(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410102
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】新規な発酵食肉製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20181015BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-101380(P2015-101380)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-202162(P2016-202162A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年1月16日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】515133888
【氏名又は名称】中村 豊郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 豊郎
(72)【発明者】
【氏名】六車 三治男
【審査官】
北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−205821(JP,A)
【文献】
特開平10−179089(JP,A)
【文献】
特開平08−205812(JP,A)
【文献】
特開平01−168231(JP,A)
【文献】
特開昭59−102373(JP,A)
【文献】
特開平11−290027(JP,A)
【文献】
特開2001−136933(JP,A)
【文献】
特開2016−112014(JP,A)
【文献】
Int. J. Food Microbiol., 1991, Vol.13, p.249-255
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−13/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵微生物として鰹節菌「ユーロティウムハーバリオラム(Eurotium herbariorum)」(和名:カワキコウジカビ)のみを利用して発酵させ、製造した生ハム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鰹節菌を利用して発酵させ、製造した食肉製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的発酵食品は麹や糠を利用したものが多い。
鰹節菌を利用した鰹節もカビによる発酵食品である。
周知のように、鰹節菌による発酵により、鰹節の中に核酸系旨み成分(イノシン酸)が産生し、代表的な旨み調味料として利用されている。
これを応用すれば、ハムやソーセージ中にもこの旨み成分が産生され、熟成由来のアミノ酸やペプチドの呈味成分と相乗効果を生じて、濃厚な旨みを付与できることが予想された。
生ハムには、ヨーロッパで自然に着生した酵母やカビで発酵し熟成するもの(発酵型)と燻煙するもの(非発酵型)とがある。
日本産の生ハムは非発酵型である。
本発明では、日本独自の有用菌株であり、日本鰹節協会の鰹節優良カビ菌である「ユーロティウムハーバリオラム(Eurotium herbariorum)」(和名:カワキコウジカビ)を利用して、生ハムとサラミソーセージを発酵させた。
研究の結果、生ハムは塩漬した豚肉を発酵し、乾燥・熟成することで、凝縮された濃厚な旨みが付与された製品となった。
サラミソーセージの場合も同様の結果が得られた。
本法は食肉製品の製法に鰹節の製法の一部を応用して、旨みを増強させた和折衷の方法である。鰹節の場合には四番カビまで発生させるが、それでは乾過多となるので、一番カビ発生後に乾燥・熟成した。
この生ハムは、例えれば、生ハムのカマンベール・チーズ様であり、市場にはまだ存在していない新規な発酵食肉製品である。
世界三大生ハムのうちの、プロシュートとハモンセラーノのような高級な熟成風味を有する製品に匹敵する。
生ハムをさらに乾燥を進めれば、ドライハムとなり、イタリア特産のコッパ風の製品になる。
乾燥度の調整は、真空包装することにより乾燥は停止するので、工程内での制御が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公開1993−103631「食肉製品用発酵促進剤と発酵食肉の製造方法」食肉を乳酸菌で発酵させる方法において、オリゴ糖類を増殖促進剤として使用するもの。
【特許文献2】特許公開2001−136933「発酵加工食品及びその製造方法」アスペルギルス属とペニシリウム属の菌株を使用して、発酵調味料の製造を目的とするもの。
