(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フェキソフェナジン[4−[1−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシ−ジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]ブチル]−α,α−ジメチル−ベンゼン酢酸]は、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有することが知られており、他にも各種ケミカルメディエーター遊離抑制作用、炎症性サイトカイン遊離抑制作用、及び好酸球遊走抑制作用を有することから、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、並びに、湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患に伴うそう痒など、各種アレルギー性疾患の治療剤として、その塩酸塩を含有する製剤が既に実用化されている。しかしながら、フェキソフェナジン塩酸塩は、光に不安定な物質であることが知られており、その製造や流通の段階で光によって分解し得る懸念から、フェキソフェナジン塩酸塩を含有する安定な内服用組成物を得るのに、様々な製剤的工夫や包装の工夫が必要とされている。
【0003】
従来より、ポリエチレングリコールを代表とする可塑剤により固体分散体をフィルムコーティングすることにより、主薬のもつ不快な味や臭気の遮蔽、光や湿気に対する安定性向上を目的とした技術(特許文献1)が提案されている。一方、ポリエチレングリコールはフェキソフェナジンの熱及び光の安定性に対しては悪影響を及ぼし得ることが知られており、フェキソフェナジン塩酸塩の一般的製剤の安定化を確保するために、ポリエチレングリコールを含有せずに、メチルセルロース等をフィルムコーティング組成物として用いてコーティングを施すことによって、光安定性等の保存安定性を改善する方法(特許文献2)等が提唱されている。
【0004】
しかしながら、上記の添加剤等による工夫だけでは、なお光安定性に対して不十分あると考えられ、実際市販されているフェキソフェナジン固形製剤は、光安定性を更に向上させるために、フィルムでコーティングするだけでなく、PTP(press through package)包装するなどして、その光安定性を補完するのが実情であり、遮光のためのコーティング及び包装工程設備に要する製造コスト、並びに製造時間等の点でも問題があった。このようなことから、従来の安定化を高める技術だけでは、必ずしも十分ではなく、更なる有用な低コスト、並びに製造時間を短縮できる安定化技術の開発が望まれている。
一方、フェキソフェナジン塩酸塩の光安定化に対して、糖アルコール又は糖類、及びテルペノイド化合物が如何なる作用を及ぼすかについては一切分かっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、光安定性が懸念されるフェキソフェナジン塩酸塩について、簡便な方法により光安定性が改善されたフェキソフェナジン塩酸塩を含有する製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、フェキソフェナジン塩酸塩に、糖アルコール又は糖類と、テルペノイド化合物を組み合わせて配合することで、フェキソフェナジン塩酸塩の光安定性が大きく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、本発明においては、糖アルコール又は糖類を単独で、あるいはテルペノイド化合物を単独でフェキソフェナジン塩酸塩に配合した固形剤の場合は、下記の実施例で示すように、フェキソフェナジン塩酸塩の光安定性を低下させる傾向にあったにもかかわらず、両者を組み合わせてフェキソフェナジン塩酸塩に配合することでフェキソフェナジン塩酸塩の光安定性が予想外に大きく改善されることを見出したことに基づく発明である。
【0008】
具体的には本発明は、以下の医薬組成物等を提供するものである。
[項1](A)フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物を含有する医薬組成物。
【0009】
[項2](B)糖アルコールが、マンニトール、ソルビトール及びキシリトールからなる群より選択される少なくとも1種である項1に記載の医薬組成物。
【0010】
[項3](B)糖類が、二糖類である項1又は2記載の医薬組成物。
【0011】
[項4](B)二糖類が、乳糖である項3記載の医薬組成物。
【0012】
[項5](C)テルペノイド化合物が、dl−メントール、l−メントール、dl−カンフル及びd−カンフルからなる群より選択される少なくとも1種である項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
[項6](A)フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩が、フェキソフェナジン塩酸塩である項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
[項7](B)成分と(C)成分が、(C)成分1重量部に対して、(B)成分0.3〜1000重量部である項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【0015】
[項8](A)成分と(C)成分が、(A)成分1重量部に対して、(C)成分0.01〜1.4重量部である項1〜7に記載の医薬組成物。
【0016】
[項9](B)糖アルコール及び/又は糖類が糖アルコールである項1、2、5〜8のいずれかに記載の医薬組成物。
