(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マスク本体が、前記開口パターンが形成された樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記開口パターンを閉塞しないように開口が形成された金属支持層とが貼着されたハイブリッドマスクである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
前記フレームが額縁状の矩形形状であり、前記マスク本体が接合される前記フレームの辺において、前記空隙は前記フレームで囲まれる内部から前記フレームの外部に向くように形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
前記マスク本体の周縁部の前記フレームへの接合が、前記マスク本体の周縁部の一部が折り曲げられることで、前記フレームの内側と反対の外周側壁に接合されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
前記蒸着マスクのフレームが額縁状の矩形形状であり、前記空隙部が前記フレームで囲まれる内部から前記フレームの外部に向くように形成されたフレームの辺が上下になるように前記被蒸着基板及び前記蒸着マスクを配置する、請求項8に記載の蒸着方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照しながら本発明の第一及び第二の実施形態の蒸着マスク及び蒸着方法が説明される。
図1A〜1Cに蒸着マスク1の平面図、B−B線断面図、及びC視図の一部がそれぞれ示されるように、本実施形態の蒸着マスク1は、開口パターン11aが形成されたマスク本体10と、マスク本体10の周縁部の少なくとも一部が接合されてマスク本体10を一定の状態に保持するフレーム15と、を有している。そして、そのフレーム15が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成されている。このCFRPからなる材料が空隙151aを内包する柱状のコア部151の少なくとも一部の対向する面に、CFRP又は金属板で形成された面板152が貼り付けられたサンドイッチ構造体150に形成されていることがさらに好ましい。
【0016】
面板152がCFRPによって形成されていれば、コア部151と線膨張係数を同じにすることができるので、温度変化に対しても破損し難くなるので好ましい。CFRPで面板152を形成する場合、ニッケルメッキなどのメッキを施すことによって、コア部151との接合をしやすいと共に、磁性をもたせることができる。なお、
図1Aに示されるマスク本体10は、開口パターン11aが形成された樹脂フィルム11に、樹脂フィルム11の開口パターン11aを閉塞しないように形成された開口12aを有する金属支持層12が貼り付けられたハイブリッドマスクになっている。しかし、そのような構成には限定されず、樹脂フィルム11だけ、又は金属薄板のみからなるメタルマスクにも適用できる。ハイブリッドマスクの場合には、金属支持層12が樹脂フィルム11と共にフレーム15に接合される。
【0017】
前述したように、従来の蒸着マスクでは、フレーム15の周辺の蒸着マスク1及び被蒸着基板2(
図2参照)の温度が上昇しやすいこと、及び大形化に伴い蒸着マスク1の重量が非常に重くなり、大形化に限界があることという問題を有している。すなわち、後述されるように、蒸着の際には、蒸着源5(
図2参照)から蒸着マスク1に向かって、蒸着材料を飛散させる。そのため、蒸着源5は非常に温度が高く、その蒸着源5に最も近いフレーム15の部分も輻射熱によって温度が上昇する。蒸着マスク1において、当然金属支持層12の部分の温度も上昇し、その熱は被蒸着基板2に伝達する。しかし、前述したように、フレーム15の部分の温度上昇が中心部の金属支持層12の温度上昇よりも大きく、さらに、重量があるため熱容量も大きい。すなわち、従来のフレームは無垢の棒材で形成されているため、一旦温度が上昇すると、熱容量が大きいことから、長い間高温が維持される。従って、被蒸着基板2への蒸着が終了して、被蒸着基板2を取り替え、別の被蒸着基板2の蒸着をする場合、その最初からフレーム15の温度は高く、その近傍の被蒸着基板2は、装着された時点から温度が上昇しやすい。そのため、被蒸着基板2は、その周縁部での熱膨張が大きく、中心部との間で位置ずれが生じやすいという問題が生じる。
【0018】
また、蒸着マスクが大形化すると、
図1Aに示される構造のフレーム15の重量も問題になる。すなわち、このフレーム15には、前述したように樹脂フィルム11と金属支持層12とからなるマスク本体10が接合されるが、このマスク本体10は、開口の形状の安定さの観点からテンションをかけてフレーム15に貼り付けられる。このテンションは、
図1に示される短冊状の樹脂フィルム11の1枚当たり、例えば10N程度あり、フレーム15の幅及び厚さは、それぞれ数十mm程度は必要である。例えば50mm×40mm角の棒材によって前述したG6Hの大きさの蒸着マスク1を形成すると、G6Hのサイズは基板の大きさであり、フレーム15はその外周に配置されることになるので、フレーム15の各辺の長さは、G6Hのサイズよりもそれぞれ50mm長くなる。フレーム15は矩形の額縁状になるので、例えば2本の長辺のフレーム15のみの長さを長くして短辺のフレームは基板サイズの寸法にすることもできるが、その場合は長辺のフレームがフレーム幅の2倍(約100mm)長くする必要があるので、結局各辺を50mm延ばすのと同じになる。
【0019】
そのため、フレーム15の全体積は、2×(1550mm+950mm)×2000mm
2=10000cm
3となる。このフレーム15の材料は前述したように、被蒸着基板2(
図2参照)の線膨張係数と近いことが好ましく、被蒸着基板2としてガラス又はそれに線膨張係数の近いポリイミドなどが用いられることから、蒸着マスク1の金属支持層12やフレーム15としてインバーが一般的に用いられる。インバーの比重は、約8であるので、その重量は、約80kgになる。G6Hよりもさらに大形化することが目的であるため、フレーム15の各辺が長くなるのみならず、そのフレーム15の幅及び厚さも大きくする必要があり、この重量よりもさらに重くなる。その結果、ロボットアームによる搬送が不可能になる。
【0020】
