(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
根及び茎葉部からなる植物の苗を培土からなる基盤部に多数根張りさせて植設したマット状の苗集合体であり、上記基盤部を、その底面から所定高さであって平面状に連続する下部と、該下部に溝を介して互いに平行に且つ所定間隔で連設され上記苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部を有した上部とを備えて構成した苗集合体を作成するための育苗装置であって、
底壁及び側壁を有し播種され上記基盤部を形成する培土を収容する収容空間を有した容器と、該容器に着脱可能に設けられ装着時に該容器の収容空間を仕切って上記基盤部の下部及び上部を形成する仕切り体とを備え、上記仕切り体を、上記容器の底壁内面に垂直な表面を有し該表面を互いに平行にして所定間隔で列設されるとともに下端縁が上記底壁内面より所定高さ離間した複数の仕切り板と、該複数の仕切り板を保持する保持部材とを備えて構成し、上記仕切り板の下端より下の連続する下部空間により上記基盤部の下部を形成し、上記仕切り板により仕切られた上部空間により上記基盤部の上部を形成可能にし、
上記保持部材を、上記容器の側壁上端縁に支持される矩形枠状に形成され該容器の内に入り込む枠体と、該枠体の上端外周から外向きに突設され該容器の側壁上端縁に支承される支承部とを備えて構成し、上記複数の仕切り板を、上記枠体を構成し互いに対向する一方の一対の側板に架設して列設し、該各仕切り板の上端側を上記枠体の上端外周及び支承部より上に突出し播種の際に投下される種子をガイドするガイド板部として構成し、
上記仕切り板の表面に直交する方向に、該各仕切り板に対して交差させて、横板を設け、
上記容器の深さをD、上記仕切り板の高さをF、上記底壁内面から仕切り板の下縁までの所定高さをDa、上記仕切り板の厚さをt、上記隣接する仕切り板間の間隔をgとしたとき、D=15mm〜40mm、F=10mm〜60mm、Da=5mm〜35mm、t=0.75mm〜2mm、g=6mm〜15mmに設定し、
上記ガイド板部の高さをFaとしたとき、5mm≦Faに設定したことを特徴とする育苗装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば、植物としての水稲の場合、その育苗においては、図示外の育苗容器に培土を収容し、水稲の種子をバラ播きにより播種し、これを発芽させて苗に育成し、
図16(a)に示すようなマット状の苗集合体Saを作成している。この苗集合体Saは、周知の移植機に搭載され、苗Nはこの移植機で分断させられて、水田に移植される。この方法においては、育苗容器当たりの種子量を増して密播育苗して、本田の水稲栽培面積当たりの育苗箱数を減じることによって、育苗にかかる費用と敷地を低減することができる。
【0003】
しかしながら、このバラ播きによる苗集合体Saにおいては、簡易な育苗容器を用いて平易な作業によって播種できる反面、基盤部100上に種子がムラに播かれるため、苗Nの密度が均等でない点が問題となる。種子の密度が低い地点では、比較的良好な苗Nが得られるが、移植機で苗Nを分断した際に欠株が多く生じて、水稲の生産量を低下させる要因となる。一方、種子の密度が極端に高い地点では、苗Nの生育の不揃いや徒長が生じやすく生産量を低下させる要因となる。
【0004】
これを解決するために、従来においては、例えば、特許文献1(実公昭55−51135号公報)記載の技術が知られている。これは、図示外の育苗容器上に、複数の桟木を縦横に並列に設けて平面格子状の区画を設け、種子が培土面に整然と条状に播種されるようにし、種子がムラに播種されないようにして、
図16(b)に示すような苗集合体Sbを作成している。この苗集合体Sbにおいては、基盤部100上に、苗Nが条状に植設されるので、移植機での苗Nの分断が均一化するようになる。しかしながら、基盤部100内に成長する苗Nの根が、あらゆる方向に伸びて相互に絡み合うので、生育した苗Nを1株ごとに分離する際に、苗Nの根の引きちぎりや切断による損傷が生じ易く、それだけ、移植後の生育に支障をきたす問題が生じる。
【0005】
