(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、式(n)で表される構造または構造単位をそれぞれ「構造(n)」または「構造単位(n)」とも記載し、式(n)で表される化合物を「化合物(n)」とも記載する。前記nは式番号である。
【0016】
〔熱硬化性樹脂組成物〕
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、式(A1)で表される構造を有する重合体(A)と、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物(B)とを含有する。前記組成物を、単に「本発明の組成物」ともいう。
【0017】
本発明の組成物を用いることにより、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さい樹脂基板を形成することができる。また、得られる樹脂基板は、耐熱性が高く、耐薬品性も高いという特性を有する。これらの特性を有する樹脂基板が得られる理由は、後述する。
【0018】
〈重合体(A)〉
重合体(A)は、式(A1)で表される構造を有する。
【0019】
【化6】
式(A1)中、*は結合手を示す。
重合体(A)は、式(A2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0020】
【化7】
式(A2)中、R
1は水素原子または炭化水素基である。R
2は2価の有機基である。
R
1における炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、前記シクロアルキル基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換シクロアルキル基」ともいう)、炭素数3〜20のシクロアルケニル基、前記シクロアルケニル基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換シクロアルケニル基」ともいう)、炭素数6〜20のアリール基、または前記アリール基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換アリール基」ともいう)が挙げられる。
【0021】
アルキル基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基が挙げられる。
【0022】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。
【0023】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、2−プロペニル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。
【0024】
置換シクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロプロピル基、エチルシクロプロピル基、メチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、メチルシクロオクチル基、エチルシクロオクチル基が挙げられる。
【0025】
シクロアルケニル基としては、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられ、置換シクロアルケニル基としては、例えば、メチルシクロヘキセニル基が挙げられる。
アリール基としては、例えば、単環式または2環式以上のアリール基が挙げられ、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基が挙げられる。
【0026】
置換アリール基としては、例えば、トルイル基、キシリル基が挙げられる。
R
1は、得られる硬化物の比誘電率および誘電正接を低くできることから、好ましくは炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0027】
R
2における2価の有機基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基、芳香族環を含む2価の有機基が挙げられる。
【0028】
直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピリデン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基等のアルカンジイル基が挙げられる。
【0029】
2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基等のシクロアルカンジイル基;シクロブテニレン基、シクロペンテニレン基、シクロヘキセニレン基等のシクロアルケンジイル基;シクロアルカンジイル基およびシクロアルケンジイル基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基;が挙げられる。
【0030】
芳香族環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオレン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、ベンゾフラン環、アクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環が挙げられる。
【0031】
芳香族環には、置換基が結合していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;ヒドロキシル基;アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基等の炭素数1〜12の有機基;が挙げられる。
【0032】
芳香族環を含む2価の有機基としては、得られる硬化物の比誘電率および誘電正接を低くできることから、式(g1)で表される2価の基が好ましい。
【0033】
【化8】
式(g1)中、R
