特許第6410216号(P6410216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410216
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】多気筒エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20181015BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20181015BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20181015BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20181015BHJP
   F02B 37/18 20060101ALI20181015BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20181015BHJP
   F02M 26/64 20160101ALI20181015BHJP
【FI】
   F02D23/00 F
   F02D21/08 301A
   F02D21/08 311B
   F02D9/02 S
   F02B37/00 302F
   F02B37/18 A
   F02M26/05
   F02M26/64
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-66041(P2016-66041)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-180196(P2017-180196A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 貴史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 佳朋
(72)【発明者】
【氏名】藤山 智彰
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−351071(JP,A)
【文献】 特開2006−257940(JP,A)
【文献】 特開2015−209815(JP,A)
【文献】 特表2009−520918(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0132153(US,A1)
【文献】 特開2013−245572(JP,A)
【文献】 特開2012−102617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 23/00
F02B 37/00
F02B 37/18
F02D 9/02
F02D 21/08
F02M 26/05
F02M 26/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒エンジンの制御装置であって、
前記多気筒エンジンの吸気系統に設けられ、下流側への新気の導入量を調整するためのスロットル弁と、
前記多気筒エンジンと前記スロットル弁との間に設けられたEGR導入口と、
前記スロットル弁の開度を制御する開度制御装置と、を備え、
前記開度制御装置は、EGR導入口から排気が吸気系統に環流されており、かつEGR率が所定値以上である場合には、EGR率が所定値より小さい場合に比較して前記スロットル弁の最大開度を閉補正する、多気筒エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記多気筒エンジンの排気系統に設けられたタービン、及び前記吸気系統に設けられ前記タービンと連結されたコンプレッサを備えるターボ過給機と、
前記排気系統上において前記コンプレッサを迂回するバイパス通路上に設けられたウェイストゲート弁と、をさらに備え、
前記開度制御装置によって前記スロットル弁の開度が閉補正された場合、前記ウェイストゲート弁の開度を小さくする、請求項1に記載の多気筒エンジンの制御装置。
【請求項3】
前記スロットル弁の最大開度を閉補正する量は、EGR率が高くなるにしたがって大きくなる、請求項2に記載の多気筒エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒エンジンの制御装置に関し、特に、EGR通路を通して排気を再循環させる多気筒エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多気筒エンジンから排出された排気ガスを多気筒エンジンの吸気側に環流することにより、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を減少させ、かつ燃費を向上させることができる、EGR(Exhaust Gas Recirculation)制御技術が知られている。EGR制御のうち、多気筒エンジンから排出されたEGRガスを、エンジンの排気通路と、エンジンへの吸気通路とを連結するEGR通路を介して環流させる、いわゆる外部EGRでは、EGR通路を、多気筒エンジンの上流側のスロットル弁と、多気筒エンジンの各気筒への気筒分配を行うためのインテイクマニホルドとの間に連結する。そして、排気通路からのEGRガスは、EGR通路と、吸気通路との連結分から吸気通路に導入され、インテイクマニホルドに到達するまでに、吸気通路の上流側から流れてきた新気と混合され、その後、インテイクマニホルドを介して各気筒に分配される。
