(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410089
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】半導体素子被覆用ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/066 20060101AFI20181015BHJP
C03C 8/20 20060101ALI20181015BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20181015BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20181015BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20181015BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
C03C3/066
C03C8/20
H01L23/30 G
H01L23/00 C
H01L21/316 G
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-182838(P2014-182838)
(22)【出願日】2014年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-56052(P2016-56052A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 欣克
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/027636(WO,A1)
【文献】
特開昭54−119513(JP,A)
【文献】
特開平02−311330(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/093177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
H01L 21/316
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、ZnO 50〜62%(ただし62%を含まない)、B2O3 19〜28%、SiO2 12.5〜15%、Al2O3 4〜12%を含有し、アルカリ金属成分、鉛成分、Bi2O3、Sb2O3及びAs2O3を実質的に含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラス。
【請求項2】
さらに、質量%で、MnO2 0〜5%、Nb2O5 0〜5%、及びCeO2 0〜3%を含有することを特徴とする請求項1に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項3】
表面電荷密度が7×1011/cm2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体素子被覆用ガラスからなる半導体素子被覆用ガラス粉末。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部と、TiO2、ZrO2、ZnO、αZnO・B2O3、2ZnO・SiO2、コーディエライト及び石英から選択される少なくとも1種の無機粉末0.01〜5質量部を含有することを特徴とする半導体素子被覆用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はP−N接合を含む半導体素子の被覆用として用いられるガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンダイオードやトランジスタ等の半導体素子は、外気による汚染を防止する観点から半導体素子のP−N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)被覆時に半導体素子との熱膨張係数差が原因となってクラック等が発生しないように、熱膨張係数が半導体素子の熱膨張係数に適合すること、(2)半導体素子の特性劣化を防止するため、比較的低温(例えば900℃以下)で被覆できること、(3)半導体素子の特性に悪影響を与えるアルカリ金属成分等の不純物を含まないこと、(4)半導体素子表面被覆後の電気特性として、逆耐圧が高く、漏れ電流が少ない等の高い信頼性を有すること、等が挙げられる。
【0004】
従来、半導体素子被覆用ガラスとしては、ZnO−B
2O
3−SiO
2系等の亜鉛系ガラスや、PbO−SiO
2−Al
2O
3系或いはPbO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系等の鉛系ガラスが知られており、作業性の観点からPbO−SiO
2−Al
2O
3系およびPbO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系等の鉛系ガラスが主流となっている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−49653号公報
【特許文献2】特開昭50−129181号公報
【特許文献3】特開昭48−43275号公報
【特許文献4】特開2008−162881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PbO等の鉛成分は環境負荷が大きい成分であることから、近年、電気及び電子機器での使用が規制されつつあり、各種材料の無鉛化が進んでいる。既述のZnO−B
2O
3−SiO
2系等の亜鉛系ガラスにも、少量の鉛成分を含有しており環境の面から使用が制限されるものもある。
【0007】
一方で、鉛成分を含有しないガラスは表面電荷密度が低いものが主流であり、中〜高耐圧用の半導体素子に対応するのが困難である。高表面電荷密度を有する半導体素子被覆材料として、Bi
2O
3を含有するガラスからなる材料も提案されているが、Bi
2O