3は、それぞれ独立に炭素数6〜20のアリーレン基、または前記アリーレン基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換アリーレン基」ともいう)であり;R
4は直接結合または2価の基であり;mは0または1である。
【0034】
アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントリレン基が挙げられる。好ましくは炭素数6〜10のアリーレン基である。置換アリーレン基としては、例えば、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基が挙げられる。
【0035】
R
3は、得られる硬化物の比誘電率および誘電正接を低くできることから、好ましくは炭素数6〜20のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数6〜10のアリーレン基、さらに好ましくはフェニレン基である。
【0036】
R
4における2価の基としては、例えば、−O−、−S−、−SO
2−、−CO−、−CONH−、−COO−、−C(CF
3)
2−が挙げられ、また、式(A2)中のR
2における2価の有機基として例示した、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基も挙げられる。
【0037】
R
4は、得られる硬化物の比誘電率および誘電正接を低くできることから、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルカンジイル基、さらに好ましくはメチレン基である。
mは好ましくは1である。
【0038】
重合体(A)は、1種の構造単位(A2)を有する重合体であってもよく、2種以上の構造単位(A2)を有する重合体であってもよい。
重合体(A)は、構造単位(A2)を好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上有する。構造単位(A2)の含有量は、NMRにより測定することができる。
【0039】
重合体(A)の末端構造は、加熱時の着色を抑制する等の点から、アセチル基および/または式(A3)で表される構造であることが好ましい。
【0040】
【化9】
式(A3)中、R
5およびR
6は、それぞれ独立にニトロ基、ニトリル基または炭素数1〜12の有機基を示し、Eは直接結合または2価の基であり、jは0〜4の整数であり、kは0〜5の整数であり、mは0または1である。
【0041】
R
5およびR
6における炭素数1〜12の有機基としては、式(A2)の説明において芳香族環に結合してもよい置換基として例示した、炭素数1〜12の有機基が挙げられる。R
5およびR
6としては、加熱時の着色を抑制する等の点から、メトキシ基、アセチル基が特に好ましい。
【0042】
Eにおける2価の基としては、例えば、−O−、−S−、−SO
2−、−CO−、−CONH−、−COO−、−C(CF
3)
2−が挙げられ、また、式(A2)中のR
2における2価の有機基として例示した、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基も挙げられる。
mは好ましくは0であり、kは好ましくは1である。
【0043】
重合体(A)としては、例えば2つの末端を有する重合体の場合、当該重合体の2つの末端のうち、(i)一方がアセチル基である重合体、(ii)一方が構造(A3)である重合体、(ii)両方がアセチル基である重合体、(iv)両方が構造(A3)である重合体、(v)一方がアセチル基であり、もう一方が構造(A3)である重合体が挙げられる。
【0044】
重合体(A)の末端構造としては、加熱時の着色の抑制および合成の容易性の点から、アセチル基、または式(A3)において、mが0であり、kが1であり、R
6がメトキシ基である構造が好ましい。
【0045】
《重合体(A)の特性》
重合体(A)は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、通常は1,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000、より好ましくは30,000〜200,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、通常は2〜10、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。Mwが前記範囲にあると、耐熱性、耐薬品性、樹脂基板のハンドリング性の点で好ましい。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0046】
重合体(A)の含有量は、本発明の組成物のうち化合物(B)を除いた固形分100質量%中、通常は50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。重合体(A)の含有量が前記範囲にあると、塗膜を形成する場合に厚膜化が可能で、ピンホールが生じにくく、表面平滑性に優れる樹脂基板を形成することができる。
【0047】
《重合体(A)の合成方法》
重合体(A)は、例えば、式(a1)で表される化合物と式(a2)で表される化合物とを反応させることにより合成することができる。この反応において、化合物(a1)および化合物(a2)は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
【化10】
式(a1)中、R
1は、式(A2)中の同一記号と同義であり、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子であり、塩素原子またはフッ素原子が好ましい。
【0049】
化合物(a1)としては、例えば、2,4−ジクロロ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0050】
【化11】
式(a2)中、R
2は、式(A2)中の同一記号と同義であり、R
