(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブレーキ力を評価する工程では、編成ブレーキ中に車輪が滑走した状態、あるいは編成惰行中に測定対象軸にブレーキを掛けて強制的に車輪を滑走させた状態で、前記歪ゲージの検出値に基づき、該車輪の滑り始めのブレーキ力を評価することで、粘着係数測定を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄道車両のブレーキ力評価方法。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は,雨天時のようなレール湿潤条件下ではレール/車輪間の粘着係数が低下し、高い制動性能が得られにくいという面を持っている。
鉄道車両のブレーキ性能は速度を演算して得られる停止距離や減速度を基に評価するが、性能低下の要因には粘着係数の他にブレーキ材の摩擦係数や滑走再粘着制御などが複雑に影響するため、速度波形のみからその要因を特定することは困難である。
【0003】
従来から実施されているブレーキ力の検出手法は、
図22〜
図25に示されるように、あらかじめ定置にて基礎ブレーキ装置の腕部や制輪子吊りに歪ゲージを貼り付けておき、制輪子(ブレーキ有効半径位置)に垂直方向の静荷重を負荷した際に発生する歪量との関係を求めておく。次に走行試験においてブレーキ中の歪量を測定し、定置の結果からブレーキ力(摩擦力)を求めるものである。
例えば、
図22には、新幹線の0〜200系車両のブレーキ装置50においてキャリパ1の腕部となる支持部材1Aに歪ゲージ(図示略)を設けた例が示され、
図23には、新幹線300系以降の車両のブレーキ装置51においてキャリパ2の腕部となる支持部材2Aに歪ゲージ(図示略)を設けた例が示されている。
また、
図24には、ブレーキ装置52において踏面ブレーキ3の支持部材3Aに歪ゲージ(図示略)を設けた例が示され、
図25には、ブレーキ装置53におけるはさみ装置4の支持部材4Aに歪ゲージ(図示略)を設けた例が示されている。
【0004】
従来の粘着係数測定は、編成惰行中に測定対象軸のみにブレーキを掛けて強制的に滑走を発生させ、滑り始めのブレーキ力を従来の手法により測定して求めている。
図26には、200系新幹線の粘着係数を、「レール湿潤」での条件下で速度に対応して測定した結果を示している。
このような手法の長所は、1輪もしくは1軸でのブレーキ力が求まることである。一方で、事前に基礎ブレーキ装置を台車から外して較正する必要があり、工程管理が難しいこと、空気ブレーキ時の測定に限られること、走行振動や押付力成分が外乱として不定に含まれること、さらに編成ブレーキのような滑走再粘着制御を伴う連続的現象と異なる離散的現象であることなど、の短所がある。
【0005】
また、このようなブレーキ力の検出に関連して、特許文献1に示される技術も提供されている。
この特許公報に示される車輪の制動検査システムでは、車輪に働く複数の荷重成分を決定する方法及びシステムに関し、車輪に複数のゲージを設け、これを用いて、歪又は応力を検出可能にする段階と、少なくともいくつかのセンサにおけるセンサ値を本質的に同時に測定する段階とを備える。本特許公報の発明は、センサ値が本質的に同時に測定されるセンサの数が、少なくとも3個であり、測定されたセンサ値に少なくとも部分的に基づいて、複数の荷重成分を決定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の歪ゲージ/歪センサを用いたこれまでのブレーキ力の検出方式では、歪ゲージ/歪センサが設けられる位置又は状態によって様々な検出データが収集されることから、統一したブレーキ力の評価を行うことができず、この点において新しい技術の提供が期待されていた。
【0008】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、車体と台車との間に連結されて進行方向への力を伝達する一本リンクを使用し、該一本リンク上に設置された歪ゲージの検出値に基づき、統一的なブレーキ力の評価を行うことができる、鉄道車両のブレーキ力評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明における鉄道車両のブレーキ力評価方法は、車輪が設けられた台車と、該台車上に空気ばねを介して搭載された車体と、該車体を前記台車に連結して進行方向への力を伝達するリンクと、該リンクの歪みを測定する歪ゲージと