特許第6411211号(P6411211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411211
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】線形主延在方向を備えたアノード
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/12 20060101AFI20181015BHJP
   H01J 9/14 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   H01J35/12
   H01J9/14 M
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-523141(P2014-523141)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公表番号】特表2014-524635(P2014-524635A)
(43)【公表日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】AT2012000204
(87)【国際公開番号】WO2013020151
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年5月25日
【審判番号】不服2017-7023(P2017-7023/J1)
【審判請求日】2017年5月16日
(31)【優先権主張番号】GM446/2011
(32)【優先日】2011年8月5日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】ゲルツォスコフィッツ、シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ、ハネス
(72)【発明者】
【氏名】シャッテ、ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー、ハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴーハープフェニッヒ、アンドレアス
【合議体】
【審判長】 居島 一仁
【審判官】 野村 伸雄
【審判官】 近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−290208(JP,A)
【文献】 特開2002−329470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/12
H01J 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード体(20)と焦点軌道膜(30)を有し、前記焦点軌道膜が前記アノード体(20)の焦点軌道膜容量部(22)において材料結合的に前記アノード体(20)に接続されているX線装置用の線形主延在方向を有するアノード(10)において、
前記アノード体(20)の内部に前記アノード体(20)および前記焦点軌道膜(30)の冷却用の少なくとも1つの冷却路(40)が配置され、少なくとも前記焦点軌道膜容量部(22)が高融点金属から成る少なくとも1つの基本マトリックスを備えるとともに前記焦点軌道膜(30)の材料の熱膨張係数との差が5×10−61/K以下の熱膨張係数を有する材料から成り、前記焦点軌道膜容量部(22)が前記冷却路(40)に達しており、
前記焦点軌道膜(30)が、前記焦点軌道膜(30)の幅の5倍以上の長さを有し、
前記アノード体(20)が、モノリシックに形成されることを特徴とするX線装置用アノード(10)。
【請求項2】
前記焦点軌道膜(30)および前記焦点軌道膜容量部(22)が、同じ材料から成ることを特徴とする請求項1記載のアノード(10)。
【請求項3】
前記冷却路(40)が、前記アノード体(20)内に真空密に形成されることを特徴とする請求項1または2記載のアノード(10)。
【請求項4】
前記アノード体(20)が、少なくとも前記焦点軌道膜容量部(22)の範囲で鋭角な側面を有し、この側面に前記焦点軌道膜(30)が少なくとも部分的に配置されることを特徴とする請求項1からの1つに記載のアノード(10)。
【請求項5】
前記焦点軌道膜容量部(22)が、以下の材料、すなわち
・タングステン、
・モリブデン、
・タングステン50重量%以上のタングステン合金、
・モリブデン50重量%以上のモリブデン合金、
・タングステン50重量%以上のタングステン複合材、
・モリブデン50重量%以上のモリブデン複合材、
の1つから成ることを特徴とする請求項1からの1つに記載のアノード(10)。