本発明者は、このような問題を解決するため、鋭意検討を重ねて、蒸着マスク1のフレーム15の材料として、線膨張係数が小さく、熱伝導率も小さく、強度が高く、かつ、軽量である材料を探した結果、CFRPが適していることを見出した。このCFRPは、以下にその物性が示されるように、比重が小さく大幅に軽量化し得る。さらに内部に空隙を有し、周囲の少なくとも一部に面板152が貼り付けられることによってサンドイッチ構造体150(
図1B参照)にすることで、さらに軽量にできると共に、熱伝導を抑制し得る。
【0021】
CFRPは、炭素繊維(狭義の通常の炭素繊維の他、高強度炭素繊維、高剛性炭素繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素(SiC)などを強化繊維とする各種繊維材料を含む広義の炭素繊維)とプラスチック(樹脂)とを複合化した素材であり、プラスチックで複合化することによって、炭素繊維が持つ強く、軽く、細いという素材の特徴を発揮できるようにしたものである。この強化繊維の種類を変えることによって、引張強さ、引張弾性率、曲げ強さ、曲げ弾性率の他、線膨張係数や熱伝導率の値を調整することができ、炭化ケイ素を強化繊維としたSiCFRPはその中でも線膨張係数がポリイミドと近いため、マスクフレームとして好適である。
【0022】
その特徴としては、
(a)比重が1.5〜1.7で、Alの2.698より小さく、磁性体であるインバーの8.05、Feの7.87、Niの8.9よりはるかに小さい。つまりインバーを用いた従来のフレームに対して、無垢材同士での比較で約1/4〜1/5に軽量化できる。
(b)強度が非常に高い。すなわち、700〜3300MPaであり、Alの500より大きく、Feの1000と匹敵する。
(c)剛性は、55〜550GPaであり、Alの80、Feの200と遜色ないか、それ以上にできる。
(d)また、線膨張係数は、3ppm/℃で、繊維の種類、方向を制御することで、線膨張係数を0にすることも可能である。なお、炭素繊維は、−0.4〜+1.5ppm/℃であり、樹脂は+50ppm/℃、インバーは+1.5〜+4.9ppm/℃である。
【0023】
(e)熱伝導率は、7〜800W/(m・℃)程度で繊維の種類、方向によって大きく異なるが、樹脂の0.2W/(m・℃)と比べて一桁以上大きく、インバーの13W/(m・℃)に比べても大きい材料が多い。熱伝導率が大きいということは、フレーム15の蒸着源5側で上昇した温度が被蒸着基板2の側に伝わりやすいという面はあるものの、このフレーム15の部分はマスクホルダー19によって支持されており、マスクホルダー19は、例えばステンレス鋼(熱伝導率:(16.7〜20.9)W/(m・℃)や、アルミニウム(熱伝導率:236W/(m・℃)などの熱伝導のよい材料が用いられるので、むしろ放熱効果の方が大きい。その結果、空隙151aを介して被蒸着基板2側に熱が伝わるよりも、マスクホルダー19を介して放熱する効果が大きくなる。従って、空隙151aによる重量の低下と相俟って、熱容量も小さくなっているので、蓄熱されることも解消される。
【0024】
(f)非磁性であるが、ハイブリッドマスクの場合に、マスク本体10の金属支持層12をインバーやニッケルなどの磁性体によって形成したり、高精細メタルマスクの素材をインバーなどの磁性体によって形成したりすれば磁石による吸着は可能である。また、CFRPからなるフレーム15の周囲に磁性体からなる面板152を貼り付けることによっても、磁石によって吸着することができる。
(g)耐食性、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性が高いので、蒸着マスク1の繰り返しの洗浄に対しても耐え得るという効果もある。
(h)異方性を有し、炭素繊維の方向、量、位置などによって、機械的強度が異なり、特定の方向の機械的強度を高くすることができる。すなわち、一般的には、
図6Aに示されるように、射出成形品では、金型内を溶融樹脂が流れ、樹脂171内でフィラー172の向きが一定の方向に揃い、その方向に高い機械的強度が得られる。従って、特に応力がかかる方向をこの方向にすることができる。
【0025】
CFRPは、前述したように、広義の炭素繊維を母材(マトリックス)である樹脂に混合することによって形成される。炭素繊維としては、前述したように、種々の材料が使用され得る。例えば、高強度炭素繊維(線膨張係数:(0.2〜0.4)ppm/℃)、高剛性炭素繊維(線膨張係数:−0.8ppm/℃)、炭化ケイ素(線膨張係数:2.6ppm/℃)などが、線膨張係数が小さく、被蒸着基板と近いので好ましい。また、これらのCFRPは、引張強度も150kgf/mm
2程度と大きい。樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用し得るが、蒸着マスク1のフレーム15としては、熱硬化性のポリイミド樹脂であることが好ましい。マスク本体10の樹脂フィルム11や被蒸着基板2にポリイミドフィルムが使用され得るからである。この熱硬化性ポリイミドが用いられることによって、曲げることはできず、限界を超えると脆弱破壊をする。しかし、撓みなどを生じ難いので好ましい。この材料は、そのままでは溶接することはできないが、例えば無電解メッキ、電解メッキ、スパッタリングあるいは真空蒸着などによって金属膜を形成することによって溶接し得る。さらに、異種材料とでも、ポリイミド系接着剤によって、又はボルトとナットなどの機械的結合が可能であるので、金属板などを貼り付けることもできる。さらに、耐熱温度はこの母材に制限されるが、ポリイミドであれば、耐熱温度も500℃程度まで耐え得る。また、成形でサンドイッチ構造体にする場合には、少なくとも一方の面板152をコア部151と共に一体に形成することもできる。
【0026】
このような材料を使用すれば、前述したように、比重が非常に小さいので、無垢の状態でも、重量をインバーに比べて1/4以下にすることができる。しかし、ハニカム構造のような空隙151aと薄肉部151bを有するコア部151を面板152でサンドイッチ構造にしても、機械的強度は十分に得られ、重量はさらに1/5程度に軽くすることができる。その結果、従来のインバーによる無垢材と比較して、トータルで1/20程度に重量を低減できる。この場合、コア部151は、前述したようにそのままでは溶接することができないので、ポリイミド系の接着剤によって接着されるか、その表面を金属膜で被覆することにより溶接し得る。このようなサンドイッチ構造体150にすることによって、軽量になる。このコア部151を形成するには、そのような構造の金型を形成して、炭素繊維を混合した母材を流し込むことによって形成され得る。また、無垢の材料に機械加工によって空隙151aが形成されてもよい。このコア部151と面板152との貼り付けを、後述されるように、真空雰囲気や希ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
