特許第6409554号(P6409554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409554
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】自動運転装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20181015BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20181015BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D113:00
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-254209(P2014-254209)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-113050(P2016-113050A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】市川 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】高野 寿男
【審査官】 野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/136516(WO,A1)
【文献】 特開2007−331480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00− 6/10
B60W 30/00−50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周期毎に入力される指令状態量に基づいて、操舵機構のモータの状態量制御を実行する第1の制御手段、及び車両の状態判定条件に応じて前記状態量制御を選択する第2の制御手段を備え、
前記第1の制御手段は、操舵機構のアクチュエータの位置制御部、速度制御部、及び電流制御部から構成される第1の構成手段と、
操舵機構のアクチュエータの速度制御部、及び電流制御部から構成される第2の構成手段と、
操舵機構のアクチュエータの電流制御部から構成される第3の構成手段の3つの構成手段を有し、
前記第2の制御手段は、車両の状態判定条件に応じて、前記第1の構成手段、又は、前記第2の構成手段、又は、前記第3の構成手段を選択するとともに、所定周期毎に入力される指令状態量を生成する自動運転装置において、
車速を検出する車速センサと、
路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段とを、更に備え、
前記第2の制御手段は、前記指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データの場合であって、前記自動運転指令モータ回転角度データに対して、前記路面摩擦係数推定手段で推定した前記路面摩擦係数が所定路面摩擦係数以下となる、前記車両の状態判定条件の場合には、前記路面摩擦係数が前記所定路面摩擦係数より大きくなるまで、前記第2の制御手段は、前記第2の構成手段を選択し、前記指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データとするとともに、前記車速が大きい程、前記自動運転指令モータ回転速度データを小さくすること、
を特徴とする自動運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来自動運転を行う場合には、自動運転可能な乗用車の「自動」と「マニュアル」との切り替えには、スイッチ等が必要であった。しかし、このような構成では、「自動」から「マニュアル」へスイッチ等を切り替えるのは、機械誤動作等、緊急時に対応が遅れる可能性があり、また、「マニュアル」から「自動」にスイッチを切り替えるのは、そのスイッチ操作自体を運転操舵中におこなわなければならないこととなり、望ましくない。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の自動操舵装置では、トルクセンサを備えており、自動操舵中に、操舵トルク値が所定値以上になった場合には、運転者が意図的に操舵したと判断して、自動運転から手動運転に切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−240502号公報
【特許文献2】特開2002−127882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記方法では、自動運転中に車両に何らかの異常が生じた場合には、運転者が操舵系を操作するしか、異常状態から抜け出す手段がない。そのため、運転者が何の異常により、車両状態が異常状態になったか判断できない場合でも、無闇に操舵を繰り返す虞があった。
【0006】
