特許第6411234号(P6411234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000002
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000003
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000004
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000005
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000006
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000007
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000008
  • 特許6411234-歯科用インプラント抜去器具 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411234
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】歯科用インプラント抜去器具
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-15836(P2015-15836)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-140363(P2016-140363A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(72)【発明者】
【氏名】玉置 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 琴未
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−524759(JP,A)
【文献】 特開2010−274103(JP,A)
【文献】 特開2008−061672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントの雌ネジ部に螺合可能な雄ネジ部を先端部に有する第1ピンと、
前記歯科用インプラントの被嵌合部に嵌合可能な嵌合部を先端部に有する第2ピンと、
前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを挿通可能な挿通孔を有する角度補正部材と、
上面、下面、前記上面に位置しており前記角度補正部材の外径よりも大きな内径を有する凹状の載置部、前記載置部の底部から前記下面まで貫通しており前記角度補正部材の前記外径よりも小さな内径を有しているとともに前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを挿通可能な貫通孔、および前記下面から延びている係止部を有するステントと、
前記角度補正部材を前記載置部に固定する固定手段と、を備え、
前記雌ネジ部および前記被嵌合部のそれぞれの中心軸が、前記歯科用インプラントの中心軸上に位置しており、
前記第1ピンおよび前記第2ピンをそれぞれ前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通したとき、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれの回転軸が、前記歯科用インプラントの前記中心軸と同一直線上に位置する角度で、前記角度補正部材を前記固定手段によって前記載置部に固定する、歯科用インプラント抜去器具。
【請求項2】
前記角度補正部材の前記角度を、前記歯科用インプラントの前記雌ネジ部に前記雄ネジ部を螺合している前記第1ピンを前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通することによって調整する、請求項1に記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項3】
前記第1ピンおよび前記第2ピンをそれぞれ前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通したとき、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれと、前記角度補正部材の前記挿通孔との間の間隔が、0.05mm以下である、請求項1または2に記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項4】
前記歯科用インプラントは、フィクスチャー、アバットメントスクリュー、カバーキャップおよびヒーリングキャップから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項5】
前記歯科用インプラントは、フィクスチャーである、請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項6】
前記第1ピンは、前記第2ピンよりも低強度である、請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項7】
前記第1ピンは、前記雄ネジ部よりも後端部側に位置している円柱状の第1本体部をさらに有し、前記第2ピンは、前記嵌合部よりも後端部側に位置している円柱状の第2本体部をさらに有する、請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項8】
