(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の放射能汚染コンクリートの除染方法では、次のような問題がある。
(1)コンクリートの表面に付着した放射性物質が事故後の時間の経過とともにコンクリートの表層数mmの深さにまで浸透してしまっているため、ふき取り洗浄や高圧洗浄では放射性物質を除去しきれない。また、この場合、コンクリートの表面に生えている苔などにも、放射性物質が付着しているため、ふき取りや高圧洗浄での除染は極めて困難である。
(2)コンクリートの表面をはつることで放射性物質を除去することができるが、この方法では、コンクリートの表面をはつる際に粉塵などの飛散物が発生するため、これがコンクリートの周囲や現場周辺に拡散する恐れがあり、ときに作業者が内部被ばくする危険性がある。
(3)原子力発電所の事故に限られないが、例えば、原子力発電所を廃炉にする際でも、原子炉付近のコンクリートは高濃度の放射性物質で汚染されている危険性があるため、放射性物質を確実に除去することが作業効率を上げるために重要であり、有効な除染方法が求められる。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の放射能汚染コンクリートの除染方法及びシステムにおいて、コンクリートの表面に付着し表面から浸透した放射性物質を電気泳動法の原理を利用して移動させ、コンクリートの内部に集中させて、又はコンクリートの外部に取り出して、コンクリートを有効に除染すること、しかも簡素でかつ設置が容易な設備を使用して、除染作業を確実かつ安全に行い、併せて汚染物の拡散や作業員の内部被曝を防止することなど、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、
放射性物質に汚染されたコンクリートを除染する放射能汚染コンクリートの除染方法であって、
コンクリートに内在される鋼材を
陰極の奥側電極として、又はコンクリートの奥に
陰極の奥側電極を設けて、コンクリートの表面に
陽極の表面側電極を設置し、
コンクリートの表面に前記表面側電極を介装して水密性及び電解質溶液に対して化学的耐性を有する電解質溶液保持シートを被着し、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間を空気の吸引により負圧にして、前記表面側電極とともに前記電解質溶液保持シートをコンクリートの表面に密着させ、
コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、前記奥側電極と前記表面側電極との間に電流を流すことにより、コンクリートの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、
前記コンクリートの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートの
表面側から奥側に移動させ
て、コンクリートの奥に集める、
ことを要旨とする。
また、この除染方法は、次のように具体化されることが好ましい。
(1)
電解質溶液保持シートの一方の面に複数の凸部を設け、前記電解質溶液保持シートの前記複数の凸部を有する面をコンクリートの表面に向けて被着する。
(2)
コンクリートの表面のうち特に下向きの面を被着する電解質溶液保持シートに、溶液の重量で弛まない程度に表面硬度の高いシートを採用する。
この場合、下向きの面に被着する電解質溶液保持シートは全体を略樋形に形成し、前記略樋形のシートを下向きの面及びその両側に沿って被着し、当該下向きの面に押し付けるようにして取り付け固定する。
(3)
電解質溶液保持シートをコンクリートの表面に、電解質溶液を浸透させて保持可能な電解質溶液浸透保持シートを介挿して、被着する。
(4)
電解質溶液保持シートの適宜箇所に吸引口を設け、前記吸引口に吸引装置を接続して、前記吸引装置により、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間の空気を吸引する。
(5)
コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間に電解質溶液供給用の配管を配置し、前記配管に電解質溶液供給装置を連結して、前記配管及び前記電解質溶液供給装置により、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間に電解質溶液を供給する。
(6)
電解質溶液を貯留する電解質溶液タンクを設置し、前記電解質溶液タンクの電解質溶液をコンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間に供給し、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間の空気を電解質溶液とともに吸引して、吸引した電解質溶液を前記電解質溶液タンクに戻し入れて、電解質溶液をコンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間に循環させる。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、
放射性物質に汚染されたコンクリートを除染する放射能汚染コンクリートの除染システムであって、
コンクリートに内在される鋼材を
陰極の奥側電極として、又はコンクリートの奥に
陰極の奥側電極を設けて、コンクリートの表面に設置される
陽極の表面側電極と、
コンクリートの表面に前記表面側電極を介して被着される、水密性及び電解質溶液に対して化学的耐性を有する電解質溶液保持シートと、
コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間の空気を吸引する吸引装置と、
コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間に電解質溶液を供給する電解質溶液供給装置と、
を備え、
コンクリートの表面に
前記表面側電極を介して前記電解質溶液保持シートを被着し、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間を前記吸引装置により空気を吸引することにより負圧にして密着させ、その隙間に前記電解質溶液供給装置により電解質溶液を連続的又は断続的に流
