(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、
図1〜
図25を参照して説明する。
図1に示すように、作業工具の一例として、石膏ボードなどの被加工材に対して所定の作業を行うスクリュードライバ100が構成される。スクリュードライバ100は、本体部101、ハンドル107を主体として構成されている。本体部101の先端領域に、工具ビット119が取り外し可能に装着される。なお、説明の便宜上、工具ビット119の長軸方向(
図1の左右方向)に関して、工具ビット119側(
図1の右側)をスクリュードライバ100の前側と規定し、ハンドル107側(
図1の左側)をスクリュードライバ100の後側と規定する。また、
図1の上下方向に関して、
図1の上側をスクリュードライバ100の上側と規定し、
図1の下側をスクリュードライバ100の下側と規定する。
【0023】
図1〜
図3に示すように、本体部101は、メインハウジング103、フロントハウジング104、およびロケータ105を主体として構成されている。メインハウジング103は、主としてモータ110を収容している。フロントハウジング104は、メインハウジング103の前側に取り付けられており、駆動機構120を収容している。この駆動機構120が、本発明における「駆動機構」に対応する実施構成例である。
【0024】
図3に示すように、メインハウジング103の前端には、フロントハウジング104の内部とメインハウジング103の内部を区画するための区画壁103aが上下方向に延在するように設けられている。モータ110の出力軸111は、区画壁103aに保持されたベアリング111aと、メインハウジング103の後方部分に保持されたベアリング111bによって回転可能に支持されている。この出力軸111は、工具ビット119(スピンドル160)の長軸方向に平行に配置されている。ロケータ105は、フロントハウジング104の先端領域において、フロントハウジング104を覆うように取り付けられている。工具ビット119は、本体部101の先端領域において、ロケータ105から工具ビット119の先端が前方に突出するように、駆動機構120に対して取り外し可能に装着される。ロケータ105は、フロントハウジング104に対して、工具ビット119の長軸方向に相対移動可能であり、当該長軸方向において選択された所定の位置に固定される。これにより、ロケータ105から工具ビット119が突出する突出量が適宜設定される。すなわち、ねじ締め深さが設定される。
【0025】
ハンドル107は、本体部101(メインハウジング103)の後方に連接されている。このハンドル107には、トリガ107aおよび切替スイッチ107bが設けられている。トリガ107aが操作されることで、電源ケーブル109を介して外部から電流が供給されて、モータ110が駆動される。また、切替スイッチ107bが操作されることで、モータ110の出力軸111の回転方向が切り替えられる。すなわち、出力軸111は、正回転および逆回転のうちのどちらかの回転方向が選択されて駆動される。モータ110が、本発明における「モータ」に対応する実施構成例である。
【0026】
[駆動機構]
図3〜
図12に示すように、駆動機構120は、駆動ギア125、リテーナ130、ローラ140、ロックスリーブ145、バネ受け部材150、コイルバネ155、スピンドル160等を主体として構成されている。
【0027】
[駆動ギア]
図4および
図5に示すように、駆動ギア125は、工具ビット119を保持するスピンドル160と同軸状に配置されている。この駆動ギア125は、底壁126と側壁127を有し、前方に向かって開放された略カップ状の部材である。底壁126の中心部には、スピンドル160の後側軸部162が貫通する貫通孔が設けられている。側壁127の内側は、円筒状に形成された内部空間が形成されている。駆動ギア125の内部空間に、リテーナ130、ローラ140、ロックスリーブ145およびコイルバネ155等が収容されている。側壁127の外周部には、モータ110の出力軸111に形成されたギア歯112と係合するギア歯128が設けられている。この駆動ギア125は、底壁126の後方に設けられたニードルベアリング121によって本体部101(区画壁103a)に対して回転可能に支持されている。
【0028】
[リテーナ]
図4〜
図8および
図9〜
図12に示すように、リテーナ130は、略カップ状の部材であり、駆動ギア125と同軸状に配置されている。このリテーナ130は、駆動ギア125の底壁126に対向する基部131と、駆動ギア125の側壁127に対向する第1側壁132および第2側壁133を有している。なお、
図6および
図7においては、駆動ギア125は図示されていない。
【0029】
図4、
図8および
図12に示すように、基部131には、スピンドル160の後側軸部162が貫通する貫通孔が設けられている。
図12に示すように、基部131の貫通孔には、スピンドル160の周方向に所定の長さを有する係合孔131aが設けられている。一方、
図4に示すように、スピンドル160の後側軸部162には、スピンドル160の軸方向に延在する溝部162aが形成されている。スピンドル160の軸方向に直交する溝部162aの断面は、
図12に示すように、スピンドル160とリテーナ130を連結する円柱状の係合ピン139に対応して、略半円状に形成されている。したがって、係合孔131aがスピンドル160の周方向に所定の長さを有することで、係合ピン139がスピンドル160とリテーナ130に係合した状態で、係合孔131aの範囲内において、スピンドル160とリテーナ130が相対回転可能に構成されている。
【0030】
図4〜
図8および
図11に示すように、第1側壁132および第2側壁133は、リテーナ130の軸方向(前後方向)に関して、基部131から前方に向かって突出するように形成されている。リテーナ130の中心軸を挟んで、それぞれ一対の第1側壁132と一対の第2側壁133が形成されており、換言すると、リテーナ130の周方向に関して、2つの第1側壁132の間に第2側壁133が配置されている。
図11に示すように、リテーナ130の周方向に関して、第1側壁132と第2側壁133の間には所定の空間として形成された、ローラ140を保持するためのローラ保持部134が設けられている。これにより、リテーナ130は、第1側壁132および第2側壁133の間に4つのローラ140を保持する。
【0031】
さらに、
図6〜
図8に示すように、第2側壁133の前端部には、スピンドル160の回転軸線(リテーナ130の中心軸線)に対して傾斜する傾斜面で構成される傾斜部133aが設けられている。2つの第2側壁133に形成された傾斜部133aは、リテーナ130の中心軸線に対して点対称に形成されている。換言すると、2つの傾斜部133aは、リテーナ130の周方向に沿って形成されたリード面として構成され、リテーナ130の軸方向に直交する断面におけるリテーナ130の外形線(外周)に対して同じ角度で傾斜するように形成されている。すなわち、2つの傾斜部133aは二重らせん状に形成されている。
【0032】
また、
図5、
図6および
