(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チーグラー・ナッタ触媒により重合されたプロピレン単独重合体またはプロピレンと含有量が1重量%未満のα−オレフィンとからなるプロピレン系共重合体であり、JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレート(以下、MFRと略称することがある。)が0.5〜100g/10分であるプロピレン系(共)重合体(A)60〜99重量部と、下記(B−i)〜(B−iv)の特性を満たすチーグラー・ナッタ触媒により重合されたプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)1〜40重量部とからなるプロピレン系樹脂100重量部に対して、造核剤を0.005〜0.6重量部含有し、放射線滅菌処理して使用されることを特徴とする医療用プロピレン系樹脂組成物
(B−i)エチレン含量が0.1〜3重量%、MFRが50〜150g/10minであるプロピレン−エチレン共重合体(b−1)とエチレン含量が5〜20重量%、MFRが1〜50g/10minであるプロピレン−エチレン共重合体(b−2)からなるプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)
(B−ii)プロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の重量比が90:10〜60:40
(B−iii)プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)のエチレン含量が2〜8重量%
(B−iv)プロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)のMFR比(b−1/b−2)が1〜30、かつ、プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)のMFRが10〜100g/10minである
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、成形加工性、力学特性、ガスバリヤー性に優れていることから、各種の方法で成形加工され、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の他の樹脂と同様に食品容器、キャップ、医療用器具、医療用容器、日用品、自動車部品、電気部品、シート、フィルム、繊維等の各種用途に幅広く使用されている。用途によっては、プロピレン系重合体又はその組成物に対して、より優れた剛性と耐衝撃性のバランスや、透明性、低異物出現性が強く求められる。例えば、注射筒においては耐衝撃性を向上するために剛性を低下させた場合、外筒の製品強度が不足して、使用時に外筒が押しつぶされ、意図せず薬剤を注射針先端から漏洩させる懸念があり、反対に剛性を高くすると、製品強度は向上するが耐衝撃性が低下して使用時に器具破損の懸念がある。また、注射筒を冷蔵保管した場合、注射筒自体の温度が低下することで低温耐衝撃性も必要になる。さらに使用時の気泡を確認する為、透明性が求められ、また、外観不良や意図しない危険性を招く可能性のある異物の成形品中への出現をできるだけ低くする必要がある。
ダイアライザーにおいても一部の製品では中空糸を熱風乾燥するため、製品剛性が低いと製品が乾燥時に変形する懸念があり、また、剛性が高く耐衝撃性が低いと、ダイアライザーを透析器にセットする際、Dノズル部が折れたり、また、使用前にダイアライザー内に残った気泡を抜く為、ダイアライザーを鉗子等で叩いた場合、破損する懸念がある。また、中空糸の破損状況を確認する為に、透明性も求められ、かつ、外観不良や意図しない危険性を招く異物の成形品中への出現をできるだけ低くする必要がある。
【0003】
また、プロピレン系重合体は、剛性や耐熱性、ガスバリヤー性の点ではプロピレン単独重合体が、透明性や耐衝撃性の点ではプロピレン−エチレンランダム共重合体が、耐熱性や耐衝撃性の点ではプロピレン−エチレンブロック共重合体が好適であり、状況に応じて適宜選択的に用いられている。
しかしながら、プロピレン単独重合体はプロピレン−エチレンブロック共重合体ほどではないにしろ透明性に劣り、また耐衝撃性の点でも十分な性能を発揮させるのは困難である。従来のプロピレン−エチレンランダム共重合体は透明性に優れるものの、耐衝撃性が十分でない場合がある。プロピレン−エチレンブロック共重合体は耐衝撃性が優れるものの、透明性を付与することは極めて困難であるという欠点を有している。加えて、添加したエラストマーや引き続いて共重合したエチレン−プロピレンランダム共重合体は、成形品のベタツキやブリードアウトを引き起こし、薬剤吸着や外観不良などの問題を発生しやすく、また、射出成形時において、金型への付着・汚染といった問題も誘発するという欠点を有していた。特許文献1には、特定の物性を有するホモポリプロピレンと共重合体ブロックを有するプロピレン系ブロック共重合体が、特許文献2には、メタロセン系触媒を用い、エチレン量の異なるランダム共重合体を逐次重合して得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体が、特許文献3〜5には、エチレン量の異なり特定物性を有するブロック(A)とブロック(B)とを逐次重合して得られたプロピレンブロック共重合体が、それぞれ開示されている。しかし、これらの技術では、剛性と耐衝撃性とのバランスが良く、透明性に優れ、ベタツキやブリードアウトが少ない射出成形品を得るには充分ではなかった。
【0004】
また、医療用プロピレン系樹脂組成物は医療器具の部材として用いられる為、最終製品の段階で行う、各種滅菌耐性が求められる。一般に行う滅菌としては高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、放射線滅菌がある。また放射線滅菌にはγ線照射による滅菌と電子線照射による滅菌に分けられる。高圧蒸気滅菌に求められる医療用プロピレン系樹脂組成物としての特徴は高耐熱変形耐性であり、一般にプロピレン単独重合体が用いられる。放射線滅菌に求められる医療用プロピレン系樹脂組成物としての特徴としては放射線照射による著しい樹脂劣化を防ぐこと、及び、処方している添加剤の分解による溶出性の悪化を防ぐことである。放射線をプロピレン系樹脂組成物に照射することでタイ分子鎖が切断され、耐衝撃性が著しく低下することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
放射線による耐衝撃性の低下を防ぐ方法として、放射線滅菌に耐性のあるポリエチレンや水添SBRをプロピレン系重合体にブレンドする方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。なお、ここで言うプロピレン系重合体とは、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、及びプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
しかし、ポリエチレンは成形機内の特にホットランナー中のデットスペースに滞留して熱劣化すると架橋ゲル化するため、ポリエチレンをブレンドしたプロピレン系樹脂組成物は、成形品中にポリエチレン由来の焼けが異物として出現しやすい可能性がある。また、この可能性は特に、ブレンドするポリエチレンの分子量が大きい場合や、また、プロピレン系樹脂組成物の分子量を調整するために配合する有機過酸化物が通常窒素雰囲気下で行うペレット化時に全量分解反応せず、未反応のものがペレット中に残っていると顕著になる可能性がある。これは通常の射出成形では空気雰囲気下で可塑化されるため、有機過酸化物の分解に加え酸化劣化が進行することに起因すると考えている。また、水添SBRは樹脂としての価格がポリプロピレンよりも高い為、安価でプロピレン系樹脂組成物を製造できない欠点がある。一方で、ポリプロピレンそのものの放射線滅菌に対する耐性を向上させる方法としては、プロピレンとエチレンを単一の重合槽で共重合する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。しかし、従来の方法では、優れた放射線滅菌に対する耐性を付与するためにはエチレンを過剰に共重合することが必要であり、反面、剛性が著しく低下してしまい、剛性と放射線滅菌後の耐衝撃性のバランスを保つことが困難であった。
【0005】
さらに、注射筒を代表とする薄肉の射出成形品を成形する為には、金型内での高い流動性が求められる。金型内での流動性を高めるため、プロピレン系樹脂組成物のMFR(メルトフローレイト)を高くする方法があるが、MFRが高くなるほど分子量が低下する為、耐衝撃性、特に放射線滅菌後の耐衝撃性は低下する。その為、金型内での流動性付与と耐衝撃性の両立は、従来、高MFRのプロピレン系重合体に改質ゴム成分としてポリエチレンや水添SBSをブレンドする方法があったが、このようなゴム成分を追加せずプロピレン系重合体自身で金型内高流動性と耐衝撃性の両立を行うことは困難であった。
