特許第6410310号(P6410310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許64103102,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410310
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/04 20060101AFI20181015BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20181015BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20181015BHJP
   C07C 49/10 20060101ALI20181015BHJP
   C07C 45/52 20060101ALI20181015BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20181015BHJP
   B01J 27/18 20060101ALI20181015BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
   B01J37/04 102
   C07C11/167
   C07C1/24
   C07C49/10
   C07C45/52
   B01J37/08
   B01J27/18 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-10835(P2015-10835)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-101573(P2016-101573A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年11月8日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0167303
(32)【優先日】2014年11月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514020459
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】514020460
【氏名又は名称】エスケー グローバル ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK GLOBAL CHEMICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】キム・フィ ス
(72)【発明者】
【氏名】パク・ドン リョル
(72)【発明者】
【氏名】リ・ホ ウォン
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−115686(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01489832(GB,A)
【文献】 特開2014−172883(JP,A)
【文献】 特開平11−217343(JP,A)
【文献】 米国特許第06323383(US,B1)
【文献】 特表2014−525894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07B31/00−61/00,63/00−63/04
C07C1/00−409/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエン及びメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法であって、
(a)リン酸含有溶液にアルカリを反応させてリン酸アルカリ水溶液を製造する段階と、
(b)前記リン酸アルカリ水溶液にカルシウム前駆体水溶液を添加してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階と、
(c)前記スラリーを熱処理した後、無定形リン酸カルシウム触媒を得る段階とを含んでなり、
前記(b)段階でpHは6〜10である、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項2】
前記(a)段階で、リン酸含有溶液は、オルトリン酸(H3PO4)、ピロリン酸(H427)、トリポリリン酸(H5310)、およびテトラポリリン酸(H6413)の中から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項3】
前記(b)段階で、Ca/Pは1.20〜1.67であることを特徴とする、請求項1に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項4】
前記(b)段階で、Ca/Pは1.20〜1.30であることを特徴とする、請求項1に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項5】
