特許第6411202号(P6411202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411202
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】遮水材
(51)【国際特許分類】
   B09B 1/00 20060101AFI20181015BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   B09B1/00 FZAB
   E02B3/12
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-255751(P2014-255751)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-112540(P2016-112540A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】堤 彩人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】高 将真
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−183364(JP,A)
【文献】 特開2001−192656(JP,A)
【文献】 特開2006−326392(JP,A)
【文献】 特開2002−336811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
E02B 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水比を100〜300%に調整した粘性土と粒径26.5mm以下の製鋼スラグとを、前記粘性土が内割り体積比で70〜90%、前記製鋼スラグが内割り体積比で30〜10%となるように混合し、さらに繊維状物質を外割り体積比で0.1〜1.0%添加した遮水材。
【請求項2】
流動性向上のために分散剤をさらに添加した請求項1に記載の遮水材。
【請求項3】
前記遮水材についての一軸圧縮試験において圧縮ひずみが5%または5%以上で圧縮応力が減少しない特性を有する請求項1または2に記載の遮水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、産業廃棄物処分場などの遮水工に適用可能な遮水材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業廃棄物処分場などの遮水工の遮水材として、粘性土、ベントナイト、繊維から成る低強度・高変形追随性の土質系遮水材、あるいは、粘性土、セメント系固化材、繊維から成る高強度・低変形追随性の固化処理土遮水材が提案されている。特許文献1は、変形追随性遮水材として、海成粘土懸濁液、ベントナイト、珪酸塩類等、繊維状物質から成る遮水材を提案する。この遮水材は、変形追随性に優れる一方、強度が小さいため遮水構造に適用されると安定性に欠けることが指摘されていた。
【0003】
上記問題を解決するため、特許文献2は、強度と変形追随性を兼ね備えた遮水材を用いた遮水構造を提案する。この遮水材は、水を含む粘性土に、固化材(50〜150kg/m3)、短繊維(体積比0.2〜2.0%)を添加するもので、遮水性の高い固化処理土に弱い変形追随性を付与したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-336811号公報
【特許文献2】特開2006-326392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の変形追随性遮水材は、高い変形追随性を有するが、強度が小さいという弱点を有していた。特許文献2の遮水構造は、遮水材に強度を付与した結果、以下のような課題を有する。
(1)十分な靭性を付与するためには、短繊維の添加量を多くする必要があり、高コストにつながってしまう。
(2)施工中・供用中に地震等による地盤変動を受け大きなひずみが生じた場合、その後の強度回復を期待できない。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、従来よりも少ない繊維添加量で強度を向上できかつ高い変形追随性を有する遮水材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための遮水材は、含水比を100〜300%に調整した粘性土と粒径26.5mm以下の製鋼スラグとを、前記粘性土が内割り体積比で70〜90%、前記製鋼スラグが内割り体積比で30〜10%となるように混合し、さらに繊維状物質を外割り体積比で0.1〜1.0%添加したものである。
【0008】
この遮水材によれば、粘性土に製鋼スラグを混合することで、強度を向上させることができるととともに、施工中・供用中に地震等による地盤変動により大きなひずみを受けた場合でも材齢の増加とともに強度を回復することができる。また、粒状材料である製鋼スラグに繊維状物質が絡みやすくなることで、少ない繊維状物質の添加量で高い変形追随性を付与することができる。このように、従来よりも少ない繊維状物質の添加量で強度を向上できかつ高い変形追随性を有する。この遮水材は、たとえば、産業廃棄物処分場などの遮水工に好適な材料である。
【0009】
粘性土の含水比が100%以上であると、製鋼スラグや繊維状物質との施工性が低下せずに良好で、含水比300%以下であると、強度・遮水性が低下せずに良好である。製鋼スラグの混合量が体積比30%以下であると、施工性が低下せずに良好であり、また、体積比10%以上であると、遮水性の向上が期待できる。また、繊維状物質の添加量が体積比0.1%以上であると、好ましくは体積比0.2%以上であると、変形追随性の付与効果を得ることができ、また、添加量が体積比1.0%以下であると、添加量が多くならずにコストがさほどかさまない。
