(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410583
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物の接合構造および鉄筋コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20181015BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
E04B1/58 506A
E04B1/21 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-248914(P2014-248914)
(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公開番号】特開2016-108878(P2016-108878A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501200837
【氏名又は名称】平石 久廣
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】平石 久廣
(72)【発明者】
【氏名】冨田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】前島 克朗
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−138658(JP,A)
【文献】
特開2008−280786(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/157601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造であって、
前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部とを連結する主筋の一定長さ部分の断面をその主筋の両端部よりも縮小して断面縮小部分を設け、前記断面縮小部分の両端のいずれか一方が前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部との境界もしくは境界近傍に位置するか、または、前記断面縮小部分の範囲内に前記境界が位置し、
地震時において前記主筋の前記断面縮小部分が他部分よりも優先的に降伏することで前記境界において開きが形成されるように構成し、
前記主筋は前記断面縮小部分の両端において主筋長手方向に対しほぼ直角な段差面を有し、前記主筋に対し引き抜き力が作用したとき前記段差面とコンクリートとの間において支圧抵抗力が作用するとともに、前記断面縮小部分の外周面を粗し処理することで、前記断面縮小部分における前記主筋と前記コンクリートとの付着力の低下を補完するようにした鉄筋コンクリート構造物の接合構造。
【請求項2】
前記断面縮小部分の前記固定部側の端部が前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部との境界もしくは境界近傍に位置するか、または、前記断面縮小部分の範囲内に前記境界が位置する請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物の接合構造。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート部材は、梁、柱または耐力壁である請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート構造物の接合構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接合構造を有する鉄筋コンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造、および、その接合構造を有する鉄筋コンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、鉄筋コンクリート造の柱と梁の接合部において、大地震時に梁主筋が降伏したあとのコンクリートのひび割れや圧壊等の損傷を制御するために、梁主筋とコンクリートを絶縁させた区間(付着除去区間)を設け、
図10(a)のように主筋の脇に添え筋、または、
図10(b)のように接合部筋を配置する接合部を提案する。梁主筋の付着を除去することにより、付着割裂破壊を防止することができ、主筋の付着を除去した部分の脇に添え筋または接合部筋を配置することにより、曲げ耐力およびせん断耐力の低下を防ぐことができる。
【0003】
特許文献2は、地震の際に柱や梁の破損を軽減するための鉄筋コンクリート建造物の固定構造を提案する。
