(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、糸巻取機においては、巻き取られる糸が高速で走行するため、その周囲に繊維屑等の異物が発生し易い。繊維屑は軽量であるため、糸巻取機の周囲を浮遊し、糸監視装置の検出領域に侵入することがある。
【0008】
上記したとおり、特許文献1や2に開示される糸監視装置では、糸を正確に監視できるようにするために、糸監視装置の検出領域に糸が配置されていない状態で、LEDに印加する駆動電圧を調整する処理や、基板上の回路定数を調整して出力信号をゼロに合わせる処理を行う。しかし、検出領域に異物が侵入したり検出領域から異物が離脱したりすると、通常、糸の監視の精度は大幅に低下する。具体的には、検出領域に異物がない状態で上記の処理が行われても、その後に異物が検出領域に侵入してきた場合は、糸の状態を正確に評価することができなくなる。逆も同様であり、上記の異物が検出領域に侵入している状態で上記の処理が行われ、その後に検出領域から異物が離脱すると、その後は糸の状態を正確に評価することができなくなる。
【0009】
この点、特許文献3では、クリアラ信号の変化した要因を特定することが示されているが、検出領域に侵入あるいは検出領域から離脱する異物の影響については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主な目的は、異物が検出領域に侵入したり検出領域から離脱したりした場合でも正確に糸を監視することができる糸監視装置を提供することにある。
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸監視装置が提供される。即ち、この糸監視装置は、投光部と、受光部と、制御部と、
異物除去装置と、を備える。前記投光部は、糸が走行可能な検出領域に光を投光する。前記受光部は、前記投光部から投光された光を受光する。前記制御部には、前記受光部の受光量に応じた検出値が入力される。
前記異物除去装置は、前記検出領域に存在する異物を除去する。前記制御部は、評価部と、投光調整部と、異物対応処理部と、を備える。前記評価部は、前記検出領域に存在する糸の状態を前記検出値に基づいて評価する。前記投光調整部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記検出値が所定値となるように前記投光部の駆動用制御値を調整する投光調整処理を行う。前記異物対応処理部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、所定の異物判断範囲を前記検出値が所定の異物判断時間連続して外れた場合に、異物対応処理を行う。前記投光調整部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記異物判断範囲の幅よりも広い幅を有するように予め設定された検出値の範囲である正常範囲を前記検出値が外れた場合に、前記投光調整処理を再び行う。
【0013】
これにより、糸が検出領域に存在しない状態での検出値が異物判断範囲を所定の異物判断時間連続して外れたら、異物の侵入状態の変化があったと判断して所定の異物判断処理を行うので、異物の侵入/離脱に対して適切に対応することができる。また、検出値が異物判断範囲を所定の異物判断時間連続して外れたことを条件にするので、例えば、この糸監視装置を備える糸巻取機における通常の玉揚作業時に制御部に入力される検出値が不安定になったとしても、異物侵入状態が変化したと誤って判断することを防止することができる。
また、異物対応処理で検出領域の異物を取り除いて、投光調整処理等に適した状態にすることができる。
【0014】
前記の糸監視装置においては、前記投光調整部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記正常範囲を前記検出値が所定の投光調整判断時間連続して外れた場合に、前記投光調整処理を再び行うことが好ましい。
【0015】
これにより、例えば検出値に表れるノイズに起因して無駄な投光調整処理が行われるのを防止することができる。
【0018】
前記の糸監視装置においては、前記異物除去装置は、前記検出領域に空気を吹き付けることで異物を除去することが好ましい。
【0019】
これにより、簡単な構成で、検出領域に存在する異物を除去することができる。
【0020】
前記の糸監視装置においては、前記異物対応処理部が行う前記異物対応処理に、前記投光調整部に前記投光調整処理を再び行わせることが含まれることが好ましい。
【0021】
これにより、投光調整処理が再び行われることで、検出値に対する異物の影響を効果的に排除することができる。
【0022】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸監視装置は、前記検出領域に糸が位置しているか否かを判定
して、前記糸が前記検出領域に位置している場合に糸有り信号を出力する糸有無判定部を備える。前記異物対応処理部が行う前記異物対応処理に、前記糸が前記検出領域に位置していると
判定した前記糸有無判定部が前記糸有り信号を出力するのを阻止する処理が含まれる。
【0023】
即ち、異物が侵入又は離脱したと異物対応処理部が判断した場合は、異物の影響によって糸監視装置が糸を正確に評価することができない状態であるので、この糸監視装置を備える糸巻取機において巻取りが開始されてしまうのは適切でない。そこで、この場合には糸がセットされていないかのように糸監視装置が振る舞うことで、その後に巻取りが開始されてしまうことを確実に防止することができる。
【0024】
前記の糸監視装置においては、前記糸有無判定部は、前記検出領域の中の糸道に糸が位置しているか否かを判定することが好ましい。
【0025】
これにより、糸監視装置は、糸道に糸が存在するか否かを確実に検出することができる。また、異物が侵入又は離脱したと異物対応処理部が判断した場合は、糸道に糸が存在しないかのように糸監視装置が振る舞うことができる。
【0026】
前記の糸監視装置においては、前記異物対応処理部が行う前記異物対応処理に、異物検出信号を出力する処理が含まれることが好ましい。
【0027】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、当該糸監視装置を備える繊維機械は、糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部を備える。前記異物対応処理部が行う前記異物対応処理に、前記巻取部による糸の巻取りを阻止する巻取阻止信号を出力する処理が含まれる。
【0028】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、当該糸監視装置を備える繊維機械は、糸継ぎを行う糸継装置を備える。前記異物対応処理部
は、前記異物対応処理
として、前記糸継装置に糸継ぎを行わせる糸継信号を出力する処理
を行う。前記糸継信号により開始される糸継サイクル
が、前記糸継装置が糸継ぎを行うことと、前記異物除去装置の動作と、を含む。
【0029】
これらにより、様々な異物対応処理を行うことができる。
【0030】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸監視装置は、報知装置を備える。前記報知装置は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記検出値が前記異物判断範囲を前記異物判断時間連続して外れた場合に、報知を行う。
【0031】
これにより、オペレータが、検出領域への異物の侵入や離脱を、報知装置によって把握することができる。また、報知によって、オペレータが、例えば、糸監視装置が備えられる糸巻取機の巻取りを手動で停止することができる。
【0032】
前記の糸監視装置においては、前記報知装置は、文字、記号及び図形のうち少なくとも何れかを表示可能な表示装置であることが好ましい。
【0033】
これにより、簡素な構成でオペレータに報知を行うことができる。また、文字等を画面に表示することによって、詳細な内容をオペレータに報知することができる。
【0034】
前記の糸監視装置においては、前記報知装置は、点灯可能な照明装置であることが好ましい。
【0035】
これにより、簡素な構成でオペレータに報知を行うことができる。また、照明装置の点灯状態で異物に関する状況を報知できるので、オペレータは遠方からでも異物の侵入/離脱を確認することが容易である。
【0036】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記異物対応処理部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記検出値が前記異物判断範囲の一側の限界値を超えて当該異物判断範囲から外れた状態が所定時間継続した場合に、前記検出領域に異物が侵入したと判断する。前記異物対応処理部は、糸が前記検出領域に存在しない状態で、前記検出値が前記異物判断範囲の他側の限界値を超えて当該異物判断範囲から外れた状態が所定時間継続した場合に、前記検出領域から異物が離脱したと判断する。
【0037】
これにより、異物対応処理部は、検出領域への異物の侵入と離脱とを区別して判断することができる。
