(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定部材に取り付けられ、前記所定部材に固定される固定部と、該固定部に揺動可能に支持される可動部と、前記可動部を前記固定部に揺動可能に支持する支持部とを備えたダイナミックダンパーの検査方法であって、
特定のダイナミックダンパーの共振周波数を異なる複数の温度で測定し、該ダイナミックダンパーの共振周波数の温度特性を取得する共振周波数温度特性取得ステップと、
検査対象のダイナミックダンパーの共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、
前記共振周波数測定ステップにおいて前記検査対象のダイナミックダンパーの共振周波数を測定するときの該ダイナミックダンパーの温度を検出する温度検出ステップと、
前記共振周波数測定ステップにおいて測定された前記検査対象のダイナミックダンパーの共振周波数と前記温度検出ステップにおいて検出された前記検査対象のダイナミックダンパーの温度とに基づき、前記共振周波数温度特性取得ステップで取得した温度特性を用いて前記検査対象のダイナミックダンパーの良否を判定する判定ステップと、
を備えていることを特徴とするダイナミックダンパーの検査方法。
所定部材に取り付けられ、前記所定部材に固定される固定部と、所定質量を有して前記固定部に揺動可能に支持される可動部と、前記可動部を前記固定部に揺動可能に支持する支持部とを備えたダイナミックダンパーの製造方法であって、
前記ダイナミックダンパーの共振周波数を測定する共振周波数測定ステップと、
前記共振周波数測定ステップにおいて前記ダイナミックダンパーの共振周波数を測定するときの該ダイナミックダンパーの温度を検出する温度検出ステップと、
前記共振周波数測定ステップにおいて測定された前記ダイナミックダンパーの共振周波数と前記温度検出ステップにおいて検出された前記ダイナミックダンパーの温度とに基づき、予め取得したダイナミックダンパーの共振周波数温度特性を用いて基準温度にある場合の前記ダイナミックダンパーの共振周波数を算出し、この共振周波数と予め設定された共振周波数との差に基づいて前記可動部の所定質量を調整する質量調整ステップと、
を備えていることを特徴とするダイナミックダンパーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るダイナミックダンパーが配設されたピストンピンを有するピストン構造を示す図であり、
図2は、
図1におけるY2−Y2線に沿ったピストン構造の断面図である。
【0023】
図1及び
図2に示すピストン1は、自動車等の車両に搭載されるエンジンのシリンダブロックの気筒内に往復動自在に配置されるものであり、エンジンの燃焼室の一部を形成すると共に外周面にピストンリング2が嵌め込まれたヘッド部1aと、ヘッド部1aの外周から下方に延びるスカート部1bと、スカート部1bの内面に対向して突設して設けられたボス部1cとを有している。
【0024】
ピストン1には、スカート部1bの内面に対向して設けられた2つのボス部1cにそれぞれピストンピン3を支持するための貫通孔部1dが形成され、貫通孔部1dにピストンピン3がスナップリング4によって軸方向に抜け止めされた状態で回転可能に支持されている。
【0025】
ピストンピン3はまた、ピストン1の2つのボス部1cの間に配置されたコンロッド5の小端部5aに形成された小径孔部5bに挿通され、コンロッド5に回転可能に連結されている。コンロッド5はまた、コンロッド5の大端部5cに形成された大径孔部5dにクランクシャフトが挿通され、クランクシャフトに回転可能に連結されている。
【0026】
ピストンピン3とピストン1の貫通孔部1dとの間には潤滑油が供給されて潤滑油膜が形成され、ピストンピン3がピストン1の貫通孔部1dに対して滑らかに回転できるようになっている。また、ピストンピン3とコンロッド5の小径孔部5bとの間にも潤滑油が供給されて潤滑油膜が形成され、ピストンピン3がコンロッド5の小径孔部5bに対して滑らかに回転できるようになっている。
【0027】
このようにして構成されるピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5を備えたピストン構造では、ピストン1は、前記シリンダブロックの気筒内において気筒中心軸方向に往復運動を繰り返し、ピストン1の往復運動がコンロッド5を介してクランクシャフトの回転運動に変換されるようになっている。
【0028】
前記ピストン構造では、ピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5の小端部5aが全体として質量部に相当し、コンロッド5の小端部5aと大端部5cとを連結する連結部5eがバネ部に相当し、コンロッド5の大端部5cに対してピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5の小端部5aが全体として所定の共振周波数で振動してエンジンの騒音を引き起こし得る。