【請求項6】
前記焦点軌道膜(30)と前記焦点軌道膜容量部(22)との間の材料結合的接続を作るために、最大で1つの中間層(50)が配置されることを特徴とする請求項1からの1つに記載のアノード(10)。
【請求項7】
前記冷却路(40)の少なくとも1つの壁部分が、前記焦点軌道膜(30)と平行にされることを特徴とする請求項1からの1つに記載のアノード(10)。
【請求項8】
前記冷却路(40)が、冷却流体を直接案内するように形成されることを特徴とする請求項1からの1つに記載のアノード(10)。
【請求項9】
・モノリシックに形成されたアノード体(20)内に冷却路(40)を形成するステップと、
・前記アノード体(20)の焦点軌道膜容量部(22)の側面に焦点軌道膜(30)を設置するステップであって、前記焦点軌道膜容量部(22)が、高融点金属から成る少なくとも1つの基本マトリックスを有するとともに前記冷却路(40)の長さだけ延在しており、前記焦点軌道膜(30)が、前記焦点軌道膜(30)の幅の5倍以上の長さを有し、前記焦点軌道膜(30)の材料が、前記焦点軌道膜容量部(22)の材料の熱膨張係数との差が5×10−61/K以下の熱膨張係数を有するステップと、
・少なくとも前記焦点軌道膜(30)を前記焦点軌道膜容量部(22)に材料結合的に接続するステップと、
を有するX線装置用の線形主延在方向を備えたアノード(10)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置用の線形主延在方向を備えたアノード並びにX線装置用の線形主延在方向を備えたアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線装置用のアノードは基本的に公知である。アノードは、カソードと協働して電子出射によりX線を送出するために用いられる。このため公知のアノードはカソードと協働して、たとえばコンピュータトモグラフまたは手荷物検査用X線機器において使用されている。この種のX線装置の公知のアノードは、一般に焦点スポットを有する固定スタンド型アノードとしてまたは焦点軌道を有する回転アノードとして構成されている。スタンド型アノードは、固定部材として電子照射を受けて所望のX線を送出するのに用いられる。回転アノードでは、1つの板上に回転するように配置された焦点軌道膜が設けられる。板の回転により、常に焦点軌道膜の一部だけが電子線で照射されるので、焦点軌道膜の残りの部分は冷却可能である。
【0003】
公知のX線装置用アノードの欠点は、高エネルギーの高解像が要求される場合には、比較的費用の掛かる構造が必要とされることにある。そのため、スタンド型アノードか回転アノードが必要であり、回転アノードはさらに回転のほかに付加的に機構的に若干の範囲にわたり可動にされている。コンピュータトモグラフでは、特にX線画像の三次元検出が所望されているので、回転アノード自体が回転しながら動くだけでなく、さらにX線装置全体が可動でなければならない。このために必要な相対運動用の機構的部材は、一方では使用時の音が極めて大きく、さらには故障しやすい。
【0004】
X線装置用アノードとしてアノードに対し、いわゆる線形延在を使用することが提案されている。これにより、機構的な可動部分の減少を達成することが可能となる。公知のアノードは、しかし線形延在でも、極めて短い焦点軌道もしくはごく短い焦点軌道片しか可能でないという欠点を有する。他方では、すなわち比較的長い焦点軌道では、アノードへの焦点軌道膜の接続部分に曲げまたは破損の危険が生じる恐れがある。特に、コンピュータトモグラフもしくは手荷物スキャナでは、3000°までの高い使用温度が予期されるので曲げもしくは破損の恐れが高い。したがって、このような事例では機構的複雑性を少なくすることはできるであろうが、短い焦点軌道片が多数必要となるであろう。このように、焦点軌道の個々の多数の切片のため製造上の複雑性の増大のほかに、個々の焦点軌道片の重複の問題も生じ、これは焦点軌道スポットの任意設置に基本的に反することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、公知のアノードの上述の欠点を少なくとも部分的に解消することにある。特に本発明の課題は、高い機械的安定性において長い焦点軌道も達成可能な、X線装置用の線形主延在方向を備えたアノードおよびこの種のアノードの製造方法を提供することにある。特にこの目的は、費用的に有利にかつ簡単に達成できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題は、独立請求項1の特徴を有する線形主延在方向を備えたアノード並びに独立請求項15の特徴を有するアノード製造方法により解決される。本発明のほかの特徴および詳細は従属請求項、明細書および図面から明らかである。この場合、本発明によるアノードに関して説明された特徴および詳細部分は、勿論本発明による方法に関しても適用され、もしくはその逆であり、個々の発明態様に対する開示は常に相互に参照されるかもしくは参照可能である。
