特許第6411048号(P6411048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411048
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】解体方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
   E04G23/08 B
   E04G23/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-63754(P2014-63754)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-183498(P2015-183498A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年11月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 美那
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】柳田 克巳
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄一郎
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−313149(JP,A)
【文献】 特開2009−144450(JP,A)
【文献】 特開平04−041892(JP,A)
【文献】 特開2013−177739(JP,A)
【文献】 実開昭60−144695(JP,U)
【文献】 特開2012−107430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
E21C 37/00
E21C 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の板状のコンクリート部材の解体予定領域の下方に前記解体予定領域の幅方向に沿った溝を形成する工程(a)と、
前記溝の上方に破砕孔を穿孔し、前記破砕孔内に設置した油圧破砕機によって前記破砕孔から前記破砕孔の上方および下方のみに圧力を加え、下方へとコンクリート部材を押し出してコンクリート部材を分断する工程(b)と、
を具備し、
前記工程(b)を繰り返して、前記解体予定領域のコンクリート部材を下から順に分断することを特徴とする解体方法。
【請求項2】
前記コンクリート部材が、地下柱または地下梁に接続された地下壁であり、
前記地下壁の前記解体予定領域を解体した後、前記地下柱または地下梁を解体することを特徴とする請求項1に記載の解体方法。
【請求項3】
前記地下壁の前記解体予定領域を解体し、前記地下壁の背後の地盤を除去した後、前記地下柱または地下梁を解体することを特徴とする請求項2に記載の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年増加した都市部での大規模再開発工事では、新設の大型地下構造物を構築する際に、既設の地下構造物の壁体などの大型コンクリート部材を解体する場合がある。このようなケースでは、通常、ジャイアントブレーカ等の大型重機を用いてコンクリート部材を上から下へと解体する。
【0003】
一方、コンクリート部材の解体方法としては、従来の土木工事に用いられるような、爆薬の発破による解体方法も考えられる(特許文献1参照)。また、部材に設けた孔に油圧破砕機や膨張性破砕剤などを挿入し、これによりコンクリートに圧力を加えて亀裂を発生させ、コンクリートを分断する方法(例えば、特許文献2参照)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−228977号公報
【特許文献2】特開平7−324585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジャイアントブレーカ等の大型重機を用いる場合、大きな騒音や振動が発生するという問題があった。また、解体時に大型重機を配置するスペースが必要になり、狭い空間での作業となる場合には適用できなかった。
【0006】
発破による解体方法も同じく騒音や振動の問題がある。特に壁体の周囲が柱や梁で拘束されているケースでは大量の穿孔と装薬が必要となり、騒音や振動の問題が大きく都市部の建築工事では適用が難しい。
【0007】
油圧破砕機などを孔に挿入しこれによりコンクリートに圧力を加えて亀裂を発生させる方法は、狭いスペースでも容易に実施でき、騒音や振動も少ないが、壁体の解体を行う場合には注意が必要である。例えば油圧破砕機によりコンクリートに圧力を加えて上方へ押し上げ、亀裂を発生させてコンクリートを分断した場合、分断したコンクリートが自重で沈降し亀裂を塞いでニブラ等によるコンクリートの二次破砕が難しくなったり、沈降したコンクリートの圧力によって油圧破砕機が抜けなくなったりすることがある。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、壁体などのコンクリート部材を好適に解体できる解体方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明は、鉛直方向の板状のコンクリート部材の解体予定領域の下方に前記解体予定領域の幅方向に沿った溝を形成する工程(a)と、前記溝の上方に破砕孔を穿孔し、前記破砕孔内に設置した油圧破砕機によって前記破砕孔から前記破砕孔の上方および下方のみに圧力を加え、下方へとコンクリート部材を押し出してコンクリート部材を分断する工程(b)と、を具備し、前記工程(b)を繰り返して、前記解体予定領域のコンクリート部材を下から順に分断することを特徴とする解体方法である。
