(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
受光された赤外線量に基づいて物体表面の温度を示す温度分布画像を撮像するサーモグラフィ装置を用いて血管に関する画像を撮像することを支援する撮像支援装置であって、
血液透析を受ける患者の血液を体外循環させる血液回路を流れる血液の温度を測定する温度センサから、前記患者の血液温度を取得する血液温度取得手段と、
前記患者の体表面を撮像可能なサーモグラフィ装置から取得した温度分布画像に基づいて、前記患者の体表面温度を測定する体表面温度測定手段と、
前記取得された血液温度及び前記測定された体表面温度に基づいて、体外循環する前記患者の血液と透析膜を介して接触する透析液の温度調節機構を制御して、前記血液回路から前記患者の血管へ導入される血液の温度を、前記測定された体表面温度と異なる温度に昇降させる温度調節手段と
を備える撮像支援装置。
前記温度調節手段は、前記取得された血液温度と前記測定された体表面温度との差が基準温度差に満たない場合に、前記患者の血管へ導入される血液の温度と前記測定された体表面温度との差を大きくするように前記温度調節機構を制御して、前記患者の血管へ導入される血液の温度を昇降させる、
請求項1に記載の撮像支援装置。
前記録画開始手段は、前記取得された血液温度と前記測定された体表面温度との間に前記基準温度差がある状態が所定時間継続したことを検知した場合に、前記録画する処理を開始する、
請求項3に記載の撮像支援装置。
前記血液回路には、前記患者の脱血口から導出された血液を、前記透析膜を用いて血液浄化を行うダイアライザへ向かう正方向、または、前記ダイアライザから前記患者の脱血口へ向かう逆方向へ送出する血液ポンプが設けられており、
前記撮像支援装置は、前記血液ポンプが血液を前記正方向への送出を行っている場合において、前記取得された血液温度と前記測定された体表面温度との間に前記基準温度差があることを検知したときに、所定の期間、血液を前記逆方向へ送出するように前記血液ポンプを制御する、
請求項2から4の何れか一項に記載の撮像支援装置。
前記温度センサは、前記血液回路のうち、前記透析膜を用いて血液浄化を行うダイアライザを経由した血液を前記患者の血管へ導入する部分である静脈側血液回路を流れる血液の温度を測定可能に設けられる、
請求項1から6の何れか一項に記載の撮像支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
説明は、次の順序で記載される。
§1.血管撮影の原理
概要
実験例
§2.実施形態
システム構成
動作の流れ
作用効果
その他
【0015】
§1.血管撮影の原理
<概要>
図1は、サーモグラフィを用いた血管撮影の原理を説明するための説明図である。
図1には、サーモグラフィ装置T(「サーモアンジオグラフィー装置」や「Thermoangiography System」とも呼ばれる)、撮影対象の血管を有する血液透析を受ける患者P1、及び撮影画像IMが示されている。サーモグラフィ装置Tは、赤外線センサを用いて物体表面の温度分布を取得して画像化する装置である。患者P1の左腕の皮下には、血液透析用の自己血管による内シャントが作製されている。
図1では、動脈A1と静脈V1とが吻合部C1で吻合されている。動脈A1の動脈血が吻合部C1から静脈V1に流入し、静脈V1の豊富な血流が確保される。静脈V1は、穿刺が容易な、皮下を走行する皮静脈である。
【0016】
まず、サーモグラフィ装置Tのレンズが患者P1の左腕のシャント付近に向けられ、動画としての連続的なサーモグラフィを撮影するように設置される。次に、患者P1の動脈A1内に生理食塩水を注入する。ここで、注入される生理食塩水の温度は、患者P1の左腕の体温や体表面温度(皮膚温)と異なる温度、例えば、25℃である。動脈A1内に注入された生理食塩水は、血管内の血流によって、その一部が吻合部C1を通って静脈V1へ流入し、中枢方向へ移動する。生理食塩水の温度が血管の周囲にある組織の温度の異なるため、サーモグラフィ装置Tのディスプレイに表示される撮影画像IMには、生理食塩水が通った軌跡が周囲と異なる彩色を有する部位として表れる。当該撮影画像IMにより、血液が通る皮下の血管内腔の領域や、血流の状況を観察し、検査や診断を行うことが可能となる。なお、
図1の撮影画像IMには、サーモグラフィではなく、血管の形状を模式的に表した画像を掲載している。
【0017】
<実験例>
以上説明したサーモグラフィを用いた血管撮影の原理に沿った実験例として、ゲルを用いた実験例及び正常前腕を用いた実験例を説明する。これらの実験例は、血液透析の患者に関する実験ではないが、血液透析の患者においても、検査や診断に役立つ血管に関するサーモグラフィが得られると思料される。
【0018】
(ゲルを用いた実験例)
図2は、ゲルを用いた実験例に係る可視光の写真の例である。写真には、トレイE1に入れられた約37℃のゲルE2、及びゲルE2内を紙面左右に通過するチューブE3が示されている。チューブE3のゲルE2内を通過する部分の中央付近には、狭窄部E31が作製してある。また、チューブE3の狭窄部E31付近は、チューブE3の他の部分よりも浅い位置でゲルE2内を通過するように配置されている。
