特許第6411206号(P6411206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411206
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】計測用治具
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20181015BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20181015BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20181015BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20181015BHJP
   G01B 11/26 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   E01D22/00 A
   E01D19/02
   E01D22/00 B
   G01C15/06 T
   G01B11/00 H
   G01B11/26 H
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-260596(P2014-260596)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121450(P2016-121450A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中部科学技術センター顕彰の応募要項の先頭ページ(中部科学技術センターのサイトに公開された内容 http://www.cstc.or.jp/pdf/117_cstc_kensho/26kensho_koubo.pdf)、応募日:平成26年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】吉嶺 建史
(72)【発明者】
【氏名】荒川 慎平
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−348814(JP,A)
【文献】 特開平11−093179(JP,A)
【文献】 特許第5492343(JP,B1)
【文献】 特開2005−274356(JP,A)
【文献】 特開平09−311023(JP,A)
【文献】 特開2003−075150(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0050810(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007025159(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
G01B 11/00、11/26
G01C 11/02、11/06
G01C 15/02、15/06
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを用いた橋脚又は橋台を有する橋梁を補修及び補強する際に、前記橋脚又は前記橋台に設けたアンカーボルトの位置と傾きを調査するのに用いる計測用治具において、
前記橋梁に用いられる前記橋脚又は前記橋台に設けたアンカーボルトの先端に螺合させる為の雌ネジ部と、
該雌ネジ部と螺合した前記アンカーボルトの軸に対して直交する直交面と、
中心検出マークを有するマーカープレートと、を備え、
前記直交面に、前記マーカープレートが設置されること、
を特徴とする計測用治具。
【請求項2】
請求項1に記載の計測用治具において、
前記マーカープレートに、識別マークを備えること、
を特徴とする計測用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面より突出したネジ部の位置計測に用いる治具に関し、詳しくは橋梁の補修・補強などで下部工に部材を取付ける際に使用する橋脚より突出したアンカーボルトの先端位置及びボルト軸方向を計測するために用いる計測用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、震災の発生などによりインフラの重要性に対する認識が高まりつつあり、土木構造物の点検・補修を行う必要性が高まっている。特に、経年劣化によって必要となる設備メンテナンスにおいて、橋梁の補修又は補強をする手法が模索されている。橋梁は上部構造物と下部構造物よりなり、その間に設置される支承と呼ばれる部材により、上部構造物が下部構造物に支持されている。このため、支承を補修・補強する場合には橋脚に設置したアンカーボルトにより支持された鋼製支持部材等を用いて、一時的に上部構造物を支持する必要がある。