【0029】
これに対し、前記ピストン構造では、ピストン1とコンロッド5とを連結する円筒状に形成されたピストンピン3の内部に、エンジンの騒音を抑制するために本発明の実施形態に係るダイナミックダンパー10が取り付けられている。
【0030】
ダイナミックダンパー10は、コンロッド5の大端部5cに対してピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5の小端部5aが全体として共振する共振周波数に略一致する所定範囲に共振周波数が設定され、コンロッド5の伸縮に起因する振動を低減してエンジンの騒音を抑制するように構成されている。
【0031】
ダイナミックダンパー10は、エンジンの燃焼行程では、ピストンピン3とコンロッド5との間及びピストンピン3とピストン1との間に形成される潤滑油膜がなくなることによってピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5の小端部5aが一体となってコンロッド5の大端部5cに対して共振することを抑制し、エンジンの吸気行程、圧縮行程、排気行程では、ピストンピン3とコンロッド5との間及びピストンピン3とピストン1との間に形成される潤滑油膜によってダイナミックダンパー10の振動がコンロッド5に伝達されないようになっている。
【0032】
図2に示すように、ピストンピン3は、ピストンピン3の内周面における軸方向中央部3aが両側の端部3bよりも内径が小さく形成されており、ピストンピン3の内周面における中央部3aに、ダイナミックダンパー10が圧入によって結合されている。
【0033】
ダイナミックダンパー10は、ピストンピン3の内周面における中央部3aに固定される固定部10aと、所定質量を有すると共に固定部10aにピストンピン3の径方向に揺動可能に支持されてピストンピン3の軸方向に延びる可動部10bと、可動部10bを固定部10aにピストンピン3の径方向に揺動可能に支持する支持部10cとを備えている。ダイナミックダンパー10では、固定部10aに対してピストンピン3の軸方向両側にそれぞれ支持部10bを介して可動部10cが支持されている。
【0034】
固定部10a、可動部10b及び支持部10cはそれぞれ、円柱状に形成されている。固定部10aは、固定部10aの外径がピストンピン3の内周面における中央部3aの内径に略等しく形成され、ピストンピン3の内周面における中央部3aに圧入によって固定される。
【0035】
可動部10bは、固定部10aに対してピストンピン3の径方向に揺動することができるようにピストンピン3の内部に所定の間隙を有して配置されると共にピストンピン3から突出するように設けられる。
【0036】
支持部10cは、固定部10aの両側にそれぞれ設けられ、支持部10cの外径は、固定部10a及び可動部10bの外径より小さく形成されている。支持部10cはまた、ピストンピン3の軸方向において可動部10bよりも短く形成されている。
【0037】
本実施形態では、ダイナミックダンパー10は、軸状に形成された軸状部材11と筒状に形成された筒状部材12とから構成され、固定部10aと固定部10aの両側の支持部10cとピストンピン3の軸方向一方側の可動部10b(
図2の左側の可動部10b)とが軸状部材11によって形成され、ピストンピン3の軸方向他方側の可動部10b(
図2の右側の可動部10b)が軸状部材11と筒状部材12とによって形成されている。
【0038】
ダイナミックダンパー10におけるピストンピン3の軸方向他方側の可動部10bは、後述する
図5に示すように、軸状部材11の外周面に軸状部材11の一端面から離間して周方向全体に延びるかしめ加工用の溝部11aを形成し、軸状部材11の溝部11aに筒状部材12の一端面が対向するように軸状部材11に筒状部材12を嵌め合わせ、筒状部材12の一端面にかしめ工具45を押圧させて押圧穴部12aを形成することにより筒状部材12における押圧穴部12aの内側部分12bを溝部11a内に倒れ込ませて軸状部材11に対して筒状部材12をかしめ加工して形成されている。
【0039】
軸状部材11は、ピストンピン3の軸方向他方側の可動部10bを構成する部分に固定部側の基部11bと反固定部側の先端部11dとを有し、先端部11cは、基部11bよりも外径が小さく形成され、基部11bと先端部11cとの間に段差部11dが形成されている。
【0040】
一方、筒状部材12は、軸状部材11の基部11bに嵌め合わせられる第1部分12cと軸状部材11の先端部11cに嵌め合わせられる第2部分12dとを有し、第1部分12cは、第2部分12dよりも内径が大きく形成され、第1部分12cと第2部分12dとの間に段差部12eが形成されている。
【0041】
筒状部材12は、筒状部材12の段差部12eが軸状部材11の段差部11dに係合するように軸状部材11に嵌め合わせられると、筒状部材12が軸状部材11の溝部11aに対向するように、具体的には筒状部材12の一端面が軸状部材11の溝部11aに対向する位置になるように形成されている。
