特許第6409615号(P6409615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409615
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ディファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20181015BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20181015BHJP
   F16H 57/038 20120101ALI20181015BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20181015BHJP
【FI】
   F16H57/027
   F16H57/037
   F16H57/038
   F16H57/04 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-34193(P2015-34193)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-156434(P2016-156434A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐山 啓
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−164656(JP,U)
【文献】 特開2006−300094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
F16H 57/037
F16H 57/038
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面を介して接合される第1のハウジング部材および第2のハウジング部材によって構成され、底部にオイルが収容されるハウジングと、
ドライブピニオンギヤを有して前記第1のハウジング部材に回転自在に支持され、動力源から駆動力が伝達されるドライブピニオンシャフトと、
前記ドライブピニオンギヤと噛み合うリングギヤを外周部に有して前記ハウジングの内部に回転自在に設置され、前記ドライブピニオンシャフトから伝達される駆動力を左右駆動輪に連結された第1の出力軸および第2の出力軸に配分して出力するディファレンシャル機構を備えたディファレンシャルケースと、
前記ディファレンシャルケースの上方に位置するようにして前記第2のハウジング部材の上部に形成され、天井壁、前記天井壁の下部に位置する底壁、互いに対向するようにして前記天井壁と前記底壁とを連結する一対の側壁、前記第2のハウジング部材の接合面よりも奥側で前記天井壁、前記底壁および前記一対の側壁を連結する奥壁を有し、前記天井壁、前記壁および前記一対の側壁の端が前記第1のハウジング部材に閉止されるブリーザ室と、
前記底壁に形成され、前記ハウジングの内部の空間と前記ブリーザ室とを連通する連通孔と、
前記天井壁に形成され、前記ブリーザ室と前記ハウジングの外部とを連通する換気孔とを備えたディファレンシャル装置であって、
前記第2のハウジング部材の内部に、前記ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、前記リングギヤの端面に沿って前記第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、前記ハウジングの内部を前記リングギヤが設置される第1の空間と前記第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る中間壁を形成し、
前記ブリーザ室を前記第2の空間に形成し、
前記第2のハウジング部材に、前記ブリーザ室の下方に位置し、かつ前記奥壁よりも外方に膨れ出る膨出部を形成し、前記膨出部の上端部を前記第1の出力軸および前記第2の出力軸の回転軸よりも下方に位置させたことを特徴とするディファレンシャル装置。
【請求項2】
前記連通孔を前記第2のハウジング部材の接合面よりも奥壁側に形成し、
前記連通孔が、下方の開口端が上方の開口端に対して前記膨出部から前記第2のハウジング部材の接合面側に遠ざかるように傾斜することを特徴とする請求項1に記載のディファレンシャル装置。
【請求項3】
前記膨出部は、前記膨出部の膨れ出る方向の端部において下端部が上端部よりも前記膨出部の膨れ出る方向の外方に位置するように傾斜する傾斜壁を有し、