本発明の目的は、自動運転中に車両に何らかの異常状態が生じた場合には、その異常状態を判定して、自動運転システム自体が、最適な操舵系を構成することにより、車両の異常状態をできる限り早期に回避することができる、自動運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、所定周期毎に入力される指令状態量に基づいて、操舵機構のモータの状態量制御を実行する第1の制御手段、及び車両の状態判定条件に応じて前記状態量制御を選択する第2の制御手段を備え、前記第1の制御手段は、操舵機構のアクチュエータの位置制御部、速度制御部、及び電流制御部から構成される第1の構成手段と、操舵機構のアクチュエータの速度制御部、及び電流制御部から構成される第2の構成手段と、操舵機構のアクチュエータの電流制御部から構成される第3の構成手段の3つの構成手段を有し、前記第2の制御手段は、車両の状態判定条件に応じて、前記第1の構成手段、又は、前記第2の構成手段、又は、前記第3の構成手段を選択するとともに、所定周期毎に入力される指令状態量を生成する自動運転装置において、車速を検出する車速センサと、路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定手段とを、更に備え、前記第2の制御手段は、前記指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データの場合であって、前記自動運転指令モータ回転角度データに対して、前記路面摩擦係数推定手段で推定した前記路面摩擦係数が所定路面摩擦係数以下となる、前記車両の状態判定条件の場合には、前記路面摩擦係数が前記所定路面摩擦係数より大きくなるまで、前記第2の制御手段は、前記第2の構成手段を選択し、前記指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データとするとともに、前記車速が大きい程、前記自動運転指令モータ回転速度データを小さくすることを、要旨とする。
【0008】
本請求項の自動運転装置では、第2の制御手段は、指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データの場合であって、自動運転指令モータ回転角度データに対して、路面摩擦係数推定手段で推定した路面摩擦係数が所定路面摩擦係数以下となる、車両の状態判定条件の場合には、路面摩擦係数が所定路面摩擦係数より大きくなるまで、第2の制御手段は、第2の構成手段を選択し、指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データとするとともに、車速が大きい程、自動運転指令モータ回転速度データを小さくする構成とした。
【0009】
即ち、指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データの場合であって、自動運転指令モータ回転角度データに対して、路面摩擦係数推定手段で推定した路面摩擦係数が所定路面摩擦係数以下となる、車両の状態判定条件の場合には、路面が氷結などして異常な状態であるので、早期に車両が自動運転指令モータ回転角度データに追従できる制御は、危険である。そのため、第2の制御手段によって、第1の構成手段から、第2の構成手段、即ち、速度制御部+電流制御部に切り替える。そして、車両が氷結した路面を通過し、路面摩擦係数が所定路面摩擦係数より大きくなるまで、第2の構成手段を継続する。そして、第2の構成手段を継続している間は、第2の制御手段は、指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データとするとともに、車速が大きい程、自動運転指令モータ回転速度データを小さくすることにより、安定した車両状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動運転中に車両に何らかの異常状態が生じた場合には、その異常状態を判定して、自動運転システム自体が、最適な操舵系を構成することにより、車両の異常状態をできる限り早期に回避することができる、自動運転装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態における自動運転装置の概略構成図。
図2】本実施形態における自動運転装置の自動運転ECUの制御ブロック図。
図3】本実施形態における自動運転装置のEPSECUの制御ブロック図。
図4】本実施形態における自動運転ECUの処理手順を示すフローチャート図。
図5】本実施形態における自動運転指令モータ回転速度データ生成マップ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)を備えた自動運転装置1に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、所定周期毎に入力される自動運転指令モータ回転角度データ(指令状態量)に基づいて操舵機構のモータ回転角制御を行う本実施形態の自動運転装置は、所定周期毎に入力される自動運転指令モータ回転角度データθr*を車内ネットワーク90(CAN)を介して、EPSECU27に送信する上位コントローラである自動運転ECU29を有している。
