(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411276
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】ボンディングアームの異常検出方法及びボンディングアームの異常検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
H01L21/52 C
H01L21/52 F
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-89334(P2015-89334)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-207884(P2016-207884A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】末田 哲也
【審査官】
堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−084005(JP,A)
【文献】
特開2013−222715(JP,A)
【文献】
特開2006−005030(JP,A)
【文献】
特開2004−273910(JP,A)
【文献】
特開2004−311569(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0071956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップを押上手段にて押し上げて、ボンディングアーム先端に設けられるコレットを下降させて、このコレットにてチップを吸着してピックアップする際のボンディングアームの異常検出方法であって、
前記コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を検知して、複数の相対位置座標から、相対位置座標のばらつき量に基づいて相対位置座標の正常範囲域を設定し、
前記相対位置座標の経時変化から、正常範囲域を補正し、検知した相対位置座標が、前記正常範囲域から外れたときにボンディングアームに異常ありとすることを特徴とするボンディングアームの異常検出方法。
【請求項2】
複数の相対位置座標から近似直線を求め、この近似直線が傾きを有する場合には、傾きを有さないように正常範囲域を補正することを特徴とする請求項1に記載のボンディングアームの異常検出方法。
【請求項3】
相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボンディングアームの異常検出方法。
【請求項4】
チップを押上手段にて押し上げて、ボンディングアーム先端に設けられるコレットを下降させて、このコレットにてチップを吸着してピックアップする際のボンディングアームの異常検出装置であって、
前記コレットの先端部の位置を検知しつつ、前記ボンディングアームを駆動するアーム駆動手段と、
前記押上手段の先端部の位置を検知しつつ、前記押上手段を駆動する押上駆動手段と、
前記アーム駆動手段及び押上駆動手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を検知する相対位置座標検知部と、
複数の相対位置座標から、相対位置座標のばらつき量に基づいて相対位置座標の正常範囲域を設定する正常範囲域設定部と、
検知した相対位置座標が、前記正常範囲域から外れたときにボンディングアームに異常ありとする異常検出部とを備え、
前記正常範囲域設定部は、前記相対位置座標の経時変化から、正常範囲域を補正する補正部を備えたことを特徴とするボンディングアームの異常検出装置。
【請求項5】
前記補正部は、複数の相対位置座標から近似直線を求め、この近似直線が傾きを有する場合には、傾きを有さないように正常範囲域を補正することを特徴とする請求項4に記載のボンディングアームの異常検出装置。
【請求項6】
相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定する異常特定部を備えたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のボンディングアームの異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンディングアームの異常検出方法及びボンディングアームの異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、多数個の素子を一括して造り込まれたウェーハをダイシングして個々の半導体チップに分離し、これを一個ずつリードフレーム等の所定位置にボンディングするというチップボンディングの手法が採用されている。そして、このチップボンディングにはダイボンダ(ピックアップ装置)が用いられる(特許文献1)。
【0003】
このようなダイボンダは、