【0017】
[項10](B)糖アルコール及び/又は糖類が糖類である項1、3〜8のいずれかに記載の医薬組成物。
【0018】
[項11]医薬組成物が、固形製剤である項1〜10のいずれかに記載の医薬組成物。
【0019】
[項12]剤形が錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、細粒剤、丸剤、口腔用錠剤、フィルム剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、口腔用半固形剤、製菓剤、又は液剤のいずれかの内服剤である、項1〜10のいずれかに記載の医薬組成物。
【0020】
[項13](B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物を含有する、フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩の安定性改善剤。
【0021】
[項14]
(A)フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩と、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物とを組み合わせることを特徴とする、フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩の安定化方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の医薬組成物は、(A)フェキソフェナジン塩酸塩と、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物とを含有し、光に対して不安定なフェキソフェナジン塩酸塩を含有する組成物であっても優れた安定性を有する。これにより、従来のフェキソフェナジン内服固形製剤のような糖衣やフィルムコーティングなどのコーティングが不要となり得る製剤の小型化等が期待される。更には、コーティングの工程が不要となれば、そのための設備も不要となり、製造コスト並びに製造時間を著しく短縮することも可能である。また、PTP包装等による遮光が不要となり、透明度の高い容器での保存の可能性も示唆される。
この他、糖アルコール、及び/又は糖類、及び清涼化効果が期待できるテルペノイドの配合により、服用性を損なう可能性も無く、嚥下し易い製剤の提供に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で用いられる「フェキソフェナジン」とは、化学名:4−[1−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシ−ジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]ブチル]−α,α−ジメチル−ベンゼン酢酸で表される化合物であり、その塩酸塩を含有する製剤はアレルギー性疾患治療剤として既に錠剤、口腔内崩壊錠(OD錠)として上市されている。
フェキソフェナジンの医薬的に許容される塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸の塩;酢酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、グルタミン酸塩等の有機酸の塩等が挙げられ、好ましくは塩酸塩である。
【0025】
本発明で用いられる「糖アルコール」とは、医薬的に許容される糖アルコールを意味し、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、グリセリン、スクロースなどが挙げられ、好ましくはマンニトール、ソルビトール、キシリトールが挙げられ、特に好ましくはマンニトールである。本発明においては上記の糖アルコールを2種類以上含んでいてもよい。なお、これらの糖アルコールは立体異性体が存在し得るので、それらの異性体もここでの「糖アルコール」に含まれ、またその混合物も含まれる。また、上記フェキソフェナジンと塩を形成する酸および以下で説明するフェキソフェナジンに添加する各成分において立体異性体が存在する場合も、同様に各異性体およびその混合物は本発明に含まれる。
【0026】
本発明で用いられる「糖類」とは、医薬的に許容される糖類を意味し、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースなどの単糖類、乳糖、トレハロースなどの二糖類などが挙げられ、好ましくは二糖類、より好ましくは乳糖である。本発明においては上記の糖類を2種類以上含んでいてもよい。
【0027】
本発明で用いられる「テルペノイド化合物」とは、医薬的に許容されるテルペノイド化合物を意味し、例えば、dl−メントール、l−メントール、dl−カンフル、d−カンフル、d−ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリルなどが挙げられ、好ましくはdl−メントール、l−メントール、dl−カンフル、d−カンフルであり、より好ましくはdl−メントール、l−メントールである。本発明においては上記のテルペノイド化合物を2種類以上含んでいてもよい。
【0028】
また、本発明におけるテルペノイド化合物として、上記テルペノイド化合物を含有する精油や香料を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらの精油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。上記テルペノイド化合物と組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明で用いられるフェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩、糖アルコール、糖類、テルペノイド化合物はいずれも、市販品にて入手するか、公知の方法に従って製造することができる。
