特許第6411207号(P6411207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411207
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20181015BHJP
   B62L 3/02 20060101ALI20181015BHJP
   B60T 7/10 20060101ALI20181015BHJP
   B60T 7/02 20060101ALI20181015BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B62L3/02 Z
   B60T7/10 L
   B60T7/02 D
   B60T13/74 D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-263955(P2014-263955)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-124309(P2016-124309A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 元泰
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−81918(JP,A)
【文献】 特開2006−264579(JP,A)
【文献】 特開2000−66754(JP,A)
【文献】 特開2008−308058(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00− 8/96
13/00−13/74
B62L 1/00− 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作子と、
前記ブレーキ操作子が操作されていることを検知するブレーキスイッチと、
前記ブレーキ操作子に機械的に連結されたロータ軸を有する電動モータと、
前記電動モータを駆動してブレーキを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記電動モータの逆起電力に基づいて前記ブレーキ操作子の操作情報を取得する操作情報取得手段と、
前記操作情報取得手段が取得した操作情報に基づいてブレーキ力を制御するブレーキ力制御手段とを有し、
前記逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であることおよび前記ブレーキスイッチがオフになっていることの少なくとも一方を満たした場合に、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するように構成されたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であり、かつ、前記ブレーキスイッチがオフになっている場合に、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記逆起電力が第1閾値未満である状態が所定時間以上継続することを、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するための条件とするように構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御装置は、車両のイグニッションスイッチがオンにされた後、前記ブレーキ操作子の初期位置が設定されたことを条件として、前記ブレーキ力制御手段によるブレーキ力の制御を許可することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記逆起電力を積分して前記ブレーキ操作子の操作量を取得し、
前記ブレーキ操作子の初期位置を設定する場合に前記操作量をリセットするように構成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記ブレーキ力制御手段は、前記電動モータを制御してブレーキ力を制御するように構成されたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記電動モータは、バーハンドル車両におけるバーハンドルに取り付けられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、バーハンドル車両におけるブレーキ装置として、特許文献1のように、制御弁手段、圧力センサおよびポンプなどを備えたブレーキ液圧制御装置によって連動ブレーキ制御を行う構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−202690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術のような、複雑な液圧回路を備えるブレーキ液圧制御装置は、重く大きいため、車両の重量が大きくなり、コストも高くなるという問題がある。