【0044】
本発明のマーカーの分析方法は、被験対象に由来する生体由来試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)と、APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:
APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:
APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:
APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:
APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:
APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42); 及び
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:
OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程と、
被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量よりも多いと判断する評価工程と、
を含む。これにより、脳内のAβ蓄積状態を判断する、あるいは判断の補助とすることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が被験者である場合は重量基準、液体である場合は体積基準で示されている。
【0051】
[実験例1]
(1)臨床サンプルを用いた、本発明マーカーによるアルツハイマー病診断の性能評価
国立長寿医療研究センターにて、NC−、NC+、MCI、ADのグループに分類された症例の血漿サンプルを用意した。
【0052】
NC−: 脳内のAβの蓄積が陰性で、かつ、認知機能障害は現れていない者
NC+:脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害は現れていない者
MCI:脳内のAβの蓄積が陽性で、軽度認知機能障害が現れている者
AD: 脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害が現れている者
PiB+:NC+とMCIとADのグループを合わせたグループ
認知機能障害の有無に関わらず、脳内のAβが陽性と判定された者
【0053】
脳内のAβの蓄積についての陽性と陰性を判断するために、被験者の脳のPiB-PET画像を取得した。大脳皮質のPiB集積量が、非特異的な白質のPiB集積量よりも多い、もしくは同等であった被験者は陽性と判定した。白質への非特異的な集積のみで、皮質にはほとんど集積しない被験者は陰性と判定した。認知機能障害は2011年に発表されたNIA-AA診断基準に準拠して判断した。
【0054】
各グループの特徴と症例数を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
アルツハイマー病の早期診断への応用を考えた場合、NC−グループと比較して、認知機能障害は現れてないけれども脳内のAβ蓄積が陽性であると判断されたNC+グループから測定レベル変動が見られる血中マーカーが診断に有効であると考えられる。つまり、脳内のAβ蓄積の陽性と陰性を判別できる診断性能を有する血中マーカーを見つけることが重要になる。この観点から、マーカー解析に関してはNC−グループに比べて、他のグループとの間で測定レベル差があるかどうかを評価基準とした。
【0057】
(2)抗体固定化ビーズの作製
Aβの第3−8残基をエピトープとする抗Aβ抗体(6E10: Covance)250μgを Ficin アガロースビーズ (Thermo) 1250 μL(33%スラリー)により消化、Aβの第18−22残基をエピトープとする抗Aβ抗体 (4G8: Covance)100 μgをリシルエンドペプチダーゼ (LysC) 500 ngにより消化し、それぞれの消化物をサイズ排除クロマトグラフィーで分離・分取した。分画したサンプルを還元および非還元 SDS-PAGE で確認し、F(ab')
2 に相当するフラクションをプールした。この 6E10 と 4G8 の F(ab')
2 画分をそれぞれ30mMの濃度の cysteamine で還元することにより F(ab') が得られた。次に、アミノ磁気ビーズ (Dynabeads M-270 Amine: Invitrogen) 5 μL(ビーズ量150 μg)を用意し、その表面に結合しているアミノ基に SM(PEG)
24 の NHS基を室温で30分間反応させることで、PEGとビーズを共有結合させた。磁気ビーズに結合された SM(PEG)
24 に、6E10 F(ab')と 4G8 F(ab')を 0.25 μgずつ同時に加えたものを室温で2時間反応させてマレイミド基とチオール基を共有結合させた。最後に、0.4 mM L-システインを室温で30分間反応させることで、マレイミド基のブロッキングを行った。作製された抗体固定化ビーズは使用するまで4℃で保存した。
【0058】
(3)内部標準ペプチドの準備
内部標準ペプチドとして AnaSpec (San Jose, CA, USA)の安定同位体標識されたAβ1-38(SIL-Aβ1-38と呼ぶ)を使用した。SIL-Aβ1-38 は Pheと Ileの炭素原子が
13Cで置換されている。SIL-Aβ1-38の乾燥品を50 mM NaOHで溶解した後に、COSMOSIL(R) 5Diol-120-II [7.5 mm I.D. x 600mm] column (Nacalai Tesque, Kyoto) を設置した Prominence HPLC System (Shimadzu Corp, Kyoto, Japan)でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。移動相:40 mM Tris-HCl, pH8.0、流速:1 mL/min、カラム温度:25 ℃、検出波長:214/280 nmの設定で行った。分取したフラクションの一部は非還元状態で15-20% Tricine-SDS-PAGEへ供し、Silver Staining kit (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)でバンドを染色した。単量体と確認されたフラクションを 1 mg/mL bovine serum albuminを含む40 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH8.0 で希釈した後、分注して -80 ℃で保存した。一部を取り出し、Human Amyloid β (1-38) (FL) Assay Kit (Immuno-Biological Laboratories; Gunma, Japan)を用いてSIL-Aβ1-38の濃度を測定した。