【0042】
そして、筒状部材12の一端面にかしめ工具45を押圧させて押圧穴部12aを形成することで、筒状部材12における押圧穴部12aの内側部分12bを軸状部材11の溝部11a内に倒れ込ませ、軸状部材11に対して筒状部材12がかしめ加工されている。
【0043】
前記可動部10bは、ピストンピン3から突出するように設けられており、前記可動部10bを形成する筒状部材12の端面がピストンピン3から突出するように設けられ、軸状部材11の端面が筒状部材12の端面から突出するように設けられている。
【0044】
次に、このようにして構成されるダイナミックダンパー10をピストンピン3に配設する方法について説明する。
図3は、ピストンピンにダイナミックダンパーを配設する際に用いるプレス装置を示す図である。
図3に示すプレス装置20は、ピストンピン3に軸状部材11を圧入すると共に、軸状部材11に筒状部材12をかしめ加工するように構成されている。
【0045】
プレス装置20は、ダイプレート21の外周部に固定された第1ガイド部材22及び第2ガイド部材23の内部に配置されてピストンピン3を支持するピストンピン支持部材24と、ピストンピン支持部材24を上方側に付勢するスプリング25と、ダイプレート21の中央部に固定されて軸状部材11を支持するピン部材26と、ピストンピン支持部材24が下方側に移動されるときにピストンピン支持部材24を受け止めるストッパ部材27とを備えている。
【0046】
プレス装置20はまた、ダイプレート21に対して上下方向に移動可能に構成されたパンチプレート31と、パンチプレート31に取り付けられたパンチ工具35とを備えている。プレス装置20では、図示しない制御ユニットによってパンチプレート31の移動が制御されるようになっている。
【0047】
図4は、ピストンピンへのダイナミックダンパーの配設工程を示す図である。ピストンピン3にダイナミックダンパー10を配設する際には先ず、所定形状にそれぞれ形成されたピストンピン3、軸状部材11及び筒状部材12を準備し、
図3に示すように、ピストンピン支持部材24の中央部に設けられた挿通孔24aに軸状部材11を挿通させて軸状部材11をピン部材26に支持させ、その後に、ピストンピン3を軸状部材11に嵌め合わせると共にピストンピン支持部材24の上面に設けられたピストンピン支持部24bに支持させる。
【0048】
そして、
図4(a)に示すように、パンチプレート31を下降させてパンチ工具35の下面によってピストンピン3を下方へ押圧する。ピストンピス支持部材24がストッパ部材27に当接するまでピストンピン3を下方へ押圧すると、ピン部材26に支持された軸状部材11に対してピストンピン3が下方へ移動され、ピストンピン3と軸状部材11とが所定位置で圧入によって結合される。
【0049】
パンチ工具35には、軸状部材11の先端部11cの外径よりも大きく筒状部材12の第2部分12dの外径より小さい内径を有する貫通孔35aが形成されており、パンチ工具35は、軸状部材11を下方へ押圧することなくピストンピン3のみを下方へ押圧するように形成されている。
【0050】
ピストンピン3と軸状部材11とを圧入によって結合させた後に、
図4(b)に示すように、パンチプレート31を上昇させ、ピストンピン支持部材24に支持されたピストンピン3を上方へ移動させると共にピストンピン3に結合された軸状部材11も上方へ移動させる。そして、軸状部材11に筒状部材12を嵌め合わせる。
【0051】
次に、
図4(c)に示すように、パンチプレート31を下降させてパンチ工具35の下面によってピストンピン3から突出する筒状部材12を下方へ押圧する。筒状部材12が下方へ押圧されると、筒状部材12の段差部12eと軸状部材11の段差部11dとが係合し、筒状部材12が軸状部材11の溝部11aに対向するように軸状部材11に嵌め合わせられる。なお、パンチ工具35は、筒状部材12を下方へ押圧して筒状部材12を軸状部材11に嵌め合わせるときに軸状部材11がピストンピン3に対して相対移動しないように下方へ移動される。
【0052】
このようにしてピストンピン3と軸状部材11とが圧入によって結合され、軸状部材11に筒状部材12が嵌め合わせられた後に、パンチプレート31にパンチ工具35に代えてかしめ工具45が取り付けられ、
図4(d)に示すように、パンチプレート31を下降させてかしめ工具45を筒状部材12の一端面に押圧して軸状部材11と筒状部材12とをかしめ加工によって結合する。
【0053】
図5は、ダイナミックダンパーに施されるかしめ加工を説明するための説明図であり、
図4(d)に示すプレス装置20の一部を拡大して示している。パンチプレート31に取り付けられるかしめ工具45は、
図5に示すように、下方側の先端部に断面三角状に下方に突出する2つの突起部45aを備え、2つの突起部45aは、対向するように配置されている。
【0054】
