(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1被溶接材と第2被溶接材とを重ね合わせて、前記第1被溶接材の表面側からレーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により溶接するレーザ溶接方法であって、
前記パルスレーザをピーク出力で100W以上600W以下、前記パルスレーザのパルス周波数を100Hz以上、且つ、前記パルスレーザによる前記第1被溶接材の表面に照射されるパワー密度を106W/cm2以上とし、
レーザ照射時間をキーホールが前記第1被溶接材の厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの時間と一致させ、
レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とする
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
燃料を噴射する噴射孔が設けられたノズルプレートとノズル本体とを重ね合わせて、前記ノズルプレートの表面側から、レーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により燃料噴射弁を溶接して製造する燃料噴射弁の製造方法であって、
前記パルスレーザをピーク出力で100W以上600W以下、前記パルスレーザのパルス周波数を100Hz以上、且つ、前記パルスレーザによる前記ノズルプレートの表面に照射されるパワー密度を106W/cm2以上とし、
レーザ照射時間をキーホールが前記ノズルプレートの厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの時間と一致させ、
レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とする
ことを特徴とする燃料噴射弁の製造方法。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、熱源となるレーザ光のエネルギ密度が高いため、低歪み、高速度、高精度の溶接継手が得られることから各方面で使用されている。自動車分野においては、ステンレス鋼や炭素鋼などの鉄鋼材料や、アルミニウム合金や、ニッケル合金などの金属材料に対し、複数の被溶接材を重ねて溶接することが行われている。
【0003】
例えば、燃料噴射弁の噴射ノズル(溶接部材)は、燃料噴射孔を有するノズルプレート(被溶接材)と、燃料経路を提供するノズル本体(被溶接材)と、を溶接して製造される。ノズルプレートとノズル本体との溶接には、低歪み、高精度が要求され、また、溶接速度が高速であることが望ましいから、レーザ溶接が用いられている。レーザ溶接の方法には、熱伝導型レーザ溶接と、深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接と、の2種類の方法がある。
【0004】
熱伝導型レーザ溶接は、被溶接材の表面にレーザ光を照射し、照射されたレーザ光が被溶接材に吸収され、レーザ光が熱に変換されることで熱エネルギが材料内部まで熱伝導して被溶接材を溶融することにより、被溶接材を溶接する方法である。この溶接方法は、溶接ビードの溶込み深さより溶接ビードの表面幅が広いタイプの溶接であり、溶込み深さが浅く、表面幅が広い溶接ビードが形成しやすい。このため、溶込み深さが深く、表面幅が狭く、溶接変形が小さい溶接が要求されている場合には、熱伝導型レーザ溶接を適用することはできない。
【0005】
一方、深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接は、被溶接材の表面に照射されるレーザ光のパワー密度(単位面積当たりのレーザ出力)が10
6 W/cm
2 以上になると、金属材料からなる被溶接材の金属表面の温度が金属の沸点以上になり、プラズマの発生とともに金属蒸気がレーザ光の照射点から激しく飛び出し、その金属蒸気の反動力で溶融金属面が凹む。そして、レーザ光が凹み(キーホール)の中で反射を繰り返しながら入射して、深く細いキーホールを形成することにより、被溶接材を溶接する方法である。この溶接方法は、熱伝導型レーザ溶接よりも溶接ビードの溶込み深さを深くすることができる。また、この溶接方法は、溶接ビードの溶込み深さを溶接ビードの表面幅の数倍以上とすることができる。