【0007】
X線装置用の線形主延在方向を備えた本発明によるアノードはアノード体と焦点軌道膜を有し、この焦点軌道膜はアノード体の焦点軌道膜容量部において材料結合的にアノード体と接続されている。本発明によるこのようなアノードは、線形主延在方向を備えたX線アノードと呼ぶこともできる。本発明によるアノードは、アノード体の内部においてアノード体および焦点軌道膜の冷却用の少なくとも1つの冷却路が配置され、少なくとも焦点軌道膜容量部が高融点金属から成る少なくとも1つの基本マトリックスを備えた材料から成ることを特徴とする。さらに本発明によるアノードでは、焦点軌道膜容量部が冷却路まで達するようにされている。
【0008】
本発明によるアノードにおいて線形主延在方向とは、直線に沿ってまたは湾曲線に沿って延びる延在方向のことを言う。換言すればアノードはたとえばほぼ延べ棒状に形成され、この延べ棒が立方体の形状を有するようにされる。少なくともその一部において湾曲を示す立方体も本発明の枠内においては線形主延在方向を備えたアノードである。この場合アノードは、回転はしないが動くことはできるように形成された静的アノードである。このアノードはそれゆえ公知の回転アノードとは明確に区別される。またこのアノードは、1つの焦点スポットを有する純静的なアノードとも異なる。なぜなら、アノード上には多数の焦点を用意する1つの焦点軌道膜が設けられているからである。たとえばこのようなアノードは、たとえばいわゆるカーボンナノチューブ(CNT)により提供される多数のカソードとともに使用される。アノードの可動機構は特に小範囲に留まるので、このような運動によるアノードのバランス偏倚や角度変化は小さい。
【0009】
本発明によるアノードでは、材料結合は種々のやり方で得られる。基本的には、焦点軌道膜を焦点軌道膜容量部に直接材料結合させることが可能である。これは、たとえば焦点軌道膜の溶融・融合により行われる。勿論1つまたは多数の層が、所望の材料結合を有するようにすることも可能である。たとえば、ろう付け接続がこのような層の1つまたは複数を材料結合させるのに用いられるであろう。2つ以上の層を材料結合に使用する場合には、各層が隣接層ともしくは焦点軌道膜および/または焦点軌道膜容量部と材料結合接続状態にあることが重要である。このような場合には、したがって材料結合のカスケードが生じるであろう。
【0010】
本発明によるアノードでは、焦点軌道膜が特に唯一の焦点軌道膜として実施されることが可能である。この場合、焦点軌道膜の本発明による形成は、ほぼ任意の長さの焦点軌道膜が得られるように非セグメント化方法で行うと有利である。線形主延在方向を備えた公知のアノードにおける問題とは異なり、ここでは焦点軌道膜の長さの限定は基本的には生じない。これは、焦点軌道膜容量部の材料に高融点金属から成る基本マトリックスが用意されることにより達成される。これにより、焦点軌道膜容量部の高融点は焦点軌道膜自体の高融点を伴うことになる。材料に対する高融点は僅かな熱膨張、すなわち僅かな熱膨張係数を伴うので、本発明により焦点軌道膜容量部および焦点軌道膜の熱膨張係数は互いに近似する。換言すれば、両熱膨張係数は特にパーセンテージ的にごくわずかだけ異なる。
【0011】
本発明により形成されたアノードを使用すると、電子の照射により焦点軌道膜が加熱される。この加熱により、下側への熱の搬出によりその下にある焦点軌道膜容量部も加熱される。この加熱とともに焦点軌道膜並びに焦点軌道膜容量部の熱膨張が生じる。本発明による形態により、それぞれの熱膨張は互いに近似するかもしくはごくわずかに異なるだけである。
【0012】
焦点軌道膜容量部用に高融点金属から成る少なくとも1つの基本マトリックスを備えた材料を用いることにより、焦点軌道膜と焦点軌道膜容量部との間の熱膨張の相違がごくわずかであるアノードが提供される。熱膨張の相違が僅かであることにより、接合応力の発生も僅かとなる。このような接合応力は、アノードの曲がり並びに焦点軌道膜と焦点軌道膜容量部との間の接続範囲の破損の一因と見做されるので、このようなリスクは本発明により減少もしくは最小化される。このような破損および曲がりリスクの減少により、本発明によるアノードにおいて焦点軌道膜の明らかに大きい拡長が達成される。公知のアノードと比較して、本発明によるアノードでは、個々の焦点軌道膜が1mまたは数mの長さのものが達成可能である。
【0013】
