(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周に軌道面が形成された外輪と、外周に軌道面が形成された内輪と、前記外輪の軌道面と内輪の軌道面間に配置された複数のボールと、このボールをポケットに収容する保持器とからなり、前記外輪の軌道面と内輪の軌道面のそれぞれの両側に位置する合計4つの肩のうち、スラスト荷重が負荷される外輪の軌道面の一方側の肩と内輪の軌道面の他方側の肩の高さを、外輪の軌道面の他方側の肩と内輪の軌道面の一方側の肩の高さより高くした深溝玉軸受の組立方法であって、
前記外輪の内側に内輪を挿入し、この内輪を外輪に対し径方向に偏心させて内輪と外輪との間に形成された三日月状の隙間に装填数より1個少ない数のボールを挿入し、挿入済のボールの間に最後の1個のボールを載置し、
前記三日月状の隙間の狭まる側における内外輪の軌道面に挿入済のボールを当接させると共に、前記径方向に偏心させた内輪の中心と外輪の中心を通る直径方向に外輪に対して変動する荷重を負荷することにより、前記挿入済のボールの間に載置された最後の1個のボールを前記隙間に挿入することを特徴とする深溝玉軸受の組立方法。
前記外輪の軌道面の一方側の肩高さHoおよび内輪の軌道面の他方側の肩高さHiとボールの直径dとの比率Ho/dおよびHi/dを、それぞれ0.25〜0.50の範囲としたことを特徴とする請求項1に記載の深溝玉軸受の組立方法。
前記外輪への荷重を負荷するとき、前記三日月状の隙間の中央部の間隔が拡大するように前記内輪が外輪に対して傾いた姿勢になっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の深溝玉軸受の組立方法。
前記挿入済のボールの間に載置された最後の1個のボールが、自重で落下し前記隙間に挿入されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の深溝玉軸受の組立方法。
前記外輪の弾性変形を解除後、内輪と外輪の軌道面間にボールを等間隔で配置し、保持器を装着することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の深溝玉軸受の組立方法。
【背景技術】
【0002】
図17に示すように、トランスミッションのファイナルドライブギヤ51の回転をファイナルドリブンギヤ52から、このギヤ52を支持するデフケース53に伝え、このデフケース53の回転をピニオンシャフト54に固定された一対のピニオン55からこれに噛合うサイドギヤ56a、56bに伝達して、各サイドギヤ56a、56bに連結された左右のドライブシャフト57a、57bに伝達するようにしたデファレンシャルにおいては、デフケース53の両側に形成された円筒部58a、58bをハウジング59に支持された一対の転がり軸受1によって回転自在に支持している。
【0003】
上記のデファレンシャルにおいては、デフケース53に支持されたファイナルドリブンギヤ52にヘリカルギヤが採用されているため、ファイナルドリブンギヤ52が回転すると、デフケース53にスラスト荷重が負荷されることになる。
【0004】
このため、デフケース53を支持する転がり軸受1には、ラジアル荷重とスラスト荷重の両方の荷重を支持することができる軸受を用いる必要がある。
【0005】
上記の軸受として、円すいころ軸受では、負荷容量が大きく、スラスト荷重およびラジアル荷重の両方を受けることができるため、デフケース53の支持用軸受に好適であるが、この円すいころ軸受においては、損失トルクが大きく、燃料の消費量が多くなるという問題が生じる。その低燃費化を図る上においては、損失トルクの少ない深溝玉軸受を用いるのが好ましい。
【0006】
ところで、標準の深溝玉軸受では、過大なスラスト荷重が負荷された際には、スラスト荷重を受ける負荷側の肩にボールが乗り上げて、肩のエッジが損傷する懸念がある。
【0007】