図11のように、柱100(構成材)内の主筋部110と、基礎200(基部)のアンカー筋120とが、連続した鉄筋101から構成される。主筋部110は、材端位置Eの近傍領域から所定長さで上方に延びた大径部130を有する。アンカー筋部120は、材端位置Eから所定長さで下方に延びた降伏予定部Yと、その下方の径の大きな、基礎200のコンクリートへの定着部140と、を有する。降伏予定部Yは、断面積が主筋部110の大径部130よりも小さいため、降伏荷重が小さく、大地震の際に基部のアンカー筋部120で優先的に降伏することで、主筋部110の材端近傍領域での降伏を回避し、構成材の破損を軽減する。また、降伏予定部Yのコンクリートへの付着強度は実質的にゼロである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-346641号公報
【特許文献2】特開2003-138658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の接合部構造によれば、梁主筋の脇に添え筋(
図10(a))または接合部筋(
図10(b))を配置する必要があるため、鉄筋を配置する手間と材料コストが増える。また、
図13(b)に示すように、添え筋を梁主筋の真横に配置した場合は、その鉄筋径の分だけ梁幅が増えることとなり、設計の自由度が低くなる。
【0006】
特許文献2の固定構造では、
図11に示す基礎200(基部)の内部に降伏予定部Yを設けており、かつ、降伏予定部Yのコンクリートへの付着強度は実質的にゼロであるため、降伏予定部Yの所定長さ分だけ主筋101の定着長さが小さくなり、結果として、主筋101の基礎200(基部)への定着効果が低下してしまう。また、主筋101の定着部140とアンカー筋部120との境界部分の段差面に緩やかなテーパーがついているため、段差面の支圧抵抗力を効率的に発揮させることができず、結果として、主筋101のコンクリート基礎200(基部)への付着力定着効果が低下してしまう。また、降伏予定部Yのコンクリートへの付着強度は実質的にゼロであるため、梁部材自体の曲げ耐力は低下してしまう。
【0007】
図4に示すように、従来の一般的な工法による接合構造では、主筋50の断面積は、柱(固定部1)と両側の梁(鉄筋コンクリート部材2,2)とにおいて同一である。このため、大地震時に梁の端部で主筋50の降伏が発生した場合は、その降伏領域を制御することができず、建物変形角が過大になり、結果として、コンクリートのひび割れや圧壊等の損傷が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、鉄筋コンクリート構造物において鉄筋コンクリート部材と固定部とを主筋により連結し接合する場合、添え筋や接合部筋の必要がなく部材幅が増えずに、大地震時に鉄筋コンクリート部材と固定部との境界以外の部分における破損を軽減でき、かつ、梁自体の曲げ耐力の低下を防止できる接合構造、および、大地震時の建物変形角を小さくすることでコンクリートのひび割れや圧壊等の破損を軽減し、エネルギー吸収能力が大きく制振効果の高い鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための鉄筋コンクリート構造物の接合構造は、鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造であって、前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部とを連結する主筋の一定長さ部分の断面をその主筋の両端部よりも縮小して断面縮小部分を設け、前記断面縮小部分の両端のいずれか一方が前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部との境界もしくは境界近傍に位置するか、または、前記断面縮小部分の範囲内に前記境界が位置し、地震時において前記主筋の前記断面縮小部分が他部分よりも優先的に降伏することで前記境界において開きが形成されるように構成し
、前記主筋は前記断面縮小部分の両端において主筋長手方向に対しほぼ直角な段差面を有し、前記主筋に対し引き抜き力が作用したとき前記段差面とコンクリートとの間において支圧抵抗力が作用するとともに、前記断面縮小部分の外周面を粗し処理することで、前記断面縮小部分における前記主筋と前記コンクリートとの付着力の低下を補完するようにしたものである。
【0010】
この接合構造によれば、主筋に設けた断面縮小部分の両端のいずれか一方が鉄筋コンクリート部材と固定部との境界もしくは境界近傍に位置するか、または、断面縮小部分の範囲内に境界が位置するので、地震時において断面縮小部分が他部分よりも優先的に降伏することで境界において開きが形成される。このように、大地震時には鉄筋コンクリート部材と固定部との境界に破損が集中するので、鉄筋コンクリート部材と固定部とにおいて境界以外の部分の破損を軽減することができる。また、鉄筋コンクリート構造物において、主筋に特別な添え筋や接合部筋の必要がないので、鉄筋コンクリート部材幅が増えずに設計の自由度が高くなり、また、工期短縮や材料コストの低減を図ることができる。
【0011】