前記連通孔の開口方向中心軸上に前記第1の出力軸および前記第2の出力軸の回転軸が位置するように前記連通孔を傾斜させ、
前記連通孔の開口方向中心軸と直交する仮想平面および前記開口方向中心軸と前記仮想平面とが交わる交点を設けた場合に、前記傾斜壁を前記仮想平面に沿って傾斜、または前記第1の出力軸および前記第2の出力軸の回転軸と前記交点とを結んだ前記開口方向中心軸に向けて傾斜させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディファレンシャル装置。
【請求項4】
前記第2の空間に位置するように前記第2のハウジング部材に規制壁を設け、
前記規制壁は、前記ブリーザ室と前記膨出部との間に設けられ、前記第2のハウジング部材の上下方向において前記膨出部よりも前記ブリーザ室に偏るように前記連通孔の下方を覆うことを特徴とする請求項3に記載のディファレンシャル装置。
【請求項5】
前記第2のハウジング部材は、前記奥壁を形成し、かつ、前記中間壁によって仕切られる前記第2の空間を構成する周壁に前記規制壁が形成され、
前記傾斜壁に沿って延びる仮想平面を設けた場合に、前記規制壁を、前記周壁から前記仮想平面と交差する位置まで延ばしたことを特徴とする請求項4に記載のディファレンシャル装置。
【請求項6】
前記周壁に、オイル流通用の開口を有し、プラグが取付けられるボス部を形成し、
前記ボス部を前記周壁から前記連通孔の下方まで延ばすとともに、前記ボス部を前記膨出部と前記規制壁との間に形成したことを特徴とする請求項5に記載のディファレンシャル装置。
【請求項7】
前記膨出部の上端部の位置を前記ディファレンシャルケースの下端部よりも上方に形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のディファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャル装置に関し、特に、ハウジングの内部と外部とを連通するブリーザ室を有するディファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されるディファレンシャル装置は、リングギヤを有するディファレンシャルケースがハウジング内に設置されており、リングギヤの回転を利用してハウジング内に貯留されたオイルを掻き上げて潤滑するように構成されている。
【0003】
また、ディファレンシャル装置には油温の変化等による内部温度の変化に伴う気体の膨張や収縮により、ハウジング内部が加圧状態や負圧状態にならないように気体を流通させるブリーザ室が設けられている。
【0004】
従来のブリーザ室を備えたディファレンシャル装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。このディファレンシャル装置は、外周部にリングギヤが設けられたディファレンシャルケースと、ディファレンシャルケースを収容するハウジングと、ディファレンシャルケースの上方に設けられたブリーザ室とを備えている。
【0005】
ブリーザ室は、ハウジングの内部とブリーザ室とを連通する切欠き部が形成された底壁と、ハウジングの外部とブリーザ室とを連通するブリーザポートを有する天井壁とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4707250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来のディファレンシャル装置にあっては、リングギヤとブリーザ室とがハウジングの内部の同じ空間に設けられているので、リングギヤの回転によって掻き上げられたオイルが、ブリーザ室の下方に流れ易い。これにより、切欠き部にオイルが到達し易く、切欠き部を通してブリーザ室にオイルが侵入して、このオイルがブリーザポートから外部に漏出するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、リングギヤおよびディファレンシャルケースによって掻き上げられるオイルがブリーザ室に侵入することを抑制できるディファレンシャル装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、接合面を介して接合される第1のハウジング部材および第2のハウジング部材によって構成され、底部にオイルが収容されるハウジングと、ドライブピニオンギヤを有して第1のハウジング部材に回転自在に支持され、動力源から駆動力が伝達されるドライブピニオンシャフトと、ドライブピニオンギヤと噛み合うリングギヤを外周部に有してハウジングの内部