そのような不都合を解消するため、特許文献1に記載された深溝玉軸受では、外輪の軌道面および内輪の軌道面のそれぞれの両側に形成された肩のうち、スラスト荷重を受ける側の肩を高くして、ボールの乗り上げを阻止し、軸受の耐久性の低下を抑制するようにしている。また、保持器を第1分割保持器と第2分割保持器とからなる分割構造によって構成し、両分割保持器を嵌合することにより、深溝玉軸受を組み立てることができるため、組立が容易である。さらに、両分割保持器の組み合わせ状態において連結手段が係合して両分割保持器を軸方向に非分離とするため、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れ進みが生じても、両分割保持器は軸方向に分離するようなことがなく、保持器の脱落防止に効果を上げるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に記載の深溝玉軸受の組立方法については検討の余地が残されている。すなわち、深溝玉軸受の組立方法は、外輪の内側に内輪を挿入し、内輪を外輪に対し径方向に偏心させて、内輪と外輪との間に三日月状の隙間を形成する。そして、この三日月状の隙間に所定の装填数のボールを挿入し、その後、内輪を外輪に対して上記の三日月状の隙間方向に径方向に移動させて内輪と外輪の軸心を一致させる。この際、ボールと内外輪の軌道面との間の重なり量が大きい場合には、外輪を弾性変形内で径方向に変形させておく。その後、外輪の変形を解除し、内輪と外輪の軌道面間にボールを等間隔で配置し、保持器を装着する。
【0010】
上記のように、重なり量の大きい深溝玉軸受の組立は、外輪の弾性変形内で変形させて内輪と外輪の間にボールを挿入する必要があるが、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受では、外輪の変形量を大きくする必要があるため、外輪が塑性変形を起こし、組込みに限界があるという問題を残していた。
【0011】
上記のような問題に鑑み、本発明は、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受の組込み時の外輪の塑性変形およびボール傷を防止できる組立方法および深溝玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために種々検討した結果、従来成立不可とされていた肩高さの高い深溝玉軸受の組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を、組立方法を工夫することにより防止するという新たな着想によって本発明に至った。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に軌道面が形成された外輪と、外周に軌道面が形成された内輪と、前記外輪の軌道面と内輪の軌道面間に配置された複数のボールと、このボールをポケットに収容する保持器とからなり、前記外輪の軌道面と内輪の軌道面のそれぞれの両側に位置する合計4つの肩のうち、スラスト荷重が負荷される外輪の軌道面の一方側の肩と内輪の軌道面の他方側の肩の高さを、外輪の軌道面の他方側の肩と内輪の軌道面の一方側の肩の高さより高くした深溝玉軸受の組立方法であって、前記外輪の内側に内輪を挿入し、この内輪を外輪に対し径方向に偏心させて内輪と外輪との間に形成された三日月状の隙間に装填数より1個少ない数のボールを挿入し、挿入済のボールの間に最後の1個のボールを載置し、前記三日月状の隙間の狭まる側の内外輪の軌道面に挿入済のボールを当接させると共に、前記径方向に偏心させた内輪の中心と外輪の中心を通る直径方向に外輪に対して変動する荷重を負荷することにより、前記挿入済のボールの間に載置された最後の1個のボールを前記隙間に挿入することを特徴とする。
【0014】
上記の構成により、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受の組立が、従来の机上計算よりも小さい弾性変形量で成立し、組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を防止することができる。その結果、従来スラスト負荷能力の問題から円すいころ軸受を使用していた箇所でも大きなスラスト荷重を受けることができる深溝玉軸受の適用が可能となり、かつ、円すいころ軸受から深溝玉軸受に置き換えることでトルク低減効果も得られる。
【0015】
深溝玉軸受の組立方法として、外輪と内輪との間に形成される三日月状の隙間にボールを挿入するが、最後の1個のボールが挿入できない場合、外輪を弾性域内で楕円状に変形させ、この状態で最後の1個のボールを挿入する。
【0016】
上記の肩高さの高い深溝玉軸受において、高さの高い外輪の軌道面の一方側の肩高さおよび内輪の軌道面の他方側の肩高さが必要以上に大きくなると、ボールの組込みができなくなり、一方、低すぎると、ボールの乗り上げが生じる。このため、高さの高い外輪の軌道面の一方側の肩高さHoおよび内輪の軌道面の他方側の肩高さHi、ボールの直径をdとしたとき、ボールの直径dに対する肩高さHoおよびHiの比率Ho/dおよびHi/dをそれぞれ0.25〜0.50の範囲としておくことが好ましい。
