(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409712
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】脳波取得方法および脳波取得装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0476 20060101AFI20181015BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20181015BHJP
B60K 28/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
A61B5/04 322
A61B5/04 320B
A61B5/18ZDM
B60K28/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-165476(P2015-165476)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-42261(P2017-42261A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(72)【発明者】
【氏名】三浦 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】古郡 了
【審査官】
谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−000280(JP,A)
【文献】
特開2000−014653(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/128273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0476−5/0484
A61B 5/18
B60K 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に運転者が発する脳波信号を取得する第1ステップと、
生体アーチファクトの発生を検出する第2ステップと、
前記第2ステップで生体アーチファクトの発生が検出されたときに、記憶手段に記憶さされているフィルタの中から検出した生体アーチファクトに応じたフィルタを選択する第3ステップと、
前記第3ステップで選択されたフィルタを用いて、前記第1ステップで取得された脳波信号から生体アーチファクトの影響を除去した真性脳波信号を得る第4ステップと、
を備え、
前記フィルタは、運転していない状態で生体アーチファクトを発生させたときの脳波パワーとされ、
前記第1ステップでは、脳波信号を時間波形の形態で取得し、
前記第4ステップでは、前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号から実測脳波パワーを算出して、該実測脳波パワーと前記フィルタとして記憶されている記憶脳波パワーと前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号とに基づいて、前記真性脳波信号を時間波形の形態で算出するようにされ、
さらに、前記第4ステップでは、前記実測脳波パワーから前記記憶脳波パワーを差し引いた減算脳波パワーを該実測脳波パワーで除したパワー割合を算出して、該パワー割合と前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号とに基づいて、時間波形の形態とされた前記真性脳波信号を算出する、
ことを特徴とする脳波取得方法。
ていることを特徴とする脳波取得方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2ステップでは、運転者の首振りを検出し、
前記第3ステップで選択されるフィルタが、首振りに関するものとされる、
ことを特徴とする脳波取得方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第2ステップでは、運転者のステアリング操作を検出し、
前記第3ステップで選択されるフィルタが、ステアリング操作に関するものとされる、
ことを特徴とする脳波取得方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項において、
前記第4ステップでは、所定周波数毎に平滑化処理しつつ前記時間波形とされた真性脳波信号を算出する、ことを特徴とする脳波取得方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記平滑化処理の時間が、周波数が大きいほど短くされる、ことを特徴とする脳波取得方法。
【請求項6】
車両の走行中に運転者が発する脳波信号を、時間波形の形態で取得する脳波信号検出手段と、
生体アーチファクトの発生を検出する生体アーチファクト検出手段と、
生体アーチファクトに応じたフィルタを、運転していない状態で生体アーチファクトを発生させたときの脳波パワーとして記憶した記憶手段と、
前記生体アーチファクト検出手段によって生体アーチファクトの発生が検出されたときに、前記記憶手段に記憶されているフィルタの中から検出した生体アーチファクトに応じたフィルタを選択するフィルタ選択手段と、
