO換算で500〜4000ppm含むこと、SiをSiO換算で50〜300ppm含むこと、CaをCaO換算で200〜3000ppm含むMnZn系フェライトであって、前記MnZn系フェライトはスピネル構造を有する多結晶体であり、結晶粒界中のCa濃度が最大になる点AのCaとSiの組成比Xと点Aから5nm粒内方向に進んだ点BにおけるCaとSiの組成比Yが以下の関係式を満たすことを特徴とするフェライトコアである。
関係式:0.5≦X≦1.0、X+0.05≦Y≦X+0.50
ただし、X、Yは以下の式で表され
X、Y=Ca濃度(at%)/Si濃度(at%)
とする。
【0010】
また本発明のフェライトコアにおいて、副成分として、主成分に対してNbをNb換算で50〜750ppm、TaをTa換算で50〜1500ppm、VをV換算で50〜1000ppm、SnをSnO換算で500〜8000ppmを1種または2種以上含むことを特徴とするが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
100℃近傍における駆動時の音鳴きを抑え、100℃における飽和磁束密度が高く、かつ、高いコア強度を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本発明における成分の限定理由を説明する。
本発明のフェライトコアは、次のように組成を適宜選択することで100℃における飽和磁束密度が高く、かつ、100℃における飽和磁歪を小さくすることで駆動時の音鳴きを抑えることができる。
【0013】
本発明のフェライトコアは主成分としてのFe量をFe換算で50.5〜55.5mol%とする。なお、以下では、Fe量をFe換算でとの表記を単に、Fe量等と表記する。Fe量が50.5mol%未満だと、飽和磁歪は低減されるが飽和磁束密度が小さくなってしまう。一方、Fe量が55.5mol%を超えると飽和磁歪が大きくなってしまう。したがって、本発明ではFe量を50.5〜55.5mol%とする。好ましい量は51.5〜54mol%である。
【0014】
ZnO量も飽和磁束密度および飽和磁歪に影響を与える。ZnO量が7.0mol%より少ないと飽和磁歪が大きくなってしまう。ZnOが11.5mol%を超えると飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明ではZnO量を7.0〜11.5mol%とする。本発明のフェライトコアは主成分として、上記以外に不可避的不純物を除いて残部がMnOから構成される。
【0015】
次に本発明における副成分について説明する。
本発明のフェライトコアは、副成分として、Ni量をNiO換算で500〜10000ppmとする。NiOは磁歪を抑制するのに有効であり、その効果を得るために主成分に対して500ppm以上添加する。但し、添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明ではNiO量を10000ppm以下とする。好ましい量は2000〜10000ppmである。
【0016】
本発明のフェライトコアは、副成分として、TiO量を100〜6000ppmとする。TiOは4価のTiイオンとしてスピネル格子中のFeと置換して磁歪を低減できる。その効果を得るためには主成分に対し100ppm以上添加する。但し、添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなる。したがって本発明ではTiO量を6000ppm以下とする。好ましい量は1000〜3000ppmである。
【0017】
本発明のフェライトコアは、副成分として、CoO量を500〜4000ppmとする。CoOは磁歪を抑制するのに有効であり、その効果を得るために主成分に対して500ppm以上添加する。但し、その添加量が多すぎると、飽和磁束密度が小さくなってしまう。したがって本発明では、CoO量を4000ppm以下とする。好ましいCoO量は500〜3000ppmである。
【0018】
また、Ni、Ti、Coは同時に添加することでその効果はさらに高まる。NiやCoはBサイトに固溶することで磁歪抑制効果が得られる。しかし、これらを単体で添加すると、BサイトだけではなくAサイトにも固溶してしまい、添加量に対して十分な効果が得られない。しかし、Tiを同時に添加することでNiやCoがBサイトに固溶しやすくなり単体で添加するよりも大きい磁歪抑制効果を得ることができる。
【0019】
また、本発明のフェライトコアはSiとCaの偏析量および固溶量を制御することによりコア強度を向上することができる。
【0020】
本発明のフェライトコアは、副成分として、SiO量を50〜300ppmおよびCaCO量を200〜3000ppmの範囲内で含むことができる。SiおよびCaは、結晶粒界に偏析して高抵抗層を形成して低損失に寄与するとともに焼結助剤として焼結密度を向上する効果を有する。SiO量が50ppm未満、あるいはCaCO量が200ppm未満だと上記効果を十分に得ることができない。また、SiO量が300ppm、あるいはCaCO量が3000ppmを超えると、異常粒成長してしまい強度が低下する。そこでSiO量を50〜150ppmおよびCaCO量を500〜2000ppmとすることが好ましく、さらにSiO量を75〜125ppmおよびCaCO量を800〜1600ppmとすることが好ましい。
