特許第6411097号(P6411097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411097
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】プレフィルドシリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/50 20060101AFI20181015BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20181015BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   A61M5/50 530
   A61M5/31 520
   A61M5/28
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-137938(P2014-137938)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-13368(P2016-13368A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/093107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/045405(WO,A1)
【文献】 特表2013−505093(JP,A)
【文献】 特表2006−520639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に薬液排出部と基端に開口した挿入口部とを有する注射筒本体と、少なくとも一部が前記挿入口部の周囲から基端側に筒状に延び、基端に開口部と前記挿入口部の周囲から前記開口部にかけて前記注射筒本体の内径よりも大きな内径とを有する外筒と、を備える注射筒と、
前記薬液排出部を封止するキャップと、
前記注射筒本体内に挿入されているガスケットと、
前記開口部から前記注射筒に挿入される軸部と、前記軸部の基端に設けられた押圧部を有し、前記押圧部への押圧操作によって先端方向に移動することにより前記ガスケットを前記薬液排出部に向かって摺動させるプランジャと、
前記注射筒本体内で前記薬液排出部と前記ガスケットとの間に収納され、前記ガスケットの摺動により前記薬液排出部から排出される薬液とを、具備するプレフィルドシリンジであって、
前記外筒は、前記挿入口部と前記開口部との間に位置する前記外筒の壁部に形成された窓部と、前記外筒の内部を隠すマスク部とを有し、
前記軸部の前記挿入口部と前記開口部との間に位置する一部分に、前記注射筒本体の内径よりも外径が大きく、少なくとも外周面の色が前記プランジャの他の部分とは異なる色の目印部が設けられており、
前記薬液が1mL以下であり、
前記薬液の排出前から排出完了までの間に前記プランジャが移動する距離が、最大15mmであり、
前記薬液の排出前には、前記目印部の外周面が前記マスク部に覆われ、前記外筒の中心軸に対して70度以上傾いた方向から前記窓部を通して前記目印部が視認できず、前記薬液の排出完了時には、前記プランジャの先端方向への移動に伴い移動した前記目印部の外周面が前記窓部を通して視認可能となることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記目印部は、少なくとも外周面の色が前記プランジャの前記他の部分とは異なる色の目印部材を前記軸部の前記一部分に嵌め込むことによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記外筒は、実質的に透明な外筒本体と、前記外筒本体の外周面を一周覆い、透明部又は前記外筒本体の外周面を露出させる露出部と前記透明部の先端側及び基端側の2箇所に不透明部とを有するラベルとを備え、
前記窓部は、前記外筒本体の壁部と、前記ラベルの前記透明部又は露出部とから構成され、前記マスク部は、前記不透明部から構成されていることを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項4】
前記窓部は、前記外筒本体の中心軸周りに一周連続的に又は間欠的に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項5】
前記透明部又は前記露出部の前記外筒の中心軸方向における幅が0.5〜1mmであることを特徴とする請求項3又は4に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項6】
前記目印部材は、リングの一部に切れ込みの入った形状であり、前記切れ込みを用いて前記軸部の中心軸と略垂直な方向から前記軸部にはめ込まれており、
前記軸部は、前記目印部材よりも先端側に、前記軸部の中心軸と略垂直な方向に延びる先端側フランジ部を有し、
前記先端側フランジ部は、前記薬液の排出前に前記窓部よりも基端側に位置していることを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項7】
前記軸部は、前記目印部と前記開口部との間に、前記軸部の中心軸と略垂直な方向に延びる基端側フランジ部を有していることを特徴とする請求項6に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項8】
前記外筒は、実質的に透明な外筒本体と、前記外筒本体の外周面を一周覆い、前記マスク部を構成する不透明部が設けられたラベルとを有し、
前記窓部は、前記ラベルに覆われていない前記外筒本体の壁部から構成されていることを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項9】
前記注射筒本体の内径は、7mm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射筒内に予め薬液を収容しており、その薬液の排出後に使用済であることを明示するプレフィルドシリンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
菌による注射薬液の汚染防止と注射薬液調製の簡便とのために注射筒内に予め薬液が収容されたプレフィルドシリンジを用いて、薬液が患者等の被投与者へ投与される。プレフィルドシリンジは、先端部位のガスケットと基端部位の押圧部とを有するプランジャが、薬液を収容している注射筒に挿入されたものである。押圧部が押されることによってガスケットが注射筒内を摺動し、注射筒の筒先端に取り付けられた注射針を通じて薬液が、被投与者に注入される。