に回転自在に設置され、ドライブピニオンシャフトから伝達される駆動力を左右駆動輪に連結された第1の出力軸および第2の出力軸に配分して出力するディファレンシャル機構を備えたディファレンシャルケースと、ディファレンシャルケースの上方に位置するようにして第2のハウジング部材の上部に形成され、天井壁、天井壁の下部に位置する底壁、互いに対向するようにして天井壁と底壁とを連結する一対の側壁、第2のハウジング部材の接合面よりも奥側で天井壁、底壁および一対の側壁を連結する奥壁を有し、天井壁、壁および一対の側壁の端が第1のハウジング部材に閉止されるブリーザ室と、底壁に形成され、ハウジングの内部の空間とブリーザ室とを連通する連通孔と、
天井壁に形成され、ブリーザ室とハウジングの外部とを連通する換気孔とを備えたディファレンシャル装置であって、第2のハウジング部材の内部に、ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、リングギヤの端面に沿って第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、ハウジングの内部をリングギヤが設置される第1の空間と第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る中間壁を形成し、
ブリーザ室を第2の空間に形成し、第2のハウジング部材に、ブリーザ室の下方に位置し、かつ奥壁よりも外方に膨れ出る膨出部を形成し、膨出部の上端部を前記第1の出力軸および前記第2の出力軸の回転軸よりも下方に位置させたものから構成されている。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、第2のハウジング部材の内部に、ディファレンシャルケースの外周部を囲む円弧状の切欠き部を有し、かつ、リングギヤの端面に沿って第2のハウジング部材の底部から上部に向かって延びることで、ハウジングの内部をリングギヤが設置される第1の空間と第1の空間に隣接する第2の空間とに仕切る中間壁が形成される。
【0011】
これにより、第1の空間に設置されるリングギヤによって掻き上げられるオイルが、ブリーザ室が設置される第2の空間に流れ込もうとするが、このオイルは、中間壁によって遮られて第2の空間に過剰に流れ込むことがない。
【0012】
したがって、リングギヤによって掻き上げられたオイルがブリーザ室に侵入することを抑制でき、ブリーザ室からハウジングの外部にオイルが漏出することを防止できる。
【0013】
また、本発明によれば、ブリーザ室が第2の空間に形成され、第2のハウジング部材に、ブリーザ室の下方で、奥壁よりも外方に膨れ出る膨出部が形成される。
これにより、膨出部によって第2の空間の容積を増大させてリングギヤおよびディファレンシャルケースの回転によって流通するオイルを膨出部に導くことができる。このため、リングギヤおよびディファレンシャルケースの回転によって掻き上げられるオイルの量を少なくして、オイルがブリーザ室に到達することをより効果的に抑制でき、オイルがブリーザ室に侵入することをより効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、車両後部の平面図である。
図2図2は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、車両後部の側面図である。
図3図3は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャル装置の平面図である。
図4図4は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャル装置において、ディファレンシャルキャリアから見たディファレンシャルカバーの内部を見た図である。
図5図5は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、図4のV−V方向矢視断面図である。
図6図6は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、図4のVI−VI方向矢視断面図である。
図7図7は、本発明のディファレンシャル装置の一実施形態を示す図であり、ディファレンシャルカバーの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るディファレンシャル装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1図7は、本発明に係る一実施形態の内燃機関のディファレンシャル装置を示す図である。
