特許第6410316号(P6410316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6410316ポリエステル樹脂、それを用いた組成物、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410316
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、それを用いた組成物、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/12 20060101AFI20181015BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20181015BHJP
   C08L 67/08 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C08G63/12
   C08L67/00
   C08L67/08
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-65441(P2015-65441)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-183310(P2016-183310A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2017年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】栗橋 透
(72)【発明者】
【氏名】古江 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智史
(72)【発明者】
【氏名】清柳 典子
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−279629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/12
C08L 67/00
C08L 67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコール(a)と核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)又は核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)と無水トリメリット酸ハライド(b−2)の混合物を反応させて得られる多官能酸無水物(A)に、一分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)を反応させて得られるポリエステル樹脂(C)。
【請求項2】
多価アルコール(a)が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立して、R、R、R、R、Rは水素原子、水酸基、炭素数1〜11の炭化水素基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表し、Rは水酸基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表す。lは0 〜11、mとnはそれぞれ1〜11の整数を表す。)で表される一分子中に3つ以上の水酸基を含有する多価アルコール(a−1)である請求項1に記載のポリエステル樹脂(C)。
【請求項3】
多価アルコール(a)が、多価アルコール(a)にアルキレンオキサイド、環状エーテル、及び環状エステルからなる群より選ばれる1以上を反応させて得られる多価アルコール(a−2)である請求項1に記載のポリエステル樹脂(C)。
【請求項4】
多価アルコール(a)がトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである請求項1に記載のポリエステル樹脂(C)。
【請求項5】
請求項1に記載の多官能酸無水物(A)、一分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)、及び大豆油、亜麻仁油、ひまし油、ヤシ油、椿油等、桐油の動植物油脂類、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ウレタン樹脂等を反応させて得られる変性アルキド樹脂(C’)。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂(C)を含む樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の変性アルキド樹脂(C’)を含む樹脂組成物。
【請求項8】
皮膜形成用材料である請求項7に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価アルコール化合物に特定の構造を有する酸無水物基を導入し得られる多官能酸無水物(A)に、さらに分子中に1つ以上の水酸基を併せ持つ化合物(B)を反応させて得られるポリエステル樹脂(C)およびその組成物、及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、多官能カルボン酸化合物と水酸基含有化合物から誘導される樹脂であり、アルキド樹脂等ともいわれる、広い用途で使用される材料である。一般的には、塗料、印刷インキ、接着剤等の用途に幅広く用いられる(特許文献1)。しかしこれら既存のポリエステル化合物は比較的耐熱性が低いという課題を有していた。
【0003】
一方耐熱性の高い酸無水物材料として、いくつかの多官能酸無水物に関する取り組みがある(特許文献2及び特許文献3)。しかし、ここに記載の多官能酸無水物を起点に水酸基含有化合物との縮合反応によりポリエステル樹脂とする点についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206860号公報
【特許文献2】特開2009−242793号公報
【特許文献3】特開2012−025670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性が高いポリエステル樹脂、アルキド樹脂を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは特定の構造を有する多官能酸無水物(A)に分子中に一個以上の水酸基を併せ持つ化合物(B)を反応させて得られるポリエステル樹脂(C)が、優れた耐熱性を有することを見出した。