【0019】
図3は、ゲルを用いた実験例に係るサーモグラフィの例である。チューブE3内に約10℃の生理食塩水を環流し、
図3に示されるサーモグラフィが得られた。なお、
図3は、
本来はカラー画像である。
【0020】
当該サーモグラフィには、周囲と異なる色を有する領域R1がある。領域R1は、ゲルE2と温度差を有したまま、浅い位置のチューブE3内を移動する生理食塩水を表している。領域R1によって、チューブE3の位置する領域が撮影されたことになる。また、当該サーモグラフィには、領域R2がある。領域R2は、チューブE3の狭窄部E31の形状と対応しており、狭窄部E31が撮影されたことになる。また、当該サーモグラフィには、領域R3がある。領域R3は、ゲルE2外に位置するチューブE3内の生理食塩水を表している。
【0021】
(正常前腕を用いた実験例)
図4は、正常前腕を用いた実験例に係るサーモグラフィの例である。正常前腕の皮静脈を穿刺して、約10℃の生理食塩水を静注すると、
図4に示されるサーモグラフィが得られた。当該サーモグラフィには、周囲と異なる色の領域R4がある。領域R4の周囲は、約32℃を示すのに対し、領域R4は、約29.5℃を示す。領域R4は、体温や体表面温と温度差を有したまま皮静脈内を移動する生理食塩水を表している。領域R4によって、皮静脈の位置する領域が撮影されたことになる。なお、黒色の領域R5は、静注に用いられたチューブを表している。
【0022】
§2.実施形態
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を図面に基づいて説明する。本実施形態では、「撮像支援装置」は、透析装置内で透析装置を制御する制御装置として実施される。なお、「撮像支援装置」は、透析装置とは独立した装置として実施されてもよい。また、「温度分布画像」は、サーモグラフィとして説明される。以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的な構成に限定するものではない。本発明を実施するにあたっては、実施の形態に応じた具体的な構成が適宜採用されることが好ましい。
【0023】
本実施形態の透析装置及びサーモグラフィ装置を含む医療用システムでは、血液透析を受ける患者に導入される血液の温度調節、及び適切なタイミングでのサーモグラフィの自動録画等に関する機能が提供され、上述の原理による血管撮影が支援される。
【0024】
<システム構成>
図5は、本実施形態に係る透析装置を含む医療用システムを例示する構成図である。
図5(A)には、サーモグラフィ装置1、透析装置2、及び患者Pが示されている。医療用システムは、サーモグラフィ装置1及び透析装置2を有しており、例えば、透析室や個室のベッドサイドに設置される。
図5(B)は、透析装置2の外観の一部を示す斜視図である。
【0025】
サーモグラフィ装置1は、上述の
図1のサーモグラフィ装置Tと同様に、赤外線センサを用いて物体表面の温度分布を取得して画像化する装置である。本実施形態のサーモグラフィ装置1は、透析装置2の制御装置25と通信線W1で接続され、透析装置2と通信して連携動作する。本実施形態のサーモグラフィ装置1は、患者Pのシャントが位置する範囲を含む体表面を適切に撮像できるように、カメラスタンド等を用いて設置される。レンズ等を有するサーモグラフィ装置1の光学部10Aは、患者Pの前腕、すなわち、患者Pと透析装置2とが接続される部位に向けられ、フォーカス等が調整される。サーモグラフィ装置1のハードウェアの詳細は後述する。なお、サーモグラフィ装置1と透析装置2とは、無線通信を行ってもよい。
【0026】
透析装置2は、患者Pの血液を体外循環させて血液透析を行う装置である。本実施形態
の透析装置2は、例えば、1名分の透析液の供給能力を有する透析液供給装置を備えた個人用透析装置である。また、透析装置2は、血液透析のための各種の作業を省力化する透析支援機能として、血液回路及びダイアライザの洗浄等を自動で行う自動プライミング、脱血補助や自動返血等の機能を提供する自動型の透析装置である。なお、透析装置2は、多人数用透析液供給装置及び透析用コンソールを有するものであってもよい。また、透析装置2は、血液透析に加えて血液ろ過も同時に行う装置であってもよい。
【0027】
図5(B)が示すように、透析装置2は、透析装置2を制御する制御装置25等を収納する筐体20、移動用のキャスター202、タッチパネル等である操作部256、ディスプレイ等である表示部257を有する。また、
図5(A)が示すように、透析装置2は、動脈側血液回路21A、静脈側血液回路21B、血液ポンプ22、ダイアライザ23、血液温度センサ24、透析液供給装置26、及び透析液供給路27を有する。動脈側血液回路21Aと静脈側血液回路21Bとは、血液回路21を構成する。
【0028】