前記第1ピンの外径と前記第2ピンの外径とが、同一である、請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項9】
前記角度補正部材の高さが、2mm以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項10】
前記係止部は、前記貫通孔を挟んで互いに対向するように位置している第1係止部および第2係止部を有し、前記第1係止部および前記第2係止部はいずれも、前記下面の縁部近傍から下方に向かって延びている、請求項1〜9のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項11】
前記固定手段は、歯科用レジンである、請求項1〜10のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【請求項12】
前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを回転させるドライバーをさらに備える、請求項1〜11のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラント抜去器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯科用インプラントとしてのフィクスチャーを上下顎骨の歯槽骨に埋入することによって、咬合機能、発声機能および審美性などを回復させる歯科インプラント埋植手術が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、埋入したフィクスチャーを感染症などの理由で歯槽骨から抜去することがある。フィクスチャーの抜去は、通常、アバットメントが嵌合するフィクスチャーの被嵌合部にピンの先端部を嵌合し、ピンを回転させることによって行う。
【0004】
しかし、ピンを回転させてフィクスチャーを抜去するとき、無理にピンを回転させてフィクスチャーの被嵌合部を変形または破損させたり、フィクスチャーの周囲組織に外力を加えて損傷させることがあった。それゆえ、フィクスチャーなどの歯科用インプラントをスムーズに抜去できる器具が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−188062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、歯科用インプラントをスムーズに抜去できる歯科用インプラント抜去器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)歯科用インプラントの雌ネジ部に螺合可能な雄ネジ部を先端部に有する第1ピンと、前記歯科用インプラントの被嵌合部に嵌合可能な嵌合部を先端部に有する第2ピンと、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを挿通可能な挿通孔を有する角度補正部材と、上面、下面、前記上面に位置しており前記角度補正部材の外径よりも大きな内径を有する凹状の載置部、前記載置部の底部から前記下面まで貫通しており前記角度補正部材の前記外径よりも小さな内径を有しているとともに前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを挿通可能な貫通孔、および前記下面から延びている係止部を有するステントと、前記角度補正部材を前記載置部に固定する固定手段と、を備え、前記雌ネジ部および前記被嵌合部のそれぞれの中心軸が、前記歯科用インプラントの中心軸上に位置しており、前記第1ピンおよび前記第2ピンをそれぞれ前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通したとき、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれの回転軸が、前記歯科用インプラントの前記中心軸と同一直線上に位置する角度で、前記角度補正部材を前記固定手段によって前記載置部に固定する、歯科用インプラント抜去器具。
(2)前記角度補正部材の前記角度を、前記歯科用インプラントの前記雌ネジ部に前記雄ネジ部を螺合している前記第1ピンを前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通することによって調整する、前記(1)に記載の歯科用インプラント抜去器具。
(3)前記第1ピンおよび前記第2ピンをそれぞれ前記角度補正部材の前記挿通孔に挿通したとき、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれと、前記角度補正部材の前記挿通孔との間の間隔が、0.05mm以下である、前記(1)または(2)に記載の歯科用インプラント抜去器具。
(4)前記歯科用インプラントは、フィクスチャー、アバットメントスクリュー、カバーキャップおよびヒーリングキャップから選ばれる少なくとも1つである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(5)前記歯科用インプラントは、フィクスチャーである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(6)前記第1ピンは、前記第2ピンよりも低強度である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(7)前記第1ピンは、前記雄ネジ部よりも後端部側に位置している円柱状の第1本体部をさらに有し、前記第2ピンは、前記嵌合部よりも後端部側に位置している円柱状の第2本体部をさらに有する、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