(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工物に構造体を形成する前記ステップが、前記第2の位置に向かって荷電粒子ビームを導くステップであり、前記荷電粒子ビームが前記液体の反応を開始させて、前記表面に材料を付着させまたは前記表面から材料をエッチングするステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
前記加工物に構造体を形成する前記ステップが、前記液体に電流を流して、前記表面に材料を電気化学的に付着させまたは前記表面から材料を電気化学的に除去するステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
前記加工物に構造体を形成する前記ステップが、前記第2の位置に向かってレーザ・ビームを導くステップであり、前記レーザ・ビームが前記液体の反応を開始させて、前記表面に材料を付着させまたは前記表面から材料をエッチングするステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
前記第1の位置と前記第2の位置の間の前記チャネルの一部分の上にカバーを配置して、前記液体の蒸発を低減させるステップをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
微視的処理(microscopic processing)ではしばしば、加工物の正確な位置に少量の化合物を供給することが求められる。例えば、加工物のある領域に導かれた蒸気相前駆体分子は、荷電粒子ビーム、レーザ・ビームなどの焦束ビームの存在下で解離して、ある正確なパターンに従って材料を付着させまたは加工物をエッチングする。電子顕微鏡または光学顕微鏡を使用して画像化するために加工物表面の関心領域に塗布された染料またはマーカは、生体系内の構造体のコントラストを増大させることができる。加工物の表面に塗布した電解液を使用して、材料の局所的な電気化学付着または電気化学エッチングを実行することができる。加工物の微視的な反応領域内で反応物を混合して、所望の生成物を生成したり、またはある物質が存在するかどうかを試験したりすることができる。
【0003】
集束イオン・ビーム、電子ビームなどの荷電粒子ビームおよびレーザ・ビームはしばしば、加工物を処理するために化合物と一緒に使用される。例えば、ビームを使用して、材料を、「直接書込み付着(direct−write deposition)」としても知られているビーム誘起付着によって付着させることができる。直接書込み付着の1つの方法は、ビームの効果によって前駆体種が解離する電子ビーム、イオン・ビームまたはレーザ・ビーム刺激化学蒸着を使用する。解離した分子の一部は基板の表面に付着し、解離した分子の一部は揮発性副生物を形成し、この揮発性副生物は、最終的に加工物表面から放出される。この前駆体は例えば、付着させる金属を含む有機金属材料を含んだ蒸気とすることができる。この金属は実質的に、ビームが衝突したエリアだけに付着し、そのため、付着金属の形状を、ビームの分解能に近い分解能で正確に制御することができる。この前駆体は一般に、ビームが加工物に衝突する位置の近傍に前駆体ガスを導く針を使用して加工物表面に蒸気として送達される。イオン・ビーム支援付着プロセスは例えば、Kaito他の「Process for Forming Metallic Patterned Film」という名称の米国特許第4,876,112号明細書、およびTao他の「Ion Beam−Induced Deposition of Metals」という名称の米国特許第5,104,684号明細書に記載されている。
【0004】
ビーム誘起プロセスを使用して、加工物を正確にエッチングすることができる。このとき、ビームは、前駆体化合物と加工物の材料との間の反応を誘起して、表面を離れる揮発性化合物を形成する。荷電粒子ビームは、1/10ミクロンよりも小さなスポットに焦束させることができるため、荷電粒子ビーム・プロセスは、微視的構造体の高分解能製造、改変および画像化を提供する。荷電粒子ビームは真空中で機能し、レーザは大気中または真空中で機能することができる。
【0005】
さらに、荷電粒子ビームを使用して、例えば透過型電子顕微鏡法、走査電子顕微鏡法、走査イオン顕微鏡法、エネルギー分散型電子分光法およびオージェ電子分光法で、画像を形成すること、および微視的構造体の特性を調べることができる。染料、マーカなどの化合物を加工物の正確な位置に送達することが画像化および測定に役立つことがある。マーカは、電子ビーム画像のコントラストを向上させる重い元素を含むことができる。超分解能光学顕微鏡法における最近の進歩は、しばしば蛍光タンパク質などのマーカとともに使用されて、生体構造物の高分解能画像を提供する。加工物の画像化を強化する物質の使用の一例が、Mulders他の「Method for obtaining images from slices of specimen」という名称の米国特許第7,977,631号明細書に示されている。この文献は、荷電粒子ビーム処理および荷電粒子ビーム画像化での染色の使用を記載している。Muldersでは、加工物の新たに露出させた表面に気相染料を送達する。
【0006】
マイクロメートル規模およびナノメートル規模の構造体の処理は、生物科学、マイクロエレクトロメカニカル・システム(MEMS)および半導体製造を含む多くの分野で必要である。例えば、マイクロプロセッサなどの半導体デバイスは、いくつかのレベルで枝分かれする細い金属線によって相互接続され、絶縁材料の層によって互いから電気的に分離された数百万個のトランジスタからなることがある。生体センサは、分析物を検出する生体材料からなる微視的領域、変換器、ならびに解釈および検出が可能な信号を生成する電子回路を含むことがある。
【0007】
ビーム処理の1つの用途はデバイス編集(device editing)である。デバイス編集は、デバイスの開発中に、回路全体を製造し直す必要なしにデバイスを修正するプロセスである。デバイス編集は、処理コストと開発時間の両方を低減することによって極めて大きな経済的利益をもたらす。直接書込み付着および精密エッチングは、フォトリソグラフィ・マスクを変更する時間のかかる工程を経ずに、また、新しい回路をゼロから製作することなしに、技術者が、デバイスの変更を試験することを可能にする。
【0008】