また、ブレーキ操作子の操作に基づいてブレーキ力を制御するブレーキ装置においては、例えば、イグニッションスイッチがオフ状態からオン状態になった場合、すでにブレーキ操作がされていたか否かを判定してブレーキ操作子の初期位置を決定することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な構造でブレーキを制御することが可能であり、また、ブレーキ操作子の初期位置を設定することが可能な車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決する本発明の車両用ブレーキ装置は、ブレーキ操作子と、前記ブレーキ操作子が操作されていることを検知するブレーキスイッチと、前記ブレーキ操作子に機械的に連結されたロータ軸を有する電動モータと、前記電動モータを駆動してブレーキを制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記電動モータの逆起電力に基づいて前記ブレーキ操作子の操作情報を取得する操作情報取得手段と、前記操作情報取得手段が取得した操作情報に基づいてブレーキ力を制御するブレーキ力制御手段とを有し、前記逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であることおよび前記ブレーキスイッチがオフになっていることの少なくとも一方を満たした場合に、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するように構成される。
【0007】
このような構成によれば、逆起電力が第1閾値未満であること、つまり、ブレーキ操作子が動かされていないことに加え、車体速度が第2閾値以上であることおよびブレーキスイッチがオフになっていることのいずれかを満たすことでブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。ブレーキスイッチがオフになるブレーキ操作子の位置は、車種や、個々の車両によってバラツキが生じるが、本発明の車両用ブレーキ装置は、ブレーキ操作子の動作に連動する電動モータの逆起電力が第1閾値未満であることを検証することで、より正確にブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。すなわち、ブレーキ操作子の初期位置を決定することができる。
【0008】
前記した装置において、前記制御装置は、前記逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であり、かつ、前記ブレーキスイッチがオフになっている場合に、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するように構成することができる。
【0009】
このような構成によれば、逆起電力が第1閾値未満であることに加え、車体速度が第2閾値以上であることと前記ブレーキスイッチがオフになっていることの両方が満たされていることを検証することで、より正確にブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。
【0010】
前記した装置において、前記逆起電力が第1閾値未満である状態が所定時間以上継続することを、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定するための条件とするように構成することができる。
【0011】
このように、逆起電力が第1閾値未満である状態が所定時間以上継続することをブレーキ操作子の初期位置を設定するための条件とすることで、より正確にブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。
【0012】
前記した装置において、前記制御装置は、車両のイグニッションスイッチがオンにされた後、前記ブレーキ操作子の初期位置が設定されたことを条件として、前記ブレーキ力制御手段によるブレーキ力の制御を許可することが望ましい。
【0013】
このように、ブレーキ力制御手段によるブレーキ力の制御を、一度はブレーキ操作子の初期位置が設定されたことを条件として許可することにより、操作情報を正しく取得してブレーキ力の制御を好適に行うことができる。
【0014】