(8)前記第1ピンの外径と前記第2ピンの外径とが、同一である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(9)前記角度補正部材の高さが、2mm以上である、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(10)前記係止部は、前記貫通孔を挟んで互いに対向するように位置している第1係止部および第2係止部を有し、前記第1係止部および前記第2係止部はいずれも、前記下面の縁部近傍から下方に向かって延びている、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(11)前記固定手段は、歯科用レジンである、前記(1)〜(10)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
(12)前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれを回転させるドライバーをさらに備える、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の歯科用インプラント抜去器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯科用インプラントをスムーズに抜去できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る歯科用インプラント抜去器具を示す概略説明図である。
図2図1に示す歯科用インプラント抜去器具が備える第1ピンおよび第2ピンをそれぞれフィクスチャーに取り付けた状態を示す図であり、(a)は第1ピンをフィクスチャーに取り付けた状態を示す概略説明図、(b)は第2ピンをフィクスチャーに取り付けた状態を示す概略説明図である。
図3図1に示す歯科用インプラント抜去器具が備える角度補正部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
図4図1に示す歯科用インプラント抜去器具が備える第1ピン、第2ピン、角度補正部材およびステントを示す概略説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係るフィクスチャーを示す図であり、(a)は側面図、(b)は一部破断面図、(c)は(b)のB矢視拡大平面図である。
図6】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る歯科用インプラント抜去方法を示す概略説明図である。
図7】(d)〜(f)は、本発明の一実施形態に係る歯科用インプラント抜去方法を示す概略説明図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る歯科用インプラント抜去器具を示す概略説明図であり、図6(c)に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<歯科用インプラント抜去器具>
以下、本発明の一実施形態に係る歯科用インプラント抜去器具について、歯科用インプラントがフィクスチャーである場合を例にとって、図1図5を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10は、フィクスチャー100を歯槽骨110から抜去する器具である。本実施形態のフィクスチャー100は、図5に示すように、その後端部100bに位置している凹部101を有する。凹部101は、フィクスチャー100の先端部100a側から順に雌ネジ部102および被嵌合部103を有する。
【0012】
雌ネジ部102は、いわゆるネジ孔であり、アバットメントスクリューが螺合する部位である。アバットメントスクリューとは、フィクスチャー100にアバットメントを固定する部材である。アバットメントとは、フィクスチャー100に人工歯を連結する部材である。
【0013】
雌ネジ部102は、その中心軸O102がフィクスチャー100の中心軸O上に位置している。このような構成によれば、図2(a)に示すように、雌ネジ部102に後述する第1ピン1の雄ネジ部11を螺合したとき、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上になる。
【0014】
なお、フィクスチャー100の中心軸Oとは、図5に示すように、フィクスチャー100の先端部100aおよび後端部100bを貫く軸であり、フィクスチャー100を回転させたときに回転軸となる軸を意味するものとする。雌ネジ部102の中心軸O102とは、フィクスチャー100の中心軸Oに沿う方向における雌ネジ部102の両端部を貫く軸であり、雌ネジ部102を回転させたときに回転軸となる軸を意味するものとする。
【0015】
一方、被嵌合部103は、上述したアバットメントが嵌合し、アバットメントがフィクスチャー100に対して回旋するのを防止する略筒状の部位である。被嵌合部103の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、六角筒状、八角筒状などの多角筒状であってもよいし、いわゆるヘックスローブ状などであってもよい。本実施形態の被嵌合部103の形状は、六角筒状である。
【0016】
被嵌合部103は、上述した雌ネジ部102と同様に、その中心軸O103がフィクスチャー100の中心軸O上に位置している。このような構成によれば、図2(b)に示すように、被嵌合部103に後述する第2ピン2の嵌合部21を嵌合したとき、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上になる。なお、被嵌合部103の中心軸O103とは、フィクスチャー100の中心軸Oに沿う方向における被嵌合部103の両端部を貫く軸であり、被嵌合部103を回転させたときに回転軸となる軸を意味するものとする。