【0021】
図1はフェライトコアの断面の模式図である。Mn−Zn系フェライト100は、粒子1と粒界2から形成されている。図に示すように任意の2粒子粒界の粒界法線方向にSiとCaの組成分析を行い、Ca濃度が最大となる点をA、そこから粒界法線方向に5nm離れた点をBとする。各点におけるCaおよびSiの組成比(Ca/Si比)が以下の関係式を満たす場合にMn−Zn系フェライトの強度が向上することを、本発明者らは見出した。ここで、点Aにおける組成比をXと点Bにおける組成比をYとした。
関係式:0.5≦X≦1.0、X+0.05≦Y≦X+0.50
【0022】
また、点A、Bを決める際に3粒子以上が共有する粒界は避けるようにした。これは、多数の粒子が共有する粒界は2粒子粒界とは粒界偏析状態が異なると予想されることや、粒界法線方向を1つに定められないためである。
【0023】
本発明では上述した関係式を満たすことで粒子界面から粒子内部方向に、CaがSiに比べ緩やかに減衰する組成分布をすることで、結晶格子に加わる応力が緩やかに減衰するためであると考えられる。すなわち、粒子内部の結晶格子に加わる応力が緩和され、粒子内部の結晶格子はエネルギー的に安定に存在し、結晶全体として高い強度を発現することが考えられる。
【0024】
また、本発明では次のように副成分を制限することでコア損失を抑えることができる。
本発明のフェライトコアは、副成分として、Nb量を50〜750ppmおよびTaを50〜1500ppmの範囲内で含むことができる。NbおよびTaは粒界抵抗を高める働きがある成分である。Nb量が50ppm未満、あるいはTa量が50ppm未満では改善効果がない。また、Nb量が750ppmを超え、あるいはTa量が1500ppmを超えると異常粒成長によりコア損失が大きくなるため、Nb量を50〜750ppmおよびTa量を50〜1500ppmの範囲に限定した。含有量が多くなると異常粒成長を起こすためNb量を100〜300ppmおよびTa量を100〜500ppmの範囲で含有させるのが好ましい。
【0025】
本発明のフェライトコアは、副成分として、V量を50〜1000ppmの範囲内で含むことができる。Vは粒界抵抗を高める働きがある成分である。V量が50ppm未満では改善効果がない。また、V量が1000ppmを超えると異常粒成長によりコア損失が大きくなるため、V量を50〜1000ppmの範囲に限定した。含有量が多くなると異常粒成長を起こすためV量を100〜500ppmの範囲で含有させるのが好ましい。
【0026】
本発明のフェライトコアは、副成分として、SnOを500〜8000ppm含むことができる。Snは一部粒界に存在し焼結後の冷却過程で粒界再酸化を助長して損失を低下させる成分である。SnOは4価のイオンとしてスピネル格子の原子とも置換してボトム温度を低下させる働きもある。しかしながら、添加量が多すぎると異常粒成長を引き起こして損失が高くなるため、SnO量は500〜8000ppm、の範囲で含有させる。好ましくは、SnO量を1000〜3000ppmの範囲で含有させる。なお、これらの成分は必ずしも酸化物の形で添加する必要はなく、たとえば、炭酸塩の形で混合してもかまわない。
【0027】
次に、本発明によるフェライトコアにとって好適な製造方法を説明する。
主成分の原料としては、酸化物又は加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いる。具体的には、Fe粉末、Mn粉末およびZnO粉末等を用いることができる。各原料粉末の平均粒径は0.1〜3.0μmの範囲で適宜選択すればよい。主成分の原料粉末を湿式混合した後、仮焼きを行う。仮焼きの温度は800〜1100℃の範囲内での所定温度とすればよい。仮焼きの安定時間は0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。仮焼き後、仮焼き材を例えば、平均粒径0.5〜3.0μm程度まで粉砕する。なお、本発明では、上述の主成分の原料に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を主成分の原料としてもよい。例えば、塩化鉄、塩化マンガンを含有する水溶液を酸化培焼することによりFe、Mnを含む複合酸化物の粉末が得られる。この粉末とZnO粉末を混合して主成分原料としてもよい。このような場合には、仮焼きは不要である。
【0028】
仮焼き後に副成分を添加する。仮焼き後の添加には、仮焼き材に副成分の原料を添加して上記粉砕を行ってもよいし、仮焼き材の粉砕後に副成分の原料を添加、混合することもできる。ただし、NiO、TiO、CoOについては、主成分の原料とともに仮焼きに供することもできる。
副成分の原料として、酸化物又は加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いることもできる。具体的には、NiO粉末、Mn粉末、SiO粉末、CaCO粉末、Nb粉末、Ta粉末等を用いることができる。