【0003】
特許文献1には、既設橋梁用支承装置の補修方法に関する技術が開示されている。上部構造物を、鋼製支承を介して下部構造物が支持する既設橋梁用の支承装置の補修方法であって、鋼製支承の突起の除去によりその水平力支持機能を無くし、鉛直力専用支承にする。そして、新規水平力支持支承として、上部構造物である鋼製箱枠の側方に一定の隙間を有して、下部構造物に反力壁を構築し、反力壁の側面と鋼製箱枠との間に形成される隙間に弾性体の両側面に取付けプレートが配接されてなる緩衝材を縦型に配置して、その一方の取付けプレートを反力壁の側面に固定し、他方の取付けプレートを鋼製箱枠に固定する。この様な手順により、上部構造物をジャッキアップすることなく既設の橋梁用支承装置を補修できる工法の提供を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―8323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いて橋梁を補修する場合、新規水平力支持支承を配置できるスペースを要する為、構造によっては対応出来ない場合が考えられる。又、既設支承を利用する構造であるために、支承自体を交換するという目的に利用することが困難である。前述したように、近年は老朽化した橋梁の補強工事の一環として、橋梁の支承の交換を行うケースが増えており、これに対応する必要がある。
【0006】
支承を交換する場合、前述したように支承を取り外す際に橋脚に鋼製支持部材を取付け、鋼製支持部材の上面で桁を受けた状態で、支承を取り外している。しかし、鋼製支持部材を取り付ける為に使うアンカーボルトは、施工の効率や橋脚の強度維持の観点から、橋脚の配筋を避けて設置することが望ましい。この為、現場において橋脚の配筋を避けながらアンカーボルトを設置し、このアンカーボルトの位置に対応する孔を鋼製支持部材に空ける必要がある。このため、アンカーボルトの位置を作業員が計測した上で、鋼製支持部材を設計するという手間が必要となり、工期が長くなっていた。又、作業員が計測するため、計測精度が作業員の技量に影響された。
【0007】
また、橋脚より突出したアンカーボルトが傾いている場合があり、突出したアンカーボルトの先端位置のみを計測し鋼製支持部材を製作しただけでは、鋼製支持部材にアンカーボルトを挿通することができないケースが発生する場合がある。したがって、鋼製支持部材の製作にあたっては、アンカーボルトの傾きを考慮して橋脚前面におけるアンカーボルト位置を計測し、両者を包括するような鋼製支持部材を製作する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、橋梁を補修又は補強するにあたって橋脚より突出したアンカーボルトの位置を効率よく計測することを可能とし、工期短縮及び計測精度の改善に資する計測用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による計測用治具は、以下のような特徴を有する。
【0010】
(1)コンクリートを用いた橋脚又は橋台を有する橋梁を補修及び補強する際に、前記橋脚又は前記橋台に設けたアンカーボルトの位置と傾きを調査するのに用いる計測用治具において、前記橋梁に用いられる前記橋脚又は前記橋台に設けたアンカーボルトの先端に取り付ける為の雌ネジ部と、前記アンカーボルトの軸に対して直交する直交面と、中心検出マークを有するマーカープレートと、を備え、前記直交面に、前記マーカープレートが設置されること、を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、アンカーボルトの先端に計測用治具を取付け、鋼製支持部材に設ける穴の位置を計測し、鋼製支持部材の製作を容易にすることが可能となる。この結果、橋梁の補修にかかる工期を短縮することを可能とする。これは、橋梁の補修又は補強工事を行うにあたって、橋梁に用いられる橋脚又は橋台にアンカーボルトを配置し、このアンカーボルトの先端に計測用治具を取付けて、その位置を撮影することで、アンカーボルトの先端位置を取得可能であるため、これまで作業員がアンカーボルトの先端を手作業で計測していた場合に比べて、作業時間が大幅に短縮出来るためである。