【0006】
他方、プロピレン系重合体の性能を向上させるため、造核剤の配合によって性能の補完も行われてきた。
例えば、プロピレン系重合体の改質を行う造核剤として、透明性や成形加工性を向上させるソルビトール系透明造核剤(例えば、特許文献6参照)や有機リン酸系剛性造核剤(例えば、特許文献7参照)、トリアミノベンゼン系剛性造核剤(例えば、特許文献8参照)等が広く一般的に使用されている。
【0007】
ソルビトール系造核剤を用いた成形品は、透明性に優れ、有機リン酸系造核剤を添加したものは、造核剤の低ブリードアウト性に優れ、トリアミノベンゼン系剛性造核剤を添加したものは、低ブリードアウト性、低異物出現性、低溶出性、透明性に優れている。医療用途で使用する場合は、滅菌後の剛性と耐衝撃性のバランス、低溶出性を特に注意して処方する必要がある。
【0008】
また、従来のプロピレン系樹脂組成物に造核剤を配合することで、放射線滅菌後の耐衝撃性が造核剤未配合のものと比較して著しく低下することも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
さらに、放射線滅菌を行うことで、プロピレン系樹脂組成物中の添加剤が分解することも知られている(例えば、非特許文献2、3参照)。分解した添加剤は低分子量化することで、ブリードアウトしやすく、特に溶出物試験の結果に影響を及ぼす。また、例えば注射筒の場合、注射筒内側表面に分解して低分子量化した添加剤がブリードアウトすることで、薬剤を注射筒内に充填した際、薬効に影響を及ぼす懸念がある。なお、一般に添加剤の移行速度は結晶相中よりも非晶領域中の方が速いので、放射線滅菌後の添加剤の分解によるブリードアウトは、プロピレン系重合体の非晶領域中に含まれている添加剤が分解した際、影響すると考えている。その為、通常プロピレン系重合体の結晶相中に取り込まれていると考えている造核剤は、ブリードアウトの影響を受け難いと推測される。一方で、プロピレン単独重合体を除くプロピレン系重合体の放射線滅菌後の耐性を向上するため、エチレンを多く共重合すると、結晶化度が低下して、結晶相の割合が低下する。その為、通常結晶相に取り込まれると考えている造核剤も結晶相の割合に対して過飽和になり、非晶相中に存在することになり、放射線照射による影響を受けると考えられる。さらに添加剤のブリードアウトは添加剤間の相互作用の影響があると考えている。これは、易ブリードアウト添加剤若しくはその他の添加剤が放射線照射により分解して低分子量化して易ブリードアウト物になったものが、その他の添加剤若しくはその他の添加剤が放射線照射により分解したものと、分子間相互作用することで、易ブリードアウト添加剤若しくは易ブリードアウト物に引っ張られる形で、その他の添加剤若しくはその他の添加剤が放射線照射により分解したものをブリードアウトさせる、又は、両者が会合することでプロピレン系重合体に対する相溶性が低下してブリードアウトすると考えることができる。ここで言う分子間相互作用とは水素結合、ファンデルワールス力、ロンドン分散力などである。
さらに、放射線照射の影響は、プロピレン系重合体自身も受け、発生する劣化物の量や種類が変化する。これは照射雰囲気が空気雰囲気下か窒素雰囲気下かでも異なり、一般には空気雰囲気下で照射を行うため、各種多様の酸化劣化物が発生する。
これら影響は様々な因子が影響する為、現在の技術で解明することは不可能である。その為、放射線滅菌後の耐衝撃性、低溶出性に優れる医療用プロピレン系樹脂組成物の開発は、既存の技術で予想することは不可能であり、プロピレン系重合体の種類、造核剤、その他添加剤の選定等、多大なるスクリーニングによってのみ開発することができる。従って、射出成形時の成形加工性が良好で、剛性と耐衝撃性とのバランス、低異物出現性及び透明性に優れ、特に放射線滅菌後の耐衝撃性と低溶出性に優れる医療用プロピレン系樹脂組成物を開発することは困難を極める。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0025】
[1]組成物の構成成分
1.プロピレン系樹脂
(A)プロピレン系(共)重合体
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物に用いられる(A)プロピレン系(共)重合体は、プロピレン単独重合体、プロピレンと含有量が1重量%未満のα−オレフィンとからなるプロピレン系共重合体またはこれらの混合物であってもよい。
(A)プロピレン系(共)重合体は、成形性などの観点では単独重合体が望ましく、透明性の観点ではプロピレンとα−オレフィンとからなるランダム共重合体が望ましい。共重合に用いられるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数2〜20のα−オレフィンがあげられ、例えばエチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。プロピレンと共重合されるα−オレフィンは一種類でも二種類以上用いてもよい。このうちエチレン、ブテン−1が好適である。より好ましくはエチレンが好適である。また、これらプロピレン系重合体は、二種以上混合して使用してもよい。また、α−オレフィンの含有量が1重量%以上であると成形性(成形サイクル)の観点から、好ましくない。
プロピレン系共重合体の具体的な例としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−オクテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1−オクテン−1共重合体などのような、共単量体を任意に若干量組み合わせた二元または三元共重合体が例示できる。
【0026】
医療用途では、滅菌処理されることが一般的で、具体的には、高圧蒸気滅菌処理、放射線滅菌処理、エチレンオキサイドガス(EOG)による滅菌処理、紫外線滅菌処理などが行なわれる。本発明では放射線滅菌されることを想定しており、放射線滅菌は現実的には10kGy〜30kGy程度であり、この処理が行われる場合、最終的な物性バランスを良好にするには、プロピレン単独重合体、またはプロピレンと含有量が1重量%未満のα−オレフィンとからなるプロピレン系共重合体が好ましい。プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の割合を多くすることでバランスが優れたものを得られる。
【0027】
プロピレン系(共)重合体(A)に用いられるα−オレフィン含量は、1重量%未満であり、0.5重量%未満が好ましい。α−オレフィンの含量が1重量%以上であると、剛性が低下し、成形性などが悪くなる。
ここで、プロピレン及びα−オレフィンは、下記の条件の
13C−NMR法によって計測される値である。
装置:日本電子社製 JEOL−GSX270
濃度:300mg/2mL
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0028】
また、本発明で用いられるプロピレン系(共)重合体(A)がプロピレン単独重合体の場合は、アイソタクチックペンタッド分率0.90以上が好ましく、より好ましくは0.94〜0.98である。アイソタクチックペンタッド分率が0.90以上であると、剛性や成形性が優れるので好ましい。
ここで、アイソタクチックペンタッド分率は、
13C−NMRを用いたプロトンデカップリング法で測定する値である。
【0029】
本発明で用いられるプロピレン系(共)重合体(A)は、MFRが0.5〜100g/10分の範囲のものであり、1〜50g/10分が好ましく、2〜30g/10分がさらに好ましい。MFRが0.5g/10分未満では、成形加工性の低下をきたし製品として満足できるものが得られ難くなるおそれがある。また、100g/10分を超えると、機械的強度の低下が懸念される。
【0030】
本発明で用いられるプロピレン系(共)重合体(A)を得るために用いられる触媒としては、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒が使用できる。
【0031】
チーグラー触媒としては、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、前記ハロゲン化チタン化合物とハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の遷移金属成分とアルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒、更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒が挙げられる。
【0032】
プロピレン系(共)重合体の製造方法としては、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法または重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等が挙げられる。
