【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、cBN焼複合結体の構造について鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
【0009】
即ち、前記特許文献1〜3に記載される2層構造のcBN複合焼結体において、刃先稜線部分には耐チッピング性にすぐれたcBN焼結体をさらに配置することによって、耐チッピング性、耐欠損性、耐逃げ面摩耗性及び耐すくい面摩耗性(耐クレータ摩耗性)のいずれにもすぐれるcBN複合焼結体インサートを提供できること、そのためには、cBN複合焼結体を3層構造として構成し、逃げ面は40〜60vol%のcBNを含有する耐逃げ面摩耗性にすぐれたcBN焼結体で構成し、すくい面は逃げ面を構成するcBN焼結体より少なくとも10vol%以上cBN含有量の多い耐すくい面摩耗性(耐クレータ摩耗性)にすぐれるcBN焼結体で構成し、さらに、刃先稜線を含む領域は、すくい面を構成するcBN焼結体よりさらに5vol%以上cBN含有量の多いcBN焼結体で構成し耐チッピング性、耐欠損性を向上させれば良いことを見出した。
そして、前記3層構造からなるcBN複合焼結体をインサートとして切削加工に供したところ、チッピング、欠損の発生を防止し得るとともに、耐逃げ面摩耗性及び耐すくい面摩耗性(耐クレータ摩耗性)にすぐれるというすぐれた切削性能が得られることを見出したのである。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)立方晶窒化硼素複合焼結体インサートにおいて、
(a)前記立方晶窒化硼素複合焼結体を、逃げ面を構成する第1立方晶窒化硼素焼結体層、刃先稜線を構成する第2立方晶窒化硼素焼結体層およびすくい面を構成する第3立方晶窒化硼素焼結体層の3層からなる複合焼結体として構成し、
(b)前記第1立方晶窒化硼素焼結体層は、立方晶窒化硼素の含有割合40〜60vol%である立方晶窒化硼素焼結体からなり、
(c)前記第3立方晶窒化硼素焼結体層は、前記第1立方晶窒化硼素焼結体層の立方晶窒化硼素の含有割合より少なくとも10vol%以上多い立方晶窒化硼素を含有し、
(d)前記第2立方晶窒化硼素焼結体層は、前記第3立方晶窒化硼素焼結体層の立方晶窒化硼素の含有割合よりさらに5vol%以上多い立方晶窒化硼素を含有し、かつ、第2立方晶窒化硼素焼結体層の厚さは、30〜200μmの範囲内であることを特徴とする立方晶窒化硼素複合焼結体インサート。」
を特徴とするものである。
なお、本発明で規定するcBN含有割合(vol%)については、以下の方法で測定して求めることができる。
立方晶窒化硼素複合焼結体インサートの縦断面について、倍率5,000倍のSEM画像を取得し、画像処理ソフトにて二値化し、cBN粒子の占める面積%を算出することで、cBN含有量を求め、3視野について求めたcBN含有量の平均値をcBNの含有割合とする。
【0011】
以下に、本発明について、詳細に説明する。
【0012】
図1に、cBN複合焼結体インサートの概略縦断面図を示す。
本発明のcBN複合焼結体インサートは、逃げ面を構成する第1cBN焼結体層と、すくい面を構成する第3cBN焼結体層を備え、さらに、前記第1cBN焼結体層と第3cBN焼結体層との間に介在形成された第2cBN焼結体層を備え、かつ、刃先稜線は前記第2cBN焼結体層によって形成されている。
本発明のcBN複合焼結体インサートは、上記のように3層構造のcBN複合焼結体から構成される。
【0013】
そして、本発明の前記3層構造からなるcBN複合焼結体は、例えば、以下の手順によって作製される。
まず、第1、第2、第3の各cBN焼結体層の組成に見合った配合組成となるように原料成分を混合して、第1、第2、第3の各原料粉末を作製する。
ついで、最終的に第1、第2、第3の各cBN焼結体層の層厚になるように、各層に応じて第1、第2、第3の各原料粉末を秤量する。
ついで、成形用金型内へと、まず、第1cBN焼結体層を構成するcBN焼結体用の第1原料粉末を充填し、例えば、1ton/cm
2の加圧力で成形し、第1成形体を作製する。
ついで、成形用金型内の前記第1成形体の上面に、第2cBN焼結体層を構成するcBN焼結体用の第2原料粉末を充填し、例えば、1ton/cm
2の加圧力で成形し、第1成形体と第2成形体からなる複合成形体を作製する。
ついで、成形用金型内の前記第1成形体と第2成形体からなる複合積層体の上面に、第3cBN焼結体層を構成するcBN焼結体用の第3原料粉末を充填し、例えば、3ton/cm