図4に示すように、ピックアップ位置2の半導体チップ1(以下、チップ1という)を吸着するコレット3を有するボンディングアーム(図示省略)と、ピックアップ位置2のチップ1を観察する確認用カメラ(図示省略)と、ボンディング位置6でリードフレーム4のアイランド部5を観察する確認用カメラ(図示省略)とを備える。ピックアップ位置2では、半導体ウェーハが多数のチップ1に分割されて、粘着シート7(ダイシングシート)(
図5参照)に貼り付けられている。
【0004】
ボンディングアームは、その先端部にコレット3を保持し、搬送手段を介してピックアップ位置2とボンディング位置6との間の移動が可能となっている。コレット3は、その下端面に開口した吸着孔を介して、ピックアップ位置2のチップ1が真空吸引され、このコレット3の下端面にチップ1が吸着する。なお、この真空吸引(真空引き)が解除されれば、コレット3からチップ1が外れる。
【0005】
ピックアップ位置2において、
図5に示すように、粘着シート7を受けるステージ8と、このステージ8内に配置される突き上げピン9とを備えている。このような場合、
図5(a)に示すように、チップ1の上方位置からコレット3を下降させて、
図5(b)に示すようにチップ1に接触させて吸着する。その後、ステージ8の上面8aから所定量だけ後退している突き上げピン9が上昇して、この突き上げピン9にて粘着シート7を介してチップ1を押し上げて、コレット3にて吸着しているチップ1を粘着シート7から剥離させることになる。
【0006】
ボンディングアーム及び突き上げピン9の上下動は、夫々モータ等の駆動手段にて駆動される。このとき、エンコーダ等の位置検知器が、ボンディングアーム及び突き上げピン9の上下位置を検知し、その情報に基づいて、駆動手段がボンディングアーム及び突き上げピン9の位置制御を行いつつ駆動する。
【0007】
ところで、コレット3は通常、内径側に孔部を有するコレットホルダに保持される。すなわち、コレットホルダの孔部にコレットが挿入されて、ねじ等によりコレットがコレットホルダに固定される。この場合、例えば、コレットホルダに対するコレットの挿入が十分でない場合、ねじ締めが十分でない場合、動作中におけるねじの緩みが生じた場合、グリス切れが生じた場合等、コレットに異常がある場合には、コレットの下死点位置が、100μm〜200μm、場合によっては1mm程度ものズレが生じることがある。このような下死点のズレが生じると、ピックアップ動作を安定して行うことができず、チップ割れが生じる等の不良が発生し、ボンディング品質が劣るおそれがある。
【0008】
このため、アーム等の被駆動部の異常を検出する方法が提案されている(特許文献2及び特許文献3)。特許文献2のものは、被駆動部の部位毎で、異常と判定すべき周波数の閾値を設定する。そして、サーボモータの位置情報から周波数変換を行い、周波数が、前記閾値のいずれか以上である場合には、その閾値に該当する部位に異常があると判断する。また、特許文献3のものは、アームの先端に加速度センサを設けて、この加速度センサが検知した値に基づいて、伝達系(減速機、ベルト、プーリ)の経年変化及び故障を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−68296号公報
【特許文献2】特開2013−81282号公報
【特許文献3】特開2010−64232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ダイボンダにおいて、ピックアップ動作を安定して行うためには、仕事点であるコレット先端部の情報を取得するのが有効である。前記特許文献2に記載の方法は、電流センサ又はモータエンコーダーにて周波数を計測するものであり、ボールねじの異常や制御部の異常等は検出することができる。しかしながら、全体のノイズに、仕事点の挙動情報が埋もれてしまう場合、仕事点の情報のみを得ることができない。また、装置を稼働させる前に、閾値の事前設定が必要となる。
【0011】
前記特許文献3のように別途センサを設ける場合、仕事点が非常に軽量かつ小型であるため、センサ自体も軽量かつ小型である必要がある。しかしながら、このようなセンサを別途設けるとコスト高になる。しかも、ボンディングアームは、ピックアップ位置とボンディング位置とを高速に往復動するため、作動時において次第に熱膨張し、下死点の正常域は熱膨張に応じて経時的に変化する。しかしながら、センサを設けて仕事点の位置を検知するのみでは、下死点の経時的な変化に対応することができない。このため、検知した仕事点の位置がずれている場合、本来ならば正常域のずれ(異常なし)であっても、アームの先端部の不具合によるものである(異常あり)と誤検出するおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、全体のノイズに埋もれることなくコレット先端部の情報を正確に得ることができて、ボンディングアームの異常を検出できるボンディングアームの異常検出方法およびボンディングアームの異常検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のボンディングアームの異常検出方法は、チップを押上手段にて押し上げて、ボンディングアーム先端に設けられるコレットを下降させて、このコレットにてチップを吸着してピップアップする際のボンディングアームの異常検出方法であって、前記コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を検知して、複数の相対位置座標から相対位置座標のばらつき量に基づいて、相対位置座標の正常範囲域を設定し、検知した相対位置座標が、前記正常範囲域から外れたときにボンディングアームに異常ありとするものである。