【0003】
インフルエンザワクチン等の生物製剤の薬液は、被投与者への投与量が1mL以下と少量である。特に、皮内へ薬液を投与する場合は、投与量が0.5mL以下と極めて少量である。そのような少量の薬液が充填されるプレフィルドシリンジは、その薬液量に合わせ、注射筒内径が小径となるが、その所為で注射筒外径が小径となり、医師等の投与者が投与時に確りと保持し難い。そのためのプレフィルドシリンジとして、特許文献1に、薬剤を収納可能な液室と先端の排出部とを有する注射筒本体と、液室内を摺動するガスケットに連結され一部が筒体から露出している軸部を有するプランジャと、注射筒本体の外側にその筒体から離間して設けられた外筒と、注射筒本体と外筒を連結する連結部とを、備えた薬剤投与器具が、開示されている。この薬剤投与器具によれば、外筒を掌全体で確りと握ることによって、注射筒本体ごと外筒を支持して安定させ、薬液をスムーズに投与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/122221号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、少量の薬液が充填されたプレフィルドシリンジは、薬液投与のために必要なプランジャの移動距離即ちストロークが短い。そのため、注射筒本体の内壁の先端までガスケットが達していたとしても、薬液投与前後におけるプランジャ基端部の位置の外観上の変化、即ち外筒からのプランジャの飛び出し長の差が小さいので、使用済であることを識別し難い。
【0006】
プレフィルドシリンジは、充填された薬液の量が少ないためにプランジャの移動距離が短い場合であっても、使用済であることを一見して識別できる安全性の高い医療器具であることが望まれていた。本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、注射筒本体の内径よりも大きな内径を有する外筒を備え、プランジャの移動距離が短くてもプレフィルドシリンジの未使用・使用済を、目視で簡便かつ確実に識別できるプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた本発明のプレフィルドシリンジは、先端に薬液排出部と基端に開口した挿入口部とを有する注射筒本体と、少なくとも一部が前記挿入口部の周囲から基端側に筒状に延び、基端に開口部と前記挿入口部の周囲から前記開口部にかけて前記注射筒本体の内径よりも大きな内径とを有する外筒と、を備える注射筒と、前記薬液排出部を封止するキャップと、前記注射筒本体内に挿入されているガスケットと、前記開口部から前記注射筒に挿入される軸部と、前記軸部の基端に設けられた押圧部を有し、前記押圧部への押圧操作によって先端方向に移動することにより前記ガスケットを前記薬液排出部に向かって摺動させるプランジャと、前記注射筒本体内で前記薬液排出部と前記ガスケットとの間に収納され、前記ガスケットの摺動により前記薬液排出部から排出される薬液とを、具備するプレフィルドシリンジであって、前記外筒は、前記挿入口部と前記開口部との間に位置する前記外筒の壁部に形成された窓部と、前記外筒の内部を隠すマスク部とを有し、前記軸部の前記挿入口部と前記開口部との間に位置する一部分に、前記注射筒本体の内径よりも外径が大きく、少なくとも外周面の色が前記プランジャの他の部分とは異なる色の目印部が設けられており、前記薬液が1mL以下であり、前記薬液の排出前から排出完了までの間に前記プランジャが移動する距離が、最大15mmであり、前記薬液の排出前には、前記目印部の外周面が前記マスク部に覆われ、前記外筒の中心軸に対して70度以上傾いた方向から前記窓部を通して前記目印部が視認できず、前記薬液の排出完了時には、前記プランジャの先端方向への移動に伴い移動した前記目印部の外周面が前記窓部を通して視認可能となるものである。
【0008】
プレフィルドシリンジは、前記目印部が、少なくとも外周面の色が前記プランジャの前記他の部分とは異なる色の目印部材を前記軸部の前記一部分に嵌め込むことによって形成されていてもよい。
【0009】
プレフィルドシリンジは、前記外筒が、実質的に透明な外筒本体と、前記外筒本体の外周面を一周覆い、透明部又は前記外筒本体の外周面を露出させる露出部と前記透明部の先端側及び基端側の2箇所に不透明部とを有するラベルとを備え、前記窓部は、前記外筒本体の壁部と、前記ラベルの前記透明部又は露出部とから構成され、前記マスク部は、前記不透明部から構成されているものであると好ましい。
【0010】
プレフィルドシリンジは、前記窓部が、前記外筒本体の中心軸周りに一周連続的に又は間欠的に形成されているものであってもよい。
【0011】
プレフィルドシリンジは、前記透明部又は前記露出部の前記外筒の中心軸方向における幅が0.5〜1mmであるものであると好ましい。
【0012】
プレフィルドシリンジは、前記目印部材が、リングの一部に切れ込みの入った形状であり、前記切れ込みを用いて前記軸部の中心軸と略垂直な方向から前記軸部にはめ込まれており、前記軸部が、前記目印部材よりも先端側に、前記軸部の中心軸と略垂直な方向に延びる先端側フランジ部を有し、前記先端側フランジ部が、前記薬液の排出前に前記窓部よりも基端側に位置しているものであると好ましい。
【0013】
プレフィルドシリンジは、前記軸部が、前記目印部と前記開口部との間に、前記軸部の中心軸と略垂直な方向に延びる基端側フランジ部を有しているものであると好ましい。
【0014】
プレフィルドシリンジは、前記外筒が、実質的に透明な外筒本体と、前記外筒本体の外周面を一周覆い、前記マスク部を構成する不透明部が設けられたラベルとを有し、前記窓部は、前記ラベルに覆われていない前記外筒本体の壁部から構成されているものであってもよい。
【0015】
プレフィルドシリンジは、前記薬液の排出前から排出完了までの間に前記プランジャが移動する距離が、最大15mmであるものであると好ましい。
【0016】