図12に示すように、基部131には、2つの第2側壁133のそれぞれに対応する領域にボール保持部131bが形成されている。2つのボール保持部131bは、リテーナ130の中心軸線に対して点対称に形成されている。このボール保持部131bは、リテーナ130の径方向に関して、第2側壁133の厚さよりも深い溝として形成されている。これにより、
図5に示すように、リテーナ130の径方向に関して、ボール保持部131bを通じて、リテーナ130の外部と内部が連通している。
【0033】
図12に示すように、ボール保持部131bは、リテーナ130の径方向に関して、リテーナ130の外周面からボール保持部131bにおけるリテーナ130の中心側までの距離である溝の深さがリテーナ130の周方向に沿って漸近的に浅くなるように形成されている。具体的には、
図12において矢印Bで示される右回り方向(B方向)に、ボール保持部131bの溝が徐々に浅くなるように、ボール保持部131bの深さが設定されている。2つのボール保持部131bには、それぞれボール153が配置されている。なお、ボール153が、ボール保持部131bの溝の深さが浅い領域に位置する場合には、ボール153は、ボール保持溝131bの底壁(中心側の壁)と駆動ギア125の内周面に当接するように配置される。一方、ボール153が、ボール保持部131bの溝の深さが深い領域に位置する場合には、ボール153は、ボール保持溝131bの底壁と駆動ギア125の内周面の少なくとも一方に当接しない。
【0034】
[ロックスリーブ]
図4〜
図7および
図9、
図10に示すように、ロックスリーブ145は、略六角柱状の部材であり、内側には中空部が形成されている。このロックスリーブ145は、リテーナ130および駆動ギア125と同軸状にリテーナ130の前方に配置されている。ロックスリーブ145の前端部は、スピンドル160の前側軸部161の後端部に当接可能に配置されている。ロックスリーブ145は、六角形の6つの辺に対応して、ローラ140と係合可能な4つのローラ係合部146と、リテーナ130の第2側壁133と係合可能な2つのリテーナ係合部147を有している。
【0035】
図10に示すように、ローラ係合部146は、スピンドル160の回転軸線(ロックスリーブ145の中心軸線)に対してそれぞれ平行な4つの平面によって構成されている。なお、対向する2つの面は互いに平行に形成されている。このローラ係合部146は、リテーナ130の径方向に関して、第1側壁132および第2側壁133より中心側において、ローラ140と係合可能(当接可能)に構成されている。
【0036】
また、
図10に示すように、リテーナ係合部147は、リテーナ130の径方向に関して、ロックスリーブ145の中心軸線からリテーナ130の半径と略同一距離離れた領域に形成されている。
図6、
図7および
図9に示すように、前後方向に関して、リテーナ係合部147の後端部には、スピンドル160の回転軸線(ロックスリーブ145の中心軸線)に対して傾斜する傾斜面で構成される傾斜部147aが設けられている。この傾斜部147aは、2つの第2側壁133の傾斜部133aにそれぞれ対応して形成されている。すなわち、傾斜部147aは、傾斜部133aと係合可能(当接可能)である。したがって、傾斜部133aと同様に、2つの傾斜部147aは、ロックスリーブ145の中心軸線に対して点対称に形成されている。換言すると、2つの傾斜部147aは、ロックスリーブ145の軸方向周りの周方向に沿って形成されたリード面として構成され、ロックスリーブ145の軸方向に直交する断面におけるリテーナ係合部147の外形線(外周)に対して同じ角度で傾斜するように形成されている。すなわち、2つの傾斜部147aは二重らせん状に形成されている。
【0037】
[バネ受け部材]
図4,
図5および
図11に示すように、バネ受け部材150は、断面が略六角形状の部材であり、リテーナ130内部に収容されている。このバネ受け部材150は、前後方向に関して、リテーナ130の基部131とロックスリーブ145の間に配置される。バネ受け部材150には、スピンドル160が貫通する貫通孔が形成されている。そして、後側軸部162の溝部162aに配置された係合ピン139が、バネ受け部材150に形成された略半円状の係合孔150aに係合し、これにより、バネ受け部材150は、スピンドル160と一体に回転するようにスピンドル160に連結される。このバネ受け部材150の外周部には、六角形の6つの辺のうち4つの辺に対応した4つのローラ係合部151が形成されている。このローラ係合部151は、スピンドル160の回転軸線に平行な平面として形成されている。
【0038】
また、
図5に示すように、バネ受け部材150の後面には、ボール153に当接するボール当接部152が形成されている。このボール当接部152は、リテーナ130の径方向に関して、ボール153の中心よりもリテーナ130の回転軸線(スピンドル160の回転軸線)側のボール153の領域に当接し、ボール153をスピンドル160の径方向の外側に向かって押し出すように作用する。なお、ボール当接部152は、スピンドル160の軸方向に対して傾斜する傾斜面として形成されていてもよい。スピンドル160の径方向の外側に押し出されたボール153は、駆動ギア125の内周面に当接する。したがって、駆動ギア125の回転によってボール153がボール保持部131b内を移動する。
【0039】
[スピンドル]
図4〜
図7および
図10〜
図12に示すように、スピンドル160は、金属製の略円柱状の長尺状部材であり、スピンドル160の長軸方向(工具ビット119の長軸方向)に移動可能に設けられている。このスピンドル160は、前側軸部161および前側軸部161と一体に連結された後側軸部162を主体として構成されている。前側軸部161には、工具ビット119が取り外し可能に装着される。工具ビット119は、前側軸部161に保持されたリーフスプリングに付勢されたボールが係合し、これにより工具ビット119が前側軸部161に保持される。この前側軸部161は、フロントハウジング104に保持された前側ベアリング122によって回転可能に支持されている。また、
図4および
図5に示すように、前側軸部161を支持する前側ベアリング122の前方には、フロントハウジング104と前側軸部161の間にオイルシール181が介在するように設けられている。
【0040】
後側軸部162は、前側軸部161と同軸状に前側軸部161に連結されている。この後側軸部162の後端部は、メインハウジング103の区画壁103aに設けられたシリンダ状の後端ベアリング165に対して前後方向に摺動可能であるとともに、回転可能に支持されている。この後端ベアリング165は、オイルレスベアリングとして構成されている。これにより、スピンドル160は、前側ベアリング122、および後端ベアリング165によって支持されている。後側軸部162は、駆動ギア125、リテーナ130およびロックスリーブ145を貫通しており、後側軸部162の後端部は、駆動ギア125から後方に向かって突出している。この後側軸部162には、スピンドル160の回転軸線方向に延在する溝部162aが形成されており、溝部162aの後端部が係合ピン139に当接することで、スピンドル160の軸方向に関する前方への移動が規制される。一方、係合ピン139は、コイルバネ155の後端部に当接してスピンドル160の軸方向に関する前方への移動が規制される。
【0041】