【0006】
現状、燃料噴射弁のノズルプレートは、薄板のステンレス鋼の圧延材をノズルプレート材として用いており、ノズル本体とノズルプレートのレーザ溶接は、熱伝導型レーザ溶接プロセスが適用されている。
また、燃料噴射や生産能率の向上のため、電鋳法によるNiを含有する材質を用い、燃料微粒化や噴射性能を向上できる特殊な燃料通路と噴射孔を設けた厚板のノズルプレートが開発されている。このような板厚を増加したノズルプレートとノズル本体の溶接は、深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接を適用する必要がある。
【0007】
深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接は、溶接条件によってキーホールが不安定になり、溶接後の溶接部にポロシティが発生するという課題がある。このようなポロシティを解決するために、適切なパルス幅または周波数を設定したパルスレーザ光を用い、キーホールを安定化させることによりポロシティを抑制するレーザ溶接方法が開示されている。
【0008】
例えば、特許文献1(特開2001−205464号公報)には、レーザ光のパルス幅の設定は、キーホールが不安定になりポロシティが急増する前にレーザ光の照射をなくし、キーホールを安定なまま閉じさせ、ポロシティの生成を防止するレーザ溶接方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2(特開2002−224867号公報)には、金属溶融池の固有振動数と一致した周波数でレーザ出力を周期的に変動させて溶接することを特徴するレーザ溶接方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されたレーザ溶接方法には、パルス幅(レーザ照射時間)の設定については開示されているが、レーザ光の照射を停止してから後の時間(レーザ停止時間)の設定方法について開示されていない。レーザ停止時間が長くなると、溶接ビードは断続になり、連続した溶接ビードが要求される場合に適用することができない。また、レーザ停止時間が短くなると、連続波のレーザ溶接と同じようなキーホールの変動が生じ、ポロシティの抑制効果がなくなる。
【0012】
また、特許文献2に記載された溶接方法は、レーザ出力が数kW以上、溶込み深さが数mm〜数十mmの場合に得られた結果である。しかし、燃料噴射弁のような溶込み深さが最大で1mm程度しかないレーザ溶接に対応できるパルスの周波数は開示されていない。
【0013】
そこで、本発明は、溶込み深さが浅く(例えば1mm未満)かつ連続溶接部が要求される深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接において、ポロシティを抑制するレーザ溶接方法
および燃料噴射弁の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を解決するために、本発明に係るレーザ溶接方法は、第1被溶接材と第2被溶接材とを重ね合わせて、前記第1被溶接材の表面側から被溶接材にレーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により溶接するレーザ溶接方法であって、レーザ照射時間をキーホールが前記第1被溶接材の厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの
時間と一致させ、レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とすることを特徴とする。
また、本発明に係る燃料噴射弁の製造方法は、燃料を噴射する噴射孔が設けられたノズルプレートとノズル本体とを重ね合わせて、前記ノズルプレートの表面側から、レーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により燃料噴射弁を溶接して製造する燃料噴射弁の製造方法であって、レーザ照射時間をキーホールが前記ノズルプレートの厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの時間と一致させ、レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とすることを特徴とする。レーザ溶接では、前記パルスレーザをピーク出力で100W以上600W以下、前記パルスレーザのパルス周波数を100Hz以上、且つ、前記パルスレーザによる前記第1被溶接材の表面に照射されるパワー密度を106W/cm2以上とする。