上記鉄筋コンクリート構造物の接合構造において、大地震時には主筋に設けた断面縮小部分が優先的に降伏し局所的に変形して、断面積が小さくなるため、断面縮小部分のコンクリートへの付着強度は実質的にゼロとなる。主筋の固定部への定着効果が低下するのを防ぐためには、断面縮小部分が固定部に定着される長さを小さくする必要がある。また、断面縮小部分のコンクリートへの付着強度が実質的にゼロとなれば、梁等の鉄筋コンクリート部材自体の曲げ耐力も低下してしまう。このことを防ぐためには、鉄筋コンクリート部材内に断面縮小部分の一部、または、全部が含まれる配置とし、断面縮小部分の周囲にせん断補強筋を設置できるようにする必要がある。以上のことから、前記断面縮小部分の前記固定部側の端部は前記鉄筋コンクリート部材と前記固定部との境界もしくは境界近傍に位置するか、または、前記断面縮小部分の範囲内に前記境界が位置することが好ましい。
【0012】
上記鉄筋コンクリート構造物の接合構造において、前記主筋は、前記断面縮小部分の両端において、主筋長手方向に対しほぼ直角な段差面を有するこ
とにより、主筋に引き抜き力が作用した場合、段差面の支圧抵抗力を効率的に発揮することができ、主筋の固定部への定着効果が増大する。
【0013】
また、前記断面縮小部分の外周面が粗し処理されているこ
とにより、断面縮小部分の外周面においてコンクリートとの付着効果が増大する。
【0014】
また、前記鉄筋コンクリート部材は、梁、柱または耐力壁であってよい。
【0015】
上記鉄筋コンクリート構造物の接合構造において大地震時には主筋に設けた断面縮小部分が優先的に降伏し局所的に変形するが、このとき、鉄筋コンクリート部材の変形角が小さくなるように断面縮小部分の長さを決定し、建物変形角を小さくすることで、コンクリートのひび割れや圧壊等の破損を軽減し、エネルギー吸収能力が大きく制振効果の高い鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄筋コンクリート構造物において鉄筋コンクリート部材と固定部とを主筋により連結し接合する場合、特別な添え筋や接合部筋の必要がないので、部材幅が増えずに、大地震時に鉄筋コンクリート部材と固定部との境界以外の部分における破損を軽減でき、かつ、断面縮小部分の周囲にせん断補強筋を設置することでたとえば梁自体の曲げ耐力の低下を防止できる接合構造、および、大地震時の鉄筋コンクリート部材の変形角が小さくなるように断面縮小部分の長さを決定し建物変形角を小さくすることで、コンクリートのひび割れや圧壊等の破損を軽減し、エネルギー吸収能力が大きく制振効果の高い鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態による鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造に使用可能な鉄筋を示す要部側面図(a)およびB-B線方向に切断して見た図(b)である。
【
図2】本実施形態による接合構造の第1例を示す要部断面図である。
【
図3】本実施形態による接合構造の第2例を示す要部断面図である。
【
図4】従来の一般工法による接合構造の構成を示す要部断面図である。
【
図5】本実施形態による接合構造の構成例を示す要部断面図である。
【
図6】
図5の鉄筋の断面縮小部分における降伏時の境界近傍を示す部分断面図である。
【
図7】
図6の断面縮小部分における降伏後の境界近傍を示す部分断面図である。
【
図8】地震時に
図4,
図5の接合構造に作用した繰り返し荷重により部材が変形したときの建物変形角と地震力との関係を概略的に示すグラフである。
【
図9】本実施形態による接合構造を、段差面による作用効果の説明のために示す
図3と同様の要部断面図である。
【
図10】従来技術(特許文献1)における主筋に添え筋を配置する接合部(a)および接合部筋を配置する接合部(b)を示す図である。
【
図11】従来技術(特許文献2)における固定構造を示す図である。
【
図12】本実施形態による柱梁の接合構造を示す要部断面図である。
【
図13】
図12の梁断面を示す図(a)、および比較のために
図10(a)(b)の従来技術による梁断面を示す図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造に使用可能な鉄筋を示す要部側面図(a)およびB-B線方向に切断して見た図(b)である。
【0019】
図1(a)(b)のように、鉄筋10は、鉄筋左端部11と鉄筋右端部12との間に鉄筋の長手方向Lに一定長さで断面が縮小した断面縮小部分13を有する。断面縮小部分13は、鉄筋左端部11および鉄筋右端部12の断面よりも小さく、このため、鉄筋10に対し長手方向Lに地震時に過剰な引き抜き力が加わったとき、鉄筋左端部11、鉄筋右端部12よりも優先的に降伏してしまう。
【0020】
また、
図1(a)(b)のように、鉄筋10は、鉄筋左端部11、鉄筋右端部12と断面縮小部分13との境界において鉄筋左端部11、鉄筋右端部12からほぼ直角に落ち込んで段差が形成されている。すなわち、鉄筋10は、断面縮小部分13の両端において長手方向Lに対しほぼ直角な段差面14,15を有する。段差面14は、