後側軸部162の内部には、後側軸部162の後端面に開口し、スピンドル160の内部を長軸方向に延在する中空部163が形成されている。すなわち、中空部163は、後端ベアリング165内に連通されている。また、後側軸部162には、当該後側軸部162を径方向に貫通し、中空部163とフロントハウジング104の内部を連通する連通孔164が形成されている。したがって、中空部163を介してフロントハウジング104の内部と後端ベアリング165の内部が連通する。これにより、
図16に示すように、スピンドル160が後方に移動した場合に、後端ベアリング165の内側の空気の圧縮を規制する。換言すると、連通孔164が設けられていることで後端ベアリング165の内部の空気が圧縮されず、スピンドル160の後方への移動が阻害されない。
【0042】
さらに、
図4および
図5に示すように、前側軸部161の後端部には、ストッパ170と係合可能な大径部166と、ストッパ170と係合不能な小径部167が形成されている。
図15に示すように、大径部166は、直径D1の円弧状部166aと、幅Wの二面幅部166bを有する。一方、
図20に示すように、小径部167は、直径D2の円形状に形成されている。直径D2の長さは、二面幅部166bの幅Wと同一長さである。
【0043】
[コイルバネ]
図4および
図5に示すように、コイルバネ155は、スピンドル160と同軸状にスピンドル160が貫通するように配置されている。このコイルバネ155の前側領域は、ロックスリーブ145の中空部に収容され、コイルバネ155の前端部がロックスリーブ145に当接している。また、コイルバネ155の後端部は、バネ受け部材150の前面に当接している。これにより、コイルバネ155は、ロックスリーブ145およびスピンドル160を前方に向かって付勢する。なお、前方に付勢されたロックスリーブ145は、スピンドル160を付勢するとともに、ストッパ170に当接して前方への移動が規制される。また、コイルバネ155は、バネ受け部材150、ボール153、リテーナ130、および駆動ギア125を後方に向かって付勢する。
図5に示すように、ボール153は、コイルバネ155に付勢されて、バネ受け部材150のボール当接部152を介して、リテーナ130の径方向の外側に向かって押し出され、駆動ギア125の内周面に当接する。このボール153およびコイルバネ155が、それぞれ本発明における「被付勢部材」および「付勢部材」に対応する実施構成例である。
【0044】
[ストッパ]
図4および
図5に示すように、ストッパ170は、スピンドル160が前方位置に位置するときに、スピンドル160の所定方向の回転を規制する回転防止機構を構成する。ストッパ170は、リング状に形成されており、スピンドル160が貫通するようにスピンドル160の外周部に配置されている。このストッパ170は、フロントハウジング104との間に介在状に配置されたOリング180によってフロントハウジング104に固定されている。
図13〜
図15に示すように、ストッパ170は、ボール保持リング171、プッシュリング173、ボール175およびリーフスプリング177を主体として構成されている。
【0045】
図13および
図14に示すように、ボール保持リング171は、金属製のリング状部材であり、スピンドル160と係合可能なボール175を保持する。
図14および
図15に示すように、ボール保持リング171には、周方向に沿った2つの保持溝172が形成されている。保持溝172には、ボール175がボール保持リング171の周方向に移動可能に保持されている。保持溝172は、ボール保持リング171の径方向に関して、ボール保持リング171の内周面から保持溝172の底面までの距離である溝の深さがボール保持リング171の周方向に沿って漸近的に深くなるように形成されている。具体的には、
図15におけるB方向(ねじ外し方向)に関して、保持溝172が徐々に深くなるように、保持溝172の深さ(径方向の長さ)が設定されている。また、B方向に関する保持溝172の前方部には、ポケット状領域172aが形成されている。ボール175が、保持溝172内をB方向に移動したときに突き当たる壁は、ボール保持リング171の所定の径方向に延在し、これにより保持溝172にポケット状領域172aが形成される。したがって、ボール175が
図15に示す位置(ポケット状領域172a)に位置する場合には、ポケット状領域172aにボール175が保持されることで、ボール保持リング171の径方向の中心(スピンドル160の回転軸)に向かうボール175の移動が規制される。
【0046】
ボール保持リング171の内周部には、略C型のリーフスプリング177が配置されている。
図14に示すように、リーフスプリング177には、2つの保持溝172にそれぞれ対応した2つの貫通穴177aが形成されている。ボール175は、ボール175の一部が貫通孔177aを通じて、ボール保持リング171の中心に向かって突出する。すなわち、ボール175は、保持溝172の深さよりも大きい直径を有する。したがって、リーフスプリング177は、ボール保持リング171の径方向に関して、ボール175が保持溝172からボール保持リング171の中心部への脱落を防止する脱落防止部材として機能する。以上の構成により、保持溝172内のボール175の位置に応じて、リーフスプリング177の貫通孔177aから突出するボール175の突出量が異なる。
【0047】
また、
図13および
図14に示すように、リーフスプリング177には、ボール保持リング171に保持されたボール176と係合する係合孔177bが形成されている。ボール保持リング171の内周部にリーフスプリング177を配置した状態で、リーフスプリング177の弾性変形を利用して、ボール176を保持リング171にはめ込み、その後、ボール175を保持溝172にはめ込むことで、ボール保持リング171、ボール175およびリーフスプリング177が一体化される。なお、保持溝172は、後方に向かって開放されており、ボール保持リング171の後方からボール175が移動されて保持溝172に配置される。一方、ボール176は、ボール保持リング171の前方から移動されて、リーフスプリング177の係合孔177bと係合する。リーフスプリング177と係合したボール176が、ボール保持リング171の後方に移動不能となるように、ボール176を保持する保持孔がボール保持リング171に形成されている。これにより、ボール保持リング171に係合した状態で、前方に移動不能なボール175、後方に移動不能なボール176、およびリーフスプリング177が相互に連関し、ストッパ170の各構成要素がアセンブリ化される。その結果、フロントハウジング104に対するストッパ170の組み付けが簡素化される。
【0048】
図13および
図14に示すように、プッシュリング173は、ボール保持リング171より小径のリング状部材であり、ボール保持リング171と同軸状にボール保持リング171に収容されている。プッシュリング173の前端面は、ボール保持リング171に保持されたボール175と当接している。このプッシュリング173は、ボール保持リング171に対して相対回動可能である。プッシュリング173の後端面は、ロックスリーブ145の前端面から後方にオフセットしたロックスリーブ145のショルダー部と接離可能である。すなわち、
図5に示すように、ロックスリーブ145がコイルバネ155に付勢されて前方位置に位置する場合には、ロックスリーブ145とプッシュリング173が当接する。一方、
