特許第6409571号(P6409571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409571
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ピアノ
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/18 20060101AFI20181015BHJP
   G10C 3/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   G10H3/18 Z
   G10C3/02 120
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-267065(P2014-267065)
(22)【出願日】2014年12月29日
(65)【公開番号】特開2016-126172(P2016-126172A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤
【審査官】 上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−338224(JP,A)
【文献】 特開平10−091154(JP,A)
【文献】 特開2006−003429(JP,A)
【文献】 特開2004−341000(JP,A)
【文献】 特開2007−011036(JP,A)
【文献】 特開平05−073039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
G10C 1/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側板により囲まれた筐体の上開口部と、
前記筐体の内部に配置された発音体の振動を取得して電気信号に変換するピックアップと、
前記上開口部を開閉自在に前記筐体に接続された屋根後と、
前記屋根後による前記上開口部の開口の程度を検出する開口検出部と、
前記開口検出部による検出に応じて、前記ピックアップが検出した電気信号を、補正する補正部と
を有するピアノ。
【請求項2】
前記開口検出部は、前記屋根後の傾きを検出し、
前記補正部は、前記屋根後の傾きが水平であるか否かに応じて補正を行う請求項1に記載のピアノ。
【請求項3】
前記補正部は、前記屋根後の傾きに応じて、前記行う補正の度合いを変化させる請求項2に記載のピアノ。
【請求項4】
前記開口検出部は、前記筐体内部の明るさを検出し、
前記補正部は、前記筐体内部の明るさが所定の値未満であるか否かに応じて補正を行う請求項1に記載のピアノ。
【請求項5】
前記開口検出部は、前記屋根後に配置され、筐体に一端が接続された突上棒の先端が接する屋根皿の圧力または前記屋根皿を経由した導電路の有無を検出し、
前記補正部は、前記開口検出部の検出の有無に応じて補正を行う請求項1に記載のピアノ。
【請求項6】
前記補正部は、前記屋根後が前記上開口部を覆っている場合に、前記ピックアップにより変換される電気信号の表わす音の特性を、前記屋根後が前記上開口部を開放している場合の特性に補正する請求項1から5のいずれかに記載のピアノ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響特性を変化させることが可能なピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
ピアノは、側板によって囲まれた筐体の内部に配置された弦を、鍵盤の操作によりハンマーが打撃して発生する弦の振動により音を発生する楽器である。また、ピアノの筐体の上開口部には、通常、屋根後(やねあと)が開閉自在に設置されている。屋根後はピアノを演奏せずに保管するときに、筐体の内部の空間を保護するために水平にされ、筐体の上開口部を覆い、筐体の上開口部は閉状態となる。また、演奏時には、弦の振動により発生する音を空間に効率よく放射するために、突上棒により、屋根後の一端が持ち上げられ、筐体の上開口部が開放状態となる。
【0003】
もっとも、屋根後が水平にされた閉状態であっても、ピアノの鍵盤の操作を行うことにより音は発生する。しかし、屋根後が水平に配置され閉状態となっている場合と、屋根後の一端が持ち上げられ開放状態となっている場合とでは、ピアノの発する音の音色、音響特性が異なる。例えば、閉状態においては、弦から発生した音が屋根後に反射することにより発生する一次反射音と発音体である弦が直接発する音とが干渉する現象が開放状態よりも強く発生することにより、閉状態と開放状態とでは、音色が異なることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭61−034558号公報