【0007】
即ち、本発明は
(1)一分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコール(a)と核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)又は核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)と無水トリメリット酸ハライド(b−2)の混合物を反応させて得られる多官能酸無水物(A)に、一分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)を反応させて得られるポリエステル樹脂(C)に関する。
(2)多価アルコール(a)が、下記一般式(1)
【0008】
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立して、R、R、R、R、Rは水素原子、水酸基、炭素数1〜11の炭化水素基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表し、Rは水酸基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表す。lは0〜11、mとnはそれぞれ1〜11の整数を表す。)
で表される一分子中に3つ以上の水酸基を含有する多価アルコール(a−1)である前記ポリエステル樹脂(C)に関する。
【0009】
(3)多価アルコール(a)が、多価アルコール(a)にアルキレンオキサイド、環状エーテル、及び環状エステルからなる群より選ばれる1以上を反応させて得られる多価アルコール(a−2)である前記ポリエステル樹脂(C)に関する。
(4)多価アルコール(a)がトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである前記ポリエステル樹脂(C)に関する。
(5)多官能酸無水物(A)、一分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)、及び大豆油、亜麻仁油、ひまし油、ヤシ油、椿油等、桐油の動植物油脂類、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ウレタン樹脂等を反応させて得られる変性アルキド樹脂(C’)に関する。
(6)前記ポリエステル樹脂(C)又は前記変性アルキド樹脂(C’)を含む樹脂組成物に関する。
(7)皮膜形成用材料である前記樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂(C)又は変性アルキド樹脂(C’)は、強靭でかつ、耐熱性の高い皮膜となることができる樹脂組成物を得られる。本発明の樹脂組成物は、特に無機材料、例えば金属材料、ガラス材料への密着性や防食性に優れた特性を示す。本発明の樹脂組成物は塗料、印刷インキ、接着剤等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂(C)は、一分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコール(a)に、核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)または核水添無水トリメリット酸ハライド(b−1)及び無水トリメリット酸ハライド(b−2)の混合物を反応させて得られる多官能酸無水物(A)、さらに1分子中に1つ以上の水酸基を併せ持つ化合物(B)を反応させて得られる。
【0012】
本発明において用いられる一分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコール(a)とは、多官能酸無水物(A)の中心的骨格をなす部分である。水酸基が1分子中に2つ以下の場合は、最終的に強固な樹脂層を構成することが出来ない。
【0013】
多価アルコール(a)は下記一般式(1)で示される構造を有しているものの他、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノール等のトリオール類、イノシトール等の糖誘導ポリオール類等が好ましい。
【0014】
下記一般式(1)
(式中、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立して、R、R、R、R、Rは水素原子、水酸基、炭素数1〜11の炭化水素基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表し、Rは水酸基、もしくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を表す。lは0〜11、mとnはそれぞれ1〜11の整数を表す。)
【0015】
上記一般式(1)において、lまたはmが2以上の場合、複数存在することになるR、R、R、Rは、それぞれのR、R、R、Rが異なる置換基をとってよい。例えば、l=4の場合、4つ存在するRは4つが同一の置換基でも、すべて異なる置換基でもよい。R、R、RについてもRと同様である。
【0016】
多価アルコール(a)の具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2−ヒドロキシアルキルメチル1,4−ブタンジオール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどのトリオール類、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのテトラオール類、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどのポリオール類等が挙げられる。
【0017】
これらのうち、一般式(1)で示される分子中に4〜6個の水酸基を有する多価アルコールを用いた場合に、得られる樹脂特性が優れている。特にペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトールが、樹脂特性の良さ、材料の入手のしやすさの観点から好ましい。
【0018】
本発明において多価アルコール(a−2)とは、多価アルコール(a)にアルキレンオキサイド、環状エーテル、及び、環状エステルからなる群より選ばれるいずれか一つ以上を付加重合させた構造を持つ化合物のことを指す。また、多価アルコール(a−2)は樹脂特性を用途に応じて最適化することもできる。