【0030】
本発明において、(B)成分と(C)成分の重量比は特に制限されないが、通常(C)成分1重量部に対して、0.3〜1000重量部、の範囲であり、好ましくは1〜400重量部、より好ましくは5〜80重量部であり、更により好ましくは6〜70重量部である。
あるいは、上記の重量比を制限するものではないが、本発明の医薬組成物の剤形が内服剤の場合は、(A)成分が1重量部に対して、(B)成分は通常0.1〜50重量部、好ましくは0.8〜20重量部、より好ましくは2.5〜5.5重量部、更により好ましくは2.5〜4.5重量部であり、(C)成分は通常、0.01〜1.4重量部の範囲であり、好ましくは0.02〜1.2重量部、より好ましくは0.06〜0.55重量部、更により好ましくは0.06〜0.45重量部である。
【0031】
本発明の医薬組成物は、本発明の効果が十分に奏される限りにおいて、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分以外に、必要に応じてさらなる種々の成分(薬理活性成分や生理活性成分)を含み得るか、又はそれらと組み合わせて使用され得る。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、医薬品製造販売指針別冊一般用医薬品製造販売承認基準2012(一般社団法人レギュラトリーサイエンス学会監修)に記載された各種医薬における有効成分、例えば、抗ヒスタミン成分、抗アレルギー成分、副交感神経遮断成分、交感神経興奮成分、消炎酵素類、抗プラスミン成分、解熱鎮痛薬成分、鎮咳薬成分、去痰薬、粘膜保護成分、キサンチン誘導体、生薬、ビタミン類などが例示できる。具体的には、次のような成分、およびその可能な医薬的に許容される塩が挙げられるが、これらの成分に限定されるものではない。なお、これらの成分の配合量は製剤の種類、活性成分の種類などに応じて適宜選択される。
【0032】
抗ヒスタミン成分又は抗アレルギー成分:イソチペンジル、イプロヘプチン、ジフェテロール、ジフェニルピラリン、ジフェンヒドラミン、トリプロリジン、トリペレナミン、トンジルアミン、プロメタジン、メトジラジン、カルビノキサミン、アリメマジン、クロルフェニラミン、メキタジン、ロラタジン、エメダスチン、レボカバスチン、エピナスチン、アゼラスチン、ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、アンレキサノクス、トラニラスト、ペミロラストカリウム、オロパタジン、オキサトミド、エバスチン、セチリジン、レボセチリジン、ベポタスチン等。
【0033】
副交感神経遮断成分:アトロピン、スコポラミン、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、ダツラエキス、ロートエキス等。
【0034】
交感神経興奮成分:メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、エフェドリン、エチレフリン、メトキサミン、ミドドリン、メトキシフェナミン等。
【0035】
消炎酵素類:リゾチーム、セラペプターゼ、ブロメライン、プロナーゼ等。
【0037】
解熱鎮痛薬成分:アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、サリチル酸、ラクチルフェネチジン、イブプロフェン、ケトプロフェン、チアラミド、アルミノプロフェン、ロキソプロフェン等。
【0038】
鎮咳薬成分:アクロラミド、クロペラスチン、ペントキシベリン(カルベタペンタン)、チペピジン、ジブナート、デキストロメトルファン、コデイン、ジヒドロコデイン、ノスカピン等。
【0039】
去痰薬:グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン等。
【0040】
粘膜保護成分:アミノ酢酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩などのアルミニウム系粘膜保護剤、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ヒドロタルサイト、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物などのマグネシウム系粘膜保護剤等。
【0041】
キサンチン誘導体:カフェイン、テオフィリン、アミノフィリン、テオブロミン、ジプロフェイリン、プロキシフィリン、ペントキシフィリン等。
【0042】
生薬、及び生薬由来成分:ショウキョウ、カンゾウ、ニンジン、マオウ、ケイヒ、ケイガイ、サイシン、シンイ、ナンテンジツ、オウヒ、ビャクシ、ゼンコ、キキョウ、シャゼンシ、ゴオウ、ガジュツ、ビャクジュツ、ソウジュツ、ゲンチアナ、ウイキョウ、オンジ、オウバク、オウレン、チクセツニンジン、チンピ、チョウジ、セネガ、シャゼンソウ、シャジン、グリチルリチン酸等。
【0043】
ビタミン類:ビタミンB類(例えば、チアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチドなど)、ビタミンC類(例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、又はその誘導体など)、その他のビタミン類(例えば、ヘスペリジンなど)等。