【特許文献2】特開2003−186476号公報
【特許文献3】特開2013−137414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ピアノの発音をピックアップにより電気信号に変換し、変換された電気信号を処理する技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。このようなピックアップによってピアノの発する音を電気信号に変換する場合においても、閉状態と開放状態とでは異なる音響特性を示す電気信号が得られる。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つとして、閉状態および開放状態のいずれかを検出し、音響特性を補正するピアノを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態として、側板により囲まれた筐体の上開口部と、前記筐体の内部に配置された発音体の振動を取得して電気信号に変換するピックアップと、前記上開口部を開閉自在に前記筐体に接続された屋根後と、前記屋根後による前記上開口部の開口の程度を検出する開口検出部と、前記開口検出部による検出に応じて、前記ピックアップが検出した電気信号を、補正する補正部とを有するピアノを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係るピアノによれば、筐体の上開口部が閉状態および開放状態のすくなくともいずれかを検出し、音響特性を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るピアノの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るピアノの斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るピアノの斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係るピアノの断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るピアノの内部構造図である。
図6】本発明の一実施形態に係るピアノの断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るピアノの信号処理装置の機能ブロック図である。
図8】本発明の一実施形態に係るピアノの信号処理装置による補正について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、実施形態として説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されることはない。本発明は、以下に説明する実施形態に種々変形を行って実施することも可能である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るグランドピアノ1の斜視図である。グランドピアノ1は、演奏者の手前に鍵2が左右方向に並ぶ鍵盤を備える。また、鍵盤の後方には、側板11により囲まれた空間を有する筐体を有する。筐体は、上開口部を有する。上開口部の手前には、譜面台10が設けられている。通常は、ピアノを演奏せずに保管するときには、譜面台10は、水平にされて筐体の内部に収納され、ピアノを演奏するときに、図1に示すように起立した状態となり、譜面などを演奏者のために保持する。また、譜面台に操作盤18を設けることもできる。この場合、操作盤18は、後に説明する信号処理装置に対する操作を行うためのものである。また、操作盤18は、例えば、タッチパネルとして実現される。
【0012】
筐体の、演奏者からみて鍵盤の高音側の内部には、突上棒16が水平方向から斜め上方までの角度に回転自在となるように、突上棒16の一端が筐体にジョイントやヒンジを用いて接続される。突上棒16が斜め上方を向いているときには、突上棒16の他端(先端)は、屋根後13(大屋根)に設置された屋根皿15に接する。屋根皿15は穴の形状または窪みとなっており、突上棒16の他端(先端)の一部が屋根皿15に挿入される。これにより、屋根後13の、鍵盤の高音側が開放された状態となる。すなわち、筐体の上開口部が開放状態となる。
【0013】