【0012】
計測用治具は、アンカーボルトの先端に取付けられ、カメラなどの撮影手段を用いて撮影される。この結果得られた画像を画像処理することで、アンカーボルトの相対位置を割り出すことができる。これは、計測用治具の先端に中心位置を検出可能な中心位置検出マークを備えている為である。中心位置検出マークは、計測用治具の中心を示すだけでなく、計測用治具を取付けたアンカーボルトの先端の位置を示すので、鋼製支持部材に設ける挿通孔の位置を特定することが可能である。また、直交面にマーカープレートが設置されていることで、アンカーボルトの傾きを得ることができる。これは、中心位置検出マークの形状の変形を検出することで、傾きを割り出すことができる為である。
【0013】
よって、適切なアンカーボルトの位置取得が可能となる。アンカーボルトの位置は、課題に示したように鋼製支持部材の設計に必要で、この計測用治具を用いることで鋼製支持部材の設計・製造期間短縮に寄与し、その結果、橋梁の補修・補強に必要とする工期の短縮を実現できる。
【0014】
(2)(1)に記載の計測用治具において、前記マーカープレートに、識別マークを備えること、が好ましい。これは、個体識別可能な識別マークを備えていることで、それぞれの計測用治具の個体識別を可能としている。したがって、撮影手段によって撮影する際に、1フレーム内に全ての計測用治具が収まらなくても、画像を繋ぎ合わせることが可能となる。つまり、アンカーボルトの全体的な相対位置を確認できる。
【0015】
また、前記目的を達成するために、本発明の一態様による橋梁の補修方法は、以下のような特徴を有する。
【0016】
(3)コンクリートを用いた橋脚又は橋台を有する橋梁を修理するにあたり、前記橋脚又は前記橋台に複数のアンカーボルトを設置し、前記アンカーボルトを用いて鋼製支持部材を取付け、前記鋼製支持部材で橋桁を支持して行う橋梁の補修方法において、前記アンカーボルトの先端に、雌ネジ部とマーカープレートを有した計測用治具を取付け、前記橋脚又は前記橋台の表面を、撮影手段を用いて前記計測用治具が複数写るように撮影し、撮影したデジタルデータを用いて、前記アンカーボルトの位置を計測し、前記橋脚又は前記橋台に取付ける鋼製支持部材に、前記アンカーボルトの前記位置を反映して前記アンカーボルトが通過する貫通孔を設けること、を特徴とする。
【0017】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による橋梁の補強方法は、以下のような特徴を有する。
【0018】
(4)橋梁に備えられるコンクリートを用いた橋脚又は橋台に複数のアンカーボルトを設置し、前記アンカーボルトを用いて鋼製支持部材を取付け、前記鋼製支持部材で橋桁を支持する橋梁の補強方法において、前記アンカーボルトの先端に、雌ネジ部とマーカープレートを有した計測用治具を取付け、前記橋脚又は前記橋台の表面を、撮影手段を用いて前記計測用治具が複数写るように撮影し、撮影したデジタルデータを用いて、前記アンカーボルトの位置を計測し、前記橋脚又は前記橋台に取付ける鋼製支持部材に、前記アンカーボルトの前記位置を反映して前記アンカーボルトが通過する貫通孔を設けること、を特徴とする。
【0019】
前記目的を達成するために、本発明の別の態様による鋼製支持部材の製造方法は、以下のような特徴を有する。
【0020】
(5)コンクリートを用いた橋脚又は橋台を有する橋梁を補修又は補強するにあたり、前記橋脚又は前記橋台に複数のアンカーボルトを設置し、前記アンカーボルトを用いて取付けることで橋桁を支持する、鋼製支持部材の製造方法において、前記アンカーボルトの先端に、雌ネジ部とマーカープレートを有した計測用治具を取付け、前記橋脚又は前記橋台の表面を、撮影手段を用いて前記計測用治具が複数写るように撮影し、撮影したデジタルデータを用いて、前記アンカーボルトの位置を計測し、前記橋脚又は前記橋台に取付ける鋼製支持部材に、前記アンカーボルトの前記位置を反映して前記アンカーボルトが通過する貫通孔を設けること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の、計測用治具の斜視図である。
図2】第1実施形態の、計測用治具の断面図である。
図3】第1実施形態の、橋梁の構造を示す斜視図である。
図4】第1実施形態の、アンカーボルトを梁部に埋め込んだ様子の斜視図である。