【0014】
本発明のボンディングアームの異常検出方法によれば、コレットと押上手段とがチップを介して接触することを利用して、コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を検知する。すなわち、低速かつ移動量が少ないことで熱的な変化が少ない押上手段の位置情報を利用し、押上手段の位置座標を基準として、仕事点であるコレット先端部の相対位置座標を検知することにより、仕事点の下死点位置を安定して検知することができる。これにより、動作条件のより過酷なコレット先端部の位置情報を得ることができる。この場合、通常有するピックアップに必要なセンサ(ボンディングアーム及び押上手段の駆動に用いる位置センサ)を利用することができるため、コレット先端部の位置情報を得るためのセンサを別途設ける必要がない。しかも、装置を稼働させながら正常範囲域の設定を行うことができるため、正常範囲域の事前設定も不要となる。
【0015】
前記構成において、前記コレットは、衝撃に対して上下移動しないものであるとともに、前記押上手段は予め押し上げられた状態として、コレットの下降時にコレットがチップに接触したときには、押上手段が下降することによって、コレットからのチップへの衝撃を緩和するものとできる。一般的に、コレットは、チップに接触した場合の衝撃を緩和するための逃げ機構を有している。この逃げ機構を省略すれば、ボンディングアームを静止させたときに、コレットの上下移動を抑えることができる。このため、コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を正確に検知することができる。
【0016】
前記構成において、前記相対位置座標の経時変化から、正常範囲域を補正することができる。この場合、複数の相対位置座標から近似直線を求め、この近似直線が傾きを有する場合には、傾きを有さないように正常範囲域を補正することができる。これにより、ボンディングアームが熱膨張して下死点が経時的に変化しても、熱膨張の影響を無視して、ボンディングアームの先端部の異常を正確に検出することができる。
【0017】
前記構成において、相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定することができる。
【0018】
本発明のボンディングアームの異常検出装置は、チップを押上手段にて押し上げて、ボンディングアーム先端に設けられるコレットを下降させて、このコレットにてチップを吸着してピップアップする際のボンディングアームの異常検出装置であって、前記コレットの先端部の位置を検知しつつ、前記ボンディングアームを駆動するアーム駆動手段と、前記押上手段の先端部の位置を検知しつつ、前記押上手段を駆動する押上駆動手段と、前記アーム駆動手段及び押上駆動手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記コレット及び押上手段にてチップを挟み込んだときの、押上手段の位置座標に対するコレットの相対位置座標を検知する相対位置座標検知部と、複数の相対位置座標から、相対位置座標のばらつき量に基づいて相対位置座標の正常範囲域を設定する正常範囲域設定部と、検知した相対位置座標が、前記正常範囲域から外れたときにボンディングアームに異常ありとする異常検出部とを備えたものである。
【0019】
前記構成において、前記正常範囲域設定部は、前記相対位置座標の経時変化から、正常範囲域を補正する補正部を備えていてもよい。この場合、前記補正部は、複数の相対位置座標から近似直線を求め、この近似直線が傾きを有する場合には、傾きを有さないように正常範囲域を補正するものとしてもよい。
【0020】
前記構成において、相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定する異常特定部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、全体のノイズに埋もれることなくコレット先端部の情報を正確に得ることができて、ボンディングアームの異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のボンディングアームの異常検出装置を示すブロック図である。
【
図2】チップのピックアップの手順を示す説明図である。
【
図3】コレットの相対位置座標の経時変化を示すグラフ図であり、(a)は正常範囲域補正前、(b)は正常範囲域の補正中、(c)は正常範囲域の補正後である。
【
図4】ピックアップ方法の全体を示す簡略図である。
【
図5】従来のピックアップ装置を示す簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を
図1〜
図3に基づいて説明する。
【0024】
