【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
JANOS P.,Sorption of Basic Dyes onto Iron Humate,Environ. Sci. Technol.,2003年,Vol.37,P.5792-5798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電子供与手段が、還元性有機化合物と、該還元性有機化合物から電子の供与を受けて前記不溶性金属腐植酸複合体を還元する還元微生物との組合せからなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子伝達システム。
前記還元性有機化合物が、糖、アミノ酸、有機酸、有機酸塩、アルコール、芳香族化合物及び生分解性プラスチックからなる群より選択される一又は二以上の有機化合物である、請求項5に記載の電子伝達システム。
前記カソード電極に電気的に接続されるアノード電極に対して、還元性有機化合物と該還元性有機化合物から電子の供与を受けて不溶性金属腐植酸複合体を還元する還元微生物との組合せからなる電子供与手段により電子が供給される、請求項7に記載の電子伝達システム。
電子受容体としての前記微生物が、ジオバクター属細菌、シュワネラ属細菌、デハロバクター属細菌、デサルフィトバクテリウム属細菌、デスルフロモナス属細菌、クロストリジウム属細菌、バクテロイデス属細菌、デサルフォビブリオ属細菌、セディメンティバクター属細菌及びスルフロスピリラム属細菌からなる群より選択される一又は二以上の細菌である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子伝達システム。
更に、電子供与手段として、還元性有機化合物と、該還元性有機化合物から電子の供与を受けて前記不溶性金属腐植酸複合体を還元する還元微生物を汚染環境に添加するステップを含む、請求項14に記載の環境浄化方法。
電子伝達媒体としての不溶性金属腐植酸複合体と、電子供与手段としての、還元性有機化合物と、該還元性有機化合物から電子の供与を受けて前記不溶性金属腐植酸複合体を還元する還元微生物の組合せと、を含む、環境浄化用キット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.電子伝達システム
本発明の第1の局面は電子伝達システムに関する。本発明の電子伝達システムは電子受容体として機能する微生物(以下、説明の便宜上、「電子受容微生物」と呼ぶ)を利用するものであり、電子伝達媒体として金属腐植酸複合体を用いる点に最大の特徴がある。本発明の電子伝達システムは、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体、電子供与手段、及び電子受容体としての微生物(電子受容微生物)を含み、電子供与手段からの電子が金属腐植酸複合体を介して電子受容微生物へと受け渡される。このように、本発明の電子伝達システムは、細胞外で電子の授受が生ずるものであり、細胞内における電子伝達系と峻別される。
【0014】
(1)金属腐植酸複合体
土壌や堆積物の成分の一つである腐植物質は、アルカリと酸に対する溶解性に基づき、腐植酸、フルボ酸及びヒューミンの3種類に分類される。腐植酸はフミン酸とも呼ばれる。腐植酸は天然の腐植酸(天然フミン酸)と、天然材料の酸化分解等によって工業的に生産される再生腐植酸(再生フミン酸)に大別される。腐植酸は、土壌又は堆積物をアルカリ抽出した後、酸性にすることで沈殿する成分である。即ち、アルカリ性水溶液に可溶で酸性水溶液に不溶の高分子有機酸である。腐植酸は基本骨格に芳香族環を多数有し、芳香族環にはカルボキシル基や水酸基が結合している。このような構造的な特徴によって腐植酸は緩衝作用、界面活性作用、イオン保持作用等を示す。なお、フルボ酸はアルカリ性水溶液にも酸性水溶液にも可溶な高分子有機酸、ヒューミンはアルカリ性水溶液にも酸性水溶液にも不溶な腐植物質である。
【0015】
本発明では腐植酸と金属との複合体(本発明において「金属腐植酸複合体」と呼ぶ)を電子伝達媒体として用いる。金属腐植酸複合体を構成する金属は、複合体が電子伝達特性を示す限り特に限定されない。例えば、マンガン、鉄、コバルト等の遷移金属類、マグネシウム、亜鉛、セレンを採用することができる。好ましい金属としては、鉄を挙げることができる。酸化還元電位を複数有する金属(例えばマンガン、鉄、コバルトの遷移金属類)を用いれば、複数の酸化還元電位を示す電子伝達システムを構築することができる。このような電子伝達システムは、目的の酸化還元電位に制御出来るという利点があり、微生物の選択的培養の用途に好適である。本明細書における「選択的培養」には、(i)特定の微生物(特に難培養微生物)の単離培養、(ii)特定の微生物(特に難培養微生物)の維持培養、(iii)微生物集団からの特定の微生物(特に難培養微生物)の集積、(iv)特定の菌を含む微生物群の維持培養を含む。金属腐植酸複合体は、例えば、腐植酸と金属塩水溶液(金属が鉄の場合には、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、クエン酸鉄(III)等を用いることができる)を混合した後、溶液のpHを弱アルカリ性〜中性〜弱酸性域にして所定温度(例えば20℃〜40℃)で所定期間(例えば1日〜2週間)保持し、沈殿物を回収することにより得ることができる。
【0016】
2種類以上の金属と腐植酸の複合体の使用、又は異なる金属を用いて形成された2種類以上の金属腐植酸の併用も可能である。
【0017】
本発明では、金属腐植酸複合体が電子伝達媒体として機能する。詳細には、電子を受け取って酸化型から還元型になり、電子を供与することで還元型から酸化型となる。本発明では、金属腐植酸複合体を酸化型から還元型に変換するための電子は、以下で詳述する電子供与手段によって生成される。
【0018】
(2)電子供与手段
図7を参照しながら、本発明に用いられる電子供与手段を説明する。
図7には4つの態様が示されている。尚、説明の便宜上、
図7では、電子受容微生物として脱ハロゲン化微生物(微生物B)を使用している。
【0019】
第1態様(
図7(a)が対応する)では、電子供与手段として、還元性有機化合物と、当該還元性有機化合物から電子の供与を受けて金属腐植酸複合体を還元する還元微生物(図中では微生物A)との組合せを用いる。この態様では、電子供与体として還元性有機化合物を使用する。還元性有機化合物とは、酸化を受けて電子を生成する有機化合物であり、例えば、糖(3炭素から7炭素)、アミノ酸、有機酸(乳酸、フマル酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、高級脂肪酸など)又は有機酸塩(乳酸塩、フマル酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、高級脂肪酸塩など)、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールからパルミトール等の高級アルコールなど)、芳香族化合物(フェノール、ポリフェノール、フェノール性酸およびその塩)、生分解性ブラスチック(ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸系樹脂(例えば特開2011−104551号公報を参照)、デンプン系樹脂)等が用いられる。還元微生物は酸化型金属腐植酸複合体を還元型金属腐植酸複合体に変換する。典型的には、金属腐植酸複合体を最終電子受容体として呼吸する微生物が用いられる。該当する微生物の例として、細胞外固相との間で電子を授受できるシュワネラ属細菌やジオバクター属細菌を挙げることができる。
