【実施例】
【0028】
次に、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。本実施例では、本遮水材の変形追随性、強度回復性、フロー試験による施工性、および遮水性について確認した。
【0029】
[変形追随性]
本実施例の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm
3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm
3)を所定の体積比で混合したものである。実施例1〜6では短繊維の配合割合を体積比で0.1〜1.0%まで6段階に変え、比較例1では短繊維を配合していない。実施例1〜6および比較例1についての配合を次の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1のように繊維添加量をパラメータにした繊維・製鋼スラグ混合遮水材を作製し、養生7日後に一軸圧縮試験を実施した。この一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を
図2に示す。なお、一軸圧縮試験は、JIS A 1216に基づいて実施した。
【0032】
図2の結果から、短繊維を混合しない比較例1では5%の圧縮ひずみに達する前から圧縮応力が低下したのに対し、実施例2〜6のように短繊維を体積比で0.2%以上添加すると、5%以上の大ひずみレベルにおいても圧縮応力が低下しない材料となることがわかる。また、短繊維を体積比で0.1%添加した実施例1では、圧縮ひずみが5%のとき圧縮応力が低下しないことがわかる。また、繊維添加量が体積比で0.2〜1.0%の実施例2〜6では、繊維の添加量に応じて5%以上の大ひずみレベルにおいて圧縮応力の保持効果が高くなることがわかる。つまり、繊維添加量が増すと、変形追随性が向上する。
【0033】
以上から、実施例1〜6の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、短繊維を体積比で0.1〜1.0%添加することで、好ましくは短繊維を体積比で0.2〜1.0%添加することで、圧縮ひずみが5%または5%以上で圧縮応力が減少しない特性を有し、高い変形追随性を有することがわかる。
【0034】
比較のため、短繊維を混合したセメント固化処理土の一軸圧縮試験の結果を引用して
図3に示す(小竹・裏山・松原「固化処理土の曲げ・引張強度特性」、ジオシンセティックス論文集、第27巻、133-140頁、2013)。
図3から、セメント固化処理土の場合には、1.0vol%の短繊維を添加しても、軸ひずみ2%程度で圧縮応力の最大値を示した後、軸ひずみの増大とともに圧縮応力は低下する傾向が確認され、変形追随性が低下することがわかる。
【0035】
[強度回復性]
実施例7の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm
3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm
3)を所定の体積比で混合したものである。比較例2は、短繊維を混合しないものである。比較例3は、繊維を混合したセメント固化処理土の強度回復性を調べるために、含水比160%に調整した浚渫土に、高炉セメントB種(75kg/m
3)、ポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm)を所定の体積比で添加した繊維混合セメント固化処理土である。次の表2に各配合を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
ここで、繊維の添加量は、実施例7では、本遮水材の規定する繊維添加量(体積比で0.1〜1.0%)の中央値に近いこと、またすでに
図2で変形追随性について評価済みであることから体積比で0.5%とした。また、繊維の添加の有無による強度の回復性を比較するため、比較例2の繊維添加量を0%とした場合についても評価した。一方、比較例3のセメントを使用する場合のセメント添加量については、
図2の繊維添加量体積比0.5%の結果を参考にした。つまり、
図2の繊維添加量体積比0.5%(材齢7日)における圧縮応力の最大値は170kN/m
2であることから、これを参考にして材齢7日で圧縮応力の最大値が200kN/m
2程度となるセメント量を添加した。
【0038】
強度の回復性はJIS A 1216による一軸圧縮試験により評価した。評価方法は、28日間養生した供試体を5%のひずみレベルまで一軸圧縮(処女圧縮)した後、載荷を一旦停止し供試体をとりだし、85日間暴露した後、再び一軸圧縮試験を実施した。暴露方法は、供試体をラップで包み乾燥を防ぐ方法(気中暴露)による。処女圧縮のひずみレベルを5%とした理由は、繊維添加量0%の供試体では、5%を超える圧縮ひずみを与えると、その後、供試体をとりだし暴露の準備をする際に供試体が崩壊してしまう恐れがあるためである。
【0039】
