特許第6411203号(P6411203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6411203ボールペン用油性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411203
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ボールペン用油性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20181015BHJP
   B43K 7/12 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C09D11/18
   B43K7/12
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-258173(P2014-258173)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-117828(P2016-117828A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】朝見 秀明
(72)【発明者】
【氏名】森 いつ香
(72)【発明者】
【氏名】尾関 遊之
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−032511(JP,A)
【文献】 特開2007−009091(JP,A)
【文献】 特開2006−096879(JP,A)
【文献】 特開2011−195803(JP,A)
【文献】 特開2007−145700(JP,A)
【文献】 特開2011−074276(JP,A)
【文献】 特開2006−206738(JP,A)
【文献】 特開2006−070236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、有機溶剤と、鱗片状シリカとを含んでなり、前記鱗片状シリカは、葉状二次粒子又は三次凝集粒子のいずれかである、ボールペン用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記葉状二次粒子の厚さは0.001〜3μmである、請求項1に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記鱗片状シリカがインキ組成物全量中0.05〜10重量%の範囲で添加される、請求項1または2に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項4】
回転粘度計による1rpm時の粘度が500〜10000mPa・s(20℃)の範囲にある前記請求項1乃至3のいずれかに記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載のボールペン用油性インキ組成物を内蔵したボールペン。
【請求項6】
出没式形態である請求項5記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペン用油性インキ組成物に関する。更には、インキの垂れ下がりを抑制できるボールペン用油性インキ組成物とそれを用いたボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性ボールペンにおいては、1万〜数万mPa・sの高粘度のインキが用いられている。前記高粘度油性インキを用いたボールペンでは、筆感が重く、更に、紙面への浸透性が低いために筆跡にボテが生じ易いという欠点を有していた。このため、粘度を低くすることで軽い書き味が得られ、紙面への浸透性が高い低粘度の油性インキが研究されている。前記低粘度油性インキにおいては、インキ吐出量を多くするためにペン先のクリアランスが大きく設定され、ボールを前方に押圧するバネを内蔵することでインキ漏れが生じ難い構造を形成しているが、特に、キャップを有しない出没式ボールペンにおいては、ペン先下向き状態にて高温高湿度下で長期経時した際に、クリアランスが大きいためにペン先からのインキ漏れが生じ易いものとなる。そこで、前記長期経時によって生じるインキ漏れを抑制するための技術が研究されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0003】
前記特許文献の技術では、脂肪酸エステル粒子、球状シリコーン樹脂粒子、40nm以下の球状シリカ粒子等の微粒子をインキ中に添加することによって、高温高湿度下で長期経時した場合であっても、ペン先からのインキ漏れが生じることのない油性インキを構成し、軽い筆感で均一な筆跡が形成できるボールペンを提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206719号公報
【特許文献2】特開平08−134391号公報
【特許文献3】特開平10−195365号公報
【0005】
しかしながら、筆記時に紙繊維等がボールと小口の間に挟みこんだり、陳列時にペン先がボール押圧状態となって小口が開放されたままとなったり、落下等によりチップ先端が傷付いて変形する等、インキ流通路が広がってしまった場合にはインキ漏れを抑制することはできず、インキが垂れ下がりやボタ落ちを生じることがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はインキ粘度が低い油性インキであっても、高温高湿度下で長期経時した場合はもちろん、使用時や保管時にペン先のインキ流通路が広がってしまった場合であっても、インキ粘度に左右されることなくインキ漏れを効果的に抑制することができ、優れた筆記性能を長期に亘って発現できるボールペン用油性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
着色剤と、有機溶剤と、鱗片状シリカとを含んでなり、前記鱗片状シリカは、葉状二次粒子又は三次凝集粒子のいずれかであるボールペン用油性インキ組成物を要件とする。 更に、前記葉状二次粒子の厚さは、0.001〜3μmであることを要件とする。
更に、前記鱗片状シリカが、インキ組成物全量中0.05〜10重量%の範囲で添加されること、回転粘度計による1rpm時の粘度が500〜10000mPa・s(20℃)の範囲にあることを要件とする。