血液回路21は、患者Pから動脈側血液回路21Aを介して導出した血液を、ダイアライザ23を経由させて、静脈側血液回路21Bを介して患者Pへ導入するための流路である。血液回路21は、例えば塩化ビニル樹脂製のチューブで形成される。血液回路21は、より断熱性が高い素材で形成されてもよく、透光性の高い断熱材で被覆されてもよい。動脈側血液回路21A及び静脈側血液回路21Bそれぞれは、患者Pの血管とダイアライザ23とを接続する。動脈側血液回路21Aには、ローラーポンプ等である血液ポンプ22が設けられる。血液ポンプ22が正回転することで、動脈側血液回路21A内に充填された血液が、ダイアライザ23側へ送出され、患者Pの血液が血液回路21内を体外循環する。血液ポンプ22は、逆回転可能であり、血液ポンプ22が逆回転することで、動脈側血液回路21A内の血液が、ダイアライザ23側から患者Pの血管側へ送出される。
【0029】
ダイアライザ23は、半透膜である中空糸膜等の透析膜を有し、透析液を用いて血液浄化を行うモジュールである。血液回路21から血液が供給され、透析液供給装置26に接続された透析液供給路27から透析液が供給される。供給される血液と透析液とは、透析膜を介して接触する。
【0030】
血液温度センサ24(「温度センサ」の一例)は、静脈側血液回路21Bを流れる血液の温度を測定可能に設置された流体測定用の温度センサである。血液温度センサ24は、例えば、医療用のサーミスタである。血液温度センサ24は、制御装置25と通信可能に接続され、所定時間間隔で測定した各時点の血液温度のデータを制御装置25へ順次出力する。なお、本実施形態では、血液温度センサ24として、接触型の温度センサが用いられるが、非接触型の温度センサが採用されてもよい。また、血液温度センサ24は、患者Pへ導入される直前の血液の温度を測定できるため、好ましくは静脈側血液回路21Bを流れる血液の温度を測定可能に設置されるが、動脈側血液回路21Aを流れる血液の温度を測定可能に設置されてもよい。
【0031】
制御装置25は、透析装置2を制御するコンピュータである。血液ポンプ22、血液温度センサ24、透析液供給装置26等の透析装置2の各モジュールと接続され、各モジュールを制御する。また、制御装置25は、上述の操作部256及び表示部257と接続され、ユーザからの操作の受け付けること、及び、各種情報をユーザへ提示することが可能である。また、制御装置25は、通信線W1を介してサーモグラフィ装置1と通信可能である。制御装置25のハードウェアの詳細は、後述する。
【0032】
透析液供給装置26は、透析液供給路27を介して、希釈等して調整した透析液を、ポンプ等によりダイアライザ23へ提供する装置である。透析液供給路27は、ダイアライザ23へ透析液を供給するための流路である。透析液供給装置26は、供給する透析液を
加温して温度調節するための透析液加温器29(「透析液の温度調節機構」の一例)を有する。透析液加温器29は、例えばヒータである。なお、透析液加温器29の代わりに、チラーやヒートポンプ等で構成される、加温及び冷却の双方が可能な加温冷却装置が採用されてもよい。
【0033】
患者Pは、血液透析を受ける患者であり、サーモグラフィを用いて撮像される対象血管を有する。患者Pの前腕の皮下には、血液透析用の自己血管の内シャントが作製されている。本実施形態では、当該シャントが撮像される対象血管である。シャントには、血液回路21が接続される。具体的には、まず、血液透析用の穿刺針N1、N2が、シャントの動脈側(末梢側)及び静脈側(中枢側)の2箇所に穿刺される。ここで、穿刺箇所は、例えば、動静脈の吻合部から流入する動脈血によって膨らんだ皮静脈である。動脈側に穿刺された穿刺針N1は、動脈側血液回路21Aに接続される。一方、静脈側に穿刺された穿刺針N2は、静脈側血液回路21Bに接続される。血液透析の体外循環において、動脈側の穿刺部は、脱血口となり、静脈側の穿刺部は、送血口となる。
【0034】
(ハードウェアの詳細)
図6は、本実施形態におけるサーモグラフィ装置1、及び透析装置2の制御装置25のハードウェア構成を例示する図である。
【0035】
サーモグラフィ装置1は、赤外線カメラモジュール10、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、HDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置14、透析装置2の制御装置25と接続される通信コントローラ15、タッチパネル等である操作部16、及び液晶ディスプレイ等である表示部17を備える。サーモグラフィ装置1が備えるこれらのモジュールは、バス等で電気的に接続される。
【0036】
赤外線カメラモジュール10は、物体が放射した赤外線を受光し、受光した赤外線量に応じて計測される物体表面の各位置の温度の分布を示すサーモグラフィを撮像する。赤外線カメラモジュール10は、光学部10A、赤外線センサ10B、データ変換回路10Cを有する。
【0037】
