(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411147
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】発病予知ネットワークシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20181015BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
A61B5/00 G
A61B5/02 G
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-192527(P2014-192527)
(22)【出願日】2014年9月22日
(65)【公開番号】特開2016-59759(P2016-59759A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】514240769
【氏名又は名称】株式会社メディプリーム
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大森 隆史
【審査官】
増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−216740(JP,A)
【文献】
特開2000−262479(JP,A)
【文献】
特開2006−31190(JP,A)
【文献】
特表2011−530750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/05
A61B 9/00−10/06
G16H 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発病予知ネットワークシステムであって、
被験者の生体情報を自動測定し、生体情報データベースに自動送信する、測定デバイス、
測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する、生体情報データベース、
被験者の遺伝子情報を格納する遺伝子情報データベースおよび、
コンピュータを含み、
コンピュータは、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、
前記発病予知ネットワークシステム。
【請求項2】
コンピュータが、被験者の疾患の前兆を検知すると、被験者および/または医療機関に対して通知を行う、請求項1に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項3】
被験者の問診情報を格納する問診情報データベースをさらに含み、コンピュータが、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化、遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報および問診情報データベースに格納された被験者の問診情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、請求項1または2に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項4】
発病者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報を、発病パターン情報として格納する発病パターン情報データベースをさらに含み、コンピュータが、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化、遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報および発病パターン情報データベースに格納された発病パターン情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、請求項1または2に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項5】
生体情報が、少なくとも脈拍を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項6】
検知される疾患が、心筋梗塞および/または脳梗塞である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項7】
遺伝子情報が、心筋梗塞および/または脳梗塞に関連する一塩基多型の情報である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項8】
被験者が健常者である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発病予知ネットワークシステム。
【請求項9】
被験者の生体情報を自動測定し、生体情報データベースに自動送信する、測定デバイス、
測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する、生体情報データベース、
被験者の遺伝子情報を格納する遺伝子情報データベースおよび、
コンピュータを含む、発病予知ネットワークシステムにおいて、
コンピュータに、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知するステップを実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の生体情報および遺伝子情報を利用して、被験者の疾患の前兆を検知することができる、発病予知ネットワークシステム、プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