直接書込み付着を使用して高純度の材料を得ることはしばしば難しい。これは主に、前駆体分子の他の成分またはガリウム・イオンなどの入射イオン・ビームからの元素が付着物に取り込まれることによる。このように組成、材料の純度または内部構造を制御できないことがしばしば付着材料の望ましくない特性につながる。集束イオン・ビーム(FIB)誘起付着によって付着させたタングステンおよび白金の抵抗率は一般に約150マイクロオーム・センチメートル(μΩ−cm)よりも大きい。最近導入されたFIB銅付着の抵抗率は30〜50μΩ−cmである。この抵抗率は、5μΩ−cm未満である純銅の抵抗率よりもかなり大きい。
【0009】
Gu他の「System for Modifying Structures Using Localized Charge Transfer Mechanism to Remove or Deposit Material」という名称の米国特許第7,674,706号明細書(以後「Gu」)は、局所的な電気化学処理を記載している。Guの方法は、イオン・ビーム誘起付着に比べて向上した純度および低い抵抗率を提供する。Guでは、集積回路の一部分の上に電解液の限定された液滴を付着させ、この液滴に接触したプローブから電解液次いで基板を通って流れる電流を使用して、付着またはエッチングを実行する。一実施形態では、液滴に接触させるプローブの代わりに荷電粒子ビームを使用して電流を供給する。回路は基板を通ることによって完成する。
【0010】
荷電粒子ビーム誘起付着は、必要な特性を有する蒸気相前駆体、すなわち表面における滞留時間が長く(粘着性が強く)、自然分解せず、ビームの存在下で分解して所望の材料を付着させ揮発性の副生物を形成する蒸気相前駆体が利用できるかどうかによって制限される。ある特定の材料に対して適当な付着前駆体が存在するときでも、ガス消耗効果および他の要因によって付着速度がしばしば制限される。一般に、前駆体分子によって真空室内の圧力は相当に上昇し、それによってビームが散乱することがある。前駆体分子の大部分は反応することなく真空ポンプによって除去され、それによって前駆体は無駄になる。前駆体はしばしば危険物質である。
【0011】
図1は、マイクロピペットまたはナノピペットを導電性表面の近くで使用して、導体を局所的に電気化学付着させる装置を示す。このような1つの方法が、Suryavanshi他、「Probe−based electrochemical fabrication of freestanding Cu nanowire array」、Applied Physics Letters 88、083103(2006年)(以後「Suryavanshi」)に記載されている。ガラス・ピペット102が、0.05M CuSO
4などの電解液104を保持する。電源106が、電気化学反応のための電流を供給し、銅電極108と導電性基板110の間に電気回路が形成される。この方法は一般に、光学顕微鏡での観察の下、大気中で実行される。表面を移動してパターンを書き込む装置は「ナノペン(nano pen)」と呼ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態は、マイクロ処理またはナノ処理のために、加工物表面に少量の液体を供給する。いくつかの実施形態は、正確な量の液体を分配し、その液体を、加工物の正確な位置に送達することができる。いくつかの実施形態は、荷電粒子ビーム・システムの真空室などの真空室内において特に有用である。いくつかの実施形態は真空室外でも有用である。
【0019】
本明細書で使用する用語「ナノ分配器」は、少量の液体を基板の表面に分配する装置を含む。ナノ分配器は例えばナノ毛細管、ナノ注射器、ナノピペットなどを含む。ナノ分配器は、加工物に対して移動して液体を分配することができ、または固定された位置から液体を分配することができる。
【0020】
ナノ分配器から液体を分配する速度は用途によって異なる。バブル(bubble)の見かけのサイズは、バブルから真空中への流体の蒸発とナノ分配器からバブルへの液体の供給との間の動的平衡によって決まる。そのため、ナノ分配器から流出する液体の流量を定量化することは、有意義ではあるが難しい。その代わりにバブルのサイズが定量化され、用途に対してはこの計量値の方がより有意義である。バブルのサイズは一般に50μm未満、より好ましくは10μm未満、最も好ましくは2μm未満である。
【0021】
この液体は、荷電粒子ビーム・プロセス、レーザ・プロセス、電気化学プロセス、生体試料の強化顕微鏡法およびナノまたはマイクロ化学反応器を含むさまざまなプロセスで使用することができる。本発明を使用することができるいくつかのプロセスが、参照によって本明細書に組み込まれている2011年9月9日に出願されたBotman他の「Localized In−Vacuum Modification of Small Structures」という名称の米国特許出願第6/236,587号明細書(以後「Botman」)に記載されている。例えば、分配する液体を電解液とすることができ、この電解液中を流れる電流が、表面に材料を電気化学的に付着させ、または表面から材料を電気化学的にエッチングする。
【0022】
Botmanは、この液体を使用して実質的に純粋な金属を付着させることができる用途を記載している。この金属は純粋であるため、その抵抗率は、タングステン材料や白金材料の既存のFIB誘起付着の抵抗率の1/40以下、導電性の銅材料のFIB誘起付着の抵抗率の1/10になることがある。その抵抗率は純金属のそれに匹敵し、例えば100μΩ−cm未満、より好ましくは50μΩ−cm未満、よりいっそう好ましくは25μΩ−cm未満または10μΩ−cm未満、最も好ましくは5μΩ−cm未満である。付着金属の純度は90%(原子パーセント)超、より好ましくは95%超、最も好ましくは99%超になることがある。複数の金属イオン種を含む溶液を使用して合金を付着させることもできる。
【0023】
いくつかの実施形態では、ナノ分配器が、走査電子顕微鏡(SEM)、集束イオン・ビーム(FIB)、環境制御型SEMなどの荷電粒子ビーム・システムの試料真空室内で機能する。環境制御型SEMは一般に、0.07トルから50トルの間の圧力の室内で試料を処理する。この圧力は、一般に10
-5ミリバール未満である従来のSEMまたはFIBの真空室内の圧力よりもはるかに高い。本発明のいくつかの実施形態で使用される液体は真空室内の圧力を上昇させるが、それでもその高い動作圧は、SEM、FIBまたは環境制御型SEMの動作限界内に収まりうる。いくつかの実施形態では、蒸気圧を低下させ、SEM、FIBまたは環境制御型SEM試料室内の使用圧力を動作限界内に維持するために、試料および/またはナノ分配器を冷却する。
【0024】