【0010】
上記遮水材において、流動性を向上させる目的で分散剤を少量添加することが好ましい。
【0011】
また、前記遮水材は、その一軸圧縮試験において圧縮ひずみが5%または5%以上で圧縮応力が減少しない特性を有することができる。かかる特性を有することで、遮水材が高い変形追随性を有するといえる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも少ない繊維添加量で強度を向上できかつ高い変形追随性を有する遮水材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態による遮水材を適用した海面産業廃棄物処分場の要部を概略的に示す断面図である。
図2】本実施例における変形追随性の確認のための一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を示すグラフである。
図3図2の本実施例との比較のため「小竹・裏山・松原「固化処理土の曲げ・引張強度特性」、ジオシンセティックス論文集、第27巻、133-140頁、2013)」から引用した、短繊維を混合したセメント固化処理土の一軸圧縮試験の応力ひずみ線図を示すグラフである。
図4】実施例7における強度回復性の確認のための一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を示すグラフである。
図5図4の実施例7と比較するための比較例2における一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を示すグラフである。
図6図4の実施例7と比較するための比較例3における一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を示すグラフである。
図7】本実施例における施工性の確認のためのフロー試験から得られた製鋼スラグ添加量とフロー値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による遮水材を適用した産業廃棄物処分場の要部を概略的に示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の海面産業廃棄物処分場の護岸1は、水底Gに捨石から構築されたマウンド2と、マウンド2の上に設置され海水A側に面するケーソン3と、ケーソン3の背面側(内水B側)に捨石から構築された裏込め4と、裏込め4の背面(内水B側)に設けられた遮水層5と、遮水層5の内水B側に水底Gから地盤内へと打設された鋼管矢板6と、を備える。遮水層5と鋼管矢板6は海面産業廃棄物処分場の側面遮水工を構成する。内水Bの水底G1には遮水層7が設けられ、海面産業廃棄物処分場の底面遮水工を構成する。遮水層5と遮水層7は、本実施形態による遮水材から構成される。なお、図1において、水底地盤が、たとえば、厚さ5m以上、透水係数が1.0×10-7m/s以下の連続した不透水性地層である場合、底面遮水工である遮水層7を省略することができる。
【0016】
本実施形態による遮水材は、含水比を100〜300%に調整した粘性土と粒径26.5mm以下の製鋼スラグとを、粘性土が内割り体積比で70〜90%、製鋼スラグが内割り体積比で30〜10%となるように混合し、繊維(繊維状物質)を外割り体積比で0.1〜1.0%添加し、さらに流動性を向上させる目的で分散剤を少量添加したものである。

【0017】
上述の粘性土としては、浚渫土の他、購入材料、たとえば山粘土、ベントナイトなどを使用できる。含水比を100〜300%に調整して使用する。
【0018】
上述の製鋼スラグは粒径26.5mm以下であり、目標強度や遮水性に応じて、製鋼スラグの混合量を10〜30%(体積比)の範囲で調整する。なお、製鋼スラグとして、高炉で製造された銑鉄を転炉で精錬する工程で生成される粒状体である転炉系製鋼スラグを用いることが好ましい。また、製鋼スラグには、粒径26.5mm以下の礫が含まれていてもよい。
【0019】
上述の繊維として、その種類は任意であり、たとえば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロンなど合成繊維全般、ガラス繊維、および炭素繊維などを使用できる。繊維の寸法も任意である。添加量は体積比で0.1〜1.0%の範囲で調整する。
【0020】
上述の分散剤として、たとえば、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、または、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを主成分とするものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
次に、図1の遮水層5および遮水層7の施工方法の一例について説明する。ただし、施工方法は、本例に限定されず、他の方法であってもよい。
【0022】
(1)調泥
浚渫土等の粘性土に所定量の海水または清水を加え、粘性土を目的とする含水比に調整する。
【0023】
(2)混練
調整泥をミキサーに送り、所定の体積比で製鋼スラグ・短繊維を加え練り混ぜ、遮水材を製造する。
【0024】
(3)圧送
製造された遮水材を、圧送ポンプを用いて、圧送管により打設場所まで搬送する。
【0025】
(4)打設
トレミー管により所定の位置に遮水材を打設する。すなわち、遮水材を図1の遮水層5、遮水層7に相当する位置に打設することで、遮水層5、遮水層7を構築する。