前記(b)段階で、カルシウム前駆体は、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)、硝酸カルシウム(Ca(NO32)、および塩化カルシウム(CaCl2)の中から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項6】
前記(c)段階で、前記熱処理は400℃〜600℃の温度で1時間〜10時間行うことを特徴とする、請求項1に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法。
【請求項7】
2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒。
【請求項8】
前記無定形リン酸カルシウム触媒のCa/Pは1.20〜1.67であることを特徴とする、請求項に記載の触媒。
【請求項9】
前記無定形リン酸カルシウム触媒のCa/Pは1.20〜1.30であることを特徴とする、請求項に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項によって製造された触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法。
【請求項11】
請求項のいずれか1項に記載の無定形リン酸カルシウム触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒、およびその製造方法に関する。より具体的に、本発明は、リン酸とカルシウムを含んでいる無定形リン酸カルシウム触媒、その製造方法、および前記無定形リン酸カルシウム触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−ブタジエンは、自動車のタイヤに用いられる合成ゴムの原料として広く活用される。スチレン(Styrene)およびアクリロニトリル(Acrylonitrile)と共に重合する場合、ABS、NBRおよびSBRなどの合成ゴム製品に製造される。
1,3−ブタジエンは、エチレンとオレフィンを得るために原油をスチームクラッキングする過程で副産物として生成される。また、n−ブタンまたはブテンの酸化的脱水素化(Oxidative dehydrogenation)を介して生成できる。過去、米国と旧ソ連では、穀物から生成されたアルコールを金属酸化物触媒で脱水素化すると同時に縮合して1,3−ブタジエンに転換させた。
特に、1,3−ブタジエン製造技術は、第2次世界大戦当時にドイツのIG Farben社で盛んに研究された。IG Farben社の1,3−ブタジエン製造技術は、石炭から誘導されたアセチレンをアセトアルデヒドまたはアセトールに転換して1,3−ブタンジオールを製造し、これを酸または塩基触媒で反応させて1,3−ブタジエンに転換する技術である。
特許文献1では、リン酸水素ナトリウム、リン酸カルシウムアンモニウム、およびナトリウムn−ブチルアミンリン酸を触媒として1,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンに転換しようとした。これらの触媒は、1,3−ブタジエン選択度が最小85%以上の性能を示すと同時に、耐久性にも優れると報告された。
また、特許文献2では、リン酸二アンモニウム触媒で1,3−ブタンジオール水溶液からの1,3−ブタジエンへの転換を試み、56日間評価して50%の収率を確認した。
【0003】
一方、メチルエチルケトン(MEK:Methyl ethyl ketone)は、2−ブタノールからCu、Znなどの触媒で脱水素反応を介して生成され、フィッシャー・トロプシュ工程または重質ナフサ(Heavy Naphtha)を介して生成された炭素化合物を液相で酸化反応させて得ることもできる。
最近、石油化学工程から生成された中間生成物の他に、発酵で生成される2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンに転換される技術が知られている。特許文献3には、微生物の発酵を介して合成ガスから2,3−ブタンジオールを生産する技術が開示されており、生成された2,3−ブタンジオールから触媒で1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンに転換できる。
特許文献4では、セシウム酸化物−シリカ触媒を活用して400℃〜500℃の反応温度で1,3−ブタジエンとメチルエチルケトンの選択度の和が95%であることを確認した。
【0004】
一方、特許文献5では、ヒドロキシアパタイト(HAP;Hydroxyapatite)構造、ピロリン酸カルシウム(Calcium pyrophosphate)構造、およびこれらの組み合わせからなるリン酸カルシウム(Calcium phosphate)触媒を製造した。これらの触媒はそれぞれリン酸カルシウム化合物であって、Ca(POOHとCa(P)の構造式をそれぞれ有し、特定の結晶構造を示すことが特徴である。これらの触媒は、300℃〜700℃の範囲で熱処理して反応温度380℃、2気圧の条件で適用した結果、メチルエチルケトンが最大64.5%であるとき、1,3−ブタジエンが25.2%生成されることを報告したとともに、1,3−ブタジエンが最大37.4%生成されるとき、メチルエチルケトンが最大50.4%生成されることを確認した。