この面板152を貼り付ける前に、コア部151の全体を例えばニッケルメッキなどのメッキが施されることによって、コア部151の材料そのものからのガスの浸み出しを防止し得るのみならず、面板152や後述されるマスク本体10とのレーザ溶接などの溶接による接合をすることもできる。また、コア部151を金型による成形で形成する場合には、その一方の面板152を一体に形成することができる。また、後述される
図3Bに示されるコルゲート構造の場合には、その上下の面板162も波板161bと一体に成形することができ、その側面に、さらに面板162を貼り付けることもできる。なお、面板152、162の一部とコア部151、161とを一体に成形する以外でも、面板152、162を、CFRPで形成することができ、ポリイミド系の接着剤によってコア部151、161に貼り付けることができる。又はCFRPからなる板状体の表面に前述した金属膜をメッキなどで形成することによって、マスク本体10やコア部151、161との溶接なども可能になる。
【0028】
上述したCFRPの材料は、引っ張り強さが150kgf/mm
2、引っ張り弾性率15000kgf/mm
2で、インバーがそれぞれ59.7kgf/mm
2、12700kgf/mm
2であるので、バルクの時点で、従来のインバーよりも強度が高い。重量は、前述したように、1/4程度で、サンドイッチ構造にすることで、1/20程度まで減じられ得る。その結果、従来よりも小形化したロボットアームで蒸着マスクを使用できるようになる。
【0029】
(蒸着マスクの構造)
具体的には、
図1Cに
図1Aの矢視Cで見た側面図が示されるように、フレーム15は貫通孔(空隙)151aが形成され、その貫通孔151aは六角形状に形成されている。この場合、この貫通孔151aの方向に、前述した炭素繊維のフィラーが配向するように射出成形されることによって、より一層座屈応力が強くなる。このような六角形状のハニカム構造に形成されていることによって、貫通孔151aの軸方向の応力のみならず、貫通孔151aの開口面と垂直方向の応力に対しても非常に強い。その理由は、例えば
図5にハニカム構造の概略図が示されるように、貫通孔151aに対して横方向の応力Pがかかった場合、六角形の各辺に応力が均等に分担される。そのため、横方向の応力Pに対しても、非常に強く、単位質量当たりの応力は、無垢の材料に対して2〜3倍の強度が得られる。逆にいえば、同じ応力を維持するのに、重量を1/4〜1/6程度に軽量化することができる。しかも材料は同じであるので、線膨張係数や引っ張り強さなどの物理的定数は変らず、また、空隙(貫通孔151a)があることによって、薄肉部151bの部分の体積が小さくなるので、熱容量も小さくなる。この貫通孔151aを後述される面板152の貼着の際に減圧にしたり、アルゴンのような希ガスを封入したりすることによって、さらに空隙部への蓄熱を少なくすることができる。
【0030】
この例では、正六角形の狭義のハニカム構造の例で説明されたが、空隙部151aの形状は、必ずしも正六角形には限定されず、横からの応力に対して多少弱くはなるが、形の崩れた六角形や、六角形以外の多角形、極端な場合円形でもよい。円形の場合は、4つの円で囲まれる領域に半径の小さい円形の孔を内接させることによって、同様に空隙151aが多く、薄肉の薄肉部151bが形成され得る。本明細書では、これらの構造も含めた広義のハニカム構造をハニカム構造という。さらに、本実施形態では、このようなハニカム構造に限らず、
図3A〜3Bに示されるコルゲート構造などでも、その向きを応力のかかる方向に貫通孔(空隙)161aの軸方向を向けることによって、同様に軽量で機械的強度の大きいフレーム15が形成される。
【0031】
図3Aに示される構造は、コア部161を波形の形状した波板161bが形成されている。その波板161bの山と谷部分の外側に面板162が一体で形成されるか、後から貼り付けることによって、サンドイッチ構造体16が形成されている。この構造では、
図3Aの左右の横方向(
図3Aのx軸方向)からの力に対しては、やや弱いが、軸方向(
図3Aのy軸方向)の応力に対しては強く、z軸方向の応力に対してもある程度強い。この場合、
図3Bに示されるように、波板161bと面板162とは堅固に接着されるか、波板161bと面板162との接合部に肉溜め部が成形の際に形成されることによって、大きな機械的強度が得られる。そのため、波板161bの波形の山及び谷の部分161b1をある程度平坦にして、接着剤163又は肉溜め部などによって接合部とすることが好ましい。
図3Aに示される例では、面板162が上下の面にしか設けられていないが、側面の周囲も面板162で被覆されることが好ましい。
【0032】
前述したハニカム構造を有するサンドイッチ構造体150のコア部151は、前述したように、金型によって、一方の面板152と共に一体成形することで形成される。
図6Bにその平面図が示されるように、この薄肉部151aの厚さdは、1mm程度の厚さに形成され、前述したように、下の面板152は、コア部151と一体に成形され得る。金型による成形で、大きいコア部151を形成し、その後で必要な幅tで切断し得る。貫通孔151aの高さh(
図1Aに示される構造によるフレーム15になったときのハニカム構造体のコア部151の高さh(
図1B参照)になる)が20mm〜50mm程度に形成される。この高さhは、射出成型によって大形のハニカム構造体を形成した後に、高さhに合せて切断されてもよい。
図6Cの上面の面板152は、例えばポリイミド系の接着剤によって貼り付けられ得る。
【0033】
この例では、
図6Bに示されるセルサイズcが5mm〜10mm程度に形成される。この状態の斜視図が
図6Cに示されている。
図6Bのコア部151の幅tと後述される面板152の厚さの2倍を加えた長さ(フレームの幅)s(
図1C参照)及び前述の高さhの四角形を断面とする柱状体が形成される。この幅s及び高さhは、それぞれ数十mm程度に形成され、長さは蒸着マスク1の大きさに応じて設定される。しかし、これは一例であって、貫通孔をフレームのどちらの向きにするかによって、これらの寸法は任意に設定され得る。