すとともに、前記奥側電極と前記表面側電極との間に電流を流す
ことにより、コンクリートの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、
前記コンクリートの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートの表面側から奥側に移動させて、コンクリートの奥に集める、
ことを要旨とする。
また、このシステムは、各部に次のような構成を備えることが好ましい。
(1)電解質溶液保持シートは気泡緩衝材が採用される。
(2)コンクリートの表面のうち下向きの面を被着する電解質溶液保持シートは、溶液の重量で弛まない程度に表面硬度の高い、プラスチック段ボールを含むシートとする。
(3)コンクリートの表面と表面側電極との間に電解質溶液を浸透して保持可能な電解質溶液浸透保持シートが介挿される。
(4)電解質溶液供給装置と吸引装置との間に電解質溶液タンクが設置され、前記電解質溶液タンクに電解質溶液を貯留して、前記電解質溶液タンクの電解質溶液を前記電解質溶液供給装置により、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間に供給し、前記吸引装置により、コンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し前記電解質溶液タンクに戻し入れるようにして、前記電解質溶液タンクの電解質溶液をコンクリートの表面と前記電解質溶液保持シートとの間に循環させる。
【0008】
なお、ここで、奥側電極はコンクリートの表面から見て奥にあるので、奥側電極と称するが、この奥側電極は、鉄骨や鉄筋など補強部材(鋼材)を内部に有し、これらの補強部材を電極と利用する場合の内部電極や、コンクリートの内部に鋼材がなく、例えば、コンクリートの正面に対して背面に電極を設置する場合の背面側(の外部)電極を含むものである。また、表面側電極はコンクリートの表面に配置するので、表面側電極と称したが、この表面側電極は、奥側電極が内部電極の場合は外部電極と、奥側電極が背面側(の外部)電極の場合は、表面側電極をコンクリートの正面側に設置するので、正面側(の外部電極)と言い換えることができる。以下、同様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放射能汚染コンクリートの除染方法によれば、コンクリートの奥の
陰極の奥側電極に対してコンクリートの表面に
陽極の表面側電極を設置し、コンクリートの表面に表面側電極を介装して電解質溶液保持シートを被着し、コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間を空気の吸引により負圧にして、表面側電極とともに電解質溶液保持シートをコンクリートの表面に密着させ、コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、奥側電極と表面側電極との間に電流を流すことにより、コンクリートの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、コンクリートの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートの
表面側から奥側に移動させ
て、コンクリートの奥に集めるようにしたので、コンクリートの表面に付着し表面から浸透した放射性物質を電気泳動法の原理を利用して移動させ、コンクリートの内部に集中させて
密封し、コンクリート
から外部に
放射される線量を低減して、コンクリートを
無害化することができ、しかも電極、電解質溶液保持シート、空気の吸引装置、電解質溶液の供給装置など簡素で設置が容易な設備を使用して除染作業を行うので、除染作業を確実かつ安全に行え、併せて汚染物の拡散や作業員の内部被曝を防止することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【0010】
本発明の放射能汚染コンクリートの除染システムによれば、上記の構成により、コンクリートの奥の
陰極の奥側電極に対してコンクリートの表面に
陽極の表面側電極を設置し、コンクリートの表面に表面側電極を
介して電解質溶液保持シートを被着し、コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間を空気の吸引により負圧にして、表面側電極とともに電解質溶液保持シートをコンクリートの表面に密着させ、コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、奥側電極と表面側電極との間に電流を流すことにより、コンクリートの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、コンクリートの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートの
表面側から奥側に移動させ
て、コンクリートの奥に集めるようにしたので、コンクリートの表面に付着し表面から浸透した放射性物質を電気泳動法の原理を利用して移動させ、コンクリートの内部に集中させて
密封し、コンクリート
から外部に
放射される線量を低減して、コンクリートを
無害化することができ、しかも電極、電解質溶液保持シート、空気の吸引装置、電解質溶液の供給装置など簡素で設置が容易な設備を使用して除染作業を行うので、除染作業を確実かつ安全に行え、併せて汚染物の拡散や作業員の内部被曝を防止することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
図1に放射性物質に汚染されたコンクリートを除染する放射能汚染コンクリートの除染方法を示している。