【0038】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記異物判断範囲は、過去の検出値である基準値を基準として相対的に定められる。前記異物対応処理部は、前記検出値が前記異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下である場合は、次回の判断で、当該検出値を前記基準値として定めた新しい前記異物判断範囲を用いる。
【0039】
これにより、異物対応処理部は、検出領域への異物の侵入状態に変化があったか否かを高い精度で把握することができる。
【0040】
ただし、前記の糸監視装置においては、前記異物判断範囲が固定的に定められるように構成することもできる。
【0041】
この場合、異物の侵入/離脱の判断を簡素に行うことができる。
【0042】
前記の糸監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸監視装置は、前記検出領域に糸が位置しているか否かを判定する糸有無判定部を備える。前記糸有無判定部は、前記検出値が所定の糸有無判定閾値以上である場合に、前記検出領域に糸が位置していると判断する。前記糸有無判定閾値は、前記異物判断範囲から外れた値に設定される。
【0043】
これにより、糸監視装置は、糸の存在を、繊維屑等の異物と区別して把握することができる。
【0044】
本発明の第2の観点によれば、前記の糸監視装置を備えた糸巻取機が提供される。
【0045】
これにより、検出領域に対する異物の侵入/離脱に対して適切に対応しながら、糸の状態を正確に評価して糸を巻き取ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る糸巻取機が備える糸巻取ユニット1の概略的な側面図である。
【0048】
本実施形態の糸巻取機は、複数の糸巻取ユニット1を並べて配置した構成となっている。この糸巻取機は、糸巻取ユニット1を集中的に管理する機台管理装置(図略)を備える。
【0049】
図1に示す糸巻取ユニット1は、図略の給糸部から供給される糸10を巻取ボビンに巻き取って、パッケージ20を形成するように構成されている。なお、図面に描かれた構成は、糸巻取ユニット1が紡績機の紡績ユニットである場合と、自動ワインダのワインダユニットである場合と、の両方を説明できるように、両者の共通部分を示している。糸巻取ユニット1が紡績機の紡績ユニットであるときは、例えば空気紡績装置が給糸部に該当する。また、糸巻取ユニット1が自動ワインダのワインダユニットであるときは、給糸ボビンを支持する機構が給糸部に該当する。
【0050】
各糸巻取ユニット1は、コンピュータで構成されたユニット制御部30を備えている。このユニット制御部30は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアと、ROM及び/又はRAMに記憶された制御プログラム等のソフトウェアと、から構成されている。そして、ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、ユニット制御部30が糸巻取ユニット1の各構成を制御する。また、各糸巻取ユニット1のユニット制御部30は、機台管理装置と通信可能に構成されている。これにより、各糸巻取ユニット1の動作を、機台管理装置において集中的に管理することが可能となっている。
【0051】
糸巻取ユニット1は、上流側から順に、上流側ガイド11と、第1糸捕捉装置12と、第2糸捕捉装置13と、糸継装置14と、クリアラ(糸監視装置)15と、下流側ガイド17と、巻取部18と、を備えている。なお、糸巻取ユニット1が紡績ユニットである場合は、第1糸捕捉装置12、第2糸捕捉装置13及び糸継装置14はユニット毎に設けられていても良いが、移動式の糸継台車が設けられ、この糸継台車に、第1糸捕捉装置12、第2糸捕捉装置13及び糸継装置14が備えられていると好ましい。一方、糸巻取ユニット1がワインダユニットである場合は、第1糸捕捉装置12、第2糸捕捉装置13及び糸継装置14はユニット毎に設けられていることが好ましい。
【0052】
上流側ガイド11は、給糸部の上流側に配置されている。上流側ガイド11は、給糸部側から送られてくる糸10をガイドする。
【0053】
第1糸捕捉装置12は、ユニット制御部30が図略のモータを駆動することで、
図1から
図3に示すように回動可能に構成されている。第1糸捕捉装置12は図略の負圧源に接続されており、第1糸捕捉装置12の先端側(回動中心の反対側)に吸引流を発生させることができる。
【0054】
第2糸捕捉装置13は、ユニット制御部30が図略のモータを駆動することで、第1糸捕捉装置12と同様に回動可能に構成されている。第2糸捕捉装置13は図略の負圧源に接続されており、第2糸捕捉装置13の先端側(回動中心の反対側)に吸引流を発生させることができる。
【0055】
クリアラ(糸監視装置)15は、走行する糸10の状態(太さ、色糸・ポリプロピレン等の異物の混入等)を監視し、糸10に含まれる糸欠陥(糸10に異常がある箇所)を検出する。また、クリアラ15には、当該クリアラ15が糸欠陥を検出した場合に糸10を切断するためのカッタ(切断装置)16が内蔵されている。なお、クリアラ15の詳細な構成については後述する。
【0056】
下流側ガイド17は、クリアラ15のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド17は、巻取部18へ送られる糸10をガイドする。
【0057】
巻取部18は、図略のパッケージ支持部と、巻取ドラム19と、を備える。巻取ドラム19は、巻取ボビン21又はパッケージ20の外周面に接触した状態で駆動される。巻取部18は、巻取ドラム19を図略のモータによって駆動することで、巻取ドラム19に接触するパッケージ20を回転させながら糸10をトラバースしつつ巻き取ることでパッケージ20を形成する。
【0058】
なお、トラバースを行う方法は任意であり、トラバース装置が糸巻取ユニット1毎に個別に設けられる構成であっても良いし、複数の糸巻取ユニット1の糸10を1つのトラバース装置がトラバースする構成であっても良い。糸巻取ユニット1毎に個別に設けられるトラバース装置としては、巻取ドラム19に形成されたトラバース溝、又は、アーム式のトラバース装置を挙げることができる。アーム式のトラバース装置は、巻取ボビン21を図略のモータによって直接駆動する構成に適用されることが好ましい。
【0059】
糸巻取ユニット1は、以上のように構成されているので、給糸部から供給された糸10を巻取部18でトラバースさせながら巻き取り、パッケージ20を形成することができる。
【0060】
ところで、給糸部側と巻取部18側との間の糸10が何らかの理由により分断状態となったときは、糸10を再び連続状態とするために、第1糸捕捉装置12、第2糸捕捉装置13及び糸継装置14等が連携して動作し、糸継ぎのための一連の工程を行う。
【0061】
以下、この工程について説明する。糸10が上記の分断状態になると、最初に、巻取部18が巻取中であった場合には巻取りを直ちに停止させる。次に、
図2に示すように、第1糸捕捉装置12は、給糸部側へ回動して当該給糸部側の糸端を吸引して捕捉する。また、ほぼ同時に、第2糸捕捉装置13は、巻取部18側へ回動して巻取部18側の糸端を吸引して捕捉する。
【0062】
その後、第1糸捕捉装置12及び第2糸捕捉装置13は、糸端を吸引した状態のまま待機位置に戻るように回動する。これにより、
図3に示すように、給糸部側の糸端と、巻取部18側の糸端と、が糸継装置14へ供給される。また、上記した糸端の案内とほぼ同じタイミングでクリアラ15に糸10がセットされて、当該糸10がクリアラ15によって検知される。
【0063】
糸継装置14は、空気式のスプライサ装置として構成されており、給糸部側の糸端と、巻取部18側の糸端と、に旋回空気流を作用させることで、2つの糸端を撚り合わせて接続する。ただし糸継装置14はこれに限らず、例えば機械式のノッタ装置であっても良い。
【0064】
以上の工程により、分断された状態の糸10を糸継装置14で繋いで連続状態にすることができる。この糸継ぎのための一連の工程は、糸10が分断状態となるたびに繰り返される。従って、以下では、上記した一連の工程を糸継サイクルと呼ぶことがある。
【0065】
この糸継サイクルは、ユニット制御部30が、第1糸捕捉装置12、第2糸捕捉装置13、糸継装置14等を適宜のタイミングで動作させるように制御することで実現されている。
【0066】
なお、糸10のクリアラ15へのセット作業は、上述したように、糸継装置14に糸端が案内されるタイミング(言い換えれば、糸継装置14による糸継作業の直前)や玉揚後巻取再開前のタイミング等に行われる。ユニット制御部30は、糸継サイクルにおいて糸10がクリアラ15に正常にセットされたか否かを、クリアラ15からの適宜の信号(具体的には、後述の糸有り信号)がユニット制御部30に入力されたか否かに基づいて判断する。クリアラ15からの糸有り信号が仮にユニット制御部30に入力されなかった場合、糸10をクリアラ15で監視できないことを意味するので、ユニット制御部30は糸継サイクルが失敗したとみなして糸継装置14による糸継作業を中止し、一連の工程を最初からやり直す。
【0067】