光学部10Aは、赤外線を集光するレンズを有し、入射された赤外線を赤外線センサ10Bに導く。赤外線センサ10Bは、受光した赤外線量を電気信号に変換してデータ変換回路10Cへ伝達する。赤外線センサ10Bには、多数の赤外線検出素子が2次元配列される。赤外線センサ10Bには、例えば、横320個、縦240個の赤外線検出素子が面状に配置され、各赤外線検出素子が同時に機能する。データ変換回路10Cは、赤外線センサ10Bの各赤外線検出素子から伝達された電気信号を、温度を示すデジタルデータに変換し、赤外線検出素子それぞれに対応する温度データを画素として配列したサーモグラフィを出力する。ここで出力されるサーモグラフィの各画素は、温度に応じた色を示すデータで表現されてもよく、温度を示す数値データで表現されてもよい。何れの表現であっても、サーモグラフィは、光学部10Aが捉えた物体の体表面を格子状に区分した各区域の温度の集合を示す。赤外線カメラモジュール10は、ほぼ連続的といえる所定フレームレート(例えば10〜25フレーム/秒の時間分解能)で、各時点(フレーム)のサーモグラフィをリアルタイムに順次撮像する。サーモグラフィは、フレームが集合した動画として撮像されることになる。サーモグラフィ装置1は、赤外線センサ10Bによって撮像されたサーモグラフィを、通信コントローラ15を介して透析装置2の制御装置25へ転送可能である。
【0038】
サーモグラフィ装置1は、コンピュータでもある。CPU11は、中央処理装置であり
、RAM12等に展開された命令及びデータを処理することで、RAM12、補助記憶装置14等を制御する。RAM12は、主記憶装置であり、CPU11によって制御され、各種命令やデータが書き込まれ、読み出される。補助記憶装置14は、不揮発性の補助記憶装置であり、各種プログラム、永続的な保存が求められるデータ等が記憶される。
【0039】
透析装置2の制御装置25も、CPU251、RAM252、ROM253、及びHDD等の補助記憶装置254等を備えるコンピュータである。制御装置25は、サーモグラフィ装置1、血液ポンプ22、血液温度センサ24、透析液供給装置26等と接続される通信コントローラ255、及び、操作部256や表示部257と接続される入出力部258も備える。制御装置25が備えるこれらのモジュールは、バス等で電気的に接続される。
【0040】
(機能構成)
図7は、透析装置2の制御装置25の主な機能構成を例示する構成図である。透析装置2は、補助記憶装置254に記憶されているプログラムが、RAM252に読み出され、CPU251によって実行されることで、透析装置2を、血液温度取得部F21、体表面温度測定部F22、温度調節部F23、及び録画開始部F24を備えた装置として機能させる。また、制御装置25は、透析装置2を、自動プライミングや自動脱血等の各種の透析支援機能を備えた装置としても機能させる。なお、血液温度取得部F21、体表面温度測定部F22、温度調節部F23、及び録画開始部F24は、それぞれ、「血液温度取得手段」、「体表面温度測定手段」、「温度調節手段」、及び「録画開始手段」の一例である。
【0041】
なお、本実施形態において、制御装置25が提供するこれらの機能は、汎用プロセッサであるCPU251によって実行されるが、これらの機能の一部または全部は、1または複数の専用プロセッサ、ハードウェアの演算回路等によって実行されてもよい。ここで、ハードウェアの演算回路とは、例えば、論理ゲートを組み合わせた加算回路、乗算回路、フリップフロップ等をいう。
【0042】
血液温度取得部F21は、血液温度センサ24から、患者Pの静脈側血液回路21Bを流れる血液の各時点の血液温度をデジタルデータして順次取得する。体表面温度測定部F22は、患者Pの体表面を撮像するサーモグラフィ装置1からサーモグラフィを順次取得し、取得したサーモグラフィに基づいて、患者Pの体表面温度を測定する。
【0043】
温度調節部F23は、血液温度取得部F21によって取得された血液温度、及び体表面温度測定部F22によって測定された体表面温度に基づいて、透析液加温器29を制御して、静脈側血液回路21Bから患者Pの血管へ導入される血液の温度を、測定された体表面温度と異なる温度に昇降させる。温度調節部F23は、最新の血液温度と最新の体表面温度との差が基準温度差に満たない場合に、静脈側血液回路21Bから患者Pへ導入される血液の温度と体表面温度との差を大きくするように透析液加温器29を制御する。
【0044】
録画開始部F24は、取得された血液温度と測定された体表面温度との間に基準温度差があることを検知した場合に、サーモグラフィ装置1によって順次撮像されるサーモグラフィの表示及び録画の処理を開始する。
【0045】
<動作の流れ>
本実施形態の医療用システムの主な動作の流れを説明する。なお、説明される内容及び順序は一例であり、内容及び順序には、実施の形態に適したものが適宜採用されることが好ましい。
【0046】
本実施形態の医療用システムは、患者Pのベッドサイド等に設置され、患者Pの血液透析のための動作を開始した後、看護師、医師等であるユーザの操作に受け付けると、血液温度の自動調節の動作、及びサーモグラフィの録画の自動開始動作を行う。それぞれの動作の処理について順に説明する。
【0047】
(血液透析の開始)