図1に示すように、この放射能汚染コンクリートの除染方法は、コンクリートCに内在される鋼材を奥側電極E1として、コンクリートCの表面(この場合、コンクリートの鉛直面)に表面側電極E2を設置し、コンクリートCの表面に表面側電極E2を介装して水密性及び電解質溶液に対して化学的耐性を有する電解質溶液保持シート1を被着し、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間を空気の吸引により負圧にして、表面側電極E2とともに電解質溶液保持シート1をコンクリートCの表面に密着させ、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、奥側電極E1と表面側電極E2との間に電流を流すことにより、コンクリートCの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、コンクリートCの表面及びこの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートCの奥又は表面に移動させるようにしたものである。
【0013】
奥側電極E1をなすコンクリートC内部の鋼材としては、コンクリートC内部に配筋された鉄筋などの導電性を有する補強部材を利用する。
表面側電極E2は、ネット状、メッシュ状、シート状の導電性材料など電気化学的処理方法で一般的に使用される電極材を使用する。このような表面側電極E2を、コンクリートCの上部から下部までのコンクリートCの表面に、電解質溶液を浸透して保持可能な電解質溶液浸透保持シート3を介挿して、展着する。
【0014】
電解質溶液保持シート1は、水密性を有し、化学的に安定していて溶液に耐性がある他に、コンクリートCの表面に吸着させやすいように、薄く、軽量で、機械的強度に優れたものが好ましく、さらに一方の面に複数の凸部を有するものがなお好ましい。この電解質溶液保持シート1の適宜箇所には吸引口を設けておく。この場合、電解質溶液保持シート1はポリエステルシートなどのプラスチックシートからなり、片側一方の面に空気が封入された複数の凸部10を有するもので、吸引口11は電解質溶液保持シート1の上下方向中間部となる箇所に形成してある。このようにして電解質溶液保持シート1を、複数の凸部10を有する面を内側にして(つまり、コンクリートCの表面に向けて)、上部から下部までのコンクリートCの鉛直面に、表面側電極E2の上から、被着する。また、この場合、コンクリートCの下面など下向きの面がある場合は、電解質溶液保持シート1をコンクリートCの下面まで被着してもよいが、シートが溶液の重量でコンクリートCの下面から弛まないようにするため、下面にあってはその両側の鉛直面の下部側とともに、電解質溶液保持シート1とは別の下面用の電解質溶液保持シート2を被着するものとし、この場合は、電解質溶液保持シート1はコンクリートCの鉛直面の上下方向中間部適宜の高さまで被着するようにする。
【0015】
コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間の空気の吸引は吸引装置を使用する。この場合、電解質溶液保持シート1の適宜箇所に設けた吸引口11に配管41を介して吸引装置を接続する。
【0016】
コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間への電解質溶液の供給は電解質溶液供給用の配管と電解質溶液供給装置を使用する。この場合、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間の最上位置、ここではコンクリートCの鉛直面上部に沿って電解質溶液供給用の配管51を配置し、この配管51に電解質溶液供給装置を連結する。
【0017】
また、この場合、溶液を貯留する電解質溶液タンクを設置し、電解質溶液供給装置により電解質溶液タンクの電解質溶液をコンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間に供給し、吸引装置によりコンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンクに戻し入れることで、電解質溶液をコンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1との間に循環させるようにする。
【0018】
図2及び
図3にコンクリートCの下面に被着する下面用の電解質溶液保持シートを示している。この電解質溶液保持シート2は、水密性を有し、化学的に安定していて電解質溶液に耐性がある他に、コンクリートCの表面に吸引可能に、軽量で、溶液の重量で弛まない程度に表面硬度が高く、機械的強度に優れたものが好ましい。また、この電解質溶液保持シート2の場合、全体を略樋形に形成し、シートの適宜箇所に吸引口を設けておく。この場合、電解質溶液保持シート2はコンクリートCの下面と略同じ大きさ、形状の底部201と、底部の両側から立ち上げられ、コンクリートCの両側鉛直面を下部から所定の高さまで被覆可能な両側部202とからなる略樋形に形成され、吸引口21は底部201の略中央に形成される。このようにしてこの下面側の電解質溶液保持シート2をコンクリートCの下面及びその両側のコンクリートCの鉛直面下部に、表面側電極E2の上から被着し、コンクリートCの下面に押し付けるようにして取り付け固定する。
図2及び
図3にこの下面側の電解質溶液保持シート2の固定方法を併せて示している。
図2は、複数のバタ材71と締め付け金具72とを用いる固定方法を示し、この場合、各バタ材71はコンクリートCの下面の幅方向の寸法よりも長い横バタにして、その上面両側に取付部材を介して2つの締め付け金具72を相互に対向して取り付ける。この固定方法の場合、下面側の電解質溶液保持シート2の底部201及び両側部202をそれぞれコンクリートCの下面及びその両側鉛直面下部に沿って被着した後、その下から、バタ材71を添え当て、このバタ材71で下面側の電解質溶液保持シート2の底部201をコンクリートC3の下面に押し付けるように押圧して、この状態から、両側の各締め付け金具72を下面側の電解質溶液保持シート2の両側部202の上からコンクリートCの両側鉛直面に向けて締め込み、下面側の電解質溶液保持シート2の底部201をバタ材71で押え固定する。なお、この電解質溶液保持シート2の固定は、必要に応じて、コンクリートCの長さ方向に所定の間隔毎に行う。