巻取ボビン21に所定長さの糸10が巻き取られ、パッケージ20が満巻となると、糸10が自動的にクリアラ15のカッタ16で切断され、巻取部18の巻取りが停止する。その後、当該パッケージ20はオペレータの手作業により巻取部18から取り外され、代わりに空の巻取ボビン21が巻取部18に装着されて、巻取りが再開される。なお、この玉揚作業は、手作業ではなく、公知の自動玉揚装置によって行われても良い。
【0068】
次に、
図4を参照して、クリアラ15の構成について説明する。
図4は、クリアラ15の構成を示す斜視図である。
【0069】
図4に示すように、本実施形態のクリアラ15は、糸10の状態を測定することが可能な光学式のセンサユニット(検出部)35を備えている。このセンサユニット35は、ハウジング37を備えている。
【0070】
ハウジング37にはスリット状の凹部38が形成され、この凹部38の内部を糸10が走行することができる。凹部38は一側を開放させた直線状の溝として形成され、この凹部38の内部に検出領域36が位置している。検出領域36は、後述する投光部41からの光が投光される領域であって、後述する受光部42の受光量に応じて糸10を検出可能な領域である。
【0071】
また、クリアラ15は上述したとおりカッタ16を備えており、このカッタ16が備える切断刃が、凹部38内において検出領域36よりも糸走行方向の上流側に配置されている。
【0072】
ハウジング37には、前記凹部38を走行する糸10を案内する糸道ガイド131,132が取り付けられている。また、ハウジング37には表示ランプ(報知装置、照明装置)46が設置されており、この表示ランプ46の点灯状態により、オペレータに対して、クリアラ15の状況を示したり異常を報知したりすることができる。
【0073】
更に、ハウジング37にはディスプレイ(報知装置、表示装置)47が設置されている。このディスプレイ47は例えば液晶ディスプレイとして構成されており、必要に応じて、文字、記号、及び図形等を表示することができる。従って、ディスプレイ47は、クリアラ15の動作状態に関する情報を、表示ランプ46よりも詳細にオペレータに知らせることができる。また、例えばクリアラ15に異常が発生した場合は、例えば警報画面を表示することで、オペレータに異常を報知することができる。
【0074】
ハウジング37には、圧縮空気を噴出することが可能な2つの吹出口、即ち、第1吹出口151及び第2吹出口152が形成されている。
【0075】
第1吹出口151は、凹部38の奥側の内壁に丸孔状に形成されている。第1吹出口151から空気を噴出することで、凹部38の側壁に沿う空気の流れを生成し、検出領域36や、カッタ16の前記切断刃近傍に空気を吹き付けることができる。
【0076】
第2吹出口152は、スリット状に形成されており、凹部38の外部に配置されている。第2吹出口152は、
図4の矢印の方向、即ち、溝状の凹部38の幅方向に対して斜めとなり、かつ、糸走行方向に対しても斜めとなる方向で、凹部38内に空気を吹き付けることができる。第2吹出口152から噴出された空気は凹部38の開放側かつ糸走行上流側から内部に吹き込まれて、凹部38の一側の側壁に斜めに当たることで、凹部38内に螺旋状の空気の流れを生成し、検出領域36等に空気を吹き付けることができる。
【0077】
これにより、繊維屑等の異物が凹部38の内部(検出領域36)に侵入したとしても、第1吹出口151及び第2吹出口152から空気を噴出することで、当該異物を凹部38の外へ吹き飛ばして除去することができる。
【0078】
次に、
図5を参照して、クリアラ15の構成について説明する。
図5は、クリアラ15の電気的構成を示すブロック図である。
【0079】
図5に示すように、クリアラ15は、上記のセンサユニット35と、クリアラ制御部(制御部)50と、を備える。センサユニット35は、駆動回路40と、投光部41と、受光部42と、増幅器43と、ハイパスフィルタ44と、増幅回路45と、表示ランプ46と、ディスプレイ47と、カッタ16と、圧縮空気用電磁弁48と、を備える。
【0080】
投光部41は、発光ダイオード(LED)で構成される発光素子を備える。投光部41は、駆動回路40から入力された駆動電圧に応じた光量で、糸道を走行している糸10に対して光を照射する。駆動回路40が発生する駆動電圧は、クリアラ制御部50が備えるDAコンバータ52から入力される電気信号に基づいて決定される。
【0081】
受光部42は、凹部38を挟んで(言い換えれば、凹部38を通過する糸道を挟んで)投光部41の反対側に配置されている。受光部42は、フォトダイオード等で構成される受光素子を備える。受光部42は、投光部41から糸10へ照射された光の透過光を受光して、受光量に応じた電気信号(電圧)を出力する。この電気信号は、投光部41と受光部42の間に存在する糸10の形状(断面形状)に応じて変化する。
【0082】
受光部42が出力する電気信号は、増幅器43で増幅された後に、ハイパスフィルタ44で所定の高周波数の信号が抽出され、再び増幅回路45で増幅される。なお、本実施形態の増幅器43においては反転処理が行われるので、受光部42の受光量が大きくなればなるほど、増幅器43が出力する電気信号は小さくなる。この増幅された電気信号は、センサユニット35から検出値として出力され、クリアラ制御部50のADコンバータ51によってデジタル信号へ変換される。
【0083】
表示ランプ46は、点灯及び消灯することで、クリアラ15の動作状態をオペレータに示すことができる。本実施形態において、表示ランプ46はいわゆる2色LEDとして構成されており、緑色及び赤色で光ることができる。この表示ランプ46の点灯状態は、クリアラ制御部50によって制御される。
【0084】
ディスプレイ47は、文字、記号、図形等の表示により、クリアラ15の動作状態等に関する情報をオペレータに知らせることができる。ディスプレイ47の表示内容は、クリアラ制御部50によって制御される。
【0085】
カッタ16は、上述したとおり切断刃を備え、切断刃は例えばソレノイドにより駆動される。カッタ16はクリアラ制御部50に電気的に接続されており、クリアラ制御部50が出力する切断信号に基づいて、糸10を切断できるように構成されている。
【0086】
圧縮空気用電磁弁48は、図示しない圧縮空気の供給源(例えば、糸巻取機が有するブロア)と、前記した第1吹出口151及び第2吹出口152と、の間の経路に配置されている。圧縮空気用電磁弁48はクリアラ制御部50に電気的に接続されており、クリアラ制御部50が出力する噴射信号に基づいて所定時間だけ開弁し、第1吹出口151及び第2吹出口152から空気を噴射させることができる。この第1吹出口151、第2吹出口152、及び圧縮空気用電磁弁48により、検出領域36から異物を除去する異物除去装置が構成されている。
【0087】
本実施形態において、クリアラ制御部50は、ユニット制御部30が上記の糸継サイクルを開始した直後に、圧縮空気用電磁弁48を開いて、第1吹出口151及び第2吹出口152から空気を噴射させるように制御する。糸継サイクルを開始した当初は検出領域36に糸10が導入されていないため、このタイミングで空気を噴射させることで、糸10が空気の流れを妨げることを防止できる。従って、検出領域36に存在する異物を効果的に吹き飛ばして除去することができる。
【0088】
また、クリアラ制御部50は、検出領域36に糸10が存在しない時にセンサユニット35が出力する検出値である基準値(後述の評価用ゼロ点)を、後述するデータ記憶部57に記憶している。クリアラ制御部50が備える糸状態評価部53は、この評価用ゼロ点と検出値とを比較することで、糸10の状態を評価(測定)する。
【0089】
次に、クリアラ制御部50の電気的構成について説明する。クリアラ制御部50は、糸状態評価部(評価部)53と、ゼロ点調整部(投光調整部)54と、ゼロ点測定部55と、糸有無判定部56と、データ記憶部57と、評価用ゼロ点設定部58と、異物対応処理部59と、を備える。具体的には、クリアラ制御部50は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成されており、前記ROMには、制御プログラム等のソフトウェアが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、クリアラ制御部50を、糸状態評価部53、ゼロ点調整部54、ゼロ点測定部55、糸有無判定部56、データ記憶部57、評価用ゼロ点設定部58、及び異物対応処理部59等として動作させることができる。
【0090】
上記の糸継サイクルが開始し、上記のように第1吹出口151及び第2吹出口152から空気が噴射された後、ゼロ点調整部54は、少しの時間が経過した後にゼロ点調整処理(投光調整処理)を行う。ゼロ点調整処理とは、クリアラ15の検出領域36に糸10が配置されていない状態において、センサユニット35が出力する検出値(具体的には、出力電圧)が所定の調整用基準値になるように、当該センサユニット35において投光部41に印加される駆動電圧を調整する処理である。
【0091】
ゼロ点測定部55は、ゼロ点測定処理を行う。ゼロ点測定処理とは、クリアラ15の検出領域36に糸10が配置されていない状態において、ゼロ点調整処理によって調整された電圧が投光部41に印加されるようにセンサユニット35を制御し、実際にセンサユニット35が出力する検出値を取得する処理である。これにより得られた検出値(具体的には、センサユニット35の出力電圧)は、前記ゼロ点調整処理における調整用基準値とほぼ同様の値になるはずであるが、例えば温度ドリフト、繊維屑等(異物)の侵入や離脱等の影響で、乖離した値になることもある。ゼロ点測定部55が取得した検出値は、後述のデータ記憶部57に記憶される。
