特許第6409852号(P6409852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409852
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】不定形耐火物の湿式吹付施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20181015BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/16 W
   F27D1/16 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-221361(P2016-221361)
(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公開番号】特開2018-80068(P2018-80068A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2017年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】西尾 竜
(72)【発明者】
【氏名】飯国 恒之
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−154191(JP,A)
【文献】 特開2001−302362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗粒ないし超微粉に粒度調整された耐火性骨材及び耐火性微粉より構成される耐火性原料およびアルミナセメントからなる耐火組成物並びに分散剤を含有してなるキャスタブル粉末に、所定量の水を混練して得られた流動性を有するキャスタブル混練物を圧送機にて吹付ノズルへ圧送し、吹付ノズルにて圧搾空気と共に凝結剤を添加して吹付け施工することからなる不定形耐火物の湿式吹付施工方法において、前記アルミナセメントの配合割合が、1〜15質量%であり、前記分散剤として、ポリアクリル酸ナトリウムまたはポリカルボン酸塩型共重合体の1種または2種を耐火組成物100質量%に対して外掛で0.01〜0.5質量%含有し、前記凝結剤が、珪酸リチウム溶液20〜80質量%と珪酸ソーダ溶液20〜80質量%からなる混合溶液であり、凝結剤の添加量が耐火組成物100質量%に対して外掛けで0.05〜1.5質量%であることを特徴とする不定形耐火物の湿式吹付施工方法。
【請求項2】
珪酸リチウム溶液が、SiO含有量15〜25質量%かつSiO/LiOモル比2.5〜7.5の範囲内の水溶液であり、珪酸ソーダ溶液が、SiO含有量30〜40質量%かつSiO/NaOモル比1.8〜2.5の範囲内の水溶液である、請求項1記載の不定形耐火物の湿式吹付施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、溶融金属処理装置などの工業窯炉用耐火物ライニングの補修およびイニシャルライニングの施工に使用される不定形耐火物の湿式吹付施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物の湿式吹付施工方法とは、予め水によって混練した不定形耐火材料を圧送し、吹付けノズル部において凝結剤を添加して吹付ける施工方法である。この湿式吹付施工方法は、流し込み材の施工で用いられる型枠が必要なく、短時間で施工可能であり、施工体も乾式吹付け施工に比べ緻密で、流し込み施工体並の品質を実現でき、施工の省力化および高耐用化の観点から、不定形耐火物を使用する各工業窯炉の補修及びイニシャルライニングの施工方法として採用されている。湿式吹付施工方法は、耐火材料と凝結剤の凝集反応により窯炉壁、底、天井等に施工体を接着させるものであるが、凝集反応が早い場合においては、接着率が著しく低下して施工体の表面が凝集しすぎて層状の施工体になりやすい。また、湿式吹付施工方法に用いられるセメントを含有する湿式吹付用不定形耐火物は、上記の凝集反応とは別にセメント硬化反応が起こる。このセメント硬化反応が早いほど、天井部を施工する場合や、損耗厚みが厚い箇所の補修およびイニシャルライニング施工の場合においては、非常に有利である。例えば、混銑車のような施工後短時間で傾動や輸送を行わなければならない設備の場合、十分な施工体強度が得られていない状態で傾動または輸送を行うと、施工体が脱落する恐れがある。しかしながら、施工体脱落のリスクを軽減するためには、長い養生期間が必要となり、工事期間が長くなるという問題が生じる。