プレフィルドシリンジは、前記注射筒本体の内径が、7mm以下であるものであると好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプレフィルドシリンジは、注射筒本体内に薬液を収容しており、薬液の排出が完了された時に、薬液の排出の有無を示す目印部が、窓部から露呈し視認可能になる。このプレフィルドシリンジは、外筒の中程よりも基端寄りの目立つ位置で目印部が露呈する。また、このプレフィルドシリンジは、目印部の配色や形状又は窓部の形状が、目印部の露呈を目立たせるようになっている。そのため、薬液の排出前後でプランジャの飛出し長の変化が少なかったりして目視だけでは使用済と未使用とを誤認識し易い従来のプレフィルドシリンジよりも、遥かに確実に使用済と未使用とを識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のプレフィルドシリンジの一形態を示す一部分解斜視図である。
図2】本発明のプレフィルドシリンジの一形態の使用途中を示す部分断面正面図である。
図3】本発明のプレフィルドシリンジの一形態を示す分解斜視図である。
図4】本発明のプレフィルドシリンジの使用途中を示す斜視図である。
図5】本発明のプレフィルドシリンジの一形態を示す側面図、断面図及び一部拡大部分断面図である。
図6】本発明のプレフィルドシリンジに用いられるプランジャの別な例を示す部分斜視図である。
図7】本発明のプレフィルドシリンジの別な一形態を示す一部切欠き斜視図である。
図8】本発明のプレフィルドシリンジの別な形態の使用途中を示す部分断面正面図である。
図9】本発明のプレフィルドシリンジの別な一形態を示す一部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明のプレフィルドシリンジ1の一形態の一部分解斜視図を図1に示す。プレフィルドシリンジ1は、外筒本体30aの外周面を被覆したラベル60により窓部34及びマスク部35を有する外筒30と外筒30内に挿入されて固定されている注射筒本体40とからなる注射筒10と、注射筒本体40内に摺動可能に挿入されているガスケット51と、ガスケット51を摺動させるプランジャ50と、注射筒本体40の筒先を封止しており、注射ハブ20(図2参照)に付け替え可能なキャップ24と、を備えている。図1は、外筒本体30aの外周面からラベル60の一部を剥いである状態を示している。
【0021】
注射筒本体40は、内部を視認できる透明な樹脂で成型されている。注射筒本体40は、先端に薬液排出部41と、薬液排出部41の側面の一部を取り囲んでいるルアーロックアダプタ45(図2(a)参照)と、基端に挿入口部46(図3参照)と、挿入口部46の周縁から径方向外向きに突き出た注射筒フランジ44と、薬液排出部41と挿入口部46との間で内空が設けられた胴部43とを、有している。注射筒フランジ44は、基端側から見た外縁が長軸と短軸とを有する形状であり、長軸方向の両側に位置する一対の長軸方向側面44aと短軸方向の両側に位置する一対の短軸方向側面44bとを有している(図3参照)。一対の長軸方向側面44aは、基端側から見た外縁が注射筒本体40の中心軸を中心とする円弧状であり、一対の短軸方向側面44bは、基端側から見た外縁が長軸方向と平行な直線状である。なお、一対の短軸方向側面44bは、外向きに湾曲した湾曲面でもよい。ルアーロックアダプタ45は、略六角柱形の外形をなしている筒であり、それの内壁面は雌螺子である(図2(a)参照)。このルアーロックアダプタ45に、薬液排出部41を封止する雄螺子のキャップ24、又は注射ハブ20のハブ部22が着脱自在に螺合して取り付けられる。
【0022】
薬液42が、胴部43の内空でガスケット51と薬液排出部41(図2(a)参照)とに挟まれて収容されている。注射筒本体40の先端に設けられたルアーロックアダプタ45に、薬液排出部41を封止するキャップ24が螺合により着脱自在に取り付けられている。ガスケット51は、薬液排出部41に向かって摺動するものであり、それによって薬液42が、薬液排出部41から排出されるようになっている。また、注射筒本体40の内径φ(図2参照)は、4〜7mmであることが好ましい。
【0023】
外筒本体30aは、半透明な樹脂で成型されている。外筒本体30aは、その内部にある軸部52や目印部54の色を視認できる程度に実質的に透明である。外筒本体30aは、筒先端31と開口部32とを有する略円筒状である。外筒本体30aは、開口部32の近傍に外径及び内径が筒先端31よりも拡径した環状突出部32aと、これに連続し、外筒本体30aの外周面で外方へ向かって突き出ている鍔状の指掛部32bとを有している。指掛部32bは、外筒30の中心軸に略垂直な径方向における一方向に沿って延びていることによって、外筒30の中心軸に対して垂直に突き出ている。指掛部32bは、この一方向に平行な環状突出部32aの接線である2つの平行な直線部と、この直線部同士を連結している筒先端31に同心の弧である円弧部とからなっている。指掛部32bは、環状突出部32aの外周面で外筒30の中心軸に垂直な径方向における一方向にのみ突き出ている。このため、人差指72、中指73、薬指74及び小指75で把持して使用することを(図4参照)、投与者は一見するだけで想起することができる。
【0024】
外筒本体30aの筒先端31の近傍に、外筒本体30aの壁部を貫通した略矩形ののぞき穴33が開けられている。のぞき穴33は、使用前に、投与者が薬液42を確認するためのものである。また、のぞき穴33は、薬液42の排出が完了した際、胴部43の先端に到達したガスケット51と、これに当接している軸部52とを、視認可能に露呈させるものである。のぞき穴33から外筒本体30a内を覗くと、透明な注射筒本体40内の薬液42の排出状況やガスケット51の摺動状況を、遮られることなく明確に視認できる。
【0025】
図3に示すように、外筒本体30aの基端側の内壁面には、線条をなした一対のガイドリブ36dが外筒本体30aの中心軸に沿って突き出るように設けられている。一対のガイドリブ36dは、外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2組設けられている。また、一対のガイドリブ36dは、環状突出部32aの近傍から外筒本体30aの中程まで延びている。一対のガイドリブ36dは、それの中程よりも基端側に一対の基端側ガイドリブ36dと、中程よりも筒先端31側の先端側ガイドリブ36dとを有している。一対の先端側ガイドリブ36dの間隔は、筒先端31に向かって広がっている。
【0026】
また、対向するガイドリブ36d間の距離は、注射筒フランジ44の対向するガイドリブ36d間に挟まれる部分の幅より僅かに大きく、注射筒フランジ44の長軸方向の幅よりも小さい。これにより、外筒本体30aの開口部32から注射筒本体40を挿入する際に、注射筒フランジ44の短軸方向側面44bが、ガイドリブ36dにガイドされ、注射筒本体40が回転することなく外筒本体30a内に挿入される。また、ガイドリブ36d(基端側ガイドリブ36d)の基端部は、ガイドリブ36dの高さが開口部32に向かって低くなるガイドテーパ部37b(図2(c)参照)となっている。
