特許第6409870号(P6409870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特許6409870光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子
<>
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000002
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000003
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000004
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000005
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000006
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000007
  • 特許6409870-光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409870
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】光学素子の成形方法、成形型、及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/28 20060101AFI20181015BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20181015BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
   B29C39/28
   B29C39/24
   B29L11:00
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-517925(P2016-517925)
(86)(22)【出願日】2015年5月7日
(86)【国際出願番号】JP2015063238
(87)【国際公開番号】WO2015170721
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-98179(P2014-98179)
(32)【優先日】2014年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】富波 徹
(72)【発明者】
【氏名】古田 勝己
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241071(JP,A)
【文献】 特開2011−245637(JP,A)
【文献】 特開2003−311757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00−39/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側成形型と上側成形型との間に成形材料を挟んで固化させる光学素子用の成形方法であって、
前記下側成形型は、下光学転写面と、光学素子の外形側面を形成する内側壁と、前記内側壁の外側に隣接する下外壁とを有し、
前記上側成形型は、上光学転写面と、鉛直の基準軸に略垂直に延び光学素子の周平面を形成する周平壁と、前記周平壁の外側に隣接する上外壁とを有し、
前記内側壁に対する前記下外壁の角度θ1は、180°よりも大きく、前記周平壁に対する前記上外壁の角度θ2は、180°よりも大きく、
前記内側壁の前記下外壁側の端部は、前記下側成形型と前記上側成形型とを位置決めした状態で、前記周平壁の前記上外壁側の端部よりも外側にある光学素子の成形方法。
【請求項2】
前記角度θ1が270°以上360°以下であり、前記角度θ2が210°以上270°以下である、請求項1に記載の光学素子の成形方法。
【請求項3】
前記内側壁は、上端側に前記基準軸に沿って筒状に延びる部分を有する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の光学素子の成形方法。
【請求項4】
前記下光学転写面と前記上側成形型とを位置決めした状態で、前記内側壁の前記下外壁側の端部と、前記周平壁の前記上外壁側の端部とは、略同じ高さに配置される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子の成形方法。