【0034】
前述の例で用いられた薄肉部151bの厚さdもこれに限定されるものではなく、必要な荷重に耐え得るような厚さに選定される。例えば大きな荷重に耐え得るようにするには、薄肉部151bの板厚dを大きくすればよい。また、この構造は、金型による成形ではなく板状体に貫通孔151aを形成することでもよい。従って、種々の構造の空隙を有するサンドイッチ構造体150を形成することができる。
【0035】
ハニカム構造を有するサンドイッチ構造体150では、面内/面外せん断荷重、面外圧縮荷重に対して強く、面外剛性が高い(座屈強度が高い)という特徴を有している。最大強度の方向に応力がかかるようにすることで、ハニカム構造のメリット(軽量、かつ、剛性が高い)を活かすことになる。なお、
図6Bに示される厚さdと
図6Bに示されるセルサイズcを用いて、d/cの値が大きいほど剛性が高くなるので、剛性を大きくしたい場合には、薄肉部151bの板厚dを大きくし、セルサイズcを小さくすることによって容易に所望の剛性を得ることができる。
【0036】
このようにして形成されたコア部151は、このままでも剛性の高い材料として利用できるが、
図1Cに示されるように、この周囲を面板152で囲ってサンドイッチ構造体150にすることによって、さらに剛性を上げることができる。面板152は、例えば3mm厚程度のインバー板が用いられる。
図1Cでは、空隙(貫通孔)151aを閉塞する面板152が内部の構造を分かりやすくするため図示されていない。この面板152は四角柱の一面ごとに貼り付けられてもよいが、前述したように、貫通孔151aに面する面板152は、コア部151と一体に形成され得るし、コア部151のみを成形して、1枚または2枚の板材で4辺を囲むように折り曲げることで貼り付けられる方があらゆる方向の剛性に対して強くなる。1枚の面板152がコア部151と一体に成形されても、さらにその上に金属板からなる面板152が貼り付けられてもよい。磁気吸着する場合に都合のよい場合がある。蒸着マスク1のフレーム15として使用する場合には、剛性の点のみならず、有機材料などが空隙151a内に侵入するのを抑制する観点からも好ましい。すなわち、蒸着の際には、有機材料が真空チャンバー内を浮遊しており、空隙151a内にも入り込みやすいからである。また、蒸着マスク1は、ある程度の数の蒸着が行われると、蒸着マスク1に付着した有機材料を除去する必要があり、定期的に蒸着マスク1の洗浄が行われる。この洗浄の際に洗浄液が空隙151aにも入り、洗浄後にも空隙151a内に残留する可能性がある。この蒸着マスク1は真空チャンバー内に設置して蒸着が行われるので、真空にした際に空隙内に洗浄液が残留していると、ガス源となり、正常な蒸着を行えない。
【0037】
従って、この空隙151aは面板152によって密閉されることが好ましい。空隙(貫通孔)151aの開口面のみならず、側面(貫通孔152と平行な側面)にも凹凸があるので、同様の理由で面板152が貼り付けられることが好ましい。この面板152は、ポリイミド系の接着剤などによって貼り付けられ得る。
図6Bに示される上下面では、コア部151の面の部分と面板152が接着し得る部分では、堅固に接続し得るが、
図6Bの左右の面及び空隙151aの開口面では、コア部151と面板152との接触面積が小さくなるので、十分な接着剤が必要になる。しかし、前述したように、面板152が各側面で別々に貼り付けられないで、1枚の金属板を折り曲げて貼り付けられることによって、応力に対しても強く、コア部151との接着強度も強くなる。その結果、前述したように、四角柱の6つの辺の全てが面板152で囲まれることが好ましい。
【0038】
このようにして形成された棒状のサンドイッチ構造体150を蒸着マスク1の長辺の縦フレーム15aと短辺の横フレーム15bの長さに合せて準備し、端部で接合することでフレーム15の枠体を製造する。この棒状のサンドイッチ構造体150の接合は、従来ボルトなどで接合されていたが、本実施形態では空隙が多く捩れなどが生じないように十分な固定が求められる。従って、額縁状の四角形の角部に添え木などを当ててサンドイッチ構造体150を貫通してボルトとナットで締め付けて組み立てるのが好ましい。角部の接合が充分に行われて捩れなども生じ難い。
【0039】
前述したように、空隙151aが面板152で閉塞されることが好ましいが、空隙151aを閉塞する際に、減圧下で面板152を貼り付けることによって、空隙151aの内部を負圧(減圧)にしておくことがより好ましい。前述したように、蒸着マスク1は真空蒸着装置内で使用されるため、空隙151a内が1気圧で封着されていると、真空チャンバー内で空隙151a内に閉じ込められたエアの漏れが生じる可能性があり、そうすると、真空チャンバー内の真空度を低下させることになるからである。また、負圧になっていた方が、空隙部での蓄熱も少なくなり、また、より一層蒸着源5(
図2参照)で熱せられたフレーム15のマスクホルダー19への熱伝導を促進し得る。
【0040】
被蒸着基板2側への熱伝導の抑制の観点からは、空隙151a内にアルゴンなどの希ガスを封入することによって、さらに被蒸着基板2側への熱伝導を抑制し、マスクホルダー19側の熱伝導を助長し得る。希ガスは熱伝導率が小さいからである。このような空隙151a内を減圧にしたり、希ガスを封入したりするには、減圧雰囲気下及び/又は希ガス雰囲気下でコア部151と面板152とを接合すればよい。
【0041】
図1Aに示される例では、矩形状の蒸着マスク1の長辺に相当するフレーム15の縦フレーム15aの部分は、空隙(貫通孔)151aが蒸着マスク1の平面内で中心部から外に向くようにコア部151が形成されている。そのため、
図1Bに、
図1AのB−B断面図が示されるように、貫通孔(空隙)151aが横方向に延びており、
図1Cに、
図1Aの矢視Cから見た図(面板152を除去した図)が示されるように、空隙151aの平面形状がそのまま表れる。
【0042】
このような空隙151aを有するサンドイッチ構造体150は、空隙151aの軸と平行方向の荷重には特に強い。一方、前述したように、蒸着マスク1は樹脂フィルム11の開口11aをしっかりと安定化させるため、樹脂フィルム11及び金属支持層12からなるマスク本体10(
図1B参照)を引っ張ってテンションをかけた状態でフレーム15に接合される。このマスク本体10をフレーム15に貼り付けるのは、種々の方法があるが、