本発明によるアノードでは、焦点軌道膜の材料と焦点軌道膜容量部の材料との熱膨張の差は5x10-61/K、特に2x10-61/K以下である。この熱膨張の特に僅かな差により、焦点軌道膜と焦点軌道膜容量部の間の材料結合的接続による接合応力が特に小さくなる。
【0014】
焦点軌道の材料は、たとえば少なくとも主としてモリブデンまたはタングステンを有することができる。特に、タングステン基合金が挙げられる。たとえば、これは50重量%以上のタングステンを有する合金を意味する。この種の合金の別の成分はたとえばレニウムである。
【0015】
本発明の枠内では「高融点金属」とは特に、融点が2000℃以上の金属を言う。焦点軌道膜並びに焦点軌道膜容量部の、特にその少なくとも1つの基本マトリックスの材料は再結晶材料とすると好適である。
【0016】
本発明の枠内では、冷却路は簡単な孔とするか、またはより複雑な形状のものとすることができる。たとえば冷却路は、アノード体に接する別個の壁により区画されるものとすることもできる。またこのような壁を作るための管は、たとえば銅や鋼のような別の材料から作ることも可能である。勿論アノード体、特に焦点軌道膜容量部の材料に相応する材料から成る管も考えられる。また、壁自体をアノード体および/または焦点軌道膜容量部と一体に形成することも有利である。
【0017】
本発明によるアノードは、アノード体がモノリシックに形成されるように改良することができる。モノリシック形成とは、唯一の材料片からの製造を意味する。この場合、特に冷却路に関して特にコンパクトな特に密な製造が達成可能となる。さらに、アノード体に対する個々の部材の付加的接続工程を実施する必要がなくなる。これはまた、焦点軌道膜容量部がアノード体の1つのモノリシック構成要素であることを意味する。この場合、モノリシック形態にも拘わらずアノード体の残りの部分と比べて焦点軌道膜容量部の材料の種々の形態が可能である。
【0018】
多分割アノード体では、特に焦点軌道膜容量部を有し冷却路を含む部分がモノリシック部材である。個々の製造工程に関するおよび切削加工を行う場合の製造費用が極めて僅かとなるほかに、このようにして接合応力が特に僅かな接合体を作ることができる。さらにモノリシック形成により、その他の必要個別部材間の接続状態に関する品質監視を省略することができる。
【0019】
また本発明のアノードにおいて、焦点軌道膜容量部および焦点軌道膜を同じ材料から作ることも有利である。焦点軌道膜と焦点軌道膜容量部とを同じ材料とすることは、両材料の熱膨張係数に関して差がないまたは殆どないという利点をもたらす。互いに材料結合的接続状態にあって相接している両部材は、したがって熱膨張に関して差がなくなる。それゆえ、両部材間に生じ得る接合応力は僅かに可能性のある温度差により生じ得るが、この温度差は異なる材料における異なる熱膨張係数の場合よりも明らかに小さい。さらに温度は、異なる部材間を越えてほぼ連続的に分布される。個々の部材間の温度の屈曲およびそれにともなう膨張の劇的変化はこのようにして避けられる。このような実施形態は、特に有利な状態、特に理想的な状態をもたらすことができる。
【0020】
別の利点は、本発明によるアノードにおいてアノード体がほぼ唯一の材料、すなわち焦点軌道膜容量部の材料から成るときに得られる。換言すれば、ここではアノード体のモノリシック形態ばかりでなく、この実施形態におけるアノード体の材料統一的実施形態も求められる。これは製造をさらに簡単化する。なぜなら、アノード体全体を唯一の材料片から作ることができるからである。組み立てまたはフライスおよび/または穿孔による切削加工により本発明のアノード、特にアノード体は作られる。製造のほかに使用する点においても利点が得られる。たとえばアノード体は同じ材料で作られているので、アノード体の材料における接合応力が生じない。特にここで指摘すべきことは、唯一の材料からの形成にも拘わらず多分割も可能であることである。唯一の材料においても可能であるモノリシック的実施形態に対して、唯一の材料からアノード体に対し多数の個別部材を作り、これらを続いて互いに特に材料結合的に接続することもできる。この場合、個々の部材の材料結合的接続は、たとえば個々の部材の溶接またはろう付けにより行われる。特に、たとえば接続栓や接続ブッシュなどのほかの接続部品はモノリシックには形成せずに、アノード体の一部とすると有利である。これらは、焦点軌道膜容量部と同じ材料から形成することもできる。
【0021】
本発明によるアノードにおいて、焦点軌道膜およびアノード体はモノリシックに形成すると同様に有利である。たとえば、焦点軌道膜およびアノード体の全材料がタングステンから形成されるか、もしくは基本マトリックスとしてタングステン基合金を有するようにする。このような実施形態により、焦点軌道膜およびアノード体はモノリシック形態により所望の材料結合を作り、さらにそれら全てに対して同一の材料が使用される。これにより、製造がさらに簡単になるほかに個々の部材間、すなわち焦点軌道膜容量部、アノード体および焦点軌道膜間に生じる接合応力に関して理想的な状態が生じる。