【請求項5】
前記成形材料の固化前の粘度が5000mPa・s以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学素子の成形方法。
【請求項6】
前記成形材料は、エネルギー硬化性樹脂である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子の成形方法。
【請求項7】
前記成形材料は、光硬化性樹脂である、請求項6に記載の光学素子の成形方法。
【請求項8】
成形材料を受ける下側成形型と、下側成形型に対向して配置される上側成形型とを備え、前記下側成形型及び前記上側成形型間に成形材料を挟んで固めるキャスト成形用の成形型であって、
前記下側成形型は、下光学転写面と、光学素子の外形側面を形成する内側壁と、前記内側壁の外側に隣接する下外壁とを有し、
前記上側成形型は、上光学転写面と、鉛直の基準軸に略垂直に延び光学素子の周平面を形成する周平壁と、前記周平壁の外側に隣接する上外壁とを有し、
前記内側壁に対する前記下外壁の角度θ1は、180°よりも大きく、前記周平壁に対する前記上外壁の角度θ2は、180°よりも大きく、
前記内側壁の前記下外壁側の端部は、前記周平壁の前記上外壁側の端部よりも外側にある成形型。
【請求項9】
請求項8に記載の成形型を用いたキャスト成形によって形成され、前記内側壁に対応する外形基準を有する光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型を用いた光学素子の成形方法に関し、特にエネルギー硬化性樹脂の成形に適する光学素子の成形方法及び成形型、並びに、これらによって得られる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
撮影素子等に用いられるレンズにおいては、携帯端末の普及によって極端な小型化が求められている。これに伴い、それに使用されるレンズも薄肉かつ偏肉のレンズが求められるようになっている。しかし、薄肉かつ偏肉のレンズを射出成形で成形するのは難しいことがわかっている。そこで、薄肉かつ偏肉の成形品に関して優位性のある光硬化性樹脂その他のエネルギー硬化性樹脂を用いてレンズを成形することが考えられる。
【0003】
光硬化性樹脂製のレンズの成形方法として、透明材料からなる上型と下型との間に紫外線硬化樹脂を挟んで、上型と下型とを支持するステージに組み込んだ光源からの紫外光線を型間の紫外線硬化樹脂に照射して、レンズを成形する技術が存在する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、ガラスレンズ等の基材に対して紫外線硬化樹脂を成形型にて被着させる複合素子の成形方法がある(例えば特許文献2参照)。この成形方法では、成形型の転写面上に樹脂を供給し、樹脂の肉厚が適当になるまで基材を成形型に近接させ、適当に近接した状態を維持して成形型の外側から紫外光線を照射する。
【0005】
紫外線硬化樹脂等のエネルギー硬化性樹脂の成形では、外周部が開放された成形型が用いられることから、精密な外形を形成することは難しく、レンズの目的とする外形の外側に樹脂が漏れてバリが形成される。このようなバリが形成された場合、レンズをホルダーに組み込む際にホルダーの内壁面又は内面と干渉してしまう。つまり、レンズの組み付けが困難になったり、レンズの組み付け精度が下がってしまう。なお、バリを切除する工程を設けることもできるが、工程が増加してコスト増加の原因となり、また、切除工程で偏芯が生じる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−242478号公報
【特許文献2】特開2007−15240号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記背景技術の問題に鑑みてなされたものであり、エネルギー硬化性樹脂その他の成形材料によって得た光学素子のバリが他の部品に対する組み付けの妨げとなることを防止できる光学素子の成形方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記のような光学素子の成形方法を実現するための成形型やこれによって作製される光学素子を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る光学素子の成形方法は、下側成形型と上側成形型との間に成形材料を挟んで固化させるものであって、下側成形型は、下光学転写面と、光学素子の外形側面を形成する内側壁と、内側壁の外側に隣接する下外壁とを有し、上側成形型は、上光学転写面と、鉛直の基準軸に略垂直に延び光学素子の周平面を形成する周平壁と、周平壁の外側に隣接する上外壁とを有し、内側壁に対する下外壁の角度θ1は、180°よりも大きく、周平壁に対する上外壁の角度θ2は、180°よりも大きく、内側壁の下外壁側の端部は、下側成形型と上側成形型とを位置決めした状態で、周平壁の上外壁側の端部よりも外側にある。