図1Aに示される例では、短冊状のマスク本体10が5枚しか示されていないが、実際には例えば12枚程度順次貼り付ける例で、
図1Aに示されるように、矩形状のフレーム15の短辺の横フレーム15bに沿って引っ張り、長辺の縦フレーム15aに溶接などによって接合される。そのため、そのテンションのかけられる方向、すなわち短辺の横フレーム15bの延びる方向で、蒸着マスク1の中心部から外側(
図1Aでは左右)に向けて空隙151aが向くように長辺の縦フレーム15aが形成されている。金属支持層12がない場合には、樹脂フィルム11に直接接着剤などにより接着されてもよい。この場合、蒸着時にガスを発生しない接着剤が用いられる。例えば、接着剤としては熱硬化性のエポキシ樹脂又はポリイミド系の樹脂のような完全硬化型の接着剤が好ましい。
【0043】
この短冊状のマスク本体10をフレーム15に溶接する際、マスク本体10の端部を長くしておいて、
図4に示されるように、フレーム15のマスク本体10の中心部と反対の外面、すなわちフレーム15の内面と反対の外周壁に接合されていることが、テンションによる応力に対してより一層堅固になる。この場合、
図4の右の側面から溶接されることになる。特に金属支持層12がなく、樹脂フィルム11だけで接着剤よって貼り付ける場合に効果が大きい。
【0044】
フレーム15の短辺の横フレーム15bは、この蒸着マスク1を縦に配置(
図2に示される上下関係を横向きにする配置)して縦型蒸着装置とする場合には、立てたときの下辺に蒸着マスク1のかなりの重量がかかる(垂直に立てるのではなく、斜めにする場合があるので、全重量ではない場合がある)ので、短辺の横フレーム15bも空隙151aが蒸着マスク1の中心から平面内で外側に向く方向になるように形成される。この場合、対向する2つの長辺の縦フレーム15aには、相互に引っ張り合う力がかかるので、短辺の横フレーム15bの長さ方向にも大きな荷重に耐え得ることが必要となる。上述の例では、短辺の横フレーム15bの長さ方向は、コア部151の横方向になるので、横フレーム15bの長さ方向の荷重に対する強度は、空隙151aの開口面と垂直の方向からの荷重に対する強度よりは弱くなる可能性がある。しかし、前述したように、正六角形のハニカム構造であれば、横方向からの荷重でも、六角形の各辺に力が均等に分散されるので、充分に耐え得る。また、蒸着マスク1のマスク本体10を短冊状ではなく、四角形の大きいマスクを四方に引っ張って貼り付ける場合があり、その場合には、前述した長辺の縦フレーム15aの場合と同様に、辺と垂直方向に空隙151aが向くようにコア部151の向きが配置されることが好ましい。従って、長辺の縦フレーム15aのハニカム構造の向きと、短辺の横フレーム15bのハニカム構造の向きが異なることになる。要するに、蒸着マスク1としてみた場合、サンドイッチ構造体の空隙151aの向きが長辺の縦フレーム15aと短辺の横フレーム15bとで、異なっていることに特徴がある。しかし、蒸着マスク1の配置に応じて、蒸着マスク1の各辺の空隙の向きは適宜調整し得る。
【0045】
蒸着マスク1のマスク本体10は、
図1Bにその断面図が示されるように、樹脂フィルム11と金属支持層12とを備えており、金属支持層12に磁性材料が用いられる。金属支持層12としては、例えばFe、Co、Ni、Mn又はこれらの合金が用いられ得る。その中でも、被蒸着基板2との線膨張率の差が小さいこと、熱による膨張が殆どないことから、インバー(FeとNiの合金)が特に好ましい。金属支持層12の厚さは、5μm〜30μm程度に形成される。
【0046】
なお、
図1Bでは、樹脂フィルム11の開口11aと金属支持層12の開口12aが被蒸着基板2(
図2参照)に向かって先細りするようなテーパ形状になっている。その理由は、蒸着材料51(
図2参照)が蒸着される場合に、飛散する蒸着材料51のシャドウにならないようにするためである。なお、マスク本体10は、ハイブリッドマスクに限定されず、メタルマスクや樹脂フィルムだけのマスクでもよい。
【0047】
マスク本体10がメタルマスクの場合、例えば厚さが30μm程度のインバーシートを用いて、開口パターンが形成される。開口パターンは、エッチング加工の条件を調整して、樹脂マスクの場合と同様に、被蒸着基板側が先細りとなるテーパ形状に形成される。このようなマスク本体が、例えば
図1Aに示されるように、短冊状にして複数枚貼り付けられてもよく、1枚にして貼り付けられてもよい。このメタルマスクもテンションをかけて溶接などによってフレームに貼り付けられる。メタルマスクはカールしやすいので、樹脂マスクよりもテンションをかける必要があるが、本実施形態のフレームは非常に堅固であるため、樹脂フィルムのマスクよりもメタルマスクに対して本実施形態のフレームが用いられる場合に、その効果が大きい。
【0048】
このようなマスク本体10が、前述した枠状のフレーム15に貼り付けられることによって、蒸着マスク1が得られる。上記蒸着マスク1は、樹脂フィルム11に金属支持層12が貼り付けられた構造であったが、金属支持層12がなくても構わない。金属支持層12がない場合には、より一層樹脂フィルム11の安定性が要求されるので、しっかりとした頑強なフレーム15に固定される必要がある。その結果、フレーム15は重くなりがちであるが、上記空隙151aを有するサンドイッチ構造体150にすることによって、その重量の増大化を防止することができる。金属支持層12が設けられない場合には、蒸着マスク1のフレーム15に磁性体を用いることで磁石によって吸着できる。
【0049】
蒸着マスク1のフレーム15をこのような空隙151aを有するサンドイッチ構造体150にすることによって、重量が非常に軽くなる。すなわち、前述した
図6Dに示される構造のハニカム構造にすることによって、G6Hの蒸着マスク1の重量が従来のインバーの無垢の場合に比べて1/20程度に減じられながら、マスク本体10の貼り付けによる応力には何ら支障はなかった。その結果、これより3〜4倍程度の重さ、すなわち、G8(約2200mm×2400mm)やそれ以上のサイズをもつ蒸着マスク1になっても、ロボットアームによって、十分に搬送が可能になる。なお、ロボットアームによる搬送が可能になっても、横型の蒸着装置1では、スペースが必要となり、特に有機EL表示装置の製造では、6〜10台程度の真空チャンバーを並べて、被蒸着基板2を順次入れ替えて蒸着が行われるため、非常に大きなスペースが必要となる。そのため、縦型の蒸着装置(蒸着マスク1や被蒸着基板2を立てて、横から蒸着材料を飛散させる)を用いて、工場の敷地面積を小さくする工夫を行うことが好ましい。