【0013】
次に、本実施形態のEPSについて説明する。図1に示すように、本実施形態のEPSにおいて、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0014】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の操舵角が変更されるようになっている。
【0015】
また、EPSは、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ24と、EPSアクチュエータ24の作動を制御するEPSECU27とを備えている。
【0016】
本実施形態のEPSアクチュエータ24は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ21は、減速機構23を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。そして、同モータ21の回転を減速機構23により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0017】
一方、EPSECU27には、車速センサ25、及びモータ回転角度センサ22が接続されており、EPSECU27は、これら各センサの出力信号に基づいて、車速V、及び実モータ回転角度θrを検出する。
【0018】
次に、本実施形態の自動運転装置における電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態の自動運転装置の自動運転ECU29の制御ブロック図である
同図に示すように、自動運転ECU29は、GPS又はカーナビ等から転送されて
くる上位位置情報θcon、自動運転車両異常判定部(電流制御)40の有効無効を判定する判定信号(本実施例では使用せず)を入力とする。
【0019】
そして、自動運転ECU29は、指令状態量である自動運転指令モータ回転角度データθr*、自動運転指令モータ回転速度データωr1*、及び自動運転指令モータ電流データIr1*、自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)FLG1、及び自動運転モード切替フラグ(自動電流制御)FLG2を車内ネットワーク90(CAN)を介して、EPSECU27に送信する。
【0020】
次に、自動運転ECU29の各機能を詳述する。第2の制御手段である自動運転用マイコン30は、自動運転指令モータ回転角度データθr*生成部31において、上位位置情報θconを受信した後、自動運転車両路面摩擦係数異常フラグFLGAB1がOFF、且つ、自動運転車両異常フラグFLGAB2(今回、使用せず)がOFFの場合には、車両及び路面状態を正常と判断して、所定の周期で自動運転指令モータ回転角度データθr*を生成する。そして、自動運転用マイコン30は、生成された自動運転指令モータ回転角度データθr*を、自動運転指令モータ回転角度データθr*出力部32を介して、EPSECU27へ出力する。
【0021】
次に、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数推定手段である路面摩擦係数推定部35において、路面摩擦係数μを推定する。そして、推定した路面摩擦係数μを用いて、路面摩擦係数判定部36において、自動運転車両路面摩擦係数異常を判定する。
尚、路面摩擦係数μは、特許文献2に記載の車両の路面摩擦係数推定装置に基づいて推定演算する。
【0022】
そして、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数μが状態判定条件である所定路面摩擦係数μ1以下の場合には、自動運転指令モータ回転角度データθr*による自動運転継続が危険であると判定し、自動運転車両路面摩擦係数異常フラグFLGAB1をONにして、自動運転指令モータ回転角度データθr*生成部31の機能を停止し、自動運転モード切替部(速度制御+電流制御)37をアクテイブにする。更に、自動運転用マイコン30は、自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)FLG1を、EPSECU27へ出力する。
【0023】
そして、自動運転用マイコン30は、所定の周期で最適な自動運転指令モータ回転速度データωr1*を自動運転指令モータ回転速度データωr1*生成部38で生成する。そして、自動運転用マイコン30は、自動運転指令モータ回転速度データωr1*生成部38で生成した自動運転指令モータ回転速度データωr1*を自動運転指令モータ回転速度データωr1*出力部39を介して、EPSECU27へ出力する。
【0024】
図3は、本実施形態のEPSECU27の制御ブロック図である