【0010】
上記成形方法では、下側成形型に内側壁を設けているので、樹脂の広がりを内側壁内にとどめやすい。さらに、内側壁に対する下外壁の角度θ1が180°よりも大きく、内側壁及び周平壁を乗り越えて樹脂が広がることを阻止しやすくなる。この際、内側壁の下外壁側の端部が、周平壁の上外壁側の端部よりも外側にあるので、内側壁に接して端部に達する成形材料があっても、内側壁から内側に延びて対向する周平壁に達しやすくなる。しかも、周平壁に対する上外壁の角度θ2が180°よりも大きいので、周平壁に達した成形材料が端部よりも外側に達しても外側への広がり量を少なくすることができる。以上により、成形材料が内側壁の端部から外側に広がることを阻止しやすくなるので、成形後の光学素子は、内側壁に対応する側面を利用してホルダー等への組み付けが簡易で精密なものとなる。
【0011】
本発明の具体的な側面によれば、上記成形方法において、内側壁は、上端側に基準軸に沿って筒状に延びる部分を有する。この場合、光学素子に筒状の側面を形成でき、ホルダー等への組み付けをより安定化させることができる。
【0012】
本発明の別の側面によれば、下光学転写面と上側成形型とを位置決めした状態で、内側壁の下外壁側の端部と、周平壁の上外壁側の端部とは、略同じ高さに配置される。この場合、下側成形型側に成形材料を溜めて上側成形型によって成形材料を内側にとどめるようにでき、成形材料が内側壁の端部から外側に広がることをより確実に阻止できる。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、成形材料の固化前の粘度が5000mPa・s以下である。成形材料の粘度を5000mPa・s以下とすることで、良好な形状転写性を保つことができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、成形材料は、エネルギー硬化性樹脂である。この場合、成形材料を成形型間に供給する際の粘度を低温でも十分低くすることができ、かつ、薄肉で肉厚に偏りのある光学素子を比較的高精度で成形できる。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、成形材料は、光硬化性樹脂である。この場合、低温で高精度の光学素子を成形することができる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る成形型は、成形材料を受ける下側成形型と、下側成形型に対向して配置される上側成形型とを備え、下側成形型及び上側成形型間に成形材料を挟んで固めるキャスト成形用の成形型であって、下側成形型は、下光学転写面と、光学素子の外形側面を形成する内側壁と、内側壁の外側に隣接する下外壁とを有し、上側成形型は、上光学転写面と、鉛直の基準軸に略垂直に延び光学素子の周平面を形成する周平壁と、周平壁の外側に隣接する上外壁とを有し、内側壁に対する下外壁の角度θ1は、180°よりも大きく、周平壁に対する上外壁の角度θ2は、180°よりも大きく、内側壁の下外壁側の端部は、周平壁の上外壁側の端部よりも外側にある。
【0017】
上記成形型では、下側成形型に内側壁を設けているので、樹脂の広がりを内側壁内にとどめやすい。さらに、内側壁に対する下外壁の角度θ1が180°よりも大きく、内側壁及び周平壁を乗り越えて樹脂が広がることを阻止しやすくなる。さらに、内側壁の下外壁側の端部が、周平壁の上外壁側の端部よりも外側にあるので、内側壁に接して端部に達する成形材料があっても、内側壁から内側に延びて対向する周平壁に達しやすくなる。しかも、周平壁に対する上外壁の角度θ2が180°よりも大きいので、周平壁に達した成形材料が端部よりも外側に達しても外側への広がり量を少なくすることができる。以上により、成形材料が内側壁の端部から外側に広がることを阻止しやすくなるので、本成形型によって成形された光学素子は、内側壁に対応する側面を利用してホルダー等への組み付けが簡易で精密なものとなる。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明に係る光学素子は、上述の成形型を用いたキャスト成形によって形成され、内側壁に対応する外形基準を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1A及び1Bは、実施形態の光学素子の成形方法を実施するための成形型のうち、下側成形型の端面図及び側方断面図である。