本発明のボンディングアームの異常検出装置は、ボンディングアーム先端に設けられるコレットにてチップを吸着してピップアップする際に、特にボンディングアーム先端部(コレット)の異常を検出するものである。
【0025】
図1に示すように、ピックアップ位置12では、半導体ウェーハが多数のチップ11に分割されて、粘着シート17(ダイシングシート)に貼り付けられている。図示省略のボンディングアーム先端にはコレット13が設けられ、ボンディングアームは、ウェーハから切り出されるチップ11をピックアップ位置12にてコレット13にてピックアップして、図示省略のリードフレームなどの基材のボンディング位置に移送(搭載)する。
【0026】
ボンディングアームは、アーム駆動手段20にて、ピックアップ位置12及びボンディング位置での上昇および下降と、ピックアップ位置12とボンディング位置との間の往復動とが可能とされる。アーム駆動手段20は、駆動機構21と、位置検知部22とから構成されている。駆動機構21は、ボンディングアームを上下水平方向に移動させるものであり、例えば、ボールねじ機構、シリンダ機構、モーターリニア機構等の種々の機構にて構成できる。位置検知部22は、コレット13の先端部の上下方向の位置座標を検知できるものであり、エンコーダ、リニアモータ等の種々の位置検知機構にて構成できる。これら駆動機構21及び位置検知部22を備えたアーム駆動手段20は、後述する制御手段30にて、コレット13の先端部の上下方向の位置を検知しつつボンディングアームを上下に駆動するように制御される。
【0027】
コレット13は、その下端面(吸着面)に開口する吸着用の吸着孔が形成され、この吸着孔に図外の真空発生器が接続されている。この真空発生器の駆動にて吸着孔のエアが吸引され、チップ11が真空吸引され、コレット13の下端面にチップ11が吸着する。なお、この真空吸引(真空引き)が解除されれば、コレット13からチップ11が外れる。真空発生器としては、例えば、高圧空気を開閉制御してノズルよりディフューザに放出して拡散室に負圧を発生させるエジェクタ方式のものを採用できる。
【0028】
コレット13は、衝撃に対して上下移動しない構成としている。一般的に、コレットは、チップに接触した場合の衝撃を緩和するための逃げ機構を有している。本実施形態では、この逃げ機構を省略しているため、ボンディングアームを静止させたときに、コレット13の上下移動を抑えることができる。
【0029】
ピックアップ位置12には、粘着シート17を受けるステージ23と、このステージ23に配設される押上手段(突き上げピン)24とを備える。この場合、ステージ23は上下動せず、突き上げピン24が押上駆動手段25にて上下動する。押上駆動手段25は、駆動機構26と、位置検知部27とから構成されている。駆動機構26は、突き上げピン24を上下に移動させるものであり、例えば、ボールねじ機構、シリンダ機構、モーターリニア機構等にて構成できる。位置検知部27は、突き上げピン24の先端部の上下方向の位置座標を検知できるものであり、エンコーダ、リニアモータ等の種々の位置検知機構にて構成できる。これら駆動機構26及び位置検知部27を備えた押上駆動手段25は、後述する制御手段30にて、突き上げピン24の先端部の上下方向の位置を検知しつつ突き上げピン24を上下に駆動するように制御される。
【0030】
前記したように、アーム駆動手段20及び押上駆動手段25は、制御手段30にて制御される。制御手段30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を中心としてROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等がバスを介して相互に接続されたマイクロコンピューターである。なお、ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。
【0031】
制御手段30(制御手段30にて実行されるプログラム)は、アーム動作指令部31aと、押上動作指令部31bと、相対位置座標検知部32と、正常範囲域設定部33と、補正部34と、異常検出部35と、異常特定部36とを備えている。
【0032】
アーム動作指令部31aは、溜りパルス(指令パルスに対するフィードバックパルスの遅れのために発生するもの)をカウントする偏差カウンタ(図示省略)を備え、コントローラ29からの指令値に基づいて、ボンディングアームの移動方向、加速度、速度が、その指令値で移動するために駆動機構21が動作するように、駆動機構21を駆動する。押上動作指令部31bは、溜りパルス(指令パルスに対するフィードバックパルスの遅れのために発生するもの)をカウントする偏差カウンタ(図示省略)を備え、コントローラ29からの指令値に基づいて、突き上げピン24の移動方向、加速度、速度が、その指令値にて移動するために駆動機構26が動作するように、駆動機構26を駆動させる。
【0033】