【0003】
通常、EGRガスを吸気通路に環流する場合、吸気通路に導入するEGRガスの総量を管理することはできるものの、多気筒エンジンにおいて、各気筒にどの程度のEGRガスが供給されているかを監視することは行われていない。そして、多気筒エンジンへの新気供給量や各気筒への燃料供給量は、EGR通路を通過したEGRガスが各気筒に均一に分配されている前提で制御されているため、多気筒エンジンの各気筒に実際に供給されるEGRガスの量は、気筒毎に均一であることが求められる。この場合、環流されるガスのEGR濃度又はEGR量が少ない場合には、各気筒に供給されるEGRガスの量が均一でなくともエンジンの効率が低下することはないが、環流されるEGRガスの濃度が高い場合には、各気筒に供給されるEGRガスの量が不均一であると、気筒毎の燃焼効率にばらつきが出てしまい、要求されるエンジンの出力を確保することができない場合があった。
【0004】
このような問題を解決すべく、多気筒エンジンにEGRガスを供給する場合に、気筒毎のEGR量の差を少なくし、各気筒に均一にEGRガスを供給する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−245572号公報
【0006】
特許文献1では、スロットル弁と、エンジンとの間に、EGRの混合室を設け、混合室内に乱流を発生させ、EGRと新気を混合し、各気筒に供給するEGRの量を均一にするようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、エンジンの大型化を招き、好ましくない、という問題があった。即ち、スロットル弁とエンジンとの間のスペースは、非常に限られており、このような極めて限られたスペースにEGR用の混合室を設けることは、設計上困難であり、また、仮に混合室を設けられたとしても、エンジンが大型化してしまう。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、エンジンの大型化を図ることなく、特にEGR濃度が高い場合において、EGRと新気とを混合し、多気筒エンジンの各気筒に均一にEGRガスを分配できる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、多気筒エンジンの制御装置であって、前記多気筒エンジンの吸気系統に設けられ、下流側への新気の導入量を調整するためのスロットル弁と、前記多気筒エンジンと前記スロットル弁との間に設けられたEGR導入口と、前記スロットル弁の開度を制御する開度制御装置と、を備え、前記開度制御装置は、EGR導入口から排気が吸気系統に環流されており、かつEGR率が所定値以上である場合には、EGR率が所定値より小さい場合に比較して前記スロットル弁の最大開度を閉補正する。
【0010】
このように構成された本発明によれば、EGR率が所定値以上であり、吸気中のEGR濃度が高い場合には、スロットル弁の最大開度を閉補正することにより、スロットル弁と多気筒エンジンとの間で、新気の流れに乱れを生じさせることができる。そして、スロットル弁と多気筒エンジンとの間、即ちEGR導入口付近で新気の乱流を発生させることにより、新気と、環流された排気との混合を促進することができる。これにより、多気筒エンジンの各気筒に供給される排気の量をより均一にすることができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、前記多気筒エンジンの排気系統に設けられたタービン、及び前記吸気系統に設けられ前記タービンと連結されたコンプレッサを備えるターボ過給機と、前記排気系統上において前記コンプレッサを迂回するバイパス通路上に設けられたウェイストゲート弁と、をさらに備え、前記開度制御装置によって前記スロットル弁の開度が閉補正された場合、前記ウェイストゲート弁の開度を小さくする。
【0012】
このように構成された本発明によれば、スロットル弁の開度が閉補正された場合にウェイストゲート弁の開度を小さくし、タービンの回転数を上昇させ、これにより、吸気系統内の過給圧を上昇させることができる。これにより、スロットル弁の開度が閉補正されて多気筒エンジンへの吸気量が不足するのを防止することができる。
【0013】
この場合において、前記スロットル弁の最大開度を閉補正する量は、EGR率が高くなるにしたがって大きくなることが好ましい。
【0014】