【0017】
最後の1個のボールを挿入済ボールの配列の中央に載置し、最後の1個のボールが自重で落下して三日月状の隙間に挿入されることが好ましい。この組立方法により、組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を確実に防止することができる。
【0018】
上記の最後の1個のボールの挿入の際の外輪を楕円状に弾性変形させる荷重を、外輪の外周を押圧板で挟んで負荷することにより、簡単な構成で、荷重を負荷することができ、組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を確実に防止することができる。
【0019】
上記ボール挿入時の荷重を負荷するとき、三日月状の隙間の中央部の間隔が拡大するように内輪を外輪に対して傾いた姿勢にすることが好ましい。これにより、最後の1個のボールを容易に挿入することができる。
【0020】
上記の外輪の弾性変形を解除後、通常の深溝玉軸受の組立方法と同様に、内輪と外輪の軌道面間にボールを等間隔で配置し、保持器を装着することができる。
【0021】
本発明の組立方法により製造された深溝玉軸受は、従来の机上計算よりも小さい弾性変形量で成立し、組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を防止することができる。その結果、従来スラスト負荷能力の問題から円すいころ軸受を使用していた箇所でも大きなスラスト荷重を受けることができる深溝玉軸受の適用が可能となり、かつ、円すいころ軸受から深溝玉軸受に置き換えることでトルク低減効果も得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受の組立が、従来の想定よりも小さい弾性変形量で成立し、組立時の外輪の塑性変形およびボール傷を防止することができる。その結果、従来スラスト負荷能力の問題から円すいころ軸受を使用していた箇所でも大きなスラスト荷重を受けることができる深溝玉軸受の適用が可能となり、かつ、円すいころ軸受から深溝玉軸受に置き換えることでトルク低減効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る組立方法を適用した深溝玉軸受を示す縦断面図である。
【
図2】上記の深溝玉軸受の保持器の一部分を示す右側面図である。
【
図3】上記の深溝玉軸受の保持器の一部分を示す左側面図である。
【
図4】第1分割保持器と第2分割保持器の一部分を示す平面図である。
【
図5】
図4に示す第1分割保持器のポケットにボールを組み込んだ状態での周方向のポケット隙間を示す平面図である。
【
図6】
図4に示す第1分割保持器のポケットにボールを組み込んだ状態での軸方向のポケット隙間を示す平面図である。
【
図7】
図1の第1分割保持器と第2分割保持器の結合部を拡大して示す縦断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る深溝玉軸受の組立方法における装填数より1個少ない数のボールを挿入した状態を示す縦断面図である。
【
図10】挿入済のボールの間に最後の1個のボールを載置した状態を示す平面図である。
【
図11】上記の組立初期の状態を示す縦断面図である。
【
図12】外輪の弾性変形により、挿入済のボールが奥側へ移動した状態を示す縦断面図である。
【
図13】
図12よりさらに挿入済のボールが奥側へ移動した状態を示す縦断面図である。
【
図14】最後の1個のボールの装着が完了した状態を示す縦断面図である。
【
図15】本発明の実施形態に係る組立方法を適用した深溝玉軸受の使用例を示す部分的な縦断面図である。
【
図16】本発明の実施形態に係る組立方法を適用した深溝玉軸受の別の実施形態を示す縦断面図である。
【
図17】ディファレンシャルの概要を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
まず、本発明の実施の形態に係る組立方法が適用される深溝玉軸受を
図1〜7に基づいて説明する。