図3は、複数のバタ材71と吊り下げ用のアンカーボルト73とを用いる固定方法を示し、この場合、各バタ材71はコンクリートCの下面の幅方向の寸法よりも長い横バタにして、その両側に吊り下げ用のアンカーボルト73を対称的に取り付ける。この固定方法の場合、下面側の電解質溶液保持シート2の底部201及び両側部202をそれぞれコンクリートCの下面及びその両側鉛直面下部に沿って被着した後、その下にバタ材71を配置し、両側の各吊り下げ用のアンカーボルト73をコンクリートCの上部に固定して、このバタ材71を吊り上げ、このバタ材71で溶液保持シート2の底部201を押え固定する。この下面側の電解質溶液保持シート2の固定は、必要に応じて、コンクリートCの長さ方向に所定の間隔毎に行う。なお、この固定方法の場合、コンクリートCの上部に接着剤で固定した吊りボルトを用いて、バタ材71を吊り上げてもよい。
そして、下面側の電解質溶液保持シート2の適宜箇所に設けた吸引口21に配管42を介して吸引装置を接続する。
【0019】
このようにしてコンクリートCの表面に、電解質溶液を供給、保持するための設備を設置する。
【0020】
この放射能汚染コンクリートの除染方法では、吸引装置によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の空気を吸引することにより、コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間を負圧にして、コンクリートCの表面に、電解質溶液浸透保持シート3、表面側電極E2、及び電解質溶液保持シート1、2を密着させた状態から、電解質溶液供給装置により、コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の隙間に、電解質溶液を連続的又は断続的に供給することにより、コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に電解質溶液を流し、電解質溶液浸透保持シート3により浸透保持し、この状態で、奥側電極E1と表面側電極E2との間に電流を流して、電気泳動よる電場を形成し、コンクリートCの表面及びこの表面から内部に浸透しコンクリートC中でイオン化された放射性物質をコンクリートCの奥又は表面に移動させて、無害化又は除去する。
【0021】
(1)奥側電極を陰極、表面側電極を陽極とし、外部電源により各電極間を通電する場合
図4に示すように、奥側電極E1を陰極とし、表面側電極E2を陽極として、外部電源により各電極E1、E2間を通電すると、コンクリートCの表面からコンクリートCの内部に向けて電気泳動よる電場が形成され、コンクリートCの表面及びこの表面から浸透しコンクリートC中で陽イオン化された放射性物質(例えば、Cs
+、Sr
2+など)は負電荷に吸着されてコンクリートCの表面側からコンクリートCの奥の奥側電極E1に移動され、この奥側電極E1(この場合、内部鉄筋)の周囲に集められる。この場合、電解質溶液供給装置によりコンクリートCの表面に供給された電解質溶液は各電解質溶液保持シート1、2と電解質溶液浸透保持シート3とにより保持されて、コンクリートCの表面全体に均一に行き渡り、また、電解質溶液を電解質溶液タンクから電解質溶液供給装置によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に供給し、吸引装置によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンクに戻し入れて、この電解質溶液の供給、回収を繰り返すことで、電解質溶液がコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に循環されるので、コンクリートC全体に亘って電気泳動処理が確実に施され、コンクリートCの表面に浸透された放射性物質はコンクリートCの内部に集められて、かぶりコンクリートCが遮蔽物となって密封される。これにより、コンクリートCから外部に放射される線量が低減されて、コンクリートCが無害化される。
【0022】
(2)奥側電極を陽極、表面側電極を陰極とし、外部電源により各電極間を通電する場合
図5に示すように、奥側電極E1を陽極とし、表面側電極E2を陰極として、外部電源により各電極E1、E2間を通電すると、コンクリートCの内部からコンクリートCの表面に向けて電気泳動による電場が形成され、コンクリートCの表面及びこの表面から浸透しコンクリートC中で陽イオン化された放射性物質(例えば、Cs
+、Sr
2+など)は負電荷に吸着されてコンクリートCの奥側から表面側に移動され、コンクリートCの表面から電解質溶液中に排出されて除去される。この場合、電解質溶液供給装置によりコンクリートCの表面に供給された電解質溶液は各電解質溶液保持シート1、2と電解質溶液浸透保持シート3とにより保持されて、コンクリートCの表面全体に均一に行き渡り、また、電解質溶液を電解質溶液タンクから電解質溶液供給装置によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に供給し、吸引装置によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンクに戻し入れて、この電解質溶液の供給、回収を繰り返すことで、電解質溶液がコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に循環されるので、コンクリートC全体に亘って電気泳動処理が確実に施され、コンクリートCの表面に浸透された放射性物質はコンクリートCの表面に排出、除去される。これにより、コンクリートCから外部に放射される線量が低減されて、コンクリートCが無害化される。なお、電解質溶液中に排出された放射性物質はゼオライトなどを用いた溶液処理技術を用いて除去することにより、放射能汚染された廃棄物が大幅に減容化される。
この(2)の場合、各電極E1、E2間の通電の際に、コンクリートCの奥側電極E1、すなわちコンクリートCの内部の鉄筋が腐食しないように、鉄筋の電位を管理、制限する必要がある。制限方法の一例を以下に示す。
図6に、鉄のpH−電位図を示している。
図6の横軸はpH、縦軸は水素電極基準の電圧を示し、領域Iは鉄が安定な不感域(安定
域)、領域IIは鉄が腐食する腐食域、領域IIIは鉄が不導態化する不動態域である。この場
合、鉄筋が錆びないように、奥側電極E1の電位は0.5VvsSHE程度以下となるように制限する。
また、この(2)場合、電解質溶液に炭酸塩を用いると、電解質溶液中の炭酸イオン(CO
32-)あるいは炭酸水素イオン(HCO