相対位置座標検知部32は、コレット13及び突き上げピン24にてチップ11を挟み込んだときの、突き上げピン24の位置座標に対するコレット13の相対位置座標を検知するものである。挟み込みの検知は、突き上げピン側の位置検知部27を利用する。すなわち、突き上げピン24にトルクリミットを設定した後、突き上げピン24を動作させる。突き上げピン24にはトルクリミットが設定されているため、突き上げピン24とコレット13とがチップ11を介して接触した際に、突き上げピン24が規定トルク以上発生できず、その場に停止し、押上動作指令部31bの偏差カウンタにおいて偏差が溜まることになる。その偏差の量から、コレット13及び突き上げピン24にてチップ11を挟んだことがわかる。このとき、位置検知部22、27は、夫々コレット13の先端部の上下位置座標と突き上げピン24の先端部の上下位置座標とを検知し、これらの情報から、相対位置座標検知部32が、突き上げピン24の位置座標に対するコレット13の相対位置座標を演算する。
【0034】
正常範囲域設定部33は、相対位置座標の正常範囲域H(
図3(c)参照)を設定するものである。相対位置座標は、通常は検知する毎に異なる(ばらつく)。そこで、異常なしとすべき相対位置座標を一定範囲(異常がないとして許容できるばらつきの範囲)として設定する必要がある。本発明では、この範囲を正常範囲域Hという。正常範囲域Hの設定は、複数の相対位置座標から、ばらつき量に基づいて設定できる。例えば、正常範囲域設定部33は、複数の相対位置座標の平均値(μ)と標準偏差(σ)とを求め、正常範囲域Hがμ±σと設定されていれば、μ±σを演算する。正常範囲域Hの設定(つまり、どの程度のばらつきまでを異常なしとして許容すべきか)は、ユーザが事前に設定する。この正常範囲域設定部33は、さらに補正部34を備えている。
【0035】
補正部34は、相対位置座標の経時変化から、正常範囲域Hを補正するものである。例えば、
図3(a)に示すように、相対位置座標が、全体的に徐々に変化している場合は、この変化は、ボンディングアームが次第に熱膨張したことによる影響が大きく、その後も相対位置座標は全体的に変化傾向を示すと予測される。そこで、補正部34は、
図3(b)に示すように、複数の相対位置座標から近似直線を求め、この近似直線が傾きを有する場合には、
図3(c)に示すように、傾きを有さないように正常範囲域Hを補正する。これにより、ボンディングアームが熱膨張して下死点が経時的に変化しても、熱膨張の影響を無視して、ボンディングアームの先端部の異常を正確に検出することができる。
【0036】
異常検出部35は、相対位置座標検知部32にて検知した相対位置座標が、正常範囲域設定部33にて設定された正常範囲域H内(異常がないとして許容できるばらつきの範囲内)であればボンディングアームに異常なしとし、正常範囲域Hから外れていれば、ボンディングアームに異常ありと判別するものである。
【0037】
異常特定部36は、相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定するものである。すなわち、前記異常検出部35は異常の有無を検出するものであり、異常検出部35で異常ありとされた相対位置座標から、さらに、異常の原因を自動的に特定するものである。例えば、異常の原因毎に相対位置座標の閾値が予め設定されて制御手段30に記憶されており、異常特定部36は、相対位置座標が、いずれの閾値に該当するか対応させて、その閾値に対応する原因が生じていると自動的に特定する。
【0038】
制御手段30には、検知したデータ(例えば、相対位置座標の値や、
図3に示すようなグラフ等)を表示する表示手段40が接続されている。表示手段40は、例えば液晶ディスプレイ等から構成される。
【0039】
本発明のボンディングアームの異常検出装置を使用したボンディングアームの異常検出方法を説明する。
図2(a)に示すように、突き上げピン24を上昇させて、ピックアップすべきチップ11をステージ23から浮かした状態とし、コレット13を下降させる。このとき、コレット13は、
図2(b)に示すように、チップ11の僅かに上方(例えばコレット13とチップ11との隙間が2〜10μm程度)で寸止めする。本実施形態では、コレット13側での逃げ機構を省略しているため、ボンディングアームを静止させたときに、コレット13の上下移動を抑えることができる。このようにすれば、後述するように、コレット13及び突き上げピン24にてチップ11を挟み込んだときの、突き上げピン24の位置座標に対するコレット13の相対位置座標を正確に検知することができる。
【0040】
また、
図2(b)においてコレット13がチップ11に接触しても、突き上げピン24は、予め押し上げられた状態としているので、コレット13がチップ11に接触したときに突き上げピン24が下降することによって、コレット13からのチップ11への衝撃を緩和することができる。すなわち、突き上げピン24を予め押し上げることにより、突き上げピン24は逃げ機構としても作用する。
【0041】
そして、突き上げピン24を上昇させれば、
図2(c)に示すように、コレット13及び突き上げピン24にてチップ11を挟み込んだ状態となる。位置検知部22、27は、このときの、コレット13の先端部の上下位置座標と、突き上げピン24の先端部の上下位置座標とを検知し、これらの情報から、相対位置座標検知部32が、突き上げピン24の位置座標に対するコレット13の相対位置座標を演算する。このデータは、正常範囲域設定部33及び異常検出部35に送られる。その後、