、を有する車両のブレーキ力測定方法であって、該歪ゲージにより測定された歪みと、ブレーキ力を発生させる制動信号又はブレーキ力を示す制動検出信号といった制動情報との相関関係を予め求める工程と、該工程で求めた相関関係に基づき、前記歪ゲージで測定された歪みからブレーキ力を発生させる荷重を演算する工程と、該工程により演算された荷重から、前記ブレーキ力が適正であるかどうかを評価する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記のように構成された本発明では、車体を台車に連結して進行方向への力を伝達するリンクに、歪みを測定する歪みゲージを設け、該歪みゲージにより測定された歪みと、前記車輪にブレーキ力を発生させる制動信号(回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧)又はブレーキ力を示す制動検出信号(床上前後加速度)といった制動情報との相関関係を予め(実験・現物試験により)求めておく。
そして、これら相関関係に基づき、歪ゲージで測定された歪みからブレーキ力を発生させるブレーキ荷重を演算し、該演算された荷重からブレーキ力が適正であるかどうかを評価する。
これにより、従来のブレーキ力設計に必要であった粘着係数などの各種膨大なデータに代わって本評価手法を適用すれば,速度やレール環境条件などの影響を受けて複雑な現象となるブレーキ性能について,連続的な現象の把握から性能評価,さらには設計までを統一的に扱うことが可能となる。
【0011】
また、本発明では、前記台車は、前記車輪に連結されて駆動力及びブレーキ力を与える電動機を有する動台車であって、前記相関関係を求める工程では、前記歪みゲージにより測定された歪みと、前記車輪にブレーキ力を発生させる制動信号との相関関係を予め求め、前記荷重を演算する工程では、前工程で求めた相関関係に基づき、前記歪ゲージで測定された歪みから、前記電動機で発生したブレーキ力により生じる荷重を演算することを特徴とする。
【0012】
そして、上記のように構成された本発明では、電動車において、歪ゲージにより測定された歪みと制動情報との相関関係に基づき、該歪ゲージで測定された歪みから、電動機で発生したブレーキ力により生じる荷重を演算することができる。これにより電動車の制動評価を容易に行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明では、前記台車は、前記車輪に駆動力及びブレーキ力を与える電動機を有さない従台車であって、前記相関関係を求める工程では、前記歪みゲージにより測定された歪みと、前記車両内に設置した床上前後加速度センサからの制動に係る制動検出信号との相関関係を予め求め、前記荷重を演算する工程では、前工程で求めた相関関係に基づき、前記歪ゲージで測定された歪みから、前記床上前後加速度に係る荷重を演算することを特徴とする。また、この方法を用いれば、回生失効時における動台車の荷重を演算することができる。
【0014】
そして、上記のように構成された本発明では、従台車において、歪ゲージにより測定された歪みと制動情報との相関関係に基づき、歪ゲージで測定された歪みから、制動情報の1つである床上前後加速度に係る荷重を演算することができる。これにより従台車の制動評価を容易に行うことが可能となる。また、この方法を用いれば、回生失効時における動台車の制動評価も行うことが可能である。
【0015】
また、本発明では、前記車体と台車との間に連結される前記リンクは一本リンクであることを特徴とする。
【0016】
そして、上記のように構成された本発明では、車体と台車との間に連結される一本リンクに歪ゲージを設置した上で、該歪ゲージでの検出値と相関を有する制動情報を予め調べておけば、以降は該歪ゲージでの検出値を参照すれば、車両の制動に係る情報を容易に得ることができ、種々の車両の統一的な制動評価が可能となる。
【0017】
また、本発明では、前記ブレーキ力を評価する工程では、編成ブレーキ中に車輪が滑走した状態、あるいは編成惰行中に測定対象軸にブレーキを掛けて強制的に車輪を滑走させた状態で、前記歪ゲージの検出値に基づき、該車輪の滑り始めのブレーキ力を評価することで、粘着係数測定を行うことを特徴とする。
【0018】
そして、上記のように構成された本発明では、ブレーキ力を評価する工程にて、編成ブレーキ中に車輪が滑走した状態、あるいは編成惰行中に測定対象軸にブレーキを掛けて強制的に車輪を滑走させた状態で、前記歪ゲージの検出値に基づき、該車輪の滑り始めのブレーキ力を評価することで、粘着係数測定を行う。