特許文献6は、1,3−ブタジエンの選択度を高めるためにHAPにアルミナを添加し、360℃での反応結果、1,3−ブタジエン選択度が61%であると報告した。これらの特許はいずれも、リン酸カルシウム触媒のうち、ヒドロキシアパタイト(HAP)構造またはピロリン酸カルシウム構造を持つリン酸カルシウム触媒である。
リン酸カルシウム触媒は、触媒製造の際に用いられる前駆体の種類、合成の際に調節されるpH値およびその調節方法、構成されるカルシウムとリンの比率などに応じて多様な構造の相(phase)が形成されると知られている。
【0005】
Acta Biomaterialia 6(2010)4457では、リン酸カルシウム相について言及した。リン酸カルシウムは、構成されるCaとPの比によってリン酸一カルシウム(Monocalcium phosphate、Ca(HPO、Ca/P=0.5)やリン酸二カルシウム(Dicalcium phosphate、CaHPO、Ca/P=1.50)、リン酸三カルシウム(Tricalcium phosphate、Ca(PO、Ca/P=1.50)、リン酸八カルシウム(Octacalcium phosphate、Ca(HPO(PO、Ca/P=1.33)、ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、Ca(PO(OH)、Ca/P=1.67)、無定形リン酸カルシウム(Amorphous calcium phosphate、Ca(PO)z・nHO、n=3〜4.5、15〜20%のHO)などが挙げられ、製造後の熱処理過程で相変態(Phase transformation)が起こりうると知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第1984055号明細書
【特許文献2】米国特許第2386324号明細書
【特許文献3】国際公開公報第2009/151342号パンフレット
【特許文献4】韓国公開特許第2012−0099818号明細書
【特許文献5】韓国登録特許第1287167号明細書
【特許文献6】韓国登録特許第1298672号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施態様では、2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトン(MEK)を製造するにおいて、2,3−ブタンジオールの転換率が高く、1,3−ブタジエン選択度が高い触媒を製造する方法を提供しようとする。
また、本発明の一実施態様では、前記方法で製造された触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する触媒を提供しようとする。
また、本発明の一実施態様では、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトン(MEK)の製造に用いられる触媒を提供しようとする。
また、本発明の一実施態様では、前記触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様によれば、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエン及びメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法であって、
(a)リン酸含有溶液にアルカリを反応させてリン酸アルカリ水溶液を製造する段階と、
(b)前記リン酸アルカリ水溶液にカルシウム前駆体水溶液を添加してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階と、
(c)前記スラリーを熱処理した後、無定形リン酸カルシウム触媒を得る段階とを含んでなる方法が提供される。
【0009】
例示的な実施態様において、前記(a)段階で、リン酸含有溶液は、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリポリリン酸(H10)、およびテトラポリリン酸(H13)の中から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0010】
例示的な実施態様において、前記(b)段階で、リン酸カルシウムスラリーを製造する段階で、pHは5.0超過11.0未満であってもよい。
【0011】
例示的な実施態様において、前記(b)段階で、Ca/Pは1.20〜1.67であってもよい。
例示的な実施態様において、前記(b)段階で、Ca/Pは1.20〜1.30であってもよい。
【0012】
例示的な実施態様において、前記(b)段階で、カルシウム前駆体は、酢酸カルシウム(Ca(CHCOO))、硝酸カルシウム(Ca(NO)、および塩化カルシウム(CaCl)の中から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0013】
例示的な実施態様において、前記熱処理は、400℃〜600℃の温度で1時間〜10時間行うことができる。
【0014】
本発明の一実施態様によれば、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒が提供できる。