このプロセスを環境制御型SEMで使用するときには、SEM画像を使用して、ナノ分配器の位置決めおよび誘導を手動または自動で実行し、それによって付着パターンを高い精度で形成し、このプロセスを高い精度で監視することができる。SEMの高い分解能は、ナノ分配器および付着中またはエッチング中の材料の位置をパターン認識ソフトウェアを使用して観察し解釈する自動プロセスを容易にする。ナノ分配器の位置およびプロセスの状態、例えば付着物またはエッチングの形状を測定し、それらをプロセス・コントローラにフィードバックして、プロセスをリアルタイムで、すなわちプロセスの実行中に補正する。これによって閉ループ・フィードバック・システムが提供される。このような実施形態は、ナノ分配器の配置の正確さが光学顕微鏡の分解能によって制限される、Suryavanshiのシステムなどの先行技術のシステムの限界を克服する。
【0025】
Botmanに記載されているように、真空室内での使用は、前駆体の分解、電荷移動反応などの反応を誘起することができる荷電粒子ビームの使用を可能にし、その場合には、荷電粒子ビームを事実上の電極として使用することができる。表面に材料を直接に付着させる先行技術の電気化学的直接書込みプロセスは絶縁性の表面には適合しない。絶縁性の表面は電気化学回路の形成を妨げるためである。荷電粒子ビーム自体を事実上の陰極として使用し、導電性のナノ分配器を使用して電解液を局所的に分配する本発明の実施形態は、絶縁性の表面への付着を可能にする。電気化学反応用の電極は、加工物の既存の導体によって、またはビーム誘起付着もしくはビーム誘起注入によって付着させた導体によって供給することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、静水圧と対照をなす毛管力だけを使用してナノ分配器から流体を分配する。限定された送達のための流体の静水圧流では、流体と真空の界面において直径が大きくなることが避けがたく、その結果、制御不能の大量の流体が送達される。このタイプの用途における、圧力によって駆動された流れを使用する電解液毛管バブルの直径は、低真空において一般に30μmから50μmの間である。より正確な付着のためには、より小さな直径、例えば10μm未満の直径が好ましい。毛細管の直径が比較的に大きいときには、毛細管内の液体の両端に圧力差を与えることによって液体を容易に引き出すこと、すなわち毛細管の後端に圧力を加えて毛細管の先端から液体を押し出すことができる。先端の直径を非常に小さくすると、液体を押し出すのに実際的でない大きな静水圧が必要となるが、ナノ毛細管の端部を基板表面に接触させることによって、毛管作用を利用して液体を引き出すことができる。毛管作用は、液体と固体の間の付着力と表面張力とが合わさることによって生じる。
【0027】
液体の引出しに対して毛管作用の方が静水圧よりも優勢になるナノ分配器の直径は、液体の表面張力、液体とナノ分配器を構成する材料との間の付着力および液体と基板を構成する材料との間の付着力によって決まる。ナノ分配器がホウケイ酸ガラスからなり、液体が超純水であり、基板表面がシリコンであるとき、ナノ分配器の直径は好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm未満、最も好ましくは5μm未満である。
【0028】
いくつかの実施形態は、毛管力を使用して、制御された方法で流体の流れを規定し、表面の正確な位置に流体を供給し、適切な少量の液体を表面に送達する。このことは、ナノ分配器が表面/基板に接触しているときに、流体が、規定され制御された方法で流れることを可能にする。毛管流だけによって流体の流れを生じさせると、(1)ナノ毛細管が表面に接触しているときにだけ流れが導かれ、(2)より少量の流体を送達することができ、(3)表面の正確な位置に流体を供給して高分解能処理を支援することができる。
【0029】
直接書込みプロセスは、ナノ分配器によって送達された電解液バブルに向かってまたは電解液バブルのごく周辺に荷電粒子ビームを導くことだけに限定されている。このことが、電気的に分離されたエリアの微小構造体を改変することを難しくしている。Botmanによれば、電解液バブルから拡散した非常に薄い電解液層のために、電解液自体から離れた位置で付着が起こることがある。この薄い液体コーティングは急速に蒸発し、そのプロセスに関係しないエリアを被覆することがあり、このことが望ましくないことがある。本明細書に記載した流れチャネルの使用は、加工物表面の処理に関係しないエリアを液体が汚染することを防ぐ。
【0030】
電解液は局所的に分配されて小さな面積をめっきするため、電気めっき浴は必要ない。加工物のほとんどの部分は乾いたままである。使用する具体的なめっき液は用途によって異なる。当技術分野では多くの電気めっき液が知られている。例えば、適当な1つのめっき液は、ENTHONE ViaForm(登録商標) Make−up LAを含み、これにENTHONE ViaForm(登録商標) Accelerator 5ml/lおよびENTHONE ViaForm(登録商標) Suppressor 2ml/lを加える。これらのENTHONE ViaForm(登録商標)溶液は、米コネチカット州West HavenのEnthone,Inc.から入手可能である。さらに、このナノ分配器を使用して、Cu、W、Au、Pt、Pd、Ag、Ni、Cr、Al、Ta、Zn、Fe、Co、Reなどの金属およびこれらの金属からなる合金を書き込むことができる。
【0031】
図2は、集束イオン・ビーム・システム、環境制御型走査電子顕微鏡206などの荷電粒子ビーム・システムの試料真空室204内での荷電粒子ビーム付着または荷電粒子ビーム・エッチング用の液体前駆体をナノ毛細管202を使用して供給する本発明の一実施形態を示す。ナノ毛細管202は、液体前駆体208などの液体を加工物表面210のチャネル209に送達することができる。液体前駆体には例えば、ビーム支援付着またはビーム支援エッチング用のCuSO
4、ウェット・エッチング用のKCN、FeCl
3などが含まれる。チャネル209は集積点211まで延び、集積点211には、荷電粒子ビームによる処理またはいくつかの実施形態ではレーザ・ビームによる処理用の液体を集積させる。液体前駆体は、表面210にバブル214を形成する。ナノ毛細管202と表面210が接触する点の周囲に別のバブル215が形成されることもある。ナノ毛細管は、チャネル内で、または液体前駆体がチャネルに流入することができるチャネルに十分に近い位置で、加工物表面と接触することができる。ナノ毛細管は、ナノ毛細管自体ではないが、液体のメニスカス(meniscus)が表面と接触するように、加工物表面よりもわずかに高い位置に配置することができる。加工物表面は親水性でもまたは疎水性でもよいが、親水性表面の方が好ましい。ナノ毛細管202は、マイクロマニピュレータ212に取り付けられている。マイクロマニピュレータ212は、3軸方向の移動および毛細管の軸に沿った回転を提供することが好ましい。いくつかの実施形態では、Botmanに記載されているように、荷電粒子ビーム・システムの一般的な附属装置である改造されたガス注入システムを、マイクロマニピュレータとして使用することができる。