屋根後13の端部は、筐体に接続されている。これにより、屋根後13は、筐体の上開口部を開閉可能となる。この場合、屋根後13の端部は、鍵盤の低音側の屋根後13の端部である。また、屋根後13の端部は、筐体とヒンジにより接続されている。また、屋根後13には、屋根前12が、ロングヒンジ14を介して接続されている。屋根後13はピアノを演奏せずに保管する場合には、屋根後13および屋根前12が、筐体の上開口部を覆う。この状態から、図1に示すように、屋根後13の、鍵盤の高音側が開放された状態にするには、まず、屋根前12を、ロングヒンジを介して回転させて屋根後13の上面に載せ、次に、屋根後13の、鍵盤の高音側の端を持ち上げ、突上棒16を斜め上方に向け、突上棒の先端を屋根皿15に挿入させる。なお、屋根前12と屋根後13とを、ひとまとまりとして、「屋根」という場合がある。
【0014】
また、グランドピアノ1には、ペダル脚柱52の下端に、ペダル3(シフトペダル、ソステートペダルおよびダンパペダル)が露出しており、発音体である弦の振動を制御することができる。ペダル脚柱52の下端のペダルとは反対側に、ペダル突かい棒4が配置され、ペダル脚柱52の下端が固定される。
【0015】
通常、グランドピアノ1が有する突上棒としては、突上棒16以外に、突上棒16よりも短い突上棒小17が設けられている場合が多い。例えば、図1に示すように突上棒16の根本の部分は、音叉のように二俣になっており、二俣の内側に突上棒小17が収納可能となっている場合が多い。突上棒小17は、突上棒16と独立して回転可能に一端が筐体にジョイントやヒンジを用いて接続される。
【0016】
図2は、突上棒小17の先端を屋根皿15に挿入させ、筐体の上開口部の、鍵盤の高音側が開放された状態を示す。この場合には、突上棒16は、水平にされ、筐体の内部に収容される。突上棒小17は、突上棒16より短いので、屋根後13がより水平に近くなり、筐体の上開口部の開放(開口)の度合い(大きさ)が小さくなる。
【0017】
グランドピアノ1の発する音の音響特性(例えば、人が聴いた主観的な音色や、周波数スペクトル)を考えると、図1のように突上棒16を用いて筐体の上開口部を開放する方が、図2のように突上棒小17を用いて筐体の上開口部を開放するよりも、人が聴くと、のびのある周波数スペクトルを有する音を放射することができ、また、大きな音を放射することが可能である。また、筐体の上開口部を屋根後13および屋根前12によって覆い開放(開口)の度合い(大きさ)を小さくすると、人にとって、よりこもった感じに聞こえる音がピアノから発せられる。
【0018】
しかし、図1のように屋根後13を大きく傾けて筐体の上開口部を開放すると、屋根後13の向こう側が遮られ、好ましい映像が得られないなどの問題が発生する。例えば、グランドピアノ1の演奏者が演奏しながら、鍵盤の低音側に位置するゲストと会話をするテレビ番組などを収録する場合には、図2のように、筐体の上開口部を小さく開放するか、屋根後13を水平にして筐体の上開口部を開放しないのが好ましい。
【0019】
図3は、屋根後13および屋根前12を水平にして、グランドピアノ1の筐体の上開口部の全体を覆った状態を図示する。図3の状態にするには、図1または図2の状態において、屋根後13の、鍵盤の高音側の端を持ち上げ、突上棒16、突上棒小17を水平にして筐体の内部に収納し、屋根後13を水平にする。次に、屋根前12を、ロングヒンジ14を中心に回転させ、鍵盤の前方の筐体の上開口部を覆う。
【0020】
上述したように、屋根後13および屋根前12を水平にして、グランドピアノ1の筐体の上開口部を閉状態にしても、鍵2を押下することにより、弦を振動させ、ピアノを発音させることは可能であるが、開放状態とは音響特性が異なる。
【0021】
これを改善するために、次に説明する構成により、弦の振動を電気信号に変換することができる。
【0022】
図4は、グランドピアノ1の断面を横方向から見た場合の図である。すなわち、グランドピアノ1の内部構造を示す。鍵2を押下するとアクション機構を介してハンマー4が弦5を打撃する。
【0023】
弦5は、グランドピアノ1の筐体内部に配置されたフレームを用いて張架されている。また、弦5の両端を一端および他端とし、一端がフレームのハンマー4側のチューニングピンに巻きつけて係止されているとした場合の他端は、駒6を介してフレームに係止される。「駒6を介して」とは、駒6が弦5を下から押し上げることにより弦5を支持しており、弦5の振動が駒6に伝達されるようになっていることをいう。
【0024】
駒6は、響板7の上面に設けられている。また、響板7の駒6の配置された面とは反対面(下面)には響棒75が配置されている。このため、弦5の振動が駒6に伝達されると、響板7および響棒75に振動が伝達され、弦5の振動により発生する音が響板7および響棒75により放射される。
【0025】
本発明の一実施形態においては、図4に示すように、駒6の下部に、取付部材60を介して、ピックアップ50が配置される。ピックアップ50は、駒6の振動を電気信号に変換する装置である。ピックアップ50は、例えば圧電素子を有し、この圧電素子に駒6の振動が伝達することにより、駒6の振動に応じた電圧が発生する。発生した電圧は、図示されない配線により、信号処理装置70に電気信号として入力される。また、ピックアップ50の出力する電気信号を無線装置に入力し、無線により信号処理装置70に送信することも可能である。