そのため、従来においては、例えば、特許文献2(特開昭52−131809号公報)記載の技術も提案されている。これは、図示外の育苗容器の底面上に一方向に複数の条状の仕切り板を所定間隔で列設して仕切り、根の下部の成長をこの仕切り板で規制して根が縦横に広がらずに仕切り板の長手方向にのみ絡み合うようにして、
図16(c)に示すような苗集合体Scを作成している。この苗集合体Scの基盤部100は、平面状に連続し苗Nの茎葉部が多数突出する上部101と、この上部101に溝102を介して互いに平行に且つ所定間隔で連設される複数の条状部103を有した下部104とを備えて構成され、生育した苗Nを1株ごとに分離する際に、苗Nの根の引きちぎりや切断による損傷をできるだけ生じにくくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、
図16(c)に示す後者の従来の苗集合体Scにあっては、基盤部100の下部104を溝102を介した複数の条状部103を有して形成し、伸長する根の縦横の広がりを規制し、苗Nの根の引きちぎりや切断による損傷をできるだけ生じにくくしてはいるが、基盤部100の上部101においては、育苗容器に播種する際には、種子をバラ播きにより播種することになるので、
図16(a)に示す従来の苗集合体Saと同様に、苗Nの密度が不均一になり、苗Nの密度が低い地点では、移植機で移植した際に欠株が多く生じてしまい、一方、苗Nの密度が高い地点では、生育の不揃いや徒長が生じやすく生産量を低下させる要因となる。
【0008】
また、一般に、苗Nは、伸長した根の下部から先端にかけての損傷よりも、株元付近の上部の根及び根の発生点近傍の損傷のほうが、植え付け後の苗Nの生育を顕著に阻害することが知られているが、この後者の従来の苗集合体Scにあっては、基盤部100の上部101において、根が縦横に広がることになるので、移植機による移植の際には、苗Nの株元付近の上部の根及び根の発生点近傍の損傷が大きくなってしまい、それだけ、生育の不揃いや徒長が生じやすくなって、生産量を低下させる要因となる。更に、この後者の従来の苗集合体Scにあっては、根が下方向に伸長しがちな性質によって、基盤部100の上部101において根が全体に絡まることは少なく、その分、各条状部103の結合性が弱くなり、苗集合体Scを育苗箱から取り出す際に、慎重を期しても、基盤部100がばらける虞があるという問題もある。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、基盤部上の苗が条状に植設されるようにして、移植機で苗を分断した際の欠株を防止し、移植後の苗の密度を均一化するとともに、苗の分断の際に、株元付近の上部の根ができるだけ損傷しないようにして、生育の不揃いを防止し、更に、下部の根は制約されないようにして縦横に絡み合うようにし、取り扱い時に基盤部がばらける事態を抑止した苗集合
体を育成する育苗装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するため、本発明の
育苗装置が作成する苗集合体は、根及び茎葉部からなる植物の苗を培土からなる基盤部に多数根張りさせて植設したマット状の苗集合体において、上記基盤部を、その底面から所定高さであって平面状に連続する下部と、該下部に溝を介して互いに平行に且つ所定間隔で連設され上記苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部を有した上部とを備えて構成している。
【0011】
これにより、この苗集合体の苗を移植する際には、苗集合体を移植機に搭載する。この場合、苗集合体においては、基盤部の下部は平面状に連続しているので、この下部において根が縦横に伸びて絡み合うことになり、その絡みも上部に比較して多くなることから、結合性が強くなり、そのため、取り扱い時に基盤部がばらける事態を抑止することができる。また、移植機による移植の際には、移植機により苗集合体から苗が分断されて移植されていく。この場合、基盤部の上部は、苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部で構成されているので、移植機での分断の際に、欠株を防止することができる。そのため、移植後の苗の密度を均一化することができ、生育の不揃いを防止することができ、それだけ、生産量を増加させることができる。また、基盤部の上部は、条状部が溝を介して存在するので、移植機による苗の分断の際に、溝には根がないことから、それだけ、苗の根の引きちぎりや切断が少なくなり、株元付近の上部の根の損傷を防止することができ、この点でも、生育の不揃いを防止して、生産量を増加させることができる。
