【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1磁性層と前記第1非磁性層との間、前記第2磁性層と前記第1非磁性層との間の少なくとも一方に設けられた第3磁性層を更に備えた請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
前記第1磁性層に対して前記第1非磁性層と反対側に設けられた第4磁性層と、前記第1磁性層と前記第4磁性層との間に設けられた第2非磁性層と、を更に備えた請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施形態による磁気抵抗素子について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図1に示す。第1実施形態の磁気抵抗素子1はMTJ素子であって、下地層100上に、磁性層2、非磁性層4(以下、トンネルバリア層4ともいう)、界面磁性層6、および磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。下地層100は、磁性層2より上の層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられるが、それらの詳細について後述する。下地層としては導電性および絶縁性のどちらでもよいが、下地層に通電する場合には導電性材料を用いることが望ましい。
【0012】
MTJ素子の抵抗値はトンネルバリア層を介して配される二つの磁性層の磁化方向の角度により決まる。外部磁場あるいは素子に流す電流により磁化方向の角度を制御することができる。その際、二つの磁性層の保磁力、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数(Gilbert damping constant)αの大きさに差をつけることにより、より安定的に磁化方向の角度を制御することが可能となる。磁性層2および磁性層8はそれらの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。
【0013】
磁性層2および磁性層8のうちの一方の磁性層は書き込み電流をMTJ素子1に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。不変である磁性層を参照層と称し、可変である磁性層を記憶層と称す。本実施形態においては、例えば、磁性層2を記憶層、磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、磁性層2と磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。
【0014】
磁性層2が記憶層、磁性層8が参照層であってかつ磁性層2の磁化の方向と磁性層8の磁化の方向が反平行(逆の方向)な場合には、磁性層2から磁性層8に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子が磁性層8から界面磁性層6、非磁性層4を通って磁性層2に流れる。そして、磁性層8を通ることによりスピン偏極された電子は磁性層2に流れる。磁性層2の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は磁性層2を通過するが、磁性層2の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、磁性層2の磁化の方向が強磁性層8の磁化と同じ方向を向くように働く。これにより、磁性層2の磁化の方向が反転し、磁性層8の磁化の方向と平行(同じ方向)になる。
【0015】
これに対して、磁性層2の磁化の方向と強磁性層8の磁化の方向が平行な場合には、磁性層8から磁性層2に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子が磁性層2から非磁性層4、界面磁性層6を通って磁性層8に流れる。そして、磁性層2を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層8に流れる。磁性層8の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は磁性層8を通過するが、磁性層8の磁化と逆向きのスピンを有するスピン偏極された電子は、界面磁性層6と磁性層8との界面で反射され、非磁性層4を通って磁性層2に流れ込む。これにより、磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、磁性層2の磁化の方向が磁性層8の磁化と反対方向に向くように働く。これにより、磁性層2の磁化の方向が反転し、磁性層8の磁化の方向と反平行になる。なお、界面磁性層6は、スピン分極率を増大させるために設けられている。
【0016】
磁気抵抗素子1の抵抗値は磁性層2と磁性層8の磁化の相対角度に依存し、相対角度が反平行状態における抵抗値から平行状態における抵抗値を引いた値を平行状態における抵抗値で割った値を磁気抵抗変化率と称する。
【0017】
一般的に、保磁力、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数αの大きい磁性層は参照層として用いられ、保磁力、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数αの小さな磁性層は記憶層として用いられる。なお、下地層の表面のラフネスまたは導電性は磁気摩擦定数αおよびトンネル磁気抵抗効果(TMR効果)に大きく影響するため、適切な下地層を用いることが望まれる。
