(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板とアルミニウム板との接合体を製造する方法であって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との間に接合材としてアルミニウム合金からなる芯材の両面にマグネシウムを3.0質量%以下含有するろう材層が形成された両面ろうクラッド材を介在させ、非酸化性雰囲気中で接合温度に加熱し、
前記両面ろうクラッド材のマグネシウム含有量は、前記セラミックス基板側と前記アルミニウム板側とで異なることを特徴とするセラミックス基板とアルミニウム板との接合体の製造方法。
前記両面ろうクラッド材のマグネシウム含有量は、前記セラミックス基板側が0.01質量%〜1.5質量%、前記アルミニウム板側が0.5質量%〜3.0質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス基板とアルミニウム板との接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、真空雰囲気中での接合作業では昇温に時間を要すことより、接合時間が長く製造コストも高くなるという問題があった。一方、特許文献3では低酸素雰囲気中での接合が可能であるが、マグネシウムを含有するアルミニウム合金箔の製造が困難である。
また、このようなセラミックス基板とアルミニウム板との接合において、セラミックス基板とアルミニウム板とでマグネシウムの必要量に違いがあり、各々の最適値に調整することができないという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、良好な接合を確保しつつ製造コストを削減することができるセラミックス基板とアルミニウム板との接合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の製造方法は、セラミックス基板とアルミニウム板との接合体を製造する方法であって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との間に接合材としてアルミニウム合金からなる芯材の両面にマグネシウムを3.0質量%以下含有するろう材層が形成された両面ろうクラッド材を介在させ、非酸化性雰囲気中で接合温度に加熱
し、前記両面ろうクラッド材のマグネシウム含有量は、前記セラミックス基板側と前記アルミニウム板側とで異なる。
【0007】
本発明の製造方法では、マグネシウムを含有するろう材層が形成された両面クラッド材を使用し接合体を製造することで、セラミックス基板側のマグネシウム量とアルミニウム板側のマグネシウム量とを各々最適値に調整することができ、良好な接合性が維持できる。
また、両面ろうクラッド材を介在させ非酸化性雰囲気中において接合することで、真空雰囲気中での接合に比べ短時間で昇温でき接合することができるので、製造コストを削減できる。
さらに、接合対象に合せてマグネシウム含有量を適切に調整することで、良好な接合性を維持することができる。
なお、上述の非酸化性雰囲気とは窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気をさすものとする。
マグネシウム含有量が3.0質量%を超えるろう材層は製造が困難である。
【0009】
また本発明の製造方法において、前記両面ろうクラッド材のマグネシウム含有量は、前記セラミックス基板側が0.01質量%〜1.5質量%、前記アルミニウム板側が0.5質量%〜3.0質量%の範囲であるとよい。
【0010】
この接合体の製造方法では、アルミニウム板には接合不良を誘発する酸化被膜等が比較的多く含まれており、アルミニウム板との接合にはその酸化物を除去するためにある程度多くのマグネシウム含有量が必要となる。一方セラミックス基板側ではマグネシウム含有量が過多となるとセラミックス基板の剥離や割れが発生するおそれがある。
そこで、セラミックス基板側のマグネシウム含有量とアルミニウム板側のマグネシウム含有量とを各々上記最適値に調整することで、良好な接合性を維持することができる。
【0011】
また本発明の製造方法において、前記アルミニウム板がヒートシンクであるとよい。