例えば、スラリー重合法の場合には、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常−80〜150℃であり、好ましくは40〜120℃である。重合圧力は、1〜60気圧が好ましく、また得られるプロピレン系(共)重合体の分子量の調節は、水素もしくは他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。さらに重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0033】
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体
本発明に用いるプロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の重量比は90:10〜60:40の範囲であることが必要であり、好ましくは87:13〜65:35、より好ましくは84:16〜70:30である。プロピレン−エチレン共重合体(b−1)の重量比の上限値90以下であると成形品の放射線滅菌後の耐衝撃性が向上し、下限値60以上であると成形時の固化が速くなり成形加工性が向上する。
【0034】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)のMFRは10〜100g/10minの範囲であることが好ましく、より好ましくは25〜50g/10minである。
MFRが10g/10min以上であると流動性向上により成形加工性が良好となり、100g/10min以下であると耐衝撃性が良好となる。また、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)のMFR比(b−1/b−2)は1〜30の範囲であることが好ましく、より好ましくは3.5〜30、さらに好ましくは5〜30、最も好ましくは8〜30である。この範囲の下限値以上であると放射線滅菌後の耐衝撃性の向上、上限値以下であるとプロピレン−エチレン共重合体(b−1)に対するプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の分散性が良好となり透明性が向上する。また、分子量調整剤を用いてMFRをCR(コントロールドレオロジー)してMFRを調整する方法が一般に知られているが、本発明においてはCRせずに重合条件のみでMFRを調整することが成形時の樹脂焼け防止の観点から好ましい。
プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)のエチレン含量は2〜8重量%の範囲であることが必要であり、好ましくは3〜7重量%、より好ましくは3〜6重量%、最も好ましくは4〜6重量%である。
この範囲の下限値以上であると成形品の透明性及び放射線滅菌後の耐衝撃性が向上する。上限値以下であると低結晶性成分の減少によりべたつきが低減され薬剤吸着性が良好となる。
【0035】
本発明で使用するプロピレン−エチレン共重合体(b−1)は以下の特性を満足する。
特性1:MFR
本発明に用いるプロピレン−エチレン共重合体(b−1)のMFRは10〜300g/10minの範囲であることが必要であり、好ましくは30〜200g/10min、より好ましくは50〜150g/10minである。この範囲の下限値以上であると流動性の向上により成形加工性が良好となり、特に成形品の肉厚が2.5mm厚以下のものを成形した場合でも成形配向がかかり難くなり、衝撃を受けた場合、成形配向方向に亀裂が生じるのを防ぐことが出来、上限値以下のものは樹脂組成物の生産性が良好となり経済上好ましいと共に、成形品の放射線滅菌後の耐衝撃性に優れる。
MFR値の制御の方法は周知であり、重合条件である温度や圧力を調節したり、水素等の連鎖移動剤を重合時に添加する水素添加量の制御により、容易に調整を行なうことができる。
【0036】
特性2:エチレン含量
本発明に用いるプロピレン−エチレン共重合体(b−1)のエチレン含量は0.1〜3重量%の範囲であることが必要であり、好ましくは1.0〜2.8重量%、より好ましくは1.5〜2.6重量%である。この範囲の下限値以上であると成形品の透明性が良好となると共に、放射線滅菌後の耐衝撃性に優れる。また上限値以下であると結晶化温度の上昇により成形時の固化が速くなり成形加工性が良好となる。
エチレン含量は、重合時におけるプロピレンとエチレンのモノマー組成の制御によって調整することができる。
【0037】
本発明で使用するプロピレン−エチレン共重合体(b−2)は以下の特性を満足する。
特性1:MFR
本発明に用いるプロピレン−エチレン共重合体(b−2)のMFRは1〜50g/10minの範囲であることが必要であり、好ましくは1〜30g/10min、より好ましくは1〜15g/10min、最も好ましくは1〜10g/10minである。
この範囲の下限値以上であるとプロピレン−エチレン共重合体(A)への分散性が向上し、成形品にフィッシュアイが発生することを抑制することが可能となる。また上限値以下であると低結晶成分が表面にブリードしにくくなると共に、放射線滅菌後の耐衝撃性が良好となる。また、分子量調整剤を用いてMFRをCR(コントロールドレオロジー)してMFRを調整する方法が一般に知られているが、本発明においてはCRせずに重合条件のみでMFRを調整することが成形時の樹脂焼け防止の観点から好ましい。
【0038】
特性2:エチレン含量
本発明に用いるプロピレン−エチレン共重合体(b−2)のエチレン含量は5〜20重量%の範囲であることが必要であり、好ましくは7〜15重量%、より好ましくは8〜13重量%である。この範囲の下限値以上であると成形品の放射線滅菌後の耐衝撃性が向上する。また上限値以下であるとプロピレン−エチレン共重合体(b−1)との相溶性が向上することにより成形品の透明性が良好となると共に、プロピレン−エチレン共重合体(b−2)が成形品表面にブリードしにくくなることにより、べたつきなどが良好となる。
【0039】
また、プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)は、べたつきなどを低減させる為に、温度昇温溶離分別法(TREF)による−15℃可溶分が好ましくは10重量%以下、より好ましくは9重量%以下、更に好ましくは8重量%以下、特に好ましくは7重量%以下、最も好ましくは6重量%以下であることが肝要である。この可溶分がこの範囲であると、べたつきやブリードアウトによる製品の品質への悪影響を抑えることができ、また、ポリマー生産時に粒子凝集や反応器付着によるパウダー粒子の流動不良が発生することなく安定してポリマーを生産することができる。
プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)においては、TREFの測定方法について具体的には以下のようにして行われる。試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT(2,6−ジ−t−ブチル―p―クレゾール)入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後に、溶媒である−15℃のo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。なお、TREF評価する手法は、当業者によく知られているものであり、例えば、次の文献などに詳細な測定法が示されている。
G.Glockner,J.Appl.Polym.Sci.:Appl.Polym.Symp.;45,1−24(1990)
L.Wild,Adv.Polym.Sci.;98,1−47(1990)
J.B.P.Soares,A.E.Hamielec,Polymer;36,8,1639−1654(1995)
【0040】
なお、プロピレン−エチレン系樹脂組成物(B)中のプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、(b−2)の比率は、連続重合で製造した場合は、重合時の物質収支から求めた値であり、ブレンドにて製造した場合は、それぞれの処方比から求めた値である。
また、各エチレン含量は
13C−NMR法で測定して求めた値である。
【0041】
本発明で用いられるプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)を得るために用いられる触媒としては、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒が使用できる。