【0016】
まず、構成を説明する。
図1図2において、四輪自動車等の車両1は、フロントエンジンリヤドライブ(FR)式の車両である。車両1は、車体2を備えており、車体2の後部にはディファレンシャル装置3が設置されている。ディファレンシャル装置3は、プロペラシャフト4および左右のドライブシャフト5L、5Rの間に設けられている。
【0017】
図2図3において、ディファレンシャル装置3は、接合面6A、7Aを介して接合されるディファレンシャルキャリア(以下、単にデフキャリアという)6およびディファレンシャルカバー(以下、単にデフカバーという)7によって構成され、底部にオイルO(図5参照)が収容されるハウジング8を有する。ここで、本実施の形態のデフキャリア6は、本発明の第1のハウジング部材を構成し、デフカバー7は、本発明の第2のハウジング部材を構成する。
【0018】
図5において、デフキャリア6には軸受9を介してドライブピニオンシャフト10が回転自在に支持されており、ドライブピニオンシャフト10の車両1の前後方向後端にはドライブピニオンギヤ10Aが形成されている。ドライブピニオンシャフト10は、プロペラシャフト4に接続されており、ドライブピニオンシャフト10は、プロペラシャフト4と一体で回転する。
【0019】
プロペラシャフト4には図示しない動力源であるエンジンの動力が図示しない変速機を介して伝達されるようになっており、ドライブピニオンシャフト10にはエンジンの動力がプロペラシャフト4を介して伝達される。
ハウジング8の内部にはディファレンシャルケース(以下、単にデフケースという)11が回転自在に設置されている。
【0020】
デフケース11の外周部にはデフケース11と一体で回転するようにリングギヤ12が取付けられており、リングギヤ12は、ドライブピニオンギヤ10Aに噛み合っている。ドライブピニオンシャフト10の回転軸およびリングギヤ12の回転軸は、直交しており、リングギヤ12およびドライブピニオンギヤ10Aは、それぞれベベルギヤから構成されている。
【0021】
図6において、デフケース11の内部にはデフケース11と一体で回転するピニオンシャフト13と、ピニオンシャフト13の前後端に回転自在に支持された一対のピニオンギヤ14A、14Bと、ピニオンギヤ14A、14Bのそれぞれに噛み合う一対のサイドギヤ15A、15B(図5にサイドギヤ15を図示)とを備えている。
【0022】
図4において、デフケース11の回転軸線に沿った車幅方向の両端側にはドライブシャフト5L、5Rの一端部が挿入されており、ドライブシャフト5L、5Rの一端部は、サイドギヤ15A、15Bに嵌合される。
ドライブシャフト5L、5Rは、それぞれ左右の駆動輪16L、16Rに接続されている(図1参照)。ここで、本実施の形態のドライブシャフト5Lは、本発明の第1の出力軸を構成し、ドライブシャフト5Rは、本発明の第2の出力軸を構成する。
【0023】
ピニオンシャフト13は、その軸線方向がデフケース11の回転軸線に対して直交する方向に向けてデフケース11に取り付けられている。また、一対のピニオンギヤ14A、14Bは、それぞれがデフケース11の回転時に、デフケース11の回転軸線を中心として公転するとともに、ピニオンシャフト13の軸線を中心として自転するように形成されている。
【0024】
さらに、一対のサイドギヤ15A、15Bは、それぞれがデフケース11の回転軸線と同軸にしてデフケース11の内部に対向して配置されているとともに、その回転軸線に沿ってドライブシャフト5L、5Rの一端部をスプライン結合するための複数のスプライン歯を有する。
【0025】
このように構成されるディファレンシャル装置3は、車両1が平坦路を直進する場合には、ドライブピニオンシャフト10のドライブピニオンギヤ10Aからリングギヤ12に動力が伝達されると、デフケース11が回転する。
【0026】
このとき、左右の駆動輪16L、16Rの転がる距離が等しいので、一対のサイドギヤ15A、15Bは、同じ回転速度で回転し、サイドギヤ15A、15Bの間に挟まれたピニオンギヤ14A、14Bは、自転せず、デフケース11、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bが一体となって公転する。
【0027】
車両1がカーブを曲がる場合には、カーブ外側の駆動輪16Lおよび16Rの一方の転がる距離がカーブ内側の駆動輪16Lおよび16Rの他方よりも長いため、カーブ外側のサイドギヤ15A、15Bの一方は、カーブ内側のサイドギヤ15A、15Bの他方よりも速く回転する。