【0012】
そして、必要に応じ、上記基盤部の厚さをL、上記下部の厚さをLa、上記上部の厚さをLb、上記溝の幅をT、上記条状部の幅をGとしたとき、L=15mm〜40mm、La=5mm〜35mm、Lb=5mm〜35mm、T=0.75mm〜2mm、G=6mm〜15mmに設定している。これにより、上記の作用,効果を確実に実現できるようになる。特に、苗が水稲の場合に有効になる。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明の育苗装置は、根及び茎葉部からなる植物の苗を培土からなる基盤部に多数根張りさせて植設したマット状の苗集合体であり、上記基盤部を、その底面から所定高さであって平面状に連続する下部と、該下部に溝を介して互いに平行に且つ所定間隔で連設され上記苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部を有した上部とを備えて構成した苗集合体を作成するための育苗装置であって、
底壁及び側壁を有し播種され上記基盤部を形成する培土を収容する収容空間を有した容器と、該容器に着脱可能に設けられ装着時に該容器の収容空間を仕切って上記基盤部の下部及び上部を形成する仕切り体とを備え、上記仕切り体を、上記容器の底壁内面に垂直な表面を有し該表面を互いに平行にして所定間隔で列設されるとともに下端縁が上記底壁内面より所定高さ離間した複数の仕切り板と、該複数の仕切り板を保持する保持部材とを備えて構成し、上記仕切り板の下端より下の連続する下部空間により上記基盤部の下部を形成し、上記仕切り板により仕切られた上部空間により上記基盤部の上部を形成可能にした構成としている。
【0014】
これにより、植物の苗を育苗するときは、培土を容器内に例えば側壁の上端縁の高さまで入れ、その後、仕切り体を装着する。あるいは、予め、容器に仕切り体を装着し、その後、培土を仕切り体の上から容器内に例えば側壁の上端縁の高さまで入れる。この場合、仕切り板の上端が培土の上面より突出するようにする。そして、仕切り体の上から、種子を播種する。必要に応じ覆土する。この場合、仕切り板により培土が仕切られているので、種子が条状に播種される。この状態で、種子を育成させると、苗が生長し、苗の根が仕切り板により仕切られた上部空間に伸び、更に、仕切り板の下端より下の連続する下部空間に伸びていくとともに、茎葉部が培土から上へ伸びていく。そして、所要の大きさになったならば、苗集合体として、移植に供する。移植に際しては、容器から、仕切り体を取外し、苗集合体を容器から取り出し、移植機に搭載する。この場合、苗集合体においては、基盤部の下部は平面状に連続しているので、この下部において根が縦横に伸びて絡み合うことになり、その絡みも上部に比較して多くなることから、結合性が強くなり、そのため、取り扱い時に基盤部がばらける事態を抑止することができる。
【0015】
そして、移植機による移植の際には、上述したように、苗集合体から苗が分断されて移植されていく。この場合、基盤部の上部は、苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部で構成されるので、移植機での分断の際に、欠株を防止することができる。そのため、移植後の苗の密度を均一化することができ、生育の不揃いを防止することができ、それだけ、生産量を増加させることができる。また、基盤部の上部は、条状部が溝を介して存在するので、移植機による苗の分断の際に、溝には根がないことから、それだけ、苗の根の引きちぎりや切断が少なくなり、株元付近の上部の根の損傷を防止することができ、この点でも、生育の不揃いを防止して、生産量を増加させることができる。
【0016】
また、必要に応じ、上記保持部材を上記容器の側壁上端縁に支持される枠状に形成し、上記複数の仕切り板を上記保持部材に架設した構成としている。構造を簡単にし、保持部材の着脱を容易にすることができる。
【0017】