【0032】
ガス分子による1次電子ビーム231の散乱を低減させるため、圧力制限絞り230が、電子光学カラム真空室232と試料真空室204の間の圧力差を維持する。したがって、液体前駆体208が蒸発すると試料真空室204内の圧力は高まるが、電子光学カラム真空室232内の圧力の上昇はそれよりもはるかに小さくなる。いくつかの実施形態では、基板位置における相対湿度を室の残りの大半の部分に比べて変化させるために、試料を、例えば熱電冷却器238または熱電加熱器(図示せず)によって冷却または加熱することが好ましい。いくつかの実施形態では、ナノ毛細管も、例えば熱電冷却器または熱電加熱器(図示せず)によって冷却または加熱する。
【0033】
環境制御型走査電子顕微鏡206によってこの処理を観察することができる。この場合には、電子ビーム231が、材料が付着している領域を走査し、電子ビーム231が衝突すると2次電子234が放出される。2次電子234は、ガス・カスケード増幅によって増幅され、電極240によって検出されて画像を形成する。この画像のそれぞれの点の明るさは、電極240によって検出された電流に対応する。この画像を使用して、付着またはエッチングの進捗を監視、調整して、操作者にリアルタイム・フィードバックを提供することができる。付着中またはエッチング中に、この画像を使用して、ナノ毛細管202の位置決めおよび誘導を実施することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、この付着またはエッチングを自動化することができる。画像処理プロセッサ250が、パターン認識ソフトウェアを使用して、ナノ毛細管およびナノ毛細管の周囲の基板を認識する。コントローラ252が、マイクロマニピュレータ212を介して、ナノ毛細管の移動を、所定のパターンに従うように制御する。電子顕微鏡からの画像は、閉ループ・フィードバックのためのリアルタイム位置情報を提供することができ、そのため、その所望のパターンを表面210に描くようにナノ毛細管202の位置を制御することができる。付着パターンまたはエッチング・パターンを観察して、付着プロセス、例えばナノ毛細管の速度またはナノ毛細管が表面と接触するときの圧力を調整することもできる。
【0035】
前述のとおり、毛細管または液体が表面に接触したときに、液体が、静水圧によってではなく毛管作用によってナノ毛細管から流出するように、ナノ毛細管の直径は十分に小さいことが好ましいが、後にさらに説明するように、ナノ毛細管の熱力学的な自己冷却およびその後の凍結によってナノ毛細管が塞がってしまうほどには小さくないことが好ましい。
【0036】
図3は、
図2のシステムの動作を示す本発明の一実施形態に基づく流れ図である。ステップ302で、例えばBotmanに記載されている電解液をナノ毛細管に充填する。ステップ304で、ナノ毛細管および加工物を、集束イオン・ビーム・システムの真空室内に配置する。ナノ毛細管の向きを定め、ナノ毛細管を位置決めし、ナノ毛細管を移動させることができるように、ナノ毛細管は、マイクロマニピュレータ内に配置することが好ましい。試料は一般に可動3軸ステージ上に置かれる。ステップ306で、真空室を排気して、焦束ビーム・プロセスに対して許容される真空を生み出す。この真空は一般に、高真空モードで動作している場合には10
-5トル(1.3×10
-5ミリバール)未満、環境制御モードで動作している場合には0.07〜50トル(0.09ミリバール〜65ミリバール)である。
【0037】
ナノ分配器を加工物表面に接触させることによって流体を配置するときには、ナノ分配器が加工物に接触する正確な位置およびナノ分配器から流出する流体の正確な量を正確に制御することが難しいことがある。いくつかの実施形態は、加工物のチャネルを使用して、表面の1つまたは複数の位置に液体を導く。
【0038】
ステップ308で、流体の流れを導くためのチャネルを加工物に形成する。このチャネルは、適当な任意のプロセスを使用して形成することができる。例えば、集束イオン・ビームを、エッチング強化前駆体ガスとともにまたはエッチング強化前駆体ガスなしで使用して、チャネルを形成することができる。電子ビーム誘起エッチングまたはレーザによってチャネルを形成することもできる。レーザは例えば、アブレーションによってチャネルを形成する超高速パルス・レーザとすることができる。より低速のパルス・レーザ、連続レーザなどの他のタイプのレーザ、および光化学エッチング、光熱誘起エッチングなどの他のレーザ・プロセスを使用することもできる。フォトリソグラフィを使用してチャネルを形成することもできる。
【0039】
図4は、集束イオン・ビームを使用してミリングしたチャネル構造の一例400を示す。この試料は、集積領域402および輸送チャネル404を含む。渦巻形の集積領域が示されているが、任意の形状を使用することができる。集積領域は、隣接するチャネル内の液体が互いに接触し一体になる十分に近い距離のところに配置された複数のチャネルを含むことが好ましい。このチャネルは、ナノ毛細管が基板に接触する位置を正確に決定することができない場合であっても液体を正確な位置に送達することを可能にする。ナノケミストリ反応を実行するために、複数のチャネルを使用して、少量の液体を混合することができる。すなわち、複数のナノ分配器によって少量の液体を異なる位置に分配することができる。この液体は、複数のチャネルをたどって共通の作業領域に移動することができ、液体はそこで混合して一体となり、反応する。この液体は速やかに移動する。例えば、この液体は10秒未満で数十ミクロンを移動する。一実施形態では、100ミクロンよりも長いチャネルが示されている。いくつかの実施形態では集積領域が必要ない。輸送チャネル自体を、液体を供給したい場所および処理を実行する場所とすることができる。
【0040】
チャネルの上面を横切る寸法は、好ましくは0.1μmから30μmの間、より好ましくは0.1μmから10μmの間、より好ましくは0.1μmから5μmの間である。チャネルの深さは、好ましくは0.1μmから20μmの間、より好ましくは0.1μmから10μmの間、より好ましくは0.1μmから5μmの間である。チャネルの長さは、好ましくは0.1μmから500μmの間、より好ましくは0.1μmから200μmの間である。チャネルはまっすぐでももしくは曲がっていてもよく、またはある角度で接合する複数の線分を含んでいてもよい。複数のチャネルを結合してより少数のチャネルを形成することができる。チャネルをより多数のチャネルに枝分かれさせることができる。チャネルは、任意に、より大きな流体集積エリアを通るように始まり、終端し、および/または横切ることができる。輸送される流体が相互作用しまたは相互作用しないように設計された距離を隔てて、複数のチャネルを互いに並べて配置することができる。