【0020】
第2態様(
図7(b)が対応する)では、電子供与手段として、カソード電極を用いる。即ち、電極(カソード)を用いて、酸化型金属腐植酸複合体を電気化学的に直接還元する。電極の材料は特に限定されない。電極材料の例を示せばC、Au、Pt、Tiである。
【0021】
一方、電極を最終電子受容体として使う微生物(図中では微生物A’)を用いれば、当該微生物の呼吸によって得られた電子をカソード電極に供給することが可能である(
図7(c)が対応する第3態様)。この第3態様では、カソード電極に電気的に接続されるアノード電極に対して、微生物を介して還元性有機化合物から電子が供給されることになる。電極を最終電子受容体として使う微生物の例として、細胞外固相との間で電子を授受できるシュワネラ属細菌やジオバクター属細菌を挙げることができる。
【0022】
更には、金属腐植酸複合体を最終電子受容体として使う微生物(図中では微生物A’’)を用いれば、アノード側でも金属腐植酸複合体を用いた電子の授受を行うことができる(
図7(d)が対応する第4態様)。この第4態様では、カソード電極に電気的に接続されるアノード電極に対して、還元性有機化合物と当該還元性有機化合物から電子の供与を受けて金属腐植酸複合体を還元する還元微生物との組合せからなる電子供与手段により電子が供給されることになる。金属腐植酸複合体を最終電子受容体として使う微生物の例として、細胞外固相との間で電子を授受できるシュワネラ属細菌やジオバクター属細菌を挙げることができる。
【0023】
第3態様(
図7(c))及び第4態様(
図7(d))は、有機化合物から微生物的に電子を取り出して電気回路に流すものであり、いわゆる「微生物燃料電池」と呼ばれるシステムになる。
【0024】
尚、電子供与手段として化学的還元(例えば水素ガス/パラジウム触媒や水素化ホウ素ナトリウムによる還元など)を利用することも可能である。但し、効率や地下水環境への導入の点から、上記の微生物的還元(第1態様)や電気化学的還元(第2態様〜第4態様)の方が好ましい。
【0025】
(3)電子受容体としての微生物(
図7では微生物B)
本発明の電子伝達システムでは、電子受容体として微生物が用いられる。「電子受容体としての微生物」とは、外部から電子を受け取り、受け取った電子を生育、増殖、機能の発揮などに利用する微生物をいう。電子受容体としての微生物には、例えば、ジオバクター属細菌、シュワネラ属細菌、デハロバクター属細菌、デサルフィトバクテリウム属細菌、デスルフロモナス属細菌、クロストリジウム属細菌、バクテロイデス属細菌、デサルフォビブリオ属細菌、セディメンティバクター属細菌及びスルフロスピリラム属細菌等が用いられる。二種類以上の微生物を併用してもよい。また、電子受容体として機能する微生物を一種類以上含む微生物群ないし微生物群集を用いることにしてもよい。ここでの微生物群ないし微生物群集は、電子受容体として機能しない微生物を含んでいてもよい。
【0026】
好ましくは、細胞外固相との電子授受が可能な微生物を用いる。当該微生物によれば、電子を細胞外から直接受け取った電子を利用した呼吸が可能になる。該当する微生物の例として、シュワネラ属細菌やジオバクター属細菌を挙げることができる。
【0027】
一方、脱ハロゲン化微生物を採用すれば、例えば土壌や地下水、河川水、湖沼水、海水等の環境の脱ハロゲン化に適した電子伝達システムとなる。脱ハロゲン化微生物の例は、デスルフォモナイル・ティージェイDCB-1株(Desulfomonile tiedjei DCB-1)、デハロスピリラム(スルフロスピリラム)・マルチボランス(Dehalospirillum Dehalospirillum [Sulfurospirillum] multivorans)、デハロバクター・レストリクタスPER-K23株(Dehalobacter restrictus PER-K23)、デハロバクター・レストリクタスTEA株(Dehalobacter restrictus TEA)、デハロバクター sp. FTH1株(Dehalobacter sp. FTH1)デサルフィトバクテリウム・デハロゲナンス(Desulfitobacterium dehalogenans)、デサルフィトバクテリウム sp. PCE1株(Desulfitobacterium sp. PCE1)、デサルフィトバクテリウムsp. PCE-S株(Desulfitobacterium sp. PCE-S)、デサルフィトバクテリウム・フラピエリTCE1株(Desulfitobacterium frappieri TCE1)、デサルフィトバクテリウムsp. Y51株(Desulfitobacterium sp. Y51)、デスルフロモナス・クロロエテニカTT4B株(Desulfuromonas chloroethenica TT4B)、クロストリジウム・バイファーメンタンスDPH-1株(Clostridium bifermentans DPH-1)、デハロコッコイデス・マッカーティ195株(Dehalococcoides maccartyi 195)、デハロコッコイデス sp. GT株(Dehalococcoides sp. GT)、デハロコッコイデス sp. VS株(Dehalococcoides sp. VS)である(Damborsky, J. (1999): Tetrachloroethene-dehalogenating bacteria, Folia Microbiologica, Vol.44, pp.247-262.; Holliger, C., Wohlfarth, G. and Diekert, G. (1999): Reductive dechlorination in the energy metabolism of anaerobic bacteria, FEMS Microbiology Reviews, Vol.22, pp.383-398.; Gerritse, J., Renard, V. Pedro Gomes, T.M., Lawson, P.A., Collins, M.D. and Gottschal, J.C. (1996): Desulfitobacterium sp. strain PCE1, an anaerobic bacterium that can grow by reductive dechlorination of tetrachloroethene