更に、必要に応じ、上記仕切り板を、上方に突出し播種の際に投下される種子をガイドするガイド板部を備えて構成している。
具体的には、上記保持部材を、上記容器の側壁上端縁に支持される矩形枠状に形成され該容器の内に入り込む枠体と、該枠体の上端外周から外向きに突設され該容器の側壁上端縁に支承される支承部とを備えて構成し、上記複数の仕切り板を、上記枠体を構成し互いに対向する一方の一対の側板に架設して列設し、該各仕切り板の上端側を上記枠体の上端外周及び支承部より上に突出し播種の際に投下される種子をガイドするガイド板部として構成している。これにより、播種する際に、種子がガイド板部でガイドされるので、確実に、条状に播種することができるようになる。また、ガイド板部で囲まれた空間が生じることになるので、苗の地際と茎葉を、温度と湿度の急な変化から守ることができ、好ましい微気象環境下で優れた成長をさせることができる。
【0018】
更にまた、必要に応じ、上記仕切り板の表面に直交する方向に、該各仕切り板に対して交差させて、横板を設けた構成としている。仕切り板にゆがみが生じることを防ぎ、仕切られた各条状部の内幅を一定にすることができる。
【0019】
そして、より具体的には、上記容器の深さをD、上記仕切り板の高さをF、上記底壁内面から仕切り板の下縁までの所定高さをDa、上記仕切り板の厚さをt、上記隣接する仕切り板間の間隔をgとしたとき、D=15mm〜40mm、F=10mm〜60mm、Da=5mm〜35mm、t=0.75mm〜2mm、g=6mm〜15mmに設定している。これにより、上記の作用,効果を確実に実現できるようになる。特に、苗が水稲の場合に有効になる。
【0020】
また、必要に応じ、上記仕切り板を、上方に突出し播種の際に投下される種子をガイドするガイド板部を備えて構成し、該ガイド板部の高さをFaとしたとき、5mm≦Faに設定している。これにより、播種する際の種子のガイドが確実になり、苗の地際と茎葉を、温度と湿度の急な変化から確実に守ることができ、好ましい微気象環境下で優れた成長をさせることができる。
【0021】
また、必要に応じ、上記仕切り板の表面に直交する方向に、該各仕切り板に対して交差させて、横板を設け、該横板の上縁を、上記容器の側壁上端縁と同位にし、上記横板の高さをJとしたとき、J<F−Faにしている。これにより、種子や培土を均一に充填させることができ、苗を条状部に隙間なく生育させることができ、確実に欠株を生じさせないようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、苗集合体においては、基盤部の下部は平面状に連続しているので、この下部において根が縦横に伸びて絡み合うことになり、その絡みも上部に比較して多くなることから、結合性が強くなり、そのため、取り扱い時に基盤部がばらける事態を抑止することができる。また、移植機による移植の際には、移植機により苗集合体から苗が分断されて移植されていくが、基盤部の上部は、苗の茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部で構成されているので、この分断の際に、欠株を防止することができる。そのため、移植後の苗の密度を均一化することができ、生育の不揃いを防止することができ、それだけ、生産量を増加させることができる。また、基盤部の上部は、条状部が溝を介して存在するので、移植機による苗の分断の際に、溝には根がないことから、それだけ、苗の根の引きちぎりや切断が少なくなり、株元付近の上部の根の損傷を防止することができ、この点でも、生育の不揃いを防止して、生産量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る苗集合体を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る苗集合体を示す要部拡大断面斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る苗集合体を示す要部拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る育苗装置を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る育苗装置を示し、(a)は平面図、(b)は正面断面図、(c)は側面断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る育苗装置を示す一部切欠き部分斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る育苗装置による苗の育成状態を示す部分断面図である。