7は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、メタンスルホニル基またはトリフルオロメチルスルホニル基であり、水素原子が好ましい。
化合物(a2)としては、式(a2’)で表される化合物が好ましい。
【0051】
【化12】
式(a2’)中、R
3、R
4およびmは、それぞれ式(g1)中の同一記号と同義であり、R
7は、式(a2)中の同一記号と同義である。
化合物(a2)としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
【0052】
化合物(a1)および化合物(a2)の使用割合(モル比)は、50:50であってもよいが、所望の重合体(A)を容易に合成できる点から、好ましくは化合物(a1):化合物(a2)=30:70〜70:30である(但し、両者の合計は100である)。
重合体(A)の合成反応は、より具体的には、溶媒の存在下で行うことができる。
【0053】
溶媒としては、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トルエン、メシチレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチルラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)およびトリアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)が挙げられる。これらの中でも水および有機溶媒を併用することが好ましい。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)の合成反応は、好ましくは、触媒の存在下で行うことができる。
【0054】
触媒としては、リチウム、カリウムおよびナトリウム等のアルカリ金属;水素化リチウム、水素化カリウムおよび水素化ナトリウム等の水素化アルカリ金属;水酸化リチウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属;炭酸リチウム、炭酸カリウムおよび炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などのアルカリ金属含有化合物が挙げられる。触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記例示の触媒は、化合物(a1)1モルに対して、通常は0.1〜10モル、好ましくは0.2〜5モルの量で用いることができる。
溶媒として水および有機溶媒を併用する場合には、相間移動触媒を用いることが好ましい。相間移動触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド等の四級ホスホニウム塩;クラウンエーテルが挙げられる。
【0056】
相間移動触媒の中でも、高分子量の重合体を、短時間かつ高収率で得ることができる点から、四級アンモニウム塩が好ましく、TBAB、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド水和物がより好ましい。
【0057】
相間移動触媒は、高分子量の重合体を、短時間かつ高収率で得ることができる点から、水相中のモル濃度が5〜50mol/Lとなる量で用いることが好ましく、15〜30mol/Lとなる量で用いることがより好ましい。
【0058】
化合物(a1)と化合物(a2)との反応において、反応温度は、好ましくは−10〜200℃であり、より好ましくは−5〜100℃であり、反応時間は、好ましくは0.5〜60時間、より好ましくは1〜10時間である。反応終了後は、得られた重合体(A)は、公知の方法で精製することができる。
【0059】
末端構造が、アセチル基及び/又は構造(A3)である重合体は、例えば、式(a3)で表される化合物及び/又は式(a4)で表される化合物を用いることで合成することができる。具体的には、化合物(a1)と化合物(a2)との反応を、化合物(a3)及び/又は(a4)の存在下で行ってもよいし、化合物(a1)および化合物(a2)を反応させて得られた重合体と、化合物(a3)及び/又は化合物(a4)とを反応させてもよい。
【0060】
【化13】
式(a3)中、R
8は、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、メタンスルホニル基またはトリフルオロメチルスルホニル基である。
【0061】
【化14】
式(a4)中、R
5、R
6、E、j、kおよびmは、それぞれ式(A3)中の同一記号と同義であり、R
eは、ハロゲン原子または−OR
8である。R
8は、式(a3)中の同一記号と同義である.R
eは、化合物(a1)と化合物(a2)とのモル比や、化合物(a1)と化合物(a2)とを反応させて得られた重合体の末端構造に応じて、適宜選択すればよい。
【0062】
化合物(a3)または化合物(a4)の使用量は、化合物(a1)および化合物(a2)の合計1モルに対して、通常は0.005〜15モル、好ましくは0.0075〜12モルである。
【0063】
〈化合物(B)〉
化合物(B)は、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する。
ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造とは、下記式で表される骨格をいう。
【0064】
【化15】
上記式中、破線は結合手を示す。
化合物(B)は、重合体(A)との硬化反応の観点から、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を2以上有することが好ましく、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜5であり、特に好ましくはジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を2つ有する化合物である。
【0065】