前記した装置において、前記制御装置は、前記逆起電力を積分して前記ブレーキ操作子の操作量を取得し、前記ブレーキ操作子の初期位置を設定する場合に前記操作量をリセットするように構成することができる。
【0015】
電動モータの逆起電力は、ブレーキ操作子の操作速度を意味するため、この逆起電力を積分することでブレーキ操作子の操作量を算出することができる。
【0016】
前記した装置において、前記ブレーキ力制御手段は、前記電動モータを制御してブレーキ力を制御するように構成することができる。
【0017】
このような構成によれば、複雑な液圧回路によりブレーキ力を制御する場合に比較して、簡易な構造となり、車両の重量増加を抑えることもできる。
【0018】
前記した装置において、前記電動モータは、バーハンドル車両におけるバーハンドルに取り付けてもよい。
【0019】
バーハンドル車両においては、車両の重量増加が操縦性に影響を与えるため、電動モータを用いた簡易な構成とすることで、操縦性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブレーキ操作子の動作に連動する電動モータの逆起電力が第1閾値未満であることを検証することで、より正確にブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ装置の構成を示す図である。
図2】電動モータのロータ軸を通る、ブレーキレバーとモータの断面図である。
図3】制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】ブレーキレバーの操作パターンとその操作時に発生する逆起電力を示す図(a)〜(c)である。
図5】電動モータに発生した逆起電力(a)と操作量(b)の関係を示すグラフである。
図6】車両の始動から停止までの処理のフローチャートである。
図7】初期位置判定処理のフローチャートである。
図8】初期位置判定処理の他の例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、一実施形態に係る車両用ブレーキ装置1は、自動二輪車、自動三輪車またはバギーカーなどのバーハンドル10を備える車両に設けられるブレーキ装置であり、前輪WFに設けられたホイールシリンダCFと、後輪WRに設けられたホイールシリンダCRにブレーキ液を供給するように構成されている。
【0023】
具体的には、バーハンドル10には、右側に前輪用のマスタシリンダM1が固定され、ブレーキホースH1によりマスタシリンダM1がホイールシリンダCFに接続されている。同様に、バーハンドル10の左側には、後輪用のマスタシリンダM2が固定され、ブレーキホースH2によりマスタシリンダM2がホイールシリンダCRに接続されている。
マスタシリンダM1をバーハンドル10に支持するベース部MB1には、右のブレーキレバーL1が回動可能に設けられ、同様に、マスタシリンダM2をバーハンドル10に支持するベース部MB2には、左のブレーキレバーL2が回動可能に設けられている。
上記のような構成により、公知のように、右のブレーキレバーL1の操作量に応じてマスタシリンダM1、ブレーキホースH1およびホイールシリンダCFにより前輪WFに制動力が与えられ、左のブレーキレバーL1の操作量に応じてマスタシリンダM2、ブレーキホースH2およびホイールシリンダCRにより後輪WRに制動力が与えられる。
【0024】
図2に示すように、右のブレーキレバーL1は、セレーション13によって第1電動モータ20の第1ロータ軸21と機械的に連結されており、第1ロータ軸21が右のブレーキレバーL1の回動軸となっている。図2では、右のブレーキレバーL1について示すが、括弧書きで符号を示したように、左のブレーキレバーL2も、同様の構造で、第2電動モータ30の第2ロータ軸31を介してベース部MB2に支持されている。このため、右のブレーキレバーL1の操作は、第1ロータ軸21の回転となり、逆に、第1電動モータ20を駆動することにより第1ロータ軸21を回動させると、右のブレーキレバーL1が回動するようになっている。また、左のブレーキレバーL2の操作は、第2ロータ軸31の回転となり、逆に、第2電動モータ30を駆動することにより第2ロータ軸31を回動させると、左のブレーキレバーL2が回動するようになっている。なお、本実施形態においては、ロータ軸がブレーキレバーと同じ角度だけ回転するように直結されているが、減速ギアを介してブレーキレバーと連結してもよい。減速ギアを設けることで、電動モータとして出力トルクが小さいものを採用でき、また、ブレーキレバーを操作したときのロータ軸の回転量が多くなって逆起電力を検出しやすくなる。
【0025】