【0026】
本実施形態による遮水材によれば、従来技術よりも少ない繊維添加量で、高い変形追随性を付与できる。特許文献2では、セメント系の固化材(微粉末)および短繊維(体積比0.2〜2%添加)により遮水材の強度・靭性を改善しているのに対し、本実施形態による遮水材では製鋼スラグの混合により強度を改善するとともに、粒状材料である製鋼スラグに繊維が絡みやすくなることで変形追随性が向上し、体積比0.1〜1.0%という少ない繊維添加量で高い変形追随性を付与できる。
【0027】
また、本実施形態による遮水材は、施工中・供用中に地震等による地盤変動により大きなひずみを受けた場合でも材齢の増加とともに強度が回復する。製鋼スラグと粘性土を混合した材料は、長期的に強度が増加するが、本実施形態による遮水材は、繊維を添加することにより内部拘束効果が発揮され脆性破壊しない材料となるため、大きなひずみを受けた場合でも、製鋼スラグの長期強度発現特性を引き出し、その後の時間経過に伴う強度の増加を促すことができる(強度回復)。一方、繊維を添加しない場合には、脆性破壊により破壊面の接触力が失われるため、強度は回復しない。
【実施例】
【0028】
次に、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。本実施例では、本遮水材の変形追随性、強度回復性、フロー試験による施工性、および遮水性について確認した。
【0029】
[変形追随性]
本実施例の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm3)を所定の体積比で混合したものである。実施例1〜6では短繊維の配合割合を体積比で0.1〜1.0%まで6段階に変え、比較例1では短繊維を配合していない。実施例1〜6および比較例1についての配合を次の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1のように繊維添加量をパラメータにした繊維・製鋼スラグ混合遮水材を作製し、養生7日後に一軸圧縮試験を実施した。この一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を図2に示す。なお、一軸圧縮試験は、JIS A 1216に基づいて実施した。
【0032】
図2の結果から、短繊維を混合しない比較例1では5%の圧縮ひずみに達する前から圧縮応力が低下したのに対し、実施例2〜6のように短繊維を体積比で0.2%以上添加すると、5%以上の大ひずみレベルにおいても圧縮応力が低下しない材料となることがわかる。また、短繊維を体積比で0.1%添加した実施例1では、圧縮ひずみが5%のとき圧縮応力が低下しないことがわかる。また、繊維添加量が体積比で0.2〜1.0%の実施例2〜6では、繊維の添加量に応じて5%以上の大ひずみレベルにおいて圧縮応力の保持効果が高くなることがわかる。つまり、繊維添加量が増すと、変形追随性が向上する。
【0033】
以上から、実施例1〜6の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、短繊維を体積比で0.1〜1.0%添加することで、好ましくは短繊維を体積比で0.2〜1.0%添加することで、圧縮ひずみが5%または5%以上で圧縮応力が減少しない特性を有し、高い変形追随性を有することがわかる。
【0034】
比較のため、短繊維を混合したセメント固化処理土の一軸圧縮試験の結果を引用して図3に示す(小竹・裏山・松原「固化処理土の曲げ・引張強度特性」、ジオシンセティックス論文集、第27巻、133-140頁、2013)。図3から、セメント固化処理土の場合には、1.0vol%の短繊維を添加しても、軸ひずみ2%程度で圧縮応力の最大値を示した後、軸ひずみの増大とともに圧縮応力は低下する傾向が確認され、変形追随性が低下することがわかる。
【0035】
[強度回復性]
実施例7の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm3)を所定の体積比で混合したものである。比較例2は、短繊維を混合しないものである。比較例3は、繊維を混合したセメント固化処理土の強度回復性を調べるために、含水比160%に調整した浚渫土に、高炉セメントB種(75kg/m3)、ポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm)を所定の体積比で添加した繊維混合セメント固化処理土である。次の表2に各配合を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
ここで、繊維の添加量は、実施例7では、本遮水材の規定する繊維添加量(体積比で0.1〜1.0%)の中央値に近いこと、またすでに図2で変形追随性について評価済みであることから体積比で0.5%とした。また、繊維の添加の有無による強度の回復性を比較するため、比較例2の繊維添加量を0%とした場合についても評価した。一方、比較例3のセメントを使用する場合のセメント添加量については、図2の繊維添加量体積比0.5%の結果を参考にした。つまり、図2の繊維添加量体積比0.5%(材齢7日)における圧縮応力の最大値は170kN/m2であることから、これを参考にして材齢7日で圧縮応力の最大値が200kN/m2程度となるセメント量を添加した。
【0038】
強度の回復性はJIS A 1216による一軸圧縮試験により評価した。評価方法は、28日間養生した供試体を5%のひずみレベルまで一軸圧縮(処女圧縮)した後、載荷を一旦停止し供試体をとりだし、85日間暴露した後、再び一軸圧縮試験を実施した。暴露方法は、供試体をラップで包み乾燥を防ぐ方法(気中暴露)による。処女圧縮のひずみレベルを5%とした理由は、繊維添加量0%の供試体では、5%を超える圧縮ひずみを与えると、その後、供試体をとりだし暴露の準備をする際に供試体が崩壊してしまう恐れがあるためである。