図16に示すように、ロックスリーブ145が後方位置に位置する場合には、ロックスリーブ145とプッシュリング173が離間する。
【0049】
以上のストッパ170は、ロックスリーブ145が前方位置に位置してプッシュリング173に当接した状態で、ロックスリーブ145が回転されると、プッシュリング173がボール175に当接して、ボール175が保持溝172内を移動する。これにより、ボール保持リング171の径方向に関して、保持溝172からボール175が突出する突出量が変動する。すなわち、
図20に示すように、A方向(ねじ締め方向)にボール175が移動すると、リーフスプリング177からボール175が突出する突出量が多くなり、
図15に示すように、B方向(ねじ外し方向)にボール175が移動すると、リーススプリング177からボール175が突出する突出量が少なくなる。すなわち、ボール175は、スピンドル160の周方向に移動されることで、
図15に示すスピンドル160の中心軸から離間した位置(離間位置とも称す)と
図20に示すスピンドル160の中心軸に近接した位置(近接位置とも称す)の間を移動する。
【0050】
そして、ボール175が離間位置に位置する場合には、ボール175は、スピンドル160の大径部166および小径部167には係合しない。したがって、ボール175の離間位置においては、ボール175がスピンドル160と係合不能であるため、離間位置を係合不能位置とも称する。一方、ボール175が近接位置に位置する場合には、ボール175は、スピンドル160の大径部166と係合可能である。すなわち、ボール175が近接位置に位置するとともに、スピンドル160の大径部166がボール175と対向する前方位置にスピンドル160が位置する場合には、ボール175とスピンドル160が係合する。一方、スピンドル160の小径部167とボール175が対向する後方位置にスピンドル160が位置する場合には、ボール175とスピンドル160は係合しない。したがって、ボール175の近接位置においては、ボール175がスピンドル160と係合可能であるため、近接位置を係合可能位置とも称する。なお、ボール175のねじ締め方向の移動によって、ボール175が係合不能位置から係合可能位置に切り替えられ、ボール175のねじ外し方向の移動によって、ボール175が係合可能位置から係合不能位置に切り替えられる。
【0051】
[スクリュードライバの動作]
以上の通り構成されたスクリュードライバ100は、トリガ107aが操作されると、モータ110が駆動される。モータ110の出力軸111の回転によって、駆動ギア125が回転駆動される。そして、駆動ギア125の回転がスピンドル160に伝達されることで、スピンドル160に保持された工具ビット119が回転され、所定の作業(ねじ締め作業またはねじ外し作業)が行われる。このスピンドル160が、本発明における「先端工具保持軸」に対応する実施構成例である。
【0052】
[ねじ締め作業]
ねじ締め作業を行う際には、工具ビット119の先端のねじ(図示省略)を被加工材に対して押圧することで、スピンドル160が
図4に示す前方位置から
図16に示す後方位置に移動される。この前方位置および後方位置が、それぞれ本発明における「第1位置」および「第2位置」に対応する実施構成例である。このスピンドル160の移動によって、ロックスリーブ145がリテーナ130に対して回転されて、駆動ギア125とロックスリーブ145の間にローラ140が挟持される。その結果、ローラ140のくさび効果によって駆動ギア125とロックスリーブ145が一体に回転し、モータ110の出力軸111の回転が駆動機構120を介してスピンドル160に伝達され、スピンドル160が回転駆動される。これにより、工具ビット119によってねじ締め作業が行われる。このローラ140が、本発明における「介在部材」に対応する実施構成例である。また、ロックスリーブ145およびスピンドル160を合わせて、本発明の「先端工具駆動軸」が構成される。
【0053】
具体的には、
図4に示すように、スピンドル160が前方位置に位置する場合に、モータ110の出力軸111が所定方向(以下、正方向)に回転すると、
図10〜
図12におけるA方向に駆動ギア125が回転駆動される。このとき、ローラ140は、ロックスリーブ145と駆動ギア125に挟持されていないため、駆動ギア125の回転はロックスリーブ145には伝達されない。また、
図12に示すように、駆動ギア125のA方向の回転によって、ボール153が駆動ギア125の内周面に当接してボール保持部131b内をA方向に移動するが、ボール保持部131bの深さ(径方向の長さ)が十分深いため、ボール153は、ボール保持部131bと駆動ギア125には挟持されない。すなわち、ボール153は、ボール保持部131b内において遊篏状に保持され、駆動ギア125の回転はリテーナ130には伝達されない。この状態をアイドリング状態とも称する。
【0054】
アイドリング状態から工具ビット119の先端に保持されたねじを被加工材に対して押圧することで、コイルバネ155の付勢力に抗してスピンドル160が
図4に示す前方位置から
図16に示す後方位置に移動される。これにより、ロックスリーブ145がスピンドル160の前側軸部161の後端部に押されて後方に移動し、ロックスリーブ145のリテーナ係合部147とリテーナ130の第2側壁133が当接する。すなわち、
図17に示すように、リテーナ係合部147の傾斜部147aと第2側壁133の傾斜部133aが互いに当接する。傾斜部147aが傾斜部133aに沿って移動することで、ロックスリーブ145は、後方に向かって移動するとともに、リテーナ130の軸周りを回動する。すなわち、
図18に示すように、ロックスリーブ145がリテーナ130に対してスピンドル160の回転軸線周りにB方向に所定角度相対回動する。その結果、ロックスリーブ145のローラ係合部146と駆動ギア125の内周面の距離が短くなり、ローラ140がローラ係合部146と駆動ギア125の内周面の間に挟持される。これにより、ローラ140がくさびとして作用し、ローラ140を介して駆動ギア125とロックスリーブ145が一体化される。ロックスリーブ145と駆動ギア125に挟持されるローラ140の位置(
図18の位置)を回転伝達位置とも称する。したがって、ロックスリーブ145と駆動ギア125に挟持されていないローラ140の中立位置(
図10の位置)は、回転伝達不能位置とも称する。このロックスリーブ145が、本発明における「第1挟持部材」に対応する実施構成例である。
【0055】
このとき、
図17に示すように、ロックスリーブ145の傾斜部147aは、リテーナ130の傾斜部133aに当接している。そのため、
図18に示すように、モータ110の出力軸111によって駆動ギア125がA方向に回転駆動されると、駆動ギア125と一体となったロックスリーブ145が回転され、これによりロックスリーブ145の傾斜部147aがリテーナ130をA方向に押圧して、リテーナ130をA方向に回転させる。
【0056】
図19に示すように、A方向に回転されたリテーナ130は、リテーナ130の係合孔131aに係合する係合ピン139を介して、スピンドル160をA方向(ねじ締め方向)に回転させる。その結果、スピンドル160に保持された工具ビット119によってねじ締め作業が行われる。なお、