更には、前記いずれかのボールペン用油性インキ組成物を内蔵したボールペンを要件とし、前記ボールペンが出没式形態であることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高温高湿度下で長期経時した場合や、使用時や保管時にペン先のインキ流通路が不用意に広がってしまった場合であっても、インキ漏れに伴う垂れ下がりやボタ落ちを効果的に抑制することができ、高い筆感で良好な筆跡が安定して得られるという優れた筆記性能を長期に亘って発現できるボールペン用油性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ボールペン用油性インキ組成物中に、鱗片状シリカを添加することにより、インキ粘度に左右されることなく、高温高湿度下での長期経時によるインキ漏れが抑制できるものである。特に、筆記時に異物がボールと小口の間に挟み込まれたり、陳列時にペン先がボール押圧状態となって小口が開放されたままとなったり、落下等によりチップ先端が傷付いて変形したり等、予期せずにインキ流通路が広がった場合であっても、前記鱗片状シリカがインキ流通路を塞いでインキ漏れ(垂れ下がりやボタ落ち)を抑制することが可能となる。
【0010】
前記鱗片状シリカは、薄板状のシリカ(SiO)の微粒子であり、インキの油性媒体中に固体として存在するため、該微粒子の添加によってインキ成分が凝集等を生じることなく長期間安定した油性インキ組成物を構成できる。
【0011】
前記鱗片状シリカとしては、粉体や溶媒でスラリー状に分散されたものが適用でき、具体的には、薄片状の一次粒子、該薄片一次粒子が互いに面間が平行的に配向して複数枚重なって形成される実質的に葉状二次粒子(積層構造の粒子形態を有する鱗片状シリカ)、前記薄片一次粒子が葉状二次粒子形態で三次凝集した三次凝集粒子、更にこれらの混合物が例示できる。
【0012】
前記薄片一次粒子は、その厚さが0.001〜0.1μmのものである。このような薄片一次粒子は、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった葉状シリカ二次粒子を形成する。前記二次粒子の厚さは、0.001〜3μm、好ましくは0.005〜2μmであり、厚さに対する葉状二次粒子の最長長さの比(アスペクト比)は、少なくとも10、好ましくは30以上、更に好ましくは50以上のものである。
葉状二次粒子の厚さが0.001μm未満の場合には、葉状二次粒子の強度が不十分となるため好ましくない。一方、葉状二次粒子の厚さが3μmより大きくなると、真球形状に近づくためインキ漏れ抑制効果が低下してしまう。尚、二次粒子の厚さは、微粉末状のものを走査型電子顕微鏡観察することで測定ができる。また、厚さと平面方向の粒径は、透過型電子顕微鏡により撮影した粒子像サイズのスケール計測等により区別できる。
前記三次凝集粒子は、例えば特開平11−29317号や特開2000−72432号に開示される方法で製造される薄片一次粒子の凝集体であり、複数の葉状二次粒子が略放射状に不規則に間隙を有するように集合した三次凝集体構造である。そのため、インキ流通路が不用意に広がった場合にも封鎖でき、更に筆記時にはボールの回転によって変形や解砕することで確実にインキを塗布することができる構造となっている。尚、前記葉状二次粒子はこの三次凝集粒子を解砕して得ることができる。
【0013】
前記鱗片状シリカは、その大きさを特に限定されるものではなく、平均粒子径が0.002〜20μm、好ましくは0.01〜10μm、更に好ましくは0.01〜8μmのものが適用できる。平均粒径が0.002μm未満の場合は、充分なインキ漏れ抑制機能が得られ難く、20μmを越えるとペン先で目詰まりを生じ易くなる。尚、三次凝集粒子を用いる場合、平均粒子径が4〜6μm程度のものが最も有用である。
【0014】
前記平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折/散乱式粒度測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA−920型)、動的光散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LB−500型)、コールターカウンター(例えば、コールターエレクトロニクス社製、MA−II型)等を粒子径の範囲に応じて適宜使用して測定される。
【0015】
前記鱗片状シリカとしては、前述の文献に記載された方法で作成できるが、市販品を用いてもよく、例えばAGCエスアイテック社製のサンラブリー、C、TZ−824、LFS、LFS−C等が例示できる。
【0016】
前記鱗片状シリカは単独で用いる他、粒径や凝集形態の異なるものを二種以上適宜混合して使用することができ、特に限定されるものではないが、好ましくはインキ組成物中の0.05重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜5重量%の範囲で適用される。前記配合量では、特に高い性能が得られる。
【0017】
前記有機溶剤としては、油性ボールペン用の従来汎用のものが適用でき、例えば、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ギ酸n−ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピル等を例示できる。
前記有機溶剤は一種又は二種以上を混合して、インキ組成中40〜95重量%の範囲で用いられる。
【0018】
前記着色剤としては、従来から油性インキに適用される汎用の染料、顔料が適宜用いられる。
前記染料としては、例えば、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料が挙げられる。
前記ソルベント染料の具体例としては、バリファストブラック3806(C.I.ソルベントブラック29)、同3807(C.I.ソルベントブラック29の染料のトリメチルベンジルアンモニウム塩)、スピリットブラックSB(C.I.ソルベントブラック5)、スピロンブラックGMH(C.I.ソルベントブラック43)、バリファストレッド1308(C.I.ベーシックレッド1の染料とC.I.アシッドイエロー23の染料の造塩体)、バリファストイエローAUM(C.I.ベーシックイエロー2の染料とC.I.アシッドイエロー42の染料の造塩体)、スピロンイエローC2GH(C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩)、スピロンバイオレットCRH(C.I.ソルベントバイオレット8−1)、バリファストバイオレット1701(C.I.ベーシックバイオレット1とC.I.アシッドイエロー42の染料の造塩体)、スピロンレッドCGH(C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩)、スピロンピンクBH(C.I.ソルベントレッド82)、ニグロシンベースEX(C.I.ソルベントブラック7)、オイルブルー613(C.I.ソルベントブルー5)、ネオザポンブルー808(C.I.ソルベントブルー70)等が挙げられる。