化合物(B)としては、例えば、式(b1)で表される化合物、式(b2)で表される化合物が挙げられる。また、化合物(b1)および化合物(b2)から選択される少なくとも1種が数分子重合したオリゴマーも挙げられる。
【0066】
【化16】
式(b1)および(b2)中、R
B1は、2価の基である。R
B4は、直接結合または2価の基である。R
B2は、それぞれ独立にハロゲン原子、または置換基を有してもよい炭化水素基である。R
B3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、前記シクロアルキル基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基もしくはハロゲン原子で置換された基(以下「置換シクロアルキル基’」ともいう)、炭素数6〜20のアリール基、または前記アリール基に含まれる1以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基もしくはハロゲン原子で置換された基(以下「置換アリール基’」ともいう)である。mおよびnは、それぞれ独立に0〜4の整数であり、pおよびqは、それぞれ独立に0〜3の整数である。
【0067】
R
B1およびR
B4における2価の基としては、例えば、−O−、−S−、−SO
2−、−CO−、−CONH−、−COO−、−C(CF
3)
2−、上述の式(g1)で表される2価の基が挙げられ、また、式(A2)中のR
2における2価の有機基として例示した、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の2価の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基も挙げられる。
【0068】
R
B2におけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が挙げられる。R
B2における置換基を有してもよい炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、および炭素数6〜20のアリール基、ならびにこれらの基に含まれる水素原子の1または2以上を、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、および水酸基から選ばれるいずれかの基で置換した基、が挙げられる。
【0069】
R
B3において、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基の具体例としては、式(A2)でR
1として例示した基が挙げられる。アルキル基の炭素数は1〜12が好ましく、シクロアルキル基の炭素数は3〜8が好ましく、アリール基の炭素数は6〜10が好ましい。
【0070】
R
B3において、置換シクロアルキル基’および置換アリール基’の具体例としては、式(A2)でR
1の置換シクロアルキル基および置換アリール基として例示した基のほか、クロロフェニル基、ブロモフェニル基が挙げられる。置換シクロアルキル基’の炭素数は3〜8が好ましく、置換アリール基’の炭素数は6〜10が好ましい。
化合物(b1)および化合物(b2)の具体例を以下に示す。
【0071】
【化17】
上記式中、Phはフェニル基であり、PhMeは4−メチルフェニル基である。
化合物(B)は、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する重合体であってもよい。例えば、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を側鎖中または主鎖中に有する重合体が挙げられる。
【0072】
化合物(B)が重合体である場合、その重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常は1,000〜100,000である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0073】
《側鎖型重合体》
ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を側鎖中に有する重合体としては、例えば、式(B1)で表される構造単位を有する重合体(Ba)が挙げられる。式(B1)で表される構造単位は、好ましくは、式(B1’)で表される構造単位である。
【0074】
【化18】
式(B1)および(B1’)中、R
1は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基である。Ar
1は芳香族環を有する基である。R
2は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、置換アリール基、または−R
3−R
4で表される1価の基である。R
3は炭素数1〜20のアルカンジイル基であり、R
4は炭素数6〜20のアリール基または置換アリール基である。前記R
2の中でも、炭素数1〜20のアルキル基、または−R
3−R
4で表される1価の基が好ましい。
【0075】
Ar
1において、芳香族環の一部または全部の環炭素が、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を形成する環構成原子である。すなわち、前記芳香族環は、オキサジン環とともにジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を形成している。前記Ar
1で示される芳香族環を有する基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族環;前記芳香族環に含まれる1以上の水素原子が1価の基に置換された基が挙げられる。前記1価の基としては、例えば、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。
【0076】
重合体(Ba)の全構造単位中の構造単位(B1)の含有割合は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。前記構造単位とは、重合体(Ba)の合成に用いられる単量体由来の構造単位を1構造単位とした単位を示す。重合体(Ba)の全構造単位中の構造単位(B1)の含有割合は、