【0018】
本実施形態および後述する各実施形態においては、記憶層となる磁性層としては、例えばMn
xGa
100−x(45atm%≦x<64atm%)合金が用いられ、このMnGa合金は、c軸が磁化容易軸となる。そのため、結晶化させる際にc軸が膜面に垂直方向を向くように配向制御することにより、垂直磁化型磁気抵抗素子を作製することが可能となる。
【0019】
MnGaはその組成に対して飽和磁化量を変化させることができる。また、磁気異方性エネルギーの大きさが約10(Merg/cc)と大きな、垂直磁化材料である。更に、磁化反転のし易さの指標の一つである磁気摩擦定数(Gilbert damping constant)の値は組成に依存するが、おおよそ0.008〜0.015との報告がある(例えば、S. Mizukami, F. Wu, A. Sakuma, J. Walowski, D. Watanabe, T. Kubota, X. Zhang, H. Naganuma, M. Oogane, Y. Ando, and T. Miyazaki, “Long-Lived Ultrafast Spin Precession in Manganese Alloys Films with a Large Perpendicular Magnetic Anisotropy”, Phys. Rev. Lett. 106, 117201 (2011))。
【0020】
一般に、磁気摩擦定数は材料のスピン軌道相互作用の大きさと相関があり、原子番号の大きな材料ではスピン軌道相互作用が大きく、磁気摩擦定数も大きい傾向がある。MnGaは軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済むため、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できる。
【0021】
このように、MnGaは低い飽和磁化、高い磁気異方性エネルギー、低い磁気摩擦定数を有する垂直磁化材料であることから、磁気抵抗素子の記憶層に適している。
【0022】
この第1実施形態においては、非磁性層4として、酸化物絶縁体を用いることが好ましい。MTJ素子1が、例えば、MnGaからなる磁性層、結晶質MgOからなる非磁性層、CoFe(B)からなる磁性層がこの順序で積層された積層構造を有している場合に、MnGa(001)/MgO(001)/CoFe(B)(001)の配向関係を作ることができる。ここでMnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれの上面に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。
【0023】
磁性層2および磁性層8は、結晶配向の向きを制御することで、それらの容易磁化方向を膜面に対して垂直にする(すなわち、垂直磁気異方性を有する)ことが可能である。すなわち、本実施形態の磁気抵抗素子1は、磁性層2および磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子になる。なお、本明細書では、膜面とは磁性層が積層される方向に垂直な面を意味する。また、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。これに対して困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界がない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
【0025】
(下地層)
下地層100は、下地層上の記憶層に用いられる、L1
0相を有するMnGa合金と格子定数が近く、拡散がしにくい材料を用いるのが好ましい。また、MnおよびGaと化合物を形成する相がない材料、もしくは2元系で元素間の結合が強く、自己拡散しないものが良い。このような下地層としては、(001)面に配向したCsCl構造を有し、Ni、Mn、Rh、Ru、Ir、Co、Al、Ag、Zn、Pd、Gaの中から少なくとも2つ以上の元素の組み合わせから構成される。例として、NiMn、NiGa、NiAl、CoAl、RhAl、RuAl、AgGa等が挙げられる。もしくはMnNiAl
2、MnCoAl
2、AlGaCo
2等、3元系も例として挙げられる。これらの下地層の材料はMnおよびGaとの化合物が存在し、その結晶構造はCsCl型である。例えばRhAlであれば、RhMn、RhGaがそれぞれCsCl構造を形成する。これら下地材料がMnGaと混合したとしても、MnおよびGaと結合し、結晶構造を形成すると考えられるため、拡散が抑制される。
【0026】
なお、上記特性を満たす下地層に用いる材料のうち、NiAlまたはCoAlは、下地層上に設けられるMnGaとの格子ミスマッチが小さく、より好ましい。すなわち、Alと、NiおよびCoのうちの少なくとも1つの元素と、を含むことが好ましい。また、NiAlとして、Ni
xAl
100−x(59atm%>x≧45atm%)を用いることが好ましく、CoAlとして、Co
xAl
100−x(56atm%>x≧46atm%)を用いることが好ましい。
【0027】
Alと、NiおよびCoのうちの少なくとも1つの元素と、を含む下地層100の一例として厚さが40nmのNiAlを用い、このNiAl層100上に厚さが3nmのMn