前記フィルタ選択手段で選択されたフィルタを用いて、前記脳波信号検出手段で取得された脳波信号から生体アーチファクトの影響を除去した真性脳波信号を得る生体アーチファクト除去手段と、
を備え、
前記生体アーチファクト除去手段は、前記脳波信号検出手段で検出された時間波形の脳波信号から実測脳波パワーを算出する機能と、該算出された実測脳波パワーから前記記憶手段に記憶されている記憶脳波パワーを差し引いて減算脳波パワーを算出する機能と、該減算脳波パワーを該実測脳波パワーで除したパワー割合を算出する機能と、該算出されたパワー割合と該脳波信号検出手段で検出された時間波形の脳波信号とに基づいて時間波形の形態とされた前記真性脳波信号を算出する機能と、を有している、
ことを特徴とする脳波取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波取得方法および脳波取得装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の心理状態等の分析のために、脳波(脳波信号)を利用することが行われている。脳波信号には、眼球運動や首振り等の筋肉の動きに伴う信号がノイズ(生体アーチファクト)として出現してしまうのが実情である。このため、特許文献1には、眼球運動や心臓の動きに伴うノイズを脳波信号から除去する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−533589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脳波信号の取得は、病院や実験室で代表されるように、極力ノイズが混入しないように静かな安定した環境(静的な環境)で行われるのが一般的である。一方、最近では、静的な環境のみならず、動的な環境においても、脳波信号を利用した心理状態を判定することが望まれるようになっている。具体的には、自動車で代表されるような車両の運転者がどのような心理状態にあるのか、例えば運転者の緊張度合、いらいらの度合い、楽しさの度合い等を分析(判定)することが望まれている。将来的には、市販された一般車両を運転する一般の運転者についても、脳波信号に基づく心理状態の分析を行うことも考えられている。
【0005】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、車両の走行中という動的な環境下にあっても生体アーチファクトの影響を除去した真性の脳波信号を取得できるようにした脳波取得方法および脳波取得装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては基本的に、あらかじめ生体アーチファクトに対応したフィルタを作成、記憶しておき、このフィルタを利用して真性脳波信号を取得するようにしてある。具体的には、本発明における脳波取得方法にあっては、請求項1に記載のように、
車両の走行中に運転者が発する脳波信号を取得する第1ステップと、
生体アーチファクトの発生を検出する第2ステップと、
前記第2ステップで生体アーチファクトの発生が検出されたときに、記憶手段に記憶さされているフィルタの中から検出した生体アーチファクトに応じたフィルタを選択する第3ステップと、
前記第3ステップで選択されたフィルタを用いて、前記第1ステップで取得された脳波信号から生体アーチファクトの影響を除去した真性脳波信号を得る第4ステップと、
を備
え、
前記フィルタは、運転していない状態で生体アーチファクトを発生させたときの脳波パワーとされ、
前記第1ステップでは、脳波信号を時間波形の形態で取得し、
前記第4ステップでは、前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号から実測脳波パワーを算出して、該実測脳波パワーと前記フィルタとして記憶されている記憶脳波パワーと前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号とに基づいて、前記真性脳波信号を時間波形の形態で算出するようにされ、
さらに、前記第4ステップでは、前記実測脳波パワーから前記記憶脳波パワーを差し引いた減算脳波パワーを該実測脳波パワーで除したパワー割合を算出して、該パワー割合と前記第1ステップで取得された時間波形の脳波信号とに基づいて、時間波形の形態とされた前記真性脳波信号を算出する、
ようにしてある。
【0007】
上記解決手法によれば、走行中という脳波信号取得には適さない動的環境下であっても、あらかじめ作成、記憶されている生体アーチファクトに応じたフィルタを用いて、生体アーチファクトが除去された真性の脳波信号を精度よく取得することができる。
以上に加えて、脳波パワーを利用するという簡単な手法でもってフィルタの作成や生体アーチファクトの除去を行うことができる。また、パワー割合を用いて、簡単かつ精度(再現性)よく真性の脳波信号を取得することができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、請求項2
〜請求項5に記載のとおりである。すなわち、
前記第2ステップでは、運転者の首振りを検出し、
前記第3ステップで選択されるフィルタが、首振りに関するものとされる、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、走行中に安全確認等のためにどうしても避けられない首振りに伴って発生する生体アーチファクトを除去して、真性の脳波信号を取得することができる。