かしめ工具45の突起部45aはそれぞれ、かしめ工具45の周方向に所定長さを有し、例えば中心角が30度となる周方向に所定長さを有して円弧状に形成されている。なお、突起部45aの形状は、これに限定されるものでなく、円錐状などのその他の種々の形状を用いることができる。
【0055】
かしめ工具45にはまた、軸状部材11の先端部11cの外径よりも大きく筒状部材12の第2部分12dの外径より小さい内径を有する貫通孔45bが形成されており、かしめ工具45は、軸状部材11を押圧することなく筒状部材12を押圧するように形成されている。
【0056】
図5に示すように、筒状部材12が軸状部材11の溝部11aに対向するように軸状部材11に嵌め合わせられた状態で、パンチプレート31を下降させることによりかしめ工具45を下方へ移動させて筒状部材12の一端面に押圧させると、筒状部材12の一端面にかしめ工具45の突起部45aによって押圧穴部12aが形成され、これに伴って筒状部材12における押圧穴部12aの内側部分12bが軸状部材11の溝部11a内に倒れ込み、軸状部材11に対して筒状部材12がかしめ加工される。
【0057】
図6は、ダイナミックダンパーのかしめ結合部を拡大して示す図である。
図4(d)及び
図5に示すように、かしめ工具45を筒状部材12の一端面に押圧させて軸状部材11に対して筒状部材12をかしめ加工した後に、パンチプレート31を上昇させると、
図6に示すように、軸状部材11の溝部11a内に倒れ込んだ筒状部材12における押圧穴部12aの内側部分12bによって軸状部材11と筒状部材12とが結合されるかしめ結合部13が形成される。なお、かしめ工具45を筒状部材12の一端面に押圧させるとき、かしめ工具45によって筒状部材12に加えられる荷重は、所定値以下となるように設定されている。
【0058】
そして、筒状部材12の一端面にかしめ工具45を押圧させて押圧穴部12aを形成することにより筒状部材12における押圧穴部12aの内側部分12bを軸状部材11の溝部11a内に倒れ込ませて軸状部材11に対して筒状部材12をかしめ加工した後に、ピストンピン3に取り付けられたダイナミックダンパー10の検査が行われる。
【0059】
ダイナミックダンパー10の検査では、ダイナミックダンパー10の共振周波数を測定し、ダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出し、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいてダイナミックダンパー10の良否を判定する。
【0060】
図7は、ダイナミックダンパーの検査装置を示す図である。
図7に示す検査装置50は、ダイナミックダンパー10が配設されたピストンピン3を下方側から保持する保持部材51と、ダイナミックダンパー10が配設されたピストンピン3を上方側からクランプするクランプ部材52とを備え、クランプ部材52は、図示しないクランプ部材移動機構によって上下方向に移動可能に構成されている。
【0061】
保持部材51の下面には加振器53が取り付けられ、加振器53は、ダイナミックダンパー10が配設されたピストンピン3を保持部材51とクランプ部材52とによって挟持した状態でダイナミックダンパー10に上下方向の複数の周波数の振動を与えるように構成されている。
【0062】
検査装置50はまた、保持部材51とクランプ部材52とによって挟持されたピストンピン3から突出するダイナミックダンパー10の可動部10bの振動を測定する振動測定器54を備え、振動測定器54は、加振器53によってダイナミックダンパー10に複数の周波数の振動を与えたときにダイナミックダンパー10の共振周波数を測定することができるようになっている。振動測定器54として、例えばレーザードップラー振動計を用いることができる。
【0063】
また、検出装置50は、ダイナミックダンパー10の温度を検出する温度検出器55を備え、温度検出器55は、振動測定器54によってダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出することができるようになっている。温度検出器55として、例えば放射温度計を用いることができる。
【0064】
ダイナミックダンパー10の検査に先立って、先ず、ピストンピン3に配設されたダイナミックダンパー10について、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係を調べた。
【0065】
ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係を調べる際には、1つのピストンピン3に配設されたダイナミックダンパー10を種々の温度に保持し、
図7に示す検査装置50を用いてダイナミックダンパー10の共振周波数を測定すると共にダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出した。
【0066】