図1(b)のように、鉄筋左端部11の外周円を外周とし、断面縮小部分13の外周円を内周とするドーナッツ形状になっている。段差面15も同様になっている。
【0021】
なお、鉄筋10の断面縮小部分13および段差面14,15は、規格品の鉄筋を利用して所望の範囲だけ削り出す方法や、鉄筋製造工程において断面縮小部分を製造する工程を設ける方法等によって形成可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0022】
次に、
図1の鉄筋を用いた本実施形態による鉄筋コンクリート構造物における鉄筋コンクリート部材と固定部との接合構造について
図2,
図3を参照して説明する。
図2は、本実施形態による接合構造の第1例を示す要部断面図である。
図3は、同じく本実施形態による接合構造の第2例を示す要部断面図である。
【0023】
本実施形態による接合構造は、鉄筋コンクリート構造物において、コンクリートからなる固定部に鉄筋コンクリート部材を接合し固定するものである。すなわち、第1例、第2例の接合構造は、
図2、
図3のように、固定部1と鉄筋コンクリート部材2とに
図1(a)(b)の鉄筋10を主筋として配置し、固定部1と鉄筋コンクリート部材2とを連結し接合している。固定部1と鉄筋コンクリート部材2との境界Aにおいてコンクリート面同士が当接した状態で主筋10により固定部1と鉄筋コンクリート部材2とが接合されている。
【0024】
なお、
図2、
図3では、説明の便宜上、主筋を1本しか示していないが、複数本の主筋が配置される場合がある。また、鉄筋コンクリート部材2は、柱、梁または耐力壁である。
【0025】
図2の第1例の接合構造では、固定部1と鉄筋コンクリート部材2との境界Aに段差面14が位置し、鉄筋左端部11が固定部1内に位置し、断面縮小部分13、段差面15および鉄筋右端部12が鉄筋コンクリート部材2内に位置する。
【0026】
図3の第2例の接合構造では、断面縮小部分13の範囲内に固定部1と鉄筋コンクリート部材2との境界Aが位置し、断面縮小部分13の一部、段差面14および鉄筋左端部11が固定部1内に位置し、断面縮小部分13の他部、段差面15および鉄筋右端部12が鉄筋コンクリート部材2内に位置する。境界Aの両側に断面縮小部分13が存在する。
【0027】
次に、本実施形態の接合構造の作用効果について
図4〜
図8を参照して説明する。
図4は、従来の一般工法による接合構造の構成を示す要部断面図である。
図5は、本実施形態による接合構造の構成例を示す要部断面図である。
図6は、
図5の鉄筋の断面縮小部分における降伏時の境界近傍を示す部分断面図である。
図7は、
図6の断面縮小部分における降伏後の境界近傍を示す部分断面図である。
図8は、
図4,
図5の接合構造に作用した繰り返し荷重により部材が変形したときの建物変形角と地震力との関係を概略的に示すグラフである。
【0028】
図4に示すように、従来の一般的な工法による接合構造では、主筋50の断面積は固定部1と両側の鉄筋コンクリート部材2,2とにおいて同一である。これに対し、
図5の本実施形態による接合構造は、
図3の接合構造を固定部1の両端に設けた構成である。すなわち、鉄筋10は、一方の断面縮小部分13の範囲内に固定部1と鉄筋コンクリート部材2との境界Aが位置し、もう1つの断面縮小部分13の範囲内にもう1つの境界Bが位置している。なお、
図4,
図5において、たとえば、固定部1が柱で、鉄筋コンクリート部材2,2が梁である。
【0029】
図5の接続構造によれば、大地震時に主筋10が降伏したとき、その降伏は断面縮小部分13において局所的に生じ、たとえば、
図6に示すように、段差面15とその根元近傍が変形する。断面縮小部分13の降伏後は、断面縮小部分13に局所的な変形が生じる結果、
図7に示すように、柱梁の境界Aが開き、境界Aに開きgが生じる。このように、柱梁の境界Aに損傷が集中するため、境界A以外の部分においてコンクリートのひび割れや圧壊等を抑制でき、コンクリートの損傷を軽減することができる。
【0030】
図5の実施形態では、主筋10の降伏がその断面縮小部分13において生じるため、断面縮小部分13が降伏したときの鉄筋コンクリート部材2(
図5では梁)の曲げモーメントおよびせん断力に対する耐力は、
図4の従来の一般的な工法の場合と比べて小さくなる。しかし、本実施形態では、エネルギー吸収能力の減少につながるコンクリートの損傷が少ないため、
図8に示す、地震時に繰り返し荷重が加わった場合の建物変形角と地震力との履歴曲線からわかるように、従来の一般的な工法の場合の耐力Qy2と比べて、本実施形態では耐力Qy1は小さくなるが、建物変形角は従来の一般的な工法の場合よりも小さくなっており、変形能力は増大し、同等のエネルギー吸収能力を得ることができる。また、同一変形時の等価減衰定数は大きくなるため、地震時の応答が小さくなる。
【0031】