本発明では、射出成形時の成形加工性が良好で、剛性と耐衝撃性とのバランス、透明性に優れ、特に放射線滅菌後の耐衝撃性、低溶出性に優れてバランスが良い医療用プロピレン系樹脂組成物が特に好ましい。このため、一般的に分子量分布が広く、立体規則性の高いチーグラー・ナッタ触媒の方がメタロセン触媒よりも望ましい。なお、チーグラー・ナッタ触媒によりプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)を得ると、メタロセン触媒で得るより、一般に分子量分布が広がることに起因して金型内流動性が増して射出成形加工性が良くなり、また組成分布も広くなることに起因してプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の相溶性が増して放射線滅菌後の耐衝撃性が良くなる。
分子量分布に関しては、分子量分布の幅の指標である(重量平均分子量)/(数平均分子量)の値は、2.0〜8.0が好ましく、より好ましくは2.5〜7.0、更に好ましくは3.0〜6.0である。下限値以上であると射出成形時の樹脂流動性に優れる。また上限値以下であると成形配向がかかりにくくなり成形配向に沿った割れ発生が起こり難く放射線滅菌後の耐衝撃性が良好となる。ここで、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定する値である。
【0042】
プロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の製造プロセスに関しては、前述の諸特性を満足すればいかなる方法で製造してもよく、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合についても、前述の諸特性を満足すればいかなる方法で製造してもよい。特に横型反応器による2段連続気相重合法でプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合物を製造することが好ましい。その理由として、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合物を2段連続重合法で生産する場合、バルク又はスラリー回分重合法で製造する方法は、単位時間当り、単位重合器当りの重合体収得量が気相連続重合法に比較して低くなるので、コスト高となる。一方で、気相縦型反応器による2段連続気相重合法においては、各段の重合器における各触媒粒子の滞留時間に分布が生じるためプロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の含有比率に分布を有する重合体粒子の集合となり、該分布の不均一性に由来する品質面の欠点が発生する場合がある。また、第2段階のエチレンを比較的多量に含むプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の重合工程をガス媒体とした気相重合で実施する場合、第2段階の重合量を増すにつれて重合体粒子の粘着性が増し、安定運転が困難になる場合がある上、重合熱の冷却が十分でない場合は重合器壁や攪拌羽根等への付着が発生する可能性がある。粘着性の防止方法として、滞留時間が短いうちに、第2段階の重合器に入り込む触媒を少くすることが考えられるが、具体的には重合器を多数連結する等の方法となり、設備投資額の増加、運転の複雑化等の欠点が発現する場合がある。その為、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合物の製造プロセスに関しては、液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して重合熱を除去する形式で、滞留時間分布が狭く高品質なプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合物を生産することが可能となる水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器を持つ2段連続気相重合プロセスで製造することが最も好ましい。
また上記の横型反応器を持つ2段連続気相重合プロセスでプロピレン−エチレン共重合体(b−1)、及びプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の混合物を製造した場合、1段目でプロピレン−エチレン共重合体(b−1)を重合した後、同一触媒粒子で2段目でプロピレン−エチレン共重合体(b−2)が重合される為、同一パウダー粒子内にプロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)が共存する形となる。その場合、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)に対するプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の分散性が最も良好となり、該パウダー粒子をペレット化して成形品にした場合、別々に製造されたプロピレン−エチレン共重合体(b−1)のペレットとプロピレン−エチレン共重合体(b−2)のペレットを押出機で溶融混練した後、成形したものに比べ、プロピレン−エチレン共重合体(b−1)とプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の相溶性が格段に良い為、成形品中での物性の均一性に起因する高品質な成形品を得ることができると共に、透明性に優れ、かつ、放射線滅菌後の耐衝撃性に優れるものを得ることができる。
【0043】
プロピレン系(共)重合体(A)は60〜99重量部でプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)は1〜40重量部の範囲が良く、更にプロピレン系(共)重合体(A)は60〜90重量部でプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)は10〜40重量部の範囲が良く、最も好ましくは、プロピレン系(共)重合体(A)は65〜85重量部でプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)は15〜35重量部の範囲である。この範囲であると、剛性、放射線滅菌後の耐衝撃性、成形性、透明性のバランスに優れる。
【0044】
2.造核剤
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物に用いられる造核剤の配合量は、(A)+(B)のプロピレン系樹脂100重量部に対し、0.005〜0.6重量部の範囲で用いられる。0.005重量部以上であれば透明性が十分に発現され、0.6重量部以下であると、JIS T3210:2011 滅菌済み注射筒に記載の6化学的要求事項、又は、薬発第494号 透析型人工腎臓装置承認基準 IV血液回路の品質及び試験法に記載の重金属試験、鉛試験、カドミウム試験、溶出物試験を放射線滅菌後に合格になる可能性があるだけでなく費用対前記効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
この様な造核剤としては、以下に示す造核剤(A)〜(D)であることが望ましい。
選択的に用いられる造核剤(A)は、式(1)で示される有機リン酸金属塩化合物である。
【0045】
【化5】
[式(1)中、R
1は、直接結合、硫黄又は炭素数1〜9のアルキレン基又はアルキリデン基であり、R
2及びR
3は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、MはNaであり、nはMの価数である。]
【0046】
式(1)で表される有機リン酸金属塩化合物の具体例としては、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス−(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス−(4,6−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4’−ジメチル−6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4−s−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−エチルフェニル)フォスフェート、およびこれらの2種以上の混合物を例示することができる。これらのうち特に、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、(株)ADEKA社製NA−11を挙げることができる。
【0047】
選択的に用いられる造核剤(A)の配合量は、プロピレン系(共)重合体(A)+プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の100重量部に対し、0.01〜0.3重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.2重量部の範囲がより好ましい。0.01重量部以上であれば十分な効果が得られ、0.3重量部以下である範囲は、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
【0048】