図8は、ダイナミックダンパーの温度と共振周波数との関係を示すグラフであり、
図8では、ダイナミックダンパー10の温度を横軸にとり、ダイナミックダンパー10の共振周波数を縦軸にとって表している。
図8では、ダイナミックダンパー10の温度とダイナミックダンパー10の共振周波数との測定結果を黒四角として表している。
【0067】
そして、
図8に示す測定結果から、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係を表した線形関数の近似式を既知の最小二乗法によって算出し、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1を算出する。
【0068】
ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1は、ダイナミックダンパー10の共振周波数は該ダイナミックダンパー10の温度が高いほど低くなる共振周波数温度特性を有しており、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1を用いて、具体的にはダイナミックダンパー10の温度変化に対するダイナミックダンパー10の共振周波数変化の割合である関係式L1の傾きを用いて、ダイナミックダンパー10を検査する。
【0069】
ダイナミックダンパー10を検査する際には、
図7に示す検査装置50を用い、ダイナミックダンパー10が配設されたピストンピン3を保持部材51とクランプ部材52とによって挟持させた後に、加振器53によってダイナミックダンパー10を振動させ、ダイナミックダンパー10の共振周波数を測定すると共にダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出する。
【0070】
次に、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とから、
図8に示すダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1の傾きを用い、ダイナミックダンパー10が基準温度としての20度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数を算出する。
【0071】
例えば、
図7のP1で示すように、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数が3480Hzであると共に検出されたダイナミックダンパー10の温度が30度であるとすると、予め算出されたダイナミックダンパーの温度と共振周波数との関係式L1の傾きを用い、この関係式L1と同一の傾きを有してP1を通るダイナミックダンパーの温度と共振周波数との関係式L2を算出し、この関係式L2から、
図7のP1´で示すダイナミックダンパー10が20度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が3485Hzであるとして算出する。
【0072】
そして、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲にあるか否かを判定してダイナミックダンパー10の良否を判定する。算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲にあるときはダイナミックダンパー10が正常である良と判定し、予め設定された所定範囲にないときはダイナミックダンパー10が異常である否と判定する。
【0073】
なお、前記所定範囲として、コンロッド5の大端部5cに対してピストン1、ピストンピン3及びコンロッド5の小端部5aが全体として共振する共振周波数に略一致する所定範囲に設定される。
【0074】
本実施形態では、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1の傾きを用い、ダイナミックダンパー10が基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数を算出して予め設定された所定範囲と比較してダイナミックダンパー10を判定しているが、予め設定された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数の所定範囲から、ダイナミックダンパー10の温度と共振周波数との関係式L1の傾きを用い、各温度におけるダイナミックダンパー10の共振周波数の許容範囲を算出し、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいてダイナミックダンパー10の良否を判定することも可能である。
【0075】