前記顔料としては、カーボンブラック、群青、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料、アルミニウム粉やアルミニウム粉表面を着色樹脂で処理した金属顔料、透明又は着色透明フィルムにアルミニウム等の金属蒸着膜を形成した金属光沢顔料、フィルム等の基材に形成したアルミニウム等の金属蒸着膜を剥離して得られる厚みが0.01〜0.1μmの金属顔料、金、銀、白金、銅から選ばれる平均粒子径が5〜30nmのコロイド粒子、蛍光顔料、蓄光性顔料、熱変色性顔料、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料等が挙げられる。
前記着色剤は一種又は二種以上を併用してもよく、インキ組成物中3〜40重量%の範囲で用いられる。
【0019】
更に、筆跡の滲み抑制、定着性向上、堅牢性等を付与する目的で樹脂を添加することができる。前記樹脂としては、先の有機溶剤に対して可溶なものであれば特に限定されることなく適用でき、例えば、ケトン樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン系樹脂、クマロン−インデン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、α−及びβ−ピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物等が挙げられる。
これらの樹脂は一種又は二種以上を混合して用いてもよく、インキ組成中0.5〜40重量%、好ましくは1〜35重量%の範囲で用いられる。0.5重量%未満では筆跡の紙への滲み抑制、定着性向上、堅牢性付与等の充分な効果を発揮できず、40重量%を越えて添加すると、樹脂の溶剤への溶解性が低下し、インキの流動性が低下することがある。
【0020】
更に、本発明の油性インキ組成物には、必要に応じて上記成分以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤、潤滑剤、粘度調整剤、顔料分散剤、消泡剤、剪断減粘性付与剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0021】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等が使用できる。
酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドロキシトルエン、フラボノイド、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸誘導体、α−トコフェロール、カテキン類等が使用できる。
紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル5′−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、p−安息香酸−2−ヒドロキシベンゾフェノン等が使用できる。
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等が使用できる。
【0022】
潤滑剤としては、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等を用いることができ、ボール受け座の摩耗防止効果を向上できる。
【0023】
更に、剪断減粘性付与剤を添加することによって、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。
前記剪断減粘性付与剤としては、従来公知の化合物を用いることが可能であり、例えば、架橋型アクリル樹脂、架橋型アクリル樹脂のエマルションタイプ、架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体、非架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体非架橋型N−ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体の水溶液、水添ヒマシ油、脂肪酸アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス等のワックス類、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩、ジベンジリデンソルビトール、デキストリン脂肪酸エステル、N−アシルアミノ酸系化合物、スメクタイト系無機化合物、モンモリロナイト系無機化合物、ベントナイト系無機化合物、ヘクトライト系無機化合物、シリカ等が例示できる。
【0024】
前記組成からなる油性インキの粘度としては、E型粘度計による20℃、1rpmでの測定値が、500〜10000mPa・s、好ましくは800〜5000mPa・s、より好ましくは1000〜4500mPa・sの範囲である、低粘度のものが好適である。
前記粘度範囲のものは前述した不用意に広がったインキ流通路におけるインキ漏れはもちろんのこと、高温高湿度下で長期経時した際にもインキ漏れが発生し易いため、本発明の構成が特に有効なものとなる。尚、500mPa・sより低いものは筆跡滲みが生じ易くなる。
【0025】
前記ボールペン用油性インキ組成物を充填するボールペンの筆記先端部(チップ)の構造は、従来汎用の機構が有効であり、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。特に、バネ体を配設したものは、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することもでき、構造面から不使用時のインキ漏れを抑制できることから好適である。
前記弾発部材は、金属細線のスプリング、前記スプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたもの、線状プラスチック加工体等を例示できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等からなる汎用のものが適用でき、直径0.1mm〜2.0mm、好ましくは0.2mm〜1.0mmの範囲のものが好適に用いられる。
【0026】
前記油性インキ組成物を収容する軸筒は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。