55Ga
45層16を作成した試料を用意する(
図3参照)。この試料の磁化特性を測定した結果を
図3に示す。横軸が外部磁界Hを示し、縦軸が回転角θを示す。MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)評価から垂直方向の保磁力が約8kOeで角型比の良い垂直磁気特性が得ることができた。
【0028】
(磁性層2)
磁性層2に用いられるMnGa合金は、c軸が磁化容易軸となる。そのため、結晶化させる際にc軸が膜面に垂直方向を向くように配向制御することにより、垂直磁化MTJ素子を作製することが可能となる。なお、低電流の磁化反転を実現するためには、磁性層2の膜厚を出来るだけ薄くする必要がある。そのような観点では、1nm〜5nmの範囲にあることが好ましい。しかし、結晶磁気異方性により高い熱擾乱指数Δを得ることができる結晶系材料においては、薄膜化することで異方性低下の問題点も浮上する。そのような観点では、薄膜の膜厚は、結晶化臨界膜厚以上10nm以下の膜厚であることが望ましい。
【0029】
(界面磁性層6)
磁気抵抗素子の磁気抵抗比を上げるために、MgOのトンネルバリア層4に隣接する界面磁性層には高スピン分極率を有する材料が用いられる。界面磁性層6は、Fe、Coの群から選択された少なくとも一つの金属を含む合金が望ましい。このとき、例えば、CoFeからなる界面磁性層、MgOからなる非磁性層、CoFeからなる界面磁性層とした場合に、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。この場合、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
【0030】
(非磁性層4)
非磁性層4は絶縁材料からなり、したがって、非磁性層4としては、トンネルバリア層が用いられる。トンネルバリア層の材料としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)およびチタン(Ti)からなるグループから選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物が挙げられる。具体的には、MgO、AlO、ZnO、SrO、またはTiOが挙げられる。トンネルバリア層は、上述の酸化物のグループから選ばれる2つ以上の材料の混晶物あるいはこれら積層構造であってもよい。混晶物の例としては、MgAlO、MgZnO、MgTiO、MgCaOなどである。二層積層構造の例としてはMgO/ZnO、MgO/AlO、TiO/AlO、MgAlO/MgOなどが挙げられる。三層積層構造の例としてはAlO/MgO/AlO、ZnO/MgO/ZnOなどが挙げられる。なお、記号「/」の左側が上層を示し、右側が下層を示している。
【0031】
(磁性層8)
また、磁性層8に用いられる材料としては、遷移金属Fe、Co、Niの群から選択された少なくとも1つの元素と、希土類金属Tb、Dy、Gdの群から選択された少なくとも1つの元素と、を含む合金が挙げられる。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。また、これらの合金を交互に積層された多層構造であってもよい。具体的にはTbFe/Co、TbCo/Fe、TbFeCo/CoFe或いはDyFe/Co、DyCo/Fe、DyFeCo/CoFeなどの多層膜が挙げられる。これらの合金は、膜厚比や組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0032】
磁性層8は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する、すなわち垂直磁気異方性を有する。磁性層8に用いられる材料としては、例えば、面心立方構造(FCC)の(111)面あるいは六方最密充填構造(HCP)の(001)面に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属が用いられる。FCCの(111)面あるいはHCPの(001)面に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、およびCuからなる第1の群から選ばれる少なくとも1つの元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2の群から選ばれる少なくとも1つの元素と、を含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、或いはNiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0033】
また、磁性層8に用いられる人工格子としては、Fe、Co、およびNiからなる群から選択された1つの元素からなる単体あるいはこの1つの元素を含む合金(磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、およびCuからなる群から選択された1つの元素あるいはこの1つの元素を含む合金(非磁性膜)と、が交互に積層された積層構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、磁性膜への元素の添加、磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態においては、下地層として、(001)面に配向したCsCl構造を有し、Ni、Mn、Rh、Ru、Ir、Co、Al、Ag、Zn、Pd、Gaの中から少なくとも2つ以上の元素を組み合わせた材料は自己拡散係数が小さいため、下地層上に、低い飽和磁化、高い磁気異方性エネルギー、低い磁気摩擦定数を有する垂直磁化材料であるMnGa層を設けても、下地層に含まれる元素の拡散を低減することができる。