【0026】
また、図4においては、信号処理装置70は、グランドピアノ1の筐体の下面に配置しているが、任意の位置に配置することができる。また、信号処理装置70を、グランドピアノ1と離隔して配置することもできる。例えば、グランドピアノ1の筐体直下の床面の上に配置することもできる。また、グランドピアノ1から離れた位置に配置することができる。しかし、いずれの場合も、ピックアップ50は、信号処理装置70と、有線または無線によって接続がされている。
【0027】
図5は、グランドピアノ1の内部構造を示す別の図であり、グランドピアノ1の下から響板の方向をみた図である。図5において、符号6Lおよび6Hは、駒6に対応する。図2は、断面を示しているので、駒6は1つしか示されていないが、駒6は複数本配置されているのが通常である。図5において、駒6Lは低音側の弦5を支持し、駒6Hは高音側の弦5を支持する。
【0028】
したがって、駒6Lおよび駒6Hのそれぞれに、ピックアップ50Lおよびピックアップ50Hが配置されている。また、駒6Lおよび駒6Hの振動を主にピックアップ50Lおよびピックアップ50Hが電気信号に変換するために、ピックアップ50Lおよびピックアップ50Hは、響棒75の間に位置するのが好ましい。
【0029】
なお、本発明においては、ピックアップ50を、駒6の下部に配置することには限定はされない。例えば、ピックアップ50は、駒6の側面や上面に配置することもできる。ピックアップ50を駒の側面や上面に配置すると、ピックアップ50の脱着が容易になる。
【0030】
図6は、本発明の別の実施形態に使用可能なグランドピアノ1の内部構造を示す。図6の実施形態においては、ピックアップ80は、駒6には配置されていない。そのかわりに、ピックアップ80は、響板7に配置されている。これにより、ピックアップ80は、響板7の振動を電気信号に変換する。この場合、ピックアップ80は、ピックアップ50と同様に、圧電素子により、振動を電気信号に変換してもよい。あるいは、ピックアップ80に伝達される振動は、その上下動が駒6よりも大きくなるために、ピックアップ80として、加速度センサーを用いることもできる。
【0031】
加速度センサーとしては、例えば、枠と錘部とを接続する可撓部にピエゾ抵抗を配置し、錘部に加わる加速度に応じて変形する可撓部によるピエゾ抵抗の抵抗値を測定し、振動を検出するセンサーを用いることができる。このような加速度センサーは、半導体に例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を適用して製造することができる。
【0032】
加速度センサーにより発生した電気信号は、図示されない配線により、信号処理装置70に入力される。また、ピックアップ50の出力する電気信号を無線装置に入力し、無線により信号処理装置70に送信することも可能である。図4を参照して説明したように、図5の実施形態においても、信号処理装置70は任意の位置に配置することが可能である。
【0033】
しかしながら、このようなピックアップにより弦の振動を電気信号に変換する場合であっても、筐体の上開口部の屋根後13および屋根前12の開放の程度(屋根の開放の程度)により、異なる音響特性を示す電気信号が得られてしまう。そこで、本発明の一実施形態においては、次に説明する構成を有する信号処理装置70を用いる。
【0034】
図7は、本発明の一実施形態に係る信号処理装置70の機能ブロック図を示す。信号処理装置70は、補正部701と、ピックアップ702と、開口検出部703と、イコライザ704と、サラウンドシミュレータ705と、スピーカ706とを有する。なお、信号処理装置70の構成としては、補正部701と、開口検出部703とを必須の構成とし、ピックアップ702と、イコライザ704と、サラウンドシミュレータ705と、スピーカ706は、本発明の一実施形態に係る構成にとっては任意の構成とすることもできる。
【0035】
補正部701は、ピックアップ702が変換した信号を入力とし、開口検出部703の出力する信号に応じて、補正を行い、補正がされた信号を出力する。出力する信号は電気信号でもよいし、例えば光信号でもよい。なお、「補正を行う」とは、補正部701にピックアップ702から入力された信号と、補正部701が出力した信号とが同じである場合を含んでいてもよい。
【0036】
ピックアップ702としては、例えば、図4のピックアップ50、図5のピックアップ50L、50Hとして説明したもののように、駒6、6L、6Hの振動を電気信号に変換するものがある。また、図6のピックアップ80として説明したもののように、響板7の振動を電気信号に変換するものもある。また、グランドピアノ1の発する音を取得するマイクをピックアップ702として使用することもできる。