成人病、生活習慣病と名づけて予防を呼びかけて来た高血圧、糖尿病、高脂血症などは、今なお増加を続けており、メタボリック症候群というキャッチフレーズで国民の意識変革を狙っている。この間、20年以上は経過しているが、未だに脳梗塞、心筋梗塞の発病は減るどころか増加している。
【0003】
脳梗塞、心筋梗塞は発病してから、救急病院を始めとするある程度の規模の病院で治療を受けることが基本となっている。救急病院での治療においては、短期間で高額の医療費が発生することが少なくない。したがって、このような状況を回避しようと、発病前の健常者に対して事前に健康診断を実施して、発病の予防に役立てることが行われている。しかし、このような健康診断の実施は、場合によっては在宅往診で行えることもあるが、基本的には医療機関内に限られることが大半である。
【0004】
この状況の中で本発明者らは、被験者が何らかの疾患の急性期状態になる前に、被験者自身が在宅で実施できる簡易検査を通して、疾患の前兆を検知する方法を提案した(特許文献1)。これは、被験者が測定器を用いて自身の生体情報である脈拍および体温を測定し、携帯電話を通じて定期的にサンプリングして、医療機関または検査機関のコンピュータに蓄積し、コンピュータは蓄積された生体情報を自動解析して、被験者の疾患の前兆を伝達するというものであるが、現在までのところ実用化の目途は立っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−36416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、このような疾患の急性期状態になる前の被験者自身が、在宅で実施する簡易検査を実現すべくさらに研究を続ける中で、これを実現化するには、被験者が健常者であるだけに、被験者の負担をできるだけ軽くしてコンプライアンスを高く保持しなければならないこと、またできるだけ信頼性の高いものでなければならないことが不可欠であるとの新たな着眼点のもと、これをネットワークシステム化することにより、健常者のニーズに応えることができるとの確信を持つに至った。すなわち本発明は、被験者に負担を強いることなく、疾患の前兆をより正確に検知するネットワークシステムを構築することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、被験者の生体情報についてはこれを自動的に測定、送信することが可能な測定デバイスを用いてネットワークを介して自動的に送信し、これとあらかじめ提供された被験者の遺伝子情報とを自動解析することで、在宅でほぼ居ながらにして疾患の前兆を正確に検知できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]発病予知ネットワークシステムであって、
被験者の生体情報を自動測定し、生体情報データベースに自動送信する、測定デバイス、
測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する、生体情報データベース、
被験者の遺伝子情報を格納する遺伝子情報データベースおよび、
コンピュータを含み、
コンピュータは、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、
前記発病予知ネットワークシステム。
[2]コンピュータが、被験者の疾患の前兆を検知すると、被験者および/または医療機関に対して通知を行う、[1]に記載の発病予知ネットワークシステム。
【0009】
[3]被験者の問診情報を格納する問診情報データベースをさらに含み、コンピュータが、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化、遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報および問診情報データベースに格納された被験者の問診情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、[1]または[2]に記載の発病予知ネットワークシステム。
[4]発病者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報を、発病パターン情報として格納する発病パターン情報データベースをさらに含み、コンピュータが、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化、遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報および発病パターン情報データベースに格納された発病パターン情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する、[1]または[2]に記載の発病予知ネットワークシステム。
【0010】
[5]生体情報が、少なくとも脈拍を含む、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の発病予知ネットワークシステム。
[6]検知される疾患が、心筋梗塞および/または脳梗塞である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の発病予知ネットワークシステム。
[7]遺伝子情報が、心筋梗塞および/または脳梗塞に関連する一塩基多型の情報である、[1]〜[6]のいずれか一つに記載の発病予知ネットワークシステム。
[8] 被験者が健常者である、[1]〜[7]のいずれか一つに記載の発病予知ネットワークシステム。
【0011】
[9] 被験者の生体情報を自動測定し、生体情報データベースに自動送信する、測定デバイス、
測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する、生体情報データベース、