図5】第1実施形態の、アンカーボルトに計測用治具を配置した様子の斜視図である。
図6】第1実施形態の、アンカー位置ズレ量補正に関する模式側面図である。
図7】第1実施形態の、鋼製支持部材の斜視図を示す。
図8】第2実施形態の、計測用治具の斜視図である。
図9】第2実施形態の、アンカーボルトに計測用治具を配置した様子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、第1実施形態の計測用治具10の斜視図を示す。図2に、計測用治具10の断面図を示す。計測用治具10は、本体部11とマーカープレート15よりなる。本体部11はアルミニウム製の円筒体で、表面11aに中心線11eがケガキにて十字に設けられている。本体部11の内面には裏面11b側からM36の雌ネジ部11cが設けられている。雌ネジ部11cは、図2に示すように本体部11の途中まで設けられ、その先には内側に凸となる段付部11dが形成された止り穴構造になっている。
【0023】
マーカープレート15は、正方形に形成された黒色のプレートであり、その表面には黒地15aに白枠16が描かれている。白枠16の四隅の一角に設けられた位置マーカー16aと、白枠16内に設けられた識別マーカー17とを備える。識別マーカー17は複数の白色四角形状に塗られた複数の識別パターン17aが平面上に並べられてなり、位置マーカー16aとの相対位置により、マーカープレート15の識別を行うことを可能とする。マーカープレート15の周囲四辺には、図2に示すようにそれぞれ辺の中央に基準線15bが設けられていて、この基準線15bと中心線11eとが一致するように、本体部11の表面11aに識別マーカー17が貼り付けられることで、計測用治具10が形成される。この際、白枠16の中心がマーカープレート15の中心となる。即ち、白枠16は中心位置検出の機能も有する。
【0024】
図3に、橋梁100の構造を斜視図に示す。橋梁100は、鉄道橋に用いるもので、図3では軌道や床版を省略して図示している。また、説明の都合上カットモデルを示している。図3に示す橋梁100は、橋脚の柱部110に備えられる梁部111と、梁部111の上に配置される主桁121、主桁121同士を繋ぐ横桁122、主桁121と梁部111の間に配置されそれぞれに固定される支承125を備えている構造となっている。なお、この図3に示す構造は橋梁100に採用される構成の一例であるので、この他の構成に発明を適用することを妨げない。
【0025】
この橋梁100の耐震工事や補強工事を行うにあたり、以下のような手順で支承125を交換する工事を行う。その手順を簡単に説明する。
【0026】
図4に、アンカーボルト150を梁部111に設置した様子を斜視図に示す。アンカーボルト150は、雄ネジ部150aが梁部111の表面から突出するように梁部111に保持される。梁部111は鉄筋コンクリートにて構成されており、内部に鉄筋が縦横に配置されている。この為、アンカーボルト150の配置は、鉄筋を避けての配置となる。コンクリートに穴を設けて、アンカーボルト150を設置し、硬化性の樹脂等を用いて固定する。その様子を示しているのが図4の状態である。
【0027】
この後、アンカーボルト150の位置を計測するために、アンカーボルト150の先端に計測用治具10を取付ける。計測用治具10の雌ネジ部11cとアンカーボルト150の雄ネジ部150aを螺合させることで、計測用治具10を配置することができる。なお、計測用治具10は、図2に示すように段付部11dが設けられて止まり穴構造になっているため、計測用治具10を所定の位置までねじ込むと、それ以上ねじ込む事は出来ない。
【0028】
図5に、計測用治具10を配置して、撮影する様子を斜視図に示す。図5には、計測用治具10を配置した様子が示され、計測用治具10以外にも、マーカープレート15が複数配置されている。又、マーカープレート15が備えられたスケール50が配置されている。この状態で、計測用治具10が複数写るように撮影手段に相当するデジタルカメラによって梁部111の表面を撮影することで、デジタルデータを取得する。デジタルデータを取得した後、デジタルデータを解析して3次元座標値を算出し、3次元座標値からアンカーボルト150の位置を取得する。
【0029】