【0035】
(変形例)
第1実施形態の変形例による磁気抵抗素子の断面を
図4に示す。この変形例の磁気抵抗素子1Aは、下地層100上に形成される層の積層順序が
図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1とは逆になっている。すなわち、下地層100上に、磁性層8、界面磁性層6、非磁性層4、および磁性層2がこの順序で積層された構造を有している。
【0036】
この変形例において磁性層8としてMnGaを用いれば、第1実施形態と同様に、記憶層を薄膜化しても、下地層に含まれる元素の拡散の影響を低減することができる。
【0037】
(第2実施形態)
図5に、第2実施形態による磁気抵抗素子1Bを示す。この磁気抵抗素子1Bは、
図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、非磁性層4と磁性層2との間に界面磁性層3を設けた構成になっている。第2実施形態では、下地層100上に、磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。
【0038】
第1実施形態と同様に、磁性層の結晶配向性を制御することで、磁性層2および磁性層8はそれぞれ、膜面に垂直な方向の磁気異方性(垂直磁気異方性)を有し、それらの容易磁化方向は膜面に対して垂直とすることが可能である。すなわち、本実施形態の磁気抵抗素子1Aは、磁性層2および磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子となる。そして、磁性層2および磁性層8のうちの一方の磁性層は書き込み電流をMTJ素子1Aに流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の磁性層は可変である。本実施形態において、例えば、磁性層2を記憶層、磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、磁性層2と磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。
【0039】
なお、界面磁性層3は、スピン分極率を増大させるために設けられている。この界面磁性層3も、第1実施形態で説明した界面磁性層6の材料が用いられる。
【0040】
この第2実施形態も第1実施形態と同様に、記憶層を薄膜化しても、下地層に含まれる元素の拡散の影響を低減することができる。
【0041】
(変形例)
第2実施形態の変形例による磁気抵抗素子の断面を
図6に示す。この変形例の磁気抵抗素子1Cは、下地層100上に形成される層の積層順序が
図5に示す第2実施形態の磁気抵抗素子1とは逆になっている。すなわち、下地層100上に、磁性層8、界面磁性層6、非磁性層4、界面磁性層3、および磁性層2がこの順序で積層された構造を有している。
【0042】
この変形例において磁性層8としてMnGaを用いれば、第2実施形態と同様に、記憶層を薄膜化しても、下地層に含まれる元素の拡散の影響を低減することができる。
【0043】
(第3実施形態)
図7に、第3実施形態による磁気抵抗素子1Dを示す。この磁気抵抗素子1Dは、
図5に示す第2実施形態の磁気抵抗素子1Bにおいて、磁性層8上に非磁性層10、磁性層11を積層した構成となっている。なお、本実施形態においては、例えば界面磁性層6と磁性層8が参照層となっている。磁性層11はバイアス層またはシフト調整層とも呼ばれ、磁性層8とは、磁化の向きが反平行(逆向き)の磁化を有している。磁性層11は、非磁性層10を介して磁性層8と反強磁性結合(Synthetic Anti-Ferromagnetic結合;SAF結合)していてもよい。これにより、界面磁性層6と磁性層8より成る参照層からの漏れ磁場による界面磁性層3と磁性層2より成る記憶層の磁化を反転する電流のシフトを緩和および調整することが可能となる。非磁性層10は、磁性層8と磁性層11とが熱工程によって混ざらない耐熱性、および磁性層11を形成する際の結晶配向を制御する機能を備えることが望ましい。
【0044】
さらに、非磁性層10の膜厚が厚くなると磁性層11と記憶層(本実施形態では例えば磁性層2)との距離が離れるため、磁性層11から記憶層に印加されるシフト調整磁界が小さくなってしまう。このため、非磁性層10の膜厚は、5nm以下であることが望ましい。また、上述したように磁性層11は非磁性層10を介して磁性層8とSAF結合していてもよく、その場合、非磁性層10の膜厚が厚すぎると磁気的結合が切れてしまう恐れがある。そのような観点から非磁性層10の膜厚は5nm以下であることが望ましい。強磁性層11は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性材料から構成される。磁性層11は、参照層に比べて記憶層から離れているため、記憶層に印加される漏れ磁場を強磁性層11によって調整するためには、磁性層11の膜厚、あるいは飽和磁化Msの大きさを参照層のそれらより大きく設定する必要がある。すなわち、本発明者達の研究結果によれば、参照層の膜厚、飽和磁化をそれぞれt
2、Ms
2、磁性層11の膜厚、飽和磁化をそれぞれt
3、Ms