【0009】
前記第2ステップでは、運転者のステアリング操作を検出し、
前記第3ステップで選択されるフィルタが、ステアリング操作に関するものとされる、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、走行のためにどうしても避けられないステアリング操作に伴って発生する生体アーチファクトを除去して、真性の脳波信号を取得することができる。
【0010】
【0011】
【0012】
前記第4ステップでは、所定周波数毎に平滑化処理しつつ前記時間波形とされた真性脳波信号を算出する、ようにしてある(
請求項4対応)。この場合、所定周波数単位毎に真性脳波信号を取得するので、制御系の負担を軽減しつつ、最終的に取得される真性の脳波信号を全体的に精度のよいものとすることができる。
【0013】
前記平滑化処理の時間が、周波数が大きいほど短くされる、ようにしてある(
請求項5対応)。この場合、周波数が高い領域での真性の脳波信号の精度を十分に確保しつつ、周波数が低い領域での制御系の負担を低減することができる。
【0014】
前記目的を達成するため、本発明における脳波取得装置にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、
請求項6に記載のように、
車両の走行中に運転者が発する脳波信号を
、時間波形の形態で取得する脳波信号検出手段と、
生体アーチファクトの発生を検出する生体アーチファクト検出手段と、
生体アーチファクトに応じたフィルタを
、運転していない状態で生体アーチファクトを発生させたときの脳波パワーとして記憶した記憶手段と、
前記生体アーチファクト検出手段によって生体アーチファクトの発生が検出されたときに、前記記憶手段に記憶されているフィルタの中から検出した生体アーチファクトに応じたフィルタを選択するフィルタ選択手段と、
前記フィルタ選択手段で選択されたフィルタを用いて、前記脳波信号検出手段で取得された脳波信号から生体アーチファクトの影響を除去した真性脳波信号を得る生体アーチファクト除去手段と、
を備
え、
前記生体アーチファクト除去手段は、前記脳波信号検出手段で検出された時間波形の脳波信号から実測脳波パワーを算出する機能と、該算出された実測脳波パワーから前記記憶手段に記憶されている記憶脳波パワーを差し引いて減算脳波パワーを算出する機能と、該減算脳波パワーを該実測脳波パワーで除したパワー割合を算出する機能と、該算出されたパワー割合と該脳波信号検出手段で検出された時間波形の脳波信号とに基づいて時間波形の形態とされた前記真性脳波信号を算出する機能と、を有している、
ようにしてある。上記解決手法によれば、請求項1に記載の脳波取得方法を実行するための脳波取得装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の走行中にあっても、生体アーチファクトが除去された真性の脳波信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明によって運転者の脳波信号を取得しているときの状態を示す簡略側面。
【
図3】停車中における安静状態での脳波信号を示す図。
【
図5】走行中に首振りしたときの脳波信号を示す図。
【
図7】安静状態で首振りしたときの脳波信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す車両Vにおいて、SSは運転席、Jは運転席SSに着座された分析対象者としての運転者である。また、1はステアリングハンドル、2はインストルメントパネル、3はフロントウインドガラスである。
【0018】
運転者Jは、その頭部に、脳波を計測するためのヘルメット式の脳波計測器10が装着されている。この脳波計測器10には、運転者Jの眼球の動きを撮像するための左右一対のアイカメラ11設けられている。また、例えばインストルメントパネル2には、運転者の上半身を撮像するカメラ12が配設されている。このカメラ12は、特に、生体アーチファクトとなる運転者Jの瞬目(まばたき)や左右の首振りを検出するものとなっている。すなわち、走行中においては、瞬目や左右の安全確認等のために左右の首振りがどうしても避けられないものとなるが、このような生体アーチファクトを生じていることを検出するものとなっている。
【0019】
図2には、上述した脳波計測器10に装着された多数の電極10aの位置設定例が示される。電極10aの数は、実施形態では、「GND」で示すGRAND電極と、「Cpz」で示すReference電極とを含めて、合計32個設けられている。後述する首振りによる生体アーチファクトは、左右側頭部に位置する電極T7、T8において発生することとなる。また、瞬目による生体アーチファクトは、電極Fp1、Fp2、Fpzで発生することとなる。
【0020】
次に、生体アーチファクトとその除去について説明するが、以下の説明では、運転者Jが右方向に首振りしたときに生体アーチファクトが発生する電極T8(で検出される脳波信号とその脳波パワー)に着目したものとなっている。
【0021】
まず、
図3は、20km/hで走行しているときで、生体アーチファクトが生じていない状態でのでの脳波信号(時間波形の脳波信号)を示す。
図4は、