【0022】
別の利点は、本発明によるアノードにおいてアノード体が少なくとも二分割され、個々の部分が焦点軌道膜の主延在方向に沿って延び、互いに材料結合的に接続されるときに得られる。この実施形態では、特にコスト的に有利な湾曲アノードが製造でき、すなわちその線形主延在方向に沿って湾曲線が方向づけられたアノードが製造できる。たとえば2つの半殻を作り、それぞれの対向接触面に冷却路を作るためフライス削りを行うようにすることができる。個々のアノード体部分を互いに接続するために、個々の部材を互いに位置調整することも可能である。接続は、たとえばろう付けまたは溶接工程などの材料結合的方法で行うと有利である。
【0023】
同様に有利なのは、本発明によるアノードにおいて冷却路をアノード体の少なくとも2部分により形成することである。このようにすれば、冷却路のより自由な形状が可能である。特に、アノード体内における冷却路の正確な位置や冷却路の経過や横断面の種々の形状が、この実施形態により冷却路の製造時のフライス工程の適当な制御により可能となる。
【0024】
別の利点は、本発明によるアノードにおいて冷却路が真空密でアノード体に形成されるときに得られる。このような実施形態では、冷却路はいわば直接形成される。たとえば、別個にホースや管を設けてさらに密閉する必要がない。真空密部分の製造のための後からの加工は、それゆえ不要である。この場合本発明の枠内においてドイツ規格(DIN)EN13185による測定法でグループAの測定法により1x10-8mbar/s以下のヘリウム漏れ率を示す冷却路が「真空密」で形成される。このようにして冷却路は、冷却流体を案内するためにコスト的に有利に直接形成することができる。勿論付加的に、たとえば接続ブッシュを設けて、冷却材を所望通りに冷却路に導入したり、この冷却路から再び排出したりする別の接続可能性もある。
【0025】
同様に有利なのは、本発明によるアノードにおいてアノード体を少なくとも焦点軌道膜容量部の範囲において鋭角な側面を有するようにし、この上に焦点軌道膜を少なくとも部分的に配置することである。この場合、側面を鋭角にすることは、X線装置におけるより良好な配置を可能にする。特に、このようにしてX線装置における取付けは、側面の鋭角形成により焦点軌道膜の位置調整が行われるので自由に選択することができる。この場合、鋭角の位置調整は、X線装置にアノードを配置する際にX線が所望の方向に最大の強度で出射するので有利である。特に、これは焦点軌道膜から7から15°の範囲である。
【0026】
本発明によるアノードにおいて焦点軌道膜容量部が以下の材料、
・タングステン
・モリブデン
・タングステン50重量%以上のタングステン基合金
・モリブデン50重量%以上のモリブデン基合金
・タングステン50重量%以上のタングステン基複合体
・モリブデン50重量%以上のモリブデン基複合体
の1つから成るとさらに有利である。
【0027】
タングステン基またはモリブデン基から形成される複合体とは特にほかの金属を有する複合体を言う。この場合ほかの金属はたとえば銅のような高い熱伝導率を示す金属である。換言すればタングステン基本マトリックスもしくはモリブデン基本マトリックスもしくは高融点の別種の金属における孔が別の金属で充填されるための基本マトリックスとして利用される。換言すればこのようにして焦点軌道膜から冷却路への改良された熱搬出を可能にする熱案内路が形成できる。同時に高融点金属から成る基本マトリックスは、曲がりが少ないこと、および焦点軌道膜容量部と焦点軌道膜との間の材料結合的接続の破損リスクの減少により、本発明の冒頭部分で既に述べたような利点を有する。複合体の孔径はこの場合2から100μm、特に2から50μmの間であると有利である。このような孔径により、十分な熱搬出が適当に挿入された金属により可能であり、同時に融点並びに熱膨張係数に関する必要な熱低抗が得られる。
【0028】
別の利点は、本発明によるアノードにおいて焦点軌道膜と焦点軌道膜容量部との間に材料結合的接続を作るために最大で1つの中間層を配置するときに得られる。この中間層は、材料結合的に焦点軌道膜にも材料結合的に焦点軌道膜容量部にも接続される。材料結合的に接続された中間層はたとえばろうである。ろうはろう付けにより、焦点軌道膜並びに焦点軌道膜容量部との材料結合を形成することができる。
【0029】