図2図2A及び2Bは、上記成形型のうち、上側成形型の側方断面図及び端面図である。
図3】成形型を組み込んだ成形装置を説明する概念図である。
図4】キャスト成形時に相互に位置決めされる上下成形型の配置関係を説明する側方断面図である。
図5図5A及び5Bは、樹脂を供給したキャスト成形の工程を説明する側方断面図及び部分拡大断面図である。
図6図6A及び6Bは、上下成形型の周辺での樹脂の広がり状態を説明する概念図である。
図7】光学素子ホルダーへの組み付けを説明する側方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る一実施形態の光学素子の成形方法について説明する。
【0021】
図1A及び1Bに示す下側成形型30は、本実施形態に係る光学素子の成形方法を実施するための成形型を構成する一方の型部分である。図示の下側成形型30は、光透過性を有するガラスその他の材料で形成されている。下側成形型30は、表面中央側の転写部分31と、転写部分31を背後から支持する基板部分32とを備える。転写部分31は、基板部分32から突起しており、最も外側に外輪突起33を有する。基板部分32は、平板状であり、図示のように円形輪郭を有するが、矩形輪郭を有するものとすることもできる。
【0022】
転写部分31は、光学素子の光学面を形成するための下光学転写面35と、光学素子の周平面を形成する周平壁36と、光学素子の外形側面を形成する内側壁37と、内側壁37の外側に隣接する下外壁38とを有する。下光学転写面35は、全体として凸の非球面形状を有するが、これに限らず凹面とし、或いは球面形状とすることができる。周平壁36は、鉛直の基準軸AXに垂直に延びる輪帯平面であり、下光学転写面35を低い位置で囲んでいる。また、図示の例では、下光学転写面35と周平壁36との間に段差が形成されているが、下光学転写面35の形状に応じて段差を無くすこともできる。内側壁37は、鉛直の基準軸AXに平行に筒状に延びる円筒面部分37aと、円筒面部分37aに対して内側に傾斜したテーパー面部分37bとを有する。下外壁38は、ドーナッツの表面状の環状面であり、転写部分31の環状の側面を構成する。下外壁38は、基板部分32の表面32aから隆起するようにこれから連続して形成されている。
【0023】
図2A及び2Bに示す上側成形型40は、実施形態の光学素子の成形方法を実施するための成形型を構成する他方の型部分である。上側成形型40は、光透過性を有するガラスその他の材料で形成されている。上側成形型40は、表面中央側の転写部分41と、転写部分41を背後から支持する基板部分42とを備える。転写部分41は、基板部分42から突起しており、最も外側に外輪突起43を有する。基板部分42は、平板状であり、図示のように円形輪郭を有するが、矩形輪郭を有するものとすることもできる。
【0024】
転写部分41は、光学素子の光学面を形成するための上光学転写面45と、光学素子の周平面を形成する周平壁46と、周平壁46の外側に隣接する上外壁48とを有する。上光学転写面45は、全体として凹の非球面形状を有するが、これに限らず凸面とし、或いは球面形状とすることができる。周平壁46は、鉛直の基準軸AXに垂直に延びる輪帯平面であり、上光学転写面45を高い位置又はより突出した位置で囲んでいる。また、図示の例では、上光学転写面45と周平壁46とが連続的につながっているが、これらの間に段差を形成することもできる。上外壁48は、根元側で広がるテーパー状の環状面であり、転写部分41の環状の側面を構成する。上外壁48は、基板部分42の表面42aから隆起するようにこれから連続して形成されている。
【0025】
図3は、図1の成形型30,40を組み込んだ製造装置を説明する概念図であり、光学素子の成形方法、具体的にはキャスト成形が実施される。図示の製造装置100は、処理室10中に、下側ステージ11と、下側駆動部12と、上側ステージ13と、上側駆動部14とを収納している。処理室10の外側には、硬化処理時に下側ステージ11の背面側からワークの適所に硬化光KKを照射するUV光源22と、上側駆動部14を昇降させるメイン駆動部23とが設けられている。なお、処理室10内は、真空や窒素パージの環境とできる。この場合、嫌気性のある光硬化性樹脂RAを用いた成形を行うことができる。
【0026】