【0027】
また、一対のガイドリブ36dの先端には、外筒本体30a内に挿入された注射筒本体40の注射筒フランジ44の短軸方向側面44bに対向するように一対の回動規制リブ36cが外筒本体30aの内壁面から突き出ている。一対の回動規制リブ36cは、一対のガイドリブ36dと同様に、外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2組設けられている。また、一対の回動規制リブ36cのそれぞれの先端近傍には、外筒本体30aの中心軸に向かって一対の支持突起36bが突き出ている。一対の支持突起36bは、一対の回動規制リブ36cと同様に、外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2組設けられている。すなわち、支持突起36bは、各回動規制リブ36cよりも突き出て、外筒本体30a内に挿入された注射筒本体40の注射筒フランジ44の先端に向かった面を支持している。
【0028】
さらに、各支持突起36bから連続して筒先端31の近傍まで延びる傾斜規制リブ36aが、外筒本体30aの内壁面から4本突き出ている。傾斜規制リブ36aは、隣接する2本を一対として、外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2組設けられている。傾斜規制リブ36aは、注射筒本体40の先端に設けられたルアーロックアダプタ45と当接可能である。これにより、外筒本体30aに注射筒本体40が挿入される際に、外筒本体30aに対する注射筒本体40の傾斜が規制される。また、傾斜規制リブ36aの先端部は、外筒本体30a内に挿入された注射筒本体40のルアーロックアダプタ45に当接可能な当接部36aである。
【0029】
なお、本実施形態では、ガイドリブ36d、回動規制リブ36c、支持突起36b及び傾斜規制リブ36aが一続きに形成され、全体として一対のリブが外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2組設けられている。なお、ガイドリブ36d、回動規制リブ36c、支持突起36b及び傾斜規制リブ36aはそれぞれ、非連続に形成されていてもよい。
【0030】
一対の支持突起36bに対して外筒本体30aの周方向に90度ずれた位置に、爪39bが外筒本体30aの内壁面で突き出ている。爪39bは、外筒本体30aの中心軸を挟んで対向する位置に2つ設けられている。爪39bは、筒先端31に向かうにつれて外筒本体30aの中心軸との距離が漸次短くなるように傾斜した爪傾斜面39bと、筒先端部31に向いて外筒本体30aの中心軸に対して略垂直に切り立った係止面39bとを有している(図5(b)のA−A矢視部分拡大面図参照)。
【0031】
注射筒本体40が外筒本体30aに挿入されることによって、注射筒フランジ44が爪39bの係止面39bと支持突起36bとに挟まれて係止される。また、各がたつき規制リブ39aが注射筒フランジ44の各長軸方向側面44aと当接することによって、外筒本体30aに対する注射筒フランジ44の長軸方向へのがたつきが規制される(図5(c)のB−B矢視断面図参照)。さらに、当接部36aがルアーロックアダプタ45の側面に当接することによって、外筒本体30aの中心軸に対する注射筒本体40の傾きが規制される。このようにプレフィルドシリンジ1では、外筒本体30a内での注射筒本体40のがたつきが規制される。
【0032】
プランジャ50は、その軸方向と垂直な断面を略十字形状とする軸部52を有している。軸部52の先端側は、注射筒本体40の挿入口部46から胴部43内に挿入され、軸部52の先端は、ガスケット51に当接している。また、軸部52は、その基端に、押圧によりガスケット51を摺動させて薬液42を排出させるため押圧部58を有している。押圧部58は、円板状であり、その基端側の面は、中心がやや盛り上がった凸面となっている。
【0033】
また、注射筒本体40の挿入口部46と外筒本体30aの開口部32との間に位置する軸部52の一部分に、目印部材53が嵌め込まれている。目印部材53は、軸部52の側面から外方に延びた円板状である。目印部材53の外径は、注射筒本体40の内径より大きく、外筒本体30aの内径よりも小さい。目印部材53の径方向の中央には、穴が開けられている。この穴の内径は、ガスケット51が当接する軸部52の先端部の外径よりも僅かに小さい。軸部52の先端が、目印部材53の穴に押し込まれることにより、この穴が若干広げられて、軸部52が嵌まる。それによって目的部材53は、軸部52に取り付けられる。目印部材53は、樹脂で成形されているので若干の可撓性を有している。そのため目印部材53は、軸部52を締め付ける方向に応力を生じている。この応力によって、目印部材53は、軸部52に固定される。
【0034】
軸部52と目印部材53とは、互いに異なる色の樹脂で成型され、軸部52と目印部材53との色の差異が目立つようになっている。このため、目印部材53の外周面全体が、プレフィルドシリンジ1の使用済を医療従事者に認識させるための目印部54として機能する。このように、軸部52と異なる色の目印部材53を軸部52に嵌め込むことにより、軸部52と目印部54とを2色成形により一体成形する場合等と比較して、簡単に目印部54を形成することができる。
【0035】
目印部材53の色としては、特に赤色が好ましい。赤色は、一般的に警告を意味する色であるため、赤色の目印部54は、医師等の投与者に看過されず、直ぐに認知される。目印部54として用いる赤色としては、朱色、紅色、桃色、橙色、赤桃色、赤橙色、赤褐色、赤黄色及び赤紫色が挙げられる。この赤色の具体的な色度は、XYZ表色系色度図において、反射率は問わず、x=0.35以上かつy=0.45以下であることが好ましく、x=0.5以上かつy=0.35以下であると、赤色がより鮮明に目立ち、視認する者の注意を引くのでより好ましい。なお、軸部52の色は、白色若しくは赤色の補色やそれに近似する色であることが好ましい。これにより、軸部52と目印部54との色の差異がより目立つようになる。
【0036】
また、被投与者への薬液42の投与量が1mL以下と少量の場合、注射筒本体40の内径φ(図2参照)は、4〜7mmであって細い。そのような注射筒本体40に挿入される軸部52よりも太い目印部材53の外周面を目印部54とすることで、目印部54を視認し易いように目立たせることができる。