同図に示すように、EPSECU27は、自動運転時の制御系を構築する第1の制御手段であるEPS用マイコン50と、モータ21の実モータ電流Irを検出する電流センサ60で構成されている。
【0025】
EPSECU27は、自動運転ECU29よりCAN90を介して送信されてくる、指令状態量である自動運転指令モータ回転角度データθr*、自動運転指令モータ回転速度データωr1*、自動運転指令モータ電流データIr1*、及び自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)FLG1、自動運転モード切替フラグ(自動電流制御)FLG2を入力し、モータ21を回転させるモータ回転制御指令を生成し、モータ21に出力する。
【0026】
次に、EPSECU27の各機能を詳述する。EPS用マイコン50は、所定の周期で送信されてくる自動運転指令モータ回転角度データθr*と、実モータ回転角度θrを角度減算器70で減算し、モータ回転角度偏差値Δθrを生成する。
【0027】
そして、EPS用マイコン50は、モータ回転角度偏差値Δθrを後段の状態量制御を実行する位置制御部51に入力し、比例制御(P制御)を実行し、位置制御部51より生成された指令モータ回転速度データωr0*を自動運転モード切替部(速度制御)52に出力する。
【0028】
位置制御部より生成された指令モータ回転速度データωr0*は、後段の速度制御用の自動運転モード切替部(速度制御)52の自動運転モード切替部(速度制御)a接点52aに入力される。速度制御用の自動運転モード切替部(速度制御)52は、入力用として、自動運転モード切替部(速度制御)a接点52aと、自動運転モード切替部(速度制御)b接点52b、及び出力用として自動運転モード切替部(速度制御)c接点52cを有している。
【0029】
位置制御部より生成された指令モータ回転速度データωr0*は、自動運転モード切替部(速度制御)a接点52aに入力され、自動運転ECU29からCAN90を介して、所定の周期で送信されてくる自動運転指令モータ回転速度データωr1*は、自動運転モード切替部(速度制御)b接点52bに入力される。
【0030】
そして、自動運転モード切替部(速度制御)52は、自動運転ECU29からCAN90を介して送信されてくる自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)FLG1にて切り替えられる。即ち、自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)FLG1がONの場合は、自動運転モード切替部(速度制御)52は、自動運転モード切替部(速度制御)b接点52bと自動運転モード切替部(速度制御)c接点52cが接続される。
【0031】
次に、EPS用マイコン50は、自動運転モード切替部(速度制御)52から入力される最終指令モータ回転速度データωr*と、モータ回転角度センサ22から検出された実モータ回転角度θrを、実モータ回転速度演算手段である微分器58で微分して得られた、実モータ回転速度ωrを速度減算器71で減算し、モータ回転速度偏差値Δωrを生成する。
【0032】
そして、EPS用マイコン50は、モータ回転速度偏差値Δωrを後段の速度制御部53に入力し、比例制御+積分制御+微分制御(PID制御)を実行し、速度制御部より生成された指令モータ電流データIr0*を出力する。
【0033】
速度制御部より生成された指令モータ電流データIr0*は、後段の電流制御用の自動運転モード切替部(電流制御)54の自動運転モード切替部(電流制御)a接点54aに入力される。電流制御用の自動運転モード切替部(電流制御)54は、入力用として、自動運転モード切替部(電流制御)a接点54aと、自動運転モード切替部(電流制御)b接点54b、及び出力用として自動運転モード切替部(電流制御)c接点54cを有している。
【0034】
速度制御部より生成された指令モータ電流データIr0*は、自動運転モード切替部(電流制御)a接点54aに入力され、自動運転ECU29からCAN90を介して、所定の周期で送信されてくる自動運転指令モータ電流データIr1*は、自動運転モード切替部(電流制御)b接点54bに入力される。
【0035】
そして、自動運転モード切替部(電流制御)54は、自動運転ECU29からCAN90を介して送信されてくる自動運転モード切替フラグ(自動電流制御)FLG2にて切り替えられる。即ち、自動運転モード切替フラグ(自動電流制御)FLG2がONの場合は、自動運転モード切替部(電流制御)54は、自動運転モード切替部(電流制御)b接点54bと自動運転モード切替部(電流制御)c接点54cが接続される。
【0036】
次に、EPS用マイコン50は、自動運転モード切替部(電流制御)54から入力される最終指令モータ電流データIr*と、電流センサ60から検出された実モータ電流Irを電流減算器72で減算し、モータ電流偏差値ΔIrを生成する。
【0037】