【0092】
糸有無判定部56は、クリアラ15の検出領域36(特には、検出領域36の中の糸道)に糸10が存在するか否かを、ゼロ点測定部55が取得した検出値に基づいて判定する。具体的には、糸有無判定部56は、センサユニット35の出力電圧が所定の閾値(糸有無判定閾値)以上であれば糸10が存在する(糸有り)と判定し、そうでなければ糸10が存在しない(糸なし)と判定する。
【0093】
糸有りと判定した場合には、糸有無判定部56(
クリアラ制御部50)は、その旨の信号(糸有り信号)をユニット制御部30に出力する。ユニット制御部30は、上記の糸継サイクルによって糸10が検出領域36に正常にセットされたか否かを、
クリアラ制御部50から糸有り信号が入力されたか否かを利用して判断する。ただし、糸有無判定部56の糸有り信号の出力は行われないこともあり、詳しくは後述する。
【0094】
データ記憶部57は、内容を更新可能な記憶領域を有しており、例えば、書換可能な揮発性又は不揮発性のメモリ(例えばRAMやEEPROM)等により実現される。このデータ記憶部57は、クリアラ15を制御するための各種のパラメータ等を記憶することができる。
【0095】
具体的には、データ記憶部57は、ゼロ点測定部55により得られた測定値を複数記憶しておくことができる。即ち、ゼロ点測定部55は、上記のゼロ点測定処理を1回だけ実施するのではなく、糸10がクリアラ15の検出領域36に入るまでの間に所定の時間間隔ごとにゼロ点測定を複数回繰り返して実施し、検出値をその都度取得する。データ記憶部57は、所定回数分の検出値のデータを、後述する評価用ゼロ点の候補値として時系列順に記憶することができる。
【0096】
また、データ記憶部57は、クリアラ15の検出領域36に糸10が存在しない場合において、繊維屑等(異物)の検出領域への侵入及び離脱を検知するために定められる異物判断範囲と、この異物判断範囲の基準となる基準値と、をデータ記憶部57に記憶することができる。なお、異物判断範囲等については、後に
図6等のグラフを用いて詳しく説明する。
【0097】
更に、データ記憶部57は、クリアラ15の検出領域36に糸10が存在しない場合に検出値が通常とるべき範囲を示す正常範囲の上限値及び下限値を記憶することができる。この正常範囲の上限値及び下限値は予め設定された閾値であり、当該閾値によって正常範囲が定義される。この正常範囲は、その幅が異物判断範囲の幅よりも広くなるように定められる。
【0098】
更に、データ記憶部57は、糸有無判定部56が糸10の有無を判定する境界として用いられる閾値である糸有無判定閾値を記憶することができる。この糸有無判定閾値としては、正常範囲の上限値よりも大きな値が設定される。
【0099】
また、データ記憶部57は、後述の評価用ゼロ点設定部58によって決定された評価用ゼロ点の設定値を記憶することもできる。前記糸状態評価部53は、この評価用ゼロ点を基準として用いて、糸10の状態を評価する。具体的にいえば、評価用ゼロ点として設定された電圧と、糸10がクリアラ15の検出領域36に入った状態でセンサユニット35から得られた電圧と、の差の平均値が、糸10の監視(例えば、糸10の平均太さの算出)のために用いられる。
【0100】
評価用ゼロ点設定部58は、ゼロ点測定部55により得られてデータ記憶部57に記憶された検出値(評価用ゼロ点の候補値)のうち所定の条件を満たす検出値に基づいて評価用ゼロ点の値を決定(算出)し、その結果を新しい設定値としてデータ記憶部57に記憶する。本実施形態では、新しい評価用ゼロ点の設定値をデータ記憶部57に記憶し直すことを、「ゼロ点補正」と称する。
【0101】
次に、本実施形態のセンサユニット35の糸評価精度(糸監視精度)を低下させる2つの要因について説明する。2つの要因のうち1つは、投光部41に採用されるLEDの温度ドリフト等に代表される環境の変化であり、残りの1つは、検出領域36に侵入する異物である。
【0102】
以下、詳細に説明する。本実施形態に示すようにゼロ点調整部54、ゼロ点測定部55、及び評価用ゼロ点設定部58を備えるクリアラ15では、糸10の評価を開始する前に、一般的に以下のような準備作業を行う。即ち、先ず、検出領域36に糸10が存在しない状態で、ゼロ点調整部54が、センサユニット35の投光部41の投光量を上記のゼロ点調整処理によって正しく調整する。続いて、検出領域36に糸10が存在しない状態で、ゼロ点測定部55がセンサユニット35の検出値を取得し、この検出値に基づいて評価用ゼロ点設定部58が評価用ゼロ点を設定する。
【0103】
上記の準備作業が完了した後に、検出領域36に糸10が導入されて、糸巻取ユニット1が巻取りを開始し、糸状態評価部53によって糸10の状態が評価される。このとき、投光部41は上記の準備作業で調整されたばかりの駆動電圧で駆動され、また、糸10の評価の基準としては、上記の準備作業で設定された評価用ゼロ点が用いられる。以上のような制御により、糸10の状態を評価するときの精度を向上させることができる。
【0104】
ただし、ゼロ点調整処理を行って評価用ゼロ点を設定した段階から、実際に糸10が検出領域36へ導入されるまでの間に、温度や湿度等の環境が変化する可能性もある。特に、本実施形態のクリアラ15は光学式のものであり、投光部41はLEDから構成されている。従って、例えばクリアラ15に電源が投入された直後の場合、ゼロ点調整処理を行って評価用ゼロ点を設定した時点から、糸10が検出領域36に導入される時点までの間に、LEDの温度が上昇し、このLEDの温度ドリフト(熱ドリフト)によって、投光部41から照射される光量が変化してしまうことがある。
【0105】
ゼロ点調整処理を行って更に評価用ゼロ点を設定しても、設定してから糸10が検出領域36に導入されるまでの間に投光部41の光量が変化したのでは、その分だけ糸10の状態の評価に誤差が生じてしまうため、好ましくない。そこで、評価用ゼロ点を定めるための検出値の取得を、ゼロ点調整処理の直後ではなく、糸10を検出領域36に導入する直前のタイミングにおいて行うことが考えられる。こうすれば、温度ドリフト等の影響を低減でき、正確な糸評価が可能になる。
【0106】
しかしながら、上記のように評価用ゼロ点の決定タイミングを工夫することで温度ドリフト等の影響を低減できたとしても、十分とはいいがたい場合がある。即ち、糸巻取機において発生した繊維屑等の異物が検出領域36に侵入する可能性を考慮する必要がある。
【0107】
例えば、ゼロ点調整処理が行われた後に異物が検出領域36に侵入した場合、異物侵入後にセンサユニット35が出力する検出値は当該異物の影響を受けるため、糸10の状態を正確に評価することができない。また、既に異物が検出領域36に入ってしまっている状態でゼロ点調整処理が行われた場合、その後に異物が検出領域36から離脱するとセンサユニット35の検出値が影響を受けるため、やはり糸10の状態を正確に評価できなくなる。
【0108】
この点、本実施形態のクリアラ15では、ゼロ点調整処理が行われてから糸10が検出領域36に導入されるまでに、検出領域36への異物の侵入や、侵入していた異物の検出領域36からの離脱を検知して、各種の処理(以下、異物対応処理と呼ぶことがある)を行うように構成している。
【0109】
なお、検出領域36へ異物が侵入した場合や、検出領域36から異物が離脱した場合は、検出値が比較的急激に変動する。一方で、投光部41の光量が温度ドリフトで低下した場合は、検出値が比較的緩やかに変動する。本実施形態のクリアラ15は、このことを利用して、異物の侵入状態の変化(侵入/離脱)を、温度ドリフトとは明確に区別して検知することができる。
【0110】
続いて、様々な場合における本実施形態のクリアラ制御部50の制御を、
図6から
図10のグラフを参照して詳細に説明する。
【0111】
上述したとおり、ゼロ点測定部55は、ゼロ点調整部54がゼロ点調整処理を行った後、検出領域36への糸10の導入が検出されるまで、適宜の時間間隔で検出値を反復して取得している。
図6のグラフには、横軸を時間、縦軸を検出値として、t1〜t25までのタイミングでそれぞれ取得された検出値が示されている。また、
図6のグラフには、異物判断範囲と、正常範囲と、糸有無判定閾値と、が併せて示されている。
【0112】
ゼロ点測定部55は、t1のタイミング、t2のタイミング、・・・と検出値の取得を繰り返す。得られた検出値は、評価用ゼロ点の候補値として、データ記憶部57に順次保存されていく。
【0113】
なお、ゼロ点調整処理が完了した後の最初の取得タイミングであるt1では、取得された検出値が、後述の異物判断範囲を定める基準値として、データ記憶部57に保存される。
【0114】
そして、異物対応処理部59は、この基準値に基づいて、次回(t2のタイミング)に取得される検出値が入るべき範囲である異物判断範囲を設定する。この異物判断範囲は、異物の検出領域36への侵入及び検出領域36からの離脱を検知するために設定される範囲であり、上記の基準値を中央値として定められる。
【0115】
そして、ゼロ点測定部55がt2のタイミングで検出値を取得したとき、異物対応処理部59は、今回得られた検出値が上記の異物判断範囲に入っているか否かを判定する。