図1に戻り、第1電動モータ20と第2電動モータ30は、ともに制御装置100に接続され、制御装置100により制御されるようになっている。また、車両用ブレーキ装置1は、適宜な箇所に、右のブレーキレバーL1が操作されていることを検知するブレーキスイッチの一例としてのブレーキランプスイッチ71と、左のブレーキレバーL2が操作されていることを検知するブレーキスイッチの一例としてのブレーキランプスイッチ72と、前輪WFの車輪速を検出する前輪速センサ81と、後輪WRの車輪速を検出する後輪速センサ82と、第1電動モータ20の逆起電力を検出する第1起電力センサ91と、第2電動モータ30の逆起電力を検出する第2起電力センサ92とを備え、これらの各センサの検出値は制御装置100に出力されている。第2起電力センサ92により第2電動モータ30の逆起電力を検出することで、左のブレーキレバーL2の操作を検出することができるので、第2電動モータ30は、操作検知手段の一例である。なお、ブレーキランプスイッチ71とブレーキランプスイッチ72は制御装置100に対し並列に接続されており、右のブレーキレバーL1と左のブレーキレバーL2の少なくとも一方が操作されたときにブレーキランプがONとなる。また、第1起電力センサ91および第2起電力センサ92は、制御装置100内に設けられていてもよい。
【0026】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、各センサからの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって制御を実行する。具体的に図3に示すように、制御装置100は、車体速度推定部110と、操作量演算部120と、操作量演算部120が取得した操作情報に基づいてブレーキ力を制御するブレーキ力制御手段の一例としての連動ブレーキ制御部130と、モータ制御部140と、記憶部190とを備えている。
【0027】
車体速度推定部110は、前輪速センサ81および後輪速センサ82から取得した前の車輪WFと後の車輪WRの車輪速に基づき公知の手法により車体速度Vを演算する。
【0028】
操作量演算部120は、電動モータの逆起電力に基づいてブレーキ操作子の操作情報を取得する操作情報取得手段の一例であり、第1起電力センサ91および第2起電力センサ92から取得した第1電動モータ20の逆起電力VM1および第2電動モータ30の逆起電力VM2に基づいて、右のブレーキレバーL1の操作量B1と左のブレーキレバーL2の操作量B2を算出する。具体的には、操作量演算部120は、逆起電力VM1を積分することで、操作量B1を算出し、逆起電力VM2を積分することで、操作量B2を算出する。そして、算出した操作量B1,B2を連動ブレーキ制御部130に出力する。この積分は、例えば、制御サイクルごとに取得した逆起電力VM1,VM2をそれぞれ積算することで行うことができる。なお、各変数の符号において、最後につける1は、前輪WFに対応する変数であることを示し、2は、後輪WRに対応する変数であることを示すこととする。また、操作量演算部120は、操作量B1,B2を正確に算出するため、車両のイグニッションスイッチがオンにされた後、ブレーキレバーL1,L2の初期位置が設定されたことを条件として、すなわち、後述するフラグF1とフラグF2の両方が1の場合に操作量B1,B2を算出する。
【0029】
図4(a)に示すように、ブレーキレバーL1,L2を速く強く握って戻した場合、逆起電力VM1,VM2は、プラス側に大きく発生した後、マイナス側に発生する。
【0030】
ブレーキレバーL1,L2をゆっくり軽く握って戻した場合、図4(b)に示すように、プラス側に小さな逆起電力VM1,VM2が発生し、ゆっくり戻すことで、マイナス側にも小さな逆起電力VM1,VM2が発生する。
【0031】
ブレーキレバーL1,L2を一度握った後、握り増して戻した場合、図4(c)に示すように、プラス側に2回逆起電力VM1,VM2が発生した後、マイナス側に逆起電力VM1,VM2が発生する。
【0032】
図5(b)は、図5(a)のグラフと基線との間で囲まれる面積、すなわち、逆起電力の積分を示したグラフである。図5(a)のプラス側に現れる部分は制動側への操作量となり、マイナス側へ現れる部分は戻し側への操作量となる。ブレーキレバーL1,L2を完全に戻すと、プラス側に現れた部分の総面積と、マイナス側に現れた部分の総面積は等しく、逆起電力VM1,VM2の積分は理論上0になる。
【0033】
なお、本実施形態においては、逆起電力VM1,VM2は、各ブレーキレバーL1,L2を制動側に握ったときに正の値となり、戻したときに負の値となることとするが、この正負は逆であってもよい。正負が逆である場合、操作量演算部120は、逆起電力VM1,VM2の積分値の符号を逆にしたものを操作量B1,B2として算出するとよい。