【0003】
従って、湿式吹付吹施工方法においては、以下の特性を満足することが求められる:
1)凝集反応が適度なスピードで起こり、施工体表面がウエットな状態であり、層状になりにくく、接着率が高いこと;
2)施工体が脱落しない程度の強度を得るまでの時間を短縮するため、セメント硬化反応が出来る限り早く起こること。
【0004】
このような特性を不定形耐火物に付与するために、従来から様々な提案がなされている。例えば、特許文献1の[0047]段落には、「得られた泥しょう状の不定形耐火物は、例えば流し込み、圧入、湿式吹付け等の方法により施工される。湿式吹付け施工する場合は、ノズル又は材料搬送管内で、泥しょう状の不定形耐火物に、急結剤を加える。急結剤としては、アルミン酸ソーダ等のアルミン酸塩、炭酸ソーダ等の炭酸塩、珪酸ソーダ等の珪酸アルカリ若しくは珪酸塩、塩化カルシウム等の塩化物若しくは塩化塩、リチウム塩、硫酸塩、水酸化ソーダ、水酸化カルシウム、石灰乳等の水酸化物若しくは水酸化塩、アルミン酸カルシウム、ポルトランドセメント等の水溶液、懸濁液、又は粉体があり、これらの1種以上を使用することができる。」旨の記載があ
また、特許文献2には、高炉を休風して炉内側の炉壁耐火物の損傷部分に耐火物を吹付け補修する方法において、最大粒径が5.0mm以下で、かつ、0.075mm以下の粒子を25%以上含有する粒度構成の耐火組成物に、耐火組成物に対して所定割合の分散剤を加えて予め均一に混練しておき、このスラリー状の不定形耐火物をノズルまで圧送した後、ノズル部において硬化促進剤を添加し、高圧の気体と共に吹付けることを特徴とする高炉炉壁の熱間補修方法(請求項1)が開示されており、更に、[0030]段落には、硬化促進剤として、アルミン酸カリウム、珪酸ソーダ、珪酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、硫酸、硫酸塩、硝酸塩、炭酸ソーダ、炭酸カリウム、リチウム塩等が採用されることが記載されている。
更に、特許文献3には、粗粒ないし超微粉に粒度調整された耐火性骨材及び耐火性微粉より構成される耐火性原料、12CaO・7Alを実質上含まないアルミナセメント、及びアクリル酸、カルボン酸またはフェノールスルホン酸の誘導体、縮合体、重合体及び共重合体を主成分とする水溶性高分子化合物の1種または2種以上を耐火性原料100質量%に対して外掛で0.01〜0.5質量%含有してなるキャスタブル粉末に所定量の水を混練して得られたキャスタブル混練物を圧送機にて吹付ノズルへ圧送し、吹付ノズルにて圧搾空気と共にリチウム塩溶液を添加して吹付け施工することを特徴とする湿式吹付け用不定形耐火物の施工方法(請求項3)が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、耐火性骨材100重量部に対して塩基性乳酸アルミニウム0.05〜2重量部添加した吹付材を、予め施工水分を添加した後、ノズル内にて珪酸ソーダを添加して吹付けることを特徴とした耐火物吹付け施工方法(請求項1);ノズル内にて珪酸ソーダと共に凝集剤を添加する前記耐火物吹付け施工方法(請求項2)が開示されている。即ち、特許文献4の施工方法は、耐火性骨材に乳酸アルミニウムを添加した吹付材に、凝結剤として珪酸ソーダを使用して乳酸アルミニウムと凝結剤とのゲル化反応を利用することを特徴とするものである。また、特許文献4の[0014]段落には、吹付材の流動性を向上させて添加水分量を低減し、それによって施工体を緻密化するために、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルリン酸ソーダ、ポリカルボン酸、リグニンスルホン酸ソーダなどの分散剤を使用できることが記載されており、更に、[0015]段落には、凝集剤としてアクリルアミド4級塩、ポリアミン4級塩、メタクリル酸エステルなどのカチオン系高分子が例示されている。