図6の例では、t2のタイミングでの検出値は、t1のタイミングの検出値(基準値)を基準とする異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下になっている。従って、異物対応処理部59は、今度は、t2のタイミングでの検出値を基準値としてデータ記憶部57に記憶し直すとともに、新しい基準値に基づいて異物判断範囲を再び設定し、t3のタイミングの検出値が当該異物判断範囲に入っているか否かを判定する。以上の判定処理がt4のタイミング、t5のタイミング、・・・と反復され、これに伴って異物判断範囲も次々と更新されていく。
【0116】
なお、個々の検出値に対しては、前記の異物判断範囲に基づく判定だけでなく、他の判定も行われる。具体的には、ゼロ点調整部54は、各タイミングで取得される検出値に対し、検出領域36に糸10が存在しない状態で検出値が通常とるべき範囲として予め定められた正常範囲に当該検出値が入っているか否かを判断する。また、糸有無判定部56は、各タイミングで取得される検出値に対し、当該検出値が所定の糸有無判定閾値以上になっていないかを判断する。なお、上記の正常範囲は、通常は上記の異物判断範囲を内部に含むように設定されるが、正常範囲から異物判断範囲がはみ出す場合もある。また、上記の糸有無判定閾値は、上記の異物判断範囲から外れた値に設定されている。
【0117】
やがて、糸10が検出領域36に導入されたため、t25のタイミングで、ゼロ点測定部55が取得した検出値が大きく増加する。t25のタイミングで得られた検出値が糸有無判定閾値を上回っているので、糸有無判定部56は、糸10が検出領域36に導入された(糸有り)と判定する。このとき、評価用ゼロ点設定部58は、糸有りと判定された時点の直前に取得された検出値(
図6の例では、t24のタイミングでの検出値)を、評価用ゼロ点として設定する。以上によりゼロ点補正が行われ、その後に糸10の走行が開始されると、糸状態評価部53は、設定された評価用ゼロ点に基づいて糸10の評価を行う。
【0118】
なお、
図6の例では、上述した投光部41の温度ドリフトの影響により、
図6に示される正常範囲を外れるほど強くはないが、検出値に緩やかな増加傾向がみられる。この影響により、ゼロ点調整処理の直後のタイミングであるt1での検出値と、糸有りと判定される直前のタイミングであるt24等での検出値とでは、ある程度の乖離が生じている。この点、本実施形態の評価用ゼロ点設定部58は、糸有りと判定したタイミングに近いt24のタイミングでの検出値を評価用ゼロ点として用いるので、上記の温度ドリフトの影響を軽減し、糸状態評価部53によって糸10を正確に評価することができる。
【0119】
ただし、評価用ゼロ点に関しては、上記のようにt24のタイミングでの検出値を用いることに限定されない。例えば、糸有りと判定された時点から所定のマージン分だけ遡った時点での検出値を評価用ゼロ点として用いても良く、また、複数の検出値に基づいて平均値を計算して評価用ゼロ点としても良い。
【0120】
次に、
図7のように検出値が推移する場合について説明する。
図7の例では、t1〜t3のタイミングにおける検出値はあまり変動を示さないものの、t3からt4までの間に前記検出領域36に異物が侵入した結果、t4のタイミングの検出値が若干鋭く増加し、t3のタイミングにおける検出値(基準値)に基づく異物判断範囲の上限値を上回っている。
【0121】
図7の場合でも、ゼロ点測定部55は
図6と同様に、t1のタイミング、t2のタイミング、・・・と検出値の取得を繰り返し、得られた検出値を評価用ゼロ点の候補値としてデータ記憶部57に順次保存していく。また、基準値及び異物判断範囲の更新も
図6の場合と同様に行われる。
【0122】
ただし、t4のタイミングの検出値が異物判断範囲の上限値を上回っているので、異物対応処理部59は、基準値及び異物判断範囲の更新を停止する。従って、次のt5のタイミングにおける検出値は、t4でなく、t3のタイミングにおける検出値(基準値)を基準とした異物判断範囲に入っているかどうかが判定されることになる。
【0123】
なお、t4のタイミングのように検出値が異物判断範囲から外れている場合は、当該検出値が評価用ゼロ点の候補値としてデータ記憶部57に保存されないため、将来的に評価用ゼロ点として用いられることもない。従って、このような急変したイレギュラーな検出値が評価用ゼロ点として採用されることを確実に防止することができる。
【0124】
異物は検出領域36に留まり続けているので、t5のタイミングでの検出値もt4の検出値とそれほど変わらず、やはり、t3のタイミングでの検出値(基準値)に基づく異物判断範囲の上限値を上回っており、その後のt6のタイミング、t7のタイミング、・・・でも同様である。この状態が所定の時間(異物判断時間)だけ連続したt22のタイミングで、異物対応処理部59は、検出領域36に異物が侵入した(糸評価の正確性が異物の影響で低下した可能性が高くなった)と判断する。
【0125】
その後、検出領域36に糸10が導入されて、
図6の場合と同様に、t25のタイミングで検出値が大幅に増加して糸有無判定閾値以上になったとする。糸有無判定部56は糸有りと判断するが、異物が侵入したと判断している異物対応処理部59は、糸有無判定部56が糸有り信号を出力しようとするのを阻止する。この結果、糸有無判定部56(クリアラ制御部50)は、糸有り信号を出力しない。
【0126】
ここで、第1糸捕捉装置12及び第2糸捕捉装置13を
図1の状態から
図3の状態まで回動させたユニット制御部30は、クリアラ15の検出領域36に糸10が導入されたことを、クリアラ制御部50からの糸有り信号に基づいて確認するように構成されている。今回、異物対応処理部59は、実際に検出領域36に糸10が導入されていたとしても、糸有無判定部56に糸有り信号を出力させない(即ち、クリアラ制御部50は、糸10が検出領域36にあたかも導入されていないかのように振る舞う)。
【0127】
所定時間待機してもクリアラ制御部50から糸有り信号が入力されないため、ユニット制御部30は、第1糸捕捉装置12や第2糸捕捉装置13が糸10の捕捉をミスする等して、クリアラ15の検出領域36に対する糸10の導入に失敗したものと判断する。従って、ユニット制御部30は、糸継装置14による糸継作業は行わずに中止して、第1糸捕捉装置12及び第2糸捕捉装置13を
図1の状態にいったん戻し、再び糸継サイクルをやり直す。これにより、異物の影響でクリアラ15が糸評価を正確にできない状態で糸10の巻取りが開始されるのを回避することができる。
【0128】
改めて行われる糸継サイクルの初期には、クリアラ制御部50が圧縮空気用電磁弁48を駆動して、第1吹出口151及び第2吹出口152から空気を噴射させる処理(異物除去処理)が行われる。従って、検出領域36に侵入していた異物は空気により吹き飛ばされる可能性が高いので、次回のゼロ点調整処理や、評価用ゼロ点の設定に対して、悪影響を与えなくなることが期待される。
【0129】
検出領域36の異物を除去するように空気が噴射された後は、クリアラ制御部50において、ゼロ点調整部54が再びゼロ点調整処理を行い、その後、ゼロ点測定部55がセンサユニット35の検出値を再び反復的に取得していく。このときに例えば
図6のように検出値が推移して糸10が検出領域36に導入された場合は、評価用ゼロ点が上述したように定められ、当該評価用ゼロ点を用いて糸状態評価部53が糸10を評価する。
【0130】
以上のように、本実施形態のクリアラ15では、異物対応処理部59は、センサユニット35が出力する検出値の挙動に基づいて検出領域36に異物が侵入したと判断した場合には、糸有無判定部56が糸有りと判定したことに伴う糸有り信号を出力するのを阻止する処理(異物対応処理)を行う。この結果、糸継サイクルがやり直されることに伴い、第1吹出口151及び第2吹出口152からの空気の噴出による検出領域36の清掃、及び、ゼロ点調整部54によるゼロ点の再調整が行われる(従って、ゼロ点補正もやり直される)。
【0131】
従って、異物対応処理部59が、第1吹出口151及び第2吹出口152からの空気の噴出による異物の除去と、ゼロ点の再調整と、を実質的に行っているということもできる。この結果、ゼロ点調整やゼロ点補正の際に異物による悪影響を良好に防止できるので、糸状態評価部53が糸10の状態を正確に評価することができる。
【0132】
次に、
図8のように検出値が推移する場合について説明する。
図8の例では、t4のタイミングの検出値が若干鋭く増加し、t5のタイミングではt4のタイミングとほぼ同様の検出値を示すが、t6のタイミングの検出値はt3とほぼ同じ値にまで減少している。これは、t3からt4までの間に異物が検出領域36に侵入したが、当該異物は長時間留まることなく、t5からt6までの間に離脱したことを示している。
【0133】
上記の検出値の推移を異物判断範囲との関係で説明すると、t3のタイミングの検出値を基準として定められた異物判断範囲の上限値を、t4のタイミングにおける検出値が上回り、t5のタイミングの検出値も同様に上回るが、t6のタイミングの検出値は異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下となっている。即ち、異物判断範囲の上限値を連続して上回っていた時間が、上記の異物判断時間(