被験者の遺伝子情報を格納する遺伝子情報データベースおよび、
コンピュータを含む、発病予知ネットワークシステムにおいて、
コンピュータに、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知するステップを実行させるためのプログラム。
[10][9]に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発病予知ネットワークシステムによれば、被験者の生体情報がデータベースに自動的に格納されるため、被験者の負担を軽くしてコンプライアンスを高く保持することができる。また、コンピュータは、被験者の生体情報に加えて、遺伝子情報を自動解析するため、被験者が本来持つ疾患に対するリスクを考慮に入れて、被験者の疾患の前兆をより正確に検知することができる。このように本発明によれば、健常者が普段と変わらぬ日常生活を送りながら、思いもよらぬ突発性の病気などをあらかじめ察知することを可能にし、ひいてはその発症を未然に防止することができるという、これまでの常識では考えられない、人類の福祉に多大な貢献をなしえるものである。
【0013】
なお、本発明は基本的には健常者を対象とするものではあるが、疾病発症の予備軍である通院中の患者に適用しても格別な効果が得られることは明らかであり、さらに入院中の患者に対してもネットワークシステムの一部に組み込まれている測定デバイスを利用することにより、当該患者の病状および/または健康管理にすぐれた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施態様における被験者の脈拍の経時的変化を示す図である。
【
図2】本発明の実施態様における被験者の体温の経時的変化を示す図である。
【
図3】本発明の実施態様における被験者の脈拍を体温で除した値の経時的変化を示す図である。
【
図4】本発明の実施態様における被験者の脈拍を体温で除した値と体温の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための態様について、以下、適宜、項目分けして説明するが、本発明は、以下に示す態様に限定されるものではなく、必要に応じて、改変、修正などを行うことができる。
【0016】
本発明の発病予知ネットワークシステムは、一態様において、被験者の生体情報を自動測定し、生体情報データベースに自動送信する、測定デバイス、測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する、生体情報データベース、被験者の遺伝子情報を格納する遺伝子情報データベースおよびコンピュータを含み、コンピュータは、生体情報データベースに格納された被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納された被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する。測定デバイス、生体情報データベース、遺伝子情報データベースおよびコンピュータは、ネットワークを介して接続され、相互に通信可能である。
【0017】
本発明において、被験者は、例えば、健常者や患者、より具体的には、就業中の健常者や、就業中以外の健常者、さらには、在宅療養中、通院中、入院中の患者などが挙げられる。
本発明において、生体情報は、例えば、心拍数、脈拍、血圧、呼吸数、体温、血中酸素状態、心電位、脳波、皮膚温、心拍間隔、脳波間隔、体動量、姿勢などが挙げられる。本発明の発病予知ネットワークシステムは、これらの生体情報を適宜組み合わせて利用することもできる。例えば、心筋梗塞、脳梗塞の検知を行う場合は、脈拍および体温などを組み合わせて利用することとなる。
本発明の測定デバイスは、被験者の生体情報を自動的に測定し、送信することが可能なデバイスであれば、特に限定されないが、ウエアラブルデバイス、カメラを内蔵するスマートフォン、タブレット端末、コンピュータなどが挙げられる。
【0018】
ウエアラブルデバイスとしては、特に限定されないが、指輪または腕輪タイプの脈波センサーや、被験者の胸部に貼り付ける小型センサーが挙げられる。指輪または腕輪タイプの脈波センサーは、発光ダイオードにより指の血管に照射した赤外光の反射光をフォトダイオードで受け、血液中のヘモグロビンの量を光学的に計測し、脈拍や血中酸素状態などを測定することができる。指輪または腕輪タイプの脈波センサーは、内蔵された小型の無線通信モジュールを利用して、測定された被験者の生体情報を送信することができる。
【0019】
被験者の胸部に貼り付ける小型センサーは、被験者の心電位、脈波、皮膚温といった生体情報を非侵襲的に同時に連続的に計測し、内蔵された加速度センサーとCPUを利用して、被験者の心拍間隔、脈波間隔、体動量、姿勢などの情報を自動的に算出し、Bluetooth(登録商標)で送信することができる。
【0020】
カメラを内蔵するスマートフォン、タブレット端末、パソコンは、内蔵したカメラで撮影した被験者の顔の画像から、被験者の顔表面の輝度変化を捉えて、被験者の脈拍を自動計測することができる。加えて、内蔵したカメラで被験者の顔や体の動きを観察して、被験者の活動状況を把握することで、被験者が静止している時の安定した状態の脈拍だけを、ネットワークを介して自動的に送信することもできる。特に、就業中の健常者が利用している職場のパソコンに、このような機能を組み込み、健常者の生体情報を非接触で測定することが好ましい。
【0021】
本発明の生体情報データベースは、一態様において、測定デバイスから自動送信された被験者の生体情報を格納する。
本発明の遺伝子情報データベースは、一態様において、被験者の遺伝子情報を格納する。遺伝子情報は、特に限定されないが、塩基配列情報、一塩基多型情報、マイクロサテライト、コピー数多型などが挙げられる。