【0006】
更に、特許文献5には、溶融金属容器の耐火物の補修などに使用する湿式吹付け用キャスタブルであった、0.1〜3質量%の12CaO・7Alを含むアルミナセメント、10質量%未満の前記以外のアルミナセメント、0.05〜2質量%の乳酸アルミニウム、0.1〜1質量%の分散剤、残部が耐火性の骨材及び微粉とからなることを特徴とする湿式吹付け用キャスタブル(請求項1);前記キャスタブルと水を混練し、更に急結剤として珪酸アルカリ溶液を添加したことを特徴とする湿式吹付け材料(請求項2)が開示されている。即ち、特許文献5では、施工体の強度発現までの時間を短縮するために、12CaO・7AlO3を含むアルミナセメント、および急結剤(凝結剤)とゲル化反応性のある乳酸アルミニウムを含むキャスタブルに、珪酸アルカリ溶液を凝結剤として添加することを特徴とするものである。
【0007】
また、特許文献6には、消石灰を5〜60重量%と、残部が水からなるスラリーであって、前記スラリー100重量%に対し、リチウム塩をLiOに換算して0.01〜10重量%と、分散剤を0.1〜10重量%外掛け添加したリチウム塩を含有する消石灰スラリー系急結剤(請求項1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−156143号公報
【特許文献2】特開2001−64708号公報
【特許文献3】特開2005−154191号公報
【特許文献4】特開平11−183043号公報
【特許文献5】特開2003−192458号公報
【特許文献6】特開2001−278674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特許文献1〜3には、湿式吹付施工に用いられる凝結剤(急結剤)として、液状のアルミン酸アルカリ塩,珪酸アルカリ塩,リチウム塩等を使用することが記載されているが、アルミン酸アルカリ塩,珪酸アルカリ塩等を凝結剤として使用した場合には、混練した不定形耐火材料の凝集反応が遅いので施工体表面がウエットな状態となり、施工体が層状になりにくく、施工時の接着率は高いが、セメント硬化反応が遅いため、損耗厚みが厚い箇所の補修および施工後短時間で傾動や輸送を行わなければならない場合においては施工体の脱落リスクが高く、長い養生期間が必要となり工事期間が長くなるという問題点があった。更に、特許文献3では、分散剤として、アクリル酸、カルボン酸またはフェノールスルホン酸の誘導体またはそれらの縮合体または重合体または共重合体を主成分とする水溶性高分子化合物の1種または2種以上を使用し、凝結剤としてリチウム塩溶液を添加することで、セメント硬化反応が早め、損耗厚みが厚い箇所の補修および施工後短時間で傾動や輸送を行わなければならない場合の施工体が脱落リスクを低減し、工事期間を短縮しようとするものであるが、リチウム塩を凝結剤として添加した場合には、混練した不定形耐火材料を吹付ける際の凝集反応が早いため、接着率が著しく低下し、施工体の表面が早く凝集するためにウエットな状態でなくなるために層状の施工体になり易いという問題点がある。
また、特許文献4の方法において、乳酸アルミニウムはセメントの水和反応を阻害する作用があるため、乳酸アルミニウムを添加した吹付材よりなる施工体は最終強度が得られるまでに長い時間を必要とし、施工後短時間で傾動や移動を行わなければならない場合には、十分な施工体強度が得られず、傾動または輸送を行うと施工体が落下するなど危険性がある。また、セメントを使用せず、乳酸アルミニウムと凝結剤とのゲル化反応のみで硬化させた施工体の最終強度もまた、施工後短時間で傾動や移動を行わなければならない場合には、不十分である。このような理由から施工体に十分な強度が得られるまで養生を行う必要があり、工事時間が長くなったり、また、施工体の最終強度が不足するなどの欠点がある。
更に、特許文献5では、12CaO・7Alを含むアルミナセメントを使用しているため、強度発現性には優れるものの、作業可能時間が短くなるため、搬送ホース内で湿式吹付け材料が硬化してホース内閉塞が生じる場合があり、特に、施工時の温度が高い夏場には、このような問題は顕著となる。また、凝集反応が早く起きやすいため、接着率低下および層状の施工体が生ずるなどの問題もある。