このとき、歪ゲージでの検出値を参照することで、車両の制動に係る情報を容易に得ることができることから、車輪を滑走させることで実施する、車輪の粘着係数測定を容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車体を台車に連結して進行方向への力を伝達するリンクに、歪みを測定する歪みゲージを設け、該歪みゲージにより測定された歪みと、前記車輪にブレーキ力を発生させる制動信号(回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧)又はブレーキ力を示す制動検出信号(床上前後加速度)といった制動情報との相関関係を予め(実験・現物試験により)求めておく。
そして、これら相関関係に基づき、歪ゲージで測定された歪みからブレーキ力を発生させるブレーキ荷重を演算し、該演算された荷重からブレーキ力が適正であるかどうかを評価する。
これにより、従来のブレーキ力設計に必要であった粘着係数などの各種膨大なデータに代わって本評価手法を適用すれば,速度やレール環境条件などの影響を受けて複雑な現象となるブレーキ性能について,連続的な現象の把握から性能評価,さらには設計までを統一的に扱うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明が適用される鉄道車両における一本リンクを示す図である。
【
図2】歪ゲージで測定された歪量と作用する荷重との関係を示すグラフである。
【
図3】制動情報の1つである回生フィードバック電圧と歪量との関係、及び時間と速度との関係を示すグラフである。
【
図4】回生フィードバック電圧から換算した電制力(回生ブレーキ力)と、歪ゲージで検出した歪量との相関関係を台車毎に示すグラフである。
【
図5】車両に設けられた前後支持剛性の具体例を示す図である。
【
図6】ブレーキ指令を発した際の速度、ブレーキ力、電制力(回生ブレーキ力)との関係を示すグラフである。
【
図7】一本リンクで発生する歪量と床上前後加速度との関係を示すグラフである。
【
図8】ブレーキ指令を発した際の速度、ブレーキ力、床上前後加速度、減速度換算値との関係を示すグラフである。
【
図9】歪みゲージにより測定された歪みと、各種の制動情報との相関性をまとめた表である。
【
図11】(a)電制常用3ノッチ(B3)でのブレーキ力の測定結果を示すグラフ、(b)電制常用最大7ノッチ(B7)でのブレーキ力の測定結果を示すグラフである。
【
図12】速度と台車平均の瞬間摩擦係数(Mc車、空制B7)を示すグラフである。
【
図13】時間毎のブレーキ力の測定結果(レール湿潤)を示すグラフである。
【
図14】時間毎の滑走中における粘着力の推定を示すグラフである。
【
図15】速度と粘着係数との関係を示すグラフである。
【
図16】台車平均のすべり率と接線力係数との関係を示すグラフである。
【
図18】速度に対する車両平均粘着係数の関係を測定した結果(乾燥、セラミック噴射有)を示すグラフである。
【
図19】湿潤、セラミック噴射無の条件下における(a)滑走時の速度波形、(b)車両平均粘着係数の測定結果を示すグラフである。
【
図20】速度に対する車両平均粘着係数の関係を測定した結果(湿潤、セラミック噴射有)を示すグラフである。
【
図21】号車毎における乾燥条件を基準にした湿潤条件におけるブレーキ力の大きさを示すグラフである。
【
図22】0〜200系新幹線のブレーキ装置を示す図である。
【
図23】300系以降の新幹線のブレーキ装置を示す図である。
【
図25】軸ディスクブレーキのはさみ装置を示す図である。
【
図26】速度と粘着係数との関係を計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について、
図1〜
図21を参照して説明する。
図1は本発明に係る鉄道車両10における、台車11と該台車11上に搭載された車体12との接続箇所を示す正面図であって、車体12側に固定された連結部材13と、台車11側に固定された台車枠14との間には、牽引装置の一本リンクLが設けられている。
【0022】
ここで使用される鉄道車両10は車体12と台車11ともに軽量化が進められており、台車11として空気バネ式ボルスタレス台車の使用が主流になっている。
この鉄道車両10は、車体12と台車11枠の間を許容変位の大きな空気バネで直結し、駆動力及びブレーキ力を一本リンクLからなる牽引装置で伝達する方式である。