図1は深溝玉軸受の縦断面図である。図示のように、深溝玉軸受1は、外輪2、内輪3、ボール4および保持器5を主な構成とする。外輪2の内周に形成された軌道面6と内輪3の外周に形成された軌道面7との間にボール4が組み込まれ、ボール4は保持器5に回転自在に保持されている。
【0026】
外輪2の軌道面6の両側に形成された一対の肩8a、8bのうち、軌道面6の一方側に位置する肩8aの高さは、他方側に位置する肩8bの高さよりも高くなっている。一方、内輪3の軌道面7の両側に形成された一対の肩9a、9bのうち、軌道面7の他方側に位置する肩9bの高さは、一方側に位置する肩9aの高さよりも高くなっている。ここで、一方側とは、
図1において左側を指し、他方側とは右側を指す。
【0027】
高さの低い肩8bおよび9aの肩の高さは、標準型深溝玉軸受の肩と同じ高さとしているが、標準型深溝玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。
【0028】
なお、説明の都合上、高さの高い肩8a、9bを、スラスト負荷側の肩8a、9bともいい、高さの低い肩8b、9aをスラスト非負荷側の肩8b、9aともいう。
【0029】
スラスト負荷側の肩8a、9bの肩高さをそれぞれHo、Hiとし、ボール4の直径をdとすると、ボール4の直径dに対する肩高さHo、Hiの比率Ho/d、Hi/dは、Ho/d=0.25〜0.50、Hi/d=0.25〜0.50の範囲とされている。これにより、肩高さの高い深溝玉軸受において、高さの高い外輪の軌道面の一方側の肩高さおよび内輪の軌道面の他方側の肩高さが必要以上に大きくなって、ボールの組込みができないという問題や、一方、低すぎてボールの乗り上げが生じるという問題を解消できる。
【0030】
保持器5は、第1分割保持器10と、この第1分割保持器10の内側に嵌合された第2分割保持器11とからなる。
【0031】
保持器5の詳細を
図1〜
図4に基づいて説明する。
図2は
図1の保持器の一部分を示す右側面図であり、
図3は保持器の一部分を示す左側面図であり、さらに
図4は第1分割保持器と第2分割保持器の一部分を示す平面図である。
図1〜
図4に示すように、第1分割保持器10は、環状部12の軸方向の一方側に対向する一対のポケット爪13を周方向に等間隔に形成し、対向する各一対のポケット爪13間に環状部12をえぐって2分の1円を超える大きさのポケット14を設けた合成樹脂の成形品からなる。環状部12の内径はボール4のピッチ円径(PCD)に略等しく、外径は外輪2の高さが高い肩8aの内径と高さが低い肩8bの内径の範囲内とし、外輪2の高さの低い肩8b側から軸受内に挿入可能となっている。
【0032】
一方、第2分割保持器11は、環状部15の軸方向の他方側に対向する一対のポケット爪16を周方向に等間隔に形成し、対向する各一対のポケット爪16間に環状部15をえぐって2分の1円を超える大きさのポケット17を設けた合成樹脂の成形品からなる。環状部15の外径はボール4のピッチ円径(PCD)に略等しく、内径は内輪3の高さが高い肩9bの外径と高さが低い肩9aの外径の範囲内とされている。第2分割保持器11は、高さの低い肩9a側から軸受内に挿入可能とし、かつ、第1分割保持器10の内側に嵌合可能となっている。
【0033】
第1分割保持器10と第2分割保持器11の相互間には、内外に嵌り合う嵌合状態において軸方向に非分離とする連結手段Cが設けられている。連結手段Cは次のように構成されている。第1分割保持器10の隣接するポケット14のポケット爪13間に内向きの係合爪18を設け、かつ、環状部12の内径面に係合爪18と同一軸線上に溝状の係合凹部19が形成されている。一方、第2分割保持器11の隣接するポケット17のポケット爪16間に外向きの係合爪20を設け、かつ、環状部15の外径面に係合爪20と同一軸線上に溝状の係合凹部21が形成されている。そして、第1分割保持器10の係合爪18と第2分割保持器11の係合凹部21の係合および第2分割保持器11の係合爪20と第1分割保持器10の係合凹部19の係合によって、第1分割保持器10と第2分割保持器11とを軸方向に非分離とする構成としている。第1分割保持器10と第2分割保持器11を軸方向に非分離にしているため、大きなモーメント荷重が負荷されてボール4に遅れ進みが生じても、保持器5は脱落するようなことはない。
【0034】
保持器5の詳細をさらに
図4〜
図7に基づいて説明する。
図4および