これにより、EGR率が高い場合に、EGR導入口付近で生じる乱流をより大きくすることができる。従って、EGR率が高い場合においても、各気筒に供給される排気の量を均一にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、エンジンの大型化を図ることなく、特にEGR濃度が高い場合において、EGRと新気とを混合し、多気筒エンジンの各気筒に均一にEGRガスを分配できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が搭載されたエンジンシステムの構成図である。
図2】本発明の実施形態によるエンジンシステムの動作を示すフロー図である。
図3】EGR率と、上限値TVOlimとの関係を示すグラフである。
図4】スロットル弁の開度を閉補正した際の過給圧制御を示すフロー図である。
図5】エンジンシステムが使用するマップの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置について説明する。図1は、エンジンの制御装置が搭載されたエンジンシステムの構成図である。
【0018】
図1に示すように、エンジンシステム100は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気通路10と、この吸気通路10から供給された吸気と、後述する燃料噴射弁23から供給された燃料との混合気を燃焼させて車両の動力を発生するエンジン20(例えばガソリンエンジン)と、このエンジン20内の燃焼により発生した排気ガスを排出する排気通路30とを有する。
【0019】
吸気通路10には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナー2と、通過する吸気を圧縮して吸気圧力を上昇させる、ターボ過給機4のコンプレッサ4aと、通過する吸気を冷却するインタークーラ9と、通過する吸気量を調整するスロットル弁11と、エンジン20に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク13と、が設けられている。
【0020】
スロットル弁11は、エンジン20で要求される新気流量に基づいてその開度が0%〜100%の間で制御される。そして、スロットル弁11の開度が0%の場合、スロットル弁11は、吸気通路10の延びる方向に直交する姿勢に制御され、吸気通路10下流側に向けた新気の流れを遮断する。一方で、スロットル弁11の開度が100%の場合、スロットル弁11は、吸気通路10が延びる方向と平行な姿勢に制御され、新気は、スロットル弁11に邪魔されることなく吸気通路10下流側に向けて滑らかな気流で流れる。
【0021】
また、吸気通路10には、ターボ過給機4のコンプレッサ4aを迂回して吸気を流すエアバイパス通路6が設けられている。具体的には、エアバイパス通路6は、一端がコンプレッサ4aの下流側で且つスロットル弁11の上流側の吸気通路10に接続され、他端がコンプレッサ4aの上流側の吸気通路10に接続されている。また、このエアバイパス通路6上には、エアバイパス通路6を流れる吸気を制御するエアバイパス弁7が設けられている。
【0022】
エンジン20は、主に、吸気通路10から供給された吸気を燃焼室21内に導入する吸気弁22と、燃焼室21に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁23と、燃焼室21内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ24と、燃焼室21内での混合気の燃焼により往復運動するピストン27と、ピストン27の往復運動により回転されるクランクシャフト28と、燃焼室21内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路30へ排出する排気弁29とを有する。そして、エンジン20は、例えば、4個の燃焼室21及び4個のピストン27を備える、4気筒エンジンである。
【0023】
排気通路30には、上流側から順に、通過する排気ガスによって回転され、この回転によって上記したようにコンプレッサ4aを駆動する、ターボ過給機4のタービン4bと、排気通路30内で生じた異音を処理するためのマフラー38と、が設けられている。また、図示は省略するが、ターボ過給機4と、マフラー38との間には、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、排気ガスの浄化機能を有する排気浄化触媒が設けられている。
【0024】
また、排気通路30には、ターボ過給機4のタービン4bを迂回して排気ガスを流すタービンバイパス通路35が設けられている。タービンバイパス通路35は、排気通路30のタービン4b上流側と、タービン4b下流側とを、タービン4bを迂回して連結する通路である。そして、タービンバイパス通路35上には、タービンバイパス通路35を流れる排気ガスを制御するウェイストゲート弁36が設けられている。ウェイストゲート弁36は、後述するPCMによる制御のもと、タービンバイパス通路35を遮断し、又は排気通路30のタービン4b上流側と下流側とを、タービン4bを介さずに連結するように開閉する。