選択的に用いられる造核剤(B)は、式(2)で示される芳香族燐酸エステル類である。
【0049】
【化6】
[式(2)中、R
1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R
2及びR
3は、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、Mは、周期律表第III族または第IV族の金属原子を示し、Xは、Mが周期律表第III族の金属原子を示す場合には、HO−を示し、Mが周期律表第IV族の金属原子を示す場合には、O=又は(HO)
2−を示す。]
【0050】
式(2)で表される芳香族燐酸エステル類の具体例としては、例えば、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジエチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジエチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびこれらの2種以上の混合物を例示することができる。
【0051】
式(2)で表される芳香族燐酸エステル類は、有機アルカリ金属塩と併用させることが効果的である。
該有機アルカリ金属塩とは、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属β−ジケトナート及びアルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機アルカリ金属塩を示すことができる。
該有機アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
上記アルカリ金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、オクチル酸、イソオクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、メリシン酸、β−ドデシルメルカプト酢酸、β−ドデシルメルカプトプロピオン酸、β−N−ラウリルアミノプロピオン酸、β−N−メチル−ラウロイルアミノプロピオン酸等の脂肪族モノカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族多価カルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸、1−メチルシクロペンタンカルボン酸、2−メチルシクロペンタンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−メチルシクロヘキサンカルボン酸、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸、3,5−ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸、4−オクチルシクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の脂環式モノ又はポリカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、エチル安息香酸、4−t−ブチル安息香酸、サリチル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族モノ又はポリカルボン酸等が挙げられる。
上記アルカリ金属β−ジケトナートを構成するβ−ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ピバロイルアセトン、パルミトイルアセトン、ベンゾイルアセトン、ピバロイルベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等が挙げられる。
また、上記アルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩を構成するβ−ケト酢酸エステルとしては、例えば、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル酢酸ラウリル等が挙げられる。
該有機アルカリ金属塩の成分であるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属β−ジケトナート又はアルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩は、各々上記アルカリ金属とカルボン酸、β−ジケトン化合物又はβ−ケト酢酸エステルとの塩であり、従来周知の方法で製造することができる。また、これら各アルカリ金属塩化合物の中でも、アルカリ金属の脂肪族モノカルボン酸塩、特に、リチウムの脂肪族カルボン酸塩が好ましく、とりわけ炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸塩が好ましい。
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、(株)ADEKA社製NA−21を挙げることができる。
【0052】
選択的に用いられる造核剤(B)の配合量は、プロピレン系(共)重合体(A)+プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の100重量部に対し、0.01〜0.20重量部の範囲が好ましく、0.05〜0.15重量部の範囲がより好ましい。0.01重量部以上であれば十分な効果が得られ、0.20重量部以下である範囲は、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
【0053】
選択的に用いられる造核剤(C)は、式(3)で示される造核剤である。
【0054】
【化7】
[R
1〜R
3:t−ブチル]
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、BASF社製 XT386を挙げることができる。
選択的に用いられる造核剤(C)の配合量は、プロピレン系(共)重合体(A)+プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の100重量部に対し、0.005〜0.03重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.02重量部の範囲がより好ましい。0.005重量部以上であれば十分な効果が得られ、0.03重量部以下である範囲は、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
【0055】
選択的に用いられる造核剤(D)は、式(4)で示される造核剤である。
【0056】
【化8】
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、ミリケン社製 NX8000を挙げることができる。
選択的に用いられる造核剤(D)の配合量は、プロピレン系(共)重合体(A)+プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の100重量部に対し、0.1〜0.5重量部の範囲が好ましく、0.2〜0.4重量部の範囲がより好ましい。0.1重量部以上であれば十分な効果が得られ、0.5重量部以下である範囲は、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
【0057】
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物には、造核剤(A)〜(D)以外に、他の造核剤として、ソルビトール系造核剤、およびタルクなど既知の造核剤を本発明の効果を大きく阻害しない範囲で添加することができる。
【0058】
3.中和剤
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物においては、中和剤を配合することが望ましい。中和剤の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの金属脂肪酸塩、ハイドロタルサイト(商品名:DHT−4A、協和化学工業(株)製の下記一般式(5)で表されるマグネシウムアルミニウム複合水酸化物塩)、ミズカラック(商品名、水澤化学工業(株)製の下記一般式(6)で表されるリチウムアルミニウム複合水酸化物塩)などが挙げられる。特に、プレフィルドシリンジ、キット製剤、輸液バッグなど長期接液する部材として用いる場合には、接触する液体に溶出しないハイドロタルサイトやミズカラックが有利である。
【0059】
Mg
1−xAl
x(OH)
2(CO
3)
x/2・mH
2O …(5)
[式中、xは、0<x≦0.5であり、mは3以下の数である。]
【0060】
[Al
2Li(OH)
6]
nX・mH
2O …(6)
[式中、Xは、無機または有機のアニオンであり、nはアニオン(X)の価数であり、mは3以下である。]