このように、本実施形態に係るダイナミックダンパー10の検査方法では、所定部材としてのピストンピン3に固定される固定部10a、該固定部10aに揺動可能に支持される可動部10b、及び可動部10bを固定部10aに支持する支持部10cを備えたダイナミックダンパー10の共振周波数を測定し、ダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出し、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいてダイナミックダンパー10の良否を判定する。
【0076】
これにより、所定部材3に取り付けられるダイナミックダンパー10の検査時に、ダイナミックダンパー10の温度が異なる場合においても、ダイナミックダンパー10の温度変化に伴う周波数特性の変化を考慮してダイナミックダンパー10の良否を判定することができ、ダイナミックダンパー10の検査時の温度変化によるダイナミックダンパー10の判定誤差を抑制し、ダイナミックダンパー10を精度良く検査することができる。ダイナミックダンパー10の検査時にダイナミックダンパー10の温度を一定にするための設備を必要とすることなく、ダイナミックダンパー10を精度良く検査することができる。
【0077】
本実施形態ではまた、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲ではなくダイナミックダンパー10が否であると判定される場合、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいてダイナミックダンパー10の可動部10bの所定質量を調整してダイナミックダンパー10を製造する。
【0078】
ダイナミックダンパー10の検査によって、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲より小さい場合、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を所定量加工して可動部10bの所定質量を低減する。
【0079】
図9は、ダイナミックダンパーの加工装置を示す図である。
図9に示す加工装置60は、ダイナミックダンパー10が配設されたピストンピン3を回転可能に把持する第1把持部材61及び第2把持部材62と、第1把持部材61及び第2把持部材62に把持されたピストンピン3に配設されたダイナミックダンパー10の可動部10bの端面、具体的には軸状部材11の端面を加工する加工工具65と、加工工具65が取り付けられて回転駆動される回転部材66とを備え、加工工具65は、有底円筒状の砥石によって形成されている。
【0080】
加工装置60は、ピストンピン3と加工工具65とを反対方向に回転させた状態で、加工工具65をダイナミックダンパー10の可動部10bに接触させ、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を所定量加工することができるようになっている。
【0081】
ダイナミックダンパー10の可動部10bの所定質量を調整するために、先ず、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を加工する加工量とダイナミックダンパー10の共振周波数の増加量との関係を調べた。
【0082】
1つのピストンピン3に配設されたダイナミックダンパー10を用いて、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を0.3mmずつ加工して、基準温度である20度などの一定温度で、
図7に示す検査装置50を用いてダイナミックダンパー10の共振周波数を測定し、可動部10bの端面を加工する前のダイナミックダンパー10の共振周波数に対する共振周波数の増加量を調べた。
【0083】
図10は、ダイナミックダンパーの加工量と共振周波数の増加量との関係を示すグラフであり、
図10では、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面の加工量を横軸にとり、ダイナミックダンパー10の共振周波数の増加量を縦軸にとって表している。
図10では、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を0mm、0.3mm、0.6mm、0.9mm加工したときのダイナミックダンパー10の共振周波数の増加量の測定結果を黒四角として表している。
【0084】
そして、
図10に示す測定結果から、ダイナミックダンパー10の加工量と共振周波数の増加量との関係を表した線形関数の近似式を既知の最小二乗法によって算出し、ダイナミックダンパー10の加工量と共振周波数の増加量との関係式L3を算出する。
【0085】
ダイナミックダンパー10の加工量と共振周波数の増加量との関係式L3は、ダイナミックダンパー10の加工量が大きくなるほど共振周波数の増加量が大きくなっており、ダイナミックダンパー10の加工量と共振周波数の増加量との関係式L3を用いて、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を加工して可動部10bの所定質量を低減する。