or ortho-chlorinated phenols. Archives of Microbiology, Vol.165, pp.132-140.; Suyama, A., Iwakiri, R., Kai, K., Tokunaga, T., Sera, N. and Furukawa, K. (2001): Isolation and characterization of Desulfitobacterium sp. strain Y51 capable of efficient dehalogenation of tetrachloroethene and polychloroethanes, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Vol.65, pp.1474-1481.; Chang, Y.C., Hatsu, M., Jung, K., Yoo,Y.S. and Takamizawa, K. (2000) Isolation and characterization of a tetrachloroethylene dechlorinating bacterium, Clostridium bifermentans DPH-1. Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.89, pp.489-491.; Maymo-Gatell, X., Chien, Y., Gossett, J.M. and Zinder, S.H. (1997): Isolation of a bacterium that reductively dechlorinates tetrachloroethene to ethene, Science, Vol.276, pp.1568-1571.; Maymo-Gatell, X., Anguish, T. and Zinder, S.H. (1999): Reductive dechlorination of chlorinated ethenes and 1, 2-dichloroethane by "Dehalococcoides ethenogenes" 195, Applied and Environmental Microbiology, Vol.65, pp.3108-3113.; Youlboong Sung,1, Kirsti M. Ritalahti,1 Robert P. Apkarian,3 and Frank E. Loffler1,(2006): Appl. Environ. Microbiol., vol. 72, pp. 1980-1987; Muller, J. A., B. M. Rosner, G. von Abendroth, G. Meshulam-Simon, P. L. McCarty, and A. M. Spormann: Molecular identification of the catabolic vinyl chloride reductase from Dehalococcoides sp. strain VS and its environmental distribution (2005): Appl. Environ. Microbiol. Sep ; 7(9):1442-50.; Yoshida, N. Ye, L., Baba, D. and Katayama, A.: A Novel Dehalobacter sp. is involved in extensive 4,5,6,7-tetrachlorophthalide (fthalide) dechlorination (2009): Appl. Environ. Microbiol., 75, 2400-2405; Luijten, M.L.G.C., De Weert, J., Smidt, H., Boschker, H.T.S., De Vos, W.M., Schraa, G. and Stams, A.J.M. (2003): Description of Sulfurospirillum halorespirans sp. nov., an anaerobic, tetrachloroethene-respiring bacterium, and transfer of Dehalospirillum multivorans to the genus Sulfurospirillum as Sulfurospirillum multivorans comb. nov., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, Vol.53, pp.787-793.)である。
【0028】
鉄還元能を有する細菌(例えばジオバクター属細菌)を用いれば、本発明の電子伝達システムを鉄還元の促進に利用することができる。同様に、硝酸還元能を有する細菌(例えばシュワネラ属細菌)を用いれば、本発明の電子伝達システムを硝酸還元の促進に利用することができる。
【0029】
本発明の電子伝達システムを環境浄化に利用する場合、浄化対象の環境中に存在する有機酸や微生物(有機物等を分解することによって電子を生じさせるもの)を電子供与手段として用いることもできる。当該態様では、浄化対象の環境に対して、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と、電子受容体としての脱ハロゲン化微生物を適用し、当該環境中に本発明の電子伝達システムを構築することになる。但し、別途用意した電子供与手段の併用を妨げるものではなく、例えば、電子供与体としての還元性有機化合物、又は還元性有機化合物から電子の供与を受けて金属腐植酸複合体を還元する還元微生物、或いはこれら両者を当該環境中に添加することにしてもよい。本発明の電子伝達システムを環境浄化に利用する場合には、電子供与体として電極(カソード)を利用することも好ましい態様の一つである。この態様では電極を環境中に設置し、電子の供与を行うことになる。
【0030】
一方、電子受容体として機能する脱ハロゲン化微生物が存在する環境の浄化に本発明の電子伝達システムを利用するのであれば、当該微生物を電子受容体としての脱ハロゲン化微生物として用いることにしてもよい。当該態様では、浄化対象の環境に対して、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と、電子供与手段を適用し、当該環境中に本発明の電子伝達システムを構築することになる(但し、別途用意した、電子受容体としての微生物の併用を妨げるものではない)。
【0031】
また、電子供与手段として機能するもの(有機酸、微生物など)と、電子受容体として機能する脱ハロゲン化微生物の両者が環境中に存在するのであれば、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体のみを用いて環境中に本発明の電子伝達システムを構築することも可能である。