【0061】
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物に選択的に用いられる中和剤の配合量は、(A)+(B)のプロピレン系重合体100重量部に対し、0.005〜0.2重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.05重量部の範囲がより好ましい。
【0062】
4.滑剤
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物においては、滑剤を配合することができる。滑剤としては、既知の滑剤が挙げられるが、ステアリン酸ブチルやシリコーンオイルが好ましく、特にシリコーンオイルが好ましい。
具体的なシリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヒドロジエンポリシロキサン、α−ωビス(3−ヒドロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、ポリオキシアルキレン(C
2〜C
4)ジメチルポリシロキサン、ポリオルガノ(C
1〜C
2のアルキル基および/またはフェニル基)シロキサンとポリアルキレン(C
2〜C
3)グリコールの縮合物などが挙げられる。この中でもジメチルポリシロキサンとメチルフェニルポリシロキサンが好ましい。該滑剤は単独、又は複数用いても構わない。
ジメチルポリシロキサンなどのシリコーンを添加した場合、成形時に発生する傷を防止するだけでなく、シリンダー内やホットランナー内で発生する焼けを防止することができる。
【0063】
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物に選択的に用いられる滑剤の配合量は、(A)+(B)のプロピレン系重合体100重量部に対し、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.15重量部がより好ましく、0.03〜0.1重量部が特に好ましい。0.001重量部以上であれば十分な効果が期待でき、0.5重量部以下である範囲は、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から有利である。
【0064】
5.その他の添加剤
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物においては、上述した成分に加えて、プロピレン系重合体の安定剤などとして使用されている各種酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0065】
具体的には、酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ジ−ステアリル−ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−フォスフォナイト等のリン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、ジ−ステアリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ミリスチル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ラウリル−ββ’−チオ−ジ−プロピオネート等のチオ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0066】
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0067】
光安定剤としては、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジル)エタノール縮合物、ポリ{[6−〔(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ〕−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル]〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕}、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物等の光安定剤を挙げることができる。
【0068】
さらに、放射線処理で変色がなく耐NOxガス変色性が良好な下記一般式(7)や下記一般式(8)で表されるアミン系酸化防止剤、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジ−メチル−フェニル)−3H−ベンゾフラン−2−ワン等のラクトン系酸化防止剤、下記一般式(9)等のビタミンE系酸化防止剤を挙げることができる。
【0072】
さらに、その他に、帯電防止剤、スリップ剤、脂肪酸金属塩等の分散剤、染料、顔料、ポリエチレン、オレフィン系エラストマー等を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0073】
[2]医療用プロピレン系樹脂組成物の製造方法
本発明の医療用プロピレン系樹脂組成物は、(A)+(B)のプロピレン系重合体と造核剤、好ましくは選択的に用いられる造核剤(A)〜(D)の少なくとも1種の混合物、および、必要に応じて他の添加剤とを、ヘンシェルミキサー(商品名)、スーパーミキサー、リボンブレンダー等に投入して混合した後、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等で190〜260℃の温度範囲で溶融混練することにより得ることができる。
【0074】
[3]医療用成形品
本発明の医療用成形品は、上記の医療用プロピレン系樹脂組成物を、公知の方法である射出成形法、押出成形法、ブロー成形法など各種成形法によって成形することにより得られるが、寸法精度が高く複雑な形状を作りやすい射出成形法が望ましい。
また、本発明の医療用成形品は、注射器部材や人工透析部材として有用であり、特に放射線滅菌される注射器部材や人工透析部材に好適である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの記載により何ら限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、用いた物性測定は以下の方法で行い、プロピレン系重合体、造核剤及び他の添加剤(中和剤、滑剤)としては以下のものを使用した。
【0076】
(1)エチレン含量の算出
13C−NMR法により測定した測定値からエチレン含量を算出した。
【0077】
(2)MFR:JIS K7210に準じて加熱温度230℃、荷重21.2Nにて測定した。
【0078】
(3)ヘイズ値:厚さ1mmのシート片を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0079】
(4)JIS T3210:2011 滅菌済み注射筒 6 化学的要求事項
本規格を参考に、下記方法にて化学的要求事項の試験を実施した。
(a)100mm×120mm×1mmtプレスシートの作製
150mm×150mm×3mmtのアルミ板の間に100mm×120mm×1mmtのプレスシートが得られるスペーサーを置き、そのスペーサーの枠内に規定量のペレットを入れた。その後、230℃に加熱した加熱プレスを用いて、始めの7分間は圧力をかけずにペレットを加熱プレス機内で溶かし、その後、100kg/cm
2の圧力を3分間かけた。その後、30℃の冷却プレスに速やかに移し、150kg/cm
2の圧力を2分間かけてサンプルの冷却を行った。その後、プレスシートをアルミ板、及びスペーサーから剥がして取り出した。
(b)溶出物試験用の試験片の作製
(a)で作製したプレスシートを鋏で均等に4分割して60mm×50mm×2mmtのシートを4枚回収した。その後、蒸留水にてシート表面、及び、切断面の洗浄を行い、常温にて乾燥して溶出物試験用の試験片とした。
(c)試験片の放射線滅菌
試験片に空気雰囲気下、室温条件下で、γ線25kGy(平均線量)を照射した後、室温23℃±0.5℃、相対湿度50±5%の恒温室内で2週間状態調整した。
(d)試験液の調製
蒸留水で洗浄して室温にて乾燥させた500mlのホウケイ酸製のガラスビーカーに、蒸留水を250ml入れた。そこに、(C)で準備した溶出物試験用の試験片(60mm×50mm×2mmt)を4枚入れて水中に浸漬させた。その際、試験片表面に気泡が残らないようにした。そして、アルミ箔にてビーカーを密閉して、恒温槽中で37℃、8時間保った後、試験片を取り出して試験液とした。
(e)pH試験、溶出金属の試験
JIS T3210:2011に記載の方法に準拠して試験を実施した。なお、空試験液は蒸留水を用い、溶出金属は原始吸光光度法によって分析した。
各試験結果の基準は、以下の通りである。
(i)ΔpH:試験液と空試験液のpHの差は1以下