【0028】
このとき、カーブ外側のサイドギヤ15A、15Bの一方は、デフケース11よりも速く回転しており、カーブ内側のサイドギヤ15A、15Bの他方は、デフケース11よりも遅く回転している。
【0029】
したがって、一対のサイドギヤ15A、15Bに挟まれたピニオンギヤ14A、14Bは、公転だけでなく自転もするようになり、異なる速度で回転している左右のサイドギヤ15A、15Bにデフケース11からの動力を伝えることができる。
【0030】
このようにデフケース11は、ドライブピニオンシャフト10から伝達される駆動力を左右の駆動輪16L、16Rに連結されたドライブシャフト5L、5Rに配分して出力するピニオンシャフト13、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bを備えており、これらピニオンシャフト13、ピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bは、本発明のディファレンシャル機構を構成する。
図4において、デフカバー7の車幅方向両端部に半円状のボス部8A、8Bが形成されており、このボス部8A、8Bにはドライブシャフト5L、5Rが回転自在に支持される。なお、デフキャリア6の車幅方向両端部にも半円状のボス部が形成されており、このボス部にはドライブシャフト5L、5Rが回転自在に支持される。
【0031】
したがって、デフキャリア6のボス部およびデフカバー7のボス部8A、8Bによってドライブシャフト5L、5Rを支持するためのハウジング8の円筒状のボス部が構成される。
図5に示すように、オイルOは、ハウジング8の底部において、液面の位置がデフケース11の下端が浸る位置となるようにハウジング8の内部に収容される。
【0032】
図4図5において、デフカバー7の上部にはデフケース11の上方に位置するようにブリーザ室18が形成されている。
【0033】
図4図5図7において、ブリーザ室18は、それぞれデフカバー7に形成された天井壁19、天井壁19の下部に位置する底壁20、互いに対向するようにして天井壁19と底壁20とを連結する一対の側壁21A、21B、接合面7Aよりも奥側で天井壁19、底壁20および側壁21A、21Bを連結する奥壁22を有する。
【0034】
このブリーザ室18は、接合面7Aを含んだ天井壁19、底壁20、側壁21A、21Bおよび奥壁22の端部をデフキャリア6で閉止することで、閉空間からなるブリーザ室18が形成される。
【0035】
図5において、車幅方向においてブリーザ室18に対向するデフキャリア6側には空間6Bが形成されており、この空間6Bを含んでブリーザ室18を構成してもよい。
【0036】
図4図5図7において、底壁20には連通孔20Aが形成されており、連通孔20Aは、ハウジング8の内部の空間とブリーザ室18とを連通している。天井壁19には換気孔19Aが形成されており、換気孔19Aは、ブリーザパイプ(図2図3図5参照)31を介してブリーザ室18とハウジング8の外部、すなわち、外気とを連通している。
【0037】
また、ブリーザ室18は、仕切壁23を備えている。仕切壁23は、天井壁19と底壁20との間において奥壁22から接合面7Aに向かって突出しており、一対の連通孔23Aを通してブリーザ室18の下方の空間と上方の空間とを連通している。
【0038】
このブリーザ室18は、油温の変化等による内部温度の変化に伴う気体の膨張や収縮により、ハウジング8の内部が加圧状態や負圧状態になった場合に、外気とハウジング8の内部とを連通することで、ハウジング8の内部の圧力を一定圧に保つ機能を有する。
【0039】
具体的には、ハウジング8の内部の圧力が高くなった場合には、図4図5の矢印Aiで示すように、ハウジング8の内部の空気Aiが連通孔20Aから仕切壁23の下方のブリーザ室18の空間に導入される。
【0040】
この空気Aiは、連通孔23Aを通して仕切壁23の上方のブリーザ室18の空間に導入された後に、換気孔19Aからブリーザパイプ31を通してブリーザ室18の外部に排出される。
【0041】
一方、ハウジング8の内部が負圧になった場合には、ブリーザパイプ31から換気孔19Aを通して仕切壁23の上方のブリーザ室18の空間に空気が導入された後、連通孔23Aを通して仕切壁23の下方のブリーザ室18の空間に空気が導入される。次いで、この空気は、連通孔20Aからハウジング8の内部に導入される。
【0042】