【0015】
また、本発明に係る
レーザ溶接方法により得られる溶接部材は、第1被溶接材と、第2被溶接材と、前記第1被溶接材と前記第2被溶接材とを重ね合わせて、前記第1被溶接材の表面側から、レーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により形成された溶接ビードと、を備え、前記パルスレーザ光は、レーザ照射時間をキーホールが前記第1被溶接材の厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの
時間と一致させ、レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る
燃料噴射弁の製造方法により得られる燃料噴射弁は、燃料を噴射する噴射孔が設けられたノズルプレートと、ノズル本体と、前記ノズルプレートと前記ノズル本体とを重ね合わせて、前記ノズルプレートの表面側から、レーザ出力を周期的に変化させるパルスレーザを照射して深溶込み型レーザ溶接により形成された溶接ビードと、を備え、前記パルスレーザは、レーザ照射時間をキーホールが前記ノズルプレートの厚さを超える要求の溶込み深さとなるまでの
時間と一致させ、レーザ停止時間を前記キーホールの中間部が閉じるまでの時間よりも短い時間とすることを特徴と
する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶込み深さが浅くかつ連続溶接部が要求される深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接において、ポロシティを抑制するレーザ溶接方法
および燃料噴射弁の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0020】
≪燃料噴射弁の噴射ノズル(溶接部材)F≫
本実施形態に係る溶接部材Fについて、
図1を用いて説明する。なお、本実施形態に係る溶接部材Fは、例えば、自動車の内燃機関に使用される燃料噴射弁(インジェクタともいう)の噴射ノズルFである。以下、本実施形態に係る溶接部材Fは、燃料噴射弁の噴射ノズルFであるものとして説明する。
図1(a)は本実施形態に係る溶接部材Fの縦断面図であり、
図1(b)は本実施形態に係る溶接部材Fの先端側から見た平面図である。なお、
図1(a)は
図1(b)のA−A線で切断した縦断面図であり、
図1(b)は溶接部材Fを
図1(a)の矢印B方向に見た平面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、燃料噴射弁の噴射ノズル(溶接部材)Fは、ノズルプレート(被溶接材)1とノズル本体(被溶接材)2とを、深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接により溶接ビード3を形成して、重ね継手(重ね溶接継手)で接合した溶接部材である。なお、
図1では、燃料噴射弁の先端部の噴射ノズルFのみを図示しており、燃料噴射弁の他の構成部分である、ニードル(弁体)、プランジャ、ソレノイドなどは、公知の技術によって構成されているものとして説明を省略する。
【0022】
<ノズルプレート1、ノズル本体2>
ノズルプレート1は、電気めっき法で製造されたニッケル含有量を50%以上含む金属材料で円板形状に形成され、板厚tが例えば0.50mmの薄板材である。ノズル本体2は、マルテンサイト系ステンレス鋼などの鋼鉄材料で略筒状に形成されている。
【0023】
図1(a)に示すように、略筒状に形成されるノズル本体2は、その内部の連通路にニードル(弁体)が当接する弁座21を有し、先端中心部に後述するノズルプレート1の中央室11と連通する連通孔22が形成されている。
【0024】
図1(a)に示すように、ノズルプレート1の裏面(ノズル本体2と接する側の面)には、凹部が設けられており、ノズルプレート1とノズル本体2を接合することにより、中央室11と、連通路12(