【0034】
また、操作量演算部120は、第1起電力センサ91および第2起電力センサ92から取得した逆起電力VM1,VM2自体も、各ブレーキレバーL1,L2の操作速度を示す操作情報として連動ブレーキ制御部130に出力する。
【0035】
連動ブレーキ制御部130は、左のブレーキレバーL2の操作に基づいて第1電動モータ20を駆動して、第1ブレーキ系統の制動力を増加させるとともに、右のブレーキレバーL1の操作に基づいて第2電動モータ30を駆動して、第2ブレーキ系統の制動力を増加させる機能を有する。このため、連動ブレーキ制御部130は、初期位置判定部131と、制御量決定部132を備えている。
【0036】
初期位置判定部131は、第1ブレーキ系統を操作する右のブレーキレバーL1の初期位置と、第2ブレーキ系統を操作する左のブレーキレバーL2の初期位置を判定する機能を有する。具体的に、初期位置判定部131は、[1]逆起電力VM1が第1閾値VMthより小さいこと、[2]車体速度Vが第2閾値Vth以上であること、および、[3]ブレーキランプスイッチ71,72の両方がオフであることの3つの条件のうち、[1]と、[2]および[3]の少なくとも一方とを満たした場合に、ブレーキレバーL1の初期位置を設定する。特に、本実施形態では、逆起電力VM1が第1閾値VMthより小さい状態が所定時間以上継続することを右のブレーキレバーL1の初期位置を設定するための条件とするため、[1]と、[2]および[3]の少なくとも一方とを満たしている状態が所定時間Tth以上継続した場合に、右のブレーキレバーL1の初期位置を設定する。初期位置判定部131は、右のブレーキレバーL1の初期位置を設定した場合には、その判定したことを示すフラグF1を1にし、操作量B1を0にリセットする。なお、フラグF1は、初期値が0である。フラグF1が1であることは、イグニッションスイッチがオンにされた後、一度は右のブレーキレバーL1の初期位置が設定され、そのときに操作量B1がリセットされたことを意味する。
【0037】
初期位置判定部131は、左のブレーキレバーL2についても右のブレーキレバーL1と同様にして初期位置を判定する。
すなわち、初期位置判定部131は、[1]逆起電力VM2が第1閾値VMthより小さいこと、[2]車体速度Vが第2閾値Vth以上であること、および、[3]ブレーキランプスイッチ71,72の両方がオフであることの3つの条件のうち、[1]と、[2]および[3]の少なくとも一方とを満たした場合に、ブレーキレバーL2の初期位置を設定する。特に、本実施形態では、逆起電力VM2が第1閾値VMthより小さい状態が所定時間以上継続することを左のブレーキレバーL2の初期位置を設定するための条件とするため、[1]と、[2]および[3]の少なくとも一方とを満たしている状態が所定時間Tth以上継続した場合に、左のブレーキレバーL2の初期位置を設定する。初期位置判定部131は、左のブレーキレバーL2の初期位置を設定した場合には、その判定したことを示すフラグF2を1にし、操作量B2を0にリセットする。なお、フラグF2は、初期値が0である。フラグF2が1であることは、イグニッションスイッチがオンにされた後、一度は左のブレーキレバーL2の初期位置が設定され、そのときに操作量B2がリセットされたことを意味する。
【0038】
制御量決定部132は、連動ブレーキ制御のための制御量、すわなち、第1電動モータ20および第2電動モータ30に供給する電力(電動モータの種類に応じ、電力供給のパターン等を含む、以下同じ。)を決定する機能を有する。ここで、制御量決定部132は、車両のイグニッションスイッチがオンにされた後、ブレーキレバーL1,L2の初期位置が設定されたことを条件として、連動ブレーキ制御を許可するため、フラグF1とフラグF2の両方が1である場合に、制御量を決定する。
【0039】
具体的に、制御量決定部132は、操作量演算部120が算出した左のブレーキレバーL2の操作量B2に応じて比例的に右のブレーキレバーL1を動かすための第1電動モータ20に供給する電力を設定する。また、第2電動モータ30の逆起電力が大きい場合、第2電動モータ30の操作速度が大きいということなので、第2電動モータ30の逆起電力に応じた速度で第1電動モータ20を駆動するための第1電動モータ20の供給電力を設定する。制御量(電力)は、連動制御される側の操作量B1が、基準となる操作量B2よりも小さくなるように決定される。
【0040】