【0010】
本発明の解体方法によれば、大型重機を用いることなく、少数の穿孔で壁体など鉛直方向の板状のコンクリート部材を解体できる。また、溝の上方の破砕孔から圧力を加え、コンクリート部材を下方へと押し出して分断するので、分断されたコンクリート部材が自重で沈降すると亀裂が広がってニブラ等による二次破砕が容易になり、油圧破砕機が抜けなくなることもなく施工性が向上する。また、油圧破砕機を用いてコンクリート部材の破砕を行うことで、意図した方向にコンクリート部材を押し出すことができ、周囲のコンクリート部材に無駄な亀裂が発生するのが防がれ、破砕制御が容易になる。
【0011】
前記コンクリート部材が、地下柱または地下梁に接続された地下壁であり、前記地下壁の前記解体予定領域を解体した後、前記地下柱または地下梁を解体することが望ましい。
地下壁の解体予定領域を先に解体することにより、もともと地下壁があった空間を利用して地下柱や地下梁を解体することができ、地下構造物の解体工事の施工性が向上する。
【0012】
前記地下壁の前記解体予定領域を解体し、前記地下壁の背後の地盤を除去した後、前記地下柱または地下梁を解体することが望ましい。
地下壁を解体すると背後の地盤を除去できるようになり、地盤を除去した後の空間を利用して地下柱や地下梁を解体することで地下構造物の解体工事の施工性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、壁体などのコンクリート部材を好適に解体できる解体方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】地下構造物1を示す図
図2】壁3の解体を示す図
図3】壁3を解体を示す図
図4】油圧破砕機31、37を示す図
図5】分断されたコンクリート部材を示す図
図6】柱5、梁7の解体を示す図
図7】柱5の解体を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
(1.地下構造物1)
図1は、本発明の実施形態に係る解体方法にて解体を行う地下構造物1を示す図である。図1(a)は地下構造物1の正面、図1(b)は地下構造物1の鉛直方向断面、図1(c)は地下構造物1の水平方向断面を示す。図1(b)は図1(a)の線A−Aによる断面図、図1(c)は図1(a)の線B−Bによる断面図である。
【0017】
地下構造物1は、地下に構築された、壁3、柱5、梁7等のコンクリート部材からなる構造物である。地下構造物1では、鉛直方向の板状部材である壁3(地下壁)の周囲が柱5(地下柱)と梁7(地下梁)に接続され、拘束される。
【0018】
(2.壁3の解体)
本実施形態の解体方法では、まず地下構造物1の壁3を解体する。壁3を解体するには、図2(a)に示すように、壁3の解体予定領域3aの下方に、略水平方向(解体予定領域3aの幅方向)のスリット状の溝9を形成する。溝9は、例えば複数の孔を連続して穿孔することにより形成されるがこれに限ることはない。また、溝9の内面は外部に露出し拘束のない自由面となる。
【0019】
次に、図2(b)に示すように溝9の上方に破砕孔13を穿孔する。そして、破砕孔13に油圧破砕機を設置し、油圧破砕機を用いて壁3のコンクリート部材を分断する。
【0020】
コンクリート部材の分断を行うには、例えば図4(a)の上図に示すように、破砕孔13に油圧破砕機31の先端部のウェッジライナー27を挿入する。そして、下図に示すように、油圧によってくさび状のウェッジ29を押し込んでウェッジライナー27を上下に拡げ、壁3のコンクリート部材に対して矢印Cに示すように圧力をかける。
【0021】
すると、この圧力により、破砕孔13と溝9の間のコンクリート部材が下方の溝9へと押し出され、図5(a)に示すように破砕孔13の両側から下方の溝9に向かう亀裂19が発生し、これによりコンクリート部材が分断される。油圧破砕機31は破砕孔13の上方にも圧力を加えるが、上方には自由面が無いので、油圧破砕機31による圧力は専らコンクリート部材を下方に押し出す力として作用する。
【0022】
油圧破砕機としては、図4(b)に示す油圧破砕機37も使用可能である。この油圧破砕機37は、棒状の本体33に進退可能な突出部35を設けたもので、上図に示すように突出部35を本体33に引込めた状態で破砕孔13に挿入した後、下図に示すように油圧によって突出部35を突出させる。これにより、前記と同様壁3のコンクリート部材に対して矢印Cに示すように圧力をかけ、コンクリート部材に亀裂19を発生させ、分断することができる。
【0023】
図5(b)は、分断されたコンクリート部材について、ある程度時間が経過した後の状態を示す図である。コンクリート部材を分断すると、分断されたコンクリート部材は矢印Dに示すように自重で沈降し、亀裂19の幅が拡がる。
【0024】
こうして油圧破砕機により破砕孔13から圧力を加え、破砕孔13から溝9に向かって下方へとコンクリート部材を押し出して、破砕孔13と溝9の間の亀裂19による分断面でコンクリート部材を分断する。コンクリート部材の分断後の状態を図2(c)に示す。コンクリート部材を分断した分断面17は新たな自由面となる。
【0025】
本実施形態では、続いて図2(d)に示すように破砕孔13の隣に新たな破砕孔13を穿孔し、新たな破砕孔13に設置した油圧破砕機を用いて上記と同様に圧力を加え、下方へとコンクリート部材を押し出し、分断する。ここでは、新たな破砕孔13と、前に形成した破砕孔13、溝9のそれぞれをつなぐ分断面17でコンクリート部材が分断される。
【0026】