【0039】
上述のような一軸圧縮試験から得られた応力ひずみ線図を図4図6に示す。なお、図4図6の縦軸の圧縮応力は、圧縮ひずみ5%以下における圧縮応力の最大値により正規化(圧縮応力比)している。実施例7の結果を示す図4と、短繊維を混合しない比較例2の図5とを比較すると、浚渫土に製鋼スラグと短繊維を添加することで、処女圧縮時の一軸圧縮強さを超える強度回復が確認でき、また、製鋼スラグの混合だけ(短繊維を混合しない)では強度は回復しないことがわかる。
【0040】
また、実施例7の結果を示す図4と、短繊維を混合したセメント固化材の比較例3の図6とを比較すると、繊維を添加した場合でもセメント固化処理土では再圧縮後に処女圧縮時の一軸圧縮強さを上回る強度回復は生じないことがわかる。
【0041】
[フロー試験による施工性]
実施例8,9,10および比較例4の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)およびポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm3)を所定の体積比で混合し、これに、流動性を向上させるためポリアクリル酸を主成分とする分散剤を2kg/m3添加したものである。これらの遮水材に対してフロー試験を実施し、材料の施工性を検討した。フロー試験は、JHS313-1999(日本道路公団規格 エアモルタル及びエアミルクの試験方法)に規定するシリンダー法に基づいて実施した。次の表3に配合を示す。
【0042】
【表3】
【0043】
図7にフロー試験の結果を示す。図7から、製鋼スラグの添加量が増えるほど、フロー値が小さくなり、施工性が低下することがわかる。ここで、本遮水材においては、良好な施工性の指標としてフロー値85mm以上と規定するが、実施例8〜10では、フロー値が87mm以上で規定値以上である。一方、フロー値が81mmとなった製鋼スラグ体積比40%配合の比較例4では、試料が硬く混練が難しくなることを確認した。以上の結果から、本遮水材における製鋼スラグの添加量の上限値は良好な施工性を確保する観点から体積比で30%であるといえる。
【0044】
[遮水性]
実施例11,12,13および比較例5の繊維・製鋼スラグ混合遮水材は、含水比160%に調整した浚渫土(土粒子密度2.633g/cm3、液性限界101.3%)に、製鋼スラグ(室内試験のため粒径9.5mm以下に調整)、ポリエステル短繊維(繊維長20mm、繊維径14.8μm、比重1.38g/cm3)を所定の体積比で混合したものである。これらの繊維・製鋼スラグ混合遮水材の透水係数を計測し、廃棄物処分場の遮水材としての適用性を評価した。このため、JIS A 1218に基づいて変水位透水試験を実施し、また、「地盤材料試験の方法と解説 525頁 平成21年11月25日発行(地盤工学会)」の記載を参考にした三軸圧縮試験装置を用いた透水試験を実施した。せん断強度が不十分で供試体が自立しないような配合では前者を適用し、それ以外では後者を適用した。次の表4に配合および試験結果を示す。
【0045】
【表4】
【0046】
廃棄物処分場の不透水性材料としての条件は、底面遮水工については「層厚5m以上、透水係数1.0×10-7m/s以下」、側面遮水工については「層厚0.5m以上、透水係数1.0×10-8m/s以下」とされている((財)港湾空間高度化センター「管理型廃棄物埋立護岸設計・施工・管理マニュアル(改訂版)」、36-37頁、2008)。かかる規定から、透水係数に応じて必要な層厚を確保すれば、遮水材として成立することがわかるが、ここでは、底面遮水材を想定し、「層厚5m以上、透水係数1.0×10-7m/s以下」を一つの目標値と考えることにする。
【0047】
表4の結果から、製鋼スラグの添加量が増えると遮水材の透水性が向上することがわかる。製鋼スラグの添加量が体積比5%の比較例5では、目標の遮水性を達成できないことがわる。一方、製鋼スラグの添加量を体積比で10%以上にした実施例11,12,13では、透水係数は1.0×10-7m/s以下の値となり、目標の遮水性を満足することがわかる。以上の結果から、本遮水材における製鋼スラグの添加量の下限値は体積比で10%であるといえる。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図1の海面産業廃棄物処分場の護岸および遮水工の構造は一例であって、本発明の遮水材は、他の構造に適用できることはもちろんである。
【0049】
また、本発明による遮水材は、産業廃棄物処分場(陸上および海面)の遮水工のための遮水材として適用できるが、これに限定されず、他の設備や構造に適宜適用できることはもちろんであり、たとえば、鉛直遮水壁の継手部に充填する遮水材料や汚染土壌の封じ込め材料として利用でき、また、変形追随性材料としての利用も考えられ、大きな変形が予想される構造に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、従来よりも少ない繊維添加量で強度を向上できかつ高い変形追随性を有する遮水材を実現できるので、たとえば、産業廃棄物処分場における遮水工のための適切な遮水材を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 護岸
2 マウンド
3 ケーソン
4 裏込め
5 遮水層
6 鋼管矢板
7 遮水層
A 海水
B 内水
G,G1 水底
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7