【0044】
これらの成分は、フリー体であっても、塩であってもよい。
【0045】
中でも好ましくは、例えば鼻炎用内服剤の場合、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン、フェニレフリン、リゾチーム、グリチルリチン酸、カフェイン及びそれらの塩から選択される少なくとも1種以上を好適に用いることができる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、フェキソフェナジンの薬効に適用され得る種々の剤形が選択され得る。例えば内服剤としては、錠剤[口腔内崩壊錠、チュアブル錠(咀嚼可能錠)、発泡錠、分散錠、溶解錠、フィルムコーティング錠、素錠及び糖衣錠等を含む]、カプセル剤[硬カプセル剤及び軟カプセル剤等を含む]、顆粒剤[発泡顆粒剤を含む]、散剤、粉末剤、細粒剤、丸剤、口腔用錠剤[トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠及びガム剤等を含む]、フィルム剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、口腔用半固形剤、製菓剤[キャンディー(飴)、グミ剤及びヌガー剤等を含む]などの固形剤が挙げられ、他にも液剤[エリキシル剤、懸濁剤、乳剤及びリモナーデ剤等を含む]、シロップ剤[シロップ用剤を含む]、点眼剤、眼軟膏剤などの眼適用剤(コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む)、点鼻剤[点鼻粉末剤及び点鼻液剤等を含む]、更には外用固形剤[外用散剤を含む]、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤[テープ剤及びパップ剤等を含む]、外用液剤[リニメント剤及びローション剤等を含む]、スプレー剤[外用エアゾール剤及びポンプスプレー剤等を含む]などの外用剤などが挙げられる。
【0047】
本発明の医薬組成物においては、上記適用される製剤に合わせて、種々の製剤添加剤が含有される。例えば内服剤においては、賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、緩衝剤、持続化剤、安定(化)剤、抗酸化剤、還元剤、清涼化剤、甘味剤、矯味剤、香料、着色剤、界面活性剤、可塑剤、可溶(化)剤、懸濁(化)剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、光沢化剤、コーティング剤などが含まれ得る。
なお、これらの添加剤の含有量は、特に制限されず、任意に設定することが出来る。
【0048】
本発明でいう「安定性」、「安定化」とは、主には光に対する安定性、安定化を意味し、例えば、白色蛍光灯や太陽光などの光に対する安定性、安定化を意味する。
【0049】
本発明の医薬組成物は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有するのであれば、その配合順、調製方法等に特に限定はなく、当業者に公知の方法に従って、調製することができる。
【0050】
具体的には、本発明の医薬組成物が固形剤である場合、例えば、前記各成分、必要によりその他薬理活性成分や生理活性成分、添加剤を含む原料を、造粒(例えば、乾式造粒、押出し造粒、流動層造粒、練合造粒又は噴霧乾燥式造粒等)して顆粒剤を製造できる。顆粒剤は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する単一の顆粒でも、組成の異なる2種以上の顆粒を組み合わせても良く、(A)成分を含有する顆粒と(B)成分を含有する顆粒とを組み合わせて顆粒剤とする等してもよい。また、この顆粒を用いて、更に通常の方法により、硬カプセル剤、又は錠剤を製造できる。また、例えば、各成分を適量の基材で懸濁した後、通常の方法により、軟カプセル剤を製造することができる。ここで、前記各成分が十分に混合される方法を採用することが好ましい。
【0051】
また、本発明の医薬組成物が液剤又はゼリー剤である場合、例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、必要によりその他薬理活性成分や生理活性成分、添加剤を含む原料を適量の精製水で溶解した後、通常、pHを2.5〜9.0に調整し、次いで、残りの精製水を加えて容量調整をすることにより液剤を製造することができる。また、必要に応じて、濾過及び殺菌処理し、容器に充填することもできる。ここで、前記成分が十分に混合される方法を採用することが好ましい。なお、該液剤の容量や粘性には特に限定はなく、公知の方法に従って、希釈、濃縮等の処理がされてもよい。また、使用時に前記液剤の原料混合物を溶解して液状とする用時調製型の液剤としてもよい。
【0052】
本発明の医薬組成物を充填するための容器は、樹脂素材、ガラス素材、及び金属素材等の当該分野で一般的な容器に使用することができる素材を用いたものであればよく、これらは目的、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
本発明の医薬組成物は光安定性が高いため、透明度の高い容器を選択しうる。
【0053】
本発明の医薬組成物は、1回使い切りタイプの包装形態だけでなく、複数回にわたり投与する形態で包装され、かつ使用者が継続的に使用するマルチドーズの医薬組成物としても有用である。
本発明の医薬組成物は光安定性が高く、包装の開封により製品の遮光性が減じても、フェキソフェナジンの含有量低下を抑制することができるため、特にマルチドーズの医薬組成物として有用である。
【0054】