透析装置2の制御装置25が、血液透析の開始指示を示す操作を、操作部256を介して受け付けると、透析装置2で血液透析が開始される。具体的には、血液ポンプ22が駆動され、穿刺針N1を通って患者Pから脱血された血液が、動脈側血液回路21Aを通ってダイアライザ23へ導かれる。ダイアライザ23を経由した血液は、静脈側血液回路21B、及び穿刺針N2を通って患者Pの血管へ送血される。血液透析が行われている間、このような血液回路21による体外循環が維持される。
【0048】
(血液温度の自動調節)
図8は、血液温度の自動調節処理の流れを例示するフローチャートである。この流れでは、患者Pの血液透析中に、透析装置2の血液回路21から患者Pへ導入される血液の温度が、患者Pの体表面と基準温度差以上の温度差を有するように調節される。この処理の流れは、透析装置2の制御装置25が、血管に関するサーモグラフィの自動録画を指示する操作を、操作部256を介してユーザから受け付けたことを契機に開始する。当該操作は、例えば、表示部257に表示された指示ボタンの押下である。当該操作を受け付けたことを契機に、透析装置2の制御装置25において、ステップS101〜S105の処理が、短い時間間隔(例えば、1秒間)で繰り返し実行され、血液温度の自動調節が実現することになる。なお、制御装置25がサーモグラフィの自動録画の終了を指示する操作を受け付けた場合に、血液温度の自動調節の処理の流れは終了する。また、当該操作が受け付けられると、後述のサーモグラフィの録画の自動開始の処理も実行される。
【0049】
ステップS101では、血液温度取得部F21が、血液温度センサ24から体外循環する患者Pの最新の血液温度を取得する。ステップS101が短い時間間隔で繰り返し実行されることで、各時点の血液温度が順次取得されることになる。なお、透析装置2の制御装置25は、取得した血液温度が、仮に当該血液温度を有する血液が患者Pへ導入されると患者Pの健康を害するおそれのある所定範囲の温度(例えば高温)である場合に、血液ポンプ22を直ちに停止して、血液透析を中断する制御を行ってもよい。
【0050】
ステップS102では、体表面温度測定部F22が、患者Pの体表面の最新のサーモグラフィをサーモグラフィ装置1から取得し、取得したサーモグラフィに基づいて、患者Pの体表面温度を測定する。ここで、最新のサーモグラフィとは、サーモグラフィ装置1が所定のフレームレートで順次撮像するサーモグラフィのうち、最後に撮像されたものである。本実施形態の体表面温度測定部F22は、取得したサーモグラフィの各画素が示す温度のうちから、人体表面の温度に該当し得る温度群を抽出し、抽出された温度群の平均を算出して、その算出結果を体表面温度の測定結果とする。なお、体表面温度測定部F22は、抽出された温度群の中で出現回数が最多の温度や、抽出された温度群の中央値を体表面温度として取り扱ってもよい。ステップS103が短い時間間隔で繰り返し実行されることで、各時点の体表面温度が順次測定されることになる。
【0051】
なお、ステップS101及びS102の処理は、ステップS102、S101の順に実行されてもよく、また、並行また並列に実行されてもよい。
【0052】
ステップS103では、透析装置2の温度調節部F23が、ステップS101で取得された最新の血液温度とステップS102で測定された最新の体表面温度との温度差を算出し、算出した温度差が所定の基準温度差より小さいか否かを判定する。ここで、基準温度
差は、サーモグラフィ装置1により撮像される体表面のサーモグラフィにおいて皮静脈等の体表面付近の血管が位置する領域と当該領域の周囲の領域とが明瞭に区別可能となる温度差を生じさせるために、予め定められた値である。基準温度差は、当該血液が導入された体表面付近の血管が位置する領域の体表面の温度を、当該血管を流れる血液からの温熱または冷熱の熱伝導の影響で、十分に変化させることができるだけの値として定められる。基準温度差は、赤外線検出素子の温度分解能、血液や体表面組織等の熱伝導率、温度差のある血液を血管内に供給したときの人体への影響度等を考慮して定められる。なお、透析装置2は、基準温度差の設定値をユーザから受け付けて、当該設定値を基準温度差として用いてもよい。
【0053】
ステップS103で最新の血液温度と最新の体表面温度との温度差が基準温度差より小さいと判定された場合(S103;Yes)、処理はステップS104へ進む。ステップS104では、温度調節部F23が、透析液加温器29を制御して、患者Pの血管へ導入される血液の温度と測定された体表面温度との差を大きくするように、血液回路21から患者Pの血管へ導入される血液の温度を昇降させる。
【0054】
具体的には、温度調節部F23は、まず、血液の温度を上昇させるかまたは下降させるかの昇降方向を決定する。温度調節部F23は、例えば、血液温度が体表面温度よりも低い場合に、昇降方向を下降に決定し、血液温度が体表面温度よりも高い場合に、昇降方向を上昇に決定する。なお、昇降方向の決定方法は、この方法に限定されない。血液の温度と測定された体表面温度との温度差を大きくするような昇降方向として、一時的には当該温度差が小さくなるが長期的には大きくなるものが採用されてもよい。例えば、血液温度が体表面温度よりも高い場合に、下降させることを決定してもよい。
【0055】