図3の脳波パワーであり、所定周波数単位(実施形態では10Hz単位)毎の脳波パワーを棒グラフ式(平均値形式)でもって示してある。
【0022】
図5は、
図3の脳波信号が得られたときと同様の運転条件で、右方向に首振りしたときの脳波信号を示す。また、
図6は、
図5に対応した脳波パワーを示す。この
図5、
図6で示すデータは、
図3、
図4で示すデータに対して、右方向への首振りに伴う生体アーチファクトが重畳されたものとなっている。
【0023】
図7は、非走行状態での安静状態において、右方向に首振りしたときの脳波信号を示し、
図8はその脳波パワーを示す。この
図7、
図8のデータは、走行によって生じる脳波信号は含まれていないものとなる。そして、
図8に示す脳波パワーのデータは、後述する生体アーチファクト除去のためのフィルタとして使用するために、あらかじめ作成されてメモリ(記憶手段)に記憶されている。
【0024】
次に、右方向への首振りに伴う生体アーチファクトを除去する点について説明する。生体アーチファクトの除去処理は、走行中に右方向に首振りしたときの
図5、
図6に示す実測データと、
図8に示す記憶データとに基づいて算出(演算)される。
【0025】
生体アーチファクトの除去のために、まず、所定周波数単位毎(実施形態では10Hz単位毎)に、次のような処理が行われる。すなわち、例えば、もっとも低い周波数域となる0〜10Hzについての周波数単位について、
図6に示す首振り運転時に実測された実測脳波パワーから、フィルタとして記憶されている
図8のデータを差し引くことにより、減算脳波パワーが算出される。そして、この減算脳波パワーを、
図6に示す実測脳波パワーで除することにより、パワー割合が算出される。
【0026】
次いで、
図5のように実測された実測脳波信号に基づいて、0〜10Hzについての時間波形を切り出し、この切り出された時間波形に対して上記パワー割合を乗算することにより、右方向への首振りによる生体アーチファクトが除去された真性の脳波信号(時間波形の形態)が取得される。
【0027】
以上と同様にして、次に10〜20Hzの周波数域について、生体アーチファクトが除去された真性の脳波信号を取得し、以下同様にして、全ての周波数域について生体アーチファクトが除去された脳波信号を取得することにより、最終的に、
図5に示す脳波信号から右方向への首振りに伴う生体アーチファクトが除去された真性の脳波信号が取得されることになる。
【0028】
ここで、時間波形の真性の脳波信号を取得する場合に、あらかじめ平滑化処理を行うことが好ましい。そして、平滑化の時間を、周波数が高くなる領域ほど短くする(周波数が高くなるほど時間波形が細かくなるのに対応)のが好ましい。例えば、0〜10Hz周波数域では平滑化の時間を例えば0.1秒とし、10〜20Hzの周波数域では例えば0.005秒とする等、周波数域が一段階高くなる毎に、直前の周波数域での平滑化時間に比して例えば半分の時間の平滑化時間にすればよい。このような平滑化処理によって最終的に取得された時間波形の形態での真性の脳波信号が、
図9に示され、その脳波パワーが
図10に示される。
図9に示す真性の脳波信号は、
図3の脳波信号を再現するものとなるが、上述した平滑化処理によって、目視によって波形の変化がより理解しやすい形態となっている。
【0029】
車両を運転する際に生じる生体アーチファクトを除去する点について、
図11に示す前準備と共に説明する。この前準備は、
図11のQ(ステップ−以下同じ)1において、乗員Jに対して、脳波計測装置が装着することから開始される。脳波計測装置は、
図1、2に示す脳波計測器10の他、脳波計測器10に接続された乗員Jが背負う本体部を有する。Q2では、乗員Jが車両Vに乗り込む。Q3では、乗員Jが背負っていた上記本体部が車両に固定される(脳波計測器10の検出脳波信号は、この本体部を経てコントローラUに出力される)。コントローラUは、前述した右方向への首振り運動に生体アーチファクト除去のためのフィルタ(脳波パワー)を記憶しているが、この他、左方向への首振りや、左右のステアリング操作等々、走行中に発生しえる各種の筋肉運動に伴う生体アーチファクトに対応したフィルタを数多く記憶しているものである。
【0030】
Q4では、エンジンが始動される。この後Q5において、脳波計測器10で検出される脳波信号に対して、電磁ノイズの重畳状況が確認される(例えば上記本体部での確認あるいはコントローラUによる確認)。なお、Q5においては、運転者Jは、閉眼の安静状態とされる。
【0031】
Q5の後、Q6において、Q5での確認に基づいて、電磁ノイズが大きいか否かが判別される。このQ6の判別でYESのときは、Q7において、ノイズ要因が確認された後、Q8において、電磁対策が行われる。電磁ノイズとしては、車内電磁波、車外電磁波、車両電磁波の他、人体が静電容量体であることから人(乗員J)由来の電磁波について対策が行われる。人由来の電磁波は、例えば乗員Jからの静電気除去処理により対策され、その他の車内電磁波等については、適宜シールド処理によって対策される。
【0032】
以上のようにして、脳波信号に電磁ノイズが重畳しないことが確認された状態(Q6の判別でNOのとき)で、コントローラUによる制御が