【0037】
また、軸部52には、先端側フランジ部56と、基端側フランジ部57とが、軸部52の側面から突き出るように形成されている。目印部材53は、先端側フランジ部56に当接することにより、軸部52に対して位置決めされている。また、先端側フランジ部56は、目印部材53よりも大きい。これにより、開口部32から外筒本体30a内を覗いた際に、目印部材53は、先端側フランジ部56に隠されて視認できない。なお、基端側フランジ部57は省略されていてもよい。
【0038】
ラベル60は、外筒本体30aの中心軸に沿って切り開いて展開したときにその中心軸に沿う第1の辺60a及びその周方向に沿う第2の辺60bを有する略矩形となるフィルムである。その第1の辺60aの長さは、外筒本体30aの指掛部32bの先端からのぞき穴33の基端までの長さよりも僅かに短い。第1の辺60aに隣り合う第2の辺60bの長さは、外筒本体30aの外周面の円周長よりも僅かに長い。
【0039】
ラベル60は、透明なフィルムの略全面に不透明な印刷が施されたものである。ラベル60の中程よりも先端寄りには、第2の辺60bと平行に印刷が施されていない帯状の窓部形成用透明部63が設けられている。ラベル60には、窓部形成用透明部63で分断されて、先端側に先端側不透明部62と、基端側に基端側不透明部64とが形成されている。ラベル60の印刷の色は、目印部54と別な色、例えば白色若しくは赤色の補色やそれに近似する色になっている。それにより、ラベル60の色は、目印部54を目立たせている。
【0040】
ラベル60は、外筒本体30aに巻かれ、外筒本体30aの外周面を被覆している。これにより、先端側不透明部62及び基端側不透明部64が、外筒本体30aの壁部の外周面上で、外筒30の内部を隠すマスク部35となる。また、帯状の窓部形成用透明部63は、注射筒本体40の挿入口部46と外筒本体30aの開口部32との間に位置する外筒本体30aの外周面を一周覆っている。この窓部形成用透明部63と外筒本体30aの壁部とから、外筒30内部の目印部54の色を視認できる程度に実質的に透明で帯状の窓部34が形成されている。窓部34が周方向に一周する帯状であると、どの方向からでも外筒30内部の軸部52や目印部54を目視でき、好ましい。
【0041】
また、ラベル60は、指掛部32bとのぞき穴33との間で、指掛部32b及びのぞき穴33に被らないように外筒本体30aに巻かれている。これにより、のぞき穴33を隠さないようにラベル60に穴を設けたり、指掛部32bに合わせてラベル60に切り込みを入れたりする必要がない。さらに、外筒30の外周面は、薬液42の投与時に少なくとも中指73、薬指74及び小指75で把持される把持部として機能する部分であるため、薬液42の投与時に窓部34は掌で隠される(図4参照)。
【0042】
図2に示すように、目印部材53の先端側の面から、窓部34の先端側の縁までの距離Mと、ガスケット51の先端から、薬液排出部41の基端までの距離Lとは、等しくなっている。これによって、マスク部35は、目印部材53ごと目印部54を隠す。特に、プレフィルドシリンジ1の使用前に、窓部34から目印部材53が視認不能となる外筒30の中心軸に対する傾きθが、70度以上となる。すなわち、外筒30の中心軸に対して70度以上傾いた方向から窓部34を通して目印部材53が視認できない。これにより、プレフィルドシリンジ1の使用前に、使用済みとの誤認を投与者に与え難くなる。
【0043】
外筒30の中心軸方向に沿った窓部34の幅Wは、0.5〜1mmとするのが好ましい。これにより、薬液42の排出前から排出完了までの間にプランジャ50が移動する距離が短い場合でも、外筒30の中心軸に対して70度以上傾いた方向から窓部34を通して目印部材53が視認できなくなる。また、外筒30の中心軸方向に沿った目印部材53の幅Wも、0.5〜1mmとするのが好ましい。これにより、より確実に、プレフィルドシリンジ1の使用前に、窓部34を通して目印部材53が視認できなくなる。
【0044】
なお、ラベル60が先端側不透明部62を有しているため、視認できる赤色の目印部材53の幅が窓部34の幅Wに限られる。このため、プレフィルドシリンジ1の使用前に、窓部34から外筒30内を傾きθ未満で覗き込んだ場合でも、赤色の目印部材53が目立ち難く、使用済みとの誤認を投与者に与え難くなる。
【0045】
また、目印部材53の外径は、外筒本体30aのガイドリブ36dを除く内径の0.65倍以上であることが好ましい。これにより、窓部34の幅Wが0.5〜1mmと狭い場合でも、プレフィルドシリンジ1の使用後に、窓部34を通して目印部54を十分視認可能となり、使用済であることを投与者に確実に認識させることができる。
【0046】
プレフィルドシリンジ目印部材53は、以下のように動作して、目印部54を作用させるものである。
【0047】
目印部材53は、図2(a)に示すように、薬液42の排出前に、目印部54がマスク部35に取り巻かれる位置で、視認されない状態のまま静止している。目印部54が見えていないプレフィルドシリンジ1は、未使用であることを示している。
【0048】
押圧部58でのプランジャ50の押圧により、図2(b)に示すように、ガスケット51が摺動し始め、同時に注射筒本体40から薬液42が排出するとともに、目印部材53が窓部34に向かって移動し始める。
【0049】
ガスケット51が距離Lだけ摺動すると、薬液42の排出が完了し、それに併せ、目印部材53が距離Mだけ移動する結果、図2(c)に示すように、窓部34から目印部54が視認されるようになる。目印部54が見えているプレフィルドシリンジ1は、使用済であることを示している。
【0050】
薬液42の排出前から排出完了までの間にプランジャ50が移動する距離が短く、使用後も外筒30の開口部32から軸部52の一部が突き出ている場合、外筒30の開口部32から基端側に突き出ている軸部52の長さの変化のみで投与者がプレフィルドシリンジ1の未使用・使用済を識別することは困難である。このため、プランジャ50の移動距離が短い場合、窓部34を通して目印部54が視認できるか否かによりプレフィルドシリンジ1の未使用・使用済を識別可能であることは、非常に有用である。なお、使用後も外筒30の開口部32から軸部52の一部が突き出していることにより、薬液42の排出完了直前に、プランジャ50の押圧部58を押圧する拇指71が指掛部32bや指掛部32bに引っ掛けた人差指72又は中指73と干渉し、プランジャ50を押し切られず、規定量の薬液42が皮内に注入されないという不具合を防止できる。また、薬液42の排出完了時に押圧部58を押圧する拇指71が外筒30の開口部32と押圧部58との間に挟まれることも防止できる。