図16に示すように、スピンドル160が後方位置に位置するとき、スピンドル160の小径部167がストッパ170のボール175に対向する。ボール175は、小径部167に係合しないため、スピンドル160のねじ締め方向の回転は阻害されない。
【0057】
ねじが被加工材にねじ込まれると、ねじの移動に伴ってスクリュードライバ100全体が前方に移動し、ロケータ105の前面が被加工材に当接する。ロケータ105が被加工材に当接した後、さらにねじが被加工材にねじ込まれると、工具ビット119を保持したスピンドル160がロケータ105(フロントハウジング104)に対してスクリュードライバ100の前方に向かって移動する。すなわち、スピンドル160は、
図16に示す後方位置から
図4に示す前方位置に向かう移動が許容される。換言すると、ロケータ105が被加工材に当接する前は、スピンドル160が押圧されているため、スピンドル160の回転軸線方向に関して、スピンドル160とロケータ105の相対移動が規制されている。
【0058】
スピンドル160には、ロックスリーブ145を介してコイルバネ155の付勢力が前方に向かって作用している。また、ロックスリーブ145がリテーナ130を押圧して、リテーナ130をスピンドル160の回転軸線周りに移動(回転)させることで、ロックスリーブ145はリテーナ130から反力を受ける。具体的には、ロックスリーブ145とリテーナ130は、スピンドル160の回転軸線に対して傾斜する傾斜部147aおよび傾斜部133aが当接しているため、ロックスリーブ145はスピンドル160の回転軸線方向の反力と回転軸線周りの反力を受ける。この傾斜部147aが、本発明における「第2傾斜面」、「当接部」に対応する実施構成例である。また、傾斜部133aが、本発明における「傾斜面」に対応する実施構成例である。
【0059】
したがって、ねじ締め作業中において、ロケータ105が被加工材に当接した後にスピンドル160が後方位置から前方位置への移動が許容されると、コイルバネ155の付勢力とリテーナ130からの反力の合力(スピンドル160の回転軸線方向の力)によって、ロックスリーブ145が
図16に示す位置から前方に移動される。すなわち、上記合力が、ローラ140とロックスリーブ145の間の摩擦力を上回る。換言すると、コイルバネ155の付勢力だけでは、ローラ140とロックスリーブ145の間の摩擦力は上回らず、コイルバネ155の付勢力とリテーナ130からの反力の合力がローラ140とロックスリーブ145の間の摩擦力を上回る。したがって、コイルバネ155の付勢力だけでは、ロックスリーブ145が前方に移動されず、コイルバネ155の付勢力とリテーナ130からの反力の合力によって、ロックスリーブ145が前方に移動される。これにより、スピンドル160の回転軸線方向に関して、ロックスリーブ145とリテーナ130が離間し、リテーナ130とロックスリーブ145の間に隙間が形成される。その結果、
図18に示すロックスリーブ145が、駆動ギア125に対してA方向に相対的に回転され、駆動ギア125とロックスリーブ145の間のローラ140の挟持が解除される。すなわち、ローラ140のくさび作用が解除される。したがって、駆動ギア125からスピンドル160への回転伝達が遮断されて、ねじ締め作業が完了する。このロックスリーブ145が、本発明における「第1要素」に対応する実施構成例である。
【0060】
[ねじ外し作業]
被加工材にねじ込まれたねじを外すねじ外し作業の際には、スクリュードライバ100(工具ビット119)がねじを逆回転させることで、被加工材からねじを外す。このねじ外し作業においては、工具ビット119をねじに対して押圧することは合理的でない。そのため、スクリュードライバ100は、ねじ外し作業において、工具ビット119を押圧することなく工具ビット119がモータ110に駆動される。すなわち、スピンドル160が前方位置において、スピンドル160(工具ビット119)が逆回転される。
【0061】
具体的には、
図1に示すように、ねじ外し作業時には、モータ110の出力軸111が正方向とは逆の方向(以下、逆方向)に回転するように、切替スイッチ107bが切り替えられる。なお、切替スイッチ107bの近傍には、LED107cが設けられており、出力軸111の回転方向が逆方向に切り替えられた状態でトリガ107aが操作されたときに、LED107cが発光する。すなわち、LED107cによってねじ外し作業が行われることが作業者に報知される。モータ110の出力軸111が逆方向に回転すると、
図10〜
図12におけるB方向に駆動ギア125が回転される。この時、ローラ140は、ロックスリーブ145と駆動ギア125に挟持されていないため、駆動ギア125の回転はロックスリーブ145には伝達されない。
【0062】
一方、駆動ギア125のB方向の回転によって、
図12に示すボール153が駆動ギア125の内周面に当接してボール保持部131b内をB方向に移動し、
図21に示す位置に配置される。ボール保持部131bの深さ(径方向の長さ)は、B方向に向かって浅く(短く)なるため、ボール153がボール保持部131b内をB方向に移動することで、ボール保持部131bと駆動ギア125に挟持される。これにより、ボール153がくさびとして作用し、ボール153を介して駆動ギア125とリテーナ130が一体化される。
【0063】
図21に示すように、リテーナ130に形成された係合孔131aは、スピンドル160の周方向に所定の長さを有しており、スピンドル160とリテーナ130の相対回転が許容されている。一方、
図22に示すように、バネ受け部材150は、係合ピン139を介してスピンドル160に対する相対回転が規制されている。そのため、リテーナ130が駆動ギア125と一体にB方向に回転されると、スピンドル160およびバネ受け部材150に対して、リテーナ130がB方向に回転し、リテーナ130に保持されたローラ140がB方向に移動される。これにより、ローラ140がバネ受け部材150と駆動ギア125の間に挟持される。これにより、ローラ140がくさびとして作用し、ローラ140を介して駆動ギア125とバネ受け部材150およびスピンドル160が一体化される。したがって、駆動ギア125がB方向に回転されることで、スピンドル160がB方向(ねじ外し方向)に回転される。その結果、スピンドル160に保持された工具ビット119によってねじ外し作業が行われる。このバネ受け部材150が、本発明における「第2挟持部材」に対応する実施構成例である。
【0064】
以上のスクリュードライバ100においては、スピンドル160が後方位置に位置する場合に、ねじ締め作業が行われる。ねじ締め作業は、工具ビット119の先端にねじを一つずつ装着して行われるため、スピンドル160が回転駆動されない前方位置に位置する場合には、スピンドル160が確実に停止していることが好ましい。すなわち、アイドリング状態においては、スピンドル160の回転軸線周りに関して、スピンドル160が停止していることが好ましい。そのため、本実施形態においては、ストッパ170を設けることで、スピンドル160が前方位置に位置する場合に、意図せずスピンドル160がねじ締め方向に回転することを防止する。なお、ストッパ170のボール保持リング171がOリング180によってフロントハウジング104に固定されていることで、ストッパ170の回転が防止される。
【0065】