【特許文献3】特許公開1999−290025「鳥獣畜肉発酵加工食品、その製造方法及びその利用」アスペルギルス属の菌株を使用し、食塩無使用の条件下でカビを発育させる食品を対象とするもの。ハム・ソーセージについての記述はなく、生ハムのような非加熱食製品の製造は「食品衛生法」の製造基準で食塩の使用基準(6%以上)が規定されており、食塩無使用では実用的には不可能である。
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中村豊郎、沼田正寛、橋本小由利「カビ発酵サラミソーセージの熟成風味発現に関する基礎的研究」日畜会報、56(12)、1985 食肉製品のカビ発酵の研究はサラミソーセージのみであり、使用菌株はペニシリウム属である
【非特許文献2】有原圭三「畜産物需要開発調査研究から微生物を利用した新しいタイプの食肉製品の開発」、畜産の情報、2001年6月号 今まで発酵食肉製品の開発研究は、乳酸菌を利用するのが中心であったことが記載されている。
【非特許文献3】小泉武夫「発酵畜肉のすすめ」、畜産の情報、2003年3月号 中国の火腿(金華ハム等)では、豚もも肉を使用し、自然に着生するカビにより、乾燥・熟成する。これはいわば中国産鰹節で、鰹節と同程度まで乾燥するので、そのままでは硬すぎて可食できず、用途は細切してスープ等に用いられる発酵調味料である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
食肉製品の製法に鰹節の製法の一部を応用する折衷方法の中で、肉を腐敗させず、いかに鰹節菌をその表面に迅速に発育・増殖させ、熟成させて濃厚な旨みを発現させるかが課題であった。
また、カビの増殖した原料は放置すれば、必要以上に乾燥が進むのでこれを制御する必要があった。
乾燥度により、原料肉の水分が65%程度ではハム、55%程度では生ハム、45%程度ではドライハム、35%程度ではサラミソーセージ17%程度では鰹節のような品質になる。
目的とする製品に仕上げるには乾燥度を制御する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鰹節菌の迅速な発育・増殖には、以下のような最適条件に設定する必要がある。
すなわち、至適温度(20〜30℃)、至適湿度(70〜95%)
至適PH(弱酸性)、至適Aw.(0.7〜1.0)、酸素供給
(偏性好気性菌のため)、栄養源(炭素源としてブドウ糖、窒素源として酵母エキス)であった。
さらに、事前に栄養源を菌液に添加しておく、鰹節菌液を前培養しておく、鰹節菌液の菌数を高濃度(1ml当たり百万個)にする等方法も有効であった。
また、乾燥度の制御には、原料肉が所定の収量に達した時期に、真空包装することで乾燥を停止させ、温度はそのまま維持すれば、熟成を進行させることが出来た。
【発明の効果】
【0006】
新規な、凝縮された濃厚な旨みを有する食肉製品の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0007】
生ハムの実施例は以下のようである。
新鮮な肩ロース700gを原料とし、これに食塩42g、グルコース42gと酵母エキス0.4gとを乾塩法にて、表面に塗布した。
それから、温度4℃で7日間の間塩漬して、内部に浸透させた。
その後、冷蔵庫から取り出して、ネットに入れ、本鰹節菌液を一面に噴霧した。
次いで、温度20℃、湿度85%に調整したカビ室に吊り下げ、カビを発育させた。
カビ室では、毎日1回の割合で、外気を取り入れて空気循環を良くし、酸素の供給を行ってカビの発育を促進させた。
4日後に灰緑色したカビが発育し、9日後に全面に増殖するようになった。
それから、温度18℃、湿度65%に調整した乾燥室に移し、7日間乾燥させ、その後通気性のないケーシングにて真空包装して30日間熟成させた。
このときの最終重量は504g(歩留り72%)であった。
官能評価では、凝縮された濃厚な旨みが感じられ、市販の生ハムにはない独特な熟成風味であった。
【実施例2】
サラミソーセージの実施例は以下のようである。
原料として、豚赤身肉1,000gと豚脂肪200gを細切し、食塩36.と亜硝酸ナトリウム1.5mgとを加えて混和し、温度4℃にて7日間塩漬した。それから、これに氷水100g、グルコース36.4gと酵母エキス0.3gとを加えて混合し、ソーセージエマルジョンを作った。
これを、直径5cmのセルロースケーシングに充填した。
これに本鰹節菌液を噴霧してカビ室に移し、温度20℃、湿度85%の条件下で、カビを発育・増殖させた。
その後、乾燥室に移し、温度18℃、湿度65%の条件下で、40日間乾燥・熟成した。この間、外気を取り入れて空気循環を良くし、酸素の供給を行った。
その後、これを通気性のないケーシングに入れて真空包装した。
乾燥終了時の水分含量は35%であった。
Aw.0.86、PHは5.0にそれぞれ低下した。
完成品は独特の熟成風味を有し、凝縮された濃厚な旨みをもつサラミソーセージとなった。