図1(b)参照)と、スワール室(旋回室)13と、が形成される。また、スワール室13からノズルプレート1の表面(ノズル本体2と接する側と反対側の面)に連通する噴射孔14が形成されている。中央室11は、ノズル本体2の連通孔22に対応する位置に形成されている。
図1(b)に示すように、連通路12は、中央室11からノズルプレート1の径方向に延びて、スワール室13と連通するように形成されている。スワール室13は、4つ形成されており、各スワール室13の中心に燃料を噴射する噴射孔14が形成されている。
【0025】
噴射ノズル(溶接部材)Fから噴射される燃料は、ノズル本体2の連通孔22から、ノズルプレート1の中央室11に流れ、その後、4つの連通路12を経由してスワール室13に流れる。そして、連通路12からスワール室13に流入した燃料は、スワール室13の内部で旋回し、スワール室13の中心にある噴射孔14から噴射されるようになっている。なお、
図1(a)において、燃料は噴射孔14から紙面の上方に噴射される。
【0026】
なお、
図1において、噴射ノズル(溶接部材)Fは、ノズルプレート1に4つの噴射孔14が形成されているものとして説明したが、これに限られるものではなく、3つ以下であってもよく、5つ以上であってもよい。また、1つのスワール室13に対して1つの噴射孔14が形成されているものとして説明したが、これに限られるものではなく、1つのスワール室13に対して2つ以上の噴射孔14が形成されていてもよい。また、中央室11に噴射孔14が形成されていてもよい。また、噴射孔14の形状は、円形に限定されるものではなく、楕円形、多角形、長孔形状、円弧形状など適宜変更することができる。また、噴射孔14の位置や径についても適宜変更することができる。
【0027】
<溶接ビード3>
燃料噴射弁の噴射ノズル(溶接部材)Fは、ノズルプレート1とノズル本体2とを重ね合わせて、その重ね面のノズルプレート1の表面(ノズル本体2と接する側と反対側の面)側からレーザ光5(後述する
図3等参照)を照射して金属材料が溶融した溶融池3a(後述する
図4等参照)を形成することにより、深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接で溶接ビード3が形成され、ノズルプレート1とノズル本体2とが重ね継手(重ね溶接継手)で接合されている。また、
図1(b)に示すように、溶接ビード3は、ノズルプレート1の周縁部(中央室11、連通路12、スワール室13を囲む範囲)に沿って周溶接(全周溶接)されている。このようにして周溶接することにより、ノズルプレート1とノズル本体2との境界面4の隙間が封止されることにより、境界面4から燃料が漏れ出るのを確実に防止できる。
【0028】
この深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接では、例えば、波長が1070〜1080nmのファイバーレーザを用いることができるが、他の波長のレーザ光5(後述する
図3等参照)を使用してもよい。また、図示しないレーザ発信器からレーザ光を発生させ、転送経路を経由し、集光レンズ(図示せず)により集光し、ノズルプレート1の表面にレーザ光5(後述する
図3等参照)を照射する。
【0029】
また、シールドガスとして、溶融金属の酸化を防止するため、Ar(アルゴン)を用いる。なお、シールドガスとしては、Ar(アルゴン)に限定されるものでなく、窒素、He(ヘリウム)またはこれら混合ガスを使用してもよい。
【0030】
図2は、本実施形態に係る溶接部材Fの深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接に用いるレーザ出力波形を示す図である。
溶接条件としては、例えば、
図2に示すパルス波形のレーザピーク出力を100W〜600W、パルス幅(レーザ照射時間)Tpを5ms以下、パルスとパルスの間隔であるパルス停止幅(レーザ停止時間)Tbを5ms以下、溶接速度を4.0mm/s〜100mm/s、ノズルプレート1の表面に照射されるレーザ光のスポット径を0.05mm〜0.3mmで適宜設定することができる。
【0031】
(本実施形態に係るパルス波形制御)
次に、
図3から
図6を用いて、キーホール6の形成および消失について説明する。なお、本実施形態では、パルス幅Tpを5msとし、パルス停止幅Tbを5msとする条件で溶接した場合を例に、レーザパルス照射開始から次のパルス照射直前におけるキーホール6の挙動を説明する。