【0059】
(4)血漿中Aβ及びAβ様ペプチドの測定
全62症例に対して、抗体固定化ビーズを用いて内部標準ペプチドとしてSIL-Aβ1-38を用いて、IP-MSを行った。
【0060】
免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿 250 μLに、10 pM SIL-Aβ1-38を含む結合バッファー (0.2%(w/v) n-Dodecyl-β-D-maltoside (DDM), 0.2%(w/v) n-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM), 800mM GlcNAc, 100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4) 250 μLを混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物は Ultrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filter devicesを用いて遠心除去した。Protein G Plus Agarose (50% slurry; Pierce, Rockford, IL) 500 μLをH
2O 400 μLで1回洗浄後、洗浄バッファー(0.1%(w/v) DDM, 0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl, pH7.4) 400 μLで3回洗浄した。そのProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションさせた。血漿サンプルからProtein G Plus Agaroseを取り除いた後、OTG-glycineバッファー(1% n-Octyl-β-D-thioglucoside (OTG), 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、洗浄バッファー100 μLで3回洗浄された抗体固定化ビーズ 150 μgに血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションすることによりAβ及びAβ様ペプチドを捕捉した。その後、洗浄バッファー500 μLで1回洗浄、100 μLで4回洗浄後、50 mM 酢酸アンモニウム20 μLで2回洗浄した。さらにH
2O 20 μLで1回洗浄した後、5 mM 塩酸を含む70% アセトニトリル 2.5 μLで抗体固定化ビーズに捕捉されたAβ及び
Aβ様ペプチドを溶出させた。溶出液を0.5 μLずつμFocus MALDI plate
TM 900 μm上の4 wellへ滴下した。0.5 μLのマトリックス溶液(0.5 mg/mL CHCA, 0.2%(w/v) MDPNA)を混合した後、Linear TOF MSで測定した。
【0061】
血漿中Aβ及びAβ様ペプチドの測定値はLinear TOFで測定された4wellから得られる内部標準ペプチド(SIL-Aβ1-38)に対する各Aβ及びAβ様ペプチドのピーク強度比を平均化した値を用いた。MSピーク強度のシグナル変動を補正するために次のような基準を設けた。1回の免疫沈降からは4つのマススペクトルが取得され、結果的に1つのペプチドに対して4つのピーク強度比が得られる。あるペプチドにおける4つのピーク強度比の中央値の0.7〜1.3倍の間から外れたピーク強度比は外れ値とみなして、平均化のデータ処理には用いないことにした。あるペプチドの平均化に用いるピーク強度比のデータ数は最大4つであるが、検出限界に達しなかった場合(S/N < 3)や、外れ値が出た場合はデータ数が減る。もし、平均化に用いるピーク強度比のデータ数が3つ未満であった場合、その時の免疫沈降において、そのピークの強度比は検出不可(N/D)であると定義した。
【0062】
図2は、APP672-713 (Aβ1-42)について、各グループにおける内部標準SIL-Aβ1-38に対するAPP672-713 (Aβ1-42)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図3(A)、
図3(B)、
図4(C)、及び
図4(D)は、それぞれ、APP672-713 (Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0063】
箱ひげ図において、各グループにおいて、箱で示された範囲は、全検体のうち濃度順位が25〜75%に当たるサンプルの強度比分布範囲(四分位範囲)を表し、箱の上下に示す横線は、箱の上端及び下端から四分位範囲の1.5倍までの範囲内にあるサンプルのそれぞれ最大値及び最小値を表し、箱中の横棒は強度比の中央値を表す。
【0064】
NC−グループに比べて、他のグループとの間で統計的な有意差があるかどうかをDunnett's testを用いて検定し、P < 0.05を示した場合、有意な差があるとした。検出限界以下=0と設定した。その結果、60%以上の症例において検出されたAβ及びAβ様ペプチドは9種類あり、そのうち、APP672-713(Aβ1-42)において、NC−と比べてNC+、MCI、およびADで統計的な有意差があった(
図2)。APP672-713(Aβ1-42)の診断性能を評価するために、NC−グループに対するNC+、MCI、AD、およびPiB+グループのROC曲線を作成した。ROC曲線以下の面積(AUC)は、NC− vs NC+=0.789、NC− vs MCI=0.746、NC− vs AD=0.864、NC− vs PiB+=0. 808であり、比較的高い値を示した(