特に製造コストが重視される傾向にあるヒートシンク付きセラミックス基板は、本発明の製造方法で製造することで製造コストの削減を図ることできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、両面ろうクラッド材を用いてセラミックス基板側のマグネシウム含有量とアルミニウム板側のマグネシウム含有量とを各々最適値に調整し、非酸化性雰囲気中で接合することで良好な接合を確保しつつ製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
第1実施形態のセラミックス基板とアルミニウム板との接合体であるパワーモジュール用基板50は、
図1に示すように、セラミックス基板10の一方の面に両面ろうクラッド材20を介して回路層40が接合され、セラミックス基板10の他方の面に両面ろうクラッド材20を介して金属層30が接合されている。
【0015】
セラミックス基板10は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックスを用い、厚さは0.2mm〜1.5mmの範囲内に設定される。
【0016】
回路層40及び金属層30は、純度99質量%以上のアルミニウム(2N−Al)、純度99.9質量%以上のアルミニウム(3N−Al)、純度99.99質量%以上のアルミニウム(4N−Al)又はアルミニウム合金例えばA6063やA3003を用い、厚さは0.1mm〜2.5mmの範囲内に設定される。
【0017】
両面ろうクラッド材20は
図2に示すように、芯材21の両面にろう材層22,23がクラッドされ構成されている。
芯材21は本実施形態ではアルミニウム合金A3003が用いられ、厚さは0.05mm〜0.6mmの範囲内に設定される。
ろう材層22,23はAl−Si−Mg系ろう材が用いられ、厚さは5μm〜100μmの範囲内に設定される。
この場合、両側のろう材層22,23のマグネシウム(Mg)含有量は、セラミックス基板10側に当接される側のろう材層22にはマグネシウム(Mg)が0.01質量%〜1.5質量%の範囲で含有され、回路層40及び金属層30側に当接される側のろう材層23にはマグネシウム(Mg)が0.5質量%〜3.0質量%の範囲で含有されている。
【0018】
ここで、マグネシウム(Mg)含有量は、セラミックス基板10側ではマグネシウム(Mg)含有量が過多になるとセラミックス基板10のセラミックス割れが発生するおそれがあるので1.5質量%以下に設定され、回路層40及び金属層30側では接合不良を誘発する酸化被膜等を除去するために必要となるマグネシウム(Mg)の含有量が最大3.0質量%であり、アルミニウム(本実施形態では回路層40及び金属層30)の材質によっては最適値が異なることより、上記範囲に設定されている。セラミックス基板10側のマグネシウム(Mg)含有量が0.01質量%未満の場合や回路層40及び金属層30側のマグネシウム(Mg)含有量が0.5質量%未満の場合、酸化被膜等の除去が不十分となり、接合不良が発生するおそれがある。
また、セラミックス基板10側のマグネシウム(Mg)含有量が1.5質量%を超えた場合には、回路層40及び金属層30に使用される金属のセラミックス基板10近傍が硬化し、セラミックス基板10に割れが生じるおそれがある。
例えば、セラミックス基板10をSi
3N
4(窒化珪素)、回路層40及び金属層30をアルミニウム合金A3003で形成する場合、マグネシウム(Mg)の最適な含有量は、セラミックス基板10側が0.05質量%で回路層40及び金属層30側が1.5質量%とするとよい。
なお、本発明においてろう材として両面ろうクラッド材20を用いていることにより、単一の箔に比べて、両側のろう材層22,23のマグネシウム含有量を多くすることが可能であるが、マグネシウム含有量が3.0質量%を超えると、クラッド材製造工程において圧延性が極端に悪くなるため、クラッド材製造が困難となる。
【0019】
次に、このように構成されるパワーモジュール用基板50の製造方法を説明する。
図1(a)に示すように、セラミックス基板10の一方の面に両面ろうクラッド材20を介して回路層用アルミニウム板40´を積層し、セラミックス基板10の他方の面に両面ろうクラッド材20を介して金属層用アルミニウム板30´を厚さ方向に積層する。この場合、両面ろうクラッド材20は、セラミックス基板10側にマグネシウム量が少ないろう材層22が当接される向きで積層する。
その積層体Sを
図4に示す加圧装置110を用いて積層方向に加圧した状態とする。
この加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備えている。