【0037】
開口検出部703は、グランドピアノ1の筐体の上開口部の開口の程度を検出する検出装置である。開口の程度とは、一実施形態においては、筐体の上開口部の全体が、屋根後13および屋根前12が水平になっているために、覆われているか否かを表わす。例えば、グランドピアノの筐体の内部に照度センサーを配置しておき、その照度センサーが検出する筐体の内部の明るさが所定の値未満であるかいなかを検出する。照度センサーが検出する明るさが所定の値未満であれば、筐体の上開口部の全体が屋根後13および屋根前12により覆われているとし、照度センサーが検出する明るさが所定の値以上であれば、グランドピアノ1の上開口部の全体が屋根後13および屋根前12により覆われていないとすることができる。
【0038】
また、開口検出部703は、別の一実施形態として、屋根後13の水平からの傾きにより、筐体の上開口部の開口の程度を検出することができる。例えば、屋根後13の下面に、傾きセンサーを配置し、傾きセンサーを開口検出部703として用いることができる。傾きセンサーとしては、重力加速度の方向を検出するセンサーを用いることができる。この場合、傾きセンサーが検出する屋根後13の水平からの傾きが大きくなるにつれ、筐体の上開口部の開口の程度を大きくなっているとすることができる。
【0039】
なお、傾きセンサーは、屋根後13の下面でない位置に配置することができる。例えば、屋根後13は厚さを有するので、傾きセンサーを屋根後13の内部に埋め込むことができる。また、傾きセンサーを屋根後13の上面や側面に埋め込むこともできる。
【0040】
また、開口検出部703として、屋根皿15に配置された圧力センサーを用いることができる。屋根後13が水平になっていなければ、屋根皿15には、突上棒16または突上棒小17の先端が接している。このため、屋根皿15に突上棒16または突上棒小17の先端が接していれば、屋根皿15の内部に配置された圧力センサーは、0でない圧力を検出することができる。また、屋根皿15に突上棒16が接している場合には、屋根後13は、屋根皿15に突上棒小17が接しているよりも垂直に近くなっているので、圧力センサーの検出する圧力は、屋根皿15に突上棒小17が接しているよりも小さくなる。したがって、屋根皿15に配置された圧力センサーにより、屋根後13が水平になっており、筐体の上開口部が完全に覆われているか、突上棒小17により、筐体の上開口部が開放されているか、あるいは、突上棒16により、突上棒小17によるよりも大きく筐体の上開口部が開放されているかどうかを検出することができる。
【0041】
なお、圧力センサーとしては、圧力に応じた変形により抵抗値が変化する素子を用いることができる。
【0042】
また、開口検出部703の一端子から屋根皿15までの導電路を、導電材料である配線などを用いて形成しておくこともできる。この場合、開口検出部703の別端子から突上棒16の先端までの導電路を形成しておき、また、開口検出部703の別端子から突上棒小17の先端までの別の導電路を形成しておく。そして、開口検出部703の一端子から別端子までの導通が検出されなければ、屋根後13は水平であり、筐体の上開口部が完全に覆われているとする。また、開口検出部703の一つ端子から別の端子までの導通が、突上棒16の先端までの導電路を介して検出されれば、筐体の上開口部が開放(開口)され、突上棒小17の先端までの導電路を介して検出されれば、突上棒16の先端までの導電路を介して導通が検出される場合よりも小さく筐体の上開口部が開放(開口)されていることを検出する。
【0043】
補正部701は、上述したように、ピックアップ702が変換した電気信号を、開口検出部703の出力する信号に応じて、補正を行う。このとき、補正部701は、屋根後13および屋根前12が水平であるか否かにより、異なる補正を行う。例えば、補正部701は、屋根後13および屋根前12が水平であることが開口検出部703により検出される場合には、ピックアップ702が変換した電気信号の表わす音声を、筐体の上開口部の全体が屋根後13により覆われていないとした場合の音の特性そのもの、あるいは、そのような特性に近くなるように補正する。例えば、(A)補正部701は、筐体の上開口部の全体が覆われていることが検出される場合に、筐体の上開口部の全体が覆われている場合と開放されている場合との周波数成分の大きさの相違を小さくする処理、また、逆の処理を行い、屋根後13および屋根前12が水平になっていても、筐体の上開口部の全体が屋根後13により覆われていないときの音の特性あるいはその特性に近くなるように、ピックアップ702が変換した電気信号に処理を行うことにより補正をする。
