【0014】
液絡部4には、通常使用されるセラミックス、ガラスの多孔質および寒天等に替えて、透湿度が低い高分子フィルムを用いる。さらに、この高分子フィルムの40℃における透湿度を100g/m
2・24hr以下とする。このようにすることで、後述する内部電解液2との組み合わせにより、どのような乾湿繰り返し環境においても電極外への水分や塩分の漏出を防止することが可能となり、電極外での塩の析出を防止できる。ここで、透湿度の測定方法はJIS Z 0208に準拠する。なお、JIS Z0208では、25℃または40℃における透湿度としているが、本発明では、40℃における透湿度を採用する。その理由は以下の通り。
25℃と40℃を比較すると、40℃のほうが高分子フィルムの透湿度は高くなる。また、大気腐食環境下で鋼材の腐食電位をモニタリングする場合に経験する最高温度は40℃程度である。そのため、40℃における透湿度が100g/m
2・24hr以下であれば、大気腐食環境下で鋼材の腐食電位を連続的にモニタリングする場合に、高分子フィルムの透湿度が常に100g/m
2・24hr以下となる。
なお、透湿度が低すぎる場合には、基準電極と試料液間の電気的導通が阻害される場合があるため、高分子フィルムの40℃における透湿度を1g/m
2・24hr以上とする。
上記の透湿度を満たす高分子フィルムとしては、例えば、セロファンまたはポリプロピレンを用いることができる。
【0015】
本発明においては、上述した液絡部4に加えて、内部電解液2が、平衡する水蒸気圧が試験環境の水蒸気圧未満となるものとする。その理由を、以下に説明する。
基準電極は試験溶液中に浸漬されている場合、内部電解液の蒸発等は起こらない。しかし、試験溶液が乾燥した場合、液絡部を通した水分の蒸発や、内部電解液中のKClの電極外への漏出、および、それによる電極外でのKClの塩の析出が起こる。ここで、液絡を介して水分が系内に取り込まれるか、系外に漏出するかは、内部電解液が平衡する水蒸気圧p
H2O,inと試験環境の水蒸気圧p
H2O,outの大小関係によって決定される。内部電解液の水蒸気圧が試験環境の水蒸気圧よりも高い場合には内部電解液が液絡を通して系外(電極外)に漏出する。したがって、内部電解液が平衡する水蒸気圧が試験環境の水蒸気圧未満の場合、基準電極内の水分や塩分が系外(電極外)に漏出しないことになる。しかしながら、本願発明者らが検討したところ、内部電解液が平衡する水蒸気圧を試験環境の水蒸気圧未満としても、基準電極内の水分や塩分の系外(電極外)への漏出を必ずしも防止できるわけでは無いことが分かった。そこで、本願発明者らがさらに検討したところ、内部電解液が平衡する水蒸気圧を試験環境の水蒸気圧未満とし、かつ、上述した液絡部4に40℃における透湿度が1g/m
2・24hr以上、100g/m
2・24hr以下である高分子フィルムを用いることと組み合わせることで、実環境を含む乾湿繰り返し環境において、電極外への水分や塩分の漏出、および、それによる電極外での塩の析出がなく、長時間安定して腐食電位を測定可能となることを今回新たに見出した。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
内部電極には、KCl溶液中でアノード電解によりAgClを被覆したAg線(直径0.5mm)を銀/塩化銀電極として用い、内部電解液には溶解していない塩(内部電解液中に析出している塩)を含むLiCl、CaCl
2、MgCl
2、KClの飽和水溶液を使用し、いずれの溶液にもAgClの粉末を添加した。参照電極は、アクリル樹脂製円筒(外径10mm、内径8mm)の先端を、高分子フィルム1(ポリプロピレン、膜厚30μm、透湿度(40℃)10g/m
2・24hr)、高分子フィルム2(陽イオン交換膜(Nafion(登録商標)NRE−212、膜厚50μm、デュポン株式会社製、透湿度(40℃)100g/m
2・24hr超)、多孔性セラミックスあるいは飽和の電解質を含む寒天で封じ,熱収縮チューブで固定した。
上記作製した基準電極を最低相対湿度が35%以上の屋外試験環境Aに3日間曝し、電極外の液絡部における塩析出の有無を下記指標により評価した。
×…目視で塩の析出が認められる
△…実体顕顕微鏡(×20倍)で塩の析出が認められる
○…目視、実体顕顕微鏡(×20倍)で塩の析出なし
【0022】
図2に
屋外試験環境Aの温湿度の変化を示す。最低相対湿度は56%であった。表1には電極外の液絡部における塩析出の有無を評価した結果を示す。表1に示すように、最低相対湿度35%以上である
屋外試験環境Aでは内部電解液としてLiCl、CaCl
2、MgCl
2の飽和水溶液を用い、さらに液絡部に40℃における透湿度が1g/m
2・24hr以上、100g/m