一本リンクLはこれまでの中心ピン−心皿方式とは異なる単純形状であり、加減速時の力の計測が比較的容易になる利点がある。
このため、本発明では、
図1に示されるように、一本リンクLに歪ゲージGを設置し、一本リンクLに作用する牽引力によって生じる歪量からブレーキ力を測定する新たな手法を見出すものである。また、本発明に適用される一本リンクLは、在姿状態での仮設が容易であり、編成ブレーキ中の各台車11に働くブレーキ力について、電気ブレーキ、空気ブレーキともに精度の高い測定が可能となる特長を持つ。
【0023】
一本リンクLに設けられる歪ゲージGは、
図1に示されるように、一本リンクLの周面の途中に設置されるものであって、一本リンクLの幹部に作用する引張・圧縮荷重を測定するために4アクティブゲージ法(直交配置法)を適用している。
この測定方式は1ゲージ法に比べて、曲げ成分の消去、歪の感度向上、温度補償機能などの利点が得られるものである。
【0024】
また、本発明に係る鉄道車両10では、一本リンクLの一般的な形状(外径70mm、内径40mm)を例として、軸方向荷重P(kN)の理論値は、歪量s(με)を用いて以下の数式1で求めることができる。
数式1
P=0.205s
【0025】
数式1で求めた理論値と単体荷重試験の結果の比較は
図2に示される。そして、
図2を参照して分かるように、単体荷重試験の実測値である引張(
図2に○で示す)及び圧縮(
図2に□で示す)についての荷重は、数式1で示される理論値とほぼ一致することが確認されている。
なお、数式1に示される係数「0.205」は、以降の説明において「較正係数」と表記する。
【0026】
〔歪ゲージGを用いたブレーキ荷重の測定例〕
上述した手法を用いて、初速度170km/hから常用最大B7ブレーキを掛けた際の動台車(新幹線M車)の実測例を
図3に示す。
車両のブレーキ制御装置や主変換装置から得られるブレーキ情報は、ブレーキノッチ、速度、BC圧、回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧といった制動情報などがあるが、以下の
図3では、制動情報の1つである回生フィードバック電圧(符号c1)と歪量(符号c2)との関係が、時間と速度(符号c3)との関係に対応している。回生フィードバック電圧(符号c1)は、ブレーキ指令(符号c4)に基づき目標として出力された回生ブレーキパターン電圧(符号c5)により発生する。
【0027】
そして、この
図3を参照して分かるように、回生フィードバック電圧と歪量は同じ傾向を示し、高い相関性がある。したがって、歪ゲージGで検出した歪量を回生フィードバック電圧から換算した電制力で較正するのが妥当である。
【0028】
図4には、回生フィードバック電圧から換算した電制力と、歪ゲージGで検出した歪量との相関関係が示されている。
すなわち、
図4の左図には、鉄道車両の進行方向に対して前位となるNo.2(2番目)の台車に、圧縮荷重が作用して負の歪値となることが示され、また、後位となるNo.1(1番目)の台車に引張荷重が作用して正の歪値になることが示されている。ここで、電制力に対して実際に得られる歪量は理論値よりも低く、その較正係数は理論値の0.205に対して、約0.3であることが確認できる。
【0029】
較正係数が理論値と異なる要因は、
図5に示されるように、台車11と車体12のバネ系、すなわち、車体12間の連結器20及びダンパ21、台車11に設けられるヨーダンパ22、空気バネ23等の前後支持剛性が影響していると考えられる。
こうした較正係数の傾向は、他の車両においても同様で、0.25〜0.35の値となることから、ブレーキ力の約20〜30%は一本リンクL以外の支持系で負担していることを示している。これは、前後支持剛性の異なる動台車(電動車)と従台車(付随車)とで較正係数が一致しないことからも符合する。
【0030】
得られた較正係数を用いて歪量からブレーキ力を換算し、電制力と比較した時系列データを、
図6に示す。
図6は、ブレーキ指令(符号d1)を発した際の速度(符号d2)、ブレーキ力(符号d3)、電制力(符号d4)との関係を示すグラフである。
この
図6を参照して分かるように、ブレーキ力と電制力の双方は一致した傾向を示していることから、本手法は精度が高いと言うことができる。
なお、
図6では、停止間際で両者に差異が生じているが、これは車両が電気ブレーキから空気ブレーキに切り換える制御を行っているためである。