本実施形態では、上記の工程を繰り返すことにより、図3(a)に示すように壁3の解体予定領域3aの下段のコンクリート部材の分断を行う。その後、上段のコンクリート部材についても同様の手順で分断を行う。こうして解体予定領域3aのコンクリート部材を下段から上段へと順に分断し、図3(b)に示すように壁3の解体予定領域3a全体のコンクリート部材を分断する。
【0027】
分断したコンクリート部材を二次破砕するなどして除去すると、図3(c)に示すように解体予定領域3aに開口部3bが形成される。二次破砕としては、例えばコンクリート部材間の亀裂19にニブラの爪を挿し込んでコンクリート部材を噛み砕いたり、リッパーの先端を亀裂19に挿入して振動させコンクリート部材の破砕ができる。前記したように亀裂19の幅はコンクリート部材の沈降により広がるので、ニブラの爪やリッパーの先端を容易に挿入でき二次破砕が容易に行える。また、二次破砕にニブラやリッパーなどの小型重機を用いることで騒音や振動も小さい。
【0028】
なお、分断されたコンクリート部材は、上記のように最後にまとめて二次破砕し除去するのではなく、上記の解体手順の適当な時点で除去することもできる。また、上記の例では解体予定領域3aの下段の全幅でコンクリート部材を分断した後、上段のコンクリート部材を分断したが、解体予定領域3aの幅方向の一部のコンクリート部材を分断した後、その上方のコンクリート部材を分断してもよい。この工程を解体予定領域3aの幅方向に繰り返すことで、解体予定領域3a全体のコンクリート部材の分断が可能である。
【0029】
(3.柱5と梁7の解体)
地下構造物1の柱5や梁7の解体時には、壁3の解体予定領域3aを解体して形成した開口部3bから、壁3の背後の地盤2をすき取って除去する。この状態を図6(a)に示す。なお、図6(a)の例では、地盤2を除去する際に壁3の下端部の残り部分も除去している。
【0030】
本実施形態では、地盤2の除去により生じた地下構造物1の背後の空間を用いて、ワイヤーソーやニブラ等で柱5や梁7を解体する。例えばニブラの場合では、図6(b)に示すように柱5の正面と背面を爪21で掴んで柱5を一度に噛み砕き、破砕することができる。これは梁7の場合も同様であり、図6(c)に示すように梁7の正面と背面を爪21で掴んで一度に噛み砕くことができる。
【0031】
ワイヤーソーの場合では、図6(d)に示すように柱5の背後に回したワイヤー23により、柱5の水平方向断面を一度に切断できる。梁7の場合も、図6(e)に示すように梁7の背後に回したワイヤー23により、梁7の鉛直方向断面を一度に切断できる。ニブラやワイヤーソーを用いることで、騒音や振動を小さく抑えることができる。
【0032】
このように、本実施形態によれば、大型重機を用いることなく、少数の穿孔で鉛直方向の板状のコンクリート部材である壁3を解体できる。また、溝9の上方の破砕孔13から圧力を加え、コンクリート部材を下方へと押し出して分断するので、分断されたコンクリート部材が自重で沈降し亀裂19が広がってニブラ等による二次破砕が容易になり、油圧破砕機が抜けなくなることもなく施工性が向上する。また、油圧破砕機を用いてコンクリート部材の破砕を行う場合、意図した方向にコンクリート部材を押し出すことができ、周囲のコンクリート部材に無駄な亀裂が発生するのが防がれ、破砕制御が容易になる利点もある。
【0033】
また、本実施形態では壁3を先に解体することにより、壁3の背後の地盤2を除去し、その空間を利用して柱5や梁7を容易に解体することができ、地下構造物1の解体工事の施工性が向上する。
【0034】
なお、本実施形態では、破砕孔13を穿孔した後、破砕孔13から圧力を加えコンクリート部材の分断を行う手順を繰り返しており、破砕の様子を考慮しながら適当な場所に新たな破砕孔13を穿孔できる利点がある。ただし、必要な全ての破砕孔13を予め穿孔しておくことも可能である。
【0035】
その他、破砕孔13の数や位置、解体予定領域3aの解体手順も、前記したものに限らない。これらは、解体予定領域3aの条件に応じて、最適となるように設定できる。また解体予定領域3aの範囲も前記したものに限ることはなく、例えば壁3の上半部のみを解体予定領域3aとする場合も考えられる。この場合も解体予定領域3aの下方に溝9を形成し、前記の手順により解体予定領域3aのコンクリート部材の解体ができる。加えて、油圧破砕機を用いたコンクリート部材の分断による解体対象も前記した壁3に限らず、鉛直方向の板状部材であればよい。
【0036】
また、柱5や梁7の解体方法も、前記したものに限らない。例えば図7(a)の例では地下構造物1の背後に山留壁2aが存在し、壁3の解体予定領域3aを解体した後でも地盤2を除去できないが、この場合は、解体予定領域3aの解体、除去によって露出した柱5の内側面と、当該内側面と反対側の面を爪21で掴んで、ニブラにより柱5の水平方向断面を噛み砕くことができる。ワイヤーソーを用いる場合も、図7(b)に示すように解体予定領域3aの除去によって露出した柱5の内側面から柱5を貫通するコア孔5aを穿孔し、コア孔5aに通したワイヤー23により柱5の水平方向断面を切断できる。これらは梁7の場合も同様である。
【0037】
このように、山留壁2aの存在等の理由により背後の地盤2を除去できない場合でも、壁3の解体予定領域3aを除去した分だけ、柱5や梁7を一度に噛み砕いたり切断したりできる領域を広げることが可能であり、解体工事の施工性が向上する。
【0038】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0039】
1………地下構造物
2………地盤
3………壁
3a………解体予定領域
5………柱
7………梁
9………溝
13………破砕孔
17………分断面
19………亀裂
31、37………油圧破砕機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7