本発明の医薬組成物は、例えば、医薬品、医薬部外品、食品、又はこれらの原料[例えば、医薬製剤、医薬部外品製剤、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用食品、特別用途食品、機能性食品、健康補助食品(サプリメント)、食品用製剤(例、製菓錠剤)]であることができる。
【0055】
本発明の医薬組成物は、その形態に応じて特に限定なく利用することができる。例えば、内服用組成物である場合、(A)フェキソフェナジン塩酸塩、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物、或いはこれらの組み合わせの投与が望まれている任意の疾患の治療のために用いることができ、中でも、鼻炎用内服薬、及び抗アレルギー薬として有用である。具体的には、急性鼻炎、アレルギー性鼻炎又は副鼻腔炎、並びに花粉、ハウスダスト(室内塵)による次の諸症状の緩和(くしゃみ、鼻みず[鼻汁過多]、鼻づまり、なみだ目、のどの痛み、頭重[頭が重い])、じんましん、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒、鼻炎、気管支拡張などの用途に好適に用いることができる。
【0056】
本発明の医薬組成物の投与量は、その形態、投与方法、投与目的及び当該組成物の投与対象者の年齢、体重、症状によって適宜設定され、一定ではないが、例えば、鼻炎用内服剤として経口で服用する場合、通常、成人1日あたりの投与量としては、(A)成分60〜180mg程度、(B)成分25mg〜3000mg程度、(C)成分3〜80mg程度である。
本発明の医薬組成物は、通常の医薬組成物と同様の方法で投与することができ、所望の投与量範囲内において、1日あたり単回で、又は数回に分けて行ってもよく、食前、食間、食後、又は食事と同時に投与されてもよい。なお、本明細書中の用語「投与」は、「服用」を包含することを意図して用いられ、本明細書中の用語「内服」は、「経口投与」と互換的に用いられ得る。
【0057】
また本発明は、糖アルコール及び/又は糖類とテルペノイド化合物を含有することによって、フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩が安定化され、フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩の作用がより効果的に発揮されるため、糖アルコール及び/又は糖類とテルペノイド化合物を含有することを特徴とする、フェキソフェナジン塩酸塩の安定性改善剤を提供する。
【0058】
本発明の安定性改善剤は、糖アルコール及び/又は糖類とテルペノイド化合物を含有するのであれば特に限定はなく、その含有量やその他に添加配合される成分の種類、調製方法、形態等については、前記本発明の医薬組成物と同様である。
【0059】
またさらに、(A)フェキソフェナジン又はその医薬的に許容される塩を含有する医薬組成物に、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物を含有させることで、フェキソフェナジン塩酸塩の安定性が改善されることから、本発明は、糖アルコール及び/又は糖類、及びテルペノイド化合物を含有することを特徴とする、フェキソフェナジン塩酸塩を含有する医薬組成物の安定化方法を提供する。
【0060】
医薬組成物の安定化方法としては、具体的には、医薬組成物中に、(B)糖アルコール及び/又は糖類、及び(C)テルペノイド化合物と共に、(A)フェキソフェナジン塩酸塩を含有させており、前記(A)成分の周囲に(B)成分、及び(C)成分が存在するのであれば特に限定はない。
【0061】
なお、前記医薬組成物の安定化方法において、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されないが、(A)成分の分解を考慮すると(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合時間に差がないことが好ましい。また、これらの方法において、使用する(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の種類、それらの含有量、及びそれらの含有割合、その他に添加配合される成分の種類、調製方法、用途、製剤形態、投与対象等については、前記本発明の医薬組成物と同様である。
【実施例】
【0062】
フェキソフェナジン塩酸塩の各種試験サンプルについて、光安定性試験を行った。具体的には、苛酷条件下、すなわち光耐性試験装置(島津製作所製SUNTESTER XF−180CPS)に各種試験サンプルをセットし、765W/m
2の白色光(真夏日の昼12〜14時の太陽光強度に相当)で24時間照射(積算照射量6万kJ/m
2)した場合の、フェキソフェナジン塩酸塩の残存率を評価した。
【0063】
試験例1
(1)試験方法
下記の表1に記載の各成分を処方に従い混合し、透明プラスチックシャーレ(35mm×10mm Dish)に散剤として調製し、シャーレの縁をパラフィルムで覆って、試験サンプルとした。この試験サンプルを光耐性試験装置(島津製作所製SUNTESTER XF−180CPS)にセットし、765W/m
2の白色光(真夏日の昼12〜14時の太陽光強度に相当)で24時間照射(積算照射量6万kJ/m
2)し、フェキソフェナジン塩酸塩の残存率を求め、その安定性を評価した。
なお、フェキソフェナジン塩酸塩の残存率は、液体クロマトグラフィーによりフェキソフェナジン塩酸塩含有量を求め、次式により算出した。
【数1】
分析条件
検出器:紫外線吸光光度法(波長220nm)
カラム:Inertsil Ph 5μm(GL Sciences INC.)