【0029】
主成分および副成分からなる混合粉末は、後の成型工程を円滑に実行するために顆粒に造粒される。造粒は例えばスプレードライヤを用いて行うことができる。混合粉末に適当な結合材、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加し、これをスプレードライヤで噴霧、乾燥する。得られる顆粒の粒径は80〜300μm程度とすることが好ましい。
【0030】
得られた顆粒は、例えば所定形状の金型を有するプレスを用いて所望の形状に成型され、この成型体は焼成工程に供される。
焼成工程においては、焼成温度と焼成雰囲気を制御する必要がある。焼成温度は1250〜1500℃の範囲から適宜選択することができるが、本発明のフェライトコアの効果を十分引き出すには、1300〜1400℃の範囲で焼成することが好ましい。焼成雰囲気は、窒素と酸素の混合雰囲気において、酸素分圧を適宜調整すればよい。
【0031】
焼成工程における最大温度から950℃まで冷却し、950℃において2時間の温度保持を行う。一定温度に保持することで、添加元素であるSi、Ca、Nb等を含有した非晶質粒界層の形成を行う。次に、再度1200℃まで昇温させ、1200℃において10〜40分の温度を保持した後、室温まで冷却する。この1200℃での温度保持操作によってCaが結晶粒子内に適度に固溶した状態を実現でき、その結果、結晶粒界から結晶粒子に加わる応力を緩和することができる。1200℃での保持時間が短いとCaの結晶粒子内への固溶が不十分となるため、結晶粒界から結晶粒子に加わる応力が増加してしまい、強度向上の効果を得ることができない。他方、1200℃での保持時間が長いと、Caが結晶粒子内へ固溶しすぎるために粒界形成が不十分となり、強度の低下および磁気損失の増加を招いてしまう。
【0032】
フェライトコアの一般的な焼成工程において冷却時に再昇温は行わないが、再昇温を行うことでCaの粒内固溶が促進され、十分な強度を得ることができる。
【0033】
焼成された本発明によるフェライトコアは、93%以上、さらに好ましくは95%以上の相対密度を得ることができる。
本発明により得られたフェライトコアはトランスに用いることが可能であり、本発明により得られたトランスは、スイッチング電源装置に用いることが可能である。
【0034】
図2(a)は、本実施形態に係るE字型フェライトコア(磁心)を示す斜視図である。図2(a)に示すように、E字型のフェライトコア200は、E型コアなどと呼ばれ、トランスなどに使用される。フェライトコア200のようなE型コアが採用されたトランスとしては、図2(b)に示すうような内部に2つのE型コアが対向配置されたものが知られている。
【0035】
図3は、スイッチング電源装置の構成を示すブロック図である。
【0036】
図3に示すスイッチング電源装置300は、直流入力電圧Vinを直流出力電圧Voutに変換するための装置(DC/DCコンバーター)であり、直流出力電圧Vinに含まれるノイズ成分を除去する入力フィルタ301と、入力フィルタ301の出力を交流に変換するスイッチング回路302と、スイッチング回路302の出力を変圧するトランス303と、トランス303の出力を直流に変換する整流回路304と、整流回路の出力を平滑化する平滑回路305とを備えている。このような構成を有するスイッチング電源装置300において、トランス303のコアとして本発明によるコアを用いれば、トランス303にて発生する熱が効率よく排出されることから、スイッチング電源装置300の信頼性を高めることが可能となる。
【0037】
図3に示したスイッチング電源装置300は、特に自動車用のスイッチング電源装置として利用することが好適である。
【0038】
図4は、スイッチング電源装置300を備えた自動車の主要部分を概略的に示すブロック図である。
【0039】
図4に示すように、スイッチング電源装置300を自動車用に用いた場合、スイッチング電源装置300は、高圧バッテリー310と電気機器320および低圧バッテリー330との間に設けられ、高圧バッテリー310より供給される約144Vや約288Vの高電圧を約14Vに降圧してこれを電気機器320に供給するとともに、低圧バッテリー330を充電する役割を果たす。電気機器320としては、自動車に備えられるエアコンやオーディオ等が挙げられる。
【0040】
高圧バッテリー310への充電は、発電装置340より供給される電力によって行われる。また、高圧バッテリー310の出力はモータ350にも供給され、モータ350は、高圧バッテリー310より供給される高電圧(約144Vや約288V)に基づいて駆動系360を駆動する。尚、燃料電池車においては燃料電池本体が発電装置340となり、ハイブリッド車においてはモータ350が発電装置340を兼ねることになる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0042】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