(ii)溶出金属:鉛,亜鉛,鉄の合計は5mg/L以下で、かつ、試験液のカドミウム測定値を空試験液のカドミウム測定値で補正したとき,試験液のカドミウム含量は 0.1 mg/L 以下。
【0080】
(5)薬発第494号 透析型人工腎臓装置承認基準 IV血液回路の品質及び試験
現在、「薬発第494号 透析型人工腎臓装置承認基準」は「通知の廃止」となっているが、本試験が本用途での化学的安全性確認の目安となっている為、試験を実施した。
重金属試験、鉛試験、カドミウム試験はペレットを用いて、承認基準の操作方法に準拠して試験を行った。なお、試験に用いたペレットは本試験を行う2週間前にγ線25kGy(平均値)の照射滅菌を行ない、室温23℃±0.5℃、相対湿度50±5%の恒温室内で2週間状態調整したものである。
また、溶出物試験は、本承認基準内のV透析器の品質及び試験法 5.支持体及び血液接続管に記載の溶出物試験を参考にして、ペレット15gに対して水150mlを加えた後、70℃で1時間の抽出試験を行い、各試験については承認基準の操作方法に準拠して試験を行った。なお、試験に用いたペレットは本試験を行う2週間前にγ線25kGy(平均値)の照射滅菌を行ない、室温23℃±0.5℃、相対湿度50±5%の恒温室内で2週間状態調整したものである。
各試験結果の基準は、以下の通りである。
4.重金属試験:10μg/g以下
5.鉛試験:1μg/g以下
6.カドミウム試験:1μg/g以下
8.溶出物試験
(i)外観:無色透明、異物なし
(ii)あわだち:3分以内に消失
(iii)ΔpH:ブランクとの差が1.5以下
(iv)亜鉛:標準溶液(0.5μg/g)以下
(v)過マンガン酸カリウム(KMnO
4)還元性物質:標準溶液との過マンガン酸カリウム消費量の差1.0ml以下
(vi)蒸発残留物:1.0mg以下
(vii)紫外吸収スペクトル(UV)220〜350nm:0.1以下
*)現在、「薬発第494号 透析型人工腎臓装置承認基準」は「通知の廃止」となっているが、本試験が本用途での化学的安全性確認の目安となっている為、試験を実施する。
【0081】
(6)曲げ弾性率:JIS K7203の「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して23℃で測定した。
【0082】
(7)シャルピー衝撃強度:JIS K7111に準拠して23℃で測定した。なお、未滅菌と下記条件で放射線滅菌した試験片で測定した。
*試験片に空気雰囲気下、室温条件下で、γ線25kGy(平均線量)を照射した後、室温23℃±0.5℃、相対湿度50±5%の恒温室内で2週間状態調整した。
【0083】
(8)荷重たわみ温度(0.45MPa):JIS K7191に準拠して測定した。
【0084】
2.使用材料
(1)プロピレン系(共)重合体(A)
プロピレン単独重合体(HPP1):ノバテックMA3Q(商品名、日本ポリプロ(株)製)、触媒:チーグラー触媒、MFR:10g/10分、アイソタクチックペンタッド分率0.96(
13C−NMRによる測定)。
【0085】
(2)プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)
<製造例1(PP−1)>
(i)固体触媒成分(A)の製造
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)
2を200g、TiCl
4を1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸ジ−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl
4を1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl
4を1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングし分析したところ、固体成分のTi含量は2.7重量%であった。
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分のスラリーを固体成分として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が25g/Lとなる様に調整した。SiCl
4を50ml加え、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
その後、精製したn−ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した。ここに、ジメチルジビニルシランを30ml、(i−Pr)
2Si(OMe)
2を30ml、Et
3Alのn−ヘプタン希釈液をEt
3Alとして80g添加し、40℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、得られたスラリーの一部をサンプリングして乾燥、分析したところ、固体成分にはTiが1.2重量%、(i−Pr)
2Si(OMe)
2が8.8重量%含まれていた。
更に、上記で得られた固体成分を用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/Lとなる様に調整した。次にスラリーを10℃に冷却した後、Et
3Alのn−ヘプタン希釈液をEt
3Alとして10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(A)を得た。この固体触媒成分は、固体成分1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。また、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.0重量%、(i−Pr)
2Si(OMe)
2が8.2重量%含まれていた。
【0086】
(ii)プロピレン系重合体の製造
添付した
図4に示したフローシートによって説明する。2台の重合槽を用いる気相重合反応器を用いた。2台の重合器17及び26は、内径D:2100mm、長さL:11000mm、内容積:40m
3の攪拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=5.2)である。
重合器17内を置換後、粒径500μm以下の重合体粒子を除去したポリプロピレン粉末を仕込み、固体触媒成分(A)として120g/Hr、またトリエチルアルミニウムの15wt%ヘキサン溶液を触媒成分A中のTi原子1モルに対し、モル比が350となるように連続的に供給した。また、重合器17内の水素濃度のプロピレン濃度に対する比が0.095となるように水素を、エチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.020となるようにエチレンを、重合器17内の圧力が2.10MPa、温度が61℃を保つようにプロピレンモノマーをそれぞれ重合器17内に供給した。反応熱は、原料混合ガス供給配管19から供給する原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器17から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜出配管20を通り反応器系外に抜出、冷却・凝縮させてリサイクルガス配管18を通して重合器17に還流した。
重合器17内で生成したプロピレン−エチレン共重合体(b−1)は、重合体の保有レベルが反応容積の45容量%となるように重合体抜出配管21を通して重合器17から連続的に抜出、第2重合工程の重合器26に供給した。
重合器26内に、第1重合工程からの重合体、また、重合器26内の水素濃度のプロピレン濃度に対する比が0.021となるように水素を、エチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.068となるようにエチレンを、重合器17内の圧力が2.05MPa、温度が70℃を保つようにプロピレンモノマーをそれぞれ重合器17内に供給した。またプロピレン−エチレン共重合体(b−2)の重合量を調整するための重合活性抑制剤を配管27より供給した。反応熱は原料混合ガス配管22ら供給される原料液化プロピレンの気化熱で除去した。重合器26から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜出配管24を通して反応器系外に抜出、冷却・凝縮させて、リサイクルガス配管23を通して重合器26に還流させた。第2重合工程で生成したプロピレン系重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となるように重合体抜出配管25を通して重合器26から連続的に抜き出した。抜き出したパウダーは、ガス回収機28でガス類を分離し、パウダー部は回収系に抜出、造粒系で造粒した。
プロプレン系重合体の生産レートは、9.6T/Hr、重合器17内の平均滞留時間は1.9Hr、重合器26内の平均滞留時間は1.3Hrであった。生産レートを固体触媒成分Aの供給速度で割った値として触媒効率を求めたところ、88900g−PP/g−触媒であった。