図3は、本実施形態におけるレーザ照射開始後0.1ms時点でのキーホールの生成機構を示す断面模式図である。
図4は、本実施形態におけるレーザ照射開始後2.0ms時点でのキーホール6と溶融池3aの状態を示す断面模式図である。
図5は、本実施形態におけるレーザ照射開始後5.0ms時点でのキーホール6と溶融池3aの状態を示す断面模式図である。
図6は、本実施形態におけるレーザ照射停止後5.0ms時点でのキーホール6と溶融池3aの状態を示す断面模式図である。なお、
図3から
図6(および後述する
図7から
図10)は断面図を示しているが、説明の便宜上ハッチングの図示を省略している。
【0032】
図3に示すように、ノズルプレート1の表面に照射されるレーザ光5のパワー密度(単位面積当たりのレーザ出力)が例えば10
6 W/cm
2 以上になることで、ノズルプレート1およびノズル本体2の金属表面の温度が金属の沸点以上になり、プラズマの発生とともに金属蒸気7がレーザ光5の照射点から激しく飛び出し、その金属蒸気7の反動力で溶融金属面に凹み6aを形成する。
【0033】
その後、レーザ照射時間の増加に伴い、金属蒸気7の発生量が増える。また、レーザ光5がキーホール6と溶融池3aの境界面(キーホール6の壁)で反射を繰り返しながらキーホール6の内部にまで照射される。その結果、例えば、
図4に示すように、レーザ照射開始後2.0msまでに、キーホール6が徐々に深くなっていく同時に、キーホール6の周辺に溶融池3aが形成され、溶融池3aの体積が増えていく。
【0034】
そして、
図5に示すように、レーザ照射時間が5msになると、キーホール6が最深部まで到達し、キーホール6の形状も相対的に安定している。この場合、キーホール6内の金属蒸気7の圧力がキーホール6を一定の深さで維持する。
【0035】
図3から
図5に示すキーホール6が発生してから最深部に到達するまでの過程では、キーホール6の内部から金属蒸気7がキーホール6の外に飛び出していると当時に、キーホール6の外にあるシールドガスがキーホール6の内部に巻き込まれている。このため、キーホール6の内部には、金属蒸気7だけでなく、シールドガスも含まれている。
【0036】
ここで、キーホール6が最深部まで到達した後、さらにレーザ光5の照射を継続すると、キーホール6の深さはあまり増加しないが、キーホール6の底部の片側の壁にレーザ光5が過度に照射され、レーザ光移動方向と反対側に凹み8(後述する
図8参照)が生じてしまう。このような状態から溶融金属が凝固する際には、凹み8に巻き込まれたシールドガスがそのまま溶融池3aに進入し、凝固後に溶接金属の内部にシールドガスが残り、ポロシティ9(後述する
図9参照)の発生原因の一つになる。
【0037】
これに対し、本実施形態では、パルス幅Tpを5ms以下に設定することにより、
図5に示すように、キーホール6が最深部まで安定して到達した後に、レーザ光5の照射を停止するようになっている。これにより、キーホール6の底部の片側の壁にレーザ光5が過度に照射され、レーザ光移動方向と反対側に凹み8(後述する
図8参照)が生じないうちに、キーホール6の形成段階を終了し、キーホール6を閉じる段階に移行する。これにより、レーザ照射過程におけるポロシティの発生を防止する。
【0038】
そして、レーザ照射時間が5ms(Tp=5.0ms)の後にレーザ光5の照射を停止する。このように、レーザ照射を停止してから5ms経過した場合のキーホールの状態を
図6に示す。レーザ照射の停止により、金属蒸気7の発生量が少なくなるため、キーホール6内の圧力が急減し、キーホール6が短時間で閉じることになる。
【0039】
しかし、キーホール6の閉じ方は、底部から開口部まで徐々に閉じるものではなく、溶融池3aの溶融金属の影響によりキーホール6の中間部3bから先に閉じる可能性がある。キーホール6の中間部が底部より先に閉じた場合、閉じた中間部より下のキーホール6に残ったシールドガスがそのまま溶融金属内に進入し、凝固過程中にポロシティ9になる。
【0040】
これに対し、本実施形態では、パルス停止幅Tbを5msとしたため、キーホール6の中間部が底部より先に閉じる前に、次のパルスレーザの照射が開始する(
図2参照)。これにより、キーホール6の中間部が先に閉じることを防止し、レーザ照射停止過程におけるポロシティの発生を防止する。
【0041】