【0032】
2.電子伝達システムの用途(環境浄化方法及び環境浄化用キット)
本発明の第2の局面は、本発明の電子伝達システムの代表的な用途である環境浄化方法に関する。本発明の環境浄化方法では本発明の電子伝達システムを利用する。より具体的には、本発明の電子伝達システムを汚染環境中に構築し、電子受容体としての脱ハロゲン化微生物の働きによって、汚染物質である有機ハロゲン化合物を分解・除去する。汚染環境の例として土壌、底質、地下水、河川水、湖沼水、海水、排水/排液(生活排水、工業排水、工業廃液など)を挙げることができる。
【0033】
有機ハロゲン化合物とは分子内にハロゲン原子を含む有機化合物の総称である。ペンタクロロフェノール(PCP)、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、クロロエタン、メチレンクロリド、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロプロパン、多塩素化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等の有機塩素化合物、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)、ブロモジクロロメタン、クロロジブロモメタン、ブロモホルム等の有機臭素化合物、フルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、パーフルオロカルボン酸類等の有機フッ素化合物が有機ハロゲン化合物に含まれる。尚、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称である。PCBの一つコプラナーPCB(Co-PCB)はダイオキシン類にも分類される。
【0034】
ペンタクロロフェノール(PCP)は土壌、堆積物や水生系で広範囲にわたって見られる高度に難分解性の塩素化有機汚染物質である。かつてPCPは殺菌剤、除草剤および木材防腐剤として広く使用されたが、肝臓と腎臓への毒性が高く、がんのリスクを高める毒性をもつために使用が禁止された(参考文献8)。PCPは今でも重要汚染物質として分類されており、アメリカおよび世界保健機構(WHO)の飲料水基準のリストに掲載されている(参考文献9、10)。
【0035】
本発明の環境浄化方法では、上記の電子伝達システムが汚染環境中で構築され、機能するように、必要な要素を汚染環境に添加する。例えば、投入、散布、塗布、混合等によって、ここでの「添加」を行うことができる。典型的には、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体、電子供与手段、及び電子受容体としての脱ハロゲン化微生物を汚染環境に添加し、汚染環境中に本発明の電子伝達システムを構築する。しかしながら、前述のように、浄化対象の環境中に電子供与手段が存在する場合には、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と電子受容体としての脱ハロゲン化微生物の2要素のみを添加することにしてもよい。但し、別途用意した電子供与手段の併用を妨げるものではなく、例えば、電子供与体としての還元性有機化合物、又は還元性有機化合物から電子の供与を受けて金属腐植酸複合体を還元する還元微生物、或いはこれら両者を当該環境中に添加することにしてもよい。一方、浄化対象の環境中に電子受容体として機能する脱ハロゲン化微生物が存在する場合には、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と電子供与手段(例えば還元性有機化合物と、還元性有機化合物から電子の供与を受けて金属腐植酸複合体を還元する還元微生物の組合せ)の2要素のみを添加することにしてもよい。更には、浄化対象の環境中に電子供与体として機能する物質または微生物と、電子受容体として機能する脱ハロゲン化微生物が存在する場合には、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体のみを添加することにしてもよい。
【0036】
本発明の環境浄化方法による効果(即ち環境の浄化)を維持するため、或いは効率化のために、一以上の要素を定期的に又は随時、補充することにしてもよい。通常、本発明の環境浄化方法による環境の浄化に伴い環境中の電子供与体は減少する。従って、電子供与体は特に補充が望まれる要素である。また、電子受容体としての脱ハロゲン化微生物も周囲の影響などを受けやすいため、補充が望まれる要素といえる。
【0037】
本発明は更に、環境浄化方法に利用されるキット(環境浄化用キット)も提供する。本発明の環境浄化用キットの一態様では、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と、電子供与体としての還元性有機化合物(例えば、糖、アミノ酸、有機酸、有機酸塩、アルコール、芳香族化合物、生分解性プラスチック等の還元性有機物からなる群より選択される一又は二以上の有機化合物)が含まれる。他の態様として、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と、電子供与手段としての、還元性有機化合物と、当該還元性有機化合物から電子の供与を受けて前記金属腐植酸複合体を還元する還元微生物の組合せと、を含むキットが提供される。更なる態様のキットは、電子伝達媒体としての金属腐植酸複合体と、電子供与手段としての電極(カソード)を含む。本発明のキットに、電子受容体としての脱ハロゲン化微生物を含めても良い。また、電子受容体としての脱ハロゲン化微生物の維持、生育等に有用な各種物質(ミネラル、ビタミン、炭素源、還元剤等)、品質の保持に有用な各種物質(例えば防腐剤)等を環境浄化用キットに含めることにしてもよい。環境浄化用キットを用いることにより、本発明の環境浄化方法を簡便に実施することができる。環境浄化用キットでは、通常、各要素が同時又は順次、浄化対象に適用されることになる。好ましくは、キットの要素の全てを同時に適用する。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、各要素を混合した後に浄化対象へ適用するなど、各要素の適用が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、ある要素の適用後、速やかに別の要素を適用するなど、実質的な時間差のない条件下での適用もここでの「同時」の概念に含まれる。
【0038】
3.電子伝達システムの用途(微生物の選択的培養法)