【0017】
図1に示すように、フィクスチャー100は、その外周部にネジ部104を有しており、歯科インプラント埋植手術において歯槽骨110にセルフタップで螺入しつつ埋入される。本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10は、このようなフィクスチャー100を歯槽骨110から抜去するものであって、第1ピン1と、第2ピン2と、角度補正部材3と、ステント4と、固定手段5を備えている。以下、本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10の各構成部材について、順に説明する。
【0018】
(第1ピン)
第1ピン1は、フィクスチャー100の軸出しを行う部材であり、後述するステント4の載置部43において角度補正部材3の角度を特定の角度に調整するときに使用する部材である。本実施形態の第1ピン1は、いわゆるスクリューピンであり、その先端部1aに雄ネジ部11を有する。雄ネジ部11は、図2(a)に示すように、上述したフィクスチャー100の雌ネジ部102に螺合可能に構成されている。
【0019】
また、本実施形態の第1ピン1は、図1に示すように、雄ネジ部11よりも第1ピン1の後端部1b側に位置している円柱状の第1本体部12をさらに有する。本実施形態では、第1本体部12が雄ネジ部11に連続している。なお、第1本体部12と雄ネジ部11との間には、第1ピン1を構成する他の部位が存在していてもよい。
【0020】
第1ピン1の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、チタン合金、コバルト−クロム合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第1ピン1は、下記で説明する第2ピン2よりも強度が要求されないことから、第2ピン2よりも低強度の材料で構成することができる。このような構成によれば、第1ピン1を比較的安価な材料で構成できることから、コストを削減することができる。また、第1ピン1の表面には、例えば、陽極酸化処理、レーザによる酸化被膜形成などの金属表面へのコーティング処理を行ってもよい。特に、第1ピン1の表面が第2ピン2の表面と異なる色になるようにコーティング処理を行えば、第1ピン1および第2ピン2を明確に区別できるようになり、両者の誤認を抑制することができる。
【0021】
(第2ピン)
第2ピン2は、その回転力をフィクスチャー100に加えることによって、フィクスチャー100を歯槽骨110から抜去するときに使用する部材である。図1に示すように、本実施形態の第2ピン2は、その先端部2aに嵌合部21を有する。嵌合部21は、図2(b)に示すように、上述したフィクスチャー100の被嵌合部103に嵌合可能に構成されている。本実施形態では、上述のとおり、フィクスチャー100の被嵌合部103の形状が六角筒状であることから、第2ピン2の嵌合部21の形状は六角柱状である。
【0022】
また、本実施形態の第2ピン2は、図1に示すように、嵌合部21よりも第2ピン2の後端部2b側に位置している円柱状の第2本体部22をさらに有する。本実施形態では、第2本体部22が嵌合部21に連続している。なお、第2本体部22と嵌合部21との間には、第2ピン2を構成する他の部位が存在していてもよい。
【0023】
第2ピン2の構成材料としては、例えば、SUS、チタン合金、コバルト−クロム合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例示した構成材料のうちコバルト−クロム合金を採用すると、第2ピン2の強度が向上することから、フィクスチャー100を抜去するときに第2ピン2が変形または破損するのを抑制することができる。また、第2ピン2の表面には、第1ピン1と同様に、例えば、陽極酸化処理、レーザによる酸化被膜形成などの金属表面へのコーティング処理を行ってもよい。
【0024】
(角度補正部材)
図3に示すように、角度補正部材3は、挿通孔33を有する略板状の部材である。また、角度補正部材3は、後述する図6(b)に示すように、フィクスチャー100の雌ネジ部102に雄ネジ部11を螺合している第1ピン1を挿通孔33に挿通することによって、その角度が調整されて、後述する図7(e)に示すように、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置するように、第2ピン2の角度を補正する部材として機能する。
【0025】
図3(b)に示すように、角度補正部材3の高さHは、2mm以上であるのが好ましい。このような構成によれば、第2ピン2の角度を正確に補正することができる。なお、角度補正部材3の高さHの上限値としては、5mm以下であるのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
挿通孔33は、角度補正部材3を高さH方向に貫通しており、第1ピン1および第2ピン2のそれぞれを挿通可能に構成されている。本実施形態の挿通孔33は、角度補正部材3の上面31および下面32のそれぞれの中央部に位置している。
【0027】