3-)がコンクリートCに移動したときに、コンクリートC中に存在するカルシウムイオン(Ca
2+)が、
Ca
2++CO
32-(又はHCO
3-)→CaCo
3
のように反応して、コンクリートC表層部に炭酸カルシウム(CaCo
3)が生成され、コンクリートC表層部に緻密な層が形成される。この層が塩分や水分などの劣化因子の進入を効果的に妨げる役割を果たし、コンクリートCの耐久性を向上させる。
【0023】
なお、このコンクリートCの除染作業は、このコンクリートCの表面が各電解質溶液保持シート1、2に覆われて行われるので、除染中の外観はきれいに維持される。
【0024】
以上説明したように、この放射能汚染コンクリートの除染方法によれば、コンクリートCの奥の奥側電極E1に対してコンクリートCの表面に表面側電極E2を設置し、コンクリートCの表面に表面側電極E2を介装して電解質溶液保持シート1、2を被着し、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間を空気の吸引により負圧にして、表面側電極E2とともに電解質溶液保持シート1、2をコンクリートCの表面に密着させ、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、奥側電極E1と表面側電極E2との間に電流を流すことにより、コンクリートCの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、コンクリートCの表面及びこの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートCの奥又は表面に移動させるようにしたので、コンクリートCの表面に付着し表面から浸透した放射性物質を電気泳動法の原理を利用して移動させ、コンクリートCの内部に集中させて、又はコンクリートCの外部に取り出して、コンクリートCを有効に除染することができ、放射能汚染されたコンクリートCから放射される放射能を低減することができる。
また、この方法では、コンクリートCの表面に水密性、及び電解質溶液に対して化学的耐性を有する電解質溶液保持シート1、2を被着して、吸引装置により、コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間を空気の吸引により負圧にして密着させ、電解質溶液供給装置により、電解質溶液をコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の隙間に連続的又は断続的に流しながら、奥側電極E1と表面側電極E2との間に電流を流し、電気泳動による電場を形成するので、電解質溶液をコンクリートCの表面に確実に保持し、均一に行き渡らせることができ、コンクリートC全体に電気泳動処理を確実に施すことができる。しかも、この場合、電解質溶液を電解質溶液タンクに貯留して、この電解質溶液をコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に供給し、コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンクに戻し入れて、電解質溶液をコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に循環させるので、電解質溶液を再利用して、コンクリートC全体に亘り電気泳動処理を均一に施すことができる。
さらに、この方法では、コンクリートCの表面に設置する電解質溶液を供給、保持するための設備を、電解質溶液浸透保持シート3、電解質溶液保持シート1、2、吸引装置及び電解質溶液供給装置により構成し、コンクリートCの表面に、電解質溶液浸透保持シート3及び表面側電極E2を介して、電解質溶液保持シート1、2を被着し、吸引装置、電解質溶液供給装置の設置と配管を行うだけなので、電解質溶液を供給、保持するための設備を一般的で簡素な機材で簡単に設置することができ、コンクリートCの除染処理を簡易に行うことができる。しかも、従来のコンクリートのはつりのように粉塵などの発生がないので、放射能汚染物質の周囲への飛散をなくして、周辺環境を良好に維持することができ、さらに、作業員の内部被曝の危険性を低減することもできる。
またさらに、コンクリートCの除染中は、コンクリートCの表面が各電解質溶液保持シート1、2により覆われるので、除染中の外観を良好に維持することができる。
【0025】
なお、この実施の形態では、コンクリートCの下面に下面側の電解質溶液保持シート2を用いたが、既述のとおり、コンクリートCの上部から下部、そして下面までを同じ電解質溶液保持シート1で被着してもよく、この場合には、コンクリートCの下面を覆う電解質溶液保持シート1の下に表面硬度の高いシート又はプレートを添え当て、このシート又はプレートをコンクリートCの下面に押し付けるようにして取り付け固定することが好ましい。このようにしても上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、この実施の形態では、コンクリートCの鉛直面の上部から下部、そして下面までを電解質溶液保持シート1、2の2種類のシートで覆い、電気泳動処理を行う場合を例示したが、この除染方法はコンクリートCの表面の一部にのみ適用することもでき、例えば、コンクリートCの側面にのみあるいは上面にのみ電解質溶液保持シート1を被着して電気泳動処理を行ってよく、下面にのみ電解質溶液保持シート2を被着して電気泳動処理を行ってもよく、このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
さらに、この実施の形態では、コンクリートCの内部に有する補強部材(鉄骨や鉄筋などの鋼材)を奥側電極として用いたが、コンクリートCの内部に補強部材がないような場合は、コンクリートCの内部に鋼材を後付けで埋め込んでもよく、また、コンクリートCの背面側に奥側電極を設置してもよく、このようにすることによりこの除染方法を同様に適用することができる。
【0026】
図7にこの除染方法に用いる除染システムを示している。