下側ステージ11は、不図示のチャック部等を有しており、ワークとしての下側成形型30を保持する。下側駆動部12は、下側ステージ11を昇降させる。上側ステージ13は、不図示のチャック部等を有しており、ワークとしての上側成形型40を保持する。上側駆動部14は、上側ステージ13の位置や姿勢を調整する。すなわち、上側駆動部14には、3軸の駆動部、傾斜姿勢を調節する傾斜駆動部等が設けられている。これにより、上側ステージ13は、上側成形型40を支持して3次元的に変位させるとともに例えば鉛直軸の周りに回転させることができる。調整に際して、上側駆動部14の鉛直軸は、下側成形型30の基準軸AXと一致するように設定される。なお、上側駆動部14は、メイン駆動部23に駆動されて昇降する。
【0027】
上記製造装置100において、下側成形型30と上側成形型40との3次元的な並進及び回転に関するアライメントが可能になり、両成形型30,40に形成された不図示のアライメントマークを利用することで下側成形型30と上側成形型40との相対的な配置関係を精密に設定できる。
【0028】
図3の製造装置100等を用いた光学素子の成形方法について説明する。製造装置100に下側成形型30と上側成形型40とを離間させた状態でセットし、下側成形型30上に成形材料である光硬化性樹脂RA(エネルギー硬化性樹脂)を適量供給する。この際、光硬化性樹脂(成形材料)RAの粘度は、1000〜5000mPa・s以下とする。光硬化性樹脂RAの粘度を5000mPa・s以下とすることで、良好な形状転写性を保つことができる。その後、上側成形型40を徐々に降下させて下側成形型30と上側成形型40とを適切な距離に設定する。つまり、両成形型30,40は、成形のため位置決めされた状態とされる。その後は、UV光源22を動作させることで、両成形型30,40間の光硬化性樹脂RAを硬化光KKによって硬化又は固化させることができる。その後、下側成形型30と上側成形型40とを離間させる型開きにより、光硬化性樹脂RAから得た成形品が取り出される。この成形品に対しては、熱処理によってより硬化を進行させ安定した状態にする後加工が可能である。
【0029】
図4は、上下の成形型30,40の形状と配置関係とを説明する図である。下側成形型30において、内側壁37に対するこれに隣接する下外壁38の角度θ1は、180°よりも大きく設定されており、270°以上になっている。一方、上側成形型40において、周平壁46に対するこれに隣接する上外壁48の角度θ2は、180°よりも大きく設定されており、210°以上270°以下になっている。図示のように、下側成形型30に対して上側成形型40を位置決めした状態で、内側壁37の下外壁38側の端部E1は、周平壁46の上外壁48側の端部E2よりも幅hだけ外側にある。つまり、内側壁37の外径は、周平壁46の外径よりも所定以上の幅2hだけ大きくなっている。この幅2hは、光硬化性樹脂RAの変動分を考慮して調整される。同様に、下側成形型30に対して上側成形型40を位置決めした状態で、内側壁37の下外壁38側の端部E1と、周平壁46の上外壁48側の端部E2とは、略同じ高さに配置される。さらに具体的には、内側壁37の端部E1は、これより内側に配置される周平壁46の端部E2よりも若干高くなっている。ただし、内側壁37の端部E1は、周平壁46の端部E2よりも低くすることができる。なお、内側壁37の端部E1を周平壁46の端部E2よりも高くする場合、端部E1が上側成形型40に接触しないようにし、或いは端部E2が下側成形型30に接触しないようにする。
【0030】
図5A及び5Bは、下側成形型30と上側成形型40との間に光硬化性樹脂(成形材料)RAを挟んで硬化させる前の状態を説明する図である。下側成形型30上に供給された光硬化性樹脂RAは、上側成形型40によって押し広げられて内側壁37の内側を満たすが、内側壁37の端部E1を乗り越えて下外壁38側にあふれ出すほどに至っていない。上側成形型40において、光硬化性樹脂RAは、周平壁46の下側を満たし、周平壁46の端部E2を乗り越えるが、上外壁48側に大きく広がることを阻止する力を受ける。
【0031】
図6Aに示すように、下側成形型30において、内側壁37に供給された光硬化性樹脂RAは、内側壁37に沿って上昇するが、端部E1における角度θ1が180°を大きく超えているので、端部E1によるピンニング効果によって光硬化性樹脂RAが端部E1を乗り越えて下外壁38側にあふれ出すことを阻止する。