また、特許文献6のリチウム塩を含有する消石灰スラリー系急結剤(凝結剤)では、リチウム塩を含有する消石灰スラリーにおける固体粒子の沈降、粘性の上昇などの問題により、凝結剤搬送ホース内で凝結剤の凝集反応が始まり、ホース内閉塞が生じる場合がある。また、凝集反応が早く起きやすいため、接着率低下および層状の施工体が生ずるなどの問題もある。また、スラリー状の凝結剤は、液状の凝結剤に比べて添加時に均一に混合し難く、施工体の品質が均一になり難いという問題もある。
【0010】
従って、本発明の目的は、付着率が高く、かつ均一な施工体を得ることができる不定形耐火物の湿式吹き付け施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、粗粒ないし超微粉に粒度調整された耐火性骨材及び耐火性微粉より構成される耐火性原料およびアルミナセメントからなる耐火組成物並びに分散剤を含有してなるキャスタブル粉末に、所定量の水を混練して得られた流動性を有するキャスタブル混練物を圧送機にて吹付ノズルへ圧送し、吹付ノズルにて圧搾空気と共に凝結剤を添加して吹付け施工することからなる不定形耐火物の湿式吹付施工方法において、前記アルミナセメントの配合割合が、1〜15質量%であり、前記分散剤として、ポリアクリル酸ナトリウムまたはポリカルボン酸塩型共重合体の1種または2種を耐火組成物100質量%に対して外掛で0.01〜0.5質量%含有し、前記凝結剤が、珪酸リチウム溶液20〜80質量%と珪酸ソーダ溶液20〜80質量%からなる混合溶液であり、凝結剤の添加量が耐火組成物100質量%に対して外掛けで0.05〜1.5質量%であることを特徴とする不定形耐火物の湿式吹付施工方法にある。
【0012】
また、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法は、珪酸リチウム溶液が、SiO含有量15〜25質量%かつSiO/LiOモル比2.5〜7.5の範囲内の水溶液であり、珪酸ソーダ溶液が、SiO含有量30〜40質量%かつSiO/NaOモル比が1.8〜2.5の範囲内の水溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法によれば、湿式吹付工法において、凝集反応が適度なスピードで起こり、施工体表面がウエットな状態であり、接着率が高く、層状になりにくく、かつセメントの硬化反応が早期に生ずるため、施工体が脱落しない程度の強度を得るまでの時間を短縮することができ、これにより、付着率が高く、かつ均一な施工体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法を詳細に説明する。
本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法は、粗粒(例えば、粒径1〜5mm程度)ないし超微粉(例えば、5μm以下程度)に粒度調整された耐火性骨材および耐火性微粉より構成される耐火性原料およびアルミナセメントからなる耐火組成物並びに分散剤を含有してなるキャスタブル粉末に、所定量の水を混練して得られたキャスタブル混練物を圧送機にて吹付ノズルへ圧送し、吹付ノズルにて圧搾空気と共に凝結剤を添加して吹付け施工することからなるものである。
ここで、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法に使用されるキャスタブル粉体を構成する耐火性原料の耐火性骨材および耐火性微粉としては、溶融金属容器、溶融金属処理装置、セメントキルンなどの耐火材料として適当ないずれのものでもよく、例えば、電融または焼結アルミナ、仮焼アルミナ、ボーキサイト、電融、合成または焼結ムライト、シリマナイト、アンダリューサイト、カイヤナイト、バン土頁岩、シャモット、蝋石、溶融シリカ、超微粉シリカ、耐火粘土、電融または焼結マグネシア、電融または焼結スピネル、電融または焼結ジルコニア、ジルコン、クロム鉱、電融または焼結マグネシア−ライム、電融ジルコニア−ムライト、電融アルミナ−ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、天然または人造黒鉛、石油コークス、ピッチコークス、無煙炭、フェノール樹脂、ピッチ等などを挙げることができ、これらを単独で使用するか、これらの2種以上を併用することができる。なお、耐火性原料の配合割合は、85〜99質量%、好ましくは88〜98質量%の範囲内である。