上記のようなパルス波形でレーザ照射と停止の過程を繰返すことにより、キーホール6の形成過程と消失過程を周期的に進行しながら、溶接を進めていく。その結果、
図7に示すようなポロシティを生じない溶接ビードが得られる。
【0042】
図7は、本実施形態における溶接ビード3の状態を示す断面模式図である。
図7に示すように、上記のパルス波形を用いた深溶込み型(キーホールモード)レーザ溶接により、溶接ビード3を備えた重ね溶接継手を得た。この重ね溶接継手において、例えば、ノズルプレート1の表面に形成される溶接ビード3の断面形状の表面幅は、0.6mmであり、ノズルプレート1の表面から溶接ビード3の底部までの全体の溶込み深さは、0.8mmであった。また、前記したように、ノズルプレート1の板厚が0.5mmであり、境界線(境界面4)から溶接ビードの底部までの深さは、0.30mmであった。
【0043】
このような溶接ビード3(溶接ビード断面形状)を有する重ね溶接継手について、顕微鏡で溶接部の組織および欠陥を観察した。その結果、溶接部に溶接割れ、ポロシティ、接合不良などの溶接欠陥は認められなかった。
【0044】
(比較例1)
次に、
図8を用いて、比較例1におけるキーホールの状態とポロシティの発生を説明する。
図8は、比較例1におけるレーザ照射開始後10.0ms時点でのキーホール6と溶融池3aの状態を示す断面模式図である。即ち、
図8に示す比較例1は、
図5に示すレーザ照射時間が5msになった時点から、さらにレーザ照射を継続し、レーザ照射時間が10ms(即ち、パルス幅Tp=10.0ms)とした場合である。
【0045】
図5に示すキーホール6がすでに最深部に到達した状態から、レーザ照射を継続しても、
図8に示すように、キーホール6の深さがほとんど増加しない。一方で、キーホール6と溶融池3aの境界面(キーホール6の壁)で反射したレーザ光5が、キーホール6の底部の片側の壁に過度に照射されることにより、壁面で金属が蒸発する際の反動力で、レーザ光移動方向と反対側に凹み8が生じてしまう。このようなキーホール6の底部の凹み8に巻き込まれたシールドガスが気泡となってそのまま溶融池3aに進入し、
図8の矢印に示す湯流れに沿って溶融池3aの中に移動するため、後の凝固過程で溶融池3aから外に脱出できなくなり、溶接ビード3の内部にポロシティ9を生じてしまう。
【0046】
図9は、比較例1における溶接ビード3の状態を示す断面模式図である。
図9に示す比較例1における溶接ビード3の形状とサイズは、
図7に示す本実施形態における溶接ビード3の形状とサイズとほぼ同じであるが、比較例1における溶接ビード3には、溶接金属内部に複数のポロシティ9が観察された。
【0047】
(比較例2)
次に、
図10を用いて、比較例2におけるキーホールの状態とポロシティの発生を説明する。
図10は、比較例2におけるレーザ照射停止後10.0ms時点でのキーホール6と溶融池3aの状態を示す断面模式図である。即ち、
図10に示す比較例2は、
図6に示すレーザ停止時間が5msになった時点から、さらにレーザ照射停止を継続し、レーザ停止時間が10ms(即ち、パルス停止幅Tb=10.0ms)とした場合である。
【0048】
レーザ照射時間が5msになった時点では、キーホール6がすでに最深部に安定に到達し、キーホール6の底部の片側の壁に凹み8(
図8参照)が形成される前にレーザ照射を停止した。しかし、その後のレーザ停止時間が10msであったため、キーホール6の中間部3bが閉じるまでの時間より長くなったため、レーザ照射を停止した期間において、キーホール6の中間部3bが底部より先に閉じた。その結果、中間部3b以下のキーホール6に残ったシールドガスがそのまま溶融金属内に進入し、凝固過程中にポロシティ9になった。
【0049】
<まとめ>
図11は、レーザ停止時間と、溶接ビード内に発生するポロシティ数と、の関係を示すグラフである。パルス停止幅Tbを変えながら溶接サンプルを作成し、作成した溶接サンプルに対して、X線透過検査を行い、溶接部のポロシティ数を計測した。なお、パルス幅Tpとパルス停止幅Tbは等しくした(Tp=Tb)。
【0050】
図11示すように、パルス幅Tpとレーザ停止時間Tbを5ms以下(パルス周期T(=Tp+Tb)10ms以下、パルス周波数100Hz以上)とした場合、溶接金属部のポロシティがほぼゼロになる。一方、パルス幅Tpとレーザ停止時間Tbを5msより大きくすると、溶接金属部のポロシティ数が急激に増加することがわかった。