【0025】
さらに、排気通路30と吸気通路10との間には、エンジン20から排出された排気を吸気通路に環流させるための排気環流(EGR)通路40が設けられている。EGR通路40は、エンジン20と、ターボ過給機4のタービン4bとの間で排気通路30から分岐し、スロットル弁11とサージタンク13との間で吸気通路10と合流する。そして、EGR通路40上には、EGR通路40内に流入した排気を冷却するためのEGRクーラー42と、EGRクーラー42よりも吸気通路10側に設けられ、吸気通路10に導入する排気の量を制御するEGR弁44とが設けられている。
【0026】
エンジンシステムは、さらに、システム全体を制御するためのPCM(Power Control Module)51を備えている。そして、PCM51は、例えば、吸気通路10におけるスロットル弁11よりも上流側の吸気通路10内の圧力を検出する第1圧力センサ53、スロットル弁11を通過した新気の流量を検出する流量センサ55、サージタンク13内の圧力を検出する第2圧力センサ57、EGR通路40内のEGR量を検出するEGRセンサ59等からの検出値を受信するように構成されている。
【0027】
図2は、上述したエンジンシステムの動作を示すフロー図である。
【0028】
エンジンの運転中において一連の処理が開始すると、エンジンシステム100は、ステップS1において、スロットル弁11の上流側と下流側の圧力を検出する。この処理は、PCM51が、第1圧力センサ53及び第2圧力センサ57の検出値を読み取ることで行われる。
【0029】
次いで、ステップS2においてエンジンシステム100は、要求スロットル通過流量ga0を算出する。この処理は、PCM51が、例えば、アクセル開度からエンジンのトルク要求を算出し、算出したトルク要求値から、必要とされる新気の量(スロットルを通過する単位時間当たり新気の量)を算出する。そしてPCM51は、第2圧力センサ57の検出値に基づいて、サージタンク13内の圧力を検出し、算出した新気の量を、検出したサージタンク13内の圧力で補正することにより、過渡を考慮したスロットル弁11を通過させるべき新気の量、即ち要求スロットル通過流量ga0を算出する。
【0030】
次いで、ステップS3においてエンジンシステム100は、実際にスロットル弁11を通過している新気の量、即ち実スロットル通過流量ga1を算出する。この処理は、PCM51が、現在のスロットル開度及びスロットル弁11の上下の圧力差を検出し、検出した値をベルヌーイの定理に当てはめることで実行される。
【0031】
次いで、ステップS4においてエンジンシステム100は、EGR制御を行っているか否かを判断する。そして、例えば、エンジン20の高負荷運転領域においてEGR弁44が開かれており、EGR通路40を介して排気通路20から排気の環流が行われている場合には、ステップS5の処理に進む。
【0032】
ステップS5においてエンジンシステム100は、スロットル弁11の開度の上限値TVOlimを設定する。即ち、EGR通路40を介して排気の環流が行われている場合には、スロットル弁11の開度に上限値が設定され、エンジン20からの要求負荷に関わらず、スロットル弁11の最大開度が制限される。上限値TVOlimの値は、実験的に求められた値であり、例えば、図3に示すグラフのように決定されている。
【0033】
図3は、EGR率と、上限値TVOlimとの関係を示すグラフであり、縦軸に上限値TVOlim(%)を示し、横軸にEGR率(%)を示す。排気を吸気通路10に環流した際の排気の通路内での分散具合は、EGR通路40の端にあるEGR導入口の位置や形状等によって異なるものである。そして、上限値TVOlimは、EGR導入口の位置や形状等に応じて実験的に求められ、PCM51内に記録されている。例えば、或るエンジン、排気の分散具合が低いエンジンでは、EGR率と上限値TVOlimとの関係は、線L1によって示すものとなる。排気の分散具合が低いエンジンでは、比較的EGR率が低い、E1%のときから上限値TVOlimとして、例えば70%が設定される。そして、上限値TVOlimは、EGR率が高くなるにつれ、低くなる。即ち、排気の分散具合が低いエンジンでは、環流される排気の量が少ないときから、排気環流時にスロットル弁11の下流において乱流を発生させる。従って、排気の分散具合が低いエンジンでは、比較的EGR率が低いとき(E1%)から、上限値TVOlimが設定されている。なお、排気の分散具合が低いエンジンであっても、EGR率がE1%よりも低い場合には、スロットル弁11の下流側において排気の分散具合を考慮する必要がないため、上限値TVOlimは設定されない。
【0034】