次に、温度調節部F23は、決定された昇降方向に応じて、透析液加温器29を制御する。決定された昇降方向が下降である場合、温度調節部F23は、透析液加温器29を停止する制御、または、透析液加温器29の設定温度を下げる制御を行う。ここで、透析液加温器29が停止されると、室温が透析液の温度よりも低い環境では、透析液が室温の影響を受けて冷却されることになる。一方、決定された昇降方向が上昇である場合、温度調節部F23は、停止している透析液加温器29を稼働させる制御や透析液加温器29の設定温度を上げる制御を行う。
【0056】
なお、温度調節部F23は、血液の温度と体表面温度との温度差を大きくするように、血液の温度を昇降させるための透析液加温器29の制御を既に行っている場合、当該制御を維持してもよい。また、透析液加温器29の制御は、透析液や血液を変質させないように行われる。また、透析液加温器29の制御は、制御の結果として起こる透析液や血液の温度変化が、患者Pの健康に影響がなく、かつ、血液透析の浄化効率(クリアランス)の低下を引き起こさない範囲で実行される。また、透析液加温器29の代わりに、透析液の冷却が可能な装置が採用される場合には、温度調節部F23は、当該装置を制御して、透析液を冷却する処理を実行してもよい。
【0057】
ステップS104の制御の結果として、ダイアライザ23へ供給される透析液の温度が調節される。温度調節された透析液は、ダイアライザ23において熱伝導可能な透析膜を介して血液回路21を体外循環する血液と接触する。透析液と当該血液との間で熱伝導が起こり、更に血液が温度調節される。そして、温度調節された血液が、ダイアライザ23から静脈側血液回路21Bへ流入し、患者Pへ導入されることになる。なお、血液回路21を流れる血液は、室温の影響も受けて温度変化するため、温度調節部F23は、室温の影響も加味して、温度を制御することが好ましい。
【0058】
ステップS104の後、処理はステップS101へ戻る。再度実行されるステップS1
01では、上述のように温度調節されて静脈側血液回路21B内を流れる血液の温度が取得され、ステップS103では、調節された血液温度に関する判定が行われることになる。
【0059】
一方、ステップS103で最新の血液温度と最新の体表面温度との温度差が基準温度差より小さいと判定されなかった場合(S103;No)、処理はステップS105へ進む。ステップS105では、温度調節部F23が、最新の血液温度と最新の体表面温度との温度差を維持するように、透析液加温器29の制御を行う。なお、温度調節部F23は、このような温度差を維持するような制御を行わず、ステップS104において実行された血液の温度と体表面温度との差を大きくするための透析液加温器29の制御を単に中止するだけでもよい。
【0060】
ステップS105の後、処理はステップS101に戻る。繰り返し実行されるステップS101〜S105の処理によって、血液温度と体表面温度との温度差が基準温度差以上に維持される。
【0061】
なお、
図8を用いて説明した血液温度の自動調節の方式は、一例であり、種々の方式が採用されてもよい。例えば、ON/OFF動作、比例動作、積分動作、微分動作、PID(Proportional−Integral−Derivative Controller)動作等の公知の温度制御の方式を応用したものが採用されてもよい。また、本実施形態では、このように制御装置25が血液温度の自動調節を実行するが、制御装置25は、血液温度を調節するための操作をユーザに促して、ユーザから受け付けた操作に従って血液温度の調節を実行してもよい。この場合、例えば、温度調節部F23は、血液温度取得部F21によって取得された血液温度と体表面温度測定部F22によって測定された体表面温度との温度差を算出して、算出した温度差と基準温度差とを比較する。血液温度取得部F21は、算出した温度差が基準温度差以上である場合には、サーモグラフィによる血管の画像の撮像が可能である旨のメッセージを表示部257に表示する。また、血液温度取得部F21は、算出した温度差が基準温度差未満である場合には、サーモグラフィによる血管の画像の撮像が困難である旨のメッセージとともに、血液温度、体表面温度、当該温度差、及び血液温度の昇降を指示するためのボタンを表示部257に表示する。血液温度取得部F21は、血液温度の昇降を指示する操作を、操作部256を介してユーザから受け付けると、当該操作に従って血液温度が昇降するように、透析液加温器29を制御する。
【0062】
(サーモグラフィの録画の自動開始)
図9は、サーモグラフィの録画の自動開始処理の流れを例示するフローチャートである。この処理の流れは、
図8の血液温度の自動調節処理の流れと同様に、透析装置2の制御装置25が、血管に関するサーモグラフィの自動録画を指示する操作を、操作部256を介してユーザから受け付けたことを契機に開始する。この処理の流れは、透析装置2の制御装置25によって、血液温度の自動調節処理の流れと並列または並行に実行される。
【0063】