図2(d)に示すように、コレット13と突き上げピン24とが上昇して同期突き上げすることにより、突き上げピン24にて粘着シート17を突き破るとともに、コレット13を上昇させることによって、コレット13にて吸着されているチップ11を粘着シート17から剥離させて、ピックアップする。ピックアップ後は、ボンディング位置まで搬送して、チップ11をボンディングする。
【0042】
このように、チップ11をピックアップする毎にコレット13の相対位置座標を検知すると、正常範囲域設定部33には、相対位置座標のデータが蓄積される。正常範囲域設定部33は、複数の相対位置座標から、相対位置座標のばらつき量に基づいて、前記方法により相対位置座標の正常範囲域Hを設定する。この場合、相対位置座標が全体的に徐々に変化している場合は、補正部34が正常範囲域を補正する。
【0043】
異常検出部35は、相対位置座標検知部32にて検知した相対位置座標が、正常範囲域設定部33にて設定された正常範囲域H内であればボンディングアームに異常なしとし、正常範囲域Hから外れていれば、ボンディングアームに異常ありと判別する。さらに、異常特定部36は、異常ありとされた相対位置座標に基づいて、ボンディングアームの異常原因を特定する。
【0044】
本発明のボンディングアームの異常検出装置及びボンディングアームの異常検出方法は、コレット13と突き上げピン24とがチップ11を介して接触することを利用して、コレット13及び突き上げピン24にてチップ11を挟み込んだときの、突き上げピン24の位置座標に対するコレット13の相対位置座標を検知する。すなわち、低速かつ移動量が少ないことで熱的な変化が少ない突き上げピン24の位置情報を利用し、突き上げピン24の位置座標を基準として、仕事点であるコレット先端部の相対位置座標を検知することにより、仕事点の下死点位置を安定して検知することができる。これにより、動作条件のより過酷なコレット先端部の位置情報を得ることができるため、全体のノイズに埋もれることなくコレット先端部の情報を正確に得ることができて、ボンディングアームの異常を検出できる。
【0045】
また、通常有するピックアップに必要なセンサ(ボンディングアーム及び突き上げピン24の駆動に用いる位置センサ)を利用することができるため、コレット先端部の位置情報を得るためのセンサを別途設ける必要がない。しかも、装置を稼働させながら正常範囲域の設定を行うことができるため、正常範囲域の事前設定も不要となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、相対位置座標は、ボンディングサイクル毎に毎回検知しなくてもよく、所定サイクル毎に検知したり、所定時間毎に検知したりしてもよい。また、相対位置座標の全てのデータに基づいて正常範囲域を設定してもよいし、相対位置座標の一部のデータに基づいて正常範囲域を設定してもよい。例えば、検知した相対位置座標のうち、所定回数毎の相対位置座標に基づいて正常範囲域を設定してもよいし、所定時間毎の相対位置座標に基づいて正常範囲域を設定してもよい。さらには、例えば、最初のピックアップを行ってから、所定回数のボンディングサイクルを行った後、又は所定時間経過した後の、一部の期間に検知された相対位置座標のみに基づいて正常範囲域を設定してもよい。
【0047】
前記実施形態において、正常範囲域Hのμ±σは例示であって、μ±2σ、μ±3σ・・・と、その範囲はユーザが任意に設定できる。また、正常範囲域Hの演算方法は、平均値と標準偏差とに基づくものでなくてもよい。例えば、相対位置座標の具体的な数値範囲を正常範囲域Hとする等、正常範囲域Hの設定方法もユーザにて任意に設定できる。
【0048】
ピックアップする毎に、毎回異常の有無を検出してもよいし、所定回数毎又は所定時間毎に異常の有無を検出してもよい。さらには、例えば、最初のピックアップを行ってから、所定回数のボンディングサイクルを行った後、又は所定時間経過した後の、一部の期間のみ異常の有無を検出してもよい。
【0049】
異常特定部36を省略して、ユーザが異常の原因を特定してもよい。また、表示手段40を省略してもよい。また、熱膨張等の影響を受けにくい等、相対位置座標が経時的に変化しにくい場合には、補正部34を省略することができる。
【0050】
静止させたときの振動を抑えるという点ではコレット13の逃げ機構を有しないのが望ましいが、従来同様に有していてもよい。また、コレット13を下降させる前の段階において、突き上げピン24の先端部の位置は必ずしもステージ23から突出していなくてもよく(ただし、コレット13側の逃げ機構を省略する場合には、突出しているのが望ましい)、ステージ23の上面とほぼ同一であっても、ステージ23の上面より下方であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
11 チップ
13 コレット
20 アーム駆動手段
24 押上手段
25 押上駆動手段
30 制御手段
32 相対位置座標検知部
33 正常範囲域設定部
34 補正部
35 異常検出部
36 異常特定部
H 正常範囲域