図7を参照)より短くなっている。従って、この場合は、異物対応処理部59は、異物が侵入した(糸評価の正確性が異物の影響で低下した可能性が高くなった)と判断しない。
【0134】
上記したように、t6のタイミングの検出値は、t3のタイミングの検出値(基準値)を基準として定められた異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下となっている。従って、異物対応処理部59は、t6のタイミングでの検出値を新しい基準値とし、当該基準値が基準となるように異物判断範囲を新しく定め直して、基準値及び異物判断範囲に関するデータ記憶部57の記憶内容を更新する。なお、t4及びt5のタイミングでの検出値は異物判断範囲を外れているために、評価用ゼロ点の候補値としてデータ記憶部57に記憶されることはないが、検出値が異物判断範囲内に戻ったt6のタイミングでは、当該検出値がデータ記憶部57に記憶されることになる。以後は、異物対応処理部59は、検出値の鋭い変動(即ち、異物判断範囲を外れるような変動)が再び現れないかを監視する。
【0135】
図8の例では、t6のタイミング以降、糸10が検出領域36に導入されるまでの間、検出値は大きな変動を示していない。糸10が検出領域36に導入され、t25のタイミングで検出値が大きく増加して糸有無判定閾値以上になると、糸有無判定部56は糸有りと判定する。異物が侵入したと異物対応処理部59が判定しなかったので、糸有無判定部56は通常どおり糸有り信号を出力し、評価用ゼロ点設定部58はt24のタイミングの検出値を評価用ゼロ点として設定する。その後、糸10の巻取開始に伴って、糸状態評価部53は糸10を監視する。
【0136】
このように、異物が検出領域36にいったん侵入したものの短時間で離脱した場合は、異物の侵入はなかったものとみなされるので、異物対応処理部59による異物対応処理は行われず、通常どおりの処理が行われる。従って、意味のない異物対応処理が行われることを防止して、糸巻取機の効率を向上させることができる。
【0137】
なお、
図8のように検出値がいったん鋭く増加したが短時間で元に戻る現象は、異物以外の要因でも起こり得る。例えば、前述した玉揚作業を行っているときは、玉揚作業自体は正常に行われているにもかかわらず、センサユニット35の検出値が非常に不安定になって、上記の異物判断範囲を一時的に外れることがある。しかしながら、玉揚作業の場合、そのような変動が上記の異物判断時間ほど長期にわたって続くことはなく、変動した検出値は短時間で元に戻ることが殆どである。従って、通常の玉揚作業時に無駄な異物対応処理が行われることを防止できるので、この意味でも、糸巻取機の効率を向上させることができる。
【0138】
次に、
図9のように検出値が推移する場合について説明する。
図9の例は、投光部41の温度ドリフトの影響が強く表れている場合を示しており、ゼロ点調整直後から、検出値が、
図6の場合よりも強い増大傾向を示している。ただし、1回1回の検出値の増加分は、前述した異物判断範囲の内側に収まっている。
【0139】
取得のたびに増大していく検出値は、やがて、正常範囲の上限値を上回る。t19のタイミングで取得した検出値が正常範囲の上限値を上回っていることを検出したゼロ点調整部54は、ゼロ点調整処理を再び行う。なお、これに伴い、ゼロ点測定処理及びゼロ点補正は、ゼロ点調整処理の完了後にやり直される。
【0140】
上記の処理により、許容できない温度ドリフトが生じている場合に、ゼロ点調整処理をゼロ点調整部54によってやり直すことができる。即ち、投光部41の駆動電圧を再調整することで温度ドリフトの影響を強力に排除して、糸10の状態を正確に評価することができる。
【0141】
なお、上記の例では、検出値が1回でも正常範囲の上限値を上回っていた場合に、ゼロ点調整処理が再び行われる。しかしながら、これに代えて、検出値が所定のゼロ点調整判断時間(投光調整判断時間)だけ連続して上回った場合に、ゼロ点調整部54がゼロ点調整処理を再び行うように構成しても良い。この場合、例えば検出値に表れるノイズに起因して無駄なゼロ点調整処理が行われるのを防止することができる。
【0142】
ところで、
図9に示すような温度ドリフトによる検出値の増加は、
図7や
図8に示すような異物侵入による検出値の増加とは異なる特徴を有している。即ち、温度ドリフトの影響で検出値が増加する場合、前回のタイミングでの検出値に対する増加量は異物侵入の場合に比べて相対的に小さく、かつ滑らかであるため、検出値を取得する時間間隔を十分に短くする限り、上記の異物判断範囲を外れることはきわめて考えにくい。実際、
図9の例では、t19のタイミングで正常範囲の上限値を検出値が上回るまでの個々の検出値が異物判断範囲を1度も外れていないため、異物対応処理部59は、異物が侵入したと判断しない。このことから、異物対応処理(糸有り信号の出力を阻止する処理)は行われない。
【0143】
このように、本実施形態では、検出値にいったん鋭い変動が現れ、その変動後の状態が所定時間継続した場合に、異物の侵入状態が変化したと異物対応処理部59が判断して、異物対応処理を行うように構成している。従って、例えば温度ドリフトの影響を異物によるものと誤って判断して無駄な異物対応処理を行うことを防止できる。
【0144】
次に、
図10のように検出値が推移する場合について説明する。
図10の例では
図7の場合とは逆に、t4のタイミングでの検出値が、t3での検出値(基準値)を基準とした異物判断範囲の下限値を下回り、この状況が長期間継続している。これは、検出領域36に異物が侵入している状態でゼロ点調整処理が行われ、その後、t3のタイミングまで異物は検出領域36に留まっていたが、t3からt4までの間に異物が離脱したものと考えられる。
【0145】
この場合、異物対応処理部59は、
図7の場合とほぼ同様の処理を行う。具体的には、t4のタイミングにおける検出値が、t3のタイミングにおける検出値(基準値)に基づく異物判断範囲の下限値を下回っているので、異物対応処理部59は異物判断範囲の更新を停止する。従って、次のt5のタイミングにおける検出値に対しては、t3のタイミングにおける検出値(基準値)の異物判断範囲に入っているかどうかが判定されることになる。
【0146】
図10の例では、t5のタイミングでの検出値も、t3のタイミングでの検出値に基づく異物判断範囲の下限値を下回っており、この状態がt6のタイミング、t7のタイミング、・・・と継続する。異物対応処理部59は、当該状態が所定の時間(異物判断時間)だけ連続したt22のタイミングで、検出領域36から異物が離脱したと判断する。従って、異物が侵入したと判断した
図7の場合と同様に、異物対応処理部59は、糸10が検出領域36に導入されても、糸有無判定部56が糸有り信号を出力するのを阻止し、糸継サイクルのやり直しを促す。これにより、異物が離脱した状態で改めてゼロ点調整やゼロ点補正を行うことができるので、糸状態評価部53が糸10の状態を正確に評価することができる。
【0147】
次に、クリアラ制御部50のゼロ点調整部54、ゼロ点測定部55、糸有無判定部56、評価用ゼロ点設定部58、及び異物対応処理部59等が行う具体的な処理を、
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0148】
図11に示すゼロ点調整処理及びゼロ点測定処理等は、クリアラ15の電源投入時のほか、何らかの事情で糸10が分断されてクリアラ15の検出領域36から無くなり、上述の糸継サイクルが行われる毎に実行される。なお、糸10が分断される場合とは、クリアラ15が糸監視の際に上記の糸欠陥を発見してカッタ16により糸10を切断した場合、パッケージ20が満巻になってカッタ16により糸10を切断した場合、及び、糸切れが発生した場合を含む。
【0149】
このようにゼロ点調整処理及びゼロ点測定処理が頻繁に行われることにより、周囲の環境変化や、クリアラ15の投光部41、受光部42等への汚れの付着等があっても、糸10の監視を安定して行うことが可能になる。また、上記のとおり糸継サイクルの初期に第1吹出口151及び第2吹出口152からの空気が噴射され、それから
図11の処理が開始されるので、検出領域36に異物が侵入した状態でゼロ点調整処理及びゼロ点測定処理等が行われることを防止できる。
【0150】
クリアラ15の検出領域36に糸10が存在しない状態で、
図11の処理がスタートすると、最初にゼロ点調整部54によるゼロ点調整処理が行われ、センサユニット35における投光部41の駆動電圧が上述のとおり調整される(ステップS101)。ゼロ点調整処理が完了すると、異物侵入変化フラグを0に初期化する処理が行われる(ステップS102)。その後直ちに、ゼロ点測定部55による検出値の反復的な取得処理(ステップS103〜S110)が開始される。
【0151】
具体的には、ゼロ点測定部55は、ゼロ点調整処理によって調整された駆動電圧を投光部41に印加するようにセンサユニット35を制御し、実際にセンサユニット35が出力する検出値を取得する(上記のゼロ点測定処理、ステップS103)。その後、糸有無判定部56は、ゼロ点測定部55が取得した検出値が前記の糸有無判定閾値以上になっているか否かを判定する(ステップS104)。検出値が糸有無判定閾値を下回っている場合は、ゼロ点調整部54は、当該検出値が正常範囲に入っているか、即ち、検出値が正常範囲の下限値を上回りかつ上限値を下回っているか否かを判定する(ステップS105)。検出値が正常範囲の上限値以上であった場合は、許容できない温度ドリフトが生じているものと考えられるので、ステップS101に戻る。この結果、ゼロ点調整部54がゼロ点の再調整を行い、以後の処理がやり直されることになる。