そして、EPS用マイコン50は、モータ電流偏差値ΔIrを後段の電流制御部55に入力し、比例制御+積分制御+微分制御(PID制御)を実行し、モータ電圧指令V*を生成する。電流制御部55で生成されたモータ電圧指令V*は、後段のPWM出力部56に入力される。PWM出力部56は、後段の駆動回路部57を駆動するモータ制御信号を生成してモータ21に出力する。
【0038】
次に、本実施形態における自動運転用マイコン30による自動運転ECU29の処理手順について図4に基づいて説明する。
最初に、自動運転用マイコン30は、自動運転指令モータ回転角度データθr*を生成する(ステップS101)。次に、自動運転用マイコン30は、自動運転指令モータ回転角度データθr*を出力する(ステップS102)。次に、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数μを推定する(ステップS103)。
【0039】
次に、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1より大きいか否かを判定する(ステップS111)。そして、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1より大きい場合(ステップS111:YES)には、次に、自動運転用マイコン30は、自動運転を継続する(位置制御+速度制御+電流制御、ステップS112)。
【0040】
一方、自動運転用マイコン30は、路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1以下の場合(ステップS111:NO)には、自動運転モードを切り替える(速度制御+電流制御、ステップS120)。そして、自動運転用マイコン30は、自動運転指令モータ回転速度データωr1*を生成(ステップS121)し、自動運転指令モータ回転速度データωr1*を出力(ステップS122)して、処理を終える。
【0041】
次に、本実施形態における自動運転指令モータ回転速度データ生成マップ図について、図5を用いて説明する。
図5の横軸は路面摩擦係数μ、縦軸は自動運転指令モータ回転速度データωrk*である。路面摩擦係数μが、所定路面摩擦係数μ1以下の場合には、路面が氷結などして異常な状態であるので、早期に車両がモータ回転角の指令値に追従できる制御は、危険である。そのため、車両をモータ回転角の指令値で走行する位置制御から、小さな指令モータ回転速度データで走行する、速度制御に切り替えている。更に、指令モータ回転速度データも車速Vが大きい程、小さくなるようなマップで構成されている。
【0042】
次に、上記のように構成された本実施形態の自動運転装置1の作用及び効果について説明する。
所定周期毎に入力される指令状態量に基づいて、操舵機構のモータ21の状態量制御を実行するEPS用マイコン50(第1の制御手段)、及び車両の状態判定条件に応じて前記状態量制御を選択する自動運転用マイコン30(第2の制御手段)を備え、EPS用マイコン50は、操舵機構のアクチュエータ24の位置制御部51、速度制御部53、及び電流制御部55から構成される第1の構成手段と、操舵機構のアクチュエータ24の速度制御部53、及び電流制御部55から構成される第2の構成手段と、操舵機構のアクチュエータ24の電流制御部55から構成される第3の構成手段の3つの構成手段を有し、自動運転用マイコン30は、車両の状態判定条件に応じて、第1の構成手段、又は、第2の構成手段、又は、第3の構成手段を選択するとともに、所定周期毎に入力される指令状態量を生成する自動運転装置において、車速Vを検出する車速センサ25と、路面摩擦係数μを推定する路面摩擦係数推定手段35とを、更に備え、自動運転用マイコン30は、指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データθr*の場合であって、自動運転指令モータ回転角度データθr*に対して、路面摩擦係数推定手段35で推定した路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1以下となる、車両の状態判定条件の場合には、路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1より大きくなるまで、自動運転用マイコン30は、第2の構成手段を選択し、指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データωr1*とするとともに、車速Vが大きい程、自動運転指令モータ回転速度データωr1*を小さくする構成とした。
【0043】