主成分の原料としてFe粉末、Mn粉末およびZnO粉末、副成分の原料としてNiO粉末、TiO粉末、Co粉末、SiO粉末、CaCO粉末、Nb粉末、V粉末、Ta粉末およびSnO粉末を用いた。
【0043】
表1、3、4ではFeを53.5mol%、ZnOを10.0mol%、残部をMnOとした。表1では副成分として主成分に対してNiOを7000ppm、TiOを1000ppm、CoOを2000ppm、SiOを100ppm、CaCOを1000ppm、Nbを200ppmの割合で添加した材料を用いた。表2の主成分の組成、表2〜4の副成分の組成は表中に示した。さらに表2では表に示した材料の他にSiOを100ppm、CaCOを1200ppm、Nbを200ppm、表3では表に示した材料の他にNbを200ppm添加した。
【0044】
これらの粉末を湿式混合した後、大気中、900℃で3時間仮焼きした。
得られた混合物にバインダを加え、顆粒化した後、成型してトロイダル形状の成型体、I型形状の成型体、および、E型形状の成型体を得た。得られた成型体を酸素分圧制御下において次の条件で焼成した。1300℃、酸素分圧1.0体積%において5時間温度を保持した後、950℃まで冷却し、950℃において2時間温度保持を行った。次に、再度1200℃まで昇温させ、1200℃において0〜40分間温度を保持した後、室温まで冷却した。また、表1では異なる冷却条件で成型体を焼成した。
【0045】
このようにして、トロイダル形状のフェライトコア(外径20mm、内径10mm、厚さ5mm)、I字型形状のフェライトコア(長さ70mm、幅8mm、厚さ8mm)およびE字型形状のフェライトコア(長さ40mm、高さ15mm、幅5mm)を得た。
【0046】
次に本発明の測定方法について説明する。
100℃における磁歪の測定は共和電業製の歪ゲージ(KFG:汎用箔ひずみゲージ)を用いて行った。I型のフェライトコアの中心部側面に歪ゲージを貼り付けた。Iコアを励磁して歪量が変化しなくなったところの変化率の絶対値を飽和磁歪量λsとした。
【0047】
100℃における音鳴きはE型コア各組成の音圧レベルを小野測器製の騒音計(LA−5570)を用いて簡易無響箱中で測定した。データはA特性変換後のオーバーオール値(OA値)を示す。測定はコアと騒音計を10mm離れた位置に設置して行った。
【0048】
強度は角型形状の焼結体を用いて、JISR1601に記載の方法に従い試験治具3p−30および全長40mmのI字型形状のコアを用いて測定を行い、その値を曲げ強度σb3とした。
【0049】
100℃における飽和磁束密度Bsはトロイダル形状のコアをメトロン技研製直流磁化特性試験装置(SK−110)により測定した。
【0050】
SiとCaの組成分析は収束イオンビーム(FIB)加工装置および、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:JED−2300T)を付設した透過型電子顕微鏡(TEM:JEM−2100F)を用いて行った。また、TEM観察には平均結晶粒径以上の粒子をFIB加工装置で薄片化したものを用いた。平均結晶粒径は光学顕微鏡を用いてコア中心部の断面観察を行い、1mm×1mmの視野内にある全ての結晶のheywood径を測定し平均を算出した。図5に(a)フェライトコアの断面の光学顕微鏡写真と(b)TEM観察像及び組成分析箇所を示した。組成分析は薄片試料面にほぼ垂直な2粒子粒界において粒界法線方向に線分析を行い、Ca濃度が最大となる点をA、点Aから5nm粒内方向に進んだ点をBとし、各点におけるCa/Si比すなわちXおよびYの値を得た。その際、電子線のスポットサイズは1nm以下とした。また、1試料につき10か所測定を行い、点AにおけるCa濃度が最大のものと最小のものを除く8か所を平均した値をXおよびYとして用いた。
【0051】
100℃におけるコア損失Pcvはトロイダル形状のフェライトコアを用いて、1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、100kHzの周波数で最大磁束密度200mTの条件下で、コア損失PcvをIWATSU製BHアナライザー(SY−8217)により測定した。
【実施例】
【0052】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0053】
以上の測定結果より、以下のことが判る。
表中の「−」はその材料を添加していないことを示している。
【0054】
(表1)
図6に示すような焼成条件で試料を作製した。通常の焼成条件や1200℃での保持時間が短いと(比較例1、2)では粒内に固溶する量が少なく、Xの値が1.0より大きくなってしまい強度が120MPaより低くなってしまう。また、1200℃での保持時間が長くても(比較例3)Xの値が1.0より大きくなってしまい強度が120Mpaより低くなってしまう。
【0055】
(表2)
Fe量が50.5mol%未満(比較例4、5参照)だと100℃における飽和磁束密度Bs(以下、100℃における、は省略)が380mTより小さくなってしまう。また、Fe量が55.5mol%を超える(比較例10、11参照)と飽和磁歪が1.5×10−6より大きくなりOA値が45dBより大きくなってしまう。