【0051】
また、目印部54は、薬液42の排出完了直前まで、マスク部35に覆われている。このため、投与者が、薬液42の排出中に目印部54を目視して投与が完了したと誤認する恐れがない。
【0052】
プレフィルドシリンジ1は、以下のようにして製造される。
【0053】
プランジャ50を以下のように製造する。白色の目印部材53とフランジ部56・57と押圧部58を有する軸部52を成形する。軸部52とは別に、中央に軸部52にはめ込むための穴を有する目印部材53を、色素又は顔料で赤色に着色された樹脂により成型する。成型した目印部材53の穴に軸部52を先端から挿入し、目印部材53を軸部52に嵌めこむ。軸部52の先端が、目印部材53の穴に押し込まれることにより、この穴が若干広げられて、軸部52が嵌まる。それによって目印部材53は、軸部52に取り付けられる。目印部材53は、樹脂で成形されているので若干の可撓性を有している。そのため目印部材53は、軸部52を締め付ける方向に応力を生じている。この応力によって、目印部材53は、軸部52に固定される。
【0054】
また、注射筒本体40、ルアーロックアダプタ45、キャップ24及び注射ハブ20を以下のように製造する。図3に示すように、注射筒本体40、ルアーロックアダプタ45、キャップ24を別々に射出成形する。ルアーロックアダプタ45を、注射筒本体40の薬液排出部41に嵌め込む。ルアーロックアプタ45にキャップ24を螺合して取り付ける。中心に注射針21を配置し貫通させたハブ部22を射出成形して、注射ハブ20とする。
【0055】
次いで、外筒本体30aを以下のように製造する。筒先端31と、略矩形に開いたのぞき穴33と、開口部32と、開口部32の近傍に環状突出部32a及び指掛部32bとを有し、一対のガイドリブ36d、回動規制リブ36c、支持突起36b及び傾斜規制リブ36aと、がたつき規制リブ39a及び爪39bとが、二組ずつ設けられた外筒本体30aを、射出成形する。
【0056】
次に、薬液42を以下のようにして充填する。先ず、キャップ24で封止された注射筒本体40を、オートクレーブ滅菌処理、又はエチレンオキサイドガス、γ線及び電子線の何れかによる滅菌処理を施す。その後、注射筒本体40の胴部43内へ、所望の薬液42を注入し充填してから、ガスケット51を注射筒本体40に挿入して、薬液42を封入する。
【0057】
次に、プレフィルドシリンジ1を以下のようにして組み立てる。外筒30の開口部32から、薬液42が収容された注射筒本体40を外筒本体30aに挿入する。注射筒フランジ44が、爪39bを乗り越えて、支持突起36bと爪39bとに挟まれて係止されるまで、注射筒本体40を押し込む。それにより注射筒本体40は、外筒本体30aに係止されて、そこから抜けないようになる。
【0058】
次に、目印部材53を有するプランジャ50を、外筒30の開口部32から外筒本体30aに挿入する。プランジャ50を押し込み、プランジャ50の軸部52の先端面と、ガスケット51の基端面とを当接させる。このようにして、ラベル60の巻かれていないプレフィルドシリンジ1とする。
【0059】
ラベル60の巻かれていないプレフィルドシリンジ1の製造とは別に、ラベル60を以下のように製造する。窓部形成用透明部63を残すように、長尺の透明フィルムに赤色以外の色のインキで不透明な背景色を印刷する。さらに、必要に応じて、印刷された背景色の上に、薬液42の種類・製品名・その有効成分名・生物学的製剤表示や劇薬表示・容量・製造販売業者名・ロット番号・有効期限等の情報、図形等を印字する。最後に、このフィルムを必要な長さに裁断し、ラベル60の巻かれていないプレフィルドシリンジ1に巻きつけて、プレフィルドシリンジ1を完成させる。
【0060】
得られたプレフィルドシリンジ1は、フィルム蓋を有する箱形状のブリスター包装材又は袋状包装材に気密に収納させる。プレフィルドシリンジ1を、包装材ごと滅菌する。また注射ハブ20は、必要に応じて注射針21を保護するためにキャップ(不図示)で覆い、滅菌密封されたカップ形状のブリスター包装材内に収納する。
【0061】
プレフィルドシリンジ1は、目印部54の色素や顔料と薬液42とが直接接触しないので、薬液42中への色素や顔料の溶出がなく、安全性を担保できる。
【0062】
なお、プレフィルドシリンジ1は、目印部54を視認不能に覆うマスク部35と、薬液排出完了時に目印部54を視認可能に露呈させる窓部34とを有するものであれば、図1図3で示した形態に限定されない。
【0063】
軸部52、目印部材53、目印部54、フランジ部56・57、及び押圧部58の色は、インキの塗布、印刷、単色成形又は二色成形によって付されていてもよい。例えば、白色の樹脂で成型された目印部材53に赤色の塗料又は顔料を用いて目印部54を印刷してもよい。また、二色成形により、外周部のみが赤色の目印部材53を成型したり、白色の軸部52と赤色の目印部材53とを一体で成型したりしてもよい。
【0064】
マスク部35上の文字、図形、背景の色は、目印部54の色と異なると好ましい。
【0065】
窓部34は、実質的に透明な外筒本体30aと、基端側不透明部64のみと先端側不透明部62のみとを外筒本体30aを取り巻き別々に形成する一対のラベル60に挟まれた露出部38で、形成されていてもよい。すなわち、一対のラベル60には、露出部38が設けられていてもよい。
【0066】
窓部34は、外筒本体30aの中心軸周りに、間欠的に形成されていてもよい。また、窓部34は、不透明なラベル60の一部に、周方向に沿って間欠的に穴が設けられ、この穴と実質的に透明な外筒本体30aとから形成されていてもよい。さらに、外筒本体30aを不透明な樹脂で成型し、その一部に周方向に沿って間欠的に穴を開けることによって窓部34を形成してもよい。この場合、ラベル60は、窓部34を覆わない位置に貼付される。
【0067】
また、環状突出部32aの内壁面に、筒先端31に向かって外筒本体30aの中心軸との距離が漸次狭くなるテーパ32e(図2(a)参照)が形成されていてもよい。テーパ32eにより、フランジ部56・57は、外筒30内にプランジャ50を挿入する際に、ガイドリブ36dへ滑るように誘導される。そのため、プランジャ50を外筒30内にスムーズに挿入することができる。テーパ32eは、図2(a)に示すように、環状突出部32aの内壁面に沿って一定間隔で形成されていてもよく、一周にわたって形成されていてもよい。