即ち、指令状態量が自動運転指令モータ回転角度データθr*の場合であって、自動運転指令モータ回転角度データθr*に対して、路面摩擦係数推定手段35で推定した路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1以下となる、車両の状態判定条件の場合には、路面が氷結などして異常な状態であるので、早期に車両が自動運転指令モータ回転角度データθr*に追従できる制御は、危険である。そのため、自動運転用マイコン30は、EPS用マイコン50内の構成手段を第1の構成手段から、第2の構成手段、即ち、速度制御部+電流制御部に切り替える。そして、車両が氷結した路面を通過し、路面摩擦係数μが所定路面摩擦係数μ1より大きくなるまで、第2の構成手段を継続する。そして、第2の構成手段を継続している間は、自動運転用マイコン30は、指令状態量を自動運転指令モータ回転速度データωr1*とするとともに、車速Vが大きい程、自動運転指令モータ回転速度データωr1*を小さくすることにより、安定した車両状態を維持することができる。
【0044】
その結果、自動運転中に車両に何らかの異常状態が発生した場合には、その異常状態を判定して、自動運転システム自体が、最適な操舵系を構成することにより、車両の異常状態をできる限り回避することができる。
【0045】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、路面摩擦係数μの大きさにより、自動運転装置を第1の構成手段から第2の構成手段で制御する制御系に切り替えたが、ヨーレート、又は、横Gの大きさによって制御系を切り替えても良い。
【0046】
・本実施形態では、路面摩擦係数μの大きさが規定値から外れた時点で直ちに、制御系を切り替えたが、路面摩擦係数μの大きさが規定値から外れた時点から所定の時間が経過してから制御系を切り替えても良い。
【0047】
・本実施形態では、本発明をコラムアシストEPSに具体化したが、本発明をラックアシストEPSやピニオンアシストEPSに適用してもよい。
【0048】
・本実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ24の駆動源であるモータ21として、DCモータに具体化したが、本発明を三相のブラシレスDCモータ、誘導モータ、及びステッピングモータとしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:自動運転装置、2:ステアリング、3:ステアリングシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、8:コラムシャフト、
9:インターミディエイトシャフト、10:ピニオンシャフト、11:タイロッド、12:転舵輪、21:モータ、22:モータ回転角度センサ、23:減速機構、
24:EPSアクチュエータ(操舵力補助装置)、
25:車速センサ、26:操舵角センサ、
27:EPSECU、29:自動運転ECU、
30:自動運転用マイコン(第2の制御手段)、
31:自動運転指令モータ回転角度データθr*生成部、
32:自動運転指令モータ回転角度データθr*出力部、
35:路面摩擦係数推定部(路面摩擦係数推定手段)、36:路面摩擦係数判定部、
37:自動運転モード切替部(速度制御+電流制御)、
38:自動運転指令モータ回転速度データωr1*生成部、
39:自動運転指令モータ回転速度データωr1*出力部、
40:自動運転車両異常判定部(電流制御)、
41:自動運転モード切替部(電流制御)、
42:自動運転指令モータ電流データIr1*生成部、
43:自動運転指令モータ電流データIr1*出力部、
50:EPS用マイコン(第1の制御手段)、
51:位置制御部(P制御)、52:自動運転モード切替部(速度制御)、
52a:自動運転モード切替部(速度制御)a接点、
52b:自動運転モード切替部(速度制御)b接点、
52c:自動運転モード切替部(速度制御)c接点、
53:速度制御部(PID制御)、54:自動運転モード切替部(電流制御)、
54a:自動運転モード切替部(電流制御)a接点、
54b:自動運転モード切替部(電流制御)b接点、
54c:自動運転モード切替部(電流制御)c接点、
55:電流制御部(PID制御)、56:PWM出力部、57:駆動回路部、
58:微分器(実モータ回転速度演算手段)、60:電流センサ、70:角度減算器、
71:速度減算器、72:電流減算器、90:車内ネットワーク(CAN)、
V:車速、θs:操舵角、θcon:上位位置情報(GPS、カーナビ等)、
μ:路面摩擦係数、μ1:所定路面摩擦係数、
θr*:自動運転指令モータ回転角度データ、θr:実モータ回転角度、
Δθr:モータ回転角度偏差値、
ωr1*:自動運転指令モータ回転速度データ、
ωr0*:位置制御部より生成された指令モータ回転速度データ、
ωr*:最終指令モータ回転速度データ、ωr:実モータ回転速度、
Δωr:モータ回転速度偏差値、
Ir1*:自動運転指令モータ電流データ、
Ir0*:速度制御部より生成された指令モータ電流データ、
Ir*:最終指令モータ電流データ、Ir:実モータ電流、
ΔIr:モータ電流偏差値、
V*:モータ電圧指令、
FLG1:自動運転モード切替フラグ(自動速度制御)、
FLG2:自動運転モード切替フラグ(自動電流制御)、
FLGAB1:自動運転車両路面摩擦係数異常フラグ(ONにて異常)、
FLGAB2:自動運転車両異常フラグ(ONにて異常)
図1
図2
図3
図4
図5