前記軸筒にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記軸筒とチップを連結してもよい。
前記軸筒内に収容されるインキ組成物は、粘度に応じて軸筒前部にインキ保留部材を装着し、軸筒内に直接インキ組成物を収容する方法と、多孔質体或いは繊維加工体に前記インキ組成物を含浸させて収容する方法を用いることもできる。
【0027】
更に、前記軸筒として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
尚、前記軸筒は、ボールペン用レフィルの形態として、前記レフィルを外軸内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0028】
前記軸筒を用いたボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であっても適用できる。出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で外軸内に収納されており、出没機構の作動によって外軸開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。前記出没式ボールペンはペン先が保護されることなく常に晒された状態であるため、本発明のインキ組成物が特に有効となる。
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、外軸後端部や外軸側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、外軸に回転部(後軸等)を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
尚、前記出没式ボールペンは、外軸内に一本のボールペンレフィルを収容したもの以外に、複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。また、前記ボールペンレフィルを構成するインキ収容管は樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0029】
前記ボールペンレフィルに収容したインキの後端にはインキ逆流防止体(液栓)を配することもできる。
前記インキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油、精製鉱油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド、脂肪酸デキストリン等を添加することもできる。また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することも可能である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペン用油性インキの組成と粘度を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
各実施例、比較例のインキ粘度は、20℃でEMD型回転粘度計〔東機産業(株)製:標準ロータ〕を用いて、1rpmで測定した。
【0031】
【表1】
【0032】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)保土ヶ谷化学工業(株)製、商品名:スピロンブラックGMH−S
(2)オリエント化学工業(株)製、商品名:バリファストバイオレット1701
(3)オリエント化学工業(株)製、商品名:バリファストレッド1320
(4)顔料分散剤、積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBL−10
(5)日立化成工業(株)製、商品名:ハイラック110H
(6)日本触媒(株)製、商品名:K−90
(7)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリー
(8)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリーC
(9)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリーTZ−824
(10)日光ケミカルズ(株)製、商品名:デカグリン10−O
(11)日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジルR812
【0033】
インキの調製
有機溶剤に各成分を添加して、40℃で、ディスパーにて400rpm、3時間攪拌することで各インキを調製した。
【0034】
ボールペンレフィルの作製
ボールペンレフィルは、先端部に直径0.5mmのボールを回転可能に抱持した切削ボールペンチップ(ボールを前方に弾発するボール押しバネを収容する)と、該ボールペンチップが前部に固着された接続部材と、該接続部材が先端開口部に固着され、且つ、内部にインキ及びインキ逆流防止体が収容されたインキ収容管と、該インキ収容管の後端開口部に固着された尾栓からなる。尚、前記インキ逆流防止体は、基油としてポリブテン、増粘剤として脂肪酸アマイドを用いて混練したインキ逆流防止体である。
【0035】
ボールペンの作製
出没機構を備えた軸筒の内部に、前記各ボールペンレフィルをバネ(コイルスプリング)により後方付勢状態で収容することで試料ボールペンを得た。前記ボールペンは、軸筒の後端部(ノック操作部)を前方へノック操作することにより、軸筒の先端孔よりボールペンチップが外部に突出する出没式形態である。
【0036】
前記各試料ボールペンにより以下の試験を行った。
垂れ下がり試験
各ボールペンを用いて、ボールペンチップを軸筒から露出させてチップを下向きで保持し、温度20℃、相対湿度90%の雰囲気下に20時間放置した後、チップ先端の外観を目視で観察した。
インキ漏れ試験
各ボールペンのボールペンチップ先端に小傷を付けた後、温度20℃、相対湿度60%の雰囲気下に20時間放置し、チップ先端の外観を目視で観察した。
インキ安定性試験
筆記可能であることを確認した各ボールペンを、2000rpmで10分間、遠心処理した後、JIS P3201筆記用紙Aに手書きで直線を筆記して筆跡の状態を目視により観察した。
【0037】
試験結果を以下の表に示す。
【表2】
【0038】
尚、テスト結果の評価の記号の内容は以下のとおり。
垂れ下がり試験
○:インキの垂れ下がりは認められない。
×:チップ先端にインキ滴が認められる。
インキ漏れ試験
○:インキ漏れは認められない。
×:チップ先端からインキが吐出された。
インキ安定性試験
○:一定の濃度及び線幅の筆跡が得られる。
×:筆記不能、又は、筆跡にカスレが生じる。