3、とすると、以下の関係式を満たす必要がある。
【0045】
Ms
2×t
2<Ms
3×t
3
なお、第3実施形態で説明した磁性層11は、第1および第2実施形態ならびにそれらの変形例のいずれかの磁気抵抗素子にも適用することができる。この場合、参照層となる磁性層上に非磁性層10を間に挟んで積層される。
【0046】
(変形例)
なお、第3実施形態では、下地層100上に、磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、磁性層8、非磁性層10、および磁性層11がこの順序で積層された、上バイアス構造を有している。しかし、磁性層11は下地層100の下に積層されていてもよい。すなわち、
図8に示す第3実施形態の変形例による磁気抵抗素子1Eのように、磁性層11上に、下地層100、磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および磁性層8がこの順序で積層された下バイアス構造であってもよい。この場合、磁性層2を参照層として用いることが好ましい。
【0047】
上記変形例においても、第3実施形態で記述したように、記憶層に印加される磁性層11による漏れ磁場量と参照層による漏れ磁場量を同程度に設定する必要がある。すなわち、記憶層とシフト調整層の距離が、記憶層と参照層との距離に比べて短い場合は、シフト調整層の総磁化量<参照層の総磁化量の関係式を満たす必要がある。一方、記憶層とシフト調整層の距離が、記憶層と参照層との距離に比べて長い場合は、シフト調整層の総磁化量>参照層の総磁化量の関係式を満たす必要がある。
【0048】
第3実施形態およびその変形例によれば、第2実施形態と同様に、記憶層を薄膜化しても、下地層に含まれる元素の拡散の影響を低減することができる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例による磁気抵抗素子の製造方法について
図9(a)乃至
図10(c)を参照して説明する。
【0050】
この製造方法は、磁気抵抗素子が形成される基板、例えば単結晶基板と、トランジスタが形成された基板をそれぞれ準備し、上記単結晶基板上に形成した磁気抵抗素子と、トランジスタ等を作製した基板とを貼り合わせた後、不要な単結晶基板を除去することにより磁気抵抗素子1Bを備えたMRAMを構築するものである。
【0051】
具体的には、まず上記第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例のいずれかの磁気抵抗素子を適切な成膜条件の下で基板200上に形成する。例えば、
図5に示す第2実施形態の磁気抵抗素子1Bを製造する場合を例にとって説明する。まず、
図9(a)に示すように、Si単結晶基板200上に、下地層100、磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および磁性層8を、スパッタ法またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いてこの順序で形成し、
図5に示す磁気抵抗素子1Bを得る。このとき、Si単結晶基板200の結晶性が下地層100、磁性層2に伝わり、形成された磁気抵抗素子1Bは単結晶層を少なくとも1つ含む単結晶MTJ素子となる。その後、磁性層8上に金属接着層20aを形成する(
図9(a))。同様に、トランジスタ回路および配線が形成された基板220を用意し、この基板220上に金属接着層20bを形成する(
図9(a))。金属接着層20a、20bとしてはAl、Au、Cu、Ti、Taなどの金属層が挙げられる。
【0052】
次に、単結晶MTJ素子1Bが形成された基板200と、トランジスタ回路が形成された基板220とを、金属接着層20a、20bが対向するように配置する。その後、
図9(b)に示すように、金属接着層20a、20bを接触させる。このとき、加重を加えることで金属接着層20a、20bを貼り合わせることができる。接着力を上げるために加重を加える際に加熱しても良い。
【0053】
次に、
図10(a)に示すように、単結晶MTJ素子1Bが形成された単結晶基板200を除去する。この除去は、まず、例えばBSG(Back Side Grinder)法を用いて、薄くする。その後、
図10(b)に示すように、薄くした単結晶基板200をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法などにより機械的に研磨し、除去する。これにより、MTJ素子1を完成する(
図10(c))。
【0054】
このように、単結晶基板200上に形成された上記第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例のいずれかの単結晶MTJ素子と、トランジスタ回路が形成された基板220をそれぞれ準備し、単結晶MTJ素子1上にトランジスタ等を作製した基板を貼り合わせ、その後、不要な単結晶基板200を除去する一連の製造方法を用いることにより、上記第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例のいずれかの単結晶MTJ素子を作製することができる。
【0055】
上記製造方法によって製造された磁気抵抗素子は、磁性層2が記憶層となる場合は、参照層となる磁性層8よりも上方に設けられるアップフリー構造を有する。記憶層が参照層よりも下方に位置するボトムフリー構造を有する磁気抵抗素子の製造方法について、簡単に説明する。
【0056】