例示的な実施態様において、前記無定形リン酸カルシウム触媒のCa/Pは1.20〜1.67であってもよい。
例示的な実施態様において、前記無定形リン酸カルシウム触媒のCa/Pは1.20〜1.30であってもよい。
【0015】
本発明の一実施態様によれば、前記製造方法によって製造された触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法が提供できる。
本発明の一実施態様によれば、前記無定形リン酸カルシウム触媒を用いて2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法が提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施態様によれば、2,3−ブタンジオールの転換率が高く、1,3−ブタジエン選択度が高い触媒を製造することができるという利点がある。本発明の実施態様によれば、酸−塩基特性を同時に持つリン酸カルシウム触媒を活用して酸強度を調節して触媒の寿命を改善することができるという利点があり、長期安定性においても高い活性が保たれるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】製造例1のリン酸カルシウム触媒(CP−10)のXRD分析結果を示す。
図2】製造例2(CP−6)、製造例3(CP−8)および比較製造例3(CP−5)のリン酸カルシウム触媒のXRD分析結果を示す。
図3】比較製造例1のリン酸カルシウム触媒(CDP−10)のXRD分析結果を示す。
図4】比較製造例2のリン酸カルシウム触媒(CDP−5)のXRD分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は下記の説明によって全て達成できる。下記の説明は、本発明の好適な実施態様を記述するものと理解されるべきであり、本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒を提供する。
本明細書において、「無定形リン酸カルシウム触媒」における「無定形」はヒドロキシアパタイトまたはリン酸カルシウム構造のように一定の構造を持つ触媒とは異なり、特定の結晶構造を持たないことを意味する。
リン酸カルシウム触媒において、リン酸カルシウムは、カルシウムとリン酸塩を含む触媒を意味し、例えば、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ピロリン酸カルシウムなどを含むことができる。
先行技術として、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられるリン酸カルシウム触媒については前記特許文献5が例示されるが、これはリン酸カルシウム触媒としてヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウムの結晶型についてのみ開示している。
ところが、本発明者は、ヒドロキシアパタイトおよびピロリン酸カルシウム構造の結晶型リン酸カルシウム触媒より無定形リン酸カルシウム触媒において1,3−ブタジエン選択度が高いことを確認した。
【0020】
リン酸カルシウム触媒において、Ca/Pの比はリン酸カルシウムの構造を決定することに重要な役割を果たすうえ、触媒内に存在する酸、塩基特性を決定する重要な役割を果たす。
結晶型リン酸カルシウムとして、ヒドロキシアパタイトのCa/Pは1.67であり、ピロリン酸カルシウムのCa/Pは1.0である。ヒドロキシアパタイトの場合、分子式でCa(PO(OH)であるので、Ca/Pは5Ca/3Pとなり、Ca/Pは1.67となり、ピロリン酸カルシウムの場合、分子式でCaであるので、Ca/Pは1.0となる。
リン酸カルシウム触媒は酸と塩基の特性を同時に持つことが特徴であり、Ca/Pの比が1.67、すなわちヒドロキシアパタイト構造に近いほど、触媒内にCa量が多くなり、これは塩基特性が相対的に強く示されることを意味する。
これに対し、Ca/Pの比が1.0に近いピロリン酸カルシウム構造の触媒では、触媒の酸強度が相対的に強いことを意味する。これに対し、Ca/Pの比が1.20〜1.30である無定形リン酸カルシウム触媒は、酸と塩基の量が調節されて存在することを意味する。
本発明の一実施態様に係る実施例において、本発明の無定形リン酸カルシウムCa/Pの比が1.20〜1.67であり、好ましくは1.20〜1.30である。
【0021】
本発明の一実施態様によれば、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒の製造方法を提供する。
2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトン(MEK)を製造する反応の概要は次のとおりである。
【0022】
【化1】
【0023】
2,3−ブタンジオールを酸または塩基の触媒下で反応させると、主要生成物として1,3−ブタジエンの他にメチルエチルケトンおよび2−メチルプロパンアルデヒドが副産物として生成される。それぞれの生成物は互いに複雑なメカニズムに転換されるが、特に、1,3−ブタジエンは、触媒内に存在する酸特性の他に塩基特性が同時に存在すれば選択度が極大化できる。