【0016】
次に、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法に使用されるキャスタブル粉体を構成するアルミナセメントとしては、不定形耐火材料に一般的に使用されているいずれのものも使用可能である。例えば、JISの第1種に相当するカルシア含有量15〜22質量%のアルミナセメント、JISの第2種に相当するカルシア含有量25〜30質量%のアルミナセメント、JISの第3種あるいは第4種に相当するカルシア含有量30〜40質量%のアルミナセメント、およびその他のアルミナセメントを単独で使用するか、これらの2種以上を併用することができる。アルミナセメントの配合割合は、1〜15質量%、好ましくは2〜12質量%の範囲内である。アルミナセメントの配合割合が1質量%未満では、養生後に施工体に十分な強度が発現しないために好ましくなく、また、15質量%を超えると、可使時間の確保が難しくなり、ポンプ圧送時の詰りの原因となるために好ましくない。
【0017】
また、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法に使用されるキャスタブル粉体を構成する分散剤としては、アクリル酸、カルボン酸またはフェノールスルホン酸の誘導体、縮合体、重合体または共重合体を主成分とする水溶性高分子化合物の1種または2種以上を使用する。なお、分散剤の配合割合は、上記耐火性原料およびアルミナセメントからなる耐火組成物100質量%に対して外掛けで0.01〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.45質量%の範囲内である。分散剤の配合割合が0.01質量%未満では、十分な分散効果が得らないために好ましくない。また、0.5質量%を超えると、施工体の強度等の機械的特性が低下するために好ましくない。
【0018】
上述の耐火組成物および分散剤からなるキャスタブル粉体には、酸化防止、強度向上および爆裂防止の目的で、アルミニウム、アルミニウム−シリコン合金、アルミニウム−マグネシウム合金、シリコン、マグネシウム等の金属粉、炭化硼素等の炭化物、硼化ジルコニウム等の硼化物、硼珪酸ガラス等のガラス成分を使用することもできる。
【0019】
上述のキャスタブル粉体に、所定量の水を添加、混練して流動性を有するキャスタブル混練物を調製する。水の添加量は、キャスタブル粉末の比重と粒度構成に大きく影響されるが、通常、耐火組成物100質量%に対して外掛けで4.0〜12.0質量%、好ましくは6〜10質量%の範囲内である。この範囲の水分量で容易にポンプ圧送可能な流動性を有するキャスタブル混練物を得ることができる。但し,キャスタブル混練物を長距離、そして、高所まで圧送する場合には、水分量を0.1〜4.0質量%程度多く添加することができる。
【0020】
上述のように調製されたキャスタブル混練物は、圧送ポンプにより吹付ノズルに輸送される。圧送ポンプの種類は、特には限定されるものではなく、例えば、ダブルピストンポンプ、スクイーズポンプ、ダイヤフロムポンプなどを利用することができる。
【0021】
吹付ノズルまで搬送されたキャスタブル混練物に、吹付ノズルにて、圧縮空気と共に凝結剤を添加して吹付け施工する。ここで、凝結剤としては、珪酸リチウム溶液20〜80質量%、好ましくは25〜75質量%と、珪酸ソーダ溶液20〜80質量%、好ましくは25〜75質量%からなる混合溶液を使用する。ここで、珪酸リチウム溶液の割合が80質量%を超えると、凝集速度が速くなりすぎ、吹付ける際の凝集反応が早くなり、接着率が著しく低下し、施工体の表面が早く凝集するためにウエットな状態でなくなるために層状の施工体になり易いために好ましくない。また、珪酸リチウム溶液の割合が20質量%未満となると、セメント硬化反応が遅いため、損耗厚みが厚い箇所の補修および施工後短時間で傾動や輸送を行わなければならない場合において施工体の脱落リスクが高くなり、長い養生期間が必要となり工事期間が長くなるために好ましくない。