2の加圧力で成形し、第1成形体、第2成形体および第3成形体からなる複合成形体を作製する。
ついで、前記第1層成形体、第2層成形体および第3層成形体からなる複合成形体を、例えば、真空中1Pa、温度1000℃、保持時間30分の条件で真空焼結することにより、予備焼結体を作製する。
ついで、前記予備焼結体を、WC基超硬合金からなる裏打ち材上に載置し、例えば、圧力5GPa、温度1500℃、保持時間30分の条件で超高圧高温処理し、一体焼結することによってcBN複合焼結体を作製する。
前記の手順によって、各層ごとの所望のcBN含有割合、層厚を有する本発明の3層構造のcBN複合焼結体を作製することができる。
さらに、前記cBN複合焼結体を、所定形状に加工し、WC超硬合金基体に形成した凹所に取り付け、ロウ付け等により接合することによって、チッピング、欠損の発生を防止し得るとともに、耐逃げ面摩耗性及び耐すくい面摩耗性(耐クレータ摩耗性)にすぐれた3層構造のcBN複合焼結体からなる本発明のcBN複合焼結体インサートを作製することができる。
【0014】
第1cBN焼結体層:
cBN焼結体中のcBNは、きわめて硬質で、焼結材料中で分散相を形成し、そしてこの分散相によって耐摩耗性の向上が図られる。
しかし、cBN焼結体インサートにおけるcBN含有割合によって、逃げ面摩耗とすくい面摩耗(クレータ摩耗)に対する挙動が異なっていることから、インサートの位置に応じてcBN含有割合を変化させることが必要となってくる。
そして、インサートの逃げ面を構成する第1cBN焼結体層においては、cBN含有割合が60vol%を超えると耐逃げ面摩耗性が低下し、一方、cBN含有割合が40vol%より少なくなると、インサートの強度が低下してくることから、cBN含有割合は40〜60vol%とすることが必要である。
【0015】
第3cBN焼結体層:
cBN焼結体インサートのすくい面を構成する第3cBN焼結体層においては、第1cBN焼結体層におけるcBN含有割合よりも、10vol%以上cBNを多く含有させることにより、耐すくい面摩耗性(耐クレータ摩耗性)を高める。
ただ、第3cBN焼結体層におけるcBN含有割合が多くなりすぎると、cBN焼結体の焼結性の低下による強度低下が生じることから、cBN含有割合は、最大でも80vol%とすることが望ましい。
【0016】
第2cBN焼結体層:
cBN焼結体インサートの刃先稜線を構成する第2cBN焼結体層においては、第3cBN焼結体層におけるcBN含有割合よりも、さらに5vol%以上cBNを多く含有させることにより、刃先のチッピング発生、欠損発生を抑制する。
ただ、第3cBN焼結体層の場合と同等、cBN含有割合が多くなりすぎると、cBN焼結体の焼結性の低下による強度低下が生じることから、cBN含有割合は、最大でも85vol%とすることが望ましい。
また、第2cBN焼結体層がインサートの刃先稜線を構成するためには、少なくとも30μm以上の層厚が必要であるが、層厚が200μmを超えると逃げ面摩耗性を低下させるようになることから、第2cBN焼結体層の層厚は30〜200μmとする。好ましい第2cBN焼結体層の層厚は30〜100μmである。
【0017】
前記第1、第2及び第3の各cBN焼結体層には、その成分として、例えば、Ti化合物,TiAl化合物,Al等を含有することができ、本発明では、これらの含有量を特に制限するものではない。
しかし、例えば、Ti化合物(TiN、TiCNおよびTiCのうちから選ばれる1種又は2種以上)については、焼結性を向上させるとともに焼結体中で連続相を形成して強度を向上させる作用があるが、その配合割合が少なすぎては強度の向上を望むことはできず、一方その配合割合が多すぎると、相対的にcBNの含有量が少なくなり、すくい面摩耗(クレータ摩耗)などが生じやすくなることから、これらの観点からその配合量を定めることが望ましい。
【0018】
また、TiAl化合物,Alは焼結時に優先的にcBN粉末の表面に凝集し、反応して反応生成物を形成し、焼結後のcBN焼結体中で、連続相を形成するTi化合物相と硬質分散相を形成するcBN相の間に介在するようになり、この反応生成物は前記連続相を形成するTi化合物相と硬質分散相を形成するcBN相のいずれとも強固に密着接合する性質をもつことから、前記cBN相の連続結合相であるTi化合物相に対する密着性が著しく向上させ、切刃の耐チッピング性を向上させるが、その量が多くなりすぎると、cBNの含有量が少なくなり、すくい面摩耗(クレータ摩耗)などが生じやすくなることから、これらの観点からその配合量を定めることも必要である。