(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409815
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】固体触媒を用いた化合物の新規な生成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 27/04 20060101AFI20181015BHJP
C07C 29/15 20060101ALI20181015BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20181015BHJP
C07C 47/04 20060101ALI20181015BHJP
C07C 45/00 20060101ALI20181015BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20181015BHJP
B01J 21/06 20060101ALI20181015BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
C07C27/04
C07C29/15
C07C31/04
C07C47/04
C07C45/00
B01J35/02 J
B01J21/06 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-79873(P2016-79873)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-178915(P2017-178915A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】505393614
【氏名又は名称】森屋 市郎
(72)【発明者】
【氏名】森屋 市郎
【審査官】
鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−071578(JP,A)
【文献】
特開2015−048351(JP,A)
【文献】
特開2014−062081(JP,A)
【文献】
特開2013−006180(JP,A)
【文献】
特開2009−233606(JP,A)
【文献】
特開2015−073936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 27/04
B01J 21/06
B01J 35/02
C07C 31/04
C07C 45/00
C07C 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒表面を、正負のイオン生成式の静電気除去器により除電した後、気体状反応物が溶解および/又は解離できる溶媒の液膜を、溶媒蒸気の結露により、固体触媒表面に生成させ、溶媒液膜中に気体状反応物が溶解および/又は解離した後、
を生成させ、生成物が液膜から揮発することを特徴とする生成物の生成方法。
【請求項2】
固体触媒が光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)であって、反応系に太陽光または紫外光を照射することを特徴とする請求項1に記載の生成物の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
触媒作用を利用した化学反応による化合物の生成方法に関し、
その中でも、不均一系固体触媒等の触媒作用を利用した化学反応による化合物の生成方法に関し、さらに詳しくは、
固体触媒表面に形成された溶液薄膜に溶解した反応物、または溶解後に解離したイオンを溶液薄膜中で、触媒作用を利用した化学反応により別の生成物に変換する方法に関する。
実際の工業的な技術分野は多岐に渡るが、
不均一系固体触媒
や光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)を用いて各種溶媒などの溶液に溶解性の気体を酸化、または還元して、別の生成物に変換する方法に関する。一例として、原料として二酸化炭素を用い、還元生成物としてホルムアルデヒドやメタノールなどの有機化合物を得る分野を含む。
【背景技術】
【0002】
工業的な化学反応または、
化合物の合成方法は、気体中(気相)または液体中(液相)または臨界状態中(三相の臨界状態中)で化学反応を生じさせるものがほとんどである。
【0003】
不均一系固体触媒を用いる場合であっても、大気中、または液体中であり、固体
‐気体または、固体
‐液体の二相系である。
【0004】
本発明の背景として、本発明者は、光触媒と
不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)の表面に結露によって凝結した水の薄膜に紫外線を照射することによる二酸化炭素の還元方法を提案して来た。その中で、雰囲気の温度、湿度条件により最適膜厚の水の凝結膜が出来た時に生成物である低分子量の有機化合物が生成したことを報告した。が、実験時点の気象条件によって結露という自然現象によって最適膜厚の水の薄膜が生成し、
その凝結膜内に反応物が溶解し、溶解した反応物が解離して、標準ギブズエネルギー変化が負の反応によって生成物が得られ、さらに、その生成物が揮発することにより反応が促進されたと認識したのは、2015年8月以降であった。したがって、2015年8月以前の本発明者による出願は、本出願の内容を含まない。
また、
本発明における反応は固体触媒が不均一系固体触媒の場合(光触媒を用いない場合)は触媒反応であり光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)の場合は触媒反応と光触媒反応の協奏反応である点で、光触媒反応のみの範囲で構成されていた2015年8月以前の本発明者による出願とは異なっている。そして、新規な反応方法のメカニズムが分かったことにより二酸化炭素の還元以外にも、他の不均一系固体触媒を用いた化学反応に応用可能なことに思い至った。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、各種反応に応用可能な新規な化学反応方法であり、気体中で固体触媒表面に生成させた薄い液膜を反応場とし、
さらに、生成した生成物が液膜から揮発することによって、高効率な化学反応を実現する新規な化学反応の方法である。したがってマクロスケールでは二相系であるが、ミクロなスケールでは気相と固体触媒の間にごく薄い液膜を挟んだ三相系である。
【0006】
本発明の一例として、太陽光を用いた大気中の二酸化炭素の還元について述べる。
これはあくまでも本発明の一例であって、本発明を適用出来る化学反応の範囲は不均一系固体触媒を用いた化学反応および光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)を用いた化学反応全般にわたる。
【0007】
本発明で用いる一体化物の表面を薄い水層で覆う考案は、光触媒二酸化チタン粉末に紫外線を照射して光触媒反応によって生成した水素分子と酸素分子を取り出す際に水素分子と酸素分子の再結合を防ぐ目的で、佐藤等によって提案されているが(参考文献1、2)、本発明の場合は二酸化炭素を還元して有機物を生成させるのが目的であるから目的と技術分野が異なり、さらに後述するように本発明においては一体化物表面の薄い溶液の膜は、生成物を生成する反応場となっているのが最大の相違点である。
Sato,S.,White,J.M.,Photodecomposition of water over Pt/TiO2catalysis.Chem,Phys.Lett.,72,83,(1980).