【0050】
また、本実施形態による蒸着マスクでは、フレーム15に空隙151aが非常に多い。そのため、熱容量が大幅に低下する。その結果、熱の蓄積が少なくなり、交換した新たな被蒸着基板2への熱伝導が抑制され、蒸着マスク1や被蒸着基板2の温度分布が生じ難くなる。これによって、より精細な有機層のパターンが形成され得る。
【0051】
本実施形態の蒸着マスク1によれば、フレーム15の重量が大幅に軽くなったことによって、熱容量が小さくなる。そのため、温度が上昇しやすいが、逆に下がりやすくなる。すなわち、被蒸着基板2を取り替えて連続的に沢山の被蒸着基板2に有機材料を蒸着する場合でも、蒸着マスク1に熱が蓄積されて次の被蒸着基板2が配置されて直ちに加熱されるということは起こらない。その結果、安定した蒸着を繰り返すことができる。
【0052】
(蒸着装置の概略構成)
本発明の一実施形態の蒸着マスク1を用いる蒸着装置は、
図2に示されるように、真空チャンバーの内部に蒸着マスク1と被蒸着基板2とが近接して配置されるように、マスクホルダー19と基板ホルダー29とが上下に移動し得るように設けられている。この基板ホルダー29は、複数のフック状のアームで被蒸着基板2の周縁部を保持し、上下に昇降できるように、図示しない駆動装置に接続されている。被蒸着基板2などの交換の場合には、ロボットアームにより真空チャンバー内に搬入された被蒸着基板2をフック状のアームで受け取り、被蒸着基板2が蒸着マスク1に近接するまで基板ホルダー29が下降する。そして位置合せを行えるように図示しない撮像装置も設けられている。タッチプレート4は支持フレーム41により支持され、タッチプレート4を被蒸着基板2と接するまで降下させる駆動装置に支持フレーム41を介して接続されている。タッチプレート4が降下されることにより、被蒸着基板2が平坦にされる。
【0053】
蒸着装置は、第1実施形態の蒸着マスク1と被蒸着基板2との位置合せの際に、蒸着マスク1と被蒸着基板2のそれぞれに形成されたアライメントマークを撮像しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させる微動装置も備えている。位置合せは、電磁石3により蒸着マスク1を不必要に吸着させないように、電磁石3への通電を止めた状態で行われる。その後にタッチプレート4や、図示しない同様のホルダーによって保持された電磁石3が降ろされて電流が流されることで、蒸着マスク1が被蒸着基板2に向かって吸引される。
【0054】
本実施形態では、蒸着マスク1のフレーム15に、空隙を有するサンドイッチ構造体150のコア部151を面板152で挟み込んだ構造が用いられているので、図示しないロボットアームによって出し入れする場合でも軽量で容易に行い得る。
【0055】
電磁石3は、コア31にコイル32が巻回された単位電磁石が複数個、樹脂などからなる被覆物33などによって固定されている。
図2に示される例では、複数の単位電磁石が、各単位電磁石のコイル32の端子32a〜32eが形成されて直列に接続されている。しかし、電磁石3の構成はこの例には限られず、種々の構成にされ得る。コア31の形状は四角形でも円形でもよい。例えば蒸着マスク1の大きさが、G6(1500mm×1800mm)程度の大きさの場合、
図1に示される単位電磁石の断面が50mm角程度の大きさのコア31を有する単位電磁石が、
図2に示されるように、蒸着マスク1の大きさに合せて複数個並べて配置され得る(
図2では、横方向が縮尺され、単位電磁石の数が少なく描かれている)。
図2に示される例ではコイル32が直列に接続されている。しかし、それぞれの単位電磁石のコイル32が並列に接続されてもよい。また、数個単位が直列に接続されてもよい。単位電磁石の一部に独立して電流が印加されてもよい。
【0056】
蒸着マスク1は、前述した
図1Bに示されるように、樹脂フィルム11と金属支持層12と、その周囲に形成されるフレーム(枠体)15を備えており、蒸着マスク1は、
図2に示されるように、フレーム15が、マスクホルダー19上に載置される。金属支持層12及び/またはフレーム15に磁性材料が用いられることによって、電磁石3のコア31との間で吸引力が働き、被蒸着基板2を挟んで吸着される。
【0057】
なお、蒸着源5は、点状、線状、面状など、種々の蒸着源が用いられ得る。例えばるつぼが線状に並べて形成されたライン型の蒸着源5(
図2の紙面と垂直方向に延びている)が、例えば紙面の左端から右端まで走査されることにより、被蒸着基板2の全面に蒸着が行われる。従って、蒸着材料51は種々の方向から飛散することになり、斜めから来た蒸着材料51でも遮断されることなく被蒸着基板2に届くようにするため、前述した開口11a、12aがテーパ形状に形成されている。
【0058】
(蒸着方法)
次に、本発明の第二の実施形態による蒸着方法が説明される。本発明の第二の実施形態の蒸着方法は、前述の
図2に示されるように、被蒸着基板2と、例えば
図1Bに示される蒸着マスク1とが重ね合さるように配置する工程、及び蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料の飛散によって被蒸着基板2に蒸着材料を堆積する工程、を含んでいる。すなわち蒸着マスク1のフレーム15にハニカム構造のように、空隙151aと薄肉部151bを有するコア部151を面板152で被覆したサンドイッチ構造体150によって蒸着マスク1のフレーム15が形成されていることに特徴がある。
【0059】
具体的には、前述したように、蒸着マスク1の上に被蒸着基板2が重ねられる。この被蒸着基板2と蒸着マスク1との位置合せが次のように行われる。被蒸着基板2と蒸着マスク1のそれぞれに形成された位置合せ用のアライメントマークを撮像装置で観察しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させることにより行われる。これによって、蒸着マスク1の開口11aと被蒸着基板2の蒸着場所(例えば後述される有機EL表示装置の場合、支持基板21の第一電極22のパターン)とを一致させることができる。位置合せされた後に、電磁石3を動作させる。その結果、電磁石3と蒸着マスク1との間で強い吸引力が働き、被蒸着基板2と蒸着マスク1とがしっかりと接近する。
【0060】
その後、