図7に示すように、この除染システムは、コンクリートCに内在される鋼材を奥側電極E1として、コンクリートCの表面に設置される表面側電極E2と、コンクリートCの表面に表面側電極E2を介して被着される、水密性及び電解質溶液に対して化学的耐性を有する電解質溶液保持シート1、2と、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間に連通して配置される吸引用の配管41、42、及び吸引用の配管41、42に連結される吸引機40を有し、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間の空気を吸引する吸引装置4と、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間に配置される電解質溶液供給用の配管51、及び電解質溶液供給用の配管51に連結される電解質溶液供給用のポンプ50を有し、コンクリートCの表面と電解質溶液保持シート1、2との間に溶液を供給する電解質溶液供給装置5とを備える。また、この場合、コンクリートCの表面と表面側電極E2との間に電解質溶液を浸透して保持可能な電解質溶液浸透保持シート3を併せて備える。
【0027】
奥側電極E1をなすコンクリートC内部の鋼材としては、コンクリートC内部に配筋された鉄筋などの導電性を有する補強部材が利用される(以下、奥側電極E1を内部鉄筋E1という。)。
表面側電極E2は、ネット状、メッシュ状、シート状の導電性材料など電気化学的処理方法で一般的に使用する電極材(陽極材)が用いられる。この場合、チタンメッシュ(以下、チタンメッシュE2という。)を使用する。なお、チタンメッシュに代えてステンレスメッシュ、鉄メッシュ、炭素繊維シートを用いてもよい。
電解質溶液浸透保持シート3は不織布が用いられる(以下、不織布3という。)
【0028】
電解質溶液保持シート1は、水密性を有し、化学的に安定していて電解質溶液に耐性がある他、コンクリートCの表面に吸着させやすいように、薄く、軽量で、機械的強度に優れたものが好ましく、さらに一方の面に複数の凸部を有するものがなお好ましい。この電解質溶液保持シート1の適宜箇所には吸引口が設けられる。この場合、この電解質溶液保持シート1はポリエチレン製の気泡緩衝材(エアークッション)が採用される(以下、電解質溶液保持シート1を気泡緩衝材1という。)。吸引口11はこの気泡緩衝材1のコンクリートCの鉛直面の上下方向中間付近となる箇所に形成する。また、このコンクリートCは下面など下向きの面がある場合なので、気泡緩衝材1をコンクリートCの下面まで被着してもよいが、気泡緩衝材1が溶液の重量でコンクリートCの下面から弛まないようにするため、下面にあってはその両側鉛直面(下部)とともに、気泡緩衝材1とは別の下面用の電解質溶液保持シート2を被着するものとし、この場合、気泡緩衝材1はコンクリートCの鉛直面の上下方向中間部適宜の高さまで被着するようにする。この下面側の電解質溶液保持シート2は、
図2、
図3に示すように、水密性を有し、化学的に安定していて電解質溶液に耐性がある他、コンクリートCの表面に吸引可能に、軽量で、電解質溶液の重量で弛まない程度に表面硬度が高く、機械的強度に優れたものが好ましい。また、この下面側の電解質溶液保持シート2は、全体が略樋形に形成され、シートの適宜箇所に吸引口を設けられる。この場合、この電解質溶液保持シート2にプラスチック段ボールを採用し、2枚のプラスチック段ボールを相互の中空部が直交するように重ねて2重構造にし、コンクリートCの下面と略同じ大きさ、形状の底部201と、コンクリートCの両側鉛直面のうち下部から所定の高さまで被覆可能な大きさ、形状を有する両側部202とからなる略樋形に形成し、吸引口21を底部201の略中央に形成する(以下、下面側の電解質溶液保持シート2をプラスチック段ボール2という。)。
【0029】
吸引装置4の吸引機40と電解質溶液保持シート1及び下面側の電解質溶液保持シート2との間の配管41、42はホースが用いられ、吸引機40には吸引ポンプが採用される(以下、配管41、42をホース41、42と、吸引機40を吸引ポンプ40という。)。
【0030】
コンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1との間の電解質溶液供給用の配管51に散水ホースが用いられ(以下、配管51を散水ホース51という。)、この散水ホース51と電解質溶液供給装置5の電解質溶液供給用のポンプ50との間の配管52にホースが用いられ、電解質溶液供給用のポンプ50に給水ポンプ(水中ポンプ)が採用される(以下、配管51を散水ホース51、配管52をホース52、電解質溶液供給用のポンプ50を給水ポンプ50という。)。
また、この場合、吸引ポンプ40と給水ポンプ50との間に電解質溶液を貯留するための電解質溶液タンク6が設置され、吸引ポンプ40の排水口が電解質溶液タンク6上又は電解質溶液タンク6中に配置され、給水ポンプ50が溶液タンク6内に設置される。このようにして電解質溶液タンク6の電解質溶液をコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に供給し、吸引ポンプ40によりコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し、電解質溶液タンク6に戻し入れるようにして、電解質溶液をコンクリートCの表面と各電解質溶液保持シート1、2との間に循環させる溶液循環機構を構成する。
【0031】
放射能汚染コンクリートの除染システムはかかる構成を備え、コンクリートCの鉛直面の上部から下部、そして下面までのコンクリートCの表面に、電解質溶液浸透保持シートとして不織布3、表面側電極としてチタンメッシュE2が順次被着され、その上から、各電解質溶液保持シートとして気泡緩衝材1、及び樋形に加工されたプラスチック段ボール2が被着される。この場合、気泡緩衝材1は複数の凸部10を有する面を内側にして、コンクリートCの鉛直面の上部から中間部までのコンクリートCの表面に被着され、プラスチック段ボール2はコンクリートCの下面及びその両側鉛直面の下部から中間部の適宜の高さまでのコンクリートCの表面に被着され、既述のとおり、バタ材71や締め付け金具73又は吊り上げ用のアンカーボルト73などを用いてコンクリートCの下面に押し付けるようにして固定される。そして、気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2の適宜箇所に設けた吸引口11、21にホース41、42を介して吸引ポンプ40が接続され、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1との間で最上位置、ここではコンクリートCの鉛直面上部に沿って散水ホース51が配置されて、この散水ホース51にホース52を介して給水ポンプ50が連結される。