【
図8】本発明の別の実施の形態に係る育苗装置を示す部分斜視図である。
【
図9】本発明の別の実施の形態に係る育苗装置による苗の育成状態を示す部分断面図である。
【
図10】本発明の実施例1及び比較例1の育苗中における温度の状態を測定した結果を示す表図である。
【
図11】本発明の実施例1及び比較例1の苗の育成状態を示す表図である。
【
図12】本発明の実施例1及び比較例1の苗の育成状態を示す写真である。
【
図13】本発明の実施例1及び比較例1において、移植機によるかき取り幅を異ならせた苗株の苗のかき取り本数を測定した結果を示すグラフ図である。
【
図14】本発明の実施例2,3及び比較例2,3において、移植機によるかき取り幅を異ならせた苗株の苗のかき取り本数を測定した結果を示すグラフ図である。
【
図15】本発明の実施例4,5及び比較例4,5について、引っ張り試験を行った結果を示すグラフ図である。
【
図16】従来の苗集合体の一例(a)(b)(c)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る苗集合体及び育苗装置について詳細に説明する。
図1乃至
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る苗集合体Sは、根及び茎葉部からなる植物としての水稲の苗Nの苗集合体Sであり、苗Nを培土からなる基盤部1に多数根張りさせて植設した矩形マット状のものである。基盤部1は、その底面1aから所定高さであって平面状に連続する下部2と、下部2に溝3を介して互いに平行に且つ所定間隔で連設され苗Nの茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部4を有した上部5とを備えて構成されている。基盤部1の横寸法をX、縦寸法をY、基盤部1の厚さをL、下部2の厚さをLa、上部5の厚さをLb、溝3の幅をT、条状部4の幅をGとしたとき、X=550mm〜600mm、Y=250mm〜300mm、L=15mm〜40mm、La=5mm〜35mm、Lb=5mm〜35mm、T=0.75mm〜2mm、G=6mm〜15mmに設定している。
【0025】
次に、この苗集合体Sを作成するための本発明の実施の形態に係る育苗装置について説明する。
図4乃至
図7に示すように、本発明の実施の形態に係る育苗装置Kの基本的構成は、上記の苗集合体Sの基盤部1を形成する培土を収容する収容空間11を有した容器10と、容器10に着脱可能に設けられ装着時に容器10の収容空間11を仕切って基盤部1の下部2及び上部5を形成する仕切り体20とを備えてなる。
【0026】
容器10は、例えば樹脂製で型成形により一体形成され、矩形状の底壁12及び矩形枠状の側壁13を有し、播種される培土を収容する収容空間11を構成している。容器10の側壁13の外周は外側に断面L字状に突設され、把手14を構成している。底壁12には水切り用の小孔16が所要間隔で複数設けられている。
【0027】
仕切り体20は、容器10の底壁12内面に垂直な表面を有しこの表面を互いに平行にして所定間隔で列設されるとともに下端縁21aが底壁内面12aより所定高さ離間した複数の仕切り板21と、複数の仕切り板21を保持する保持部材22とを備えて構成されている。この仕切り板21の下端より下の連続する下部空間Eaにより基盤部1の下部2を形成し、仕切り板21により仕切られた上部空間Ebにより基盤部1の上部5を形成可能にしている。仕切り体20は、多数の仕切り板21が薄くても強度が保たれる素材、培土との抵抗の少ない平滑で付着性の少ない素材が選択され、例えば樹脂製で型成形により一体形成される。樹脂としては、苗Nの徒長を防止し、好ましい苗Nを得るため、光を透過する素材で形成することができる。仕切り板21の下端は、鋭利に形成され、培土中に容易に差し込み可能にすることができる。
【0028】