また、ディファレンシャル装置3は、デフケース11やリングギヤ12がオイルOに浸かることにより、リングギヤ12とドライブピニオンシャフト10のドライブピニオンギヤ10Aの噛み合い面の潤滑と、デフケース11の内部のピニオンギヤ14A、14Bおよびサイドギヤ15A、15Bの噛み合い面の潤滑等を行う。
【0043】
このため、ブリーザ室18は、デフケース11やリングギヤ12の回転によってオイルOが掻き上げられた場合に、ブリーザ室18を通して外気にオイルOが漏出することを防止する機能も有する。
【0044】
図4図7において、デフカバー7の内部には中間壁24が形成されている。中間壁24は、デフケース11の外周部を囲む円弧状の切欠き部24Aを有し、リングギヤ12の端面に沿ってデフカバー7の底部7Bから上部7Cに向かって延びることで、ハウジング8の内部をリングギヤ12が設置される第1の空間25と第1の空間25に隣接する第2の空間26とに仕切っている。
これにより、ブリーザ室18は、リングギヤ12が設置されていない第2の空間26に形成される。
【0045】
図5において、デフケース11には膨出部27が形成されており、膨出部27は、奥壁22よりも車幅方向外方に膨れ出ている。ここで、デフカバー7は、奥壁22を形成し、かつ、中間壁24によって仕切られる第2の空間26を構成する周壁7Dを備えており、膨出部27は、周壁7Dよりも車幅方向外方に膨れ出る部位から構成される。なお、図5において、周壁7Dのラインを仮想平面で示しており、この仮想壁面から外方に突出する部位が膨出部27である。
【0046】
図5において、連通孔20Aは、接合面7Aよりも奥壁22側に形成されており、連通孔20Aは、下方の開口端20bが上方の開口端20aに対して膨出部27から遠ざかるように傾斜している。
【0047】
膨出部27は、傾斜壁27Aを備えており、傾斜壁27Aは、膨出部27の膨れ出る方向の端部において下端部27bが上端部27aよりも膨出部27の膨れ出る方向の外方に位置するように傾斜している。また、膨出部27の上端部27aの位置は、デフケース11の下端部11aよりも上方に形成される。
【0048】
連通孔20Aは、連通孔20Aの開口方向中心軸L1上にドライブシャフト5L、5Rの回転軸L2が位置している。また、連通孔20Aの開口方向中心軸L1と直交する仮想平面L3および開口方向中心軸L1と仮想平面L3とが交わる交点P1を設けた場合に、膨出部27の傾斜壁27Aは、仮想平面L3に沿って傾斜している。
【0049】
デフカバー7には第2の空間26に位置するように規制壁28が設けられている。規制壁28は、ブリーザ室18と膨出部27との間に設けられており、デフカバー7の上下方向において膨出部27よりもブリーザ室18に偏るようにして設置され、連通孔20Aの下方を覆っている。
【0050】
また、規制壁28は、デフカバー7の周壁7Dに設けられており、傾斜壁27Aに沿って延びる仮想平面L3を設けた場合に、規制壁28は、周壁7Dから仮想平面L3と交差する位置まで延びている。ここで、連通孔20Aの開口方向中心軸L1と直交する仮想平面L3および傾斜壁27Aに沿って延びる仮想平面L3は、同一平面である。
【0051】
図5図7において、周壁7Dにはボス部29が形成されており、ボス部29は、オイル流通用の開口29Aを有し、ボス部29にはプラグ30が着脱自在に設けられている。ハウジング8の内部には開口29Aを通してオイルが導入されるとともに、ハウジング8の内部のオイルは、開口29Aを通して外部に排出される。
ボス部29は、周壁7Dから連通孔20Aの下方まで延びており、ボス部29は、膨出部27と規制壁28との間に形成されている。
【0052】
次に、作用を説明する。
図5に示すようにデフケース11が反時計回転方向Rに回転すると、第1の空間25に設置されるリングギヤ12によってオイルOが上方に掻き上げられる。
【0053】
本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、デフカバー7の内部に、デフケース11の外周部を囲む円弧状の切欠き部24Aを有し、かつ、リングギヤ12の端面に沿ってデフカバー7の底部から上部に向かって延びることで、ハウジング8の内部をリングギヤ12が設置される第1の空間25と第1の空間25に隣接する第2の空間26とに仕切る中間壁24が形成される。
【0054】
これにより、図4図6に示すように、第1の空間25に設置されるリングギヤ12によって掻き上げられるオイルO1が、ブリーザ室18が設置される第2の空間26に流れ込もうとするが、このオイルO1は、中間壁24によって遮られて第2の空間26に過剰に流れ込むことがない。
したがって、リングギヤ12によって掻き上げられたオイルがブリーザ室18に侵入することを抑制でき、ブリーザ室18からハウジング8の外部にオイルが漏出することを防止できる。