このように、本手法は電気ブレーキと空気ブレーキのいずれにおいても精度の高い測定が可能である。
【0031】
以上は、電制力が得られる動台車(電動車)の事例であるが、動力を有さない従台車(付随車)の場合における較正手法について、
図7〜
図9を参照して説明する。
【0032】
従台車の一部には渦電流ブレーキ(ECB)が搭載されているが、基本的には在来線車両、新幹線車両ともに空気ブレーキのみが作用し、摩擦力は指令値(空制加減算電圧)で定めるBC圧に対して変動することから、指令値との比例関係が明確な電制力のような較正手法が適用できない。
【0033】
そこで、従台車の較正は、
図7に示すように、一本リンクLで発生する歪量(歪ゲージGで検出したデータを「○」で示す)の台車毎の合計と、付随車の車体床面上に別途、設置された床上前後加速度が比例関係にあることを利用して行なうことができる。
【0034】
ただし、較正の対象とするデータはブレーキ負担率が自車100%の設定時に限ること、較正精度は電制力を用いた手法に劣るなどの制約条件がある。
負担率が自車100%とならない場合として、おくれ込め制御を搭載している車両の例を挙げる。電動車の電気ブレーキで編成の必要ブレーキを負担している場合は、付随車には40kPa程度の初込め圧しか作用しない。
また、電動車の回生効率が低くなおかつ変動する場合や高いブレーキノッチにおいて、編成の必要ブレーキ力の不足分を付随車の空気ブレーキが補足する場合は、BC圧が時々刻々と増減する。いずれも床上前後加速度とブレーキ力は一致せず、適用できない。
【0035】
以下に、具体的な較正方法について述べる。いま、No.1台車とNo.2台車の較正係数がともにa、No.1台車の歪量をS1(με)、No.2台車の歪量をS2(με)、床上前後加速度をβ(km/h/s)、車両重量をM(ton)、慣性係数をk(電動車:1.1、付随車:1.05)とすると、較正係数aは数式2で与えられる。これを各ノッチ条件におけるブレーキの開始から停止までを測定サンプリング毎に算出し、係数aの値が安定する時刻範囲で平均化して求める。
数式2
a=Mkβ/{3.6(|S1|+|S2|)}
【0036】
図8は、ブレーキ指令(符号e1)を発した際の速度(符号e2)、床上前後加速度(符号e3)、回生フィードバック電圧で較正したブレーキ力の減速度換算値(符号e4)、床上前後加速度値で較正した結果(符号e5)を示すグラフである。
図8に示される較正結果を参照して分かるように、ブレーキ力を示す減速度換算値(e4)と、床上前後加速度(e3)で較正した結果(e5)は良く一致している。
ブレーキの始めと停止において、減速度換算値(e4)及び床上前後加速度(e3)で較正した結果(符号e5)と、床上前後加速度(e3)との間に顕著な差異が生じているのは、ブレーキ中の荷重移動で生じる台車と車体の間のモーメントにより、車体が前後にピッチ運動した影響と考えられる。それ以外の部分では良い一致を示している。
【0037】
また、このような床上前後加速度と、一本リンクLで発生する歪量との間には一定の相関関係があることから、一本リンクLの歪ゲージGで検出した歪量から、回生失効時における電動車の制動評価や空気ブレーキ時の制輪子あるいはライニングの摩擦係数(台車平均)を求めることも可能となり、摩擦係数のフェード現象がブレーキ力低下に影響するか否かを即座に判定することができる。
【0038】
以上のような本発明の手法により、一本リンクLに設置された歪みゲージGにより測定された歪みと、前記車輪にブレーキ力を発生させる制動信号(回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧)又はブレーキ力を示す制動検出信号(床上前後加速度)といった制動情報との相関関係を予め求め、その相関関係の高さを、測定精度として、「◎、○、△、×」で評価した結果を
図9に示す。
そして、
図9の結果を参照して分かるように、新幹線の動台車において歪ゲージGでの検出値と、回生フィードバック電圧(FB)との間に極めて高い相関性があることが確認された(◎で示す)。また、制動検出信号となる床上前後加速度(GF)については、動台車及び従台車のいずれも歪ゲージGでの検出値と高い相関性があることが確認された(○で示す)。
【0039】
〔歪ゲージGを用いたブレーキ力の評価〕