【0041】
蒸発を低減させるため、任意選択のステップ310で、チャネル404の一部分を覆う。
図5は、チャネル404の一部分の上のカバー502を示す。このカバーは例えば、前駆体ガスを使用した荷電粒子ビーム誘起付着によって形成することができる。チャネルを埋めることなくカバーを形成するため、このカバーは例えば、導管の両側に壁を構築し、それらの壁をチャネルの中央に向かって徐々に延ばすことによって形成することができる。予め形成しておいたガラス・カバー、シリコン・カバーなどのカバーを、チャネルの上の所定の位置に、例えばマイクロマニピュレータを使用して置くことによって、チャネルの一部分を覆うこともできる。
【0042】
ステップ312で、輸送チャネル404上のどこかにナノ毛細管を配置する。この配置は、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡または走査イオン顕微鏡を使用してナノ毛細管および試料を観察することによって容易にすることができる。ステップ314で、チャネル上のどこかで、ナノ毛細管を移動させて試料の表面に接触させ、液体が流出し始める。一般に、輸送チャネル404上のどこかにナノ毛細管を配置することは、輸送チャネル404上のある正確な点にナノ毛細管を配置することよりも容易である。さらに、輸送チャネル404を使用して、ナノ毛細管が表面に接触している位置から別の離れた位置へ液体を輸送することにより、処理ビームを遮ることがあるナノ毛細管による妨害が排除されることによって、処理が容易になることがある。ステップ316で、液体は、導管領域を通って集積領域に流入する。液体は、表面張力によりチャネル内に引き込まれ、表面張力によりチャネル内を流れる。
図6は、チャネル404上で加工物表面に接触したナノ毛細管602を示す顕微鏡写真であり、集積点402に集積した液体604を示している。いくつかの実施形態では複数の集積領域が存在する。いくつかの実施形態では集積領域が存在せず、処理は、チャネル内の流体に対して実行される。
【0043】
ステップ320で、流体が存在する領域を処理する。処理は例えば、この液体のある領域に荷電粒子ビームまたはレーザ・ビームを導くことを含む。この液体は例えば、荷電粒子ビームまたはレーザ・ビームの存在下で分解して加工物に材料を付着させる前駆体材料とすることができる。この液体を、荷電粒子ビームまたはレーザ・ビームの存在下で反応して加工物表面をエッチングして揮発性合成物を形成する前駆体材料とすることもできる。この揮発性合成物は真空ポンプによって真空室から除去される。この液体を染料とすることもでき、または加工物の材料と反応する反応性液体とすることもできる。Botmanに記載されているように、この液体を、表面に材料を電気化学的に付着させるためまたは表面から材料をエッチングするために使用する電解液とすることもできる。この液体を電気化学反応の電解液として使用するときには、ナノ毛細管に取り付けられた導体、例えば導電性コーティングまたはナノ毛細管の内部の細い導線によって、電気化学回路の一方の電極を構成することができる。電気化学回路のもう一方の電極は、加工物の既存の導体もしくは加工物に付着させた導体によって構成することができ、または荷電粒子ビームを事実上の電極として使用することもできる。
【0044】
図7は、本発明で使用するナノ毛細管を準備する1つの方法を示す流れ図である。出発材料は例えば、充填を助ける内部フィラメントを有する内径0.5mmのホウケイ酸塩の管とすることができる。このようなナノ毛細管は、米カリフォルニア州NovatoのSutter Instruments Companyから市販されている。ステップ702で、ナノ毛細管を洗浄し、加熱乾燥する。ステップ704で、ナノ毛細管を加熱し、管の長軸に沿って圧力を加えて、ナノ毛細管の端部に、好ましくは100nm未満の小さな先端を形成する。このステップは「プリング(pulling)」と呼ばれ、市販の「プラー(puller)」を使用して実行することができる。このプラーも、Sutter Instruments Companyから入手可能である。
【0045】
任意選択のステップ706で、ナノ毛細管を導体でコーティングする。例えば、ナノ毛細管を金でスパッタ・コーティングすることができる。好ましくは、コーティングする前に、細くしなかった方のナノ毛細管の端部を例えばアルミニウム箔で覆って、充填に使用されるこの端部の内径が、スパッタリングされた材料によって小さくなることを防ぐ。効率的であった具体的な手順は、15mAの直流マグネトロン・スパッタ電流で、ナノ毛細管の2つの面をそれぞれ8分間コーティングする手順である。効率的であった別の具体的な手順は、15mAでナノ毛細管のそれぞれの面をCuで4分間コーティングし、続いて15mAでナノ毛細管のそれぞれの面をAuで6分間コーティングする手順である。この手順では、Cuが、Au層の接着層の役目を果たす。
図8は、導電性コーティング804でコーティングした後のナノ毛細管802の先端を示す。
【0046】
ステップ708で、集束イオン・ビームを使用して先端をナノ毛細管の長軸に対して直角に切削するため、ナノ毛細管の先端の向きを調整する。ステップ710で、先端を切削する。
図9は、切削して、ナノ毛細管802の端部に開口902を露出させた後のナノ毛細管を示す。ステップ712で、ナノ毛細管の長軸に対して平行なスリット1002が先端に切削されるように、ナノ毛細管の向きを変更する。
図10はスリット1002を示す。先端のこれらのスリットは、ナノ毛細管からの液体の流出を容易にする。4つのスリット1002が示されているが、それよりも少数のまたはそれよりも多数のスリットを使用することもできる。また、これらのスリットがナノ毛細管の壁を完全に貫通する必要はない。ナノ毛細管の内面に切られた溝を使用することもできる。これらのスリットは、先行技術のナノ毛細管よりも信頼性の高い流れを提供する。
【0047】
ナノ毛細管を形成した後、ステップ714で、ナノ毛細管に対する充填を実施する。前述のとおり、本発明のいくつかの実施形態は、電解液が静水圧によってではなく毛管作用によって流出するのに十分な小さな内径を有するナノ毛細管を使用する。充填する液体の表面張力のため、ナノ毛細管の小さな直径は充填を困難にする。真空室内においてナノ毛細管が基板に接触したときに信頼性の高い再現可能な毛管流が得られるかどうかは、ナノ毛細管の先端の形状および電解液がナノ毛細管に適切に充填されているかどうかによって決まる。ナノ毛細管に充填する1つの方法がBotmanに記載されており、この方法も後に説明する。