【0019】
一般式(1)中、Rで示される炭化水素基とは炭素原子と水素原子のみから構成される原子団を指す。
【0020】
炭化水素基の炭素数は1〜11が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、直鎖または分枝のペンチル基、直鎖または分枝のヘキシル基、直鎖または分枝のヘプチル基、直鎖または分枝のオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基や、フェニル基、トリル基、ナフチル基、メチルナフチル基等の芳香族基、ベンジル基、ナフチルメチル基等の芳香族置換アルキル基等を挙げることができる。このうち本発明においては、本発明の樹脂の透明性が良好な点で脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基が好ましく、メチル基とエチル基が強靭性と耐熱性が良好な本発明の樹脂を与える点からより好ましい。
【0021】
またはRで示される、ヒドロキシアルキル基とは、直鎖状、分岐状アルキル基の水素原子の1つ又は2つ以上が水酸基で置換されている原子団を指す。
【0022】
ヒドロキシアルキル基の炭素数は1〜4が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基及びイソブチル基の水素原子の1つ又は2つ以上が水酸基で置換されたものが挙げられる。このうち本発明においては、反応が容易な点で、水酸基が末端炭素に1つ置換されたものが好ましい。ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基が本発明の樹脂の強靭性と耐熱性が良好な点からより好ましい。
【0023】
本発明において用いられるアルキレンオキサイドとは、三員環の環状エーテルを有する化合物を指す。
【0024】
アルキレンオキサイドの炭素数は2〜8が好ましい。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等を挙げることができる。これらのアルキレンオキサイドは1種または必要に応じて2種以上を混合したものでも良い。中でも、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であると、入手し易く、安価であるため本発明において好ましい。
【0025】
アルキレンオキサイドの使用量は、多価アルコール(a)の水酸基1当量に対して、通常三員環の環状エーテル0.1〜6.0当量、好ましくは、0.2〜2.0当量である。この範囲であれば得られる樹脂物の耐熱性及び強靭性が良好である。
【0026】
本発明において用いられる環状エーテルとは、4員環以上の環状の炭化水素の1つ以上の炭素が酸素で置換された構造を有する化合物であれば特段の限定はない。
【0027】
環状エーテルは4〜6員環が好ましく、具体例としてはオキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等を挙げることができる。これらの環状エーテルは1種または必要に応じて2種以上を混合したものでも良い。中でも、テトラヒドロフランは入手し易く、安価であるため本発明において好ましい。
【0028】
環状エーテルの使用量は、多価アルコール(a)の水酸基1当量に対して、環状エーテル0.1〜6.0当量、好ましくは、0.2〜2.0当量である。この範囲であれば得られる樹脂の耐熱性及び強靭性が良好である。
【0029】
本発明において用いられる環状エステルとは、環状の炭化水素の中にエステル結合を含む構造を有する化合物であれば特段の限定はない。
【0030】
環状エステルの炭素数は2〜6であることが好ましい。環状エステルの具体例としてはアセトラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン等を挙げることができる。これらの環状エステルは1種または必要に応じて2種以上を混合したものでも良い。中でも、カプロラクトンは入手し易く、安価であるため本発明において好ましい。
【0031】
環状エステルの使用量は、多価アルコール(a)の水酸基1当量に対して、環状エステル0.1〜6.0当量、好ましくは、0.2〜2.0当量である。この範囲であれば得られる樹脂物の耐熱性及び強靭性が良好である。
【0032】
多価アルコール(a−2)の例を具体例に示すと、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンカプロラクトン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールカプロラクトン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートエチレンオキサイド付加物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートプロピレンオキサイド付加物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートテトラヒドロフランオキサイド付加物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートカプロラクトンオキサイド付加物、等が挙げられる。
【0033】
本発明において用いられる無水核水添トリメリット酸ハライド(b−1)とは、多価アルコールに酸無水物基を導入し、多官能酸無水物化合物とするために用いられる。これにより、酸無水物基の開環エステル化を伴うことなく、酸無水物基を導入することができる。(b−1)は核水添されていることから、耐熱、耐光下においても着色が少なく、その樹脂は高い光学特性を維持しながら、耐熱性、強靱性に優れる。したがって、(b−1)は樹脂として高い透明性を求められるカラーレジスト用材料、光導波路用材料等に好適に使用できる。
【0034】
本発明において用いられる無水トリメリット酸ハライド(b−2)も(b−1)同様の目的をもって使用される。これを併用することでより高い耐熱性を発揮させることができる。
【0035】
ハライド(b−1)または(b−2)としては、例えば、フッ素化物、塩素化物、臭素化物及びヨウ素化物等が挙げられ、中でも反応の容易さから塩素化物が好ましい。
【0036】