佐藤しんり著 光触媒とはなにか 株式会社講談社刊 第1刷 154〜159ページ
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、気体状の反応物を、固体触媒を用いて生成物を得る際に、多量の生成物を得ることである。
例えば、大気中の二酸化炭素を還元してホルムアルデヒドやメタノールのような低分子量の有機化合物を得る際に、多量の還元生成物を得ることである。
【0010】
反応物の気体を、触媒表面に生成させた液膜に溶解、および/または解離させ、反応の
標準ギブズエネルギー変化が負の反応の場合に、液膜中での触媒反応により反応物を生成させ、反応物が液膜から揮発することによって、さらに反応速度を高め生成物の量を向上させる。
【0011】
例えば、大気中の二酸化炭素を還元してホルムアルデヒドやメタノールのような低分子量の有機化合物を得る際に、
コロナ放電式等の正負のイオン生成式静電気除去器により除電して表面を清浄化した固体触媒(TiO
2/ZrO
2一体化物)表面に水蒸気の結露による水の薄膜を凝結させると、その水膜に二酸化炭素が溶解し、さらにその一部が解離して炭酸イオンとなる。一方、炭酸イオンからホルムアルデヒドやメタノールへの反応は、標準ギブズエネルギー変化が負の反応であり、ホルムアルデヒドやメタノールへの反応は活性化エネルギーを超えれば自然に進んで平衡状態になる。ここで、生成したホルムアルデヒドやメタノールは揮発性であるので水の薄膜から揮発する。そうすると、平衡を維持するために更に反応が進んでホルムアルデヒドやメタノールが生成する。すると、水膜中の炭酸イオンが消費されるので、大気中の二酸化炭素が水膜に溶解し、解離して炭酸イオンが補給され、ホルムアルデヒドやメタノールの生成反応が続くことになる。
【0012】
さらに詳しく説明する。
本発明においては、まず、一体化物の表面を結露した水の薄膜で覆う。そして、二酸化炭素は水に対して溶解性があり、水中で炭酸を生成する。
CO
2(aq)+H
2O=H
2CO
3 (1)
平衡定数(K
h)は1.7×10−
3at25℃である。
炭酸は、解離して重炭酸イオンを経由して炭酸イオン(CO
32−)を生成する。
H
2CO
3(aq)=HCO
3−(aq)+H
+(aq) pK*
a1=6.35 (2)
HCO
3−=CO
32−(aq)+H
+(aq) pK
a2=10.33 (3)
ここでpK*
a1は、見かけの酸解離定数、pK
a2 は、酸解離定数である。
化学便覧5版基礎編IIによると、炭酸イオンの標準電極電位は、
ホルムアルデヒドが生成する場合は、
CO
32−+6H
++4e
−=HCHO(aq)+2H
2O E
0(25℃標準電極電位)0.197V (4)
メタノールが生成する場合は、
CO
32−+8H
++6e
−=CH
3OH(aq)+2H
2O E
0(25℃標準電極電位)0.209V (5)
となっている。
【0013】
標準電極電位はその電池反応の標準ギブズエネルギー変化と次式で関係している。
よび式(5))は、活性化エネルギーを超えれば自然に反応が右へ進むということである。したがって、活性化エネルギーを超えれば、反応は右に進んでホルムアルデヒドやメタノールが生成する。そして、触媒は活性化エネルギーを格段に低下させるので反応は容易に右に進んで平衡が成立する。さらに、生成物であるホルムアルデヒドやメタノールは揮発性であり、薄い水層から揮発するので平衡を維持するために反応式で右への反応は続き、反応物である炭酸イオン(CO
32−)は減少する。すると、式(1)式(2)式(3)の反応式の平衡を維持するために(減少した炭酸イオン(CO
32−)濃度を増加させて平衡を維持するために)二酸化炭素の水薄膜への溶解および炭酸イオン(CO
32−)への解離が連続して起きる。つまり、
生成物(ホルムアルデヒドやメタノール)の生成と揮発→式(4)および式(5)の反応→反応物である炭酸イオン(CO
32−)の減少→二酸化炭素の水薄膜への溶解および炭酸イオン(CO
32−)への解離→炭酸イオン(CO
32−)濃度の回復→式(4)および式(5)の反応による生成物の生成と揮発というサイクリックな連鎖反応が生じる。
その結果、多量のホルムアルデヒドやメタノールが得られる。そして、実験の結果、実施例に記載したように多量の還元生成物が得られた。
【0014】