【0086】
ダイナミックダンパー10の検査によって、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲より小さい場合、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいて算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数と、予め設定された所定範囲の中央の共振周波数との差を算出する。
【0087】
次に、この算出された共振周波数の差に応じて、
図10に示すダイナミックダンパー10の加工量と共振周波数の増加量との関係式L3を用い、共振周波数の差に等しい共振周波数の増加量からダイナミックダンパー10の可動部10bの端面の加工量を算出する。そして、算出されたダイナミックダンパー10の可動部10bの端面の加工量を、
図9に示す加工装置60を用いて加工し、ダイナミックダンパー10の可動部10bの所定質量を低減する。
【0088】
一方、ダイナミックダンパー10の検査によって、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲より大きい場合、ダイナミックダンパー10を不良品として処理してもよいが、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面に溶接等によって所定量追加して可動部10bの所定質量を増加するようにしてもよい。
【0089】
ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面に所定量追加して可動部10bの所定質量を増加する場合、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面を所定量加工して可動部10bの所定質量を低減する場合と同様に、予めダイナミックダンパー10の可動部10bの端面に追加する追加量とダイナミックダンパー10の共振周波数の減少量との関係式を算出し、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面への追加量と共振周波数の減少量との関係式を用いて、ダイナミックダンパー10の可動部10bの端面に所定量追加して可動部10bの所定質量を増加する。
【0090】
ダイナミックダンパー10の検査によって、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数が、予め設定された所定範囲より大きい場合、算出された基準温度にある場合のダイナミックダンパー10の共振周波数と、予め設定された所定範囲の中央の共振周波数との差を算出し、この算出された共振周波数の差に応じて、ダイナミックダンパー10の可動部10の端面への追加量と共振周波数の減少量との関係式を用い、共振周波数の差に等しい共振周波数の減少量からダイナミックダンパー10の可動部10bの端面への追加量を算出し、算出されたダイナミックダンパー10の可動部10bの端面への追加量を溶接等によって追加し、ダイナミックダンパー10の可動部10bの所定質量を増加する。
【0091】
このように、本実施形態に係るダイナミックダンパー10の製造方法では、所定部材としてのピストンピン3に固定される固定部10aと、所定質量を有して固定部10aに揺動可能に支持される可動部10bと、可動部10bを固定部10aに支持する支持部10cとを備えたダイナミックダンパー10の共振周波数を測定し、ダイナミックダンパー10の共振周波数を測定するときのダイナミックダンパー10の温度を検出し、測定されたダイナミックダンパー10の共振周波数と検出されたダイナミックダンパー10の温度とに基づいて可動部10bの所定質量を調整する。
【0092】
これにより、所定部材3に取り付けられるダイナミックダンパー10の製造時に、ダイナミックダンパー10の温度が異なる場合においても、ダイナミックダンパー10の温度変化に伴う周波数特性の変化を考慮して可動部10bの質量を調整することができ、ダイナミックダンパー10の製造時の温度変化によるダイナミックダンパー10の判定誤差を抑制し、ダイナミックダンパー10を精度良く製造することができる。ダイナミックダンパー10の製造時にダイナミックダンパー10の温度を一定にするための設備を必要とすることなく、ダイナミックダンパー10を精度良く製造することができる。
【0093】
本実施形態では、ダイナミックダンパー10におけるピストンピン3の軸方向他方側の可動部10bについてダイナミックダンパー10の共振周波数及び温度を測定してダイナミックダンパー10の良否を判定すると共にダイナミックダンパー10の所定質量を調整しているが、ダイナミックダンパー10におけるピストンピン3の軸方向一方側の可動部10bについても同様にして行うことができる。
【0094】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。