1H NMRの積分値から算出できる。
【0077】
重合体(Ba)は、例えば、式(B1−1)で表される構造単位を有する、フェノール性水酸基を有する重合体(Ba’)と、R
2−NH
2で表される1級アミンと、ホルムアルデヒドとを原料として反応させることで得られる。合成反応では、重合体(Ba’)のフェノール性水酸基を有する構造単位1モルに対して、通常、1級アミンを1〜20モル、ホルムアルデヒドを2〜40モル用いる。
【0078】
【化19】
式(B1−1)中、R
1は式(B1)中の同一記号と同義である。Ar
2は芳香族環を有する2価の基であり、Ar
2に含まれる前記芳香族環には、式(B1−1)中に現れる−OH(フェノール性水酸基)が直結する。
【0079】
Ar
2で表される芳香族環を有する基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族環;前記芳香族環に含まれる1以上の水素原子が1価の基に置換された基が挙げられる。前記1価の基としては、例えば、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。
【0080】
合成反応における反応条件は、以下のとおりである。反応温度は、通常は0〜250℃、好ましくは50〜150℃であり;反応時間は、通常は0.5〜40時間、好ましくは1〜30時間である。減圧下、水を除去しながら反応を行うことが好ましい。
【0081】
上記合成反応は、通常、反応溶媒中で行われる。反応溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒;N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0082】
上記合成反応は、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、例えば、酸触媒、塩基触媒が挙げられる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸;塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のルイス酸;活性白土、酸性白土、ホワイトカーボン、ゼオライト、シリカアルミナ等の固体酸;酸性イオン交換樹脂が挙げられる。塩基触媒としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン、ピリジンが挙げられる。
【0083】
R
2−NH
2で表される1級アミンにおけるR
2は、式(B1)中のR
2と同義である。前記1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、フェニルアミンが挙げられる。1級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
合成に用いるホルムアルデヒドは、パラホルムアルデヒドとして用いることもできる。
重合体(Ba’)としては、例えば、フェノール性水酸基を有するラジカル重合性モノマーの単独の単独重合体、または、フェノール性水酸基を有するラジカル重合性モノマーと、その他のラジカル重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。
【0085】
フェノール性水酸基を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、p−イソプロペニルフェノール等のヒドロキシスチレン系モノマー;ヒドロキシスチレン系モノマーの芳香族環炭素に結合した1または2以上の水素原子をアルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロまたはシアノに置換してなるモノマー;ビニルヒドロキノン、5−ビニルピロガロール、6−ビニルピロガロールが挙げられる。また、前記モノマーのフェノール性水酸基をアルキル基やシリル基等で保護してなるモノマーを挙げることもできる。前記のフェノール性水酸基を保護してなるモノマーを用いる場合、重合体を形成後、当該保護を外すことで、フェノール性水酸基を有する重合体(Ba’)を得ることができる。前記モノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
その他のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等のスチレン系モノマー;スチレン系モノマーの芳香族環炭素に結合した1または2以上の水素原子をアルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロまたはシアノに置換してなるモノマーが挙げられる。前記モノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0087】
《主鎖型重合体》
ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を主鎖中に有する重合体としては、例えば、式(B2)で表される構造単位を有する重合体(Bb)が挙げられる。
【0088】
【化20】
式(B2)中、Ar
3は芳香族環を有する4価の基である。4価の基に含まれる芳香族環の一部または全部の環炭素が、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を形成する環構成原子である。すなわち、前記芳香族環は、オキサジン環とともにジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を形成している。R
3は2価の炭化水素基である。2価の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0089】
重合体(Bb)は、例えば、HO−Ar
4−OHで表される化合物と、H
2N−R
3−NH
2で表されるジアミンと、ホルムアルデヒドとを原料として反応させることで得られる。ここで、前記R