本発明は、歪みゲージGにより測定された歪みと、車輪にブレーキ力を発生させる制動信号(回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧)又はブレーキ力を示す制動検出信号(床上前後加速度)といった制動情報との相関関係を予め(実験・現物試験により)求めておき、これら相関関係に基づき、歪ゲージで測定された歪みからブレーキ力を発生させる荷重(ブレーキ力)を演算し、該演算された荷重からブレーキ力が適正であるかどうかを評価する手法である。
そして、このような手法を用いたブレーキ評価を、在来線車両及び新幹線により行った結果を以下に示す。
【0040】
《1》在来線車両
図10に示すように、3両編成(1M2T)の在来線車両を供試編成として走行試験を実施した。
なお、
図10において、「Mc」を制御電動車、「Tpc」を制御付随車、「T」を付随車と表現する。
測定項目は、ブレーキノッチ、各軸速度(全軸)、BC圧(全軸)、回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、空制加減算指令電圧、一本リンクLの歪(全台車)、床上前後加速度(全号車)、滑走防止弁信号(全軸)である。なお、ブレーキ制御はT車優先おくれ込め制御方式、滑走制御は各軸制御方式である。
【0041】
そして、本測定では、上記測定項目の中の回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、床上前後加速度と一本リンクLの歪(歪ゲージGで測定)との相関関係を予め求めておき、これら相関関係に基づき、歪ゲージで測定された歪みからブレーキ力を発生させる荷重(ブレーキ力)を演算し、該演算された荷重からブレーキ力が適正であるかどうかを評価している。
【0042】
(1.1)レール乾燥条件におけるブレーキ力
電制常用3ノッチ(B3)の測定結果を
図11(a)に示す。B3は回生有効の場合にMc車で編成のブレーキ力を負担する設定である。
各号車はブレーキ指令とともに、空気ブレーキを立ち上げるが、Mc車の電制力の立ち上がりを受けて、T車及びTpc車は初込め圧まで抑えている。編成合計(符号f1で示す)のブレーキ力は必要ブレーキ力(100%)(符号f2で示す)を満足しており、その後、Mc車は速度20km/hから回生ブレーキを絞り込むのに応じて、T車及びTpc車の空気ブレーキが補足している。
電制常用最大7ノッチ(B7)の測定結果を
図11(b)に示す。B7は回生有効の場合にT車及びTpc車が自車分に加えて、Mc車の一部のブレーキ力を負担する設定である。Mc車は所定の電制力に達するまで空気ブレーキで補足し、その後は初込め圧まで抑え、速度10km/hからは再び空気ブレーキで負担する。
【0043】
一方、T車及びTpc車は初速から停止まで自車分を空気ブレーキで負担し、編成全体で必要ブレーキ力を満足している。いずれの号車も自重に応じた(応荷重)ブレーキ力が得られ、良好なおくれ込め制御が行われている。
次に、空気ブレーキ時における制輪子の摩擦係数を算出した例を挙げる。T車及びTpc車は軸ディスクブレーキと踏面ブレーキの分担方式を採用しているため、各々の摩擦材特性を把握できないが、踏面ブレーキのみを搭載しているMc車については台車毎の摩擦係数を本手法により求めることができ、その結果を
図12に示す(
図12において、No.1台車のグラフを符号g1、No.2台車のグラフを符号g2で示す)。
【0044】
各台車ともに同等の摩擦係数であることが分かる。
以上のことから、本手法により車両のブレーキ力及びその制御状態が把握可能であることが示された。
【0045】
(1.2)レール湿潤条件におけるブレーキ力
自然降雨時にレール/車輪間の粘着係数が低下してMc車に滑走が発生した電制常用3ノッチ(B3)の測定結果を
図13に示す。
Mc車は大きな滑走が生じて電制失効に至らぬよう電制力を絞り込むと同時に、空制加減算指令をT車及びTpc車のブレーキ制御装置へ送る。これを受けてT車及びTpc車は直ちに空気ブレーキ(BC圧)を立ち上げてMc車のブレーキ力の不足分を補う制御を行っている。編成のブレーキ力(符号h1で示す)は、Mc車の滑走発生とその制御により低下し、必要ブレーキ力(符号h2で示す)に対し増減を繰り返しているが、ブレーキ距離の延伸率は約10%に抑えられており、ブレーキ性能に問題はない。
【0046】
次に、滑走中におけるブレーキ力の挙動について述べる。
図14は同一従台車の2軸が同時に滑走した例である。両軸とも所定のBC圧に達する前に滑走が発生し、BC圧に比例したブレーキ力(符号i1で示す)が得られていない。その後、各軸のBC圧は滑走再粘着制御の検知条件によりユルメ、保ち、込めの各動作を行い、再粘着を検知してから所定圧まで込めている。