デジタルカメラによる撮影は、マーカープレート15の識別マーカー17が識別可能な解像度で行われる必要がある。これは、アンカーボルト150の先端に設けられたマーカープレート15が、計測用治具10の個体識別に用いられるためである。一方、アンカーボルト150は梁部111の側面に広範囲に渡って設置されるため、マーカープレート15の識別マーカー17が識別可能な解像度で、全てのアンカーボルト150が写るように撮影することは困難である。このため、アンカーボルト150が設置される範囲を幾つかの領域に区切り、その領域が重なるように撮影する。
【0030】
そして、梁部111の撮影をしてデジタルデータを得た後、ソフトウェアで結合処理を行い、結合データを得る。データの結合にあたって、計測用治具10の識別が識別マーカー17によってなされ、撮影が区切られた領域が重なるように撮影されていることで、継ぎ目のないデータが得られることになる。同じ識別マーカー17が重なり合うように結合すれば良いからである。こうして得た結合データを解析し、アンカーボルト150の位置を算出する。
【0031】
図6に、ズレ量補正に関する模式側面図を示す。図6では、アンカーボルト150が、梁部111の表面に対して斜めに設置されている。分かり易いように傾斜を大きくして記載しているが、アンカーボルト150の根本部分の根本中心C1と、マーカープレート15の中心が梁部111に投影された際の仮想中心C2では、ズレC分だけ位置が変わってしまう。アンカーボルト150の先端に取付けられた計測用治具10の中心位置をマーカープレート15で示している以上は、こうした事態は想定しうる。特に、現場では、作業員の技術に依存してこのような状況が発生することがある。
【0032】
後述する鋼製支持部材200は、梁部111の面に接して固定されるため、根本中心C1の位置を問題とする。このため、結合データを解析してアンカーボルト150の位置を算出する際に、マーカープレート15の法線ベクトル方向と、梁部111の表面に設けたマーカープレート15で把握出来る平面とを比較し、根本中心C1を検出する。こうしてアンカーボルト150の位置を正確に取得することができる。なお、結合、解析方法等のソフトウェアでの処理は、デジタルカメラ三次元計測システムなどの既存の技術を用いているため、説明を省略する。
【0033】
図7に、鋼製支持部材200の斜視図を示す。鋼製支持部材200は、ベースプレート202にリブ201等が溶接されて形成されている。また、主桁121を支持するトッププレート203を備えている。このような鋼製支持部材200を、アンカーボルト150の位置を計測して得たデータを元に、ベースプレート202に貫通孔205を設け、リブ201やトッププレート203を溶接して構成する。鋼製支持部材200の製造は工場で行った上で、現場に運ばれ、アンカーボルト150が貫通孔205を貫通する様にして梁部111の側面に鋼製支持部材200を配置し、ナット160で締結する。こうして、鋼製支持部材200が梁部111に設置される。
【0034】
鋼製支持部材200は、梁部111に固定された後に、トッププレート203で主桁121を支持できるように調整される。こうして、鋼製支持部材200によって主桁121を支持した状態になる。つまり、鋼製支持部材200によって、梁部111に主桁121が固定される。この状態とすることで、橋梁100の支承125の交換が可能となる。こうして、橋梁100の補修を行うことが可能となる。
【0035】
なお、橋梁100の補強を行う場合は、鋼製支持部材200によって、梁部111に主桁121を固定した状態とする。この後、支承125の交換をするにしろしないにしろ、橋梁100の一部として鋼製支持部材200を固定したままにしておくことで、鋼製支持部材200を補強部材として使う事ができる。なお、鋼製支持部材200と主桁121の間に滑り面を設けることで、支承125の機能を発揮できる状態にすることが可能である。このような橋梁100の補強に鋼製支持部材200をすることで、橋梁100にかかる荷重を分散支持することが可能となる。
【0036】
第1実施形態の橋梁を補修又は補強に用いる計測用治具は、上記構成であるので以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0037】
まず、第1実施形態の橋梁を補修又は補強に用いる計測用治具を用いて、橋梁を補修又は補強を実施することで、橋梁の補修又は補強の効率を上げることが可能となる。これは、橋梁100を補修又は補強を行うにあたり、橋梁100の補修又は補強に用いる計測用治具10において、橋梁100に用いられる橋脚又は橋台に設けたアンカーボルト150の先端に取り付ける為の雌ネジ部11cと、中心検出マークに相当する位置マーカー16aを有するマーカープレート15と、を備える計測用治具10を用いることで実現される。