保持部材22は、容器10の側壁上端縁15に支持される矩形枠状に形成され、容器10の内に入り込む枠体23と、枠体23の上端外周から外向きに突設され容器10の上端縁15に支承される支承部24とを備えて構成されている。複数の仕切り板21は、保持部材22の枠体23を構成し互いに対向する一方の一対の側板23a(実施の形態では短辺を構成する側板23a)に架設され、短辺に沿う方向に所定間隔で列設されている。また、仕切り板21の上端側は、枠体23の上端外周
及び支承部24より上に突出して形成されている。これにより、仕切り板21に、容器10の側壁上端縁15よりも上方に突出させられ、播種の際に投下される種子をガイドするガイド板部25が備えられる。
【0029】
また、仕切り板21の表面に直交する方向に、各仕切り板21に対して交差させて、横板26が所定間隔で複数設けられている。この複数の横板26は、その上縁が容器10の側壁上端縁15と同位乃至下位のいずれかに位置して、保持部材22の枠体23を構成し互いに対向する他方の一対の側板23b(実施の形態では長辺を構成する側板23b)に架設され、長辺に沿う方向に所定間隔で設けられている。
【0030】
詳しくは、容器10の内側の横寸法x、及び、縦寸法yは、基盤部1の横寸法X、縦寸法Yに対応している。容器10の深さをD、仕切り板21の高さをF、底壁内面12aから仕切り板21の下縁までの所定高さをDa、仕切り板21の厚さをt、隣接する仕切り板21間の間隔をgとしたとき、x=550mm〜600mm、y=250mm〜300mm、D=15mm〜40mm、F=10mm〜60mm、Da=5mm〜35mm、t=0.75mm〜2mm、g=6mm〜15mmに設定されている。また、仕切り板21のガイド板部25の高さをFaとしたとき、5mm≦Faに設定されている。更に、横板26の高さをJとしたとき、J<F−Faに設定されている。
【0031】
実施の形態では、x=575mm、y=278mm、D=30mm、F=35mm、Da=10mm、t=1mm、g=9.7mm、Fa=15mm、J=10mmに設定されている。
【0032】
従って、この育苗装置Kを用いて苗集合体Sを作成するときは、以下のようになる。まず、培土を容器10内に例えば側壁13の上端縁の高さまで入れ、その後、仕切り体20を装着する。あるいは、予め、容器10に仕切り体20を装着し、その後、培土を仕切り体20の上から容器10内に例えば側壁13の上端縁の高さまで入れる。この場合、培土の上面を、例えば、容器10の側壁13の上端縁の位置にする。この場合、仕切り板21の表面に直交する方向に複数の横板26が設けられているので、仕切り板21にゆがみが生じることが防止され、仕切られた各条状部4の内幅を一定にすることができる。
【0033】
そして、仕切り体20の上から、種子を播種する。この場合、仕切り板21には、側壁上端縁15よりも上方に突出させたガイド板部25があるので、投下される種子がガイド板部25でガイドされることになり、そのため、確実に、種子を条状に播種することができるようになる。必要に応じて覆土する。この状態で、種子を育成させると、苗Nが生長し、苗Nの根が仕切り板21により仕切られた上部空間Ebに伸び、更に、仕切り板21の下端より下の連続する下部空間Eaに伸びていくとともに、茎葉部が培土から上へ伸びていく。この場合、培土の上には、ガイド板部25で囲まれた空間が生じることになるので、苗Nの地際と茎葉を、温度と湿度の急な変化から守ることができ、好ましい微気象環境下で優れた成長をさせることができる。また、苗Nを条状に実用的な密度で簡易に栽培することができる。そして、所要の大きさになったならば、苗集合体Sとして、移植に供する。
【0034】
苗集合体Sの苗Nの移植に際しては、容器10から、仕切り体20を取外し、苗集合体Sを容器10から取り出し、移植機に搭載する。この場合、苗集合体Sにおいては、基盤部1の下部2は平面状に連続しているので、この下部2において根が縦横に伸びて絡み合うことになり、その絡みも上部5に比較して多くなることから、結合性が強くなり、そのため、取り扱い時に基盤部1がばらける事態を抑止することができる。
【0035】