具体的には、
図4に示すように、スピンドル160が前方位置に位置する場合には、スピンドル160の大径部166がストッパ170のボール175に対向する。このとき、駆動ギア125がA方向に回転駆動された場合であっても、通常ロックスリーブ145およびスピンドル160は回転されないが、何らかの理由でロックスリーブ145が回転されると、コイルバネ155に付勢されたロックスリーブ145がプッシュリング173に当接しているため、駆動ギア125のA方向(ねじ締め方向)の回転によってプッシュリング173を介してボール175が
図20に示すように保持溝172内でA方向に移動される。保持溝172の深さ(径方向の長さ)は、A方向に向かって浅く(短く)なるように構成されており、
図20に示す位置にボール175が配置されると、リーフスプリング177から突出するボール175の突出量が最大となる。これにより、スピンドル160の大径部166がボール175に当接して、スピンドル160のA方向の回転が規制される。特に、
図23に示すように、ボール175は、大径部166の二面幅部166bに係合して、スピンドル160のA方向の回転を規制する。
【0066】
一方、ねじ外し作業は、スピンドル160に保持された工具ビット119を被加工材に押圧することなく行われる。すなわち、スピンドル160が前方位置に位置した状態でねじ外し作業が行われる。
図4に示すように、スピンドル160が前方位置に位置する場合には、スピンドル160の大径部166がストッパ170のボール175に対向する。このとき、駆動ギア125がB方向に回転駆動されると、コイルバネ155に付勢されたロックスリーブ145がプッシュリング173に当接しているため、駆動ギア125のB方向(ねじ外し方向)の回転によって、プッシュリング173を介してボール175が
図15に示すように保持溝172内でB方向に移動される。保持溝172の深さ(径方向の長さ)は、B方向に向かって深く(長く)なるように構成されており、
図15に示す位置にボール175が配置されると、スピンドル160の大径部166はボール175に当接しない。ストッパ170は、スピンドル160が前方位置に位置する場合に、スピンドル160のねじ外し方向の回転を許容する。したがって、スピンドル160のB方向(ねじ外し方向)の回転がボール175によって妨げられることなく、ねじ外し作業が行われる。
【0067】
また、以上のスクリュードライバ100においては、
図4に示すように、フロントハウジング104内に、駆動機構120をスムーズに駆動させるためにグリース等の潤滑剤(図示省略)が配置されている。さらに、潤滑剤がフロントハウジング104の前側から流出することを抑制するために、フロントハウジング104の前側には、スピンドル160の前側軸部161の外周部とフロントハウジング104の間にオイルシール181が介在するように配置されている。すなわち、フロントハウジング104は密閉状に形成されている。
【0068】
図24に示すように、オイルシール181は、リング状に形成されており、フロントハウジング104に取り付けられる基部181aとスピンドル160に当接するリップ部181bを有する。特に、フロントハウジング104の内周面に当接する基部181aは、エラストマで形成されている。フロントハウジング104の前端部には、オイルシール181の外径より若干大きい直径を有する大径部104cが形成されている。また、オイルシール181の外径は、フロントハウジング104の内径より若干大きく形成されている。さらに、フロントハウジング104の内周面には、上側の凹部104aと下側の凹部104bが形成されている。すなわち、複数の凹部104a,104bが、同一円周上に形成されている。なお、凹部は、周方向に連続状に形成された単一の凹部として構成されていてもよい。また、凹部の代わりに凸部が設けられていてもよい。
【0069】
以上のオイルシール181は、フロントハウジング104の前方から移動させることで、オイルシール181の外周部の弾性変形によってフロントハウジング104に篏合される。このとき、オイルシール181は、フロントハウジング104の大径部104cに沿って移動される。すなわち、大径部104cがオイルシール181を組み付ける際のガイドとして機能する。また、オイルシール181の基部181aの弾性変形によって、凹部104a,104bとオイルシール181の基部181aが係合し、オイルシール181がフロントハウジング104から脱落しないように強固に固定される。すなわち、凹部104a,104bがオイルシール181の抜け止めとして機能する。なお、オイルシール181は、弾性変形によってフロントハウジング104に圧入されることで、オイルシール181の周方向の回動が規制されるが、オイルシール181の周方向に関して、フロントハウジング104に形成された複数の凹部104a,104bによって、オイルシール181の周方向の回動がより効果的に抑制される。そして、オイルシール181が組み付けられたフロントハウジング104に対して、駆動機構120が組み付けられる。すなわち、スピンドル160がオイルシール181を貫通するように、駆動機構120をフロントハウジング104内に配置することで、オイルシール181がスピンドル160とフロントハウジング104の間の隙間をシールするように配置される。なお、オイルシール181の内周部に設けられたリップ部181bは、スピンドル160に常時当接する。これにより、フロントハウジング104の前方側から潤滑剤が外部に流出することを防止している。
【0070】
一方、フロントハウジング104の後方側においては、
図25に示すように、ベアリング111aによって、モータ110の出力軸111と区画壁103aの間から潤滑剤が流出することを防止している。さらに、区画壁103aには、フロントハウジング104の内部と外部を連通する通気通路190が設けられている。スクリュードライバ100が駆動した際に、フロントハウジング104内においては、駆動機構120の駆動によって熱が発生し、フロントハウジング104内の空気の圧力が上昇する。とりわけ、小型のスクリュードライバ100においては、フロントハウジング104の容積が小さいため、フロントハウジング104内の空気の圧力変動が大きい。そのため、区画壁103aには、フロントハウジング104の圧力を外部に解放することで、フロントハウジング104内の空気の圧力上昇を抑制するための通気通路190が形成されている。すなわち、フロントハウジング104とメインハウジング103は、通気通路190によって連通している。この通気通路190は、駆動ギア125の後方であって、モータ110の出力軸111(
図25では図示省略)の上方に設けられている。なお、
図1および
図3に示すように、メインハウジング103には、メインハウジング103の内部とスクリュードライバ100の外部とを連通する連通孔で構成された外部連通部106が設けられている。
【0071】