ここで、滑走収束傾向から再粘着に至る際のブレーキ力に着目する。両軸はともに滑走し、なおかつBC圧は所定の値に達していないにも関わらずブレーキ力が急増して極大値が存在している。
研究によると、この現象は巨視すべり領域における粘着力(符号i2で示す)の増大であることを示している。巨視すべり領域における最大粘着力は、車輪踏面上の接線力をF
b(N)、最大粘着力をF
m(N)、車輪の慣性モーメントをI(kg・m
2)、車輪径をR(m)、編成の減速度をβ(km/h/s)、車輪の減速度をβ
w(km/h/s)とし、以下の数式3で与えられる。
数式3
F
m=F
b−{(I/R
2)(−β−β
w)}
【0047】
図14から、推定した最大粘着力とブレーキ力は同様の傾向であることが分かり、本手法では滑走制御中におけるブレーキ力の詳細な挙動も把握可能であることが示された。なお、滑走再粘着制御では、滑走収束傾向から再粘着に至る過程において増大する粘着力を如何に有効活用できるかが課題とされ、ファジー推論を用いた研究などが行われている。
【0048】
(1.3) 粘着係数と接線力係数
前述の供試編成とは異なる編成(1M2T)を用いて、Mc車の先頭軸及び第3軸に散水(1輪あたり毎分5リットル)を行い、編成ブレーキを掛けて人為的に大きな滑走を生じさせた際の事例を挙げる。
図15は、ブレーキ力は台車の片軸が滑り始める瞬間まで均等分担しているものと仮定し、粘着係数を求めたものである。湿潤条件の粘着計画式に沿った測定結果が得られている(乾燥した条件下での粘着係数を符号j1、湿潤した条件下での粘着係数を符号j2で示す)。
また、
図16は、滑走制御中におけるすべり率を台車平均し、台車の接線力係数との関係を求めたものである。接線力係数はいずれの台車もすべり率の増大に従って低下する傾向を示した。特に、比較的大きな滑走が連続的に発生してすべり率が最大で30%に達したNo.2台車では、その傾向が顕著であった。これらの結果は、過去の研究で得られた知見と一致しており、本手法の有効性の高さが示された。
【0049】
《2》新幹線車両
高速度域における測定事例として、新幹線車両を挙げる。
図17に示す8両編成(8M)の新幹線車両を供試編成として走行試験を実施した。
測定対象は、従来の知見から滑走回数が多いとされる先頭1号車から4号車までとした。測定項目は、ブレーキノッチ、各軸速度(全軸)、BC圧(全軸、全台車)、回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、一本リンクLの歪(全台車)、床上前後加速度(全号車)、滑走防止弁信号(全軸、全台車)である。なお、滑走制御は先頭車が各軸制御方式、中間車は台車制御方式である。
ブレーキ条件は、初速度300km/hからの電制非常ブレーキ(EB)とした。これは、常用最大7ノッチ相当のブレーキ力を電気ブレーキ、残りを空気ブレーキで補足するものである。また、非常ブレーキ指令と連動して先頭軸に搭載しているセラミック噴射装置(符号30で示す)から増粘着用のアルミナ粒子が1分間噴射される仕組みとなっている。先頭から2軸目及び6軸目に散水ノズル(符号31で示す散水軸に設ける)を取り付け、1輪あたり毎分5.5リットルの散水を行った。
【0050】
通常、新幹線車両のブレーキ性能は減速度で評価するが、新幹線の場合、高速度域における低粘着の影響で連続滑走(ダラダラ滑走)が頻発する。このため、編成ブレーキ中では滑り始めのブレーキ力から粘着係数を求めることができない。そこで、各時刻におけるブレーキ力から車両平均の粘着係数を求めることにより、ブレーキ力の設定値、実測値、計画値をまでを一律に評価することとした。
これによって、減速度やブレーキ負担率の策定が容易になる。乾燥時におけるセラミック噴射有の現行条件では、計画粘着係数(符号Aで示す)に関して、
図18に示されるように、いずれの号車(符号A1〜A4で示す)についても、EB設定減速度(符号A5で示す)を満足している。また、
図18に符号A6で示されるのは、湿潤時における同条件での計画粘着係数である。
【0051】
湿潤にセラミック噴射無の条件では、
図19に示されるように、1号車及び2号車に連続滑走が生じて湿潤の計画粘着係数付近まで低下している(
図19では、試験結果を符号A’及びA1’〜A6 ’でそれぞれ示す)。