【0068】
次に、プレフィルドシリンジ1の使用方法を説明する。
【0069】
ブリスター包装材の台紙を剥がしてプレフィルドシリンジ1を取出し、ルアーロックアダプタ45に嵌められているキャップ24を外す。次いで、注射ハブ20の収容されているブリスター包装材のフィルム蓋を剥がし、キャップ24に代えて、注射ハブ20を、ルアーロックアダプタ45に螺合させて薬液排出部41に取り付ける。調製された未使用のプレフィルドシリンジ1を準備台に載置する。仮に、未使用及び使用済のプレフィルドシリンジ1が誤って混在しても、目印部54の実質的な視認可否を確認することにより、使用済のプレフィルドシリンジ1を確実に識別して、使用しないよう排除できる。
【0070】
窓部34から目印部54の実質的に目視をできないことを確認した未使用のプレフィルドシリンジ1を注射処置に供する。医師等は、プレフィルドシリンジ1を取り上げ、注射ハブ20のキャップ(不図示)を外し、図4に示すように、人差指72を指掛部32bの先端側の面に当接させながら、外筒30を掌全体で握る。拇指71をプランジャ50の押圧部58に当てつつ、注射ハブ20の環状安定部23を被投与者の皮膚に押し付け、注射針21を確実に皮膚に穿刺する。その後、プランジャ50を押圧して、ガスケット51を先端側に摺動させて、注射筒本体40内から注射針21を通じて、薬液42を被投与者に投与する。仮に、押圧部58への押圧力が高くても、人差指72が指掛部32bに引っ掛かるため、外筒30を握っている指がそれ以上外筒30に対して基端側にずれることが防止され、安定して薬液42を投与できる。また、薬液42を投与しているときは、窓部34が掌で隠れているので、目立つ目印部54の出現に惑わされることなく、投与に集中できる。
【0071】
薬液42の投与完了後、注射針21ごとプレフィルドシリンジ1を被投与者から引き離す。
【0072】
窓部34は、外筒30の中程よりも基端寄りの目立つ位置に在るので、プレフィルドシリンジ1を見たときや取り上げたときに、必ず視野に入る。そのため窓部34から目印部54が一瞥できるので、プレフィルドシリンジ1が使用済であることをより確実に認識できる。
【0073】
図1図5を参照して、プレフィルドシリンジ1の好ましい形態について説明したが、図6図9に示すような別な態様であってもよい。
【0074】
目印部材53の目印部54に、使用済を示す中抜きの記号例えば『×』(図6(a))や、使用済みを示す中抜きの文字例えば『スミ』(図6(b))が付されていてもよい。又は、目印部54に、使用済みを示す任意の模様や図形が付されていてもよい。
【0075】
マスク部35は、外筒本体30aを塗料で被覆した不透明な被膜であってもよい。
【0076】
ラベル60は、貼付又は予め外筒本体30aより大きな筒状に形成したものをシュリンクさせることにより、外筒本体30aを被覆してもよい。
【0077】
図7に、プレフィルドシリンジ1の別な形態の一部切欠き斜視図を示す。このプレフィルドシリンジ1は、基端側不透明部64のみからなるラベル60を外筒本体30aに被覆し、そのラベル60の非被覆部位で露出部38が形成され、軸部52に、先端側フランジ部56よりも基端側で、プランジャ50と別々に成型された目印部材53が取り付けられて、その目印部材53よりも基端側で、薬液42の排出時にクリック音及びクリック振動を生じさせるための発振部59が設けられているものである。
【0078】
この目印部材53は、軸部52を嵌入する穴と、その穴に外周面から到達する切れ込みとを有している。目印部材53は、切れ込みを開いて、その穴に軸部52を挿入されて、外筒30内で先端側フランジ部56よりも基端側で取り付けられている。目印部材53の目印部54は、未使用時には先端側フランジ部56で遮られて窓部34から見え難くなる。なお目印部54は、先端側フランジ部56よりも基端側で配設されても、開口部32の基端側近傍に位置している基端側フランジ部57により、開口部32から外筒30内を覗き込んでも、見え難くなっている。
【0079】
目印部材53よりも基端側で、軸部52の側面から、発振部59が、枝分かれして突き出ている。発振部59は、軸部52の中心軸に対し外向きに突き出た可撓部59aと、可撓部59aに繋がっており、外筒30の隆起部37上を摺動する傾斜部を有する摺動部59bとからなる薄い板状である。そして、一対のガイドリブ36dに挟まれて、基端側で、先端側フランジ部56の凸部とぶつからないように、隆起部37が突き出ている。隆起部37は、薬液42の排出完了時に丁度、発振部59のより突き出た頂部が隆起部37を乗り越える位置に、設けられている。
【0080】
図8に、プレフィルドシリンジ1の使用途中の状態を示す一部断面図を示す。同図(a)はプレフィルドシリンジ1が使用される直前であり、押圧部58が開口部32から突き出ている。薬液42の排出完了までにガスケット51が摺動する摺動距離Lと、発振部59が隆起部37を乗り越えるまでにプランジャ50が移動する移動距離Pとは、ほぼ等しい。それによって、ガスケット51が胴部43の先端に到達して薬液42の排出が完了するのとほぼ同時に、発振部59は隆起部37を乗り越えるようになっている。
【0081】
図8(b)に薬液42が排出されている途中のプレフィルドシリンジ1を示す。同図は、押圧部58が押圧されて、薬液42が注射針21から排出されている状態を示している。摺動部59bが、隆起部37の傾斜面を摺動することによって発振部59が隆起部37に乗り上げている。隆起部37の傾斜面は頂上に向かうにつれて勾配がきつくなるように若干湾曲しているので、押圧部58の押圧によって摺動部59bが隆起部37の頂上に近づくにつれて応力は急激に高められる。この応力により摺動部59bは、隆起部37の傾斜面に向かって付勢されているので、摺動部59bと隆起部37の傾斜面との間に摩擦抵抗が生じる。
【0082】
図8(c)に薬液42が排出完了した時のプレフィルドシリンジ1を示す。同図は、プランジャ50が押し切られてガスケット51が胴部43の先端まで到達している状態を示している。この到達とほぼ同時に摺動部59bが隆起部37の頂上を乗り越え、発振部59に蓄積された応力が、隆起部37の鋭角な頂上から一気に解放される。それにより発振部59は弾かれて振動し、カチッというクリック音とクリック振動とが同時に発生する。医師等は、このクリック音を聞き取ること、又はクリック振動を感知することによって薬液42の排出が完了した、又は完了間際であることを認識することができる。しかもクリック音やクリック振動は、ヒトに対して所望の操作が完遂された感覚を生じさせるので、プレフィルドシリンジ1は、薬液42が被投与者に確実に投与されたという安心感を、医師等に与えることができる。