図3(A)、
図3(B)、
図4(C)、及び
図4(D))。
【0065】
図2に示すように、APP672-713(Aβ1-42)については、強度比 APP672-713(Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38は、NC−と比べてNC+、MCI、およびADで統計的な有意差をもって減少が見られた。
図3(A)、
図3(B)、
図4(C)、及び
図4(D)に示すように、AUCは、NC− vs NC+=0.789、NC− vs MCI=0.746、NC− vs AD=0.864であることから、APP672-713(Aβ1-42)は、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力が比較的高いことが示された。また、NC− vs PiB+=0.808であることから、脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が比較的高いことも示された。このことから、APP672-713(Aβ1-42)は脳内のAβの蓄積状態を推測できる血中マーカーであることを示唆しており、そのことによりアルツハイマー病診断の補助として利用できる可能性がある。
【0066】
(5)より詳細な解析
NC−と比較して各グループ(NC+、MCI、AD)との間のより明確な差を見るために、さらに以下の検討を行った。
【0067】
図5は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-709 (Aβ1-38)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図6(A)、
図6(B)、
図7(C)、及び
図7(D)は、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0068】
図8は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP674-711 (Aβ3-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図9(A)、
図9(B)、
図10(C)、及び
図10(D)は、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0069】
図11は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-710 (Aβ1-39)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図12(A)、
図12(B)、
図13(C)、及び
図13(D)は、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0070】
図14は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-711 (Aβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図15(A)、
図15(B)、
図16(C)、及び
図16(D)は、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0071】
図17は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するOxAPP672-711 (OxAβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図18(A)、
図18(B)、
図19(C)、及び
図19(D)は、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0072】
図20は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP669-711の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図21(A)、
図21(B)、
図22(C)、及び
図22(D)は、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。
【0073】
60%以上の症例において検出された9種類のAβ及びAβ様ペプチドの中で、APP672-713 (Aβ1-42)以外の8種類のピーク強度をAPP672-713 (Aβ1-42)のピーク強度でそれぞれ割った値(比率)を比較解析した。その結果、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)において、NC−と比較して、NC+、MCI、及びADは統計学的有意に増加していることが示された(
図5、8、11、14、17、及び20)。特に、APP669-711/APP672-713(Aβ1-42)はアルツハイマー病の進行に伴って上昇する傾向が強いことが示された(
図20)。
【0074】
APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)の診断性能を評価するために、NC−グループに対するNC+、MCI、AD、およびPiB+グループのROC曲線を作成した。その結果、これら6種類の比率の全てにおいて、高いAUCを示しており、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力、及び脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が高いことが示された[
図6(A)、
図6(B)、
図7(C)、及び
図7(D);
図9(A)、
図9(B)、
図10(C)、及び
図10(D);
図12(A)、
図12(B)、
図13(C)、及び
図13(D);
図15(A)、
図15(B)、
図16(C)、及び
図16(D);
図18(A)、
図18(B)、
図19(C)、及び
図19(D);
図21(A)、
図21(B)、
図22(C)、及び
図22(D)]。
【0075】
図21(A)、
図21(B)、
図22(C)、及び