こうした傾向にはレール/車輪間の低粘着状態に加えて滑走再粘着制御も影響しているが、ブレーキ距離の延伸率は約2%に抑えられ、ブレーキ性能に問題はない。湿潤にセラミック噴射有の条件では、滑走の発生が抑制されて1号車はEB設定減速度まで回復、2号車はEB設定減速度を下回ったが、セラミック噴射無の条件よりも改善されている(
図20では、試験結果を符号A’’及びA1’’〜A6’’でそれぞれ示す)。これは、結果的に2号車のレール/車輪間へ回り込んだ水分量が最も顕著であった影響によるものと考えられる。
【0052】
図21はブレーキ力をブレーキ時間で平均し、乾燥条件との比率を求めたものであって、号車毎におけるブレーキ力の大きさを棒グラフで表示している(
図21において、符号B1は乾燥条件下でセラミック噴射を行った場合のブレーキ力、符号B2は湿潤条件下でセラミック噴射を行わなかった場合のブレーキ力、符号B3は湿潤条件下でセラミック噴射を行った場合のブレーキ力をそれぞれ示している)。
そして、これらの結果を参照して分かるように、セラミック噴射無の条件では1号車及び2号車がともに約60%まで低下しているが、セラミック噴射有では乾燥条件とほぼ同等レベルまで回復している。
【0053】
以上の結果から、従来のブレーキ力設計に必要であった粘着係数などの各種膨大なデータに代わって本評価手法を適用すれば、速度やレール環境条件などの影響を受けて複雑な現象となる粘着ブレーキ性能について、連続的な現象の把握から性能評価、さらには設計までを統一的に扱うことが可能となる。
【0054】
以上詳細に説明したように本発明の実施形態に示される鉄道車両10のブレーキ力評価方法によれば、車体12を台車11に連結して進行方向への力を伝達するリンクLに、歪みを測定する歪みゲージGを設け、該歪みゲージGにより測定された歪みと、前記車輪にブレーキ力を発生させる制動信号(回生ブレーキパターン電圧、回生フィードバック電圧、モータ電流、空制加減算指令電圧)又はブレーキ力を示す制動検出信号(床上前後加速度)といった制動情報との相関関係を予め(実験・現物試験により)求めておく。
そして、これら相関関係に基づき、歪ゲージGで測定された歪みからブレーキ力を発生させる荷重(ブレーキ力)を演算し、該演算された荷重からブレーキ力が適正であるかどうかを評価する。
これにより、従来のブレーキ力設計に必要であった粘着係数などの各種膨大なデータに代わって本評価手法を適用すれば,速度やレール環境条件などの影響を受けて複雑な現象となるブレーキ性能について,連続的な現象の把握から性能評価,さらには設計までを統一的に扱うことが可能となる。
また、本評価手法は、測定に関わる準備作業量を軽減しながら、電気ブレーキあるいは空気ブレーキを問わず、高い精度でブレーキ力の測定及び評価が可能である。
【0055】
また、本発明の実施形態に示される鉄道車両10のブレーキ力評価方法によれば、電動車の車両10において、歪ゲージGにより測定された歪みと制動情報との相関関係に基づき、該歪ゲージGで測定された歪みから、電動機で発生したブレーキ力により生じる荷重を演算することができる。これにより電動車の制動評価を容易に行うことが可能となる。
【0056】
また、本発明の実施形態に示される鉄道車両10のブレーキ力評価方法によれば、付随車の車両10において、歪ゲージGにより測定された歪みと制動情報との相関関係に基づき、歪ゲージGで測定された歪みから、制動情報の1つである床上前後加速度に基づく制動に係る荷重を演算することができる。これにより付随車の制動評価を容易に行うことが可能となる。
【0057】
また、本発明の実施形態に示される鉄道車両10のブレーキ力評価方法によれば、車体12と台車11との間に連結される一本リンクLに歪ゲージGを設置した上で、該歪ゲージGでの検出値と相関を有する制動情報を予め調べておけば、以降は該歪ゲージGでの検出値を参照すれば、車両10の制動に係る情報を容易に得ることができ、種々の車両10の統一的な制動評価が可能となる。
【0058】
また、本発明の実施形態に示される鉄道車両10のブレーキ力評価方法によれば、ブレーキ力を評価する工程にて、編成ブレーキ中に車輪が滑走した状態、あるいは編成惰行中に測定対象軸にブレーキを掛けて強制的に車輪を滑走させた状態で、前記歪ゲージGの検出値に基づき、該車輪の滑り始めのブレーキ力を評価することで、粘着係数測定を行う。
このとき、歪ゲージGでの検出値を参照することで、車両10の制動に係る情報を容易に得ることができることから、車輪を滑走させることで実施する、車輪の粘着係数測定を容易に行うことが可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。