図2に示されるように、蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料51の飛散(気化又は昇華)によって被蒸着基板2に蒸着材料51が堆積される。具体的には、前述のように、るつぼなどか線状に並べて形成されたラインソースが用いられるが、これには限定されない。
【0061】
この蒸着方法によれば、蒸着マスク1が軽量であるので、蒸着マスク1の真空チャンバー内への装着が非常に容易になる。また、重量が軽くなるため、ロボットアームによる搬送が容易になり、蒸着マスク1のさらなる大形化を行い得る。すなわち、大量生産が可能で、コストダウンを達成し得る。さらに、フレーム15の空隙151aによって、熱伝導が抑制され、さらに熱容量も小さくなっているので、蒸着マスク1に熱が蓄積されて被蒸着基板2と蒸着マスク1との熱膨張差が抑制され得る。その結果、大形の被蒸着基板への蒸着が可能となり、また、精細な蒸着ができる。
【0062】
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、上記実施形態の蒸着方法を用いて有機EL表示装置を製造する方法が説明される。蒸着方法以外の製造方法は、周知の方法で行えるため、主として、本発明の蒸着方法により有機層を積層する方法が、
図7A〜7Bを参照しながら説明される。
【0063】
本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板21の上に図示しないTFT、平坦化膜及び第一電極(例えば陽極)22を形成し、その第一電極22を下向けて蒸着マスク1を位置合せして重ね合せ、蒸着材料51を蒸着するに当たり、前述の蒸着方法を用いて有機層の積層膜25を形成することを含んでいる。これにより積層膜25上に第二電極26(
図7B参照;陰極)が形成される。
【0064】
例えばガラス板などの支持基板21は、完全には図示されていないが、各画素のRGBサブ画素ごとにTFTなどの駆動素子が形成され、その駆動素子に接続された第一電極22が、平坦化膜上に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合せにより形成されている。サブ画素間には、
図7A〜7Bに示されるように、サブ画素間を区分するSiO
2又はアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などからなる絶縁バンク23が形成されている。このような支持基板21の絶縁バンク23上に、前述の蒸着マスク1が位置合せして固定される。この固定は、前述の
図2に示されるように、例えば支持基板21(被蒸着基板2)の蒸着面と反対面の上にタッチプレート4を介して設けられる電磁石3を用いて、吸着することにより行われる。前述のように、蒸着マスク1の金属支持層12(
図1B参照)に磁性体が用いられているので、電磁石3により磁界が与えられると、蒸着マスク1の金属支持層12が磁化してコア31との間で吸引力が生成する。電磁石3がコア31を有しない場合でも、コイル32に流れる電流により発生する磁界によって吸着される。
【0065】
この状態で、
図7Aに示されるように、真空チャンバー内で蒸着源(るつぼ)5から蒸着材料51が飛散され、支持基板21において蒸着マスク1の開口11aに露出する部分のみに蒸着材料51が蒸着され、所望のサブ画素の第一電極22上に有機層の積層膜25が形成される。この蒸着工程は、順次支持基板21が異なる真空チャンバーに移され、各サブ画素に対して行われてもよい。複数のサブ画素に同時に同じ材料が蒸着される蒸着マスク1が用いられてもよい。蒸着マスク1が交換される場合には、
図7Aには図示されていない電磁石3(
図2参照)により蒸着マスク1の金属支持層12(
図1B参照)への磁界を除去するように図示しない電源回路がオフにされる。
【0066】
図7A〜7Bでは、有機層の積層膜25が単純に1層で示されているが、有機層の積層膜25は、異なる材料からなる複数層の積層膜25で形成されてもよい。例えば陽極22に接する層として、正孔の注入性を向上させるイオン化エネルギーの整合性の良い材料からなる正孔注入層が設けられる場合がある。この正孔注入層上に、正孔の安定な輸送を向上させると共に、発光層への電子の閉じ込め(エネルギー障壁)が可能な正孔輸送層が、例えばアミン系材料により形成される。さらに、その上に発光波長に応じて選択される発光層が、例えば赤色、緑色に対してはAlq
3に赤色又は緑色の有機物蛍光材料がドーピングされて形成される。また、青色系の材料としては、DSA系の有機材料が用いられる。発光層の上には、さらに電子の注入性を向上させると共に、電子を安定に輸送する電子輸送層が、Alq
3などにより形成される。これらの各層がそれぞれ数十nm程度ずつ積層されることにより有機層の積層膜25が形成されている。なお、この有機層と金属電極との間にLiFやLiqなどの電子の注入性を向上させる電子注入層が設けられることもある。本実施形態では、これらも含めて有機層の積層膜25に含めている。
【0067】
有機層の積層膜25のうち、発光層は、RGBの各色に応じた材料の有機層が堆積される。また、正孔輸送層、電子輸送層などは、発光性能を重視すれば、発光層に適した材料で別々に堆積されることが好ましい。しかし、材料コストの面を勘案して、RGBの2色又は3色に共通して同じ材料で積層される場合もある。2色以上のサブ画素で共通する材料が積層される場合には、共通するサブ画素に開口11aが形成された蒸着マスク1が形成される。個々のサブ画素で蒸着層が異なる場合には、例えばRのサブ画素で1つの蒸着マスク1を用いて、各有機層を連続して蒸着することができる。また、RGBで共通の有機層が堆積される場合には、その共通層の下側まで、各サブ画素の有機層の蒸着がなされ、共通の有機層のところで、RGBに開口11aが形成された蒸着マスク1を用いて一度に全画素の有機層の蒸着がなされる。なお、大量生産する場合には、蒸着装置の真空チャンバーが何台も並べられ、それぞれに異なる蒸着マスク1が装着されていて、支持基板21(被蒸着基板2)が各蒸着装置を移動して連続的に蒸着が行われてもよい。
【0068】
LiF層などの電子注入層などを含むそれぞれの有機層の積層膜25の形成が終了するごとに、前述のように、電磁石3をオフにし蒸着マスク1から電磁石3が分離される。その後、第二電極(例えば陰極)26が全面に形成される。