このようにしてコンクリートCの表面に、電解質溶液を供給、保持するための設備が設置される。
【0032】
この放射能汚染コンクリートの除染システムでは、吸引ポンプ40によりコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の空気を吸引することにより、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間を負圧にして、コンクリートCの表面に、不織布3、チタンメッシュE2、及び気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2を密着させた状態から、給水ポンプ50により、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の隙間に、電解質溶液を連続的又は断続的に供給することにより、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に電解質溶液を流し、この電解質溶液を不織布3により浸透保持して、この状態で、内部鉄筋E1とチタンメッシュE2との間に電流を流して、電気泳動よる電場を形成し、コンクリートCの表面及びこの表面から内部に浸透しコンクリートC中でイオン化された放射性物質をコンクリートCの奥又は表面に移動させて、無害化又は除去する。
【0033】
(1)奥側電極を陰極、表面側電極を陽極とし、外部電源により各電極間を通電する場合
図4に示すように、内部鉄筋E1を陰極とし、チタンメッシュE2を陽極として、外部電源により内部鉄筋E1、チタンメッシュE2間を通電すると、コンクリートCの表面からコンクリートCの内部に向けて電気泳動よる電場が形成され、コンクリートCの表面及びこの表面から浸透しコンクリートC中で陽イオン化された放射性物質(例えば、Cs
+、Sr
2+など)は負電荷に吸着されてコンクリートCの表面側からコンクリートCの内部鉄筋E1に移動され、この内部鉄筋E1の周囲に集められる。このとき、給水ポンプ50によりコンクリートCの表面に供給された電解質溶液は気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2と不織布3とにより保持されて、コンクリートCの表面全体に均一に行き渡り、また、電解質溶液を電解質溶液タンク6から給水ポンプ50によりコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に供給し、吸引ポンプ40によりコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンク6に戻し入れて、この電解質溶液の供給、回収を繰り返すことで、電解質溶液がコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に循環されるので、コンクリートC全体に亘って電気泳動処理が確実に施され、コンクリートCの表面に浸透された放射性物質はコンクリートCの内部に集められて、かぶりコンクリートCが遮蔽物となって密封される。これにより、コンクリートCから外部に放射される線量が低減されて、コンクリートCが無害化される。
【0034】
(2)奥側電極を陽極、表面側電極を陰極とし、外部電源により各電極間を通電する場合
図5に示すように、内部鉄筋E1を陽極とし、チタンメッシュE2を陰極として、外部電源により内部鉄筋E1、チタンメッシュE2間を通電すると、コンクリートCの内部からコンクリートCの表面に向けて電気泳動による電場が形成され、コンクリートCの表面及びこの表面から浸透しコンクリートC中で陽イオン化された放射性物質(例えば、Cs
+、Sr
2+など)は負電荷に吸着されてコンクリートCの奥側から表面側に移動され、コンクリートCの表面から電解質溶液中に排出されて除去される。このとき、給水ポンプ50によりコンクリートC表面に供給された電解質溶液は気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2と不織布3とにより保持されて、コンクリートCの表面全体に均一に行き渡り、また、電解質溶液を電解質溶液タンク6から給水ポンプ50によりコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に供給し、吸引ポンプ40によりコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンク6に戻し入れて、この電解質溶液の供給、回収を繰り返すことで、電解質溶液がコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に循環されるので、コンクリートC全体に亘って電気泳動処理が確実に施され、コンクリートCの表面に浸透された放射性物質はコンクリートCの表面に排出、除去される。これにより、コンクリートCから外部に放射される線量が低減されて、コンクリートCが無害化される。なお、電解質溶液中に排出された放射性物質はゼオライトなどを用いた溶液処理技術を用いて除去することにより、放射能汚染された廃棄物は大幅に減容化される。
この(2)の場合、内部鉄筋E1、チタンメッシュE2間の通電の際に、コンクリートCの内部鉄筋E1が腐食しないように、内部鉄筋1の電位を管理、制限する必要がある。制限方法の一例を以下に示す。
図6に、鉄のpH−電位図を示している。
図6の横軸はpH、縦軸は水素電極基準の電圧を示し、領域Iは鉄が安定な不感域(安定域)、領域IIは
鉄が腐食する腐食域、領域IIIは鉄が不導態化する不動態域である。この場合、内部鉄筋E
1が錆びないように、内部鉄筋E1の電位は0.5VvsSHE程度以下となるように制限する。
また、この(2)場合、電解質溶液に炭酸塩を用いると、電解質溶液中の炭酸イオン(CO
32-)あるいは炭酸水素イオン(HCO
3-)がコンクリートCに移動したときに、コンクリートC中に存在するカルシウムイオン(Ca