上述のような一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を
図4〜
図6に示す。なお、
図4〜
図6の縦軸の圧縮応力は、圧縮ひずみ5%以下における圧縮応力の最大値により正規化(圧縮応力比)している。実施例7の結果を示す
図4と、短繊維を混合しない比較例2の
図5とを比較すると、浚渫土に製鋼スラグと短繊維を添加することで、処女圧縮時の一軸圧縮強さを超える強度回復が確認でき、また、製鋼スラグの混合だけ(短繊維を混合しない)では強度は回復しないことがわかる。
【0040】
また、実施例7の結果を示す
図4と、短繊維を混合したセメント固化材の比較例3の
図6とを比較すると、繊維を添加した場合でもセメント固化処理土では再圧縮後に処女圧縮時の一軸圧縮強さを上回る強度回復は生じないことがわかる。
【0041】
[フロー試験による施工性]
実施例8,9,10および比較例4の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm
3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm
3)を所定の体積比で混合し、これに、流動性を向上させるためポリアクリル酸を主成分とする分散剤を2kg/m
3添加したものである。これらの遮水材に対してフロー試験を実施し、材料の施工性を検討した。フロー試験は、JHS313-1999(日本道路公団規格 エアモルタル及びエアミルクの試験方法)に規定するシリンダー法に基づいて実施した。次の表3に配合を示す。
【0042】
【表3】
【0043】
図7にフロー試験の結果を示す。
図7から、製鋼スラグの添加量が増えるほど、フロー値が小さくなり、施工性が低下することがわかる。ここで、本遮水材においては、良好な施工性の指標としてフロー値85mm以上と規定するが、実施例8〜10では、フロー値が87mm以上で規定値以上である。一方、フロー値が81mmとなった製鋼スラグ体積比40%配合の比較例4では、試料が硬く混練が難しくなることを確認した。以上の結果から、本遮水材における製鋼スラグの添加量の上限値は良好な施工性を確保する観点から体積比で30%であるといえる。
【0044】
[遮水性]
実施例11,12,13および比較例5の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm
3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)、ポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm
3)を所定の体積比で混合したものである。これらの繊維・製鋼スラグ混合遮水材の透水係数を計測し、廃棄物処分場の遮水材としての適用性を評価した。このため、JIS A 1218に基づいて変水位透水試験を実施し、また、「地盤材料試験の方法と解説 525頁 平成21年11月25日発行(地盤工学会)」の記載を参考にした三軸圧縮試験装置を用いた透水試験を実施した。せん断強度が不十分で供試体が自立しないような配合では前者を適用し、それ以外では後者を適用した。次の表4に配合および試験結果を示す。
【0045】
【表4】
【0046】
廃棄物処分場の不透水性材料としての条件は、底面遮水工については「層厚5m以上、透水係数1.0×10
-7m/s以下」、側面遮水工については「層厚0.5m以上、透水係数1.0×10
-8m/s以下」とされている((財)港湾空間高度化センター「管理型廃棄物埋立護岸設計・施工・管理マニュアル(改訂版)」、36-37頁、2008)。かかる規定から、透水係数に応じて必要な層厚を確保すれば、遮水材として成立することがわかるが、ここでは、底面遮水材を想定し、「層厚5m以上、透水係数1.0×10
-7m/s以下」を一つの目標値と考えることにする。
【0047】
表4の結果から、製鋼スラグの添加量が増えると遮水材の透水性が向上することがわかる。製鋼スラグの添加量が体積比5%の比較例5では、目標の遮水性を達成できないことがわる。一方、製鋼スラグの添加量を体積比で10%以上にした実施例11,12,13では、透水係数は1.0×10
-7m/s以下の値となり、目標の遮水性を満足することがわかる。以上の結果から、本遮水材における製鋼スラグの添加量の下限値は体積比で10%であるといえる。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、
図1の海面産業廃棄物処分場の護岸および遮水工の構造は一例であって、本発明の遮水材は、他の構造に適用できることはもちろんである。
【0049】
また、本発明による遮水材は、産業廃棄物処分場(陸上および海面)の遮水工のための遮水材として適用できるが、これに限定されず、他の設備や構造に適宜適用できることはもちろんであり、たとえば、鉛直遮水壁の継手部に充填する遮水材料や汚染土壌の封じ込め材料として利用でき、また、変形追随性材料としての利用も考えられ、大きな変形が予想される構造に適用できる。