また、比較的排気の分散具合が高いエンジンでは、EGR率と上限値TVOlimとの関係は、線L2によって示すものとなる。比較的排気の分散具合が高いエンジンでは、EGR率がE1%以上であっても、上限値TVOlimは設定されておらず、EGR率がE1%よりも高いE2%以上となった場合に、上限値TVOlimが設定される。これにより、EGR率がE1%よりも高く、かつE2%以下の場合には、上限値TVOlimが設定されず、スロットル弁11は、エンジンの要求負荷に応じて開度が制御される。そして、EGR率E1%及びE2%も、上限値TVOlimと同様に、実験的に求められ、PCM51に記憶された値である。そして、エンジンシステム100では、エンジンの排気の分散具合に応じて決定されたEGR率(E1又はE2%)を下限値として、EGR率がそれ以上である場合に、上限値TVOlimを設定するようになっている。
【0035】
一方で、例えば、エンジン20の低負荷運転領域においてEGR弁44が閉じられており、EGR通路40を介して排気の環流が行われていない場合には、ステップS5の処理を行わず、ステップS6以降の処理に進む。
【0036】
ステップS6においてエンジンシステム100は、要求スロットル通過量ga0と、実スロットル通過量ga1とが等しいか否かを判定する。この処理により、要求スロットル通過量ga0が達成できているか否かを判断することができる。そして、ステップS6において、要求スロットル通過量ga0と、実スロットル通過量ga1とが等しいと判断された場合には、一連の処理を終了し、再度、ステップS1からの処理を繰り返す。
【0037】
一方で、ステップS6において、要求スロットル通過量ga0と、実スロットル通過量ga1とが等しくないと判断された場合、エンジンシステム100は、ステップS7において、要求スロットル通過量ga0が、実スロットル通過量ga1よりも大きいか否かを判断する。そして、ステップS7において要求スロットル通過量ga0が、実スロットル通過量ga1よりも大きくないと判断した場合には、現在、エンジンからの要求に対してスロットル弁11を通過する新気の量が多いと判断し、ステップS8においてスロットル弁11の開度を小さくし、一連の処理を終了する。
【0038】
また、ステップS7において、要求スロットル通過量ga0が、実スロットル通過量ga1よりも大きいと判断した場合には、ステップS9においてエンジンシステム100は、現在のスロットル弁11の開度が、上限値TVOlimよりも小さいか否かを判断する。なお、EGR通路41を介して排気の環流が行われておらず、ステップS5において上限値TVOlimが設定されていない場合には、常に、現在のスロットル開度が、上限値TVOlimよりも小さいものと判断する。そして、ステップS9の処理は、ステップS7において、実スロットル通過量ga1が、要求スロットル通過量ga0未満であり、エンジン20の要求に対して新気の導入量が少ない場合に行われるものであるから、ステップS9において現在のスロットル弁11の開度が、上限値TVOlimよりも小さいと判断された場合には、ステップS10においてスロットル弁11の開度を大きくし、一連の処理を終了する。
【0039】
一方で、ステップS9において現在のスロットル弁11の開度が、上限値TVOlimよりも小さくないと判断された場合には、ステップS11においてスロットル弁11の開度を、ステップS5で設定された上限値TVOlim以下まで低下させる。これにより、EGR通路41を介して排気が環流されている場合において、EGR率に応じてスロットル弁11の開度を閉補正することができる。そして、スロットル弁11の補正後の開度は、図3に示すグラフに従った開度となる。そして、スロットル弁11の開度を補正することで、スロットル弁11の下流側において乱流が発生し、吸気通路10内の新気と環流された排気との混合を促進し、各気筒に供給される排気の量をより均一にすることができる。
【0040】
このように、本実施形態によれば、EGR率が所定値以上であり(例えば、E1%以上又はE2%以上)、吸気中のEGR濃度が高い場合には、仮に要求されるスロットル弁11の開度が100%であったとしても、スロットル弁11の開度を閉補正することにより、スロットル弁11と多気筒エンジン20との間で、新気の流れに乱れを生じさせることができる。そして、スロットル弁11と多気筒エンジン20との間、即ちEGR導入口付近で新気の乱流を発生させることにより、新気と、環流された排気との混合を促進することができる。これにより、多気筒エンジン20の各気筒に供給される排気の量をより均一にすることができる。
【0041】
また、吸気行程において、スロットル弁11の開度を小さくすると、エンジン20に供給される新気の量が不足し、要求トルクを満足することができない場合も考えられる。このような場合には、スロットル弁11の開度を補正後の開度に維持したまま、エンジン20への過給圧を増加させることにより要求トルクを達成することが好ましい。
【0042】
図4は、スロットル弁の開度を閉補正した際の過給圧制御を示すフロー図である。
【0043】
図4に示すように、一連の処理が開始すると、ステップS31においてエンジンシステムは、アクセル開度、エンジン回転数、及び吸気通路10内への新気の流入量を読み込む。この処理は、PCM51が、図示せぬ各種センサの検出値を読み込むことで行われる。
【0044】