【0044】
また、逆に、(B)補正部701は、筐体の上開口部の全体が屋根後13により覆われていないときに、筐体の上開口部の全体が覆われているときの音の特性あるいはその特性に近くなるように、ピックアップ702が変換した電気信号にする処理を行うことにより補正をすることもできる。
【0045】
図8は、補正部701による補正について説明するための図である。すなわち、曲線801は、屋根後13を突上棒17の先端を屋根皿15に挿入することにより筐体の上開口部を開放した場合に、ある鍵を押鍵しグランドピアノ1から離れた位置において音響特性を測定した場合のグラフである。また、曲線802は、屋根後13で筐体の上開口部の全体を覆った場合に、同じ鍵を同じく押鍵しグランドピアノ1から同じく離れた位置において音響特性を測定した場合のグラフである。図8によれば、例えば、筐体の上開口部を開放した場合には、筐体の上開口部の全体を覆った場合よりも、100Hz付近において、音圧が大きくなり、1000Hz付近において逆となっている。そこで、補正部701は、(A)の場合には、グラフ802の音響特性の信号がピックアップ702より受信されると、グラフ801の音響特性の信号に補正を行い、出力する。また、(B)の場合には、補正部701は、グラフ801の音響特性の信号がピックアップ702より受信されると、グラフ802の音響特性の信号に補正を行い、出力する。
【0046】
上述の(A)および(B)のいずれかとするには、例えば、譜面台10の操作盤18により選択可能とすることができる。
【0047】
また、開口検出部703による屋根後13の傾きの検出に応じて、補正部は、ピックアップ702が変換した電気信号を、屋根後13が別の傾きをしているときの音の特性あるいはその特性に近い特性の音をあらわすように、変換した電気信号にする処理を行うことにより補正をすることもできる。すなわち、屋根後13の傾きに応じて、補正の度合い、あるいは補正の量を異ならせることができる。ここに、補正の度合い、あるいは補正の量とは、特性を変化させる程度である。
【0048】
したがって、補正部701は、屋根後13が筐体の上開口部を覆っている場合に、ピックアップ702により変換される電気信号の表わす音の特性を、屋根後13が筐体の上開口部をより少なく覆っている場合の特性に補正することができる。
【0049】
イコライザ704は、補正部701が出力する補正の結果となる信号の周波数特性を変換する。例えば、可聴音域を構成する低音域、中音域および高音域の3つの音域の音の強度を調節して変換する。あるいは、3つ以上の音域に対して、グラフィカルなユーザインターフェースを介して設定された調節を適用して変換することもできる。この音の強度の調節やグラフィカルなユーザインターフェースも譜面台10の操作盤18により操作することとすることができる。
【0050】
サラウンドシミュレータは、オーディオ再生時のサラウンド装置の音響特性をシミュレートしたり、グランドピアノ1を実際にはコンサートホールで演奏していないのに、あたかもコンサートホールで演奏しているような効果を付加した音響特性をシミュレートしたりする。例えば、コンサートホールを無音とした状態から、ステージからパルス状の音を発し、客席での音の変化を計測することにより、ステージから客席までの音の伝達関数を求めておく。そして、サラウンドシミュレータは、イコライザ704の出力に、求めておいた伝達関数のたたみ込みを算出する。
【0051】
スピーカ706は、サラウンドシミュレータの出力を音声に変換する。
【0052】
以上のように、本発明の実施形態によれば、屋根後によるグランドピアノの筐体の上開口部の開口の程度が異なっていても、常に同じまたは同様の特性の音を表わす電気信号を得ることができる。
【0053】
また、屋根後によるグランドピアノの筐体の上開口部の開口の程度を変化させることにより、積極的にグランドピアノの音響特性を変化させた電気信号を得ることができる。
【0054】
以上においては、グランドピアノを例に用いて説明したが、アップライトピアノについても本発明を適用することができる。例えば、アップライトピアノの屋根前が閉じた状態であるか開いた状態であるかを開口検出部703により検出することができる。例えば、照度センサーや傾きセンサーにより、このような検出をすることができる。また、照度センサーを用いることにより、アップライトピアノの上前板および下前板のいずれか一方以上が取り外されているか否かを検出することができる。
【符号の説明】
【0055】
70 信号処理装置、701 補正部、702 ピックアップ、703 開口検出部、704 イコライザ、705 サウンドシミュレータ、706 スピーカ
図1
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図8