つまり、本発明は、上記の成果を基に、一般化して、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)固体触媒表面を、正負のイオン生成式の静電気除去器により除電した後、気体状反応物が溶解および/又は解離できる溶媒の液膜を、溶媒蒸気の結露により、固体触媒表面に生成させ、溶媒液膜中に気体状反応物が溶解および/又は解離した後、
を生成させ、生成物が液膜から揮発することを特徴とする生成物の生成方法。(2)固体触媒が光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)であって、反応系に太陽光または紫外光を照射することを特徴とする請求項1に記載の生成物の生成方法。
【0015】
本発明の方法を用いることにより、標準ギブズエネルギー変化が負である反応なら常温でも生成物を得ることが出来る。また紫外光や熱エネルギーを付加することにより生成物の収量を増大できる。
さらに、固体触媒が二酸化チタンと不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)であって、紫外光を付加した場合に特に大きな反応物の収量増大効果が得られる。
【0016】
反応物(被還元剤)として二酸化炭素を選択する場合は、空気中に微量に含まれる二酸化炭素でもよいし、二酸化炭素をより多く含む燃焼排ガスでも良いので、近年注目されている二酸化炭素の削減ならびに再資源化となる。
【0017】
不均一系固体触媒には、酸化
作用や還元
作用など種々の触媒作用が有るので、本発明の方法を用いて、酸化反応や還元反応など種々の反応の収率を向上できる。
また、一例として挙げた二酸化炭素の還元方法は、水を溶媒とした反応物の不均一系水素化反応と見做せるので、類似の反応の収率の向上が期待できる。さらに、水以外の溶媒を用いた反応物の不均一系還元反応(または水素化反応)にも適用できる。
【0018】
化学反応の反応場である液膜は気相に接しており、かつ非常に薄いので、紫外光などの外部のエネルギーを液膜内の反応物に直接に加えることが出き、エネルギーを有効に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において固体触媒とは、固体状の触媒全般を指し単一組成でも一体化物でも良い。固体触媒は通常用いられる
不均一系固体触媒(金属触媒や金属酸化物触媒、金属硫化物触媒、その他の不均一系固体触媒等)が利用できるが、光触媒と
不均一系固体触媒の一体化物
(コンポジット)でも良い。この場合に用いる光触媒はアナターゼ型の微粒子二酸化チタン光触媒が好ましい。
また不均一系固体触媒は、対象とする反応に有効な固体状の物質(金属酸化物や金属硫化物や金属など)を選択する必要がある。
【0020】
本発明を実施するためには、反応の
標準ギブズエネルギー変化が負の反応であることが必要である。
【0021】
次に、
コロナ放電式等の正負のイオン生成式の静電気除去器により除電した固体触媒表面に、反応物を溶解および/またはイオンに解離させるための
溶媒の薄膜を形成させることが必要である。
また、本発明者による先願発明(特願2015−182264)に詳しく述べたように固体触媒表面には空気中の窒素分子や微粒子が吸着することによって触媒活性を大幅に低下させてしまうので、溶媒溶液の液膜形成前の除電による吸着物の除去は本願の[実施例1]の段落[0031]に示すように不可欠の操作である。触媒表面に吸着している窒素分子や微粒子を取り除くためには正負のイオンをコロナ放電等で生成し触媒表面に到達させる必要があるが、[実施例1]に記載のイオンブロワーはコロナ放電によって生成した正負のイオンを送風によって帯電物に輸送するコロナ放電式静電気除去器の一形態である。ブロワー式でなく無風型でも近年、同等な効果を得ることが出来るようになった。
【0022】
活性化エネルギーが非常に小さい場合には[実施例8]に示すように、室温で他のエネルギーを加えることなく、反応物が得られるが、さらに、紫外光の照射や、紫外光成分が含まれている太陽光の照射や、固体触媒表面の液膜が蒸発して消失してしまわない範囲の温度で熱エネルギーを加えると、さらに生成物の収量を増大できる。固体触媒が二酸化チタン光触媒と不均一系固体触媒との一体化物(コンポジット)である場合には、二酸化チタンが波長380nm以下の紫外光にしか光触媒作用を示さないので光触媒作用も利用するためには太陽光や紫外光の照射が必要である。
【0023】
反応物は気体であり、液膜は反応物が溶解および/または解離するような液膜であることが求められ、さらに生成物は触媒表面に生成させた液膜から揮発することが求められる。