そして、この苗集合体Sの苗Nを移植する際には、苗集合体Sを周知の移植機に搭載する。この場合、苗集合体Sにおいては、基盤部1の下部2は平面状に連続しているので、この下部2において根が縦横に伸びて絡み合うことになり、その絡みも上部5に比較して多くなることから、結合性が強くなり、そのため、取り扱い時に基盤部1がばらける事態を抑止することができる。また、移植機による移植の際には、移植機により苗集合体Sから苗Nが分断されて移植されていく。この場合、基盤部1の上部5は、苗Nの茎葉部が長手方向に沿って多数突出する複数の条状部4で構成されているので、移植機での分断の際に、欠株を防止することができる。そのため、移植後の苗Nの密度を均一化することができ、生育の不揃いを防止することができ、それだけ、苗Nを精度良く移植でき、生産量を増加させることができる。また、基盤部1の上部5は、条状部4が溝3を介して存在するので、移植機による苗Nの分断の際に、溝3には根がないことから、それだけ、苗Nの根の引きちぎりや切断が少なくなり、株元付近の上部の根の損傷を防止することができ、この点でも、生育の不揃いを防止して、生産量を増加させることができる。
【0036】
また、苗Nを株毎に分割する際の1株当たりの本数のバラつきが顕著に少なくなるので、1株当たりの短辺方向のかき取り量を少なくすることができる。このため、1個の育苗装置Kから得られる分割株の数を顕著に増加させることができる。このことにより、一定の面積の植物栽培に必要な育苗装置K数を顕著に少なくでき、育苗に要する敷地面積及び資材を低減することができる。
【0037】
図8及び
図9には、別の実施の形態に係る育苗装置Kを示している。これは、上記と略同様に構成されるが、上記と異なって、容器10の側壁13を構成し互いに対向する一方の一対の側壁13a(実施の形態では短辺を構成する側壁13a)の上端縁30を、互いに対向する他方の一対の側壁13b(実施の形態では長辺を構成する側壁13b)の上端縁31よりも低く形成して凹所32を形成している。そして、保持部材22の枠体23を容器10内に没入可能に形成するとともに、枠体23を構成し互いに対向する一方の一対の側板23a(実施の形態では短辺を構成する側板23a)の下端33を、上記の容器10の短辺を構成する側壁13の上端縁30に支承し、保持部材22を容器10に保持するようにしている。また、枠体23の短辺を構成する側板23aの上端に、把手34を突出形成している。これにより、保持部材22の枠体23が容器10内に没入するので、外観品質が向上させられる。他の作用,効果は上記と同様である。
【実施例】
【0038】
次に、実施例に係る苗集合体Sを示す。
<実施例1>
上記と同様の構造の実施例に係る育苗装置Kとして、透明アクリル製(厚さ1mm,高さ35mm)の仕切り板21を用い、これを間隔(1条の幅)10.7mmの条が1容器10当たり26条形成できるように枠体23に設けたものを作成した。そして、この育苗装置Kに、水稲の種子を条播し(以下、条播)、育苗した。水稲の品種は主食用米‘いわてっこ’、播種量は乾燥種もみ換算で210g/容器とした。培土は通常の中苗用粒状培土を用いた。播種後出芽まで約3日間をTOMY製CLE303グロースチャンバー内で温度を30℃定温に設定して育苗した後、ビニルハウス内に設置したプール内に浸漬し、常時湛水状態で育苗した。播種後20日育成した苗Nを実施例1に係る苗集合体Sとした。実施例1に係る苗集合体S(「条播」とも表記する)は、X=575mm、Y=278mm、L=25mm、La=10mm、Lb=15mm、T=1mm、G=9.6mmとなった。
【0039】
<実施例2>
実施例1と同様の育苗装置Kに、水稲の種子を条播し(以下、条播)、育苗した。水稲の品種は主食用米‘いわてっこ’、播種量は乾燥種もみ換算で190g/容器とした。育苗培土及び播種はTHK≡3005を用いた。播種後、加温育苗器で、温度を30℃とし、66時間芽出し処理を行い、24時間緑化後、ビニルハウス内で無加温育苗法により育苗した。播種後17日育成した苗Nを実施例2に係る苗集合体Sとした。実施例2の寸法は、実施例1と同様である。
<実施例3>
水稲の品種は主食用米‘いわてっこ’を用い、播種量を乾燥種もみ換算で145g/容器とした。他は実施例2と同様である。
【0040】
<実施例4>
実施例2と同条件で育成し、播種後22日育成した苗Nを実施例4に係る苗集合体Sとした。
<実施例5>
実施例3と同条件で育成し、播種後22日育成した苗Nを実施例5に係る苗集合体Sとした。