多官能酸無水物(A)の合成は、公知の手法により行うことができる。多価アルコール(a)とハライド(b−1)または(b−2)(以下「ハライド類」)との反応における試剤の添加の方法には特に制限がなく任意の添加法が採用できる。例えば、多価アルコール(a)と塩基性物質を溶媒に溶解し、これに溶媒に溶解した上記のハライド類をゆっくりと滴下する方法、あるいは、逆に必要に応じて溶媒に溶解した上記のハライド類中に多価アルコール(a)と塩基性物質の混合溶液を滴下する方法、ハライド類と多価アルコール(a)の混合溶液の中へ塩基性物質を滴下する方法、さらには、多価アルコール(a)の溶液の中に核水添無水トリメリット酸ハライドの溶液と塩基性物質の溶液を同時に滴下する、などが採用可能である。
【0037】
塩基性物質存在下の多価アルコール(a)とハライド類の反応では、反応の進行とともに塩基性物質が中和して生成した塩酸塩が生じる。これを濾過して除去した後ろ液を濃縮することで、目的の多官能酸無水物の粗生成物が高収率で得られる。これを、適当な溶媒に溶解し、水洗後濃縮してから減圧乾燥すると純度の高い多官能酸無水物が得られる。さらに必要に応じて適当な溶媒で再結晶を行うことで、より純度の高い多官能酸無水物が得られる。
【0038】
多価アルコール(a)の使用量は通常水酸基当量で、ハライド類1に対して、0.6〜1.0、好ましくは、0.8〜1.0である。この範囲であれば多価アルコール(a)の水酸基はすべてエステル化され未反応のハライドが系内に余ることはない。
【0039】
ハライド類と多価アルコール(a)の反応において使用可能な溶媒は原料に対して不活性であれば特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル溶媒、ピコリン、ピリジン等の芳香族アミン溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のようなケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の様な芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のような含ハロゲン溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のようなアミド系溶媒、ヘキサメチルホスホルアミド等のような含リン溶媒、ジメチルスルホオキシド等のような含イオウ溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のような含窒素溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等の水酸基を有する芳香族系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0040】
ここで挙げた溶媒には多価アルコール(a)から多価アルコール(a−2)を製造する際に用いられる環状エーテルや環状エステルが含まれているが、多価アルコール(a)にハライドを反応させる際は、反応温度は−10℃〜80℃、好ましくは0℃〜70℃、より好ましくは10℃〜60℃である。反応温度が80℃よりも高いと多価アルコール(a)に環状エーテルや環状エステルが反応して、多価アルコール(a−2)が得られ、多価アルコール(a)とハライド類の反応率が低下する。反応時間は、特に制限はないが通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。反応は通常常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。
【0041】
多価アルコール(a)に環状エーテルや環状エステルを反応させて多価アルコール(a−2)を製造する際は、反応温度は80℃〜250℃、好ましくは90℃〜220℃、より好ましくは100℃〜200℃である。反応時間は、特に制限はないが通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。
【0042】
多官能酸無水物(A)を得る反応における溶質の濃度は、通常5質量%〜50質量%、副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮すると好ましくは10質量%〜40質量%で行われる。10質量%以上40質量%以下の範囲で行われるのがより好ましい。
【0043】
通常反応雰囲気は、窒素下で行う。反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でもよいが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
【0044】
塩基性物質は、反応の進行とともに発生する塩化水素を中和するために用いる。この際使用される塩基性物質の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機の塩基性物質を用いることができる。ピリジンや、トリエチルアミンは安価に入手できる点や液体で溶解性に富むため反応操作が容易になる、という点で好ましい。また、無機の塩基性物質は安価に入手できる点で好ましい。
【0045】
使用される塩基性物質の量は、特に制限はないが過剰に使用しすぎると生成物に混入したり、精製負荷が大きくなるので、核水添無水トリメリット酸ハライドに対して通常1.0モル倍〜30モル倍、好ましくは1.2モル倍〜20モル倍、さらに好ましくは1.5モル倍〜10モル倍が採用される。
【0046】
水洗操作の際、多官能酸無水物(A)は一部加水分解を受けて、多価カルボン酸に変化するが、これは、減圧下加熱処理をすることにより、一部加水分解して生成した多価カルボン酸を容易に多官能酸無水物(A)に戻すことができる。この減圧下加熱処理工程の際採用される温度は80℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃であり、減圧度は、10MPa以下、好ましくは1MPa以下であり、加熱時間の上限に特に制限はないが、通常は10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。
【0047】
こうして得られた多官能酸無水物(A)をさらに精製することも可能である。その場合の精製方法としては、再結晶、昇華、洗浄、活性炭処理、カラムクロマトグラフィーなど任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。こうして得られる多官能酸無水物(A)の純度は例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)などの分析で得られるピークの面積比として、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である