図22(D)から、これらの中でも特に、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)のROC曲線において、NC−グループに対するNC+、MCI、ADのAUCは0.930以上であったことから、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力が非常に高いことが示された。また、NC− vs PiB+=0.969であることから、脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が非常に高いことも示された。このことから、これら6種類の比率は脳内のAβの蓄積状態を推測できる血中マーカーであることを示唆しており、そのことによりアルツハイマー病診断の補助として利用できる可能性がある。
【0076】
次に、NC−と比較して、NC+、MCI、ADは統計学的有意に増加していることが示されたAPP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、カットオフ値(Cut-off point)を設定することによるアルツハイマー病の判別評価を行った。
図6、7、9、10、12、13、15、16、18、19、21、及び22におけるそれぞれのROC曲線で、sensitivity
- (1
- specificity)が最も高い値を示した各ペプチド/APP672-713 (Aβ1-42)をカットオフ値に設定した。設定したカットオフ値と、その場合のSpecificityと、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のSensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、Accuracyを表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4において、
Cut-off point: カットオフ値
Positive Predictive Value(PPV)=(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陽性の数)
Negative Predictive Value(NPV)=(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陰性の数)
Accuracy=(真陽性の数+真陰性の数)/全症例数
【0079】
APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)がSpecificityと、Sensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、Accuracyの全てにおいて非常に高い数値を示しており、NC−と、NC+、MCI、AD、及びPiB+を判別できる能力が非常に高いことを示しており、特に脳内のAβ蓄積の陽性判断に有効であることを示していた。また、NC−と、NC+、MCI、及びADを判別できる能力が非常に高いことから、アルツハイマー病診断の補助として活用できることも示している。その他の5種類の比率に関しても、Specificityと、Sensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、又はAccuracyにおいて高い値を示しているため、NC−と、NC+、MCI、AD、及びPiB+を判別できる能力が高いことを示しており、特に脳内のAβ蓄積の陽性判断に有効である可能性を示していた。また、NC−と、NC+、MCI、及びADを判別できる能力が高いことから、アルツハイマー病診断の補助として活用できる可能性も示している。
【0080】
(6)PiB測定値との相関解析
脳内のAβ蓄積はアルツハイマー病の重要な病理学的指標であり、認知症が顕在化するかなり前からAβの過剰蓄積は開始していることが知られている。PiBはAβ凝集体に特異的に結合する放射性薬剤であり、その集積をPETで測定することにより脳内のAβの蓄積を画像化することができる。高い精度で脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を判断できる能力を示した血漿中APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)が脳内Aβ蓄積状態を反映しているかどうかを調べるために、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)と脳皮質領域のPiB集積平均値(mcSUVR:mean cortical Standard Uptake Value Ratio)との相関を解析した。
【0081】
図23は、全62症例において、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAPP669-711/APP672-713(Aβ1-42)比率、を示す散布図である。
【0082】
PiB集積平均値は皮質のPiB集積を定量し、小脳を基準に大脳の集積比を求めた。IP-MSにより得られたAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)比率と、PETにより得られたPiB集積平均値(mcSUVR)の相関をPearson product-moment correlation coefficientにより評価した。その結果、相関係数(r)は0.687、p<0.001であった(
図23)。
【0083】
APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)比率とPiB集積平均値(mcSUVR)は有意に強い相関があることが示された。このことは、血漿中のAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)比率は脳内のAβ蓄積状態を反映していることを意味しており、脳内Aβ蓄積状態を判断する血中マーカーとして利用できる可能性を示している。
【0084】
以上例証した結果は、本発明のマーカーは、脳内Aβ蓄積状態を判断する血中マーカーとして有用であることを示している。また、そのことによりアルツハイマー病診断の補助ならびに発症前診断に活用することができることが示された。