2,3−ブタンジオールから1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトン(MEK)を製造する反応は脱水反応であって、前記脱水反応に使用される触媒の場合、酸と塩基特性が同時に存在することが重要である。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンの製造に用いられる無定形リン酸カルシウム触媒を製造する方法であって、
(a)リン酸含有溶液にアルカリを反応させてリン酸アルカリ水溶液を製造する段階と、
(b)前記リン酸アルカリ水溶液にカルシウム前駆体水溶液を添加してリン酸カルシウムスラリーを製造する段階と、
(c)前記スラリーを熱処理した後、無定形リン酸カルシウム触媒を得る段階とを含んでなる。
【0025】
(a)段階では、リン酸含有溶液にアルカリ塩を反応させてリン酸アルカリ水溶液を製造する。リン酸含有溶液は、一実施態様に係る一実施例によれば、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリポリリン酸(H10)およびテトラポリリン酸(H13)の少なくとも1種が選択でき、好ましくはリン酸またはピロリン酸であり、さらに好ましくはピロリン酸である。
【0026】
(a)段階で、アルカリとしてはNaOHなどの強塩基、またはアンモニアなどの弱塩基を使用することができ、好ましくは弱塩基であり、より好ましくはアンモニアである。
【0027】
前記(b)段階では、前記リン酸アルカリ水溶液にカルシウム前駆体水溶液を添加してリン酸カルシウムスラリーを製造する。
カルシウム前駆体としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムを使用することができ、特に限定されないが、好ましくは酢酸カルシウムである。
【0028】
前記(b)段階で、Ca/Pの比は1.20〜1.67であり、上記の範囲を外れる場合、1,3−ブタジエン選択度が著しく減少するという問題があり、好ましくは1.20〜1.30である。
【0029】
前記(b)段階で、リン酸カルシウムを製造する段階で、pHは、pH5超過11未満、好ましくはpH6〜10である。pH5.0以下またはpH11.0以上の場合、過量の硝酸またはリン酸およびアンモニアまたはNaOHが必要であり、無定形の触媒が生成されないという問題がある。
【0030】
前記(c)段階では、(b)段階で得られたリン酸カルシウムスラリーを熱処理する。熱処理は、500℃で6時間行い、特に限定されないが、好ましくは400℃〜600℃で1時間〜10時間行う。熱処理温度が600℃超過の場合は、ピロリン酸カルシウムなどの結晶相の構造が現れる。
【0031】
本発明の一実施態様によれば、前記本発明の無定形リン酸カルシウム触媒を用いて2,3−ブタンジオールから脱水反応によって1,3−ブタジエンおよびメチルエチルケトンを製造する方法を提供する。
また、本発明の一実施態様によれば、前記本発明の製造方法によって製造された無定形リン酸カルシウム触媒を用いて2,3−ブタンジオールから脱水反応によって1,3−ブタジエン及びメチルエチルケトンを製造する方法を提供する。
前記脱水反応は、300℃〜400℃の反応温度、0bar〜50barの反応圧力、0.01〜−10.0h−1の重量空間速度(WHSV)で行うことができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、下記の実施例は、本発明をより容易に理解させるために提供されるものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0033】
[製造例1]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CP−10)
8.62gを脱イオン水に溶かして200mLのピロリン酸水溶液希釈液を製造し、NHOH28wt%水溶液37.60gを希釈されたリン酸水溶液に添加して30分間攪拌した(溶液A)。カルシウム前駆体水溶液を製造するために、Ca(OAc)23.74gを脱イオン水に溶解して150mLの水溶液を製造し(溶液B)、製造された溶液Aに溶液Bを室温で3.5mL/minの速力で30分間ゆっくり加えながらリン酸カルシウムスラリー溶液を製造した(溶液C)。この際、混合スラリー溶液CのpHを約10.0に維持し、24時間十分に攪拌した。その後、脱イオン水2Lで濾過純化してケーキ状の固体生成物を製造した。その後、リン酸カルシウムケーキを80℃で6時間乾燥させ、粉砕選別の後、500℃で6時間熱処理してリン酸カルシウム触媒に製造した。
製造された触媒内のCaとPの含量をXRF分析を介して確認し、XRD分析を介して触媒の性状を確認した。製造例1のCP−10触媒のCa/Pモル比は1.23であった。XRDを介して無定形(Amorphous)構造のリン酸カルシウムが生成されることを確認することができた。図1はCP−10触媒のXRD分析結果を示す図である。
【0034】
[製造例2]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CP−6)
混合スラリー溶液CのpHを約6に維持した以外は、製造例1と同様にして溶液A、溶液Bおよび溶液Cを製造した。