【0048】
本発明において用いられる1分子中に1つ以上水酸基を併せ持つ化合物(B)は、酸無水物基と水酸基を付加反応により半エステル化、さらには縮合反応によりポリエステル化させるために用いられる。
【0049】
具体的には、1分子中に1つの水酸基を含有する化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ステアリルアルコール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール等の炭化水素モノオール等、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のモノ、及びポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0050】
1分子中に2つの水酸基を含有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の炭化水素ジオール類、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロプレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0051】
1分子中に3つ以上の水酸基を含有する化合物としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2−ヒドロキシアルキルメチル1,4−ブタンジオール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどのトリオール類、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのテトラオール類、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどのポリオール等が挙げられる。
【0052】
化合物(B)が有する水酸基は、好ましくは1分子中に1つ〜2つであることが好ましい。これにより、適度な分子量をポリエステル樹脂に付与させることができる。1分子中に1つのものばかりでは分子量が大きくならず、3つ以上の場合はゲル化する場合がある。分子量の制御には、例えば、一分子中に1つの水酸基を含むものと2つの水酸基を含むものを混合することで行う。
【0053】
このほか、エチレングリコールモノビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、ブチレングリコールモノビニルエーテルといったジオールモノビニルエーテル類も使用することができる。
【0054】
多官能酸無水物(A)と1分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)の反応は、公知の方法が適用できる。
【0055】
この際、反応を促進させるために触媒を使用することが好ましく、該触媒の使用量は、反応物、即ち多官能酸無水物(A)、化合物(B)、場合により溶剤その他を加えた反応物の総量に対して0.1〜10質量%である。その際の反応温度は60〜150℃であり、また反応時間は、好ましくは5〜60時間である。使用しうる触媒の具体例としては、例えば、硫酸等の無機酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸類、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムアイオダイド、トリフェニルフォスフィン、トリフェニルスチビン、メチルトリフェニルスチビン等の有機塩基類、オクタン酸クロム、オクタン酸ジルコニウム等の金属塩類が挙げられる。
【0056】
本酸付加反応は、無溶剤で反応させる、若しくは溶剤で希釈して反応させることもできる。ここで用いることができる溶剤としては、本反応に対して不活性溶剤であれば特に限定はない。
【0057】
より好ましくは、エステル化反応を行う際に縮合反応を行うために、生じる水分を反応系中から除去しながら反応を進めることが好適である。これには共沸現象を利用して反応系中から除去するのに適した溶剤を選定することも好ましい。
【0058】
好ましい溶剤の使用量は、得られる樹脂の粘度や使途により適宜調整されるべきものであるが、好ましくは固形分として90〜30質量%、より好ましくは80〜50質量%である。
【0059】
具体的に例示すれば、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素溶剤、及びそれらの混合物である石油エーテル、ホワイトガソリン、ソルベントナフサ等が挙げられる。
また、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のアルキルアセテート類、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のモノ、若しくはポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアセテート類、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のポリカルボン酸アルキルエステル類等が挙げられる。
また、エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル等のアルキルエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類等が挙げられる。
また、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0060】
本発明のポリエステル樹脂(C)には反応の際、ポリエステル樹脂の特性を最適化することを目的に(A)及び(B)の他にその他成分(D)をあわせて反応させて得られるものも含まれる。
【0061】
その他成分(D)としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の単官能飽和脂肪酸、リノレイン酸、リノール酸、オレイン酸等の単官能不飽和脂肪酸、コハク酸、マレイン酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の2官能カルボン酸等のその他のカルボン酸化合物、等が挙げられる。