ここで、後述する図6(c)に示すように、挿通孔33に第1ピン1を挿通したとき、第1ピン1と挿通孔33との間の間隔が、0.05mm以下であるのが好ましい。また、後述する図7(e)に示すように、挿通孔33に第2ピン2を挿通したとき、第2ピン2と挿通孔33との間の間隔が、0.05mm以下であるのが好ましい。言い換えれば、図4に示すように、式:(挿通孔33の内径D3a)−(第1ピン1の外径D1)から算出される値が、0.05mm以下であるのが好ましい。同様に、式:(挿通孔33の内径D3a)−(第2ピン2の外径D2)から算出される値が、0.05mm以下であるのが好ましい。これらの構成によれば、第1ピン1を挿通孔33に挿通したとき、第1ピン1が挿通孔33内でがたつくのを抑制することができる。また、第2ピン2を挿通孔33に挿通したとき、第2ピン2が挿通孔33内でがたつくのを抑制することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、挿通孔33の設計を容易にする観点から、第1ピン1の外径D1と第2ピン2の外径D2とが、同一である。第1ピン1の外径D1と第2ピン2の外径D2とが同一であるとは、外径D1、D2が実質的に同一であればよい。第1ピン1の外径D1とは、回転軸S1に垂直な方向における第1ピン1の最大寸法のことを意味するものとする。第2ピン2の外径D2についても、第1ピン1の外径D1と同様に規定される。本実施形態では、第1ピン1は第1本体部12に最大寸法を有し、第2ピン2は第2本体部22に最大寸法を有する。なお、第1ピン1は、雄ネジ部11に最大寸法を有していてもよいし、雄ネジ部11および第1本体部12の両者に最大寸法を有していてもよい。同様に、第2ピン2は、嵌合部21に最大寸法を有していてもよいし、嵌合部21および第2本体部22の両者に最大寸法を有していてもよい。また、必要に応じて、第1ピン1の外径D1と第2ピン2の外径D2とが異なるようにしてもよい。
【0029】
挿通孔33に第1ピン1を挿通したときの第1ピン1と挿通孔33との間の間隔の下限値としては、0.005mm以上であるのが好ましい。同様に、挿通孔33に第2ピン2を挿通したときの第2ピン2と挿通孔33との間の間隔の下限値としては、0.005mm以上であるのが好ましい。これらの構成によれば、第1ピン1が、その回転軸S1を基準として挿通孔33内でスムーズに回転することができる。また、第2ピン2も、その回転軸S2を基準として挿通孔33内でスムーズに回転することができる。
【0030】
なお、本実施形態の角度補正部材3は、図3(a)に示すように、平面視したときの形状が略円環状であるが、これに限定されるものではない。平面視したときの角度補正部材3の形状は、その効果を奏する限り、例えば略四角形環状などの他の形状を採用することができる。
【0031】
角度補正部材3の構成材料としては、例えば、SUS、チタン合金、コバルト−クロム合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
(ステント)
図1に示すように、ステント4は、フィクスチャー100に隣接している患者の歯、すなわち患者の隣在歯111に取り付けられる略板状の部材である。ステント4は、上面41、下面42、載置部43、貫通孔44および係止部45を有する。
【0033】
図4に示すように、載置部43は、上面41に位置しており、角度補正部材3の外径D3bよりも大きな内径D43を有する凹状の部位である。また、貫通孔44は、載置部43の底部431から下面42まで貫通しており、角度補正部材3の外径D3bよりも小さな内径D44を有する。これらの構成によれば、角度補正部材3の外径D3b、載置部43の内径D43、および貫通孔44の内径D44が、D43>D3b>D44の関係を有することから、載置部43に角度補正部材3を載置することが可能となる。なお、角度補正部材3の外径D3bとは、角度補正部材3を平面視したときの角度補正部材3の最大寸法のことを意味するものとする。
【0034】
貫通孔44は、第1ピン1および第2ピン2のそれぞれを挿通可能に構成されている。このような構成によれば、第1ピン1および第2ピン2をそれぞれ貫通孔44に挿通し、その先端部1a、2aを下面42から露出させることができる。
【0035】
貫通孔44の内径D44は、第1ピン1の外径D1の1.5〜5.0倍であるのが好ましい。このような構成によれば、貫通孔44の内径D44が第1ピン1の外径D1よりも適度に大きくなって、貫通孔44の直上ないし斜め方向から第1ピン1を貫通孔44に挿通することが可能となる。それゆえ、後述する図6(a)に示すように、貫通孔44に第1ピン1を挿通して、第1ピン1の雄ネジ部11をフィクスチャー100の雌ネジ部102に螺合するときの作業性を向上させることができる。
【0036】
図1に示すように、係止部45は下面42から延びている部位であり、隣在歯111に係止可能に構成されている。したがって、ステント4は、係止部45を隣在歯111に係止させることによって隣在歯111に取り付けられる。本実施形態の係止部45は、貫通孔44を挟んで互いに対向するように位置している第1係止部451および第2係止部452を有する。そして、第1係止部451および第2係止部452はいずれも、下面42の縁部近傍から下方に向かって延びている。
【0037】
上述した構成を有するステント4は、例えば、一般的な歯間寸法で構成してもよいし、事前に患者の口腔内の印象を取ったもので構成してもよいし、スキャンしたデータを使用してCAD−CAMまたは積層造形法などで作製してもよい。
【0038】
ステント4の構成材料としては、例えば、SUS、チタン合金、レジン(樹脂)などが挙げられ、レジンとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、テフロン(登録商標)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
(固定手段)