固定板113および押圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されており、ベース板111と押圧板114との間に前述の積層体Sが配置される。積層体Sの両面には加圧を均一にするためにクッションシート116が配設される。クッションシート116は、カーボンシートとグラファイトシートの積層板で形成されている。この加圧装置110により加圧した状態で、加圧装置110ごと図示略の加熱炉内に設置し、常圧の窒素ガス(N
2)雰囲気下で接合温度に加熱してセラミックス基板10に回路層40と金属層30とを接合する。この場合の加圧力としては例えば0.01MPa〜0.6MPa、接合温度としては640℃以下好ましくは610℃〜620℃の範囲に加熱して接合する。
【0020】
このように製造される第1実施形態のパワーモジュール用基板50は、セラミックス基板10と回路層40との間、及びセラミックス基板10と金属層30との間の各々に両面ろうクラッド材20の芯材21であった薄いアルミニウム合金層が介在した状態となる。
この製造方法のように、両面ろうクラッド材20を用いてセラミックス基板10とアルミニウム板30´,40´とを接合してパワーモジュール用基板50を製造するので、両面ろうクラッド材20の両面のろう材層22,23のマグネシウム(Mg)含有量を同一に設定しておくこともできるし、異なる含有量に設定しておくこともでき、セラミックス基板10側のマグネシウム(Mg)含有量と回路層40及び金属層30側のマグネシウム(Mg)含有量とを各々最適値に調整して、セラミックス基板10とアルミニウム板30´,40´とを良好に接合することができる。
また、非酸化性雰囲気中で接合することで、真空引き工程が不要なことや昇温時間の短縮など真空雰囲気中の接合に比して接合時間が短縮され製造コストが削減できる。
【0021】
図3には本発明をヒートシンク付きセラミックス基板70に適用した第2実施形態を示している。
第2実施形態のヒートシンク付きセラミックス基板70は、セラミックス基板10の一方の面に両面ろうクラッド材20を介してヒートシンク60が接合されている。
このヒートシンク付きセラミックス基板70は、
図3(c)に示すように、例えばセラミックス基板10の上面にパワーモジュール80をグリスを介して押圧して保持することにより、パワーモジュール80の冷却器として使用される。
【0022】
セラミックス基板10は、第1実施形態と同様に例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックスを用い、厚さは0.2mm〜1.5mmの範囲内に設定される。
ヒートシンク60は、天板部61とこの天板部61から垂設された放熱フィン62とを有しており、アルミニウム合金例えばA6063やA3003が用いられ、両面ろうクラッド材20との接合面である天板部61は平滑な面に形成されている。
【0023】
両面ろうクラッド材20も構成及び各構成材は第1実施形態と同様で、芯材21の両面にろう材層22,23がクラッドされ構成されている。
芯材21はアルミニウム合金A3003が用いられ、厚さは0.05mm〜0.6mmの範囲内に設定される。
ろう材層22,23はAl−Si−Mg系ろう材が用いられ、厚さは5μm〜100μmの範囲内に設定される。
この場合、両側のろう材層22,23のマグネシウム(Mg)含有量は、セラミックス基板10側に当接される側のろう材層22にはマグネシウム(Mg)が0.01質量%〜1.5質量%の範囲で含有され、ヒートシンク60側に当接される側のろう材層23にはマグネシウム(Mg)が0.5質量%〜3.0質量%の範囲で含有されている。
【0024】
次にこのヒートシンク付きセラミックス基板70の製造方法を説明する。
図3(a)に示すように、セラミックス基板10とヒートシンク60とを両面ろうクラッド材20を介して積層する。この場合、ヒートシンク60は天板部61と放熱フィン62とを鍛造、鋳造、押出成形等で形成しておく。また、両面ろうクラッド材20は、セラミックス基板10側にマグネシウム(Mg)の含有量が少ないろう材層22が当接される向きで厚さ方向に積層する。
その積層体を、
図4と同様の加圧装置110を用いて放熱フィン62を避けて積層方向に加圧した状態で、加圧装置110ごと窒素ガス(N
2)雰囲気下で加熱して接合する。
【0025】