【0038】
そして、コンクリートを用いた橋脚又は橋台を有する橋梁100を修理するにあたり、橋脚又は橋台に複数のアンカーボルト150を設置し、アンカーボルト150を用いて鋼製支持部材200を取付け、鋼製支持部材200で橋桁を支持して行う橋梁100の補修方法において、このような計測用治具10を用いて橋梁100の補修又は補強を行う。つまり、アンカーボルト150の先端に、雌ネジ部11cとマーカープレート15を有した計測用治具10を取付け、橋脚又は橋台の表面を、計測用治具10が複数写るように撮影し、デジタルカメラを用いて撮影したデジタルデータを用いて、アンカーボルト150の位置を計測し、橋脚又は橋台に取付ける鋼製支持部材200に、アンカーボルト150の位置を反映してアンカーボルト150が通過する貫通孔205を設ける。
【0039】
橋梁100は、前述したように鋼製支持部材200によって保持されることで、支承125の交換が可能な状態となる。そして、鋼製支持部材200の製造時間を短縮でき、また鋼製支持部材200の現場での手直しを削減できることから、全体的な工程の短縮が可能となる。これは、橋梁100の梁部111にアンカーボルト150を設置し、これに合わせて鋼製支持部材200を製造しなければならない為であり、梁部111に設置したアンカーボルト150の位置を、計測用治具10を用いることによって短時間で取得できる為である。
【0040】
アンカーボルト150は、前述したように梁部111の内部に配置されている鉄筋の位置を避けて設置する他、手作業にてアンカーボルト150を設置するための穴を空け、アンカーボルト150を設置した後に樹脂で固定する段階で角度が微妙に変わるなどの問題がある。つまり、設計した通りにアンカーボルト150を配置できないケースが多い。よって、鋼製支持部材200のベースプレート202に空ける貫通孔205は、梁部111に設けたアンカーボルト150の位置によって調整する必要がある。加えて、手作業でアンカーボルト150の位置を計測する場合には、その計測結果は作業員の技術により正確性が左右される。
【0041】
一方、この様な事情があるため、鋼製支持部材200のベースプレート202に予め貫通孔205を適切な位置に設けておくことは困難である。また、リブ201の位置も、アンカーボルト150の位置によっては干渉する虞がある。この為、アンカーボルト150の位置を計測した後に、鋼製支持部材200の設計に反映せざるを得ない。アンカーボルト150の位置に合わせて、鋼製支持部材200を製作することは、橋梁100の補修に必要な工期を長くする要因となる。
【0042】
しかし、計測用治具10をアンカーボルト150の先端に配置し、デジタルカメラで撮影してアンカーボルト150の位置を取得することで、アンカーボルト150の位置を短時間で正確に計測することができる。このデータを元に鋼製支持部材200のベースプレート202に貫通孔205を設ける。こうすることで、アンカーボルト150と貫通孔205との位置のズレは抑えられる。結果、鋼製支持部材200を梁部111に取付ける際に、現場での鋼製支持部材200の修正作業を不要とすることが可能となり、橋梁100の補修にかかる工期を短縮することが可能となる。
【0043】
また、貫通孔205は、例えばM36のアンカーボルト150に対してφ39程度の穴が空けられている。これは鋼製支持部材200の荷重を均等に分散することを狙っている為である。しかし、それ故に貫通孔205の位置精度が要求される。この為、アンカーボルト150の位置は正確に求める必要がある。これは、次のような理由による。例えばM36のアンカーボルト150に対して、貫通孔205としてφ41の拡大孔を空けた場合、貫通孔205の位置合わせを容易にし、アンカーボルト150の位置精度はある程度低くても許される。しかしその場合は、鋼製支持部材200の荷重の分散効果が薄くなり、一部のアンカーボルト150に過大な荷重が集中するケースが想定される。
【0044】
橋梁100に設けられた鋼製支持部材200には、場合によっては衝撃荷重がかかることが予想され、特定のアンカーボルト150に荷重が集中するとアンカーボルト150の破断を招く虞がある。そして、一部のアンカーボルト150が破損することで、鋼製支持部材200の性能が発揮できなくなる虞がある。この様な事態を避けるために、アンカーボルト150の径に対して、貫通孔205はできるだけ小径に設計されることが望ましい。そして、第1実施形態の橋梁100の補修方法によれば、貫通孔205の位置が正確に定まるため、鋼製支持部材200が受ける荷重の分散効果をより高めることが期待出来る。また、アンカーボルト150の位置計測の手間が軽減される他、鋼製支持部材200の現場での手直しの手間も軽減される。