図6Bに示すように、上側成形型40において、光硬化性樹脂RAは、周平壁46に沿って外側に広がる。そして、光硬化性樹脂RAの供給量があまり多くない場合、端部E2における角度θ2が180°を超えているので、端部E2によるピンニング効果によって光硬化性樹脂RAが端部E2を乗り越えて上外壁48側にあふれ出すことを阻止する。しかしながら、光硬化性樹脂RAの供給量がさらに多い場合、端部E2における角度θ2が180°を大きく超えていないので、光硬化性樹脂RAが端部E1を乗り越えない場合であっても、光硬化性樹脂RAが端部E2を乗り越えて上外壁48側に広がる状態が生じる。ただし、端部E2における角度θ2が180°を超えているので、光硬化性樹脂RAが上外壁48側に大きく広がることを抑制でき、下側成形型30の端部E1を超えて外側に広がることを確実に防止できる。なお、光硬化性樹脂RAの吐出又は滴下については、数%以下のバラツキが生じ得るが、上記ように光硬化性樹脂RAが端部E2を乗り越えて上外壁48側に大きく広がることは確実に防止可能である。
【0032】
図7に示すように、下側成形型30と上側成形型40との間で光硬化性樹脂RAの硬化によって形成された成形品(光学素子)50は、一対の対向する光学転写面35,45の転写によって形成された本体部51と、一対の対向する周平壁36,46及び内側壁37によって形成されたフランジ部52とを備える。本体部51は、一対の光学面51a,51bを有する。フランジ部52の上部には、上外壁48に起因するバリ状の突起部分53が形成されているが、上側に延びており、フランジ部52の側面52aを超えて外側に広がるものとはなっていない。バリ状の突起部分53の内側面53aは、フランジ部52の上面52uに対して角度γをなし、この角度γは、90〜180°となっている。なお、フランジ部52の側面52aは、成形品(光学素子)50の外形基準となっている。また、成形品(光学素子)50の光軸OAは、成形型30,40の基準軸AXと一致するものとなっている。
【0033】
成形品50は、ホルダー60に収納されるように組み付けられる。ホルダー60は、筒状の側壁61と、環状の底部壁62とを有する。成形品50のフランジ部52は、側壁61によって外側への移動が阻止されるように保持され、外形側面である側面52aが内面61aに接する。また、底部壁62によって下側への移動が阻止されるように保持され、下面52bが底面62aに接する。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る光学素子の成形方法によれば、下側成形型30に内側壁37を設けているので、光硬化性樹脂(成形材料)RAの広がりを内側壁37内にとどめやすい。さらに、内側壁37に対する下外壁38の角度θ1が180°よりも大きく、内側壁37等を乗り越えて光硬化性樹脂RAが広がることを阻止しやすくなる。この際、内側壁37の下外壁38側の端部E1が、周平壁46の上外壁48側の端部E2よりも外側にあるので、内側壁37に接して端部E1に達する光硬化性樹脂RAがあっても、内側壁37から内側に延びて周平壁46に達しやすくなる。しかも、周平壁46に対する上外壁48の角度θ2が180°よりも大きいので、周平壁46に達した光硬化性樹脂RAが端部E2よりも外側に達しても外側への広がり量を少なくすることができる。以上により、光硬化性樹脂(成形材料)RAが内側壁37の端部E1から外側に広がることを阻止しやすくなるので、成形後の成形品(光学素子)50は、内側壁37に対応する側面52aを利用してホルダー60等への組み付けが簡易で精密なものとなる。
【0035】
以上、本実施形態に係る光学素子の成形方法、成形型等について説明したが、本発明に係る光学素子の成形方法等は、上記のものには限られない。例えば、上記実施形態の上側成形型40において、周平壁46は、基準軸AXに垂直に延びるものに限らず、基準軸AXに直交する平面に対して若干の傾斜や湾曲を有するものとできる。また、下側成形型30の内側壁37も基準軸AXに対して傾斜し上側で広がるテーパー面とできる。
【0036】
転写部分31,41や光学転写面35,45は、円形に限らず、楕円、四角形その他の多角形とすることができる。
【0037】
以上では、成形型30,40間に成形材料として光硬化性樹脂RAを供給して成形品を得る場合について説明したが、光硬化性樹脂RAに代えて、熱硬化性樹脂等を用いることができる。熱硬化性樹脂を用いる場合、成形型30,40は、紫外線その他の光を透過させるものである必要はない。
【0038】
図3では、ステージ11,13を利用して一対の成形型30,40の位置決めを行っているが、位置決め用の治具を利用して両成形型30,40の位置決め及び固定を行うこともできる。
【0039】
成形型30,40は、一括して多数の光学素子を成形できるものであってよく、多数のレンズ部分を有するレンズアレイとすることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7