図25に示すように、通気通路190は、フロントハウジング104内部と外部の空気の流通を許容し、潤滑剤の流出を抑制するために、上下方向に延在する区画壁103aから前方に突出する円筒状(煙突状)の通路形成部191の中空部分によって構成されている。すなわち、通路形成部191の前端部(先端部)の通気口191aは、区画壁103aの前面103f(フロントハウジング104側の面)から前方に所定の距離離れて設けられている。これにより、潤滑剤が区画壁103aを伝って通気口191aまで移動することを抑制している。この通気口191aは、駆動ギア125に近接して配置されている。さらに、通気口191aは、駆動ギア125の径方向に関して、駆動ギア125の外周部よりも駆動ギア125の回転軸線側に設けられている。駆動ギア125の回転により遠心力が発生し、駆動ギア125に付着した潤滑剤は、駆動ギア125の径方向の外側に移動される。そのため、通気口191aから通気通路190に潤滑剤が進入することを抑制できる。この通気通路190によってフロントハウジング104から、潤滑剤が流出しないように構成するとともに、フロントハウジング104内の空気の圧力上昇を抑制する。
【0072】
さらに、上記の構成による通気通路190から潤滑剤が流出した場合に備えて、区画壁103aにはオイルフィルタ195が配置されている。このオイルフィルタ195は、フェルトやスポンジなどの液体を吸収する材料によって形成されている。このオイルフィルタ195は、区画壁103aの後方側であって、通気通路190の後方に配置されている。すなわち、オイルフィルタ195は、区画壁103aに保持されている。したがって、フロントハウジング104内の空気は、通気通路190およびオイルフィルタ195を通過して、メインハウジング103内に達する。
【0073】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、
図26および
図27を参照して説明する。第2実施形態は、ストッパ170のボール保持リングに形成された保持溝の形状が第1実施形態と異なる。したがって、保持溝以外の構成については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0074】
図15に示すように、第1実施形態においては、保持溝172にポケット状領域172aが形成されていたが、
図27に示すように、第2実施形態においては、ポケット状領域172aの代わりに保持溝272に径方向移動許容領域272aが形成されている。ボール175が、保持溝272内をB方向に移動したときに突き当たる壁は、ボール保持リング271の内周部の所定の接線に沿うように延在し、これにより保持溝272に径方向移動許容領域272aが形成される。したがって、ボール175が
図27に示す位置(径方向移動許容領域272a)に位置する場合には、ボール175は、ボール保持リング271の径方向の中心(スピンドル160の回転軸)に向かう移動が許容される。
【0075】
ねじ外し作業時には、プッシュリング173のB方向の回転によって、ボール175がプッシュリング173に当接して保持溝272内をB方向に移動されて、径方向移動許容領域272aに配置される。この径方向移動許容領域272aに配置されたボール175は、プッシュリング173のB方向の回転によって、さらにボール保持リング271の径方向の中心(径方向内側)に向かって移動される。これにより、ボール175がねじ外し方向(B方向)に回転しているスピンドル160の大径部166に衝突し、ボール175が径方向移動許容領域272a内を径方向外側に向かって移動される。その後、ボール175は、プッシュリング173のB方向の回転によって、再度ボール保持リング271の径方向の中心(径方向内側)に向かって移動される。すなわち、ねじ外し作業時に、ボール175は、径方向移動許容領域272a内において、径方向外側と径方向内側の間を周期的に移動する。
【0076】
その結果、ボール175は、周期的にスピンドル160の大径部166に衝突し、衝突音が発生する。この衝突音によって、スピンドル160がねじ外し方向に回転されていることを作業者に報知する回転方向報知装置を構成する。すなわち、ストッパ170は、スピンドル160が前方位置に位置する場合に、スピンドル160のねじ締め方向の回転を規制し、ねじ外し方向の回転を許容するとともに、スピンドル160がねじ外し方向に回転されていることを報知する機能も有する。したがって、ねじ外し作業に先立って、作業者がスピンドル160の回転方向(ねじ外し方向)を容易に確認することができる。そのため、第2実施形態においては、LED107cが設けられていなくてもよい。
【0077】
以上の第1および第2実施形態によれば、ねじ締め作業を行う際に、スピンドル160を押圧して後方位置に移動させることで、ロックスリーブ145の傾斜部147aとリテーナ130の傾斜部133aの係合によってローラ140をロックスリーブ145に対してリテーナ130の周方向に移動させる。すなわち、リテーナ130の周方向に関して、ローラ140を回転伝達不能位置から回転伝達位置に移動させる。したがって、スピンドル160の軸方向のスピンドル160の移動をリテーナ130(スピンドル160)の周方向のローラ140の移動に変換することで、ねじ締め作業に基づいて、ローラ140の位置が合理的に切り替えられる。
【0078】
また、第1および第2実施形態によれば、ローラ140を用いることによって、駆動ギア125とロックスリーブ145の間に挟持されたローラ140のくさび効果によって、モータ110の出力軸111の回転がスピンドル160に確実に伝達される。
【0079】
また、第1および第2実施形態によれば、ねじ締め作業時に、ねじ(スピンドル160)の移動に伴って、駆動ギア125とロックスリーブ145によるローラ140の挟持が解除される。具体的には、スピンドル160の軸方向に関するコイルバネ155の付勢力と、ロックスリーブ145がリテーナ130を回転させる際にロックスリーブ145がリテーナ130から受けるスピンドル160の軸方向の反力の合力によって、ローラ140の挟持が解除される。すなわち、コイルバネ155の付勢力のみによってローラ140の挟持を解除する場合には、コイルバネ155の大きな付勢力が必要となるが、ロックスリーブ145がリテーナ130から受ける反力も利用することで、ローラ140の挟持が確実に解除され、駆動機構120による回転伝達が遮断される。また、ロックスリーブ145がリテーナ130から受ける反力も利用することで、コイルバネ155にばね定数の小さいバネを適用することもできる。
【0080】
また、第1および第2実施形態によれば、アイドリング状態において、ストッパ170がスピンドル160のねじ締め方向の回転を規制する。これにより、例えば、フロントハウジング104内で固化した潤滑剤等によって意図せずスピンドル160が回転してしまうことを確実に防止する。したがって、ねじ締め作業を行う際には、スピンドル160を押圧した場合にのみスピンドル160が回転駆動される。一方、ストッパ170は、スピンドル160のねじ外し方向の回転を許容しているため、ねじ外し作業を行う際には、スピンドル160を押圧することなく、スピンドル160が回転駆動される。これにより、作業態様に応じて合理的にスピンドル160が駆動される。
【0081】
また、第1および第2実施形態によれば、フロントハウジング104の前側にオイルシール181が設けられているため、フロントハウジング104の前側から潤滑剤が流出することが防止される。このオイルシール181は、オイルシール181の基部181aの弾性変形によってスピンドル160の軸方向に抜け止めされているとともに、スピンドル160の回転に伴う周方向の回転が規制される。換言すると、オイルシール181は、スピンドル160の軸方向と周方向に強固に固定される。また、フロントハウジング104に凹部104a,104bが形成されているため、スピンドル160の軸方向および周方向に関するオイルシール181の移動がより効果的に規制される。このオイルシール181の固定は、軸方向周りに回動するとともに、軸方向に移動されるスピンドル160に対して特に有用である。