図5に示すように、係合爪18、20と係合凹部19、21との間に形成される周方向隙間27の隙間量δ1をボール4とポケット14、17との間に形成される周方向のポケット隙間28の隙間量δ2より大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボール4に遅れ進みが生じ、第1分割保持器10と第2分割保持器11とが相対的に回転しても、係合爪18、20が係合凹部19、21の周方向で対向する側面に当接することはなく、係合爪18、20の損傷を防止することができる。
【0035】
また、
図6および
図7に示すように、係合爪18、20と係合凹部19、21との間に形成される軸方向隙間29の隙間量δ3をボール4とポケット14、17との間に形成される軸方向のポケット隙間30の隙間量δ4より大きくしておくことにより、第1分割保持器10と第2分割保持器11に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向する一対のポケット爪13、16の内面がボール4の外周面に当接して、係合爪18、20が係合凹部19、21の軸方向端面に当接するというようなことがなくなり、係合爪18、20の損傷を防止することができる。
【0036】
第1分割保持器10と第2分割保持器11とからなる保持器5は、深溝玉軸受1を潤滑する潤滑油に曝されるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いる。そのような合成樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等を上げることができる。これらの樹脂は、潤滑油の種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0037】
次に、上記の構造からなる深溝玉軸受の組立方法についての実施形態を
図8〜
図14に基づいて説明する。
【0038】
深溝玉軸受1の組立初期段階を
図8および
図9に示す。
図8は縦断面図であり、
図9は、
図8のA−A線における横断面図である。ただし、両図において、ボールと押圧板については断面表示としていない。また、
図9ではテーブルの図示を省略している。この深溝玉軸受1は、ボールの装填数が9個であり、外輪2を楕円状に弾性変形させないと最後の1個のボール4を挿入することができない深溝玉軸受である。この深溝玉軸受1の組立方法を例示する。
図8および
図9に示すように、まず、組立機のテーブル23上に載置された外輪2の内側に内輪3を挿入し、内輪3を外輪2に対して径方向に偏心させて、内輪3の肩9a、9bの外径面の一部を外輪2の肩8a、8bの内径面の一部に当接させて、この当接部位から周方向に180度ずれた位置に三日月状の隙間22を形成する。この三日月状の隙間22に装填数より1個少ない個数、すなわち8個のボール4を挿入する。挿入されたボール4に順次4(1)、4(2)、4(3)、4(4)、4(5)、4(6)、4(7)、4(8)と符号を付す。この状態では、まだ、押圧板24、25に、荷重が負荷されていない。
【0039】
次に、
図10に示すように、挿入されたボール列の中央のボール4(4)と4(5)との間に最後の1個のボール4(9)を載せる。
図10は、この状態を示す平面図であり、この図においてもテーブルの図示を省略している。最後の1個のボール4(9)を挿入された中央のボール4(4)と4(5)間に載せることにより、ボール4(9)を載置するスペースを確保しやすく、後述する組込み作業が容易となる。しかし、これに限られず、ボール4の装填数が偶数個、或いは装填数の多い深溝玉軸受などの場合では、中央近辺のボール間に最後の1個のボールを載せることも適宜実施することができる。
【0040】
その後、
図11に示すように、内輪3の肩9bに当接部材26、26’を押し当てて、三日月状の隙間22の狭まる側における内輪3の軌道面7と外輪2の軌道面6にボール4(1)、4(8)を当接した状態にする。この状態で、
図10に示す内輪3の中心Oiと外輪2の中心Ooを通る直径方向Dで、押圧板24、25間に外輪2を挟んで、押圧板25に白抜き矢印の方向に荷重を負荷し、外輪2を直径方向Dに直交する方向に長軸をもつ楕円状に弾性変形させる(楕円状の変形は図示省略)。外輪2に荷重を負荷すると、その反力により、内輪3は、三日月状の隙間22の一番奥側に位置するボール4(1)とボール4(8)(
図10参照)を支点として回転し、