本発明は更なる局面として微生物の選択的培養法を提供する。本発明の方法は微生物が混在する試料の中から、特定の微生物を集積ないし単離することに利用できる。また、特定の微生物またはそれを含む微生物群を安定的に培養・維持することにも利用可能である。後述の実施例に示した実験で裏づけられるように、金属腐植酸複合体はその構成に応じて特定の酸化還元電位を示すことが可能である。本発明ではこの特性を利用し、特定の酸化還元電位に親和性の高い微生物を選択的に培養する。具体的な操作として、本発明の方法では金属腐植酸複合体と電子供与手段の存在下で微生物含有試料を培養する。典型的には、目的とする微生物が存在する試料、又は目的とする微生物の存在が期待される試料を微生物含有試料として用いる。この条件を満たす限り、各種土壌(例えば、畑、水田、森林など)、河川水、湖沼水、河川堆積物、海洋堆積物など、各種試料を用いることができる。また、一又は二以上の処理(例えば、特定の成分の除去、培養など)を得た試料を用いることもできる。
【0039】
目的に応じて、金属腐植酸複合体を構成する金属(例えばマンガン、鉄、コバルト等の遷移金属類およびマグネシウム、亜鉛、セレン)を選択すればよい。換言すると、金属腐植酸複合体を構成する金属を変更し、金属腐植酸複合体の酸化還元電位を変化させれば、別の種類の微生物を選択的に培養できることになる。このように、本発明の方法は様々な微生物の選択的培養に適用可能である。
【0040】
好ましい電子供与手段の一つは電極(カソード)であるが、同時に糖、アミノ酸、有機酸、有機酸塩、アルコール、芳香族化合物、生分解性プラスチック等の電子供与体を使用することもできる。電極を用いた場合、電極表面に金属腐植酸複合体を固定し(例えば電極の一部を金属腐植酸複合体で被覆する)、本発明の方法を実施することにしてもよい。このような態様によれば、電極に集積した状態で特定の微生物を選択的に培養することが可能となる。酸化還元電位の異なる2種類以上の金属腐植酸複合体を併用すれば、同時に2種類以上の微生物を選択的に培養することも可能である。培養温度は例えば10℃〜50℃である。培養期間は例えば2日〜3ヶ月である。培養の途中に継代してもよい。尚、培養の全過程を通して培養条件を統一する必要はない。
【実施例】
【0041】
不溶性鉄腐植酸複合体がペンタクロロフェノール(PCP)の嫌気的微生物的脱塩素のための固相電子伝達体として機能することを以下で示す。
【0042】
1.材料と方法
(1)鉄腐植酸複合体(鉄腐植酸複合体)の製造方法
鉄腐植酸複合体(鉄腐植酸複合体)を合成するため、まずAldrich腐植酸(AHA、Aldrich Chemical Company, USA)を1.5 g/Lの濃度に超純水で溶解した。不溶性部分を除去するために15分間15,000 gで遠心分離した。回収した上澄み(精製腐植酸)に5 mMの硫酸第一鉄を加え、混合と同時に撹拌した。pHを7.0に調整し、30℃で1週間保持した。続いて、この溶液を15分間15,000 gで遠心分離し、得られた沈殿物、つまり鉄腐植酸複合体を凍結乾燥した。AHAのみを使用し、同様の手順で調製した対照試料(コントロール腐植酸)と、硫酸第一鉄のみを使用し、同様の手順で調製した試料(コントロール鉄)を用意した。
【0043】
一方、鎌島水田土壌(KM)および弥富水田土壌(YA)から抽出(抽出方法は従来のアルカリ法に基づく)した環境試料(環境腐植酸)を硫酸第一鉄と混合し鉄腐植酸複合体の合成を行った。形成された複合体をFe-KMHAおよびFe-YAHAと呼称することにした。
【0044】
(2)電子媒介する機能を担う鉄画分
鉄腐植酸複合体中に含まれる鉄相に関する情報を提供するため、及び電子媒介機能を担う鉄画分を調べるため、鉄の逐次抽出を行った。以下に示す、異なる3種類の抽出剤を使用した。
(i) MgCl
2 (1 M, pH=7):鉄腐植酸複合体に交換可能な鉄画分を除去する
(ii) 酢酸ナトリウム (1 M, 酢酸でpH 5に調整):酸可溶性画分を除去する
(iii) アルカリ溶液(0.1M NaOH又はNa
4P
2O
7):有機物と結合している鉄画分を除去する
【0045】
【表1】
【0046】
鉄腐植酸複合体に含まれる鉄の溶出性の違いによる分画
表1に示した手順に従い、20 mLの抽出剤と50 mgの凍結乾燥した鉄腐植酸複合体を使用して逐次抽出法(3ステップ)を室温で行った。各処理の後、抽出物を遠心分離により分離した。鉄画分は各上清を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)によって測定した。また、鉄腐植酸複合体の全鉄含有量については、過塩素酸と硝酸で処理した後、ICP-AESによって分析した。
【0047】
(3)部分的な鉄抽出処理をした鉄腐植酸複合体の調製
部分的な鉄抽出のために上記の抽出剤を使用した。鉄腐植酸複合体0.5 gを100 mLの抽出剤に添加し、150 rpmで24時間、振とうした後、遠心分離(15,000 g, 10分)により回収した。この抽出プロセスを2回繰り返し、回収した沈殿物を中和するまで蒸留水で洗浄した後、凍結乾燥した。抽出処理した鉄腐植酸複合体は、処理方法に応じてそれぞれ、MgCl
2処理鉄腐植酸複合体、NaOAc処理鉄腐植酸複合体、NaOH処理鉄腐植酸複合体及びNa
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体と命名した。
【0048】
(4)PCP-フェノール脱塩素実験
嫌気PCP-フェノール脱塩素ヒューミン培養物を接種源として使用した。当該培養物は、元もと土壌依存性でPCPをフェノールまで脱塩素する嫌気微生物群からなる培養物であり、後に土壌の代わりにヒューミン懸濁物を用いて脱塩素活性の維持した培養物で、5%ずつ継代培養したものである。嫌気ヒューミン懸濁培地は、20 mlの無機塩培地に0.3 gの凍結乾燥ヒューミン、0.2μmの孔径のフィルターでろ過した10 mMのギ酸、ビタミン溶液及び20μMのPCPを添加したものであり、培養物を接種する前に窒素ガスで置換したものである。20 mL無機培地と5 g L
-1ヒューミン懸濁物を含む容器に10 mMギ酸及び20μM PCPを加えたものに、5%接種量で培養物を移すことにより、PCP−フェノール脱塩素ヒューミン培養物としてPCPをフェノールまで脱塩素する嫌気微生物群を維持した(参考文献15)。培養時間は10〜25日間とし、30℃で静置培養した。無機培地の組成(L
-1)は次の通りである: 1.0 g NH
4Cl; 0.05 g CaCl
2×2H
2O; 0.1 g MgCl
2×6H
2O; 0.4 g K
2HPO
4; 1 mL 微量元素 SL-10 溶液(参考文献20); 1 mL Se/W 溶液(参考文献20); 15 mM MOPS(3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸)緩衝液(pH 7.2)。PCP及びその代謝物はガスクロマトグラフ質量分析計QP2010(島津、京都)(DB-5MSキャピラリーカラム,J&W Science, Folsom, CA)を用いて分析した(参考文献21)。
【0049】
微生物的PCP-フェノール脱塩素活性に対する鉄腐植酸複合体と対照試料の影響を培養実験により調べた。鉄腐植酸複合体とコントロール鉄のサンプルを2.5 g L