最大で1つの中間層により、この種の中間層により生じるおそれのある熱絶縁が減少される。材料結合的接続用にこのような中間層を配置するにも拘らず、電子照射により生じた熱を焦点軌道膜からできるだけ迅速かつ有効に搬出する可能性が保証される。さらに唯一の中間層を設置することだけが必要なので、本発明によるアノードの複雑性が減ぜられる。高融点金属は、少なくとも焦点軌道膜容量部の基本マトリックスとして使用されるので、回転アノードにおいて高い出費を伴った多数の中間層にわたる温度の段階的調整がもはや不要になる。ここでは、複雑性が少ないほかに容量や重量も、特に製造時の消費時間を節約することができる。
【0030】
本発明によるアノードにおいて、冷却路の少なくとも1つの壁部分を焦点軌道膜と平行またはほぼ平行にすると同様に有利である。このことは、冷却路の壁部分が少なくとも部分的にアノードの主延在方向に沿って延びることを意味する。これにより、少なくとも冷却路のこの壁部分と焦点軌道膜部分の距離が焦点軌道膜の幅および長さにわたって一定に保たれることになる。したがって、焦点軌道膜からの熱のほぼ一定の搬出が焦点軌道膜の全経過にわたって可能となることが保証される。これは個々の熱アイランドの発生を回避し、焦点軌道膜がその全経過にわって一定のほぼ連続的なエージングを受けることを可能にすることが保証される。
【0031】
この場合注意すべきことは、冷却路が種々の実施形態を有し得ることである。特に、その自由な流れ横断面に関して冷却流体の流れ特性に冷却路を適合させることができる。この場合、冷却路として円、半円、矩形、さらには正方形またはほかの開口断面が考えられる。この場合、冷却路の内部における必要な流れ特性のほかに、それに応じて使用すべき製法も考慮に入れると有利である。
【0032】
冷却路を完全に平行に形成する代わりに、冷却路を焦点軌道膜の長さに沿って段々と距離が小さくなるようにすることも可能である。冷却路の経過につれて、冷却流体は冷却路の内部において熱を吸収するので、熱差は焦点軌道膜への冷却路の経過において減少するであろう。それにもかかわらず、焦点軌道膜に対してほぼ一定の冷却もしくはほぼ一定の温度を獲得するためには、冷却路と焦点軌道膜との間の距離を変化させて熱搬出を著しく異ならせることにより、焦点軌道膜のほぼ一定の温度が獲得できる。
【0033】
別の利点は、本発明の枠内においてアノードの冷却路が冷却流体を直接導入するように形成されるときに得られる。冷却流体は、この場合液体であると有利である。すなわち冷却路は相応して密に、特に液密に形成されるので、付加的な密閉はもはや不要になる。特に、このようにして内在のチューブまたは内在の管は邪魔になる。複雑性の減少は、製造時および材料選択時に費用的な利点をもたらす。さらに、いつもは付加的に必要な密封のための付加的に必要な材料間に起こり得る結合応力の発生も避けられる。すなわち、冷却路の壁は既にアノード体の一構成要素もしくは焦点軌道膜容量部の一構成要素である。
【0034】
同様に本発明によるアノードにおいて、焦点軌道膜がその幅の2倍以上の長さを有するようにすると有利である。特に、この場合20から1500mmの長さとすると有利である。特に、焦点軌道膜が1メートル以上の大きな長さを有すると、製造経費にも拘わらず本発明による特に大きなアノードが製造可能となるので有利である。
【0035】
このようにして、本発明によるアノードは、既に僅かな数でX線監視もしくはX線画像の製作のための特に大面積な領域を可能にすることができる。三次元画像形成法において、360°のX線画像を製作する必要のあるコンピュータトモグラフにおいては、たとえばこのような本発明による4個のアノードをそれぞれ90°の湾曲をもって、このようなコンピュータトモグラフの全周をカバーすれば十分である。個々のアノード間の突き合わせ部分の必要な交差もしくは重畳は、したがって最小になるので、より高い解像度が同時にアノードの有利な製造コストとともに達成可能となる。本発明による焦点軌道膜の幅は、たとえば10から20mmの間である。焦点軌道膜の長さに関するファクタは、焦点軌道膜の幅の2倍以上、特に5倍以上、さらには10倍以上にすると有利である。本発明の主要な利点は特に、焦点軌道膜の長さを焦点軌道膜の幅の100倍または150倍にするときに得られる。
【0036】
本発明の別の対象は以下のステップ、すなわち
・アノード体に冷却路を形成するステップと、
・アノード体の焦点軌道膜容量部の側面に高融点金属から成る少なくとも1つの基本マトリックスを有する材料から成り冷却路まで達する焦点軌道膜を設置するステップと、
・焦点軌道膜容量部に少なくとも焦点軌道膜を材料結合的に接続するステップと、
を有するX線装置用の線形主延在方向を備えたアノードの製造方法である。
【0037】