3は式(B2)中のR
3と同義であり、前記Ar
4は式(B2)中のAr
3を導く2価の基である。
【0090】
重合体(Bb)の具体例としては、特開2008−239649号公報に記載された、ジヒドロベンゾオキサジン構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂が挙げられ、合成方法も当該文献に記載された方法を挙げることができる。
【0091】
《化合物(B)の含有量》
本発明の組成物において、化合物(B)の含有量は、重合体(A)中に含まれる構造(A1)1molに対して、化合物(B)中に含まれるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造が、通常は0.1〜2mol、好ましくは0.3〜0.85mol、より好ましくは0.55〜0.8molとなる量である。化合物(B)の含有量が前記範囲にあると、得られる硬化物の比誘電率および誘電正接を低くでき、耐薬品性に優れることから好ましい。
【0092】
〈その他の成分〉
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、重合体(A)および化合物(B)に加えて、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。前記その他の成分としては、例えば、無機粒子、重合体(A)以外の樹脂成分、難燃剤、老化防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤、充填剤が挙げられる。
【0093】
〈溶媒〉
本発明の組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒は、重合体(A)、化合物(B)およびその他の成分を均一に混合し、取り扱い性を向上させたり、組成物の粘度を調節したり、組成物の保存安定性を向上させるために用いることができる。
【0094】
溶媒としては、有機溶媒が好ましく、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサクロロベンゼン、パーフルオロヘキサン等のハロゲン化炭化水素;2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等の酢酸アルキルエステル溶媒;3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ペンチル−2−ピロリドン、N−(メトキシプロピル)−2−ピロリドン、N−(t−ブチル)−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;が挙げられる。
【0095】
溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物において、溶媒の含有量は、前記組成物中の固形分濃度が通常は1〜100質量%、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜60質量%となる量である。ここで固形分とは、上記溶媒以外の全成分をいう。
【0096】
〈熱硬化性樹脂組成物の調製方法〉
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、各成分を均一に混合することにより調製できる。また、ゴミを取り除くために、各成分を均一に混合した後、得られた混合物をフィルター等で濾過してもよい。
【0097】
本発明の組成物の粘度は、通常は50〜100,000mPa・s、好ましくは500〜50,000mPa・s、より好ましくは1000〜20,000mPa・sである。組成物の粘度が前記範囲にあると、塗膜を形成する際などの成膜中において組成物の滞留性に優れ、厚みの調整が容易であるため、所望の樹脂基板を容易に成形することができる。
【0098】
〈本発明の特性〉
本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さい樹脂基板を形成することができる。また、得られる樹脂基板は、耐熱性が高く、耐薬品性も高いという特性を有する。
【0099】
以下、本発明の特性が得られる推定理由を記載する。
本発明の組成物は、構造(A1)を有する重合体(A)と、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物(B)とを含有する。ここで、化合物(B)に含まれるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造に、重合体(A)に含まれる構造(A1)を反応させると、イソシアヌレート環が形成される(Macromolecules 2012.45.7461参照)。この反応では、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジンの開環反応で生成するはずの水酸基は生じない。
【0100】
以下では、下記式(1)で表される重合体と、下記式(2)で表されるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物との推定の硬化反応機構について説明する。
【0101】
【化21】
まず、トリアジン構造中の電子豊富な窒素原子N
A1がベンゾオキサジン構造中の電子不足のメチレン炭素原子C(O
B1−CH
2−N
B1)にアタックし、その際に、電子豊富な酸素原子O
B1(CH
2−O
B1−Ph)が芳香族環炭素原子(Ar−O
A1)にアタックする。前記芳香族環炭素原子は、酸素原子O
A1およびトリアジン構造の電子吸引特性により、電子不足である。
【0102】
【化22】
同様の反応が、トリアジン構造中の他の窒素原子についても起こる。上記反応により、アルキルイソシアヌレート構造およびジフェニルエーテル構造(Ph−O
B1−Ph)が形成される。このようにして、以下の構造が形成されると考えられる。
【0103】
【化23】