-1の濃度で培地に凍結乾燥粉末として添加し、オートクレーブ滅菌を施した。コントロールHAについては、10 mLのサンプルを10 mLの培地入ったボトルに加えて、オートクレーブ滅菌を施した。脱塩素への影響は、少なくとも二世代培養後に判定した。すべての実験は二連又は三連で実施し、各実験の結果を確認するために、少なくとも3回繰り返した。
【0050】
(5)吸着実験
鉄腐植酸複合体を添加(2.5 g/L)又は無添加の20 mL無機培地を含む60 mLのボトルに、PCPとフェノールを5μM、10μM又は20μMの濃度で添加し、上記の培養実験と同様の条件で5日間培養した。鉄腐植酸複合体を遠心分離により除去し、上清中のPCPとフェノールの濃度を分析した。
【0051】
(6)鉄(III)酸化物の微生物的還元
鉄(III)酸化物の微生物的還元に対する鉄腐植酸複合体の影響をシュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)CN-32株を用いて行った。Tryptic soy broth (Becton Dickinson,Sparks, USA)液体培地を用い、30℃、好気条件でS. putrefaciens CN-32株を培養し、遠心分離機を用いて洗浄集菌した。鉄(III)酸化物還元の実験は、30 mLのNaHCO
3緩衝液(30 mM, pH 6.8)に鉄腐植酸複合体(2.5 g L
-1)、乳酸(20 mM)及び合成した鉄(III)酸化物(10 mM)を加え、洗浄したS. putrefaciens CN-32株(10
9 cells mL
-1)を接種し、還元した鉄(II)濃度を比較した。その対照実験として、二つの対照サンプル、即ち、鉄(III)酸化物を添加して鉄腐植酸複合体を添加せずにS. putrefaciens CN-32株を接種した対照サンプル、及び鉄(III)酸化物は無添加で鉄腐植酸複合体を添加しS. putrefaciens CN-32株を接種した対照サンプルを用意した。鉄(III)酸化物は過去に報告された方法で合成した(参考文献22)。培地は、N
2/CO
2(80%/20%)の混合ガスを通気することにより無酸素状態にした。
【0052】
(7)電子受容能力実験
鉄腐植酸複合体の電子受容能力(EAC)を計算するため、以前に報告されたプロトコルに従って嫌気性チャンバーで微生物還元アッセイおよび化学的還元アッセイを実施した(参考文献2、23)。微生物的還元アッセイでは、乳酸塩(20 mM)及び合成した鉄(III)酸化物(10 mM)を添加した30 mLのNaHCO
3緩衝液(30 mM, pH 6.8)に鉄腐植酸複合体(2.5 g L
-1)又は対照サンプル(即ちコントロール鉄(2.5 g L
-1)又はコントロールHA(1.5 g L
-1))を加え、そこに洗浄したS. putrefaciens CN-32株(10
9 cells mL
-1)を接種した。化学的還元アッセイでは、10 mMのPIPES緩衝液(pH6.8)中に5粒のパラジウムコーティングした酸化アルミニウム(Pd-coated aluminium oxide)ペレットを入れ、2.5 g L
-1 サンプル(コントロールHAでは1.5 g L
-1)を添加し、100% H
2雰囲気下で、150 rpmで振とうしながら、5日間保温した。
【0053】
鉄腐植酸複合体を微生物還元又は化学的還元するのに要した電子の量を定量化するために、試料懸濁液1 mlを、10 mMの鉄(III)-ニトリロ三酢酸2 mlと1分間以上反応した。この反応液を0.22 μmメンブレンフィルターでろ過し、ろ液0.5 mlを5 ml ferrozine 溶液(50 mM HEPES緩衝液に1 g L
-1で溶解してNaOHでpH=7に調製したもの)に添加して発色反応させ、波長562 nmで検出・定量した。鉄(II)イオンの最終濃度(還元後)、初期濃度(還元前)との差を、試料のEAC(e
- equivalent (電気当量、Eq) g
-1 乾燥鉄腐植酸複合体)と定義した。
【0054】
(8)電気化学分析
電気化学的実験には生物電気化学セルを備えたポテンショスタット(HSV-110、北斗電工社、大阪、日本)を用い、三電極法(グラファイト作用極(5 mm×15 cm、東海カーボン、東京、日本);白金対極(0.8 mm×1 m、ニラコ、東京、日本)、およびAg/AgCl参照極(飽和塩化カリウムHX-R8,北斗電工、大阪)を使用)で測定した。生物電気化学セルは、各チャンバー200 mLの有効容積と、プロトン交換膜(ナフィオン117、デュポン、USA)で区切られた2つのチャンバーで構成した。サイクリックボルタンメトリーの測定条件は、電位掃引速度100 mV s
-1、鉄腐植酸複合体濃度2.5 g L
-1、電位範囲-0.8 V〜0.6 V(対 Ag/AgCl)、電解液として無機培地を用いた。鉄腐植酸複合体の試料一組は、あらかじめ-500 mV(対 標準水素電極)の電位での18時間印加(電解液は無機培地)によって電気化学的に還元してから測定した。
【0055】
(9)鉄腐植酸複合体の特徴付け
構造解析と電子媒介特性の解析には、元素分析(C、H、N、灰分)と官能基分析(フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FTIRスペクトル)、電子スピン共鳴スペクトルとサイクリックボルタンモグラム)を用いた。
【0056】
(10)硝酸塩の微生物的還元
硝酸塩の微生物的還元(NO
3-(硝酸塩)→NO
2-(亜硝酸塩)→NH
4+(アンモニウム))における鉄腐植酸複合体の効果を検討した。実験方法は、上記(4)に準じた(20μM PCPに代えて5mM 硝酸塩を使用したこと以外、同一の実験方法とした)。
【0057】
2.結果
(1)鉄腐植酸複合体の物理化学的特性
精製したAHAは、炭素を約52.8%、水素を約3.9%、窒素を約1.0%、灰分を約0.8%含んでいる。その一方で鉄腐植酸複合体には約23.2%の炭素、約2.8%の水素、約0.4%の窒素及び約33.6%の灰分が含有されていた。ICP-AES分析では、鉄腐植酸複合体が149.6±13.8 g kg
-1の鉄量を有することが示された。逐次抽出からの結果は、鉄腐植酸複合体には交換可能な鉄画分4.6%、酸可溶性画分9.6%、有機物と結合している鉄画分52.7%及び不完全に利用可能な(poorly available)鉄画分33.1%が含有されていることが明らかになった。0.50〜0.65 g不溶性の鉄腐植酸複合体(冷凍乾燥パウダーとして)は、水溶液中の1.39 gの硫酸鉄と1.5 gの精製AHAを錯体形成させることにより得た。17.3%〜22.5%の回収率であった。
【0058】
【表2】
【0059】
20.0%の平均回収率に基づけば、1.39 gの硫酸鉄(280 mgの鉄含量)から0.58 gの鉄腐植酸複合体(86.8 mgの鉄含量)が得られると予想される。これは、鉄腐植酸複合体を形成するために鉄イオンの31.0%が利用されたことになる。
【0060】
(2)PCPの微生物的脱塩素に対する鉄腐植酸複合体の影響