2+)が反応して、コンクリートC表層部に炭酸カルシウム(CaCo
3)が生成され、コンクリートC表層部に緻密な層が形成される。この層が塩分や水分などの劣化因子の進入を効果的に妨げる役割を果たし、コンクリートCの耐久性が向上する。
【0035】
なお、この場合、コンクリートCの除染中は、このコンクリートCの表面が気泡緩衝材1及びプラスチック段ボール2に覆われており、除染中の外観はきれいに維持される。
【0036】
以上説明したように、この除染システムによれば、コンクリートCの内部鉄筋E1に対してコンクリートCの表面にチタンメッシュE2を設置し、コンクリートCの表面にチタンメッシュE2を介装して気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2を被着し、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間を空気の吸引により負圧にして、チタンメッシュE2とともに気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2をコンクリートCの表面に密着させ、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の隙間に電解質溶液を連続的又は断続的に流すとともに、内部鉄筋E1とチタンメッシュE2との間に電流を流すことにより、コンクリートCの表面と奥との間に電気泳動による電場を形成し、コンクリートCの表面及びこの表面から内部に浸透した放射性物質をコンクリートCの奥又は表面に移動させるようにしたので、コンクリートCの表面に付着し表面から浸透した放射性物質を電気泳動法の原理を利用して移動させ、コンクリートCの内部に集中させて、又はコンクリートCの外部に取り出して、コンクリートCを有効に除染することができ、放射能汚染されたコンクリートCから放射される放射能を低減することができる。
また、この除染システムでは、コンクリートCの表面に気泡緩衝材1及びプラスチック段ボール2を被着して、吸引ポンプ40により、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間を空気の吸引により負圧にして密着させ、給水ポンプ50により、電解質溶液をコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の隙間に連続的又は断続的に流すとともに、内部鉄筋E1とチタンメッシュE2との間に電流を流し、電気泳動による電場を形成するので、電解質溶液をコンクリートCの表面に確実に保持し、均一に行き渡らせることができ、コンクリートC全体に電気泳動処理を確実に施すことができる。しかも、この場合、電解質溶液を電解質溶液タンク6に貯留して、この電解質溶液をコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に供給し、コンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間の空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を回収し電解質溶液タンク6に戻し入れて、電解質溶液をコンクリートCの表面と気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2との間に循環させるので、電解質溶液を再利用して、コンクリートC全体に亘り電気泳動処理を均一に施すことができる。
さらに、この除染システムでは、コンクリートCの表面に設置する電解質溶液を供給、保持するための設備を、不織布3、気泡緩衝材1及びプラスチック段ボール2、吸引ポンプ40及び給水ポンプ50により構成し、コンクリートCの表面に、不織布3及び表面側電極E2を介して、気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2を被着し、吸引ポンプ40、給水ポンプ50の設置と各ホース41、42、51、52の配管を行うだけなので、電解質溶液を供給、保持するための設備を一般的で簡素な機材で簡単に設置することができ、除染処理を簡易に行うことができる。しかも、従来のコンクリートのはつりのように粉塵などの発生がないので、放射能汚染物質の周囲への飛散をなくして、周辺環境を良好に維持することができ、さらに、作業員の内部被曝の危険性を低減することもできる。
また、コンクリートCの除染中は、コンクリートCの表面が気泡緩衝材1及びプラスチック段ボール2により覆われるので、除染中の外観を良好に維持することができる。
【0037】
なお、このシステムでは、コンクリートCの下面にプラスチック段ボール2を用いたが、既述のとおり、コンクリートCの鉛直面の上部から下部、そして下面までを気泡緩衝材1で被着してもよく、この場合には、コンクリートCの下面を覆う気泡緩衝材1の下に表面硬度の高いシート又はプレートを添え当て、このシート又はプレートをコンクリートCの下面に押し付けるようにして取り付け固定することが好ましい。このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、このシステムでは、電解質溶液保持シートに気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2を用いたが、この電解質溶液保持シートはこれに限定されるものではなく、これら気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2と概ね同様の作用を有する限り、種々の材料からなる他のシートに変更可能である。
また、このシステムでは、吸引機40に吸引ポンプを用いたが、吸引ファンに代えることもできる。
さらに、この実施の形態では、コンクリートCの鉛直面の上部から下部、そして下面までを気泡緩衝材1、プラスチック段ボール2の2種類のシートで覆い、電気泳動処理を行う場合を例示したが、この除染方法はコンクリートCの表面の一部にのみ適用することもでき、例えば、コンクリートCの側面にのみあるいは上面にのみ気泡緩衝材1を被着して電気泳動処理を行ってよく、下面にのみプラスチック段ボール2を被着して電気泳動処理を行ってもよく、このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。