3は鉛と同様に環境への負荷が懸念されている。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、環境への負担が小さく、かつ表面電荷密度が大きい半導体素子被覆用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、特性組成を有するZnO−B
2O
3−SiO
2系ガラスにより前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0010】
即ち、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、質量%で、ZnO 50〜62%(ただし62%を含まない)、B
2O
3 19〜28%、SiO
2 8〜15%(ただし8%を含まない)、Al
2O
3 3〜12%を含有し、アルカリ金属成分、鉛成分、Bi
2O
3、Sb
2O
3及びAs
2O
3を実質的に含有しないことを特徴とする。
【0011】
なお本発明において、「実質的に含有しない」とはガラス成分として意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めた該当成分の含有量が、質量%で0.1%未満であることを意味する。
【0012】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、さらに、質量%で、MnO
2 0〜5%、Nb
2O
5 0〜5%、及びCeO
2 0〜3%を含有することが好ましい。
【0013】
本発明の半導体素子被覆用ガラス粉末は、上記の半導体素子被覆用ガラスからなることを特徴とする。
【0014】
本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部と、TiO
2、ZrO
2、ZnO、αZnO・B
2O
3、2ZnO・SiO
2、コーディエライト及び石英から選択される少なくとも1種の無機粉末0.01〜5質量部を含有することを特徴とする。
【0015】
特に、Si等の半導体素子と被覆用ガラスの接触面積が非常に大きい場合には、クラック等の発生を抑制するため、半導体素子と被覆用ガラスとの熱膨張係数が近いことが望ましい。被覆用ガラスの熱膨張係数は、ガラス中に含まれる結晶成分により調整することができるが、析出結晶量を適切に制御することは非常に困難である。そこで、半導体素子被覆用ガラス粉末に対して、上記の無機粉末を適宜添加すれば、これらの無機粉末が核形成剤の役割を果たすため、析出結晶量を比較的容易に制御できる。結果として、所望の熱膨張係数を容易に達成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、質量%で、ZnO 50〜62%(ただし62%を含まない)、B
2O
3 19〜28%、SiO
2 8〜15%(ただし8%を含まない)、Al
2O
3 3〜12%を含有し、アルカリ金属成分、鉛成分、Bi
2O
3、Sb
2O
3及びAs
2O
3を実質的に含有しないことを特徴とする。以下、本発明の半導体素子被覆用ガラスにおいて、各成分の含有量を上記の通り規定した理由を説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0017】
ZnOはガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量はZnO 50〜62%(ただし62%を含まない)であり、55〜61%であることが好ましい。ZnOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。また、熱膨張係数が大きくなりやすく、結果として、ガラスと半導体素子との熱膨張差が大きくなり、ガラスにクラックが発生するおそれがある。一方、ZnOの含有量が多すぎると、被覆時における熱処理により結晶化が急速に進行するため、流動性不足により半導体素子表面を被覆することが困難になる傾向がある。
【0018】
B
2O
3は網目形成成分であり、流動性を高める効果がある。B
2O
3の含有量は19〜28%であり、20〜25%であることが好ましい。B
2O
3の含有量が少なすぎると、結晶性が強くなって流動性が損なわれ、半導体素子表面を被覆することが困難になる傾向がある。一方、B
2O
3の含有量が多すぎると、熱膨張係数が大きくなりやすい。結果として、ガラスと半導体素子との熱膨張差が大きくなり、ガラスにクラックが発生するおそれがある。
【0019】
SiO
2は網目形成成分であり、耐酸性を高める効果がある。SiO
2の含有量は8〜15%(ただし8%を含まない)であり、9〜14%であることが好ましい。SiO
2の含有量が少なすぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が大きくなりやすく、結果として、ガラスと半導体素子との熱膨張差が大きくなり、ガラスにクラックが発生するおそれがある。SiO
2の含有量が多すぎると、均質性が低下しやすくなる。
【0020】
Al
2O
3は表面電荷密度を高める成分である。Al
2O
3の含有量は3〜12%であり、5〜10%であることが好ましく、5.5〜9.5%であることがより好ましい。Al
2O
3の含有量が少なすぎると、前記効果が得られにくくなる。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0021】
アルカリ金属成分(Li
2O、Na
2O及びK
2O等)は、半導体素子の特性に悪影響を与える傾向がある。よって、本発明の半導体素子被覆用ガラスはアルカリ金属成分を実質的に含有しない。また、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、環境への負荷を低減する観点から、鉛成分、Sb
2O
3及びAs
2O
3を実質的に含有しない。さらに、既述の通り、Bi
2O
3も環境への負荷が懸念される成分であるため、本発明の半導体素子被覆用ガラスはBi
2O
3を実質的に含有しない。なお、Bi
2O
3を含有させると表面電荷密度を容易に大きくできるため、耐圧を高くしやすいが、同時に漏れ電流も大きくなる傾向がある。よって、漏れ電流を低減する観点からも、Bi
2O
3を実質的に含有しないことは有効である。
【0022】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、上記成分以外にMnO