図11に示すように、内輪3は外輪2に対して傾く。同時に、奥側のボール4(1)、4(8)は、少しの量だけ隙間22の奥側、すなわち、三日月状の隙間22の狭まる側に移動する。この状態で外輪2への変動する荷重を負荷する。このとき、外輪2に負荷する変動荷重の上限は、内輪3を外輪2に対して傾斜させずに最後のボールが入る隙間ができる弾性変形に必要な荷重よりも小さく設定している。
【0041】
外輪2への変動する荷重の負荷を継続すると、隙間22の奥側へボール4(1)〜4(4)および4(8)〜4(5)が徐々に移動し、
図12に示す状態から
図13に示す状態に進んでいく。この現象は、隙間22の一番奥側のボール4(1)および4(8)が、三日月状の隙間を形成する内外輪2、3の軌道面6、7のくさび状空間の狭くなる方へ徐々に噛み込んでいく挙動によるものと考えられる。結果、
図13に示すように、外輪2に対する内輪3の傾き角が減少すると共に最後の1個のボール4(9)は、次第に隙間22の領域内に入る状態になる。
【0042】
図13に示す状態から、さらにボール4(1)〜4(4)および4(8)〜4(5)が隙間22の奥側に移動し、ボール4(1)、4(8)の中心が内輪3の中心Oiと外輪2の中心Ooの位置に合致したとき、内輪3がボール4(1)、4(8)を支点として外輪2に対して時計回りに回転すると同時に最後の1個のボール4(9)も自然落下で軸受1内に落ち、ボール4の挿入が完了する。なお、最後の1個のボール4(9)が軸受1内に落したとき、上記のように内輪3の中心Oiと外輪2の中心Ooの位置とが合致しているので、内輪3の軌道面7と外輪2の軌道面6とから形成される空間に各ボール4が移動可能な状態になり、
図14に示すように、ボール4は相応に分散される。
【0043】
本実施形態の組立方法では、外輪2に対して変動する荷重を負荷することにより、従来の机上計算で円環モデルを変形させ、最後のボールが入る隙間ができる弾性変形量よりも小さくしてもボールを挿入することができる。これにより、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受1であっても、組立時の外輪2の塑性変形およびボール傷を防止することができる。
【0044】
その後、外輪2の変形を解除して、ボール4を周方向に等間隔に配置し、
図1に示す外輪2のスラスト非負荷側の肩8bの外側から外輪2と内輪3間に第1分割保持器10をその第1分割保持器10に形成されたポケット14内にボール4が嵌り込むようにして挿入する。また、内輪3のスラスト非負荷側の肩9aの外側から外輪2と内輪3間に第2分割保持器11を、その第2分割保持器11に形成されたポケット17内にボール4が嵌り込むように挿入して、第1分割保持器10内に第2分割保持器11を嵌合する。
【0045】
上記のように、第1分割保持器10内に第2分割保持器11を嵌合することにより、
図1および
図7に示すように、各分割保持器10、11に形成された係合爪18、20が相手方の分割保持器に設けられた係合凹部19、21に係合することになり、深溝玉軸受1の組立が完了する。このように、外輪2の軌道面6と内輪3の軌道面7間にボール4を組み込んだ後、外輪2と内輪3の両側から内部に第1分割保持器10と第2分割保持器11とを挿入して、第1分割保持器10内に第2分割保持器11を嵌合する簡単な作業によって深溝玉軸受を組み立てることができる。
【0046】
本実施形態の組立方法を適用した深溝玉軸受1をデフケースの両端に形成された円筒部を支持した使用例を
図15に示す。円筒部58a、58bの支持に際し、深溝玉軸受1は、内輪3のスラスト負荷側の肩9bがファイナルドリブンギヤ52側に位置する組付けとする。
【0047】
上記のようなギヤ支持装置において、ファイナルドライブギヤ51からのトルク伝達により、デフケース53が車両の前進走行方向に回転すると、ヘリカルギヤからなるファイナルドリブンギヤ52の回転によってデフケース53にスラスト力が負荷され、そのスラスト力は、
図15の左側の深溝玉軸受1における内輪3のスラスト負荷側の肩9bと外輪2のスラスト負荷側の肩8aで支持される。このとき、ボール4にもスラスト力が負荷され、内輪3のスラスト負荷側の肩9bと外輪2のスラスト負荷側の肩8aが必要以上に低い場合、ボール4が肩8a、9bに乗り上がり、肩8a、9bのエッジを損傷させる可能性がある。本深溝玉軸受1では、ボール4の直径dに対する肩高さHo、Hi(
図1参照)の比率Ho/d、Hi/dを0.25以上としているため、ボール4の乗り上げを確実に阻止することができる。
【0048】