図7Bに示される例は、トップエミッション型で、図中支持基板21と反対面から光を出す方式になっているので、第二電極26は透光性の材料、例えば、薄膜のMg-Ag共晶膜により形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、支持基板21を介して光が放射されるボトムエミッション型の場合には、第一電極22にITO、In
3O
4などが用いられ、第二電極26としては、仕事関数の小さい金属、例えばMg、K、Li、Alなどが用いられ得る。この第二電極26の表面には、例えばSi
3N
4などからなる保護膜27が形成される。なお、この全体は、図示しないガラス、耐湿性の樹脂フィルムなどからなるシール層により封止され、有機層の積層膜25が水分を吸収しないように構成される。また、有機層はできるだけ共通化し、その表面の上にカラーフィルタを設ける構造にすることもできる。
【0069】
(まとめ)
(1)本発明の第一の実施形態に係る蒸着マスクは、開口パターンが形成されたマスク本体と、前記マスク本体の周縁部の少なくとも一部が接合されて前記マスク本体を一定の状態に保持するフレームと、を有し、前記フレームが炭素繊維強化プラスチックによって形成されている。
【0070】
本発明の一実施形態の蒸着マスクによれば、線膨張係数や熱伝導率が小さく、しかも比重が小さい材料で剛性を有する材料を用いることで、蒸着マスクの重量が非常に軽減される。その結果、ロボットアームによる搬送が容易になり、現在は有機EL表示装置の製造ラインで使用される被蒸着基板の大きさの上限がG6H程度であるのに対して、G8程度かそれ以上の大幅な大形化を実現できる。
【0071】
(2)前記炭素繊維強化プラスチックが、炭化ケイ素を強化繊維とした炭化ケイ素繊維強化プラスチックであることが、線膨張係数が被蒸着基板に近く、かつ、剛性も大きいので好ましい。
【0072】
(3)前記フレームが、空隙を内包する柱状のコア部の少なくとも一部の対向する面に炭素繊維強化プラスチック又は金属板で形成された面板が貼り付けられたサンドイッチ構造体に形成されていることによって、より一層軽量化され得る。また、空隙を有することによって、熱容量も小さくなるので、熱の蓄積も解消され得る。
【0073】
(4)前記コアの空隙が広義のハニカム構造体に形成されていることによって、空隙が形成されたコア部に横方向の荷重が印加されても、耐え得る剛性が得られる。
【0074】
(5)前記マスク本体が、前記開口パターンが形成された樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記開口パターンを閉塞しないように開口が形成された金属支持層とが貼着されたハイブリッドマスクである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸着マスク。
【0075】
(6)前記マスク本体が、前記開口パターンが形成された金属薄板からなるメタルマスクである場合には、ハイブリッドマスクよりもさらにテンションがかかるのでフレームの強度向上に寄与する。
【0076】
(7)前記フレームが額縁状の矩形形状であり、前記樹脂フィルムが接合される前記フレームの辺において、前記空隙は前記フレームで囲まれる内部から前記フレームの外部に向くように形成されていることによって、マスク本体をフレームにテンションをかけて貼り付ける場合でも、テンションに対する十分な剛性が得られる。
【0077】
(8)前記マスク本体の周縁部の前記フレームへの接合が、前記マスク本体の周縁部の一部が折り曲げられることで、前記フレームの内側と反対の外周側壁に接合されていることが好ましい。それによって、マスク本体のテンションに対しても十分な剛性が得られやすい。
【0078】
(9)前記空隙を内包する前記フレームの外周壁全体に磁性金属板で形成された面板が貼り付けられていることが、応力に対する剛性が強くなると共に、有機材料などの蒸着材料が空隙内に入り込んだり、洗浄の際の洗浄液が空隙内に残ったりすることが防止され得る。さらに、磁性金属板が用いられることで、磁石による吸着をしやすくする。
【0079】
(10)前記面板で囲まれた前記空隙が減圧にされていることによって、真空チャンバー内で使用されても、空隙に潜り込んでいるガスが流出することがなく好ましい。
【0080】
(11)前記面板で囲まれた前記空隙の内部に希ガスが充填されていることによって、熱の蓄積が抑制されるので好ましい。
【0081】
(12)また、本発明の第二の実施形態の蒸着方法は、被蒸着基板と、上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の蒸着マスクとが重ね合さるように配置する工程、及び前記蒸着マスクと離間して配置される蒸着源からの蒸着材料の飛散によって前記被蒸着基板に前記蒸着材料を堆積する工程、を含んでいる。
【0082】
本発明の第二の実施形態の蒸着方法によれば、蒸着マスクが非常に軽量になっているので、ロボットアームによる取扱いが容易になると共に、さらなる基板の大形化が図れる。
【0083】
(13)前記蒸着マスクのフレームが額縁状の矩形形状であり、前記空隙部が前記フレームで囲まれる内部から前記フレームの外部に向くように形成されたフレームの辺が上下になるように前記被蒸着基板及び前記蒸着マスクを配置することによって、蒸着マスクの自重に対しても十分な剛性が得られる。
【0084】
(14)さらに、本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板上にTFT及び第一電極を少なくとも形成し、前記支持基板上に上記(10)又は(11)に記載の蒸着方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、前記積層膜上に第二電極を形成することを含んでいる。
【0085】
本発明の第三の実施形態の有機EL表示装置の製造方法によれば、有機EL表示装置が製造される際に、蒸着マスクの装着が容易であり、しかも、蒸着マスクや被蒸着基板の不均一な熱膨張が抑制されるので、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置ずれが抑制され、高精細なパターンの表示パネルが得られる。
線膨張係数が小さく、しかも比重が小さい材料で剛性を有する材料を用いることで、軽量で、かつ、寸法の狂いが少ないフレームを用いた蒸着マスクを提供する。実施形態により開示される蒸着マスクは、そのフレーム(15)が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成されている。