また、制御量決定部132は、操作量演算部120が算出した右のブレーキレバーL1の操作量B1に応じて比例的に左のブレーキレバーL2を動かすための第2電動モータ30に供給する電力を設定する。また、第1電動モータ20の逆起電力が大きい場合、第1電動モータ20の操作速度が大きいということなので、第1電動モータ20の逆起電力に応じた速度で第2電動モータ30を駆動するための第2電動モータ30の供給電力を設定する。制御量(電力)は、連動制御される側の操作量B2が、基準となる操作量B1よりも小さくなるように決定される。
【0041】
制御量決定部132は、設定した第1電動モータ20および第2電動モータ30に供給する電力をモータ制御部140に出力する。
【0042】
モータ制御部140は、連動ブレーキ制御部130からの指示に基づき、第1電動モータ20および第2電動モータ30に電力を供給して、第1電動モータ20および第2電動モータ30を実際に駆動する機能を有する。
【0043】
記憶部190は、車両用ブレーキ装置1の制御に必要な変数や定数を記憶している。操作量B1,B2、逆起電力VM1,VM2、各閾値などは、記憶部190に記憶される。
【0044】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置1の制御装置100の処理の一例について説明する。
図6に示すように、車両のイグニッションスイッチがオンにされてエンジン等が始動されると(S100)、操作量演算部120は、各電動モータ20,30の逆起電力VM1,VM2を取得する(S101)。そして、車体速度推定部110は、前輪速センサ81および後輪速センサ82から取得した各前輪WFおよび後輪WRの車輪速から車体速度Vを推定する(S102)。
【0045】
次に、初期位置判定部131は、操作量演算部120から取得した逆起電力VM1,VM2、車体速度Vおよびブレーキランプスイッチ71,72のオン・オフの信号に基づき、各ブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定する(S200)。
【0046】
具体的には、図7に示すように、初期位置判定部131は、まず、逆起電力VM1が第1閾値VMthより小さいか判定し(S220)、逆起電力VM1が第1閾値VMthより小さい場合(S220,Yes)、さらに、車体速度Vが第2閾値Vth以上か否か判定する(S221)。車体速度Vが第2閾値Vth以上でない場合には(S221,No)、さらに、ブレーキランプスイッチ71,72がオフか否か判定する(S222)。ここで、ステップS221で、車体速度Vが第2閾値Vth以上であると判定された場合と(S221,Yes)、ステップS222でブレーキランプスイッチ71,72がオフであると判定された場合(S222,Yes)、初期位置判定部131は、タイマT1をカウントアップする(S223)。そして、初期位置判定部131は、タイマT1が所定時間Tth以上である場合には(S224,Yes)、フラグF1を1にするとともに操作量B1を0にリセットする(S225)。一方、タイマT1が所定時間Tth以上でなければ(S224,No)、フラグF1および操作量B1を変更せずに右のブレーキレバーL1についての初期位置判定を終了する。
【0047】
また、初期位置判定部131は、ステップS220で逆起電力VM1が第1閾値VMthより小さくないと判定された場合(S220,No)と、ステップS222でブレーキランプスイッチ71,72がオフでないと判定された場合(S222,No)、タイマT1をリセットして(S226)、右のブレーキレバーL1についての初期位置判定を終了する。
【0048】
左のブレーキレバーL2の初期位置判定についても同様に処理される。
初期位置判定部131は、逆起電力VM2が第1閾値VMthより小さいか判定し(S230)、逆起電力VM2が第1閾値VMthより小さい場合(S230,Yes)、さらに、車体速度Vが第2閾値Vth以上か否か判定する(S231)。車体速度Vが第2閾値Vth以上でない場合には(S231,No)、さらに、ブレーキランプスイッチ71,72がオフか否か判定する(S232)。ここで、ステップS231で車体速度Vが第2閾値Vth以上であると判定された場合と(S231,Yes)、ステップS232でブレーキランプスイッチ71,72であると判定された場合(S232,Yes)、初期位置判定部131は、タイマT2をカウントアップする(S233)。そして、初期位置判定部131は、タイマT2が所定時間Tth以上である場合には(S234,Yes)、フラグF2を1にするとともに操作量B2を0にリセットする(S235)。一方、タイマT2が所定時間Tth以上でなければ(S234,No)、フラグF2および操作量B2を変更せずに左のブレーキレバーL2についての初期位置判定を終了する。
【0049】