【0045】
また、マーカープレート15には、その中心を検出する中心検出マークに相当する位置マーカー16aと、それぞれが異なることを識別できる識別マークに相当する識別マーカー17が備えられていることで、位置マーカー16aと識別マーカー17を別々に備える場合と比較して、配置するマーカープレート15の数を減らすことが可能となる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態について説明を行う。第2実施形態の橋梁の補修又は補強に用いる計測用治具20は、第1実施形態の橋梁の補修又は補強に用いる計測用治具10の構成とほぼ同じであるが、用いるマーカープレートの仕様が異なるので以下に説明する。
【0047】
図8に、第2実施形態の計測用治具20の斜視図を示す。図9に、計測用治具20を配置して、撮影する様子を斜視図に示す。計測用治具20はM36の六角ナット21にマーカープレート22が設けられた構成となっている。マーカープレート22には円形の中心位置に中心検出マーク23が備えられており、計測用治具20をアンカーボルト150に螺合した状態で、アンカーボルト150の中心位置が割り出せるようになっている。この計測用治具20を、図4に示した梁部111の側面に設置したアンカーボルト150に螺合させる。そして、アンカーボルト150の間には識別マーカー25を配置する。識別マーカー25は黒地のプレートに複数の白丸が配置されており、白丸の配置パターンによって個体の識別を可能としている。
【0048】
又、第1実施形態と同様にスケール50が配置され、スケール50の上には位置検出マーク27が配置されている。位置検出マーク27は基本的には識別マーカー25と同じルールで形成されている。図9には、この様子が示され、この状態で撮影を行うことで、第1実施形態と同様にアンカーボルト150の位置を計測することが可能となる。この様にして第1実施形態と同様に、第2実施形態の橋梁100の補修方法においても鋼製支持部材200の製作にあたって準備が容易となり、橋梁100の補修に必要な工期の短縮に貢献することができる。
【0049】
なお、第1実施形態と第2実施形態との差異は計測用治具10と計測用治具20との違いであるが、計測用治具20の形状が単純であるために製作が容易である点や、計測用治具20の中心検出マーク23が単純な形状であるために現場での汚れに強いなどのメリットが得られる。また、中心検出マーク23やマーカープレート22を大きな模様とできる為、解像度の低いデジタルカメラを用いたり、撮影枚数を減らしたりするといった効果も期待できる。反面、識別マーカー25を第1実施形態の場合より多く必要とする傾向にある為に、撮影の前の下準備の手間が増えるというデメリットは生じる。この為、現場に合わせて適宜選択されるべきである。
【0050】
以上、本発明に係る橋梁の補修方法及び橋梁の補修用治具の実施形態について説明を行ったが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、マーカープレート15や識別マーカー25のパターンは例示した形態でなくとも、個体識別可能な形態であれば適用可能である。また、本体部11や六角ナット21の形状、構造を変更することを妨げない。
【0051】
また、計測用治具10や計測用治具20は、M36の雌ネジ部分が設けられているが、これはアンカーボルト150に対して係合できれば良く、例えば別のネジ寸法、別の規格を用いたりすることを採ることを妨げない。また、計測用治具10及び計測用治具20の材質についても、アルミニウム以外の材質、例えば鋼材や樹脂などを用いることを妨げない。
【符号の説明】
【0052】
10 計測用治具
11 本体部
11c 雌ネジ部
11d 段付部
15 マーカープレート
16 白枠
16a 位置マーカー
17 識別マーカー
50 スケール
100 橋梁
110 柱部
111 梁部
121 主桁
122 横桁
125 支承
150 アンカーボルト
150a 雄ネジ部
160 ナット
200 鋼製支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9