図12に示すフローチャートに示すように実行される。以下、このフローチャートについて説明するが、以下の説明でSはステップを示す。なお、このコントローラUは、実験段階では、車両に装備することなく、脳波計測装置の本体部に組み込むこともできる。また、本発明を適用して市販する車両においては、前記電磁シールドは十分に行われたものとして、運転者Jの静電気除去用のアース部を設けるだけでよいものである。
【0033】
まず、S1において走行が開始が確認される。この後、S2において脳波の計測が開始され、このとき、脳波計測に同期して、車両の走行データ(例えば車速、舵角、横G、前後G、エンジン回転数等)、カメラ12での映像データ、運転者Jの各種生理データ、アイカメラ11による視線データ等が合わせて計測(検出)される。
【0034】
所定時間脳波の計測が行われると、S3において脳波の計測が終了される。この後、S4において、脳波計測器10における各電極毎10a毎に、生体アーチファクトの発生があるか否かが判別される。このS4での判別は、例えば、通常の脳活動では発生しないような大きな脳波電圧が生じているとき、あるいはカメラ12やアイカメラ11等によって運転者Jが生体アーチファクトを生じさせる大きな筋肉活動を行っていることが確認されたときに、生体アーチファクトが発生していると判断される。
【0035】
上記S4の判別でNOのときは、S5において、個々の電極10aについて、脳波信号が分析され、この後S6において、分析された個々の電極10aについての信号源が推定される。このS5での分析結果とS6で推定結果とは、2次解析のためのデータとして用いられることになる。
【0036】
前記S4の判別でYESのとき、つまり生体アーチファクトが発生している電極10aが存在しているときは、S11、S21、S22、S31のように複数種に場合分けして順次処理が行われる(
図12では処理を並列に描いてあるが、実際には直列に処理される)。すなわち、S11で噛みしめによる大きな筋肉電位が重畳しているとき確認されたときは、S12において、脳波信号の取り直しが行われる(S1への復帰)。
【0037】
S21は瞬目による生体アーチファクト発生が確認された場合であり、S22は情報処理負荷が大きいことに伴う心電重畳が確認された場合であり、これらの場合はそれぞれ、S23の処理が行われる。すなわち、生体アーチファクトが発生している特定の電極の近傍に位置する他の電極との間での電位差に基づいて、ノイズ除去(生体アーチファクトの除去)が行われる。具体的には、生体アーチファクトが発生していない状態での上記特定の電極と上記他の電極との電位差を基準電位差としてあらかじめ検出、記憶しておく。そして、生体アーチファクトが発生したときの上記特定の電極における真性脳波信号を、上記他の電極での脳波信号に対して上記基準電位差を加算したものとして算出すればよい。このような手法により、フィルタ処理に比してより簡単に真性の脳波信号を取得することができる。勿論、このような場合でも、フィルタ処理によって真性の脳波信号を算出することもできる。
【0038】
S31は、運転に伴う筋肉運動による生体アーチファクトの重畳であると確認されたときである。このときは、S32において、前述した右方向の首振りによる生体アーチファクトの除去処理と同様の処理が行われる。すなわち、運転シーンに応じて、多数記憶されているフィルタの中から、運転シーンに対応したフィルタが選択されて、このフィルタを用いた生体アーチファクトの除去処理が行われる。例えば、右方向の首振りが確認されたときは、電極10aのうちT8に相当する電極が検出した脳波信号について、
図8のようなフィルタが選択される。また、左方向の首振りが確認されたときは、電極T7に相当する電極が検出した脳波信号について、左方向首振り用のフィルタが選択される。このようにして、例えば右方向へのステアリング操作、左方向へのステアリング操作、シフト操作等、運転に際して乗員Jが行う各種の運転シーン毎に、生体アーチファクトが生じる電極についてのフィルタが選択される。なお、各種の運転シーンに応じて生体アーチファクトが生じる電極とそのフィルタとは、あらかじめ対応づけて記憶されているものである。
【0039】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。脳波計測器10は、無接触式のものを用いることもできる。判定された運転者の心理状態をどのように利用するかは適宜選択できるものである。例えば、運転者の心理状態の分析(判定)を、車両製造者によるデータ収集用として利用することもできる。すなわち、例えば、脳波信号を用いて得られた運転者の心理状態を、各種の走行シーンと対応づけて記憶させたデータベースとして作成、記憶させておき、市販の車両では、このデータベースを搭載して、ある走行シーンでは運転者がどのような心理状態になるかを推定するために用いる等のことができる。また、運転者の心理状態が好ましい状態となるように車両の設計、改善等に役立てるために、車両製造者のみが利用するものとすることもできる。また、市販の車両を運転する一般の運転者の脳波信号を取得することにも利用できる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、走行中という動的環境下においても、運転者の脳波信号を生体アーチファクトを除去した状態で取得することができる。
【符号の説明】
【0041】
V:車両
SS:運転席
J:運転者
U:コントローラ
10:脳波計測器
10a:電極
11:アイカメラ
12:カメラ