【0055】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、ブリーザ室18が第2の空間26に形成され、デフカバー7に、ブリーザ室18の下方で、奥壁22よりも外方に膨れ出る膨出部27が形成される。
【0056】
これにより、膨出部27によって第2の空間26の容積を増大させて、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって流動するオイルO2(図5図6参照)を膨出部27に導くことができる。このため、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって掻き上げられるオイルの量を少なくして、オイルがブリーザ室18に到達することをより効果的に抑制でき、オイルがブリーザ室18に侵入することをより効果的に抑制できる。
【0057】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、連通孔20Aがデフカバー7の接合面7Aよりも奥壁22側に形成され、連通孔20Aが、連通孔20Aの下方の開口端20bが上方の開口端20aに対して膨出部27からデフカバー7の接合面7Aに遠ざかるように傾斜される。
【0058】
これにより、図5に示すように、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって膨出部27に導かれたオイルO3が膨出部27から上方に掻き上げられてしまった場合に、連通孔20Aの開口方向を膨出部27から掻き上げられたオイルの方向と傾斜する方向にできる。このため、オイルO3が連通孔20Aを通してブリーザ室18に侵入することを防止できる。
【0059】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、膨出部27は、膨出部27の膨れ出る方向の端部において下端部27bが上端部27aよりも膨出部27の膨れ出る方向の外方に位置するように傾斜する傾斜壁27Aを有し、連通孔20Aの開口方向中心軸L1上にドライブシャフト5L、5Rの回転軸L2が位置するように連通孔20Aを傾斜させ、連通孔20Aの開口方向中心軸L1と直交する仮想平面L3および開口方向中心軸L1と仮想平面L3とが交わる交点P1とを設けた場合に、膨出部27の傾斜壁27Aが仮想平面L3に沿って傾斜される。
【0060】
これにより、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって膨出部27に導かれたオイルO2が膨出部27から上方に掻き上げられてしまった場合に、上方に掻き上げられたオイルO3を、連通孔20Aから遠ざけることができる。
【0061】
これに加えて、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって膨出部27に導かれたオイルO2が膨出部27から上方に掻き上げられてしまった場合に、上方に掻き上げられたオイルO3を連通孔20Aとドライブシャフト5L、5Rの回転軸L2との間に指向させ、膨出部27を経ずにリングギヤ12およびデフケース11によって掻き上げられたオイルO4に衝突させることができる。
この結果、オイルが連通孔20Aを通してブリーザ室18に侵入することをより効果的に抑制できる。
【0062】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、第2の空間26に位置するようにデフカバー7に規制壁28を設けるとともに、この規制壁28をブリーザ室18と膨出部27との間に設置し、デフカバー7の上下方向において膨出部27よりもブリーザ室18に偏るようにしてこの規制壁28により連通孔20Aの下方を覆うようにした。
これにより、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって掻き上げられたオイルO3を規制壁28に衝突させることで、オイルO3をブリーザ室18に到達し難くできる。
【0063】
また、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって膨出部27に導かれたオイルO2が膨出部27から上方に掻き上げられてしまった場合であっても、上方に掻き上げられてしまったオイルO3を規制壁28に衝突させてブリーザ室18に到達し難くできる。