【0024】
液膜の厚さは、各反応に最適な厚さを探す必要がある。
【0025】
液膜の作成方法は、
溶媒の蒸気を固体触媒表面に結露等によって凝結させる方法が好ましい。なぜならば、固体触媒表面の全面に薄く表面積の大きな均一膜厚の液膜を形成できるからである。
【0026】
例えば、二酸化炭素をホルムアルデヒドやメタノールに還元する場合は、まず固体触媒である一体化物を冷蔵庫で冷却し、真夏の高温高湿の大気中に取り出して、一体化物表面に
空気中の水蒸気を結露させて水の薄膜を形成させるのが最適である。温度、湿度の好適な範囲は、固体触媒の使用量によって異なるが、目安として固体触媒の使用量が0.2gの場合、温度が
30〜33℃、湿度が
60〜80%である。
【0027】
ここで一体化物とは、2種類以上の粒子が圧着し接合した状態の粉体を言う。つまり、2種類以上の固体粒子が機械的な力でこすり合わされて、圧着、接合し一体になったものである。なお、一体化という文言は広辞苑にも記載のある一般語である。
【0028】
従来、複合体あるいは複合化物という名称が一般的に用いられているが、複合とは2種類以上の物質が付着した状態にあるのか、または、不均一に混合された状態にあるのか、または、均一に混合された状態にあるのかが、あるいは化学反応した状態で存在しているのかが不明確である。
本発明の一体化物は、2種類以上の物質が単にこすり合わされた状態、つまり、互いに界面を維持したまま、圧着、接合して一体になったものを言う。
【0029】
次に実施例により、大気中の水蒸気の凝結薄膜を用いた二酸化炭素の還元の例を説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。また、実施例中の「%」および「部」は特に別途注記しない限り重量基準である。
【実施例1】
【0030】
1.1 一体化物(A)の調整
乳鉢にテイカ株式会社製アナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタンAMT−100(粒径6nm 比表面積260m
2/g)の0.5gと関東化学株式会社製試薬の酸化ジルコニウム3N(粉末、純度99.9% 粒径約10μm)の0.5g(AMT100/酸化ジルコニウム=1/1)を取り均一にかきまぜた後強く擦りながらかき混ぜて(A)を調製した。
【0031】
1.2 二酸化炭素の還元実験
内径55mmと62mmのガラス製シャーレを2重にして底部に銅板を敷いたものに1.1で得られた一体化物(A)0.2gを銅版上に一様に散布し、(以降、シャーレ内に銅板と一体化物を配置させたものを試験体と呼ぶ。)静電気除去器(AS ONE株式会社製イオンブロワー AS‐18)を用いてイオン量および風量をHIGHで試験体にイオン風を当てて(一体化物と静電気除去器の間隔を約15cmとし、一体化物がずり落ちない角度にして銅板を静電気除去器に正対させて)一体化物表面の電荷を除去した後、試験体を冷蔵庫(冷蔵庫内での結露を防止するためエステー株式会社製家庭用除湿剤ドライペット(成分塩化カルシウム)を入れた)中で20時間冷却した。冷却後取り出し(取り出し時の冷蔵庫内温湿度は2℃、16%)、ガスバリア袋(大倉工業株式会社製、OE−4)に入れ、入り口を熱シールする。ガスバリア袋に1cm角のウレタンテープを貼り、袋内の空気が約1000mlになるように注射器で空気を注入し、屋外にて紫外光を含む、真夏の太陽光下に表1の実験条件で静置した。実験場所は実施例のすべてで千葉県船橋市 北緯35.70°東経140.02°である。
バリア袋内の試験体の位置での波長365nmでの照度を表1に記す。
照度はウシオ電機株式会社製USHIO紫外線照度計(UNIMETER)UIT201に受光器(UVD‐365PD)を取り付けて測定した。太陽光照射後、袋内のメタノールガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.111L(検出範囲:20〜1000PPM)、ホルムアルデヒドガス濃度を株式会社ガステック製検知管No.91M(検出範囲:8〜6400ppm)を用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのメタノールガスおよびホルムアルデヒドガスのμmol数を算出(ガス濃度(ppm)×残存空気容積(ml)/{照射時間(Hr)×光触媒重量(0.2g)×22400})した。注入した空気の温湿度と実験条件および実験結果は表1および表2の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管2種類の測定で吸引した吸引量を含め1000mlであった。