混合溶液CのpHを6に調節するために、カルシウム前駆体水溶液の添加後にHを加え、pH6.0を維持したまま、製造例1と同様に濾過、純化、焼成過程を経て触媒を製造し、これをCP−6と命名した。
【0035】
[製造例3]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CP−8)
混合スラリー溶液CのpHを約8に維持した以外は、製造例1と同様にして溶液A、溶液Bおよび溶液Cを製造した。
混合溶液CのpHを8に調節するために、カルシウム前駆体水溶液の添加後にHを加え、pH8.0を維持したまま、製造例1と同様に濾過、純化、焼成過程を経て触媒を製造し、これをCP−8と命名した。
図2は製造例2、製造例3および比較製造例3で製造されたCP触媒のXRD分析結果を示す図である。CP−5触媒を除いた触媒CP−6およびCP−8で無定形の特性ピークが現れることを確認することができた。
【0036】
[製造例4]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CP−10−600)
製造例1において、リン酸カルシウムケーキを80℃で6時間乾燥させ、粉砕選別の後、500℃で6時間熱処理する代わりに600℃で6時間熱処理する以外は、製造例1と同様にして触媒を製造し、これをCP−10−600触媒と命名した。CP−10−600の場合、無定形リン酸カルシウム触媒と確認された。
【0037】
[製造例5]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CPN−10)
製造例1において、溶液Bを製造するが、Ca(OAc)23.74gを脱イオン水に溶解して150mLの水溶液を製造する代わりに、製造例5では、Ca(NO35.44gを脱イオン水に溶解して150mLの水溶液を製造(溶液B)する以外は製造例1と同様にしてリン酸カルシウム触媒に製造した。
【0038】
[製造例6]無定形リン酸カルシウム触媒の製造(CPC−10)
製造例1において、溶液Bを製造するが、Ca(OAc)23.74gを脱イオン水に溶解して150mLの水溶液を製造する代わりに、製造例6では、Ca(Cl)22.06gを脱イオン水に溶解して150mLの水溶液を製造(溶液B)する以外は製造例1と同様にしてカルシウム触媒に製造した。
【0039】
[比較製造例1]ヒドロキシアパタイト構造のリン酸カルシウム触媒の製造(CDP−10)
Ca(NO4HO35.44gを脱イオン水200mLに溶解してNHOHをゆっくり加え、水溶液のpHを10.0に維持した(溶液A)。一方、リン酸水素二アンモニウム11.89gを脱イオン水200mLに溶解した後、リン酸塩水溶液を製造し、NHOHでpHを10.0に維持した(溶液B)。その後、溶液Aに溶液Bを加えながら混合溶液のpHを10.0に維持し、pH調節のためにHNOまたはNHOHを加えた。スラリー混合溶液を24時間十分に攪拌し、脱イオン水2Lで濾過純化してケーキ状の固体生成物を製造した。その後、リン酸カルシウムケーキを80℃で24時間乾燥させ、粉砕選別の後、500℃で6時間熱処理してリン酸カルシウム触媒に製造した。
【0040】
[比較製造例2]ピロリン酸カルシウム構造を持つ触媒の製造(CDP−5)
Ca(NO4HO35.44gを脱イオン水200mLに溶解してHNOをゆっくり加え、水溶液のpHを5.0に維持した(溶液A)。一方、リン酸水素二アンモニウム11.89gを脱イオン水200mLに溶解した後、リン酸塩水溶液を製造し、HNOでpHを5.0に維持した(溶液B)。その後、溶液Aに溶液Bを加えながら混合溶液のpHを5.0に維持し、pH調節のためにHNOまたはNHOHを加えた。スラリー混合溶液を24時間十分に攪拌し、脱イオン水2Lで濾過純化してケーキ状の固体生成物を製造した。その後、リン酸カルシウムケーキを80℃で24時間乾燥させ、粉砕選別の後、500℃で6時間熱処理してリン酸カルシウム触媒に製造した。
【0041】
[比較製造例3]ピロリン酸カルシウム構造を持つ触媒の製造(CP−5)
混合スラリー溶液CのpHを約5に維持した以外は、製造例1と同様にして溶液A、溶液Bおよび溶液Cを製造した。
混合溶液CのpHを5に調節するために、カルシウム前駆体水溶液の添加後にHを加え、pH5.0を維持したまま、製造例1と同様に濾過、純化、焼成過程を経て触媒を製造し、これをCP−5と命名した。
比較製造例3で製造されたCP−5触媒は、Ca/Pの比が1.0であり、CP−10触媒とは異なり、ピロリン酸カルシウム(Ca)構造が形成されることを確認することができた。
前述したように、図2は比較製造例3で製造されたCP−5触媒のXRD分析結果を示している。図2の結果より、CP−5触媒が結晶型であることを確認することができる。
【0042】
[実施例1〜6および比較例1〜6]
製造例1〜6および比較製造例1〜3で製造された触媒を用いて、本発明の実施態様に係る2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエン転換反応を行った。
一方、比較例4は、比較製造例1〜3で製造された触媒の代わりに、試薬として販売されるピロリン酸カルシウムを購入して500℃で熱処理した後に使用した以外は、比較製造例1〜3と同様の反応条件で評価した。