【0022】
なお、珪酸リチウム溶液は、SiO含有量が15〜25質量%、好ましくは17〜23質量%の範囲内にあり、かつSiO/LiOモル比が2.5〜7.5、好ましくは3.0〜7.0の範囲内の水溶液である。また、珪酸ソーダ溶液は、SiO含有量が30〜40質量%、好ましくは32〜37質量%の範囲内にあり、かつSiO/NaOモル比が1.8〜2.5、好ましくは2.0〜2.4の範囲内の水溶液である。
【0023】
ここで、分散剤としてアクリル酸、カルボン酸またはフェノールスルホン酸の誘導体、縮合体、重合体または共重合体の1種または2種以上を使用し、凝結剤としてリチウム塩溶液を添加すると、セメント硬化反応が早く始まることは知られているが、リチウム塩溶液のみを凝結剤として使用すると、混練した不定形耐火物を吹付ける際の凝集反応が早いので接着率が著しく低下し、施工体の表面が早く凝集してウエットな状態でなくなるために層状の施工体になり易い。そこで、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法では、凝結剤として珪酸リチウム溶液と珪酸ソーダ溶液の混合溶液を使用することで、凝集反応を遅延させて適度なスピードで反応させることができ、施工体表面がウエットな状態であり、接着率が高く、層状になり難く、かつセメント硬化反応が早い特長を維持することが可能となる。なお、珪酸リチウム溶液以外のリチウム塩溶液として使用しても凝集速度を遅延することができず、凝集速度の適正化、吹付け後の早期強度発現の両立はできない。また、珪酸リチウム溶液と珪酸ソーダ溶液からなる混合溶液を使用することから、スラリー凝結剤のように凝結剤搬送ホース内で凝結剤の凝集反応及び分離作用が始まりホース内閉塞が生じることがなく、凝集反応スピードの適度な調整が可能となる。
【0024】
なお、珪酸リチウム溶液と珪酸ソーダ溶液からなる混合溶液、即ち、凝結剤の添加量は、耐火組成物100質量%に対して外掛けで0.01〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.2質量%の範囲内である。凝結剤には,珪酸リチウムと珪酸ソーダの混合溶液を用いる。なお、凝結剤の添加量が0.01質量%未満では、十分な凝集効果が得られず、また、1.5質量%を超えると、凝集速度が速くなりすぎ、接着率の低下を招くために好ましくない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の不定形耐火物の湿式吹付施工方法を実施例および比較例により更に説明する。
以下の表1および2に実施例を、表3に比較例をそれぞれ示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表中、
電融アルミナは、Al純度が96質量%品である;
シャモットは、Al純度が58質量%品である;
炭化珪素は、SiC純度が87質量%品である;
蝋石は、SiO含有量が79質量%品である;
ヒュームドシリカは、SiO純度99.4質量%品である;
仮焼アルミは、Al純度99.8質量%、平均粒度10μm品である;
アルミナセメントAは、Al50質量%、CaO34質量%、SiO3質量%品である;
アルミナセメントBは、Al70質量%、CaO26質量%品である;
アルミナセメントC、Al78質量%、CaO18質量%品である;
アルミナセメントDは、Al70質量%、CaO26質量%、鉱物相として12CaO・7Al含有品である;
珪酸リチウム溶液(P)は、SiO含有量20質量%、SiO/LiOモル比3.5の水溶液である;
珪酸ソーダ溶液(Q)は、SiO含有量36質量%、SiO/NaOモル比2.1の1号珪酸ソーダ溶液である;
珪酸カリウム溶液は、SiO含有量30質量%、SiO/KOモル比が2.2の水溶液である;
リチウム塩含有消石灰スラリーは、SiO含有量15質量%、SiO/LiOモル比が3.5の水溶液に、消石灰を20質量%含有するものである。
【0030】
評価は以下のように行った:
・「材料付着率(%)」は、以下のように評価した。すなわち、表に従って調製、混練したキャスタブル混練物をダブルピストンポンプを用い、4000kg/時間の速度で湿式吹付ノズルに圧送し、ノスル先端で凝結剤を混合して垂直壁に吹付けた。吹付け量は50kgで、吹付け後,リバウンドした材料を回収して質量を測定し、接着率を測定した。付着率は高いほど好ましく、付着率が80%を超えるものを好ましいと判断した;
・「吹付け後1時間養生後の曲げ強さ(MPa)」は、以下のように測定した。まず、40×40×160mmの金型内に、湿式吹付けによって吹付け施工体を得た。吹付け後、施工体を金枠から取り出し、常温、室内で1時間養生した。1時間養生後、JIS R 2521の耐火物用アルミナセメントの物理試験方法になるミハリエス二重てこ型曲げ強さ試験装置を用いて、曲げ強度を測定した。n=3で測定し、平均値を曲げ強度とした;
・「可使時間(時間)」は、以下のように測定した。まず、表に従って万能混練機を用いて水添加後を3分間混練して混練物を得、次に、ビニール袋内で室温にて保管し、混練物のタップフロー値を、JIS R 2521の耐火物用アルミナセメントの物理試験方法になるフローテーブルおよびフローコーンを用いて測定した。その後、30分毎にタップフロー値を測定し、タップフロー値が150以下となるまでの時間を可使時間とした。一般的には、材料の混練後直ちに吹付け作業にはいるため可使時間は短くても良いと考えられるが、実際の作業上の都合により、1時間程度待機する場合がある。そのため、可使時間は、3時間以上を良好、3時間未満で1時間超を許容範囲とし、1時間以下を好ましくないとした。そのため、可使時間が3時間を超えるものについては、それ以上の測定を行わず「>3」と表記した。
【0031】
実施例は、不定形耐火物の接着性、吹付け後1時間養生後の曲げ強さ、可使時間ともに良好な結果を示した。
それに対し、
比較例1は、アルミナセメント量が0.5質量%と少なく、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例2は、アルミナセメント量が1質量%と多く、可使時間が短すぎ、好ましいものではなかった;
比較例3は、分散剤としてリン酸ーダを用いたものであり、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例4は、分散剤の量が0.005質量%と少なく、水分を添加して混練しても流動性がなく、吹付施工することができなかった;
比較例5は、分散剤の量が0.06質量%と多く、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例6は、特許文献4に準じた吹付材を用いた例であり、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例7は、特許文献3に準じた吹付材を用いた例で、珪酸リチウム溶液を単独で凝結剤として用いており、吹付材の材料接着率が低く、好ましいものではなかった;
比較例8は、珪酸リチウム溶液と珪酸ソーダ溶液の割合が本発明の範囲外にあり、珪酸ソーダ溶液の割合が少く、吹付材の材料接着率が低く、好ましいものではなかった;
比較例9もまた、珪酸リチウム溶液と珪酸ソーダ溶液の割合が本発明の範囲外にあり、珪酸ソーダ溶液の割合が多く、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例10は、特許文献1および2に準じた吹付材を用いた例で、珪酸ソーダ溶液を単独で凝結剤として用いており、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例11は、凝結剤の量が少なく、凝集が弱く、施工体がだれ落ちを生じ、好ましいものではなかった;
比較例12は、凝結剤の量が多く、凝集速度が速く、材料接着率が低下してリバウンドロスが多く、好ましいものではなかった。
比較例13は、特許文献6に準じた吹付材を用いた例で、リチウム塩含有消石灰スラリーを凝結剤に用いており、施工体が層状になっており、吹付け後1時間養生後の曲げ強さが低く、好ましいものではなかった;
比較例14は、特許文献5に準じた吹付材を用いた例で、珪酸カリウム溶液を凝結剤に用いており、可使時間が短く、好ましいものではなかった。