【0152】
ステップS105の判断で、検出値が正常範囲の下限値を上回りかつ上限値を下回る場合は、異物対応処理部59は、検出値が、前回の検出値(基準値)に基づいて定められた異物判断範囲内であるか否かを判定する(ステップS106)。検出値が異物判断範囲内である場合(即ち、異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下である場合)は、異物対応処理部59は、今回得られた検出値を基準値としてデータ記憶部57に保存し、かつ、当該基準値に基づいて異物判断範囲を新しく定め直してデータ記憶部57に保存する(ステップS107)。更に、ゼロ点測定部55は、今回得られた検出値を、評価用ゼロ点の設定に利用するための候補値として、前記基準値とは別にデータ記憶部57に保存する(ステップS108)。
【0153】
ステップS106の判断で、異物判断範囲を外れていると判定された場合(即ち、異物判断範囲の下限値を下回っているか、上限値を上回っている場合)は、異物対応処理部59は更に、ステップS109で、当該異物判断範囲を外れた状態が所定時間(即ち、前記の異物判断時間)継続しているかどうかを判定する。異物判断範囲を外れた状態が異物判断時間継続していた場合は、異物対応処理部59は異物の侵入又は離脱が生じたと判断し、異物侵入変化フラグを1に設定して(ステップS110)、ステップS103に戻る。ステップS109の判断で、異物判断範囲を外れた状態が継続している時間が異物判断時間未満である場合は、異物侵入変化フラグを0に保ったまま(異物侵入変化フラグを1に設定するステップS110をスキップして)、ステップS103に戻る。
【0154】
ステップS104の判断で、検出値が糸有無判定閾値以上であった場合は、異物侵入変化フラグの状態が調べられる(ステップS111)。異物侵入変化フラグが0の場合は、異物の侵入/離脱が生じたと異物対応処理部59により判断されていないことを意味する。従って、この場合は、ゼロ点測定部55がステップS108でデータ記憶部57に保存した検出値に基づいて、評価用ゼロ点設定部58が評価用ゼロ点を設定する(ステップS112)。具体的には、評価用ゼロ点設定部58は、データ記憶部57に時系列順に記憶された複数の検出値のうち、糸有りと判定されたタイミングの直前に取得された最新の検出値を評価用ゼロ点として設定して、データ記憶部57に記憶させる。続いて、糸有無判定部56が糸有り信号を出力する(ステップS113)。糸有り信号が入力されたユニット制御部30は、必要に応じて糸継装置14による糸継作業を直ちに行い、その後、巻取部18による糸10の巻取りを開始させる。糸状態評価部53は、新しい評価用ゼロ点の値に基づいて、検出領域36を走行する糸10を評価する(ステップS114)。
【0155】
ステップS111の判断で、異物侵入変化フラグが1の場合は、異物の侵入/離脱が生じたと異物対応処理部59により判断されたことを意味する。従って、異物対応処理部59は、糸有無判定部56が通常出力すべき糸有り信号を出力するのを阻止し、その状態で停止する(ステップS115)。この結果、クリアラ15は、実際には糸10がセットされて検出領域36に糸10が位置していても、糸10が位置していないように振る舞う。ユニット制御部30は、所定時間待機しても糸有り信号が入力されないために、クリアラ15の検出領域36への糸10の導入に失敗したものとみなし、糸継サイクルをやり直す。新しく開始された糸継サイクルの初期において、第1吹出口151及び第2吹出口152から空気が噴射されるので、検出領域36に異物が侵入していても吹き飛ばして除去することができる。その後、
図11のフローに示す処理が最初からやり直されることになる。
【0156】
以上の処理により、クリアラ制御部50の糸状態評価部53は、異物の侵入/離脱の影響、及び、投光部41の温度ドリフト等の影響を良好に排除して、糸10の状態を正確に評価することができる。
【0157】
なお、異物侵入変化フラグが1にセットされる時点(ステップS110)、又は、糸有り信号の出力をせずに停止する時点(ステップS115)で、表示ランプ46やディスプレイ47は、異物の侵入/離脱が発生したことを表示するように制御される。これにより、異物に起因する検出値の異常をオペレータに分かり易く知らせることができる。
【0158】
また、
図11のフローチャートにおいて、ステップS106では検出値が異物判断範囲に入っているか否かが判断されるように描かれているが、実際には、検出値が異物判断範囲の上限値を上回っているか、異物判断範囲の下限値を下回っているか、異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下であるか、が判断される。そして、検出値が異物判断範囲の上限値を上回っていた場合は異物が侵入した旨をディスプレイ47に表示し、検出値が異物判断範囲の下限値を下回っていた場合は異物が離脱した旨をディスプレイ47に表示するように構成されている。従って、異物の侵入による異常なのか、離脱による異常なのかを、オペレータに明確に知らせることができる。
【0159】
なお、本実施形態において異物対応処理部59が行う異物対応処理は、直接的には糸有無判定部56の糸有り信号の出力を阻止することであって、第1吹出口151及び第2吹出口152からの空気の噴出や、ゼロ点の再調整は、糸有り信号の出力の阻止によって結果的に実現されるものである(従って、上記の異物対応処理では、異物侵入信号/異物離脱信号のような異物検出信号が出力されることもない)。しかしながら、このような構成であっても、異物対応処理部59が実質的に空気を噴出させたり、ゼロ点の再調整をさせたりしていると把握することができる。勿論、異物対応処理部59(クリアラ制御部50)が行う異物対応処理は、検出領域36に空気を噴出させる信号(異物除去要求信号)を圧縮空気用電磁弁48へ出力する処理であっても良い。また、異物対応処理には、異物を除去した後に、ゼロ点調整部54に再びゼロ点調整処理をするように信号を直接的に出力する処理が含まれても良い。
【0160】
また、異物対応処理部59が行う異物対応処理としては、糸有無判定部56の糸有り信号の出力を阻止することに代えて、又はこれに加えて、上記の異物検出信号を出力するように変更することもできる。例えば、異物対応処理部59が異物侵入信号/異物離脱信号をユニット制御部30に送信し、これを受信したユニット制御部30が、糸継装置14による糸継作業を中止して糸継サイクルをやり直す(即ち、巻取再開が阻止される)ように構成することが考えられる。
【0161】
異物対応処理部59が行う異物対応処理としては他にも様々に考えられ、例えば、巻取部18の巻取開始を阻止する巻取阻止信号を出力したりすることが考えられる。また、糸継ぎを要求する糸継信号が糸継サイクルの途中で入力された場合には糸継サイクルを最初からやり直すようにユニット制御部30を構成した上で、異物対応処理部59が、異物対応処理として、当該糸継信号をユニット制御部30へ出力する処理を行っても良い。以上により、異物の侵入/離脱に対して様々な対応を行うことができる。
【0162】
また、
図12に示すように、異物判断範囲が固定の範囲となるように定めることもできる。
図12のグラフの例では、異物判断範囲は、前記したゼロ点調整処理における調整用基準値を基準にして、所定の幅を有するように規定されている。この変形例では、ゼロ点測定部55が取得した検出値が変動しても、異物判断範囲は変動せず一定である。また、
図12の例では、前記の正常範囲は、異物判断範囲を含み、かつ、当該異物判断範囲よりも広くなるように設定される。
【0163】
異物判断範囲を固定の範囲となるように定めた
図12の例では、温度ドリフトと異物の侵入/離脱とを区別して検出することは困難である。しかし、温度ドリフトが問題にならない場合、例えば、クリアラ15に電源が投入されてから十分に時間が経過している場合や、投光部41として高性能のLEDを使用する場合等は、異物判断範囲を固定的に定めても、異物の侵入/離脱を良好に検出することができる。
【0164】
以上に示すように、本実施形態のクリアラ15は、投光部41と、受光部42と、クリアラ制御部50と、を備える。投光部41は、糸10が走行可能な検出領域36に光を投光する。受光部42は、投光部41から投光された光を受光し、受光量に応じた電気信号を出力する。クリアラ制御部50には、受光部42の受光量に応じた検出値が入力される。クリアラ制御部50は、糸状態評価部53と、ゼロ点調整部54と、異物対応処理部59と、を備える。糸状態評価部53は、検出領域36に存在する糸10の状態を検出値に基づいて評価する。ゼロ点調整部54は、糸10が検出領域36に存在しない状態で、検出値が所定値となるように投光部41の駆動用制御値を調整するゼロ点調整処理を行う。異物対応処理部59は、糸10が検出領域36に存在しない状態で、所定の異物判断範囲を検出値が所定の異物判断時間連続して外れた場合に、異物対応処理を行う。ゼロ点調整部54は、糸10が検出領域に存在しない状態で、異物判断範囲の幅よりも広い幅を有するように予め設定された検出値の範囲である正常範囲を前記検出値が外れた場合に、ゼロ点調整処理を再び行う。