【0041】
[試験例]
上記各実施例について、比較例との比較試験を行った。比較例は以下の通りである。
<比較例1>
実施例で用いた育苗装置Kの容器10のみを用い、育成条件を実施例1と同じにし(播種量は乾燥種もみ換算で210g/容器)、従来の散播(以下、散播)による苗集合体S(「散播」とも表記する)を作成した。
<比較例2>
実施例で用いた育苗装置Kの容器10のみを用い、育成条件を実施例2と同じにし(播種量は乾燥種もみ換算で190g/容器)、従来の散播(以下、散播)による苗集合体S(「散播」とも表記する)を作成した。
<比較例3>
実施例で用いた育苗装置Kの容器10のみを用い、育成条件を実施例3と同じにし(播種量は乾燥種もみ換算で145g/容器)、従来の散播(以下、散播)による苗集合体S(「散播」とも表記する)を作成した。
<比較例4>
比較例2と同条件で育成し、播種後22日育成した苗Nを比較例4に係る苗集合体Sとした。
<比較例5>
比較例3と同条件で育成し、播種後22日育成した苗Nを比較例5に係る苗集合体Sとした。
【0042】
(1)育苗中の状態
実施例1及び比較例1について、その育苗中の土壌中温度と土壌表面温度を測定した。結果を
図10に示す。条播では、散播に比べ、育苗培土の土壌中温度が日最高温度、日最低温度とも高くなる傾向があり、土壌表面温度は日最低温度が高くなる傾向があった。
【0043】
(2)苗の育成状態
また、実施例1及び比較例1について、苗の育成状態を測定した。結果を
図11に示す。また、写真撮影もした。結果を
図12に示す。この結果から、実施例1では、比較例1に比較して第1葉鞘高が長く、草丈が長くなった。また、苗の根の重量は条播で多くなった。
【0044】
(4)苗株の状態(その1)
実施例1及び比較例1において、歩行型4条田植え機(移植機)を用いて、横送り設定を26回、かき取り幅(縦送り)を8mm、10mm、12mmの3段階として繰り出し走行し、苗株における苗のかき取り本数を調査した。結果を
図13に示す。田植機によるかき取り幅を8mm及び10mmとした際の、苗1株当たり個体数3本以上となった苗株の割合は、散播(比較例1)ではそれぞれ46.7%及び65.7%であったのに対して、条播(実施例1)では夫々80.0%及び81.9%と大幅に向上した。条播では、以上のように高い精度で移植を行うことができることから、水田10アール当たりの水稲栽培に要する育苗装置数はおよそ11箱であり、散播の慣行的な苗箱数である22.5箱に比べ少なくて済む利点がある。
【0045】
(5)苗株の状態(その2)
実施例2,3及び比較例2,3について、歩行型4条田植機により、苗のかき取り試験を行った。田植機の横送り設定を26回、かき取り幅(縦送り)を10mm、12mmの2段階として繰り出し走行し、苗株における苗のかき取り本数を調査した。結果を
図14に示す。田植機によりかき取った苗株のうち、1株当たり苗数5本以上の苗株の割合は、いずれの播種量、かき取り幅とも、条播(実施例2,3)が散播(比較例2,3)に対して上回った。よって、本技術による条播方法で育苗した苗は、従来の散播方法で育苗した苗に比べて、田植機によるかき取り精度が高く、安定していると言える。
【0046】
(6)強度試験
実施例4,5及び比較例4,5について、引っ張り試験を行った。幅10cmの苗マットを用い、育苗箱の短辺方向および長辺方向に各5回、抵抗計RZ-10により計測した。結果を
図15に示す。この結果、条播では、苗集合体Sの上部5を、長辺方向に向かって短辺を26条に区切っていることから、短辺方向の引っ張り抵抗は、いずれの播種量においても散播に比べてほぼ同等乃至小さくなった。一方、長辺方向の引っ張り抵抗は、散播とほぼ同等であった。このことから、条播は、短辺方向には苗株を分離しやすく、長辺方向にはマットの強度がしっかりと保たれる苗マットに仕上がっていることが明らかとなった。短辺方向の引っ張り抵抗は1kgf以上であり、苗を持ち上げる際や、田植機に設置する際に、苗マットがほぐれたり、崩れたりすることはなかった。
【0047】
尚、上記実施の形態において、植物として水稲の例で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、野菜等、どのような植物に本発明を適用して良いことは勿論である。