また、初期位置判定部131は、ステップS230で逆起電力VM2が第1閾値VMthより小さくないと判定された場合と(S230,No)、ステップS232でブレーキランプスイッチ71,72がオフでないと判定された場合(S232,No)、タイマT2をリセットして(S236)、左のブレーキレバーL2についての初期位置判定を終了する。
【0050】
図6に戻り、フラグF1が1であり、かつ、フラグF2が1である場合(S105,Yes)、操作量演算部120は、逆起電力VM1,VM2を積分して操作量B1,B2を算出し(S106)、制御量決定部132は、各電動モータ20,30に供給する電力(制御量)を決定する(S110)。そして、モータ制御部140は、決定された電力で第1電動モータ20および第2電動モータ30を駆動する(S111)。フラグF1が1でないか、または、フラグF2が1でない場合(S105,No)、ステップS101に戻って処理を繰り返す。また、ステップS111の後も、イグニッションスイッチが切られていなければ(S112,No)、ステップS101に戻って処理を繰り返す。
【0051】
以上のような処理によれば、例えば、運転者がイグニッションスイッチをオンにした後、ブレーキレバーL1を完全に戻してブレーキランプスイッチ71,72がオフになった状態が所定時間Tth以上継続すれば、右のブレーキレバーL1の初期位置が設定され、フラグF1が1となり、操作量B1が0にリセットされる。左側についても、ブレーキレバーL2を完全に戻してブレーキランプスイッチ71,72がオフになった状態が所定時間Tth以上継続すれば、左のブレーキレバーL2の初期位置が設定され、フラグF2が1となり、操作量B2が0にリセットされる。
【0052】
また、ブレーキランプスイッチ71,72に異常があった場合であっても、運転者がイグニッションスイッチをオンにした後、ブレーキレバーL1,L2を完全に戻してある程度の車速、つまり、第2閾値Vth以上で走行している状態が所定時間Tth以上継続すれば、各ブレーキレバーL1,L2が操作の初期位置が設定され、フラグF1,F2が1となり、操作量B1,B2が0にリセットされる。
【0053】
また、車両が発進した後でも、ブレーキレバーL1,L2の初期位置が設定される度に、操作量B1,B2がリセットされるので、初期位置のずれを随時補正することができる。
【0054】
一方、例えば、イグニッションスイッチをオンにする前からブレーキレバーL2を握っていて、イグニッションスイッチをオンにした後もブレーキレバーL2を握ったまま、発進していない場合などは、ブレーキレバーL2の初期位置が設定されないので、フラグF2が0のままとなる。
【0055】
フラグF1,F2がともに1となって、連動ブレーキ制御が許可された後は、例えば、左のブレーキレバーL2だけを操作した場合に、制御装置100により第1電動モータ20が駆動されて、左のブレーキレバーL2に応じた速度と操作量で右のブレーキレバーL1が駆動される。逆に、右のブレーキレバーL1だけを操作した場合にも、制御装置100により第2電動モータ30が駆動されて、右のブレーキレバーL1に応じた速度と操作量で左のブレーキレバーL2が駆動される。
【0056】
このようにして、本実施形態の車両用ブレーキ装置1によれば、大きくて複雑な液圧ユニットを用いなくても、簡易な構成で、連動ブレーキ制御を実現することができる。そして、左のブレーキレバーL2および右のブレーキレバーL1の操作情報を検出する操作検知手段として、第2電動モータ30および第1電動モータ20を利用しているので、別途のセンサを設ける必要がなく、部品点数の増加を抑制することができる。
【0057】
また、車両用ブレーキ装置1は、第2電動モータ30の逆起電力が大きい場合に、第1電動モータ20を大きな速度で動かし、また、第1電動モータ20の逆起電力が大きい場合に、第2電動モータ30を大きな速度で動かすので、運転者の意図に応じたブレーキ動作を実現することができる。
【0058】
そして、ブレーキランプスイッチ71,72がオフになるブレーキレバーL1,L2の位置は、車種や、個々の車両によってバラツキが生じるが、車両用ブレーキ装置1は、ブレーキレバーL1,L2の動作にそれぞれ連動する電動モータ20,30の逆起電力が第1閾値VMth未満であることを検証することで、より正確にブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定することができる。また、ブレーキランプスイッチ71,72が正常で高精度に設けられていなくても、車体速度Vが第2閾値Vth以上であるかを検証することで、ブレーキレバーL1,L2の初期位置を決定することができる。
【0059】