2・24hr以下の高分子フィルム1を用いたNo.6、8、12(本発明例)では、電極外の液絡部での塩の析出がない基準電極を作製することができた。一方、液絡部に40℃における透湿度が100g/m
2・24hr超の高分子フィルム2を用いたNo.11(比較例)、液絡部に多孔性セラミックスあるいは寒天を用いたNo.5、7、9、10(比較例)では、内部電解液としてLiCl、CaCl
2、MgCl
2の飽和水溶液を用いても電極外の液絡部に塩が析出した。また、内部電解液としてKClの飽和水溶液を用いたNo.4(比較例)は、液絡部に40℃における透湿度が1g/m
2・24hr以上、100g/m
2・24hr以下である高分子フィルム1を用いても電極外の液絡部に塩が析出した。この点については、液絡部に40℃における透湿度が100g/m
2・24hr超の高分子フィルム2を用いたNo.3(比較例)、液絡部に多孔性セラミックスあるいは寒天を用いたNo.1、2(比較例)についても同様である。
図3は、表1に示すNo.4、6について、実施例1での試験3日後の基準電極の液絡側を示した写真であり、図中、右がNo.4、左がNo.6である。内部電解液としてMgCl
2の飽和水溶液を用い、さらに液絡部に40℃における透湿度が1g/m
2・24hr以上、100g/m
2・24hr以下の高分子フィルム1を用いたNo.6(本発明例)では、電極外の液絡部での塩の析出がなく、高分子フィルム1を用いた場合でも、内部電解液としてKClの飽和水溶液を用いたNo.4(比較例)では電極外の液絡部に塩が析出したことが確認できる。
【0023】
【表1】
【0024】
[実施例2]
内部電極には、KCl溶液中でアノード電解によりAgClを被覆したAg線(直径0.5mm)を銀/塩化銀電極として用い、内部電解液には溶解していない塩を含むLiCl、CaCl
2、MgCl
2、KClの飽和水溶液を使用し、いずれの溶液にもAgClの粉末を添加した。参照電極は、アクリル樹脂製円筒(外径10mm,内径8mm)の先端を高分子フィルム1(ポリプロピレン、膜厚30μm、透湿度(40℃)10g/m
2・24hr)、高分子フィルム2(陽イオン交換膜(Nafion(登録商標)NRE−212、膜厚50μm、デュポン株式会社製、透湿度(40℃)100g/m
2・24hr超)、多孔性セラミックスあるいは飽和の電解質を含む寒天で封じ,熱収縮チューブで固定した。
上記作製した基準電極を最低相対湿度が35%より小さい屋外試験環境Bに3日間曝し、基準電極外の液絡部における塩析出の有無を下記指標により評価した。
×…目視で塩の析出が認められる
△…実体顕微鏡(×20倍)で塩の析出が認められる
○…目視、実体顕顕微鏡(×20倍)で塩の析出なし
【0025】
図4に
屋外試験環境Bの温湿度の変化を示す。最低相対湿度は24%であった。表2には基準電極外の液絡部における塩析出の有無を評価した結果を示す。最低相対湿度が35%より小さく、15%より大きい
屋外試験環境Bでは、内部電解液としてLiClの飽和水溶液を用い、さらに液絡部に40℃における透湿度が1g/m
2・24hr以上、100g/m
2・24hr以下の高分子フィルム1を用いたNo.12(本発明例)では、電極外の液絡部での塩の析出がない基準電極を作製することができた。
【0026】
【表2】
【0027】
[実施例3]
内部電解液としてLiClの飽和水溶液を用いた基準電極(表1,2のNo.12)を使用し、乾湿繰り返し試験中の鋼板の腐食電位を測定した。上記基準電極は、予め市販の飽和KCl銀塩化銀電極(SSE)に対する電位を測定し、校正した後に試験に供した。腐食電位の測定方法を
図5に示す。鋼板の直上に基準電極を配置し、鋼板と基準電極間は電圧計を介して導線で接続されている。鋼板表面と基準電極の間に水膜が形成された際、鋼板−基準電極間の電位差が腐食電位として測定される。試験は、予め鋼板表面に人工海塩を堆積させ、容積絶対湿度一定のチャンバー内に封入し、ヒーターで鋼板の温度を変化させることによって乾湿繰り返し腐食試験を実施した。試験環境の相対湿度は、100%RHを超えて鋼板表面が結露した状態と、約40%との間で変化した。
【0028】
図6には乾湿繰り返し試験における鋼板の腐食電位測定結果を示す。内部電解液としてLiClの飽和水溶液を用いた本発明の基準電極(表1,2のNo.12)を用いることで、乾湿を繰り返す大気腐食環境においても、塩の析出がなく安定した腐食電位を測定することができる。
電極外の液絡部周辺に塩が析出すると、この析出した塩は、次の湿潤時に溶液中に溶け出し、電極外の液絡部周辺の塩分量が極端に多くなる。腐食は塩分の影響を大きく受け、液絡部周辺は腐食状態が大きく異なるため正確な腐食電位の測定ができない。