【0064】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、奥壁22を形成し、かつ、中間壁24によって仕切られる第2の空間26を構成するデフカバー7の周壁7Dに規制壁28を設け、傾斜壁27Aに沿って延びる仮想平面L3を設けた場合に、規制壁28を、周壁7Dから仮想平面L3と交差する位置まで延ばした。
【0065】
これにより、膨出部27に流れ込んだオイルO3が傾斜壁27Aに沿って仮想平面L3の方向に跳ね上がった場合に、オイルO3を規制壁28に衝突させることができる。このため、オイルO3が規制壁28の上面とブリーザ室18の底壁20との間の空間に侵入し難くでき、オイルO3が連通孔20Aを通してブリーザ室18に侵入することをより効果的に抑制できる。
【0066】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、周壁7Dに、オイル流通用の開口29Aを有し、プラグ30が取付けられるボス部29を形成し、ボス部29を周壁7Dから連通孔20Aの下方まで延ばすとともに、膨出部27と規制壁28との間に形成した。
【0067】
これにより、リングギヤ12およびデフケース11の回転によって膨出部27に流れ込んで傾斜壁27Aに沿って上方に跳ね上がったオイルO3をボス部29に衝突させて、ボス部29と規制壁28との間に多量に流れ込むことを抑制できる。
【0068】
これに加えて、ボス部29と規制壁28との間に流れ込んだオイルO3を規制壁28に衝突させて上方に移動することを防止できるので、オイルO3がブリーザ室18に侵入することをより効果的に防止できる。
【0069】
また、本実施の形態のディファレンシャル装置3によれば、膨出部27の上端部27aの位置をデフケース11の下端部11aよりも上方に形成した。
これにより、リングギヤ12およびデフケース11の回転によってオイルO2を膨出部27に確実に導くことができ、リングギヤ12およびデフケース11によって上方に掻き上げられるオイルの量を減らすことができる。このため、オイルがブリーザ室18に侵入することをより効果的に防止できる。
【0070】
なお、本実施の形態のディファレンシャル装置3において、連通孔20Aの開口方向中心軸L1と直交する仮想平面L3および開口方向中心軸L1と仮想平面L3とが交わる交点P1を設けた場合に、膨出部27の傾斜壁27Aを仮想平面L3に沿って傾斜させているが、これに限定されるものではない。
例えば、傾斜壁27Aを、ドライブシャフト5L、5Rの回転軸L2と交点P1とを結んだ開口方向中心軸L1に向けて傾斜させてもよい。
【0071】
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0072】
3...ディファレンシャル装置、5L...ドライブシャフト(第1の出力軸)、5R...ドライブシャフト(第2の出力軸)、6...ディファレンシャルキャリア(第1のハウジング部材)、7...ディファレンシャルカバー(第2のハウジング部材)、6A...接合面(第1のハウジング部材の接合面)、7A...接合面(第2のハウジング部材の接合面)、7B...底部(第2のハウジング部材の底部)、7C...上部(第2のハウジング部材の上部)、7D...周壁(第2のハウジング部材の周壁)、8...ハウジング、10...ドライブピニオンシャフト、10A...ドライブピニオンギヤ、11...ディファレンシャルケース、12...リングギヤ、13...ピニオンシャフト(ディファレンシャル機構)、14A,14B...ピニオンギヤ(ディファレンシャル機構)、15A,15B...サイドギヤ(ディファレンシャル機構)、16L,16R...駆動輪、18...ブリーザ室、19...天井壁、19A...換気孔、20...底壁、20A...連通孔、20a...開口端(連通孔の上方の開口端)、20b...開口端(連通孔の下方の開口端)、21A,21B...側壁、22...奥壁、24...中間壁、24A...切欠き部、25...第1の空間、26...第2の空間、27...膨出部、27A...傾斜壁、27a...上端部(膨出部の上端部)、27b...下端部(膨出部の下端部)、28...規制壁、29...ボス部、29A...開口、30...プラグ、L1...連通孔の開口方向中心軸、L2...回転軸(第1の出力軸と第2の出力軸の回転軸)、L3...仮想平面(連通孔の開口方向中心軸と直交する仮想平面,傾斜壁に沿って延びる仮想平面)、P1...交点(連通孔の開口方向中心軸と仮想平面とが交わる交点)


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7