図1に示すように、固定手段5は、角度補正部材3を載置部43に特定の角度で固定するものである。固定手段5としては、例えば、セメント、レジンなどの歯科用レジンが挙げられる。セメントは、デュアルキュア型であってもよいし、光重合型であってもよい。レジンとしては、例えば、PMMAなどのアクリル樹脂などが挙げられる。
【0040】
ここで、上述した各構成部材を備える本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10では、図1および後述する図6(c)に示すように、第1ピン1を角度補正部材3の挿通孔33に挿通したとき、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3を固定手段5によって載置部43に固定する。また、図1および後述する図7(e)に示すように、第2ピン2を角度補正部材3の挿通孔33に挿通したとき、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3を固定手段5によって載置部43に固定する。これらの構成によれば、後述の歯科用インプラント抜去方法で詳細に説明するように、フィクスチャー100を抜去するときに発生するトルクを少なくしてフィクスチャー100の被嵌合部103が変形または破損するのを抑制することができる。また、フィクスチャー100を、その中心軸O方向に沿って抜去できることから、フィクスチャー100の周囲組織が損傷するのを抑制しつつ、フィクスチャー100をスムーズに歯槽骨110から抜去することができる。
【0041】
<歯科用インプラント抜去方法>
次に、本発明の一実施形態に係る歯科用インプラント抜去方法について、上述した歯科用インプラント抜去器具10を使用して、フィクスチャー100を歯槽骨110から抜去する場合を例にとって、図6および図7を参照して詳細に説明する。なお、図6および図7においては、上述した図1図5と同一の構成部分には同一の符号を付して説明は省略する場合がある。
【0042】
まず、図6(a)に示すように、ステント4の係止部45を隣在歯111に係止させてステント4を隣在歯111に取り付ける。次に、第1ピン1を使用して、フィクスチャー100の軸出しを行う。具体的には、第1ピン1を、ステント4の貫通孔44に挿通し、その先端部1aをステント4の下面42から露出させて、第1ピン1の雄ネジ部11をフィクスチャー100の雌ネジ部102に螺合する。これにより、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上になる。なお、第1ピン1を使用することなく第2ピン2を使用してフィクスチャー100の軸出しを行う場合には、第2ピン2の嵌合部21をフィクスチャー100の被嵌合部103に嵌合してフィクスチャー100の軸出しを行うことになるが、嵌合によって軸出しを正確に行うのは困難である。本実施形態では、第1ピン1の雄ネジ部11をフィクスチャー100の雌ネジ部102に螺合することによってフィクスチャー100の軸出しを行う構成であるため、軸出しを正確に行うことが可能となる。
【0043】
次に、図6(b)に示すように、角度補正部材3を、その挿通孔33に第1ピン1を挿通させつつステント4の載置部43に載置する。これにより、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3が載置部43に載置される。
【0044】
そして、図6(c)に示すように、この状態の角度補正部材3を固定手段5によって固定する。これにより、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3が載置部43に固定される。言い換えれば、第1ピン1を角度補正部材3の挿通孔33に挿通したとき、より具体的には、第1ピン1を角度補正部材3の挿通孔33に挿通して第1ピン1の雄ネジ部11をフィクスチャー100の雌ネジ部102に螺合したとき、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3が固定手段5によって載置部43に固定される。
【0045】
次に、雄ネジ部11と雌ネジ部102の螺合状態を解除し、図7(d)に示すように、第1ピン1をステント4の貫通孔44、角度補正部材3の挿通孔33の順に抜き出す。そして、第1ピン1に代えて第2ピン2を、角度補正部材3の挿通孔33に挿通する。このとき、第1ピン1の回転軸S1がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3が載置部43に固定されていることから、第2ピン2を角度補正部材3の挿通孔33に挿通すると、第2ピン2の回転軸S2もフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上になる。言い換えれば、第2ピン2を角度補正部材3の挿通孔33に挿通したとき、より具体的には、第2ピン2を角度補正部材3の挿通孔33に挿通して第2ピン2の嵌合部21をフィクスチャー100の被嵌合部103に嵌合したとき、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、角度補正部材3が固定手段5によって載置部43に固定されている。したがって、図7(e)に示すように、第2ピン2を角度補正部材3の挿通孔33、ステント4の貫通孔44の順に挿通し、その先端部2aをステント4の下面42から露出させて、第2ピン2の嵌合部21をフィクスチャー100の被嵌合部103に嵌合すると、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上になる。
【0046】