【0082】
また、第1および第2実施形態によれば、通気通路190によってフロントハウジング104内の空気の圧力上昇を抑制する。また、通気通路190から流出した潤滑剤がオイルフィルタ195によって確実に捕捉され、スクリュードライバ100の外部への潤滑剤の流出が防止される。モータ110の出力軸111がスピンドル160(工具ビット119)の軸線方向に平行に配置される構成においては、スクリュードライバ100の重心位置を考慮して、モータ110は駆動機構120の後方に配置される。そのため、駆動機構120の後方であって、モータ110の上方には空きスペースが生じる。通気通路190やオイルフィルタ195は、そのような空きスペースに配置されるため、スクリュードライバ100の構成要素が合理的に配置される。
【0083】
なお、以上の実施形態においては、LED107cが点灯することで、ねじ外し作業が行われることを報知していたが、これには限られない。例えば、LED107cが点滅したり、LED107cが発する光の色を変えたりすることでねじ外し作業が行われることを報知してもよい。また、回転方向報知装置として、振動や音を発生するアクチュエータが設けられていてもよい。なお、回転方向報知装置としては、ねじ外し作業時にスピンドル160,360(工具ビット119)のねじ外し方向の回転を報知するだけでなく、ねじ締め作業時にスピンドル160,360(工具ビット119)のねじ締め方向の回転を報知してもよい。
【0084】
また、以上の実施形態においては、傾斜部133a,147aの機械的な当接によって、駆動ギア125とロックスリーブ145によるローラ140の挟持を解除するために、コイルバネ155の付勢力と協働して、ロックスリーブ145を前方に移動させていたが、これには限られない。すなわち、傾斜部133a,147aの傾斜面の角度を適宜設定して、傾斜部133a,147aの当接のみによって、ロックスリーブ145を前方に移動させてもよい。また、例えば、傾斜部133a,147aとは別に、ねじ締め作業時にロケータ105が被加工材に当接したことを検知して、ロックスリーブ145を前方に移動させることで、駆動ギア125とロックスリーブ145によるローラ140の挟持を解除する解除手段が設けられていてもよい。また、傾斜部133aと傾斜部147aのいずれか一方の傾斜部のみが設けられていてもよい。
【0085】
また、以上の実施形態においては、駆動部材である駆動ギア125の内側が円柱状であり、被動部材であるロックスリーブ145の外側が角柱状に形成されていたが、これには限られない。すなわち、駆動部材の内側が角柱状であり、被動部材の外側が円柱状に形成されていてもよい。
【0086】
また、以上の実施形態においては、ローラ140の挟持を解除する解除機構として、傾斜部133a,147aを利用してロックスリーブ145とリテーナ130を軸方向および周方向に相対移動させるように構成されていたが、これには限られない。例えば、駆動機構120とは別にリテーナ130を駆動ギア125に対して相対移動させることで、挟持位置から挟持不能位置に移動させる駆動装置が設けられていてもよい。この場合、駆動装置が、モータ110によって駆動され、解除機構として機能する。なお、駆動装置がモータに駆動されるタイミングを制御することで、駆動装置がローラ140の挟持を解除するタイミングが適切に設定される。
【0087】
また、傾斜部133aと傾斜部147aが設けられていたが、これには限られない。例えば、一方の傾斜部のみが形成されていてもよい。したがって、他方の部材は、傾斜部に当接して摺動する当接部が形成される。
【0088】
上記発明の趣旨に鑑み、本発明に係るねじ締め工具に関しては、下記の態様が構成可能である。なお、各態様は、単独で、あるいは互いに組み合わされて用いられるだけでなく、請求項に記載された発明と組み合わされて用いられる。
(態様1)
介在部材は、先端工具駆動軸と駆動部材に挟持されてくさび効果が生じ、当該くさび効果によって駆動部材と介在部材と先端工具駆動軸が一体になって回転する。
(態様2)
先端工具の回転軸線に垂直な断面において、
駆動部材の内側面は円筒状に形成され、
先端工具駆動軸の外側面は略角柱状に形成される。
(態様3)
先端工具の回転軸線に垂直な断面において、
第1挟持部材の外側面は略角柱状に形成される。
(態様4)
解除機構は、
第1要素および第2要素の一方の要素に形成された傾斜部と、他方の要素の形成された当接部の摺動によって生じる第1要素と第2要素の先端工具駆動軸の軸方向および軸方向周りの周方向に関する相対移動を利用して、介在部材の挟持を解除する。
(態様5)
解除部材は、
第1要素と第2要素の先端工具駆動軸の軸方向および軸方向周りの周方向に関する相対移動と、付勢部材の付勢力を利用して、介在部材の挟持を解除する。
(態様6)
第2挟持部材には、駆動部材との間に介在部材を挟持可能な第2挟持部が設けられている。
【0089】
(本実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係)
本実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下の通り示す。なお、本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものであり、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。
スクリュードライバ100が、本発明の「ねじ締め工具」に対応する構成の一例である。
モータ110が、本発明の「モータ」に対応する構成の一例である。
駆動機構120が、本発明の「駆動機構」に対応する構成の一例である。
駆動ギア125が、本発明の「駆動部材」に対応する構成の一例である。
スピンドル160が、本発明の「先端工具駆動軸」に対応する構成の一例である。
スピンドル160が、本発明の「先端工具保持軸」に対応する構成の一例である。
ロックスリーブ145が、本発明の「先端工具駆動軸」に対応する構成の一例である。
ロックスリーブ145が、本発明の「第1要素」に対応する構成の一例である。
ロックスリーブ145が、本発明の「第1挟持部材」に対応する構成の一例である。
傾斜部147aが、本発明の「第2傾斜面」に対応する構成の一例である。
傾斜部147aが、本発明の「当接部」に対応する構成の一例である。
ローラ係合部146が、本発明の「挟持部」に対応する構成の一例である。
リテーナ130が、本発明の「第2要素」に対応する構成の一例である。
傾斜部133aが、本発明の「傾斜面」に対応する構成の一例である。
第2側壁133が、本発明の「保持部」に対応する構成の一例である。
ローラ140が、本発明の「介在部材」に対応する構成の一例である。
バネ受け部材150が、本発明の「第2挟持部材」に対応する構成の一例である。
ボール153が、本発明の「被付勢部材」に対応する構成の一例である。
コイルバネ155が、本発明の「付勢部材」に対応する構成の一例である。