2、Nb
2O
5またはCeO
2を含有することができる。これらの成分は半導体素子の漏れ電流を低下させる効果がある。
【0023】
MnO
2の含有量は0〜5%であることが好ましく、0.1〜3%であることがより好ましい。MnO
2の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0024】
Nb
2O
5の含有量は0〜5%であることが好ましく、0.1〜3%であることがより好ましい。Nb
2O
5の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0025】
CeO
2の含有量は0〜3%であることが好ましく、0.1〜2%であることがより好ましい。CeO
2が多すぎると、結晶性が強くなりすぎて、流動性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、半導体素子表面の被覆を容易に行える観点から、粉末状(半導体素子被覆用ガラス粉末)であることが好ましい。この場合、ガラス粉末の平均粒子径D
50は25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D
50が大きすぎると、ペースト化が困難になったり、或いは電気泳動塗布が困難になる傾向がある。なお、ガラス粉末の平均粒子径D
50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0027】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、酸化物等の原料粉末を調合してバッチを作製し、1400℃前後で約1時間溶融した後に成形することによって得ることができる。また、成形後のガラスに対し、さらに粉砕及び分級することによって半導体素子被覆用ガラス粉末を得ることができる。
【0028】
本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラス粉末に対し、TiO
2、ZrO
2、ZnO、αZnO・B
2O
3、2ZnO・SiO
2、コーディエライト及び石英から選択される少なくとも1種の無機粉末を核形成剤として含有してなるものである。無機粉末の含有量は、半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがより好ましい。無機粉末の含有量が少なすぎると、析出結晶量が少なくなり、所望の熱膨張係数を達成しにくくなる。無機粉末の含有量が多すぎると、析出結晶量が多くなりすぎて流動性が損なわれ、半導体素子表面の被覆が困難となる傾向がある。
【0029】
なお、無機粉末の粒子径が小さいほど、析出結晶の粒子径が小さくなって被覆用材料の構造が密になることから、機械的強度が大きくなる傾向がある。したがって、無機粉末の平均粒子径D
50は5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。なお、無機粉末の平均粒子径D
50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0030】
本発明の半導体素子被覆用ガラスおよび半導体素子被覆用材料の表面電荷密度は、電圧1000Vの半導体装置に対しては4×10
11/cm
2以上、1500V以上の半導体装置に対しては9×10
11/cm
2以上であることが好ましい。なお、表面電荷密度が大きくなると耐圧が高くなるが、同時に漏れ電流も大きくなる傾向がある。よって、1000〜1500V程度の半導体素子に適用する場合は、漏れ電流を抑制し、耐圧とのバランスを取るため、表面電荷密度は例えば12×10
11/cm
2以下、さらには10×10
11/cm
2以下に調整することが好ましい。
【0031】
本発明の半導体素子被覆用ガラスおよび半導体素子被覆用材料の熱膨張係数(30〜300℃)は、半導体素子の熱膨張係数に応じて、例えば20〜60×10
−7/℃、さらには30〜50×10
−7/℃の範囲で適宜調整される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
表1は本発明の実施例および比較例を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
各試料は以下のようにして作製した。まず表1中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチを作製し、1400℃で1時間溶融した。溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、半導体素子被覆用ガラス粉末を得た(平均粒子径D
50:12μm)。
【0036】
得られた半導体素子被覆用ガラス粉末について熱膨張係数と表面電荷密度を測定した。なお、実施例6では、半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部に対してZnO粉末を0.1質量部添加したものについて測定した。結果を表1に示す。
【0037】
熱膨張係数はディラトメーターを用いて30〜300℃の温度範囲にて測定した。
【0038】
表面電荷密度は次のようにして測定した。まず、ガラス粉末を有機溶媒中に分散し、電気泳動によってシリコン板表面に一定の膜厚になるように付着させ、次いで焼成してガラス層を形成した。ガラス層の上にアルミニウム電極を形成後、ガラス中の電気容量の変化をC−Vメータを用いて測定し、表面電荷密度を算出した。
【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜5の試料は表面電荷密度が5×10
11/cm
2以上と高かった。これは、従来のPbO−SiO
2−Al
2O
3系或いはPbO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系等の鉛系ガラスと同等の表面電荷密度である。したがって、実施例1〜6の半導体素子被覆用ガラス(半導体素子被覆用材料)は中〜高耐圧用の半導体素子の被覆に適したものである。
【0040】
一方、比較例1の試料は表面電荷密度が1×10
11/cm
2と低く、中〜高耐圧用の半導体素子の被覆に適さないことがわかる。