【0048】
ステップ716で、ナノ毛細管をマイクロマニピュレータに取り付ける。接合部に銀ペイントを塗布することによって、ナノ毛細管の表面の導電性コーティングとマイクロマニピュレータの金属との間の電気接触を良好にすることができる。銀の乾燥には約10〜20分かかり、一般に2層の銀を塗布する。これでナノ毛細管を使用する準備は完了である。ステップ718で、液体を分配する位置にナノ毛細管を配置し、次いで、ステップ720で、ナノ毛細管を加工物表面に接触させる。ナノ毛細管から基板または表面への流れは主に毛管力よって生じる。そのため、ナノ毛細管の先端は、流れを誘起するために基板に直接に接触する。
【0049】
ナノ毛細管に充填する1つの方法がBotmanに記載されている。
図11は、ナノ毛細管に充填する1つの方法を示す。
図12は、
図11に示した方法のさまざまなステップを示す。
図12は、Donnerrneyer、A.の学位論文「Scanning Ion−Conductance Microscopy」、2007年、Bielefeld(ドイツ)、Bielefeld大学の
図4.3を部分的に改作したものである。
図12Aは、充填を容易にするための内部フィラメント1202を含むナノ毛細管1200を示す。
図12Bに示すステップ1102で、マイクロローダ1206を使用して後部からナノ毛細管に充填することにより、ナノ毛細管内に流体1204を配置する。マイクロローダは、直径約500ミクロン以下であるナノ毛細管の後部にはめ込むことができる先端を有する注射器である。
図12Cのメニスカス1210によって示されているように、ナノ毛細管内の内部フィラメントによって一部の流体1204は先端に移動するが、ナノ毛細管1200の直径が小さいため、多くの流体は先端から離れた位置に留まる。ナノ毛細管内の流体がナノ毛細管の後端から真空中に蒸発することを防ぐため、任意選択のステップ1104で、ナノ毛細管の後端を、真空適合性の(vacuum compatible)材料1208で密封する。このような1つの材料は真空適合性のワックスである。使用するワックスは例えばApiezon Wax Wとすることができる。穏やかな熱(約110°C)を使用して、このワックスを溶かすことができ、良好な真空密シールを提供することができる。したがって流体はナノ毛細管の内部に有効に封入される。
【0050】
ナノ毛細管の先端への充填を容易にするため、特製の遠心器にナノ毛細管を入れる。特製の遠心器の一例は、12Vのコンピュータ・ファンであるStarTechのモデルFAN 3701Uのロータを使用する。ステップ1106で、この遠心器を、例えば5000rpmで例えば30分間動かす。この操作条件は、再現可能で信頼性の高いナノ毛細管の先端への流体の充填を達成するのに十分である。
図12Dは、ステップ1106の後のナノ毛細管を示し、このナノ毛細管は、先端に流体が追加されていることを、メニスカス1210の移動によって示している。
【0051】
この液体の流れを制御することができることを本出願の出願人は見出した。ナノ毛細管から流体が流出する過程は動的過程である。
図13は、ナノ毛細管からの流出と蒸発の間の平衡を示す。バブル/液滴が存在するためには、ナノ毛細管から流出する流体の流量Aが蒸発速度Bと整合していなければならない。使用者から見ると液滴は不変だが、実際にはこの状況は非常に動的であるため、この見かけは誤解を生みやすい。蒸発速度Bが毛細管からの流量Aと整合しているとき、液滴は安定している。
【0052】
図14は、
図13のAおよびBを表す2本の曲線を示す。蒸発速度は温度に依存する。温度が上昇するにつれて蒸発(B)は増大する。温度が低下すると、ナノ毛細管の先端の流体が(蒸発冷却によって)凍結し、有効先端直径が低減することがある。先端直径の低減は、ナノ毛細管(A)から流出しうる流体の量を低減させる。以下の4つの状況が識別された:(1)先端はほぼ完全に閉塞しており、ごくわずかな流れしか生じていない;(2)先端は部分的に閉塞しており、最大流量を下回っている;(3)先端は全く閉塞しておらず、最大流量が得られている;(4)蒸発が支配的であり、使用者にはバブル/液滴が見えない。
図15は、
図14と同じ情報を表す。
図14に示した4つの状況における有効液滴サイズが温度に対して示されている。
【0053】
図16は、大気圧から真空への室の最初の減圧の間に起こることを示す流れ図である。条件は、真空室内の圧力が低下しているときには、液体の凍結によって、ナノ毛細管が閉鎖されるというような条件とすることができる。十分な時間(ほんの数分)が経過した場合に、この系は「流出停止」状態に達し、ナノ毛細管は有効に閉鎖される。この閉鎖は、室を減圧した後に、ナノ毛細管を、使用準備ができた状態に長時間置いておくのに十分なものである。ブロック1602で、真空室の排気を開始する。すなわち真空室を動作圧力まで減圧する。ブロック1604で、液体が先端から流出し液滴を形成する。流量は有効先端直径によって決まる。ブロック1606は、蒸発速度が室圧に依存すること、および減圧を制御することによって蒸発速度を制御することができることを示している。ブロック1608は、液体が蒸発すると液体が冷やされることを示しており、ブロック1610は、先端の液体が凍結することを示している。ブロック1612で、有効先端直径が低減する。先端が完全には閉塞していない場合には、ブロック1604で、先端から流体が流出し続ける。判断ブロック1614で先端が完全に閉塞している場合、ブロック1616に示されているように流出は止まる。ナノ毛細管は、後続の処理に備えて数時間の間この状態を維持することができる。
【0054】
図17は、ナノ毛細管が基板に接触した後に加工物温度と液体の蒸発冷却とがどのように平衡に達するのかを示す流れ図である。この平衡が有効先端直径を決定し、有効先端直径がナノ毛細管からの流体の流出を決定する。したがって、
図17は、液体、加工物もしくはこれらの両方の温度および/または室圧を制御することによって真空室内のナノ毛細管を通過する液体の流れを制御する1つの方法を示す。高真空動作モードでは、真空室の圧力が一般に10
-4ミリバール未満、より好ましくは10
-5ミリバール未満、最も好ましくは10