【0165】
これにより、糸10が検出領域36に存在しない状態での検出値が異物判断範囲を所定の異物判断時間連続して外れたら、異物の侵入状態の変化があったと判断して所定の異物判断処理を行うので、異物の侵入/離脱に対して適切に対応することができる。また、検出値が異物判断範囲を所定の異物判断時間連続して外れたことを条件にするので、例えば、通常の玉揚作業時にクリアラ制御部50に入力される検出値が不安定になったとしても、異物侵入状態が変化したと誤って判断することを防止することができる。
【0166】
なお、本実施形態のクリアラ15において、ゼロ点調整部54は、糸10が検出領域36に存在しない状態で、正常範囲を検出値が所定のゼロ点調整判断時間連続して外れた場合に、ゼロ点調整処理を再び行うように構成しても良い。
【0167】
この場合、例えば検出値に表れるノイズに起因して無駄なゼロ点調整処理が行われるのを防止することができる。
【0168】
また、本実施形態のクリアラ15は、検出領域36に存在する異物を除去するために、第1吹出口151、第2吹出口152及び圧縮空気用電磁弁48を含んで構成される異物除去装置を備える。異物対応処理部59が行う異物対応処理に、前記異物除去装置を動作させる処理が含まれている。
【0169】
これにより、検出領域36の異物を取り除いて、ゼロ点調整処理等に適した状態にすることができる。
【0170】
また、本実施形態のクリアラ15において、異物除去装置は、検出領域36に空気を吹き付けることで異物を除去する。
【0171】
これにより、簡単な構成で、検出領域36に存在する異物を除去することができる。
【0172】
また、本実施形態のクリアラ15において、異物対応処理部59が行う異物対応処理に、ゼロ点調整部54にゼロ点調整処理を再び行わせることが含まれている。
【0173】
これにより、ゼロ点調整処理が再び行われることで、検出値に対する異物の影響を効果的に排除することができる。
【0174】
また、本実施形態のクリアラ15は、検出領域36に糸10が位置しているか否かを判定する糸有無判定部56を備える。異物対応処理部59が行う異物対応処理に、糸10が検出領域36に位置していると糸有無判定部56が判定しても、糸10が検出領域36に位置していないように振る舞う処理が含まれる。
【0175】
即ち、異物が侵入又は離脱したと異物対応処理部59が判断した場合は、異物の影響によってクリアラ15が糸10を正確に評価することができない状態であるので、糸巻取機において巻取りが開始されてしまうのは適切でない。そこで、この場合には糸10がセットされていないかのようにクリアラ15が振る舞うことで、その後に巻取りが開始されてしまうことを確実に防止することができる。
【0176】
また、本実施形態のクリアラ15において、糸有無判定部56は、検出領域36の中の糸道に糸10が位置しているか否かを判定する。
【0177】
これにより、クリアラ15は、糸道に糸10が存在するか否かを確実に検出することができる。また、異物が侵入又は離脱したと異物対応処理部59が判断した場合は、糸道に糸10が存在しないかのようにクリアラ15が振る舞うことができる。
【0178】
ただし、異物対応処理部59が行う異物対応処理に、異物信号を出力する処理、巻取部18による糸10の巻取開始を阻止する巻取阻止信号を出力する処理、及び、糸継装置に糸継ぎを行わせる糸継信号を出力する処理のうち少なくとも何れかが含まれていても良い。
【0179】
これにより、様々な異物対応処理を行うことができる。
【0180】
また、本実施形態のクリアラ15は、表示ランプ46及びディスプレイ47を備える。そして、表示ランプ46及びディスプレイ47は、糸10が検出領域36に存在しない状態で、検出値が異物判断範囲を異物判断時間連続して外れた場合に、報知を行う。
【0181】
これにより、糸巻取機(糸巻取ユニット1)を操作するオペレータが、検出領域36への異物の侵入や離脱を、表示ランプ46及びディスプレイ47によって把握することができる。また、報知によって、オペレータが糸巻取機の巻取りを手動で停止することができる。
【0182】
また、本実施形態のクリアラ15において、オペレータに報知を行うディスプレイ47は、文字、記号、及び図形のうち少なくとも何れかを表示可能な表示装置として構成されている。
【0183】
これにより、簡素な構成でオペレータに報知を行うことができる。また、文字等を画面に表示することによって、詳細な内容をオペレータに報知することができる。
【0184】
また、本実施形態のクリアラ15において、オペレータに報知を行う表示ランプ46は、点灯可能なランプとして構成されている。
【0185】
これによっても、簡素な構成でオペレータに報知を行うことができる。また、ランプの点灯状態で異物に関する状況を報知できるので、オペレータは遠方からでも異物の侵入/離脱を確認することが容易である。
【0186】
また、本実施形態のクリアラ15において、異物対応処理部59は、糸10が検出領域36に存在しない状態で、
図7に示すように前記検出値が異物判断範囲の上限値を超えて当該異物判断範囲から外れた状態が所定時間(具体的には、異物判断時間)継続した場合に、検出領域36に異物が侵入したと判断する。また、異物対応処理部59は、糸が検出領域36に存在しない状態で、
図10に示すように前記検出値が異物判断範囲の下限値を超えて当該異物判断範囲から外れた状態が所定時間(具体的には、異物判断時間)継続した場合に、検出領域36から異物が離脱したと判断する。
【0187】
これにより、異物対応処理部59は、検出領域36への異物の侵入と離脱とを区別して判断することができる。
【0188】
また、本実施形態のクリアラ15において、異物判断範囲は、過去の検出値である基準値を基準として相対的に定められる。そして、異物対応処理部59は、検出値が異物判断範囲の下限値以上かつ上限値以下である場合は、次回の判断で、当該検出値を前記基準値として定めた新しい前記異物判断範囲を用いる。
【0189】
これにより、異物対応処理部59は、検出領域36への異物の侵入状態に変化があったか否かを高い精度で把握することができる。
【0190】
ただし、異物判断範囲は、
図12の例に示すように固定的に定められても良い。
【0191】
この場合、異物の侵入/離脱の判断を簡素に行うことができる。
【0192】
また、本実施形態のクリアラ15は、検出領域36に糸10が位置しているか否かを判定する糸有無判定部56を備える。糸有無判定部56は、検出値が所定の糸有無判定閾値以上である場合に、検出領域36に糸10が位置していると判断する。糸有無判定閾値は、異物判断範囲から外れた値に設定される。
【0193】
これにより、クリアラ15は、糸10の存在を、繊維屑等の異物と区別して把握することができる。
【0194】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0195】
検出領域36に異物が侵入したと判断した場合と、検出領域36から異物が離脱したと判断した場合とで、異物対応処理部59が行う異物対応処理を異ならせても良い。例えば、異物が侵入している
図7の場合は、異物を除去するために第1吹出口151及び第2吹出口152から空気を噴射させる一方で、異物が離脱している
図10の場合は上記の空気の噴射を行わないようにすることができる。
【0196】
検出領域36に空気を吹き付けるための構成は、上記の構成に限定されない。例えば、第1吹出口151及び第2吹出口152のうち何れかを省略しても良い。また、空気の噴出口がハウジング37に形成されず、外部に設置された適宜の配管の先端にエアノズルを形成して、このエアノズルから凹部38に対して空気を噴射しても良い。
【0197】
また、空気を用いずに異物を除去することも可能であり、例えば、クリアラ15のハウジング37に形成された凹部38に細いブラシを差し込んで清掃する異物除去装置が備えられても良い。
【0198】
更には、異物除去のための構成を省略して、オペレータが手作業で凹部38から異物を取り除くのを、表示ランプ46やディスプレイ47で促すように構成しても良い。
【0199】
上記実施形態では、投光部41から糸10へ向かって照射され、糸10を通り過ぎた光である透過光を受光する受光部42を用いて、検出領域36に対する異物の侵入・離脱を判断する構成とした。しかしながら、投光部41から糸10へ向かって照射され、糸10に反射した光である反射光を受光する受光部を用いて、異物の侵入・離脱を判断する構成としても良い。
【0200】
上記実施形態では、クリアラ15がカッタ16を備え、糸欠陥を検出した場合に糸10を切断できる構成とした。しかしながら、カッタ16を備えない糸監視装置であっても良い。即ち、本発明の糸監視装置は、糸の状態の監視のみを行う装置であっても良い。
【0201】
上記実施形態では、受光部42の後段に配置された増幅器43によって反転処理が行われるため、受光部42の受光量が大きくなればなるほど、増幅器43の出力電圧は小さくなっている。しかしながら、上記のような反転処理を行わない増幅器を用いても良い。この場合、
図6から
図10、
図12に示すグラフの縦軸が上下逆になるので、異物の侵入/離脱、正常範囲、及び糸の有無に関する判断において、検出値の大小関係が反転することになる。
【0202】
糸巻取機は、紡績機や自動ワインダに限定されず、他の構成の糸巻取機であっても良い。