このように重合体(A)および化合物(B)の硬化反応では、通常のジヒドロベンゾオキサジンの開環反応で生成する水酸基が発生しないことから、比誘電率は小さい。しかも、前記硬化反応で生成するイソシアヌレート環は、双極子モーメントが小さいため、誘電正接も小さい。このため、上記特性を有する樹脂基板が得られると推定される。
【0104】
〔樹脂基板〕
本発明の樹脂基板は、上述した熱硬化性樹脂組成物から製造される。
本発明の樹脂基板は、重合体(A)および化合物(B)に基づく構造を有することから、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さく、しかも耐熱性および耐薬品性に優れるという特性を有する。このため、本発明の樹脂基板は、回路基板用樹脂基板として特に好適である。
【0105】
樹脂基板は、前記組成物から溶媒を除去し、続いて重合体(A)と化合物(B)との硬化反応を進めることにより、製造することができる。具体的には、本発明の組成物の塗膜を支持体上に形成した後、または本発明の組成物を強化繊維基材に含浸させた後、必要に応じて溶媒を除去し、続いて重合体(A)と化合物(B)との硬化反応が起こる温度で加熱することにより、樹脂基板を製造することができる。
【0106】
上記組成物の塗膜を形成する方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、スリットコート法、ドクターブレードを用いる方法等の塗布方法が挙げられる。上記支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ガラス基板およびSUS板が挙げられる。上記塗膜の厚さは、最終的に得られる樹脂基板の膜厚により適宜決めればよく、通常は1〜1000μmである。
【0107】
上記組成物を強化繊維基材に含浸させる場合、強化繊維基材としては、例えば、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラス布;アスベスト布、金属繊維布、その他合成または天然の無機繊維布;全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維等の液晶繊維から得られる織布または不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙−ガラス混繊糸から得られる布等の天然セルロース系基材;ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム;が挙げられる。強化繊維基材は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
溶媒を除去する方法としては、例えば、風乾する方法や加熱する方法が挙げられる。前記加熱の条件は、通常は20〜150℃で10分〜5時間である。また、必要に応じて、窒素雰囲気下または減圧下にて加熱を行ってもよい。また、揮発成分の除去は、硬化反応時の加熱により行ってもよい。
【0109】
硬化反応は、上記塗膜または上記組成物含浸後の強化繊維基材を加熱することにより進めることができる。前記加熱の条件は、加熱温度が通常は150℃以上、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜280℃であり、加熱時間が通常は0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間、より好ましくは0.5〜2時間である。前記加熱は、例えば上記塗膜または上記組成物含浸後の強化繊維基材をフィルムで挟み、真空プレスする方法が挙げられる。
【0110】
支持体上に上記組成物の塗膜を形成する場合、得られた樹脂基板は、支持体から剥離して回路基板用樹脂基板として用いてもよく、または支持体から剥離せずにそのまま回路基板用樹脂基板として用いてもよい。
【0111】
また、上記組成物を強化繊維基材に含浸させる場合、得られる樹脂基板中に含まれる強化繊維基材の含有割合は、通常は5〜95質量%、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは15〜85質量%である。
樹脂基板の形状としては、例えば、フィルム状、シート状である。
【0112】
本発明の樹脂基板の厚さは、所望の用途に応じて適宜選択でき、通常は1〜250μm、好ましくは2〜150μmである。樹脂基板中の残存溶媒量は、樹脂基板100質量%に対し、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。残存溶媒量がこの範囲にあると、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さい樹脂基板を得ることができる。
【0113】
本発明の樹脂基板の比誘電率(ε
r)は、通常は3.4以下、好ましくは1.8〜3.2、より好ましくは2.0〜3.0である。
本発明の樹脂基板の線膨張係数は、通常は60ppm/℃以下、好ましくは50ppm/℃以下である。
【0114】
本発明の樹脂基板は、アセトン、トルエン、トリクロロメタン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液に対しても、耐薬品性に優れる。
【0115】
〔回路基板〕
本発明の回路基板は、本発明の樹脂基板を有し、例えば樹脂基板の片面または両面に配線部を設けることで得られる。前記回路基板は、比誘電率(ε
r)および誘電正接(tanδ)の値が小さい樹脂基板を有し、伝播速度が大きく、伝送損失が小さいため、高周波領域で好適に用いることができる。本発明の回路基板は、上記樹脂基板を有することから、精密機器用の回路基板として有用である。
【0116】
前記配線部を形成する方法としては、例えば、ラミネート法、メタライジング法、スパッタリング法、蒸着法、塗布法および印刷法等により、前記樹脂基板上に銅、インジウムスズ酸化物(ITO)、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびポリピロール等の導電性材料からなる金属層を形成し、前記金属層をパターニングする方法が挙げられる。また、金属層を形成する前に、樹脂基板と金属層との接着力を向上させるために、プラズマ処理などにより樹脂基板の表面を改質してもよく、接着剤を樹脂基板上に塗布しておいてもよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」の意味で用いる。