【実施例2】
【0032】
2.1 一体化物(A)
実施例1で調整、使用した一体化物(A)を用いた。
【0033】
2.2 二酸化炭素の還元実験
実施例2.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は4℃、20%であった。
【実施例3】
【0034】
3.1 一体化物(A)
実施例2で使用した一体化物(A)を用いた。
【0035】
2.2 二酸化炭素の還元実験
実施例3.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は2℃、18%であった。
【実施例4】
【0036】
4.1 一体化物(A)
実施例3で使用した一体化物(A)を用いた。
【0037】
4.2 二酸化炭素の還元実験
実施例4.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は3℃、16%であった。
【実施例5】
【0038】
5.1 一体化物(A)
実施例4で使用した一体化物(A)を用いた。
【0039】
5.2 二酸化炭素の還元実験
実施例5.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は3℃、15%であった。
【実施例6】
【0040】
6.1 一体化物(A)
実施例5で使用した一体化物(A)を用いた。
【0041】
6.2 二酸化炭素の還元実験
実施例6.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は4℃、16%であった。
【実施例7】
【0042】
7.1 一体化物(A)
実施例6で使用した一体化物(A)を用いた。
【0043】
7.2 二酸化炭素の還元実験
実施例7.1の一体化物(A)を用いて、実施例1.2と同様に実施した。
一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は2℃、18%であった。
【実施例8】
【0044】
8.1 一体化物(A)
実施例7で使用した一体化物(A)を用いた。
【0045】
8.2 二酸化炭素の還元実験
実施例8.1の一体化物(A)を用いて、試験体を封入したガスバリア袋の全体をアルミフォイルで巻いて、太陽光が透過しない様にして、それ以外は実施例1.2と同様に実施した。太陽光を遮蔽した状態で室外へ放置した時間は30分間であった。
なお、一体化物を冷蔵庫から取り出した時の庫内温湿度は5℃、23%であった。
【実施例9】
【0046】
9.1 一体化物(A−2)の調製
実施例1.1と同様に、一体化物(A−2)を調整した。
【0047】
9.2 二酸化炭素の還元実験
実施例9.1で調整した一体化物(A−2)を用いた試験体を冷蔵庫に放置しないことを除けば、(試験体を冷蔵庫で冷却しないことを除けば)実施例1.2と同様に実施した。つまり、結露による一体化物表面の水の薄膜が生じない条件で、それ以外の条件は実施例1〜7と同様に実験を行った。
【実施例10】
【0048】
10.1 固体触媒(B)
関東化学株式会社製試薬の酸化ジルコニウム3N(粉末、純度99.9% 粒径約10μm)の0.2gのみを用いた。
【0049】
10.2 二酸化炭素の還元実験
試験体の内部に配置する触媒として、実施例
10.1に記した
固体触媒(B)を用いたこと以外は、実施例1.2と同様に実施した。つまり、一体化物ではなく単一組成の
固体金属酸化物触媒を用いて、それ以外の条件は実施例1〜7と同様に実験を行った。
【実施例11】
【0050】
11.1 一体化物(C)の調製
乳鉢にテイカ株式会社製アナターゼ型の結晶構造を有する白色の二酸化チタンAMT−100(粒径6nm 比表面積260m
2/g)の0.5gと関東化学株式会社製試薬のアルミニウム(粉末、粒径約44μm)の0.5g(AMT100/Al=1/1)を取り均一にかきまぜた後強く擦りながらかき混ぜて一体化物(C)を調製した。
【0051】
11.2 二酸化炭素の還元実験