【0083】
さらに、薬液42の排出完了時にマスク部35に隠れていた目印部54の露出部38への目印部54の出現と、薬液42の全体の排出状況やガスケット51及び軸部52の動作状況とを、併せて目視できる。
【0084】
図9にプレフィルドシリンジ1の別な形態の一部分解斜視図を示す。同図に示すプレフィルドシリンジ1は、外筒本体30aと注射筒本体40とが一体化しているものである。外筒本体30aは、注射筒本体40の挿入口部46の周囲からから開口部32に向かって延び、注射筒本体40の内径よりも大きな内径と、挿入口部46よりも基端側に設けられた隆起部37とを有している。また、外筒本体30aは、挿入口部46の周囲から開口部32に向かって広がるように拡径している拡径部を有し、この拡径部を介して注射筒本体40と繋がっている。拡径部の中心軸に対して対称に、段差部を形成する抜き穴が開いている。このプレフィルドシリンジ1は、薬液42の排出完了とほぼ同時に目印部材53が窓部34から露呈し、発振部59が弾かれてクリック音及びクリック振動を生じる。
【0085】
注射筒本体40内に収容される薬液42は、例えばインフルエンザ、破傷風、肺炎球菌、ポリオ、日本脳炎、風疹、麻疹、黄熱、ヒブ、肝炎、水痘、狂犬病、ロタウィルス、おたふくかぜ、子宮頸がん予防、MQ、DT及びDPT等のワクチンのような生物医薬が挙げられる。ワクチン以外では、例えばブドウ糖等の糖液注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、造影剤、ステロイド剤、タンパク質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗生物質、抗がん剤、ヘパリンカルシウム、麻酔薬及び抗体医薬等が挙げられる。
【0086】
なお、プレフィルドシリンジ1を用いて少量の薬液42を投与する場合、投与前後のプランジャ50の移動距離が短い。使用後も外筒30の開口部32から軸部52の一部が突き出ている場合、外筒30の開口部32から基端側に突き出ている軸部52の長さの変化のみで投与者がプレフィルドシリンジ1の未使用・使用済を識別することは困難である。このため、プレフィルドシリンジ1は、プランジャ50の移動距離が短い場合に用いることが好適である。特に、薬液42を皮内に投与する場合、薬液42の排出前から排出完了までの間にプランジャ50が移動する距離が5〜16mmと非常に短くなるため、特にこのプレフィルドシリンジ1を用いることが好適である。
【0087】
外筒本体30a、注射筒本体40、ルアーロックアダプタ45、キャップ24、軸部52、目印部材53、フランジ部56・57、押圧部58及び注射ハブ20本体の材料として、耐薬品性、ガス・菌バリア性、生体への安全性等の観点から選択される。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのようなポリオレフィン樹脂;ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル;ポリアミドが用いられる。特に滅菌処理をオートクレーブで行う場合、これらの材料として、耐熱性の高い樹脂、例えばポリプロピレン又はポリカーボネートを用いることが好ましい。また、外筒本体30a及び注射筒本体40の材料として、筒内に収容された薬液42を外側から視認できるように高い透明度を有し、薬液42との相互作用が少なく、かつ薬液42の投与時に強く握られたり押されたりしても曲がらずかつ潰れない剛性をもつ樹脂である環状オレフィンホモポリマー又は環状オレフィンコポリマーを用いることが好ましい。それらは成型によって形成される。その成形法は、射出成形法、ブロー成形法、熱成形法等を用いることができ、なかでも射出成形法が好ましい。
【0088】
ガスケット51の材料は、上記と同様の観点から選択される。例えばオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系又はスチレン系の熱可塑性エラストマーや、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのようなゴム材料が用いられる。
【0089】
なお、図1〜5、図6図7〜8、図9にそれぞれ示す実施形態は適宜組合せ可能である。例えば、図1〜5に示す実施形態に、図7〜8に示す実施形態で説明した発振部59および隆起部37を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のプレフィルドシリンジは、被投与者へ少量の薬液を投与するために用いられる。
【符号の説明】
【0091】
1:プレフィルドシリンジ、 10:注射筒、 20:注射ハブ、 21:注射針、 22:ハブ部、 23:環状安定部、 24:キャップ、 30:外筒、 30a:外筒本体、 31:筒先端、 32:開口部、 32a:環状突出部、 32b:指掛部、 32e:テーパ、 33:のぞき穴、 34:窓部、 35:マスク部、 36a:傾斜規制リブ、 36a:当接部、 36b:支持突起、 36d:ガイドリブ、 36d:先端側ガイドリブ、 36d:基端側ガイドリブ、 36c:回動規制リブ、 37:隆起部、 37b:ガイドテーパ部、 38:露出部、 39a:がたつき規制リブ、 39b:爪、 39b:係止面、 39b:爪傾斜面、 40:注射筒本体、 41:薬液排出部、 42:薬液、 43:胴部、 44:注射筒フランジ、 44a:長軸方向側面、 44b:短軸方向側面、 45:ルアーロックアダプタ、 46:挿入口部、 50:プランジャ、 51:ガスケット、 52:軸部、 53:目印部材、 54:目印部、 56:先端側フランジ部、 57:基端側フランジ部、 58:押圧部、 59:発振部、 59a:可撓部、 59b:摺動部、 60:ラベル、 60a:第1の辺、 60b:第2の辺、 62:先端側不透明部、 63:窓部形成用透明部、 64:基端側不透明部、 71:拇指、 72:人差指、 73:中指、 74:薬指、 75:小指、 L,M,P:距離、 φ:内径、 W,W:幅、 θ:傾き
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図9