ステップS201では、録画開始部F24が、血液温度取得部F21から取得された血液温度と、体表面温度測定部F22から測定された体表面温度との間に基準温度差があることを検知する。本実施形態の録画開始部F24は、取得された血液温度と測定された体表面温度との温度差を短い時間間隔(例えば1秒間隔)で監視しており、当該温度差が基準温度差以上である場合に、当該検知が成功したと判定する。当該検知が成功したと判定されると(S201;Yes)、処理がステップS202へ進む。録画開始部F24が当該検知に失敗したと判定されると(S201;No)、処理はステップS201へ戻り、検知が成功したと判定されるまで、検知のための処理が継続されることになる。
【0064】
なお、録画開始部F24は、取得された血液温度と測定された体表面温度との温度差が基準温度差以上となった後、更に当該温度差がある状態が所定時間継続した場合にはじめて、検知が成功したと判定してもよい。このようにすることで、血液温度と体表面温度との温度差が安定している状況でのサーモグラフィの撮像及び録画が可能となり、より血管の位置する領域を判別しやすいサーモグラフィを得ることができる。
【0065】
ステップS202では、録画開始部F24が、サーモグラフィ装置1によって順次撮像されるサーモグラフィの表示及び録画の処理を開始する。当該表示及び録画の処理が開始すると、制御装置25が、撮像された各時点のサーモグラフィをサーモグラフィ装置1から順次取得し、取得した各時点のサーモグラフィを、表示部257に表示するとともに、補助記憶装置254に記憶する。各時点のサーモグラフィは、所定のフレームレートで順次表示され、更に経時順に再生可能な動画として録画される。
【0066】
ここで表示されるサーモグラフィは、温度に応じた色データを有する画素を面状に2次元配列した画像である。表示用のサーモグラフィは、各画素の温度データが、所定の配色規則に従って色データに変換されて生成されている。所定の配色規則は、例えば、高温から順に、白、赤、黄、緑、青に配色する規則である。配色規則として、色相を用いずに濃淡のみで温度を表現する規則が採用されもよい。当該色データへの変換処理は、制御装置25によって実行されてもよいし、サーモグラフィ装置1によってサーモグラフィを制御装置25へ転送する前に実行されてもよい。
【0067】
なお、制御装置25は、サーモグラフィ装置1を制御して、サーモグラフィをサーモグラフィ装置1の補助記憶装置14に記憶させてもよい。また、制御装置25は、取得したサーモグラフィを、ネットワークを介して通信可能なコンピュータへ転送して、当該コンピュータに記憶させてもよい。また、制御装置25は、補助記憶装置254の代わりに、SDメモリカード、DVD−R等のリムーバブルメディアにサーモグラフィを記憶させてもよい。
【0068】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の医療用システムでは、取得された血液温度とサーモグラフィにより測定された体表面温度との温度差が基準温度差に満たない場合に、透析液加温器29が制御され、患者Pの血管へ導入される血液の温度が、体表面温度と基準温度差を有する温度に調節された。そのため、サーモグラフィ装置1が撮像する患者Pの体表面のサーモグラフィにおいて、温度調節された血液が導入された血管が皮下に位置する領域とその他の領域との間に温度差を生じさせ、当該温度差により示される血管の画像を得ることが可能となる。本実施形態では、重篤な副作用を有する造影剤、大型の装置、X線等を用いることを要しなかった。よって、血液透析を受ける患者の血管について、より簡単、安全に血管撮影を行うことができる。特に、本実施形態では、患者Pに導入される血液の温度が体表面温度と基準温度差を有するように自動調節されたので、より容易に、血管が位置する領域が明瞭に示される好適なサーモグラフィを得ることができる。
【0069】
更に、本実施形態では、血液温度と体表面温度との間に基準温度差があることが検知されると、サーモグラフィの録画が自動開始された。そのため、体表面と基準温度差を有する血液が流れることで血管が位置する領域が観察可能となったサーモグラフィを、容易に記録でき、記録忘れを抑制することもできる。そして、録画されたサーモグラフィを再生することで、検査や診断を行うことが可能となる。
【0070】
また、本実施形態の医療用システムでは、X線照射や核磁気共鳴のための大型の装置や高価な装置が必要とされないため、比較的小型な装置を用いてベッドサイドでも血管に関する画像が得ることができる。X線照射装置を用いた血管撮影のように、別室へ移動する
ことや、血液透析とは別の機会に実施することを要しない。そのため、血液透析の機会に、血管トラブルが起こりやすいシャント等の撮影を簡単に行うことができる。例えば、血液透析の機会に毎回実施することで、血管の状況を頻繁にモニターして、血管トラブルの早期発見に貢献することも可能となる。
【0071】
<その他>
(広範囲の血管の画像を得るための使用方法)
本実施形態の医療用システムを使用してサーモグラフィの録画の自動開始がされた後(
図9のステップS202の後)、ユーザは、患者Pの穿刺針N2が穿刺された部位よりも体幹側を用手圧迫し、血液を一時的に逆流させてもよい。このようにすることで、温度調節されて患者Pに導入された血液を、シャントの穿刺針N1側や動脈との吻合部、更には吻合された動脈側まで導き、より広範囲に温度差を生じさせて、シャント全体を含む、より広範囲の血管の画像を得ることができる。