また、本実施形態の車両用ブレーキ装置1は、逆起電力VM1,VM2が第1閾値VMth未満である状態が所定時間Tth以上継続することをブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定するための条件としているので、正確にブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定することができる。
【0060】
さらに、車両用ブレーキ装置1は、連動ブレーキ制御部130による連動ブレーキ制御を、一度はブレーキレバーL1,L2の初期位置が設定されたことを条件として許可することにより、操作量B1,B2を正しく取得して、好適な連動ブレーキ制御を実現することができる。
【0061】
そして、車両用ブレーキ装置1は、本実施形態のようにバーハンドル車両に搭載することで、特にその効果を高く発揮することができる。すなわち、バーハンドル車両では、車両の重量増加が操縦性に影響を与えるため、電動モータを用いた簡易な構成で連動ブレーキ制御を実現することで、操縦性を良好にすることができる。
【0062】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく、適宜変形して実施することができる。
前記した実施形態においては、制御装置は、逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であることおよびブレーキスイッチがオフになっていることの少なくとも一方を満たした場合に、ブレーキ操作子の初期位置を設定していたが、制御装置は、逆起電力が第1閾値未満であり、かつ、車体速度が第2閾値以上であり、かつ、ブレーキスイッチがオフになっている場合に、ブレーキ操作子の初期位置を設定するように構成してもよい。
【0063】
この場合、例えば、図8のフローチャートのように、ステップS222のブレーキランプスイッチ71,72がオフであるかの判定を、ステップS221で車体速度Vが第2閾値Vth以上であると判定された(S221,Yes)後に行い、ブレーキランプスイッチ71がオフであると判定された場合に、タイマT1のカウントアップ(S223)を行うようにするとよい。そして、ステップS220〜S222のいずれかにおいて、条件を満たさないと判定された場合には、タイマT1をリセットするとよい(S226)。
【0064】
このような構成によれば、逆起電力が第1閾値未満であることに加え、車体速度が第2閾値以上であることとブレーキスイッチがオフになっていることの両方が満たされていることを検証することで、より正確にブレーキ操作子の初期位置を設定することができる。
【0065】
また、前記実施形態においては、第1電動モータ20を右側に、第2電動モータ30を左側に配置したが、この配置は左右逆であってもよい。
【0066】
また、前記実施形態においては、各閾値は、右側のブレーキ系統と左側のブレーキ系統とで共通としたが、右側のブレーキ系統と左側のブレーキ系統とで異なっていてもよい。
【0067】
前記した実施形態においては、図7において、タイマT1,T2が所定時間Tth以上になった場合にブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定するようにしていたが、タイマT1,T2をカウントすることなく、ブレーキレバーL1,L2の初期位置を設定してもよい。
【0068】
前記実施形態においては、ブレーキランプスイッチ71,72をブレーキスイッチの一例として示したが、ブレーキスイッチは、ブレーキランプと連動していないスイッチであってもよい。また、ブレーキランプスイッチL1,L2は、左右のブレーキレバーの操作を個別に検知することができるように、制御装置100にそれぞれ接続されていてもよい。
【0069】
前記実施形態においては、ブレーキ力の伝達方式として油圧式を採用していたが、ワイヤや空圧でブレーキ力を伝達してもよいし、電気信号によるいわゆるバイワイヤ方式のブレーキであっても構わない。
【符号の説明】
【0070】
1 車両用ブレーキ装置
10 バーハンドル
20 第1電動モータ
21 第1ロータ軸
30 第2電動モータ
31 第2ロータ軸
71 ブレーキランプスイッチ
72 ブレーキランプスイッチ
72A ストロークセンサ
81 前輪速センサ
82 後輪速センサ
91 第1起電力センサ
92 第2起電力センサ
100 制御装置
110 車体速度推定部
120 操作量演算部
130 連動ブレーキ制御部
131 初期位置判定部
132 制御量決定部
140 モータ制御部
190 記憶部
L1 ブレーキレバー
L2 ブレーキレバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8