比較例5は、比較製造例1〜3で製造された触媒の代わりに、代表的な酸触媒たるH−ZSM−5を使用した以外は、比較製造例1〜3と同様の反応条件で評価した。
比較例6は、比較製造例1〜3で製造された触媒の代わりに、試薬として販売される代表的な塩基触媒CaOを使用した以外は、比較製造例1〜3と同様の反応条件で評価した。
2,3−ブタンジオール脱水反応は、自体的に製作された触媒層が固定された連続流れ式反応器を用いて評価した。反応前のフィードは300℃の予熱区間を経る。反応時の条件は、反応圧力:常圧、N:10cc/min、反応温度:360℃、WHSV=0.5h−1である。
製造された触媒評価結果は下記表1のとおりである。触媒反応後に得られた生成物は、全て気化してオンラインGCを介して分析される。主生成物が1,3−ブタジエン、メチルエチルケトン(MEK)およびHOであり、微量の副産物がブテン、2−メチルプロパンアルデヒド、3−ブテン−2−オル、2−メチルプロパノールなどであることを確認した。2,3−ブタンジオール転換率と1,3−ブタジエン選択度およびメチルエチルケトン選択度はモルバランス(mole balance)を基準に計算された。質量%を基準に計算するときに2,3−ブタンジオールが100%の1,3−BDに転換されると仮定すると、理論上、約40wt%程度の水が生成され、評価された触媒ではHOの量が約20〜30wt%と測定される。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1の結果、CP−10触媒の場合、相対的に高い1,3−ブタジエン選択度を示し、触媒を構成する性状が1,3−ブタジエン選択度に影響を及ぼすものと判断された。
次いで、本発明者は、比較製造例1を介して別の相(phase)を有するリン酸カルシウム触媒を製造した。比較例1の場合、比較製造例1で製造された触媒をXRDを介して分析した結果、ヒドロキシアパタイト構造が生成されることを確認することができた。
【0045】
リン酸カルシウム構造による1,3−ブタジエン選択度を比較するために、比較製造例2では別の構造のリン酸カルシウム触媒を製造した。比較製造例1と同様のカルシウム前駆体を同一の量で使用し、溶液A、溶液Bおよび溶液Cの製造の際にpHをpH10の代わりにpH5の値に調節した。製造された触媒の相をXRDを介して分析した結果、ピロリン酸カルシウムの結晶構造を持つリン酸カルシウム触媒が製造されたことを確認することができた。
比較例2の場合、比較製造例2で製造された触媒が結晶型であって、本発明の無定形触媒に比べて1,3−ブタジエン選択度が低かった。
【0046】
比較製造例3では、製造例1とは異なりpHをpH5に調整した以外は製造例1と同様にして触媒を製造した。比較例3の場合、比較製造例3で製造された触媒のXRD分析の結果、ピロリン酸カルシウムが製造されたこと、およびCa/Pが1.0であることを確認することができた。
比較例3の場合、比較製造例3で製造された触媒がピロリン酸カルシウム触媒であって、1,3−ブタジエン選択度は無定形リン酸カルシウム触媒に比べて多少低いが、ヒドロキシアパタイトリン酸カルシウム触媒に比べて高い選択度を示した。
【0047】
比較例4の場合、商用性試薬としてピロリン酸カルシウム(Ca)を使用したところ、比較製造例2で製造したピロリン酸カルシウム触媒に比べて1,3−ブタジエン選択度が低いことを確認することができた。同一のピロリン酸カルシウム構造を持つにもかかわらず、1,3−ブタジエン選択度が低い理由は、構造的な影響の他に、触媒内に存在する酸、塩基の特性も選択度に影響を及ぼすものと判断される。
【0048】
一方、比較例5では、代表的な酸触媒H−ZSM−5を評価したが、相対的に低い2,3−ブタンジオール転換率と低い1,3−ブタジエン選択度を示した。比較例6では、商用性試薬としてCaOを使用したところ、代表的な塩基触媒CaOを用いて評価したが、2,3−ブタンジオールの転換率および1,3−ブタジエン選択度が著しく低いことを確認した。
前記結果より、本発明者は、1,3−ブタジエンへの転換において触媒の酸と塩基機能の両方が重要に作用することと、リン酸カルシウム構造の他に酸塩基特性の調節が重要であることを確認した。
【0049】
[比較例7〜16]
比較例7〜16では、アルコールからのオレフィンの製造に活用される酸触媒と塩基触媒などを2,3−ブタンジオールからの1,3−ブタジエン製造反応に活用した。
比較例7〜16の2,3−BDO転換反応に応用した酸触媒または塩基触媒は、商用化工程に応用される触媒であって、通常の酸または塩基特性を持つと知られている。
商用触媒の1,3−ブタジエン転換反応は、触媒層が固定された連続流れ式反応器に触媒をロードした後、350℃〜400℃の反応温度、WHSV=0.5h−1、常圧の圧力条件で評価された。反応の前に、反応物に該当する2,3−BDOは300℃の予熱区間を経て触媒層に注入され、反応の際に、キャリアガスとしてNは10cc/minで注入される。
触媒反応結果は下記表2のとおりである。大部分の酸または塩基特性を持つ商用触媒は、メチルエチルケトン選択度が高いことが特徴であり、1,3−BD選択度が低かった。
【0050】
【表2】
【0051】
本発明の単純な変形ないし変更はいずれも本発明の領域に属するもので、本発明の具体的な保護範囲は添付した特許請求の範囲によって明確になるであろう。
図1
図2
図3
図4