また得られたプロピレン系重合体を分析したところ、MFRは38.9g/10min、エチレン含量は5.0wt%であった。PP成分(b−1)は、MFRは71.9g/10min、エチレン含量は2.5wt%であった。PP成分(b−2)についてのインデックスを計算したところ、MFR=8.0g/10min、エチレン含量は11.3wt%であった。
ここで、PP成分(b−1)のMFRは、PP成分(b−1)のMFRとプロピレン重合体のMFRと、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比から対数加成式に従って算出した。また、エチレン含量は、PP成分(b−1)のエチレン含量とプロピレン重合体のエチレン含量と、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比から算出した。ここで、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比は、重合槽に供給する液化プロピレン量から各段の生産量を算出し、PP成分(b−2)の生産量は全体の重量に対し28%であった。プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)(PP−1)の組成を表1に示す。
【0087】
(3)プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)と異なるプロピレン−エチレンブロック共重合体
<製造例2(PP−2)>
(i)固体触媒成分(B)の製造
n−ヘキサン6リットル、ジエチルアルミニウムモノクロリド(DEAC)5.0モル、ジイソアミルエーテル12.0モルを25℃にて5分間で混合した後、5分間同温度で反応させて反応液(I)(ジイソアミルエーテル/DEACのモル比2.4)を得た。窒素置換された反応器に4塩化チタン40モルを入れ35℃に加熱し、これに上記反応液(I)の全量を180分間で滴下した後、同温度に30分間保ち、75℃に昇温して更に1時間反応させ、室温まで冷却し上澄液を除き、n−ヘキサン30リットルを加えてデカンテーションで上澄み液を除く操作を4回繰り返して、固体生成物(II)1.9kgを得た。この(II)の全量をn−ヘキサン30リットル中に懸濁させた状態で20℃にてジイソアミルエーテル1.6kgと4塩化チタン3.5kgを室温にて約5分間で加え、60℃にて1時間反応させた。反応終了後、室温(20℃)まで冷却し、上澄液をデカンテーションによって除いた後、30リットルのn−ヘキサンを加え15分間撹拌し、静置して上澄液を除く操作を5回繰り返した後、減圧下で乾燥させ、Ti系固体触媒(B)を得た。
(ii)プロピレン系重合体の製造
(前段重合工程:結晶性プロピレン重合体成分の製造)
内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘプタン120リットルを入れた。次に温度65℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド86g、水素50リットル(標準状態換算)、プロピオン酸を10.5ml、および前記触媒(B)を23g加えた。
オートクレーブを内温70℃に昇温した後、プロピレンを21.7kg/時、水素を126L/時の速度で供給し、重合を開始した。160分後プロピレンの導入を停止、圧力は重合開始時0.34kg/cm
2G、プロピレン供給中に経時的に増加し、供給停止時点で7.7kg/cm
2Gまで上昇した。その後圧力が2.0kg/cm
2Gになるまで残重合した後、器内の未反応ガスを0.3kg/cm
2Gまで放出し、結晶性プロピレン重合体成分を製造した。
(後段重合工程:プロピレン・エチレンランダム共重合体成分の製造)
続いて、オートクレーブの内温を60℃に低下させ、プロピレンを5.65kg/時、エチレンを2.42kg/時の速度で供給した。120分後プロピレンおよびエチレンの導入を停止、圧力はモノマー供給中に経時的に増加し、供給停止時点で2.8kg/cm
2Gまで上昇した。その後圧力が1.0kg/cm
2Gになるまで残重合した後、器内の未反応ガスを0.3kg/cm
2Gまで放出し、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分を製造した。
得られたプロピレン系ブロック共重合体を含む溶媒(スラリー)は、次の攪拌機付き槽に移送し、ブタノールを5リットル加え、70℃で3時間処理し、更に次の攪拌機付き槽に移送、水酸化ナトリウム100gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘプタンを除去、80℃の乾燥機で3時間処理しヘプタンを完全に除去、53.2kgの結晶性プロピレン重合体成分とプロピレン・エチレンランダム共重合体成分とからなるプロピレン−エチレンブロック共重合体(PP−2)を得た。
また得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体(PP−2)を分析したところ、MFRは9g/10min、エチレン含量は5.9wt%であった。PP成分(b−1)は、MFRは26.2g/10min、エチレン含量は0wt%であった。PP成分(b−2)についてのインデックスを計算したところ、MFR=0.04g/10min、エチレン含量は34.8wt%であった。
ここで、PP成分(b−1)のMFRは、PP成分(b−1)のMFRとプロピレン重合体のMFRと、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比から対数加成式に従って算出した。また、エチレン含量は、PP成分(b−1)のエチレン含量とプロピレン重合体のエチレン含量と、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比から算出した。ここで、PP成分(b−1)と(b−2)の重量比は、重合槽に供給する液化プロピレン量から各段の生産量を算出し、PP成分(b−2)の生産量は全体の重量に対し16.9%であった。プロピレン−エチレンブロック共重合体(PP−2)の組成を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
(4)造核剤
(i)有機リン酸金属塩化合物系造核剤 アデカスタブNA−11(NA−11;(株)ADEKA製):造核剤(A)に相当
(ii)有機リン酸金属塩化合物系造核剤 アデカスタブNA21(NA−21;(株)ADEKA製):造核剤(B)に相当
(iii)XT386(XT386;BASF社製):造核剤(C)に相当
(iv)NX8000(ミリケン社製):造核剤(D)に相当
(5)中和剤
(i)DHT−4A:ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製)
(6)酸化防止剤
(i)リン系酸化防止剤:イルガフォス168(IF168;BASF社製)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノール)フォスファイト
(ii)ヒンダードアミン系紫外線安定剤:TINUVIN622LD(TNV622;BASF社製)、琥珀酸ジメチル2−(4−ヒドロキシ−2、2,6,6−テトラメチルピペリジン)エタノール縮合物
【0090】
(実施例1〜8、比較例1)
プロピレン系重合体、造核剤及び他の添加剤(酸化防止剤、中和剤など)を表2に記載の配合割合(重量部)で準備し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度230℃でダイから押し出しペレット化した。得られたペレットを射出成形機により、樹脂温度230℃、射出圧力600kg/cm
2及び金型温度40℃で射出成形し、試験片を作成した。得られた試験片を用い、物性を測定した。その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2より、実施例1〜8は、プロピレン単独重合体に、プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)を配合した本発明品で、剛性と放射線滅菌後の耐衝撃性のバランスに優れ、また透明性が優れることが判る。特に実施例4〜8はバランスに優れている。一方、比較例1は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(B)とは異なるプロピレン−エチレンブロック共重合体を配合したもので、剛性と耐衝撃性は優れるが、透明性が劣る。
【0093】
(実施例9)
実施例4、6、7、8によって得られたペレットを用いて、上記に記載した通り、(4)JIS T3210:2011 滅菌済み注射筒 6 化学的要求事項、および(5)薬発第494号 透析型人工腎臓装置承認基準 IV血液回路の品質及び試験を実施した結果、すべての項目で適合範囲であることを確認した。