-6ミリバール未満である。環境制御動作モードでは、真空室の圧力が一般に0.1ミリバールから60ミリバールの間、より好ましくは0.1ミリバールから20ミリバールの間、最も好ましくは0.1ミリバールから10ミリバールの間である。2つの状態すなわち「流出」および「非流出」状態は最終的な状態ではなく、十分な時間または条件の変更が与えられた場合には他方の状態へ遷移しうる。ブロック1702で、ナノ毛細管を加工物に接触させる。判断ブロック1704でナノ毛細管が塞がっていない場合、液体はナノ毛細管から加工物へと流れる。ブロック1706に示されているとおり、このときの流量は有効先端直径に依存する。ブロック1708で、ナノ毛細管から流出した液体が蒸発する。この蒸発は、室圧および液体の温度に依存する。ブロック1710は蒸発冷却を示している。ブロック1712は、短い時間枠内では、先端を、熱的に閉じた系とみなすことができることを示している。そのため、ブロック1712で、先端は冷え、先端の液体の一部が凍結し、ブロック1714で、有効に先端直径が低減する。判断ブロック1716で先端が完全に閉塞している場合、ブロック1730に示されているように流出は起きない。先端が完全には閉塞していない場合、ブロック1718で液体の流出は続き、液体の流出は平衡流量を達成することができる。流量を増大させたい場合には、ブロック1722で加工物の温度を上昇させ、ブロック1720で新たな長期平衡に達するまでその昇温を続けることができる。ブロック1706で液体は流出し続ける。
【0055】
判断ブロック1716で先端が完全に閉塞していることが分かった場合には、ブロック1734で基板温度を変化させる。ブロック1732で時間が経過すると、ブロック1736で新たな長期熱平衡に達する。基板温度が、先端の凍結した液体を溶かすのに十分な温度である場合、ブロック1742では有効先端直径が増大しており、ブロック1706で液体は流出し続ける。
図17の方法は、
図10のナノ毛細管または他の任意のナノ分配器をともに使用することができる。
【0056】
本出願の出願人は、水性の液体を使用して、10ミクロンよりも小さい液滴を一貫して生み出すことができた。
図18Aは、加工物に接触する前のナノ毛細管を示す。
図18Bは、接触した後の、室がまだ高真空モードにあるときの、小さな液滴を有するナノ毛細管を示す。
図18Cは、ある時間が経過した後の液滴を示し、この図は、液滴が、4ミクロンという小さな直径を有することができることを示している。この液体は、好ましくは直径30μm未満、より好ましくは直径10μm未満、最も好ましくは直径2μm未満のバブルを形成することができる。
【0057】
図19は、本発明のいくつかの実施形態で使用することができる別の毛細管1900を示す。
図19のナノ毛細管は先端付近にスリットを含まない。このナノ毛細管は、Botmanに記載されているように、斜めに切られた先端1902および位置合せマーク1904を含む。
【0058】
本発明のナノ毛細管は、少量の液体の分配を必要とする任意のシステムで使用することができる。例えば、
図20は、電気化学付着または電気化学エッチング用の電解液をナノ毛細管を使用して分配するシステムを示す。
【0059】
荷電粒子ビーム真空室内で使用するのに適した実施形態の使用は、加工物を真空室に繰り返し出し入れすることなしに、荷電粒子ビーム処理を必要とするステップおよび電気化学処理を必要とするステップを実行することを可能にする。このような実施形態は、処理ステップと処理ステップの間に真空室を適切な真空まで減圧する時間のかかるステップを排除する。さらに、加工物が真空室内に維持されることによって汚染が低減する。
【0060】
ナノ分配器が表面に接触した位置からチャネルを使用して液体を導くこと、ナノ分配器の先端にスリットまたは溝を使用すること、前述の流体の流れの制御など、本発明の多数の態様が新規の態様であると考えられる。例えば、本発明の実施形態では、
図10に示したナノ毛細管だけでなく、Botmanに記載されている
図19に示したナノ毛細管を使用することもできる。
【0061】
図2は、ビーム誘起プロセスでの本発明の使用を示す。
図20は、電気化学付着または電気化学エッチングに対する本発明の使用を示す。
【0062】
図20は、環境制御型走査電子顕微鏡などの荷電粒子ビーム・システム2006の試料真空室2004内での電気化学付着または電気化学エッチングに対してナノ毛細管2002が使用される本発明の一実施形態を示す。ナノ毛細管2002は、電解液2008を表面2010に送達する目的に使用される。いくつかの実施形態では、チャネル2009が、ナノ毛細管2002が表面2010に接触する位置を、処理位置2011に対応する集積点に接続する。
図4および6に関する説明と同様に、電解液はチャネルを流れ、集積点にバブル2014を形成する。他の実施形態では、電解液を送達するのに
図10のナノ毛細管が使用され、
図17の方法を使用して流体の流れを制御する。
【0063】
表面は親水性でもまたは疎水性でもよいが、親水性表面の方が好ましい。ナノ毛細管2002は、マイクロマニピュレータ2012に取り付けられている。マイクロマニピュレータ2012は、3軸方向の移動および毛細管の軸に沿った回転を提供することが好ましい。いくつかの実施形態では、荷電粒子ビーム・システムの一般的な附属装置である改造されたガス注入システムを、マイクロマニピュレータとして使用することができる。電気化学付着のための一方の電極は、ナノ毛細管2002の表面の導電性コーティング2018またはナノ毛細管2002の内部もしくは表面の導線(図示せず)によって提供される。ナノ毛細管に結合されたこの電極は正にバイアスされる。いくつかの実施形態では、表面2010が導電性であり、表面2010は、電気化学処理のための第2の接点となる電極2024に、試料基板2020または表面プローブ(図示せず)を介して接続される。他の実施形態では、荷電粒子ビームが、電気化学反応のための電荷を供給する事実上の陰極または陽極として機能することができる。
【0064】
ガス分子による1次電子ビーム2031の散乱を低減させるため、圧力制限絞り2030が、電子光学カラム真空室2032と試料真空室2004の間の圧力差を維持する。したがって、電解液2008が蒸発すると試料真空室2004内の圧力は高まるが、荷電粒子ビーム光学カラム真空室2032内の圧力の上昇はそれよりもはるかに小さくなる。いくつかの実施形態では、基板位置における相対湿度を室の残りの大半の部分に比べて変化させるために、試料を、例えば熱電冷却器、熱電加熱器などの冷却器または加熱器2038によって冷却または加熱する。いくつかの実施形態では、ナノ毛細管も、例えば熱電冷却器または熱電加熱器によって冷却または加熱する。
【0065】