【0118】
1.重合体の合成
重合体の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、下記条件下で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法にて測定した。
・カラム:東ソー社製カラムの「TSKgel αM」および
「TSKgel α2500」を直列に接続
・溶媒:臭化リチウムおよびリン酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン
・温度:40℃
・検出方法:屈折率法
・標準物質:ポリスチレン
・GPC装置:東ソー製、装置名「HLC-8020-GPC」
重合体の構造は、
2H−NMRおよび
13C−NMR分析により測定した。装置名「ECP−400P」(JEOL社製)を用い、重クロロホルムを重溶媒として測定した。
【0119】
[合成例1]重合体(A1−1)の合成
重合体(A1−1)は、下記式に示す合成スキームに従い合成した。
【0120】
【化24】
5モルのビスフェノールFと、0.63モルのベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド水和物と、15モルの水酸化ナトリウムを含む水溶液と、5モルの2,4−ジクロロ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジンを含むクロロホルム溶液130Lとを混合し、0℃で2時間攪拌した。この溶液に4−メトキシフェノールを0.1モル加え、0℃で30分攪拌し反応させた。反応終了後、反応液を水洗し、アセトンに投じて再沈殿させ、濾物を単離した。得られた濾物を乾燥し、重合体(A1−1’)を得た。
【0121】
前記重合体(A1−1’)を3.9モルと、無水酢酸を41モルと、6.1モルのピリジンを含む1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液21.2Lとを、45℃で2時間攪拌し反応させた。反応終了後、反応液を、アセトンおよびメタノールの混合溶液(体積比:アセトン/メタノール=2/1)に投じて再沈殿させ、濾物を単離した。得られた濾物を乾燥し、重合体(A1−1)を得た。重合体(A1−1)のMwは180,000、Mw/Mnは2.9であった。NMRスペクトルにより、得られた重合体(A1−1)が上記スキーム中の最終式で表される構造単位を有することを確認した。
【0122】
2.熱硬化性樹脂組成物および樹脂基板の製造
実施例1〜3では、塩化メチレンに、合成例1で得られた重合体(A1−1)と、下記式で表されるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン化合物(B1−1)とを、表1に示す、構造(A1)(トリアジン環)とジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン環とのモル比になるように混合し、固形分濃度20質量%の熱硬化性樹脂組成物を製造した。
【0123】
比較例1では、塩化メチレンに、合成例1で得られた重合体(A1−1)を配合し、固形分濃度20質量%の熱硬化性樹脂組成物を製造した。比較例2では、塩化メチレンに、下記式で表されるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン化合物(B1−1)を配合し、固形分濃度20質量%の熱硬化性樹脂組成物を製造した。
【0124】
【化25】
前記熱硬化性樹脂組成物を、ガラス製のシャーレにキャストし、次いで風乾し、樹脂基板前駆体を得た。得られた樹脂基板前駆体20を、
図1に示すように、ポリイミドフィルム カプトン(登録商標)10に載置し、樹脂基板前駆体20およびポリイミドフィルム10を2枚のポリテトラフルオロエチレンフィルム30で挟み(右側の図では樹脂基板前駆体20は図示せず)、240℃で30分間、真空プレスし、樹脂基板(サイズ:50mm×50mm、厚さ:130μm)を製造した。
【0125】
3.樹脂基板の評価
得られた樹脂基板について、以下の3−1〜3−5に示す評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0126】
3−1.ガラス転移温度(Tg)
樹脂基板を、DMS試験器(セイコーインスツル株式会社、装置名「EXSTAR6000」)にて、23℃から350℃の温度範囲(昇温速度:5℃/分)で、1Hzの測定条件で測定した際のTanδピークの温度を、ガラス転移温度として評価した。
【0127】
3−2.熱分解温度(Td5%)
樹脂基板の熱分解温度(5重量%熱減量温度、Td5%)は、DSC測定装置(装置名「8230」、Rigaku社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度:10℃/分の条件にて測定した。
【0128】
3−3.線膨張係数(CTE)
樹脂基板の線膨張係数は、TMA測定装置(装置名「SSC−5200」、Seiko Instruments社製)を用いて測定した。測定は以下の様に行った。樹脂基板のガラス転移点(Tg)まで昇温した後、3℃/分で降温した際の200〜100℃での勾配から、線膨張係数を算出した。
【0129】
3−4.比誘電率(εr)および誘電正接(tanδ)
樹脂基板の比誘電率(εr)および誘電正接(tanδ)は、温度条件(23℃)、相対湿度(45%RH)、周波数条件(1GHz)の条件下、摂動方式共振法により測定した。測定は、KEYCOM社製、装置名「DPS18」を用いた。
【0130】
3−5.耐薬品性
樹脂基板を、表1に示す各種溶媒に24時間浸漬し、浸漬前後のフィルムの重量変化が1%未満のものを「○」、1%以上のものを「×」とした。
【0131】
【表1】
表1中の「−」は、未評価であることを示す。