また、ZnO量が7.0mol%未満(比較例6、8参照)では飽和磁歪が1.5×10−6より大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、ZnO量が11.5mol%を超える(比較例7、9参照)と飽和磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
【0056】
(表3)
Xの値が0.5より小さい(比較例12)とコア強度が低くなってしまい、1.0より大きくても(比較例13)コア強度が低くなってしまう。また、Yの値がX+0.05より小さいと(比較例14)コア強度が低くなってしまい、X+0.5より大きくても(比較例15)コア強度が低くなってしまう。
また、副成分であるNiOの量が500ppmより少ない(比較例16参照)と飽和磁歪が大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、NiO量が10000ppmを超える(比較例17参照)と飽和磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
副成分であるTiOの量が100ppmより少ない(比較例18参照)と飽和磁歪が1.5×10−6より大きくなってしまい、OA値も45dBより大きくなってしまう。また、TiO量が6000ppmを超える(比較例19参照)と磁歪は小さくなるが飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
副成分であるCoOの量が500ppmより少ない(比較例20参照)と飽和磁歪が1.5×10−6より大きくなってしまいOA値が45dBより大きくなってしまう。また、CoO量が4000ppmを超える(比較例21参照)と飽和磁束密度Bsが380mTより小さくなってしまう。
副成分のSiOの量が少ない(比較例22参照)とコア強度が小さくなってしまう。また、SiO量が多くても(比較例23参照)コア強度が低くなってしまう。副成分であるCaCO量が少ないと(比較例24参照)コア強度が低くなってしまい、CaCO量が多くても(比較例25参照)コア強度が低くなってしまう。
【0057】
以上に対して、Fe量が50.5〜55.5mol%、ZnO量が7.0〜11.5mol%、残部MnOの主成分に対して、副成分としてNiO量を500〜10000ppm、TiO量を100〜6000ppm、CoOを500〜4000ppm、SiをSiO換算で50〜300ppm、CaをCaO換算で200〜3000ppm含み、0.5≦X≦1.0、X+0.05≦Y≦X+0.50の関係を満たす場合に、100℃における飽和磁歪が1.5×10−6以下、OA値が45dB以下、飽和磁束密度Bsが380mT以上、コア強度が120MPa以上という特性を得ることができる。
【0058】
(表4)
他の副成分については以下の通りである。
また、NbおよびTaを添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例33〜39参照)。しかし、添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はNbを50〜750ppm以下、Taを50〜1500ppm以下とする。
また、Vを添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例40〜42参照)。しかし、添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はVを50〜1000ppm以下とする。
また、SnOを添加することにより、コア損失Pcvを低減することができる(実施例43〜45参照)。しかし、添加しすぎるとコア損失が悪くなるので、最適な添加量の範囲はSnOを500〜8000ppm以下とする。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明に係るフェライトコアは100℃近傍における駆動時のコアの音鳴きを十分に抑制でき、飽和磁束密度を高く、且つ、コア強度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、Mn−Zn系フェライトの焼結体の断面の模式図である。
図2図2(a)は実施形態に係るE字型フェライトコア(磁心)を示す斜視図である。(b)は、実施形態に係るトランスを示す斜視図である。
図3図3はフェライト焼結体測定位置であり、それぞれ(a)FIB加工位置、(b)EDS分析位置である。
図4図4はスイッチング電源ブロック図である。
図5図5はスイッチング電源装置を備えた自動車の主要部分を示すブロック図である。
図6図6は焼成パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 粒子
2 粒界
100 Mn−Zn系フェライトの断面
200フェライトコア(磁心)
201(中脚部)
202(コイル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6