内径4.6mm、長さ150mm、粒子径5μm
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素ナトリウム二水和物7.51g及び過塩素酸ナトリウム0.84gを水1000mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.0に調整した液650mLにアセトニトリル350mL及びトリエチルアミン3mLを加えた液
【0064】
(2)試験結果
結果を表1に示し、
図1にまとめた。
765W/m
2の白色光で24時間照射(積算照射量6万kJ/m
2)した場合において、フェキソフェナジン塩酸塩のみからなる散剤(比較例1)での残存率は92.4%と、光によるフェキソフェナジン塩酸塩の含有量の低下が7%以上見られた。一方、D−マンニトール又は乳糖をフェキソフェナジン塩酸塩に配合した散剤(比較例2および5)においては、フェキソフェナジン塩酸塩の残存率が89.7%および90.9%と比較例1の場合よりも更に安定性が低下する結果となり、D−マンニトールに代表される糖アルコールや乳糖に代表される糖類は、フェキソフェナジンを不安定化することが示唆された。また、l−メントールをフェキソフェナジン塩酸塩に配合した散剤(比較例3および4)におけるフェキソフェナジン塩酸塩の残存率も89.5〜91.6%と、その安定性は比較例1の場合と同程度又はそれ以下に低下する結果となった。
一方、フェキソフェナジン塩酸塩にD−マンニトール又は乳糖と、l−メントールを組み合わせて配合した散剤においては(実施例1〜4)、それぞれの添加剤を個別に配合した場合(比較例2〜5)と異なり、比較例1の場合よりフェキソフェナジン塩酸塩の残存率を向上させることが認められた。すなわち、全く意外なことに、フェキソフェナジンの光安定性はこれらを組み合わせて配合することによって初めて改善されるという事実が確認された。なお、(A)成分に対する(B)成分及び(C)成分の配合比率を変更しても、同様に効果が認められた(実施例5)。
【表1】
【0065】
試験例2
D−マンニトール以外の糖アルコールでも、上記試験例1と同様の効果が得られるかどうかを確認するために、糖アルコールとしてキシリトールを用いて以下の試験を行った。
(1)試験方法
下記の表2に記載の各成分を処方に従い混合し、試験例1と同様の試験を行った。なお、各試験サンプルの調製および光安定性試験は、試験例1と別途、別の日に行った。
【0066】
(2)試験結果
結果を表2にまとめた。
キシリトールをフェキソフェナジン塩酸塩に配合した散剤(比較例6)においては、フェキソフェナジン塩酸塩のみからなる散剤(コントロール)の残存率と比較し、試験例1のD−マンニトールの場合ほどではなかったが、同様に安定性の低下が確認された。
一方、フェキソフェナジン塩酸塩にキシリトールと、l−メントールを組み合わせて配合した散剤においては(実施例6)、キシリトールをフェキソフェナジン塩酸塩に配合した散剤(比較例6)と比較し、フェキソフェナジン塩酸塩の残存率が3.1%向上した。
【表2】
【0067】
以上、試験例1および2の結果より、フェキソフェナジンに、D−マンニトール、キシリトールをはじめとする糖アルコール、又は乳糖をはじめとする糖類、及びテルペノイド化合物(l−メントール)をあわせて配合させることによって、顕著なフェキソフェナジンの残存率低下抑制作用が認められ、すなわち、安定であることが確認された。
D−マンニトールや乳糖等は、錠剤などの固形製剤の形状賦与に必要な成分であるものの、フェキソフェナジン塩酸塩と組み合わせることで、光に対してより不安定化されることが示唆されたが、l−メントールなどのテルペノイド化合物とあわせて配合させることによって、安定性の改善が可能であることが明らかとなった。
【0068】
以下に製剤調製例を挙げる。
製剤例1〜13
表3記載の処方例について、公知の技術を用いて錠剤を製造する。
【0069】
製剤例14〜65
表3記載の処方例について、公知の技術を用いて、散剤(製剤例14〜26)又は顆粒剤(製剤例27〜39)を製造する。
得られた散剤又は顆粒剤を、公知の技術を用いて、硬カプセルに充填し、硬カプセル剤を製造する(製剤例40〜65)。
【0070】
【表3】