【0072】
(透析装置2が患者Pに接続されていない場合の血管の撮影)
これまでの説明において、本実施形態の医療用システムは、透析装置2が患者Pに接続された状態で使用された。透析装置2が患者Pに接続されていない状態においては、サーモグラフィ装置1を患者Pのシャント付近等を撮像するように設置した上で、患者Pの体表面温度と異なる温度の生理食塩水を、注射器やカテーテル等を用いて患者Pの血管内に導入してもよい。このようにすることで、透析装置2が患者Pに接続されていない状況においても、血管に導入された生理食塩水が、サーモグラフィ装置1によって撮像されるサーモグラフィにおいて、血管が皮下に位置する領域とその他の領域との間に温度差を生じさえ、温度差により示される血管の画像を得ることができる。例えば、上述の血管撮影の原理で説明したように、25℃の生理食塩水をシャント作製で吻合された動脈内へ導入すると、患者Pのシャント全体を含む広範囲の血管や血流の状況を観察可能なサーモグラフィを得ることができる。なお、生理食塩水は、静脈等のその他の適切な部位から患者Pの血管へ導入されてもよい。
【0073】
(生理食塩水を用いたその他の血管の撮影方法)
また、透析装置2が患者Pに接続されて血液透析が実施されているときに、患者Pの体表面温度と異なる温度の生理食塩水を、血液回路21へ適量注入し、血液回路21を介して患者Pの血管へ導入してもよい。当該注入は、例えば、静脈側回路21Bに設けられるニードルレスアクセスポートから行うことができる。また、透析装置2には、温度調節した生理食塩水を静脈側回路21Bへ供給する機構が設けられ、制御装置25が当該機構を制御して、患者Pの体表面温度と異なる温度に調節した生理食塩水を静脈側回路21Bへ供給させてもよい。このような透析装置2によれば、血液透析中における体表面と温度差を有する生理食塩水の患者Pへの導入が支援され、サーモグラフィによる血管撮影をより簡単に行うことができる。
【0074】
(動脈側の穿刺部からの温度調節した血液の導入することを支援する変形例)
上述の実施形態では、温度調節された血液が、体外循環における送血口である静脈側の穿刺部(穿刺針N2の穿刺部)から患者Pの血管へ導入された。これに対し、温度調節された血液を、体外循環の脱血口である動脈側の穿刺部(穿刺針N1の穿刺部)から患者Pの血管へ導入することを支援する変形例について、上述の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0075】
本変形例では、上述の実施形態と同様に、透析装置2の温度調節部F23が、血液温度取得部F21から取得された血液温度と、体表面温度測定部F22から測定された体表面温度との温度差が基準温度差より小さいか否かを判定する(
図8のステップS103を参照)。そして、当該温度差が基準温度差より小さいと判定された場合、温度調節部F23
は、透析液加温器29を制御して、血液温度と体表面温度との差を大きくするように、血液回路21を体外循環する患者Pの血液の温度を昇降させる(
図8のステップS104を参照)。
【0076】
本変形例では、上述の実施形態と異なり、血液の温度が昇降された後、透析装置2の制御装置25が、血液温度取得部F21から取得された血液温度と、体表面温度測定部F22から測定された最新の体表面温度との間に基準温度差があることを検知すると、まず、血液ポンプ22を制御して、その正回転の駆動を停止する。動脈側血液回路21A内において、ダイアライザ23へ向かう順方向の血液の送出動作が停止することになる。この際、透析装置2の録画開始部F24が、上述の実施形態と同様に、血液温度と体表面温度との間に基準温度差があることを検知し、サーモグラフィ装置1によって順次撮像されるサーモグラフィの表示及び録画の処理を開始する(
図9のステップS201、S202を参照)。
【0077】
次に、制御装置25は、所定の期間(例えば数秒や数十秒程度)、血液ポンプ22を逆回転するように制御して、血液回路21内の血液を、脱血口である患者Pの動脈側の穿刺部へ向かう逆方向へ送出する。体表面温度と基準温度差を有するように温度調節された血液が、動脈側の穿刺部から患者Pの血管内へ導入されることになる。制御装置25は、所定時間が経過すると、血液ポンプ22を正回転するように制御して、正方向の血液の送出動作を開始する。中断していた血液透析が再開されることになる。
【0078】
以上説明した本変形例では、血液温度と体表面温度との間に基準温度差があることが検知されると、サーモグラフィの録画が自動開始されるとともに、血液ポンプ22が制御されて、温度調節された血液が動脈側の穿刺部から一時的に患者Pの血管内へ導入された。温度調節された血液は、皮下の血管内を、動脈側の穿刺部から静脈側の穿刺部を通過して中枢へ向かって移動することになる。本変形例によれば、体表面温度と基準温度差を有する血液がより末梢側の穿刺部から血管に導入されるため、より広範囲の血管を観察可能なサーモグラフィを簡単に撮像することができる。