【0062】
さらに本発明のポリエステル樹脂(C)には多官能酸無水物(A)、1分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)、その他成分(D)として大豆油、亜麻仁油、ひまし油、ヤシ油、椿油等、桐油の動植物油脂類、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ウレタン樹脂等を適宜併せて縮合させて得られる変性アルキド樹脂(C’)も含まれる。
【0063】
多官能酸無水物(A)、1分子中に1つ以上の水酸基を持つ化合物(B)及び大豆油、亜麻仁油、ひまし油、ヤシ油、椿油等、桐油の動植物油脂類、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ウレタン樹脂等の反応は、公知の方法が適用できる。
【0064】
本発明のポリエステル樹脂(C)又は変性アルキド樹脂(C’)に、着色顔料(E)、体質顔料(F)、硬化剤(G)、その他の成分を加えて本発明の樹脂組成物を得ることもできる。
【0065】
本発明において用いられる着色顔料(E)とは、本発明の樹脂組成物を着色材料とするために用いられる。これらは構成により有機顔料と無機顔料に分類されるが、これらは目的とする色や用途に合わせて、適宜選択される。
【0066】
有機顔料としては、その基本骨格により分類される。例えば、イソインドリノン系、イソインドリン系、アゾメチン系、案トラ企ノン系、アントロン系、キサンテン系、ジケトピロロピロール系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、インジゴイド系、ジオキサジン系、フタロシアニン系等の多環顔料類、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合ジスアゾ系等のアゾ顔料類、レーキ顔料類、蛍光顔料類が挙げられる。
【0067】
無機顔料類としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、雲母、カーボンブラック、ベンガラ、アルミフレーク等が挙げられる。
【0068】
また、本発明で示される体質顔料(F)とは、着色を目的としない顔料であり、組成物の粘度や流動性、樹脂の機械的特性を調整することを目的に使用される。
【0069】
たとえば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、黒鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ポリスチレンビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリテトラフルオロエタンビーズ等が挙げられる。
【0070】
また、本発明で示される硬化剤(G)とは、さらに樹脂の架橋度を高める目的で使用される。例えば、本発明のポリエステル樹脂(C)と反応可能な官能基を有する化合物を用いることができる、例えば、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートトリヌレート等の多官能イソシアネート類、ビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂類、ジアリルフタレート樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等の多官能フェノール樹脂類、メラミン、メチロール化メラミン、ベンゾグアナミン等の多官能アミン類等を用いることもできる。
【0071】
さらにその他の材料として、本発明の樹脂組成物を各種用途に適合させる目的で、本発明の樹脂組成物の70質量%を上限にその他の成分を加えることもできる。その他の成分としては、その他の樹脂類、各種添加剤、また塗工適性付与等を目的に粘度調整のため添加される揮発性溶剤等が挙げられる。下記に使用しうるその他の成分を例示する。
【0072】
その他の樹脂類としては、たとえばその他のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ケトンホルムアルデヒド樹脂、クレゾール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、スチレン樹脂、グアナミン樹脂、天然及び合成ゴム、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びこれらの変性物を用いることもできる。これらは40質量%までの範囲において用いることが好ましい。
【0073】
その他の添加剤としては、例えばメラミン等の熱硬化材、ナフテン酸コバルト等の金属ドライヤー類、アエロジル等のチキソトロピー付与剤、シリコーン系、フッ素系のレベリング剤や消泡剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤、安定剤、酸化防止剤等を使用することができる。
【0074】
また使用目的に応じて、粘度を調整する目的で、本発明の樹脂組成物の50質量%、さらに好ましくは35質量%までの範囲において揮発性溶剤を添加することもできる。
【0075】
本発明において皮膜形成用材料とは、基材表面を被覆することを目的として利用される。具体的な用途としては、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ、オフセットインキ等のインキ材料、ハードコート、トップコート、オーバープリントニス、クリヤコート等の塗工材料、ラミネート用、金属用他各種接着剤、粘着剤等の接着材料、レジスト材料等これに該当する。さらには、皮膜形成用材料を一時的に剥離性基材に塗工しフイルム化した後、本来目的とする基材に貼合し皮膜を形成させる、いわゆる転写材料等も皮膜形成用材料に該当する。
【0076】
皮膜形成させる方法としては特に制限はないが、グラビア等の凹版印刷方式、フレキソ等の凸版印刷方式、シルクスクリーン等の孔版印刷方式、オフセット等の平版印刷方式、ロールコーター、ナイフコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スピンコーター等の各種塗工方式が任意に採用できる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
合成例1:多官能酸無水物(A)の合成1