内径55mmと62mmのガラス製シャーレを2重にして底部に銅板を敷いたものに、11.1で得られた一体化物(C)0.2gを銅版上に一様に散布した試験体を、冷蔵庫(冷蔵庫内での結露を防止するためエステー株式会社製家庭用除湿剤ドライペット(成分塩化カルシウム)を入れた)中で3日間冷却した後取り出し(取り出し時の冷蔵庫内温湿度は2℃、16%)、ガスバリア袋(大倉工業株式会社製、OE−4)に入れ、入り口を熱シールする。ガスバリア袋に1cm角のウレタンテープを貼り、袋内の空気が約1000mlになるように注射器で空気を注入し、屋外にて真夏の太陽光下に30分放置した。(実験場所:千葉県船橋市 北緯35.70°東経140.02°)
バリア袋内の試験体の位置での波長365nmでの照度は太陽に向かって、1.10〜1.33mW/cm
2であった。(照度はウシオ電機株式会社製USHIO紫外線照度計(UNIMETER)UIT201に受光器(UVD‐365PD)を取り付けて測定した。)太陽光照射後、袋内のメタノールガス濃度を北川式ガス検知管No119U、ホルムアルデヒドガス濃度を北川式ガス検知管No171SAを用いて測定し、光触媒1gで1時間照射あたりのメタノールガスおよびホルムアルデヒドガスのμmol数を算出(ガス濃度(ppm)×残存空気容積(ml)/{照射時間(0.5Hr)×光触媒重量(0.2g)×22400})した。注入した空気の温度は31.9℃湿度61%であり、実験条件と実験結果は表1および表2の通りであった。
なお、ブラックライト照射後にバリア袋内に残った気体はガス検知管2種類の測定で吸引した200mlを含め1000mlであった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
また、本実験で用いたバリア袋は、酸素分子や窒素分子は透過しないが、二酸化炭素分子は、比較的透過しやすいことがわかった。したがって、袋内の二酸化炭素分子が消費されると、濃度勾配が生じて、袋の外(つまり、大気中)の二酸化炭素分子が袋内へ侵入し、その二酸化炭素分子も還元されるので、還元生成物であるメタノールやホルムアルデヒドの濃度の合計(ppm)が大気中の二酸化炭素濃度(約400ppm)よりも大きな値となった可能性が高い。仮にそうであれば、実施例の結果は還元前のバリア袋内の二酸化炭素量によらず、本発明の一体化物の二酸化炭素還元能力の真の値が示されたと言える。
【0055】
実施例1〜7では、紫外線エネルギーを含む太陽光を加えた場合であり、5分間という短時間で多量の生成物が得られたが、実施例8で外部からエネルギーを加えなくても生成物が得られている。
実施例1〜7では、微粒子二酸化チタン成分による光触媒反応と一体化物による触媒反応の協奏反応が起こっており、実施例8では、光の照射がないので一体化物の触媒反応のみが起こっている。【0056】
実施例9では、一体化物を冷蔵庫で冷却せず、つまり、一体化物表面に結露が生じず、一体化物表面に薄い水膜が形成されない場合であるが、太陽光を照射しても生成物は検出されなかった。つまり、化学反応の反応場となる水の薄膜が形成できなければ、化学反応が起こらず、生成物が検出されないことがわかる。
【0057】
実施例10では、単一組成の
不均一系固体触媒であるZrO
2固体金属酸化物のみでも太陽光の照射によって、二酸化炭素の還元生成物であるホルムアルデヒドが検出された。
ZrO2は太陽光の波長では光触媒反応が生じないので、この例では、触媒反応のみが起こっている。【0058】
実施例11では、微粒子光触媒と
不均一系金属触媒の一体化物を用いても、多量の生成物が得られた。
この例では、微粒子二酸化チタン成分による光触媒反応と一体化物による触媒反応の協奏反応が起こっている。【0059】
このように
固体触媒が、微粒子光触媒と
不均一系金属酸化物触媒との一体化物であっても、微粒子光触媒と
不均一系金属触媒との一体化物であっても
不均一系金属酸化物のみからなる場合であっても、メタノールやホルムアルデヒドが生成した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法を用いることにより、
不均一系の固体触媒を用いた酸化反応、還元反応を含む種々の反応において生成物の量を増大できる。
実施例に挙げた二酸化炭素の還元による低分子量有機化合物の生成以外にも、
不均一系触媒を用いた水素化反応や還元反応などの現行の化学反応や
化合物の合成方法の代替を含めて幅広く産業上の利用可能性を有する。
特に光触媒と不均一系固体触媒の一体化物(コンポジット)を触媒に用いて光触媒反応と触媒反応の協奏反応を利用する場合には、大きな収量増大効果が得られる。