そして、図7(f)に示すように、第2ピン2を、その回転軸S2を基準として矢印C方向に回転させて、フィクスチャー100を歯槽骨110から抜去する。このとき、本実施形態によれば、第2ピン2の回転軸S2がフィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置していることによって、第2ピン2の回転力が確実にフィクスチャー100に加わることから、フィクスチャー100を抜去するときに発生するトルクを少なくすることができ、結果としてフィクスチャー100の被嵌合部103が変形または破損するのを抑制することができる。また、フィクスチャー100を、その中心軸O方向に沿う矢印D方向に沿って抜去できることから、フィクスチャー100の周囲組織が損傷するのを抑制しつつ、フィクスチャー100をスムーズに歯槽骨110から抜去することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、フィクスチャー100を歯槽骨110から抜去するとき、第2ピン2を反時計回りである矢印C方向に回転させるが、これに限定されるものではない。すなわち、第2ピン2の回転方向は、フィクスチャー100の締め付けを緩める方向であればよい。また、フィクスチャー100を歯科用インプラント抜去器具10によって抜去するときの順序は、フィクスチャー100を抜去できる限り、上述した順序に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0048】
以上、本発明に係る好ましい実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【0049】
例えば、上述した実施形態では、歯科用インプラントがフィクスチャー100である場合を例に挙げて説明したが、本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10は、フィクスチャー100以外の他の歯科用インプラントについても同様に使用することができる。フィクスチャー100以外の他の歯科用インプラントとしては、例えば、アバットメントスクリュー、カバーキャップ、ヒーリングキャップなどが挙げられる。
【0050】
また、上述した実施形態では、本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10を使用してフィクスチャー100を歯槽骨110から抜去する場合を例に挙げて説明したが、本実施形態の歯科用インプラント抜去器具10は、フィクスチャー100を歯槽骨110に埋入するときにも使用することができる。
【0051】
また、上述した実施形態では、ステント4の係止部45が第1係止部451および第2係止部452を有する構成について説明したが、これに代えて、図8に示す構成にすることができる。すなわち、図8に示す歯科用インプラント抜去器具10’では、ステント4’の係止部46が、下面42のうち貫通孔44の開口部近傍から下方に向かって筒状に延びている。より具体的に説明すると、本実施形態の係止部46は、貫通孔44の内周面に連続しており、円筒状に構成されている。このような構成によっても、係止部46を隣在歯111に係止させてステント4’を隣在歯111に取り付けることができる。なお、係止部46は、隣在歯111に係止可能な限り、貫通孔44の内周面に連続していなくてもよく、円筒状以外の他の筒状で構成してもよい。
その他の構成は、上述した一実施形態に係る歯科用インプラント抜去器具10と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
また、上述した実施形態において、歯科用インプラント抜去器具10がドライバーをさらに備えていてもよい。ドライバーは、第1ピン1および第2ピン2のそれぞれを回転させる部材である。ドライバーは、コントラヘッドを取り付けることができる電動式あってもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、角度補正部材3とステント4を別々の部材で構成しているが、角度補正部材3とステント4を一体に成形してもよい。このような構成によれば、歯科用インプラント抜去器具10の構成部材の数を少なくできることから、コストを削減することができる。角度補正部材3とステント4を一体に成形する場合には、第1ピン1の回転軸S1が、フィクスチャー100の中心軸Oと同一直線上に位置する角度で、第1ピン1を角度補正部材3の挿通孔33内に固定すればよい。第1ピン1の挿通孔33内の固定には、固定手段5を使用することができるが、これに限定されるものではない。固定手段5で第1ピン1を挿通孔33内に固定すると、第1ピン1を挿通孔33から抜き出したとき、固定手段5によって構成される孔が挿通孔33内に形成される。そして、この孔に第2ピン2を挿通することによって、上述した一実施形態に係る歯科用インプラント抜去器具10と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 歯科用インプラント抜去器具
1 第1ピン
1a 先端部
1b 後端部
11 雄ネジ部
12 第1本体部
S1 回転軸
D1 外径
2 第2ピン
2a 先端部
2b 後端部
21 嵌合部
22 第2本体部
S2 回転軸
D2 外径
3 角度補正部材
31 上面
32 下面
33 挿通孔
D3a 内径
D3b 外径
H 高さ
4 ステント
41 上面
42 下面
43 載置部
431 底部
D43 内径
44 貫通孔
D44 内径
45 係止部
451 第1係止部
452 第2係止部
5 固定手段
100 フィクスチャー
100a 先端部
100b 後端部
O 中心軸
101 凹部
102 雌ネジ部
O102 中心軸
103 被嵌合部
O103 中心軸
104 ネジ部
110 歯槽骨
111 隣在歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8