次いで、ステップS32においてエンジンシステムは、アクセル開度に基づいてトルク要求値を算出し、ステップS33においてトルク要求値を達成するために必要なエンジン20への充填効率CEaを算出する。これらステップS32及びS33によって、アクセル開度に基づくドライバーからの要求に応えるために必要な充填効率CEaを算出する。
【0045】
次いで、ステップS34においてエンジンシステムは、エンジン回転数とエンジン負荷に基づいて目標EGR率を決定する。この処理は、読み出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づいて、予めPCM51に記憶されたマップを参照することで行われる。
【0046】
次いで、ステップS35においてエンジンシステムは、決定されたEGR率に基づいて設定される上限値TVOlimに基づき、スロットル弁11の開度を補正した後の充填効率CEbを算出する。具体的には充填効率CEbを算出するためには、制限されるスロットル開度に基づくスロットル通過流量を算出し、スロットル通過流量からインマニ空気量を算出する。そして、充填効率CEbは、算出されたインマニ空気量に基づいて算出される。
【0047】
次いで、ステップS36においてエンジンシステムは、ステップS33で算出した充填効率CEaと、ステップS35で算出した充填効率CEbとを比較し、充填効率CEaが、EGR率を考慮した上記上限値TVOlimに基づくスロットル弁開度補正後の充填効率CEbよりも大きいか否かを判断する。そして、充填効率CEaと充填効率CEbよりも大きくない場合、即ち等しい場合、ステップS37においてエンジンシステムは、継続する計算で使用する充填効率CEとして、充填効率CEaの値をセットする。一方で、充填効率CEbが、充填効率CEaよりも小さい場合、つまり上記上限値TVOlimに基づき実質的にスロットル弁11の開度が制限される場合、ステップS38においてエンジンシステムは、継続する計算で使用する充填効率CEとして、充填効率CEbの値をセットする。
【0048】
次いで、ステップS39においてエンジンシステムは、設定された充填効率CEに基づき、サージタンク13内の要求圧力Pa(又は要求インマニ圧)を算出する。
【0049】
次いで、ステップS40においてエンジンシステムは、要求スロットル前後差圧を読み出す。この処理は、現在のエンジン回転数と、充填効率から、燃費とスロットルの応答性とを両立するスロットル前後差圧を予め実験的に求めたマップ(図5参照)を、予めPCM51に記憶させておき、当該マップを読み出すことで実行される。
【0050】
次いで、ステップS41においてエンジンシステムは、スロットル弁11の前後差圧の補正量Pbを算出する。前後差圧の補正量Pbとは、スロットル弁11の開度を閉補正したことにより低下した充填効率(CEaとCEbとの差の絶対値)を補うために必要な圧力である。従って、CEaとCEbとの差がない場合には、補正量Pbは0となる。この処理は、具体的には低下する充填効率分を低下する流量に変換し、この流量とスロットル弁開度(通路開口面積)に基づいて前後差圧の補正量Pbを求める。
【0051】
次いで、ステップS42においてエンジンシステムは、ステップS40において読み出した差圧Pb1と、ステップS41において算出した補正量Pb2とを加算し、スロットル弁11の開度を閉補正したことにより必要となった最終的なスロットル弁11前後の差圧Pbを算出する。そして、ステップS43においてエンジンシステムは、ステップS39において算出されたインマニ圧Paと、ステップS42で算出した補正量Pb2に基づいて、スロットル弁11の開度を閉補正した際のトルク低下を補うために必要なエンジンの目標過給圧Pcを算出する。
【0052】
過給圧を制御するための具体的な手段としては、例えば、タービンバイパス通路35に設けられたウェイストゲート弁36の開度を調整する方法がある。即ち、ウェイストゲート弁36の開度を小さくするか、全閉にすると、タービンバイパス通路35が一部縮小もしくは遮断されるため、タービン4b側に向けて流れる排気の量が増加し、タービン4bの出力が増加する。そして、タービン4bの出力が増加すると、コンプレッサ4aによる吸気通路10内の過給圧が上昇する。逆にウェイストゲート弁36の開度を大きくするか、全開にすると、タービンバイパス通路35が拡開されるため、タービン4b側に向けて流れる排気の量が減少し、タービン4bの出力が減少する。そして、タービン4bの出力が減少すると、コンプレッサ4aによる吸気通路10内の過給圧が下降する。
【0053】
以上のような過給圧制御により、スロットル弁11を閉じたことによって、エンジン20への給気量が低下したとしても、スロットル弁11以外の構成によってエンジン20への過給圧を上昇させることができる。これにより、スロットル弁11の開度を補正後の開度に維持したまま、エンジン20への過給圧を増加させることにより要求トルクを達成することができる。
【符号の説明】
【0054】
4 ターボ過給機
10 吸気通路
11 スロットル弁11
13 サージタンク
20 多気筒エンジン
40 EGR通路
51 PCM
100 エンジンシステム
図1
図2
図3
図4
図5