土壌から固相画分として抽出されたヒューミンがPCP及びテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)の微生物的脱ハロゲン反応に関して非常に安定な電子伝達能力を示すと以前に報告した(参考文献15、30)。同じ土壌から抽出された腐植酸の可溶形態での媒介能力は不安定であり、継代培養後には脱ハロゲン活性が失われた。不溶性鉄腐植酸複合体は、硫酸第一鉄と腐植酸の錯体形成反応で合成され、微生物のPCP-フェノール脱塩素活性に関する安定な電子伝達活性を示した(
図1a)。一方、AHAにはPCP脱塩素活性は認められなかった(
図1c)。PCP−フェノール脱塩素ヒューミン培養物のPCP脱塩素反応に必要な電子伝達能力が、AHAには無いものと考えられる。
【0061】
鉄腐植酸複合体の安定した電子伝達特性は、異なる種類の鉄腐植酸複合体を使用した実験で、PCP−フェノール脱塩素ヒューミン培養物のPCP脱塩素活性が安定に継代維持できることからも確認された。PCP−フェノール脱塩素ヒューミン培養物を接種していない場合又は鉄腐植酸複合体の非存在下では脱塩素反応が観察されず、PCP脱塩素活性は微生物によるものであり、PCP脱塩素反応に鉄腐植酸複合体が必要であるといえる(
図1b)。PCP脱塩素はコントロール鉄あるいはコントロールHAサンプルを使用した場合には観察されなかった(
図1c)。自然に存在する腐植酸を使用して調製した鉄腐植酸複合体、即ちFe-KMHA及びFe-YAHAについても、微生物によるPCPの脱塩素を媒介することが示された。以上の結果から、微生物によるPCP脱塩素反応の維持に固体の鉄腐植酸複合体が重要な役割を果たすことが示された。
【0062】
吸着実験では、鉄腐植酸複合体への吸着によってPCPの濃度が15%減少したが、フェノールは鉄腐植酸複合体に全く吸着されなかった。吸着実験において代謝産物が観察されなかったことから、鉄腐植酸複合体へのPCPの吸着は僅かであり、二つの化合物間に化学反応は生じなかったことが示された(
図1d)。
【0063】
(3)鉄腐植酸複合体の電子媒介する機能を担う鉄画分
PCPの微生物的還元的脱塩素における腐植酸の電子伝達特性を活性化および安定化させるために、硫酸第一鉄との錯体形成によって不溶性鉄腐植酸複合体を調製した。鉄腐植酸複合体について鉄画分の除去の影響及び鉄画分の割合の変化を調べた結果、微生物の還元的PCP脱塩素に鉄腐植酸複合体が重要な役割を果たすことが示唆された。
【0064】
交換可能な鉄画分(MgCl
2処理鉄腐植酸複合体)または酸可溶性の鉄画分(NaOAc処理鉄腐植酸複合体)を除去(
図2aと
図2b)しても、PCP−フェノール脱塩素ヒューミン培養物のPCP-脱塩素活性に影響しなかった。有機物と結合している鉄画分を除去するとされるNaOH処理した鉄腐植酸複合体でも上記培養物のPCPの脱塩素反応(
図2c)における電子媒介活性は失われなかったが、同様に有機物結合鉄画分を除去するとされるNa
4P
2O
7処理した鉄腐植酸複合体では活性が不安定になった。脱塩素活性は最初の世代だけで示されるか、または脱塩素は全く観察されなかった(
図2d)。
【0065】
鉄腐植酸複合体(37.3%)の灰分含有量は、NaOH処理鉄腐植酸複合体で19.1%、Na
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体で10.6%に減少した。鉄腐植酸複合体の炭素含有量(21.3%)はNaOH処理鉄腐植酸複合体で55.6%、Na
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体で59.1%に増加した。
【0066】
(4)鉄(III) 酸化物の微生物還元における鉄腐植酸複合体の影響
鉄腐植酸複合体の添加および無添加条件での、S. putrefaciens CN-32株による不溶性鉄(III)酸化物の微生物的還元の経時的変化を
図3に示す。還元した結果生ずる水溶性鉄(II)イオンの濃度は時間の経過に従って増加したが、鉄腐植酸複合体の添加の有無に関わらず、細胞の接種なしのボトルにも少量の鉄(II)イオンが検出された。鉄腐植酸複合体(2.5g/L)を添加した場合、培養菌を添加しなかったものと比べて酸化鉄(III)の微生物還元が促進された。5.1 mMもの高濃度の鉄(II)イオンが鉄腐植酸複合体とS. putrefaciens CN-32株を加えた場合に検出されたのに対して、鉄(III) 酸化物の添加の無い対照サンプルでは、鉄腐植酸複合体から還元されて鉄になる鉄(II)イオンは1.7 mM生じただけだった。還元溶解した鉄(II)イオン 濃度の差3.4 mMは、鉄腐植酸複合体を添加しなかった条件での培養終了時の濃度差(1.8 mM)よりも1.9倍高い値となった。鉄(III)酸化物の微生物還元が鉄腐植酸複合体により促進されたことが示された。
【0067】
(5)鉄腐植酸複合体の電子受容能力
電子受容能力(EAC)は、鉄腐植酸複合体を微生物的(S.putrefaciens CN-32株)及び化学的(H
2/Pd)に還元し(5日間)、その電気当量を測定・評価した(
図4)。微生物還元実験では、EAC値は0.98 mEq/g−乾重 に達した。微生物還元実験の場合のコントロール鉄のEAC値は0.14 mEq/g−乾重、コントロール腐植酸のEAC値は0.10 mEq/g−乾重であった(
図4a)。一方、鉄腐植酸複合体を化学的に還元した場合は、EAC値は0.36 mEq/g dryであった(
図4b)。化学的還元実験でのコントロール鉄のEAC値は0.13 mEq/g−乾重、コントロール腐植酸は0.07 mEq/g−乾重となった。
【0068】
(6)フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FTIRスペクトル)
鉄腐植酸複合体(
図5a)のFTIRスペクトルは、AHA及びコントロール鉄と比較して、明確な差を示した(
図5b)。AHAは腐植物質に典型的なスペクトルバンドを示した。AHAは硫酸第一鉄と錯体を形成すると、明らかな変化が1750〜1200 cm
-1の波長で観察され、いくつかの鮮明な新しいピークが1735 cm
-1、1700 cm
-1、1235 cm
-1で出現し、また小さなピークが1500〜1377 cm
-1、1605〜1500 cm
-1及び1735〜1605 cm
-1に現れた。一方、微生物的PCP脱塩素反応で不安定な媒介活性を示したNa
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体では、1750〜1200 cm
-1の範囲におけるピークが減少または消失した。
【0069】
(7)鉄腐植酸複合体のサイクリックボルタンメトリー特性
電気化学的分析によって鉄腐植酸複合体の酸化還元特性が特徴付けた。分析結果を
図6に示す。鉄腐植酸複合体(
図6a)とコントロール腐植酸(コントロール−HA、
図6b)の両方のサイクリックボルタモグラム(CV)が明らかなピークを示さなかった。一般に腐植物質及びその金属錯体は、電極活性が欠如しているため(参考文献24)、CVに明確なピークが観察されないことが多い。しかし、-500 mV(対 標準水素電極)で18時間電気的に還元した後に鉄腐植酸複合体のCVには、明確なピークが得られた。ピーク電位から、鉄腐植酸複合体の酸化還元電位は0.10 V (対 標準水素電極)と推定された、これに対し、コントロール鉄の酸化還元電位は0.08 Vと推定された。一方、電気的還元を行ってもNa