また、
図2のように断面縮小部分13の固定部1側の端部が鉄筋コンクリート部材2と固定部1との境界Aに位置することで、または、
図3のように断面縮小部分13の範囲内に境界Aが位置することで、梁等の鉄筋コンクリート部材2内において断面縮小部分13の周囲にせん断補強筋を設置することができ、たとえば梁自体の曲げ耐力の低下を防止することができる。
【0032】
また、鉄筋コンクリート構造物が
図2または
図3の接合構造を有することで、大地震時の鉄筋コンクリート部材の変形角が小さくなるように断面縮小部分13の長さを決定し建物変形角を小さくすることで、コンクリートのひび割れや圧壊等の破損を軽減し、エネルギー吸収能力が大きく制振効果が高い鉄筋コンクリート構造物を実現することができる。
【0033】
次に、本実施形態の接合構造の段差面による作用効果について
図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態による接合構造を示す
図3と同様の要部断面図である。
【0034】
図9に示すように、主筋(鉄筋)10に対し鉄筋コンクリート部材2側から引き抜き力Fが作用した場合、固定部1内において、鉄筋10の外周面のコンクリートに対する付着による付着力f1に、鉄筋左端部11と断面縮小部分13との間に長手方向に対しほぼ直角の段差面14が存在することによる段差面14における支圧抵抗力f2が加わる。このため、固定部1内における鉄筋10のコンクリートとの定着効果が増大し付着力が大きくなる。
【0035】
本実施形態では、
図1,
図5,
図9のように、断面縮小部分13を主筋10に設けているため、その分主筋10のコンクリートとの付着力が低下するのであるが、段差面14により得られる支圧抵抗力f2により上述の付着力の低下を補完することができる。したがって、
図4の従来の一般的な工法と比べて、同等の主筋の定着効果を得ることができる。
【0036】
また、
図9の破線で示すように、主筋10に引き抜き力Fと反対方向の引き抜き力F’が作用した場合、鉄筋コンクリート部材2内において、鉄筋右端部12と断面縮小部分13との間に長手方向に対しほぼ直角の段差面15が存在することによる支圧抵抗力f2’により、同様に鉄筋10のコンクリートとの定着効果が増大し付着力が大きくなり、上述の付着力の低下を補完することができる。
【0037】
また、主筋10のコンクリートとの定着効果をさらに増大させるために、断面縮小部分13の外周面全体に対し粗し処理(粗面処理)をするようにしてもよい。粗し処理は、鉄筋10の切削加工面に凸凹を付ける処理であればよく、機械加工による小溝加工やサンドブラスト処理やショットブラスト処理などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
次に、本実施形態による鉄筋コンクリート部材幅が増えないという作用効果について
図12,
図13を参照して説明する。
図12は、本実施形態による柱梁の接合構造を示す要部断面図である。
図13は、
図12の梁断面を示す図(a)、および比較のために
図10(a)(b)の従来技術による梁断面を示す図(b)である。
【0039】
本実施形態による柱1’と梁2’との接合構造は、
図12,
図13(a)のように、梁2’,2’の上端および下端にそれぞれ複数の鉄筋10が梁主筋として配置され、
図5と同様に、
図3の接合構造を柱1’の両端に設けた構成である。
【0040】
一方、
図13(b)のように、
図10(a)(b)の従来技術による構成を有する梁50では上端および下端にそれぞれ複数の鉄筋51が梁主筋として配置されるとともに、各梁主筋51の脇に添え筋(または接合部筋)52を配置する必要がある。これに対し、
図12,
図13(a)の本実施形態では、
図10(a)(b)の従来技術のように梁主筋の脇に添え筋などを配置する必要がないため、工期短縮や材料コストの低減を図ることができる。また、梁幅が増えないので、設計の自由度も高くなる。
【0041】
なお、
図5〜
図9,
図12では、
図3の接合構造を有する構成を例として説明したが、
図2の接合構造を有する構成の場合も同様の作用効果を奏する。
【0042】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、鉄筋コンクリート構造物において鉄筋コンクリート部材と固定部とを主筋により連結し接合する場合、添え筋や接合部筋の必要がないので、梁などの部材幅が増えずに設計の自由度が高くなり、また、工期短縮や材料コストの低減を図ることができる。また、大地震時において、鉄筋コンクリート部材と固定部との境界以外の部分における破損を軽減することができるので、損傷を最小限にとどめることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 固定部
2 鉄筋コンクリート部材
10 鉄筋、主筋
11 鉄筋左端部
12 鉄筋右端部
13 断面縮小部分
14,15 段差面
A,B 境界
f2 支圧抵抗力
g 開き
L 梁長手方向