本発明において、疾患は、生体情報と遺伝子情報とを適宜組み合わせることにより予知が可能なものであれば疾患の種類に限定されないが、例えば、感染症、自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞、末梢性動脈疾患などが挙げられる。
【0022】
本発明のコンピュータは、一態様において、遺伝子情報データベースに格納されている被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者が特定の疾患を発病する可能性が高いかどうかを判断する。
本発明のコンピュータは、例えば、遺伝子情報データベースに格納されている被験者の一塩基多型(SNPs)情報を自動解析する。そして、被験者が特定の疾患に関連する遺伝因子を有している場合は、被験者が特定の疾患を発病するリスクが高いと判断し、これを発病リスク値として算出することができる。
疾患に関連する遺伝因子は、特に限定されないが、心筋梗塞発症に関連する遺伝因子としては、例えば、BTN2A1遺伝子C→T多型(rs6929846)、ILF3遺伝子A→G多型(rs2569512)等が挙げられる。また、脳梗塞発症に関連する遺伝因子としては、例えば、CELSR1遺伝子A→G多型(Thr2268Ala、rs6007897)およびA→G多型(Ile2107Val、rs4044210)等が挙げられる。
【0023】
本発明のコンピュータは、一態様において、生体情報データベースに格納されている被験者の生体情報の経時的変化および遺伝子情報データベースに格納されている被験者の遺伝子情報を自動解析し、被験者の疾患の前兆を検知する。
本発明のコンピュータは、例えば、被験者の脈拍の経時的変化から、被験者の感染症、自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞、末梢性動脈疾患などの炎症反応を伴う疾患の前兆を捉え、さらに、被験者の遺伝子情報から算出した発病リスク値を利用して、被験者の炎症反応を伴う疾患が、どの疾患であるかを特定することができる。
【0024】
脈拍は心臓の拍動である心拍数と同じものであり、自律神経によって支配されている。自律神経には交感神経、副交感神経があり、この二つの神経によって緊張と弛緩がコントロールされている。しかし、心拍数(脈拍)は自律神経の上位中枢である視床下部、扁桃体にも影響されている。特に扁桃体は種々の感情をキャッチする中枢であり、感情などの変化によって心拍数(脈拍)が変化する切っ掛けとなっている。
【0025】
さらに、この扁桃体は生体内で発生する乳酸に敏感に反応することも明らかになっている。細胞内の細胞基質において、乳酸は解糖系でブドウ糖からピルビン酸を経て合成される。乳酸は十分な酸素が存在しない時に、ピルビン酸から合成される。生体内で酸素が不足する場合とは、激しい生理的運動時以外に炎症反応が起こる時などである。
【0026】
生体内で正常な状態でも恒常性の維持のために、各種の化学反応がダイナミックに行われ、乳酸生成は変動している。そのため、正常な生理的状態でも乳酸値の変動に応じて、心拍数(脈拍)も変動している。しかし、組織、細胞が正常な恒常性を維持している時は、心拍数(脈拍)はある基準範囲の変動となる。
【0027】
本発明のコンピュータは、例えば、被験者の脈拍が基準範囲を超えて増加した場合に、これを、感染症、自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞、末梢性動脈疾患などの炎症反応を伴う疾患の前兆であると判断する。さらに、本発明のコンピュータは、被験者の遺伝子情報を解析し、被験者の心筋梗塞に対する発病リスク値が高いと判断した場合は、被験者の炎症反応を伴う疾患が、心筋梗塞である可能性が高いと判断する。これにより、本発明のコンピュータは、被験者が本来持つ疾患に対するリスクを考慮に入れて、被験者の疾患の前兆をより正確に検知することができる。
【0028】
本発明のコンピュータは、一態様において、生体情報データベースに格納されている被験者の脈拍および体温の経時的変化と、遺伝子情報データベースに格納されている被験者の遺伝子情報とを利用して、疾患をより正確に特定することができる。
【0029】
上述のような乳酸値が増加する炎症反応の場合、結果的に心拍数(脈拍)は基準範囲を超えて増加する可能性がある。この時の炎症反応には大きく二通りの反応がある。
第1の反応は、感染症、自己免疫疾患などのような体温上昇を伴う炎症反応で、発熱を伴うことが多い。
第2の反応は、感染症以外の炎症反応で、心筋梗塞、脳梗塞などの細胞の虚血性変化が生じる場合である。
本発明のコンピュータは、例えば、心拍数(脈拍)変化とその反応に伴う発熱の有無を確認し、上記第1の反応と第2の反応の心拍数(脈拍)の変化を区別することができる。
【0030】
図1は、被験者の脈拍変化を経時的にプロットした図である。
図2は、被験者の体温変化を経時的にプロットした図である。
図3は、被験者の脈拍を体温で除した値の変化を経時的にプロットした図である。
図4は、被験者の脈拍を体温で除した値の変化と、被験者の体温の相関図である。
本発明のコンピュータは、
図3および
図4に示されるように、被験者の生体情報である脈拍を体温で除した値が基準範囲を逸脱した外れ値10と、徐々に変化を起こしている状況をとらえる変化点11とを検出することができる。
【0031】
外れ値10の検定は、生体情報データベースに格納された被験者の心拍数(脈拍)を統計処理することで行うことができる。外れ値10の検定方法としては、特に限定されないが、標準偏差、パーセンタイル値、スミルノフ・グラブス検定、トンプソン検定、ディクソン検定、コクラン検定等を利用した方法が挙げられる。また、変化点11は、外れ値10が連続的に現れた時点や、心拍数(脈拍)が連続的に増加した時点を含む。
【0032】