上述の方法は、特に本発明によるアノードを製造するために適用される。材料結合的接続に続いてまたは本発明による冷却路の形成に先だって曲げを作ることができるので、本発明による方法によっても、線形主延在を備えたアノードが得られ、その際主延在方向は直線に沿ってまたは線的な湾曲経過に沿って延在する。ほかの接続部材は、続いてたとえば材料結合法により、または少なくとも焦点軌道膜の材料結合的接続中に一緒に施すことができる。このような接続部材は、たとえば冷却流体用の接続ブッシュまたはアノード体の開口部の閉鎖栓である。本発明による方法は、本発明によるアノードを製造するためのものであるので、本発明方法によっても本発明によるアノードに関連して詳述したような利点が達成される。
【0038】
本発明を添付の図面に基づき詳述する。この場合に使用される用語「左」「右」「上」「下」は普通に読まれる符号とともに図面における方向に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は本発明によるアノードの第1の実施形態の概略縦断面図を示す。
図2a図2aは本発明によるアノードの一実施形態の概略横断面図を示すを示す。
図2b図2bは本発明によるアノードの別の実施形態の概略横断面図を示す。
図2c図2cは本発明によるアノードの別の実施形態の概略横断面図を示す。
図3図3は本発明によるアノードの別の実施形態の概略縦断面図を示す。
図4a図4aは第1の製造工程中の本発明によるアノードを示す。
図4b図4bは第2の製造工程中の図4aに示す本発明によるアノードを示す。
図4c図4cは第3の製造工程中の図4aに示す本発明によるアノードを示す。
図4d図4dは第4の製造工程中の図4aに示す本発明によるアノードを示す。
図5a図5aは第1の製造工程における本発明によるアノードの別の実施形態を示す。
図5b図5bは第2の製造工程における図5aによるアノードの実施形態を示す。
図5c図5cは第3の製造工程における図5aによるアノードの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明によるアノード10の第1の実施形態の概略縦断面図を示している。この図から、この実施形態は2つの部分20a、20bを備えたアノード体20を対象としていることが明らかである。この場合、アノード体20の第1の部分20aは焦点軌道膜容量部22を有する。この焦点軌道膜容量部22には、焦点軌道膜30が材料結合的に接続されている。焦点軌道膜30と焦点軌道膜容量部22との間には、唯一の中間層50が設けられる。この唯一の中間層50はろう層として形成され、焦点軌道膜30並びに焦点軌道膜容量部22に材料結合的に接続されている。
【0041】
さらに図1から明らかなように、中間層50並びに焦点軌道膜30はアノード体20、特にアノード体20の第1の部分20aの中に沈み込むように収容されている。焦点軌道膜30は、極めて高い電圧下にあるので、沈み込むような配置により焦点軌道膜30の稜における電圧閃絡、すなわちアークの発生が妨げられる。
【0042】
図1の実施形態では、冷却路40がアノード体20の両部分20a、20bの間に形成される。この形成については、図2a、2b、2cを参照して後に詳述する。さらに、冷却路40は外部にある冷却材供給部に対する接続端子60を備えている。この端子60には、たとえば材料結合的接続法により、アノード体20の部分20a,20bの少なくとも一方または両方に接続されたブッシュが使用される。この材料結合的接続は、特にろう付け法によっても同様に達成される。勿論端子60は別の形で別の方向に突出させることもでき、たとえば下側から冷却路40に通じるようにすることもできる。この場合、特に用途に応じた位置調整が行われるので、端子60は本発明によるアノード10を使用する際の所要面積を考慮した上で設置される。
【0043】
図2aから2cは、アノード体20が冷却路40を形成するためにどのように重ね合わされるかの3つの異なる例を示す。これらの例はすべて、図1の実施形態におけるように、焦点軌道膜30が唯一の中間層50を介して材料結合的に焦点軌道膜容量部22に接続されている点で共通している。アノード体20は、これらの3つのすべての例において多分割、特に第1の部分20aと第2の部分20bに二分割されている。
【0044】
図2aでは、冷却路はアノード体20の両部分20a、20bにより形成されている。この実施形態では、冷却路40は丸い流れ横断面を有するので、アノード体20の各部分20a、20bにはそれぞれ半円の自由横断面が形成される。この実施形態では、第1の部分20aは、好適には焦点軌道膜容量部の材料、すなわち特にタングステンまたはモリブデン基合金から完全に製造される。冷却路の下側にあるアノード体20の第2の部分20bは費用的に有利な材料、たとえば特殊鋼または銅から製造することもできる。
【0045】