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながら、表中記載の無水物クロリド(b)を表中記載量((a)の水酸基に対して1.1当量)、にテトラヒドロフランを45g加えて均一溶液にした。この溶液を攪拌しながら5℃まで冷却後、表中記載の(a)を表中記載量、ピリジン((a)の水酸基に対して1.2当量)とテトラヒドロフラン54gを加えて均一にした溶液を、液温を10℃以下に保ちながら徐々に滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌し、次いで50℃まで昇温し、反応を8時間継続した。続いて、反応液を20℃まで冷却し、不溶解分であるピリジン塩酸塩をろ去した後、ろ液を濃縮した。濃縮物を酢酸エチル120mlに溶解させ、30mlの水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムをろ去した後、ろ液を濃縮し、得られた濃縮物を15mlの酢酸エチルに溶かし、トルエンで再結晶し生成物を得た。
【0079】
比較合成例1:2官能酸無水物の合成
合成例1に準じて、多官能酸無水物を合成した。結果を合成例1と併せて下記表に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
表中略語
TMP:トリメチロールプロパン
PE:ペンタエリスリトール
PE4EO:ペンタエリスリトール4モルエチレンオキサイド付加物
BPA2EO:ビスフェノールA2モルエチレンオキサイド付加物
BG:1,3−ブチレングリコール
THI:トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート
HTAC:核水添無水トリメリット酸クロリド
TMAC:無水トリメリット酸クロリド
【0082】
実施例1 ポリエステル樹脂(C)の調製
撹拌機、ディーンスターク型還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、合成例1で調製した多官能酸無水物(A)を20mmol(質量は表中記載)トルエンを、(A)と(B)の総量に対して固形分60質量%となる量加え、触媒としてトルエンスルホン酸を、溶剤を含めた総量の0.3質量%加え、撹拌溶解させた。
さらに1分子中に1つ以上の水酸基を併せ持つ化合物(B)として表中記載の化合物を加え、還流下、ディーンスターク管を用いて縮合水を除去しながら5時間反応を行った。
【0083】
比較例1 2官能カルボキシル基含有反応性化合物の調製
実施例1と同様に、表中記載のその他の2官能酸無水物を20mmol(質量は表中記載)を用いて反応を行った。
【0084】
【表2】
【0085】
表中略語
MW:ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によるポリスチレン換算質量平均分子量
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
HDO:ヘキサンジオール
2EH:2-エチルヘキシルアルコール(オクタノール)
EG:エチレングリコール
【0086】
実施例2:ひまし油脂変性ポリエステル樹脂(C)(変性アルキド樹脂(C’))の調製
撹拌機、ディーンスターク型還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、合成例1で調製した多官能酸無水物(A)を13.5g(20mmol)、(B)、及び(D)を表中記載量、溶剤としてトルエンを、(A)と(B)、その他成分(D)の総量に対して固形分60質量%となる量加え、触媒としてトルエンスルホン酸を、溶剤を含めた総量の0.3質量%加え、撹拌溶解させた。
さらに1分子中に1つ以上の水酸基を併せ持つ化合物(B)として表中記載の化合物を加え、還流下、ディーンスターク管を用いて縮合水を除去しながら5時間反応を行った。
【0087】
【表3】
【0088】
表中略語
CBO:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(別名カルビトール)
【0089】
実施例3:白色塗料組成物の調製
実施例1及び2、比較例1において合成したポリエステル樹脂(C)溶液を固形分換算で6g(実際の仕込み量は固形分60質量%で除したもの)、その他の樹脂としてアクリル樹脂、ダイヤナールBR−80(三菱レイヨン製)2g、着色顔料(E)として、酸化チタン顔料タイペークCR−90(石原産業株式会社)5gを、三本ロールミルを用いて混練し白色塗料組成物を得た。
【0090】
得られた塗料組成物を、ワイヤーバーコータ#8にてTFS基板(錫フリー鋼板)上に塗工し、120℃で10分間、オーブンにて溶剤を揮発さて塗膜を得た。
【0091】
金属用コーティング材料の評価
<樹脂特性評価>
乾燥後塗膜の硬さを鉛筆硬度試験(JIS−K5600−5−4:1999)に準じて評価した。
<密着性評価>
金属基材への密着性をクロスカット剥離試験(JIS−K5600−5−6:1999)に準じて評価した。
評価基準もJIS−K5600に準拠し、下記の分類によって評価した。
分類0:剥離なし、良好
分類1:角部に僅かに剥離あり
分類2:角部に剥離あり
分類3:マス目の半分未満の剥離あり
分類4:マス目の半分以上の剥離あり
分類5:ほぼ全面的な剥離あり、不良
<耐衝撃性評価>
塗膜の耐衝撃性をデュポン衝撃試験(JIS−K5600−5−6:1999)に準じて評価した。錘は500g、打撃型は6.35mm、落下高さは250mmにて実施した。
○:割れなし
△:割れはあるものの剥離なし
×:剥離あり
<耐光性>
得られた塗膜をスーパーUV試験機(岩崎電気)にて8時間紫外線光を照射し、照射終了後の白色塗膜の着色性を目視で評価した。評価基準は以下の通り。
◎:変色なし
○:黄色味に僅かに変色する
△:黄色変色が認められる
×:褐色に変色する
【0092】
【表4】
【0093】
以上の結果から、一分子中に3つ以上の水酸基を有する多価アルコール(a)から得られる本発明のポリエステル樹脂(C)及び変性アルキド樹脂(C’)は、一分子中に3つ未満の水酸基を有するアルコールから得られるポリエステル樹脂に比較して、密着性、耐衝撃性、耐光性に優れたコーティング組成物となりうることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のポリエステル樹脂(C)及び変性アルキド樹脂(C’)は変色が少なく密着性に優れたコーティング材料、印刷インキに好適である。