なお、デフケース53が車両の後退走行方向に回転すると、デフケース53に負荷されるスラスト力は、
図15の右側の深溝玉軸受1における内輪3のスラスト負荷側の肩9bと外輪2のスラスト負荷側の肩8aで支持される。この場合も、ボール4の直径dに対する肩高さHo、Hiの比率Ho/d、Hi/dを0.25以上としているため、ボール4の乗り上げを確実に阻止することができる。
【0049】
図1では、高さの低いスラスト非負荷側の肩8bおよび9aの肩の高さは、標準型深溝玉軸受の肩と同じ高さとしたが、標準型深溝玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。スラスト非負荷側の肩8bおよび9aの肩の高さを標準型深溝玉軸受の肩の高さより低くすると、低くした分、第1分割保持器10および第2分割保持器11の径方向の厚みを厚くすることができるため、保持器5の強度を高めることができる。
【0050】
しかし、スラスト非負荷側の肩8bおよび9aの肩の場合でも、その肩の高さが必要以上に低くなると、ラジアル荷重によりボール4の乗り上げが発生するおそれがあるため、外輪2の肩8bの肩高さHo’(
図1参照)については、ボール4の直径dに対する肩高さHo’の比率Ho’/dを0.09〜0.50の範囲とし、内輪3の肩9aの肩Hi’(
図1参照)については、ボール4の直径dに対する肩高さHi’の比率Hi’/dを0.18〜0.50の範囲とすることが好ましい。
【0051】
次に、本発明の実施形態に係る組立方法を適用した深溝玉軸受の別の実施形態を
図16に基づいて説明する。
図16は、本深溝玉軸受の径方向の上側部分だけを示す縦断面図である。この深溝玉軸受は、前述した実施形態の深溝玉軸受1と比較して、保持器の構造のみが異なる。したがって、前述した深溝玉軸受1と同様の機能を有する部位については同じ符号を付して概要のみを説明し、重複説明を省略する。
【0052】
深溝玉軸受1に用いられる保持器5は金属板製の波型保持器である。第1の保持器部材5’と第2の保持器部材5”を鋲31で加締めて結合したものである。この深溝玉軸受1においても、外輪2の軌道面6の両側に形成された一対の肩8a、8bのうち、軌道面6の一方側に位置する肩8aの高さは、他方側に位置する肩8bの高さよりも高くなっている。一方、内輪3の軌道面7の両側に形成された一対の肩9a、9bのうち、軌道面7の他方側に位置する肩9bの高さは、一方側に位置する肩9aの高さよりも高くなっている。
【0053】
前述した深溝玉軸受と同様、高さの高い肩(スラスト負荷側の肩)8a、9bの肩高さをそれぞれHo、Hiとし、ボール4の直径をdとすると、ボール4の直径dに対する肩高さHo、Hiの比率Ho/d、Hi/dは、Ho/d=0.25〜0.50、Hi/d=0.25〜0.50の範囲とされている。これにより、ボール4の組込みを可能にすると共に、ボール4の乗り上げを阻止することができる。
【0054】
この深溝玉軸受1おいても、内輪3、外輪2間へのボール4の挿入方法は、本発明の組立方法についての実施形態において前述した内容と同じである。ボール4の挿入が完了した後、ボール4を周方向に等間隔に配置し、第1の保持器部材5’と第2の保持器部材5”にそれぞれ形成されたポケット内にボール4が嵌り込むように、両保持器部材5’、5”を挿入して、第1の保持器部材5’と第2の保持器部材5”を鋲31で加締めて連結し、軸受の組立が完了する。
【0055】
前述した組立方法についての実施形態では、外輪2に対して変動する荷重を負荷することにより、従来の机上計算で円環モデルを変形させ、最後のボールが入る隙間ができる弾性変形量よりも小さくしてもボールを挿入することができる。これにより、大きなスラスト荷重が負荷可能な肩高さの高い深溝玉軸受1であっても、組立時の外輪2の塑性変形およびボール傷を防止することができる。その結果、従来スラスト負荷能力の問題から円すいころ軸受を使用していた箇所でも大きなスラスト荷重を受けることができる深溝玉軸受1の適用が可能となり、かつ、円すいころ軸受から深溝玉軸受に置き換えることでトルク低減効果も得られる。
【0056】
前述した組立方法についての実施形態では、適用する深溝玉軸受のボール装填数が9個のものを例示したが、これに限られず、ボール装填数が8個以下、又は10個以上で、奇数、偶数を問わず適用できることは言うまでもない。
【0057】
また、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。