このように製造される第2実施形態のヒートシンク付きセラミックス基板70は、第1実施形態と同様にセラミックス基板10とヒートシンク60との間に両面ろうクラッド材20の芯材21であった薄いアルミニウム合金層が介在した状態となる。
このヒートシンク付きセラミックス基板70においても、セラミックス基板10側のマグネシウム(Mg)含有量とヒートシンク60側のマグネシウム(Mg)含有量とを各々最適値に調整することができるので、良好な接合を確保しつつ製造コストを削減して製造することができる。
【実施例】
【0026】
本発明の効果の確認のために行った試験について説明する。
(実施例1〜14)
実施例1〜14として、表1記載のアルミニウム板(平面サイズ:40mm×40mm)を、両面ろうクラッド材を介してセラミックス基板(窒化珪素Si
3N
4(平面サイズ:40mm×40mm、厚さ:0.32mm))の一方の面及び他方の面に積層した。これらの積層体を
図4の加圧装置で加圧して窒素ガス(N
2)雰囲気下で表1に示す接合温度(積層体表面温度)に昇温し、温度維持時間の間、接合温度に維持して接合した。
両面ろうクラッド材は、芯材をアルミニウム合金A3003(平面サイズ:40mm×40mm、厚さ:0.2mm)とし、ろう材層はAl−Si−Mg(平面サイズ:40mm×40mm)とし、ろう材層のMg含有量、Si含有量及び厚さは表1の通りとした。
【0027】
(比較例1)
比較例1として、表1記載のアルミニウム板(平面サイズ:40mm×40mm)を、Al−10.5Siろう材(平面サイズ:41mm×41mm、厚さ:0.02mm)を介してセラミックス基板(窒化珪素Si
3N
4(平面サイズ:40mm×40mm、厚さ:0.32mm))の一方の面及び他方の面に積層した。これらの積層体を
図4の加圧装置で加圧して窒素ガス(N
2)雰囲気下で表1に示す接合温度(積層体表面温度)に昇温し、温度維持時間の間、接合温度に維持して接合した。
【0028】
(比較例2)
比較例2として、芯材をアルミニウム合金A3003(厚さ:0.2mm)、ろう材層をAl−Si−Mgとし、ろう材層のMg含有量、Si含有量及び厚さを表1の通りとした両面ろうクラッド材を製造しようとしたが、両面ろうクラッド材を製造することはできなかった。
【0029】
比較例2を除き、これらの接合体に対して接合性及びセラミックス割れを以下のように評価した。
100個のサンプルに対し、超音波画像測定機にてセラミックス基板と両面ろうクラッド材の芯材との接合界面、及びアルミニウム板と両面ろうクラッド材の芯材との接合界面(比較例1はセラミックス基板とアルミニウム板との接合界面)を観察して、これらの接合界面におけるボイド(空孔)の面積を測定し、接合すべき面積に対するボイドの合計面積をボイド率として算出し、その平均を平均ボイド率とした。いずれの接合界面も平均ボイド率が2%未満であったものを接合性◎、いずれかの接合界面の平均ボイド率が2%以上5%以下のものを接合性○、いずれかの接合界面の平均ボイド率が5%を超えるものを接合性×とした。
また、セラミックス割れについても、100個のサンプルに対して−40℃から150℃の液槽冷熱サイクルを1000サイクル実施し、超音波画像測定機を用いてセラミックスの割れ有無を判定し、割れ確率が0%であったものを◎、5%以下(0%除く)であったものを○、5%を超えたものを×と評価した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から、接合温度が低温でありながら短時間で良好な接合体が得られる効率的な接合は、接合材として両面ろうクラッド材(芯材:A3003、ろう材層:Al−Si−Mg)を用い、窒素ガス(N
2)雰囲気下の接合温度600℃で5分間以上加熱すれば良好であることがわかった。ただし、比較例2に示すようにろう材層のマグネシウム含有量が3.0質量%を超えると両面ろうクラッド材を製造することができなかった。
また、
図5に実施例2(接合性◎)のセラミックス基板と両面ろうクラッド材の芯材との接合面の超音波測定画像、
図6に比較例1(接合性×)のセラミックス基板とアルミニウム板との接合面の超音波測定画像を示す。
図5は均一に接合されており、
図6はボイドが認められる。このように、比較例1ではボイドが多いため、部分的に接合された状態であり、このため、セラミックス基板の表裏からの応力が不均一にかかることから、セラミックス基板に割れが生じる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。