まず、例えば
図9(a)の右側の図に示すように、トランジスタ回路および配線が形成された基板220を用意する。このとき、トランジスタ回路および配線上には、金属接着層20bは形成されていない。この基板220上に、下地層100を形成する。続いて、下地層100上に、磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および磁性層8を、スパッタ法またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いてこの順序で形成する。このようにして、ボトムフリー構造を有する磁気抵抗素子を製造することができる。
【0057】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態によるスピン注入書き込み型の磁気メモリ(MRAM)について説明する。
【0058】
この第5実施形態のMRAMは複数のメモリセルを有している。本実施形態のMRAMの1つのメモリセルの主要部の断面を
図11に示す。各メモリセルは、第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例のいずれかの磁気抵抗素子を記憶素子として備えている。この第5実施形態では、記憶素子が第1実施形態の磁気抵抗素子(MTJ素子)1である場合を例にとって説明する。
【0059】
図11に示すように、MTJ素子1の上面は、上部電極31を介してビット線32と接続されている。また、MTJ素子1の下面は、下部電極33、引き出し電極34、およびプラグ35を介して、半導体基板36の表面のソース/ドレイン領域のうちドレイン領域37aと接続されている。ドレイン領域37aは、ソース領域37b、基板36上に形成されたゲート絶縁膜38、ゲート絶縁膜38上に形成されたゲート電極39と共に、選択トランジスタTrを構成する。選択トランジスタTrとMTJ素子1とは、MRAMの1つのメモリセルを構成する。ソース領域37bは、プラグ41を介してもう1つのビット線42と接続されている。なお、引き出し電極34を用いずに、下部電極33の下方にプラグ35が設けられ、下部電極33とプラグ35が直接接続されていてもよい。ビット線32、42、電極31、33、引き出し電極34、プラグ35、41は、W、Al、AlCu、Cu等から形成されている。
【0060】
本実施形態のMRAMにおいては、
図11に示す1つのメモリセルが例えば行列状に複数個設けられることにより、MRAMのメモリセルアレイが形成される。
図12は、本実施形態のMRAMの主要部を示す回路図である。
【0061】
図12に示すように、MTJ素子1と選択トランジスタTrとからなる複数のメモリセル53が行列状に配置されている。同じ列に属するメモリセル53の一端子は同一のビット線32と接続され、他端子は同一のビット線42と接続されている。同じ行に属するメモリセル53の選択トランジスタTrのゲート電極(ワード線)39は相互に接続され、さらにロウデコーダ51と接続されている。
【0062】
ビット線32は、トランジスタ等のスイッチ回路54を介して電流ソース/シンク回路55と接続されている。また、ビット線42は、トランジスタ等のスイッチ回路56を介して電流ソース/シンク回路57と接続されている。電流ソース/シンク回路55、57は、書き込み電流を、接続されたビット線32、42に供給したり、接続されたビット線32、42から引き抜いたりする。
【0063】
ビット線42は、また、読み出し回路52と接続されている。読み出し回路52は、ビット線32と接続されていてもよい。読み出し回路52は、読み出し電流回路、センスアンプ等を含んでいる。
【0064】
書き込みの際、書き込み対象のメモリセルと接続されたスイッチ回路54、56および選択トランジスタTrがオンされることにより、対象のメモリセルを介する電流経路が形成される。そして、電流ソース/シンク回路55、57のうち、書き込まれるべき情報に応じて、一方が電流ソースとして機能し、他方が電流シンクとして機能する。この結果、書き込まれるべき情報に応じた方向に書き込み電流が流れる。
【0065】
書き込み速度としては、数ナノ秒から数マイクロ秒までのパルス幅を有する電流でスピン注入書込みを行うことが可能である。
【0066】
読み出しの際、書き込みと同様にして指定されたMTJ素子1に、上記読み出し電流回路によって磁化反転を起こさない程度の小さな読み出し電流が供給される。そして、読み出し回路52のセンスアンプは、MTJ素子1の磁化の状態に応じた抵抗値に起因する電流値あるいは電圧値を、参照値と比較することで、その抵抗状態を判定する。
【0067】
なお、読み出し時は、書き込み時よりも電流パルス幅が短いことが望ましい。これにより、読み出し時の電流での誤書込みが低減される。これは、書き込み電流のパルス幅が短い方が、書き込み電流値の絶対値が大きくなるということに基づいている。
【0068】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1乃至第3実施形態およびそれらの変形例と同様に、記憶層を薄膜化しても、下地層に含まれる元素の拡散の影響を低減することができる。また、低い飽和磁化、高い垂直磁気異方性を有し、かつ高磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を備えた磁気メモリを得ることができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。