図2bにも、アノード体20の二分割された実施形態が示されている。しかし、ここでは冷却路40は、アノード体20の下側部分20bにのみ形成されている。これは、冷却路40の切削加工もしくはほかの形成法をアノード体20の両部分20a、20bの一方のみに施せばよいという利点を有する。これは、このような本発明によるアノード10に対する製造上の奥行きを減少する。冷却路40を覆うために、第1の部分20aが第2の部分20bの上に載置される。図2aの実施形態と同様に、アノード体20の両部分20a、20bは互いに材料結合、たとえばろう付けにより接続されている。このようにして、冷却路40はほぼ完全に真空密にされるので、冷却路は特に直接、すなわち壁としての付加的な管をことさら挿入しなくても冷却流体の供給用に用いることができる。
【0046】
図2cは、冷却路40が、半円状の横断面を有する本発明によるアノード10の実施形態を示す。この実施形態では、焦点軌道膜容量部22はアノード体20の第1の部分20aとほぼ等しい。ここでも、両部分20a、20bは互いに材料結合的に接続されているので、冷却路40の真空密な閉鎖が達成される。この実施形態では、焦点軌道膜容量部22用の少なくとも基本マトリックスとしての高融点金属が容積の拡大に関して最小限に減少される。この結果、第2の部分20bにたとえば費用的に有利な材料を使用できるので、アノード10全体の必要経費も減ぜられる。
【0047】
図3には、本発明によるアノード10の別の実施形態が示されている。この実施形態は、図1の実施形態とは、冷却路40が狭く形成されているだけでなく、さらに焦点軌道膜30に関してもこの焦点軌道膜30に接近していることにより区別される。端子60を介して、冷却路40に達する冷却流体はそれゆえ冷却すべき焦点軌道膜30との距離を冷却路40の経過にしたがって最小にする。すなわち、冷却路40の初めでは熱搬出は比較的良くないが最後には改良された熱搬出が生じることになる。冷却流体は、冷却路40を経過するにつれて加温されるので、このような形態により焦点軌道膜30の一定のまたはほぼ一定の温度が達成可能である。
【0048】
図4aから4d並びに図5aから5cは、本発明によるアノードの2つの製造例を示す。両例において、焦点軌道膜30並びに中間層50はそれぞれアノード体20の側面に設けられる。図を見やすくするため、ここでは中間層50も焦点軌道膜30もくぼみにあることは示されておらず、したがって不所望なアークの発生を回避するための実際の製造時における焦点軌道膜30および中間層50の稜は図示していない。
【0049】
図4aから4dは、ほぼモノリシックな実施形態を有するアノード体20の製造例を示す。アノード体20は、ほぼ延べ棒状の高融点金属からなる。第1工程では相応する側面が切削加工され、少なくとも部分的に焦点軌道膜容量部22を形成する側面がフライスにより鋭角にされる。図4bに示す次の工程で、たとえば穿孔法を利用した切削加工により冷却路40が作られる。続いて中間層50がろうの形で、焦点軌道膜30が焦点軌道膜容量部22の上に載置され、たとえばろう付け法などの材料結合的接続法により本発明による材料結合的接続が作られる。使用状況に応じて、続いて付加的に曲げを施すこともできる。その結果、アノード体20の湾曲側面が生じるので、焦点軌道膜30および中間層50も湾曲形状を取る。したがって、たとえばコンピュータトモグラフまたは小荷物検査用スキャン管などにおいて、本発明によるアノード10を用いたX線装置の全範囲撮影が可能となる。
【0050】
図5aから5cは、アノード10を製作するためのアノード体20の多分割実施形態が使用される例を示す。ここではアノード体20の各部分20a、20bが予め別個に作られるので、たとえば切削加工としてのフライスにより冷却体40がアノード体20の個々の部分20a、20bに形成される。続いて個々の部分が重ね合わされ、材料結合的接続によりアノード体20の部分20a、20bが作られる。この例ではさらに、冷却路40に内管を挿入することも特に簡単に可能である。なぜなら、内管は両部分20a、20bを互いに接続する前に挿入すれば良いからである。図5cは最終工程を示し、ここでは図4cと同様に焦点軌道膜30および中間層50が載置され、材料結合的接続に供される。
【0051】
個々の実施形態に関する上述の記述は、本発明を例示的に説明したものである。勿論個々の実施形態の特徴は、技術的に意味がある限り、本発明の枠を越えないかぎり自由に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 アノード
20 アノード体
20a アノード体の第1部分
20b アノード体の第2部分
22 焦点軌道膜容量部
30 焦点軌道膜
40 冷却路
50 中間層
60 端子
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図5c