図4に示されるように、被験者の体温が37℃以上である場合は、体温上昇と共に脈拍を体温で除した値も増加している。よって、本発明のコンピュータは、これらを感染症、自己免疫疾患などのような体温上昇を伴う第1の反応である炎症反応であると判断する。
一方、第2の反応は、被験者の体温が37℃以上である場合で、体温が大きく上昇せずに、脈拍を体温で除した値が増加する。よって、本発明のコンピュータは、大きな体温上昇を伴わずに乳酸値が増加する場合、多くは細胞における酸素不足、すなわち、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性変化が生じていると判断する。
以上のように、本発明のコンピュータは、被験者の脈拍に加えて、被験者の体温を解析することで、上記第1の反応と第2の反応を区別することができる。また、これに被験者の遺伝子情報から算出した発病リスク値を加えることで、疾患名を特定することができる。
【0033】
本発明の発病予知ネットワークシステムは、一態様において、さらに問診情報データベースおよび/または発病パターン情報データベースを含む。
本発明の問診情報データベースは、一態様において、医師が被験者に対して問診を行い収集した、被験者の年齢、性別、既往歴、現病歴などの問診情報を格納する。
本発明のコンピュータは、一態様において、問診情報データベースに格納された被験者の問診情報を自動解析し、被験者が特定の疾患を発病するリスクが高いと判断した場合は、その高さの度合いを発病リスク値として数値化する。そして、本発明のコンピュータは、被験者の生体情報、遺伝子情報および問診情報を利用することで、被験者が本来持つ疾患に対するリスクを考慮に入れて、被験者の疾患の前兆をより正確に検知することができる。
【0034】
本発明の発病パターン情報データベースは、一態様において、実際に疾患を発病した発病者の生体情報、遺伝子情報、疾患名、発病時刻などの情報を発病パターン情報として格納する。本発明のコンピュータは、一態様において、被験者の生体情報と、発病パターン情報データベースに格納された発病パターン情報との類似性を評価し、被験者が特定の疾患を発病するリスクが高いと判断した場合は、その高さの度合いを発病リスク値として数値化する。そして、本発明のコンピュータは、被験者の生体情報、遺伝子情報および発病パターン情報を利用して、被験者の疾患の前兆をより正確に検知することができる。
発病者の生体情報は、生体情報データベースに格納されている被験者の生体情報の内の、実際に疾患を発病した被験者の生体情報を利用してもよい。これにより、本発明の発病予知ネットワークシステムを利用する利用者間で、生体情報データベースに蓄積された情報をより有効的に活用することができる。
【0035】
以下、本発明について図面に基づいて、さらに詳細に説明を加えるが、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本実施態様においては、生体情報が脈拍であり、検知する疾患が、脳梗塞であるものとして説明する。
【0036】
本発明の実施態様における発病予知ネットワークシステムの全体構成図を
図5に示す。本発明の発病予知ネットワークシステムは、測定デバイス2、生体情報データベース3、遺伝子情報データベース4、問診情報データベース5、発病パターン情報データベース9およびコンピュータ6を含み、これらは、ネットワーク7を介して接続され、相互に通信可能である。測定デバイス2は、被験者1の脈拍の値を自動的に測定し、ネットワーク7を介して、生体情報データベース3に自動的に送信する。生体情報データベース3は、測定デバイス2から自動送信された被験者1の脈拍の値を格納する。
【0037】
医療機関8は、ネットワーク7を介して、遺伝子情報データベース4および/または問診情報データベース5にアクセスして、被験者の遺伝子情報および/または問診情報を格納する。コンピュータ6は、生体情報データベース3に格納された被験者1の生体情報を解析し、被験者1の脈拍が基準範囲を超えて増加した場合に、被験者が炎症反応を伴う疾患を発症する可能性が高いと判断する。さらに、コンピュータ6は、遺伝子情報データベース4に格納されている被験者1の遺伝子情報を解析し、被験者が脳梗塞発症に関連する遺伝因子を有している場合は、被験者が発症する疾患が脳梗塞である可能性が高いと判断する。さらに、コンピュータ6は、問診情報データベース5に格納されている被験者の問診情報から算出した発病リスク値を付加的に利用して、被験者の疾患の前兆をより正確に判断する。
【0038】
医療機関8は、被験者1が疾患を発病した場合、その疾患名および発病時刻をコンピュータ6に入力する。コンピュータ6は、被験者1の生体情報、遺伝子情報および疾患名を、発病パターン情報として発病パターン情報データベース9に格納する。コンピュータ6は、測定デバイス2’から送信され、生体情報データベース3に格納された被験者1’の生体情報および遺伝子情報データベース4に格納された被験者1’の遺伝子情報に加えて、発病パターン情報データベース9に格納された発病パターン情報を付加的に利用して、被験者1’の疾患名およびその前兆を検知する。
【0039】
コンピュータ6は、被験者の疾患の前兆を検知した場合、アラーム情報として被験者1および/または医療機関8に通知する。また、コンピュータ6は、アラーム情報の通知に加えて、被験者の疾患名とその危険度を表したレポートを、被験者1が利用している測定デバイス2および/または医療機関8に送信する。
【0040】
コンピュータプログラム6aは、コンピュータ6のハードディスクである記録媒体6bに記録され、コンピュータ6の動作を制御する。コンピュータプログラムが記録される記録媒体は、CD−ROM等のあらゆる記録媒体を含み、ドライブ6cにCD−ROMが挿入され、さらに、コンピュータプログラム6aが、ハードディスクである記録媒体6bにインストールされて記録される。