環境制御型走査電子顕微鏡2006によってこの電気化学付着または電気化学エッチングを観察することができる。この場合には、電子ビーム2031が、材料が付着している領域を走査し、電子ビーム2031が衝突すると2次電子2034が放出される。2次電子2034は、ガス・カスケード増幅によって増幅され、電極2040によって検出されて画像を形成する。この画像のそれぞれの点の明るさは、電極2040によって検出された電流に対応する。この画像を使用して、電気化学付着または電気化学エッチングの進捗を監視、調整して、操作者にリアルタイム・フィードバックを提供することができる。付着またはエッチング中に、この画像を使用して、ナノ毛細管2002の位置決めおよび誘導を実施することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、この付着またはエッチングを自動化することができる。画像処理プロセッサ2050が、パターン認識ソフトウェアを使用して、ナノ毛細管およびナノ毛細管の周囲の基板を認識する。コントローラ2052が、マイクロマニピュレータ2012を介して、ナノ毛細管の移動を、所定のパターンに従うように制御する。電子顕微鏡からの画像は、閉ループ・フィードバックのためのリアルタイム位置情報を提供することができ、そのため、その所望のパターンを表面2010に描くようにナノ毛細管2002の位置を制御することができる。付着パターンまたはエッチング・パターンを観察して、付着プロセス、例えばナノ毛細管の速度またはナノ毛細管が表面と接触するときの圧力を調整することもできる。
【0067】
前述のとおり、毛細管が表面に接触したときに、電解液が、静水圧によってではなく毛管作用によってナノ毛細管から流出するように、ナノ分配器の直径は十分に小さいことが好ましい。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態によれば、真空室内で加工物を処理する方法は、真空室内で加工物の表面にチャネルを形成するステップと、チャネルの第1の位置に液体を分配するステップであり、この液体が、チャネルを通って加工物の第2の位置まで流れるステップと、加工物の第2の位置に荷電粒子ビームを導くステップであり、この荷電粒子ビームがこの第2の位置の液体と反応して、加工物に構造体を形成するステップとを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、加工物に構造体を形成する前記ステップが、第2の位置に向かって荷電粒子ビームを導くステップであり、この荷電粒子ビームが前記液体の反応を開始させて、表面に材料を付着させまたは表面から材料をエッチングするステップを含む。いくつかの実施形態では、加工物に構造体を形成する前記ステップが、前記液体に電流を流して、表面に材料を電気化学的に付着させまたは表面から材料を電気化学的に除去するステップを含む。いくつかの実施形態では、加工物に構造体を形成する前記ステップが、第2の位置に向かってレーザ・ビームを導くステップであり、このレーザ・ビームが前記液体の反応を開始させて、表面に材料を付着させまたは表面から材料をエッチングするステップを含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、表面にチャネルを形成する前記ステップが、基板に向かってイオン・ビームを導いて材料を除去し、それによってチャネルを形成するステップを含む。いくつかの実施形態では、表面にチャネルを形成する前記ステップが、基板に向かって光子ビームを導いて材料を除去し、それによってチャネルを形成するステップを含む。いくつかの実施形態では、チャネルに液体を分配する前記ステップが、付着前駆体、エッチング前駆体または電解液を分配するステップを含む。いくつかの実施形態では、この方法がさらに、第1の位置と第2の位置の間のチャネルの一部分の上にカバーを配置して、液体の蒸発を低減させるステップを含む。
【0071】
いくつかの実施形態によれば、真空室内で加工物に液体を分配する方法は、先端の直径が50μm未満で、少なくとも1つのスリットが切られているナノ毛細管を用意するステップであり、前記少なくとも1つのスリットがナノ毛細管の先端まで延びているステップと、ナノ毛細管の先端を加工物表面に接触させて、ナノ毛細管から加工物に液体を分配するステップとを含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、ナノ毛細管の先端を加工物表面に接触させて、ナノ毛細管から加工物に液体を分配する前記ステップが、ナノ毛細管の先端を加工物表面に接触させて、ナノ毛細管から加工物に液体を、主に毛管力を使用して分配するステップを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、この方法がさらに、加工物表面にビームを導いて前記液体が関与する反応を開始させ、それによって表面に材料を付着させまたは表面から材料をエッチングするステップを含む。いくつかの実施形態では、表面にビームを導く前記ステップが荷電粒子ビームを導くステップを含む。いくつかの実施形態では、ナノ毛細管の先端を加工物表面に接触させて、ナノ毛細管から加工物に液体を分配する前記ステップが、直径50μm未満の液滴を表面に分配するステップを含む。いくつかの実施形態では、直径50μm未満の液滴を表面に分配する前記ステップが、直径10μm未満の液滴を分配するステップを含む。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態によれば、液体ナノ分配器は、液体を収容するための中空の管を含み、この中空の管の先端の内径は50ミクロン未満であり、この管の内部から接触した加工物表面へ毛管作用によって流体が流れるのを容易にするために、この管の先端は、この管の開口まで延びるスリットを含む。いくつかの実施形態では、この中空の管が導電材料でコーティングされている。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、真空内でナノ分配器からの液体の流れを制御する方法は、真空室内でナノ分配器を加工物の表面に接触させて、ナノ分配器の先端に液体のバブルを形成するステップと、真空室内の圧力を調整して、バブルの蒸発速度を制御するステップと、液体の温度を調整して、バブルに流入する液体の流量を制御するステップとを含み、バブルの蒸発速度とバブルに流入する液体の流量との間の平衡がバブルのサイズを決定する。
【0076】
いくつかの実施形態では、液体の温度を調整する前記ステップが、ナノ分配器の温度または加工物の温度を調整するステップを含む。いくつかの実施形態では、液体の温度を調整する前記ステップが、ナノ分配器の先端の開口のサイズを調整することによって、ナノ分配器の先端の凍結した液体の量を制御するステップを含む。
【0077】
本発明は、別々に特許を受けることができる多数の態様を有する。全ての実施形態で全ての態様が使用されるわけではない。
【0078】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態だけに限定されない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。