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体には不規則な形状のCVが観察された(酸化還元対が観察できなかった)(
図6C)。
【0070】
(8)硝酸塩の微生物還元における鉄腐植酸複合体の影響
鉄腐植酸複合体が存在する場合には、速やかに硝酸塩が亜硝酸に代謝され始め、亜硝酸はアンモニウムへと代謝された(
図8)。一方、鉄腐植酸複合体が存在しない場合には、硝酸塩から亜硝酸への代謝は緩やかであり、亜硝酸からアンモニウムの代謝はごく微量にとどまった(
図8)。
【0071】
3.考察
以上の実験の結果、不溶性鉄腐植酸複合体(硫酸第一鉄と市販の腐植酸との錯体形成による)を利用すれば、安定な微生物的PCP脱塩素化反応を実現できることを発見した(
図1a)。また、自然に存在する腐植酸を使用して調製した複合体、即ちFe-KMHA及びFe-YAHAについてもPCPの微生物脱塩素活性があることが示された(結果は図示せず)。つまり、様々な環境中でPCP脱塩素を維持する際に固相鉄腐植酸複合体が有効であった。さらに、鉄腐植酸複合体が鉄(III)酸化物の微生物的還元も促進することが証明され(
図3)、鉄腐植酸複合体における多様な酸化還元伝達機能の存在が示唆された。更なる検討によって、鉄腐植酸複合体は、微生物的PCB脱塩素化、鉄の微生物的還元のみならず、硝酸塩の微生物還元をも促進することが示された(
図8)。
【0072】
電子受容能力試験によって、鉄腐植酸複合体が微生物的または化学的に還元できる電気容量、即ち電子受容容量、を持つことが判明した(
図4)。微生物的酸化還元活性部分の電子受容容量は、化学的酸化還元活性部分の電子受容容量の2.5倍以上であった。また、溶解腐植質に関して報告された電子受容容量(参考文献25)よりも高い0.98 mEq/g-乾重の電子受容容量を鉄腐植酸複合体が持つことが示された(
図4a)。
【0073】
逐次抽出実験の結果によって、鉄腐植酸複合体は交換可能な鉄画分4.6%、酸可溶性画分9.6%、有機物と結合している鉄画分52.7%および殆ど抽出されない鉄画分33.1%を含有することが明らかになった。おそらくは、腐植酸と加水分解性鉄画分(高度に水和した鉄イオン。例えばFe
n(OH)
m(H
2O)
x(3n-m)+またはFe
mO
n(OH)
x(3m-2n-x)+)の相互作用によって結晶性の鉄酸化物の形成が抑制され、フェリヒドライトのような結晶性の低い鉄酸化物を形成したものと考えられる(参考文献26)。1 M MgCl
2、1 M酢酸ナトリウムおよび0.1 M NaOH(図 2a、
図2b、
図2c)で処理しても鉄腐植酸複合体に活性が観察されたことから、周辺環境の変化に関係無く、鉄腐植酸複合体が安定した活性成分をもつことが示唆された。一方、Na
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体では、PCP脱塩素活性に対する媒介効果は最初の世代だけで認められるか、または脱塩素は全く観察されなかったという結果から(
図2d)、電子媒介能力が不安定であることが示された。Na
4P
2O
7は、フェリヒドライトの様な非晶質または不完全結晶の鉄オキシ水酸化物を含む試料から有機物結合鉄画分を抽出する能力が、NaOHやアセチルアセトン水溶液よりはるかに優れていることが報告されている(参考文献27、28)。NaOHで処理したサンプル(19.1%)よりNa
4P
2O
7で処理した鉄腐植酸複合体がはるかに低い灰分(10.6%)を示した結果は、この報告に支持される(参考文献27、28)。したがって、鉄腐植酸複合体の酸化還元媒介機能が、Na
4P
2O
7によって溶出される有機物結合鉄画分あるいは結晶性の低い鉄画分に起因していることが示唆された。
【0074】
鉄腐植酸複合体(
図5a)のFTIRスペクトルでは、明らかな変化が1735〜1377 cm
-1の波長で観察され、鉄との錯形成に関与するカルボン酸基やフェノール性水酸基に起因するピークが得られている(
図5a)。一方、いくつかの鮮明な新しいピークが1735 cm
-1、1700 cm
-1、1235 cm
-1で出現し、カルボキシル基のC=O伸縮振動、COO
-の対称伸縮およびフェノール性水酸基のCO伸縮振動が確認された(参考文献29)。Na
4P
2O
7処理鉄腐植酸 複合体では1750〜1200 cm
-1の波数域にピークが観察されなかった。
【0075】
電気化学的分析法であるサイクリックボルタンメトリーでの測定結果から、酸化還元活性部位が鉄腐植酸複合体に存在することが明らかとなった(
図6a)。鉄腐植酸複合体の酸化還元電位は0.10 V(対 標準水素電極)と推定された。一方、Na
4P
2O
7処理鉄腐植酸複合体のサイクリックボルタモグラムには酸化還元対が観察できなかったことから、電子媒介する機能を担う鉄画分は、Na
4P
2O
7処理によって抽出される有機物結合鉄画分或いは結晶性の低い鉄画分と考えられる。
【0076】
以上の様に、不溶性鉄腐植酸複合体が、PCPの微生物的脱塩素反応および鉄の微生物還元反応、更には硝酸塩の微生物的還元において安定な電子媒介機能を持つことを明らかにした。この電子媒介機能を担う反応中心は、Na
4P
2O
7抽出性の有機物結合鉄画分あるいは結晶性の低い鉄画分と考えられる。鉄腐植酸複合体の電子媒介機能を担う部位の化学的実態を明らかにするために、更なる研究が必要である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
金属腐植酸複合体は、微生物による有機物分解等での酸化還元反応において生じる余剰の電子を仲介する電子伝達媒体(電子の受け手および渡し手)として作用する。金属腐植酸複合体は、それを添加した現場において、微生物の呼吸増殖のための電子伝達媒体としての効果を長期間にわたって維持できる。金属腐植酸複合体を電子伝達媒体として利用したシステム(電子伝達システム)はバイオレメディエーションに適用可能である。
【0078】
最近、微生物による有機物分解での酸化還元反応において生じる電子を電極に回収して電気エネルギーを得る「微生物燃料電池」の研究や電気エネルギーで微生物を育てる「微生物電気培養」の研究が盛んに行われている。本発明のシステムは微生物燃料電池や微生物電気培養の装置にも適用可能である。金属腐植酸複合体の活性中心の金属を選択することにより、特定の酸化還元電位をもつ電子伝達媒体の製造が可能である。このような電子伝達媒体を使用すれば、特定の種類の微生物を選択的に培養できることが期待できる。
【0079】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0080】
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