【文献】
SPADIUT, O. et al.,PROTEIN EXPRESSION AND PURIFICATION,2012年 9月28日,Vol.86, No.2,pp.89-97,[online],URL,https://doi.org/10.1016/j.pep.2012.09.008
【文献】
CHEN, J. et al.,JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY A,2008年 1月11日,Vol.1177, No.2,pp.272-281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィブリノーゲン、第VIII因子およびフォンビルブランド因子(VWF)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のレベルを低下させる方法であって:
(i)原材料中に存在するプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質が疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に結合するように選択された条件下で、フィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む原材料を該樹脂に通過させること;および
(ii)該樹脂を通過したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を回収すること
を含み、該溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の濃度が、原材料と比較して少なくとも50%低下しており、
そして、フィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む原材料および/または溶液を疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に通過させる前に、該疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を6.5から8.5のpHで平衡化する、
前記方法。
工程(ii)で回収したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させることをさらに含む、請求項1に記載の前記方法。
フィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を、150mMから270mMのNaClの存在下で陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる、請求項2に記載の前記方法。
疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂から回収したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液に、ウイルス不活性化工程を行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の前記方法。
疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を通過したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む原材料または溶液のpHが6.5から8.5である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の前記方法。
疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂は、メルカプトエチルピリジン、n−ヘキシルアミンおよびフェニルプロピルアミンからなる群から選択されるリガンドを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書を通じて、文脈で特に必要とされない限り、語句「含む(comprise)」または「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、記述された要素もしくは整数または要素もしくは整数の群を含むが、いかなるその他の要素もしくは整数または要素もしくは整数の群も排除しないことを意味するものと理解されたい。
【0029】
本明細書における全ての先行刊行物(もしくは先行刊行物から得られる情報)または公知の全ての事項への言及は、先行刊行物(もしくは先行刊行物から得られる情報)または公知の事項が、本明細書が関与する開発分野において共通の一般的知識の一部を構成するという認識または承認または何らかの形態の示唆ではなく、かつそのように解釈されないものとする。
【0030】
本明細書で使用したように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で特に明確に記載していなければ、複数の態様を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「製剤」参照する場合は、単一の製剤および2種類以上の製剤を含む。
【0031】
反論を示唆するものがない場合は、本明細書を通じて「%」含量という場合、%w/w(重量/重量)を意味するものと考えられる。例えば、全タンパク質の少なくとも80%のフィブリノーゲンを含む溶液とは、全タンパク質の少なくとも80%w/wの濃度でフィブリノーゲンを含む溶液を意味するものと考えられる。これは、例えば、凝固タンパク質アッセイから得られたフィブリノーゲンの量を標準的タンパク質アッセイ(例えば、ビウレット)から得られた全タンパク質量で割って、100を掛けることによって算出できる。凝固タンパク質アッセイでは、トロンビンを試料に添加すると血餅が形成されるが、この血餅はほとんど全てフィブリンである。血餅は、非凝固タンパク質を含有する上清から遠心分離できる。その後、血餅を洗浄し、アルカリ性尿素またはその他の物質によって溶解し、タンパク質濃度を分光光度法によって測定する。血餅の大部分がフィブリンなので、タンパク質濃度は、フィブリノーゲン濃度に相当する。したがって、試料中の凝固タンパク質の量は、試料の全タンパク質と非凝固タンパク質成分の間の差に相当する。
【0032】
原材料(例えば、血漿または細胞培養上清)からのフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの精製は通常、従来の分画法によって実施され、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFは、例えば、エタノール、硫酸アンモニウム、βアラニン/グリシン、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)および/または低イオン強度溶液を使用して溶液から沈殿される。様々なクロマトグラフィー工程を使用する現在の血漿精製方法は、関心のあるタンパク質の比較的高い収率および均一性での調製を実現することができる。しかし、これらの方法では通常、臨床応用のための安定な液体調製物を製剤化するには適さない量の不純物が残存する調製物が生じる。プロトロンビン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)およびプラスミノーゲンなどの不純物は、不安定化レベルのこれらの不純物は水溶液中においてフィブリノーゲンを加水分解することがあり、したがって、特に製造中および/または長期貯蔵中にフィブリノーゲンを不安定にするので、特に問題である。
【0033】
本発明は、少なくとも一部には、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料を疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)樹脂に通過させ、樹脂を通過したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を回収することが、溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの不安定化レベルを低下させるために既存の精製方法の効果的な代替法であるという発見に基づいている。
【0034】
したがって、本発明の一態様では、フィブリノーゲン、第VIII因子およびフォンビルブランド因子(VWF)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のレベルを低下させる方法であって、
(i)原材料中に存在するプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質が疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に結合するように選択された条件下で、フィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む原材料を該樹脂に通過させること;および
(ii)該樹脂を通過したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を回収すること
を含み、該溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の濃度が、原材料と比較して少なくとも50%低下している、前記方法を提供する。
【0035】
一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む回収溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、原材料と比較して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%低下する。
【0036】
別の態様では、安定な液体フィブリノーゲン溶液を生産する方法であって:
(i)原材料中に存在するプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質が疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に結合するように選択された条件下で、フィブリノーゲンを含む原材料を該樹脂に通過させること;および
(ii)該樹脂を通過したフィブリノーゲンを含む溶液を回収すること
を含み、該溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の濃度が、原材料と比較して少なくとも50%低下している、前記方法を提供する。
【0037】
一実施形態では、フィブリノーゲンを含む回収溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、原材料と比較して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%または少なくとも95%または少なくとも98%低下する。
【0038】
クロマトグラフィー法は通常、本明細書では樹脂またはマトリクスとも同義に称される固体支持体を使用する。適切な固体支持体は、当業者には周知である。例には、ガラスおよびシリカゲルなどの無機担体、アガロース、セルロース、デキストラン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、二機能性アクリル酸のビニルコポリマーおよび様々なヒドロキシル化モノマーなどの合成もしくは天然に生じる有機担体などが含まれる。市販の担体は、Sephadex(商標)、Sepharose(商標)、Hypercel(商標)、Capto(商標)、Fractogel(商標)、MacroPrep(商標)、Unosphere(商標)、GigaCap(商標)、Trisacryl(商標)、Ultrogel(商標)、Dynospheres(商標)、Macrosorb(商標)およびXAD(商標)樹脂の名称で販売されている。
【0039】
クロマトグラフィー工程は一般的に、非変性条件下で、約+10℃から+30℃の範囲の都合のよい温度で、より一般的には周囲温度で実施する。クロマトグラフィー工程は、適宜、バッチ式で、または連続的に実施してもよい。カラム、遠心、濾過、傾瀉などの都合のよいいかなる分離方法を使用してもよい。
【0040】
しばしばミックスモードまたはマルチモードクロマトグラフィーとも呼ばれる疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)は、当業者には周知である。HCICは、固体支持体に連結した結合部分を使用しており、この結合部分は、本発明の方法に従って、原材料中の不純物(例えば、プロトロンビン、tPAおよびプラスミノーゲンなどの酵素前駆体およびプロテアーゼ)を代表とする1種または複数のタンパク質に対して特異的であってもよい。
【0041】
当業者公知の任意の適切なHCIC樹脂を使用することができる。一実施形態では、HCIC樹脂は、メルカプトエチルピリジン(4−メルカプトエチルピリジン、例えば、MEP Hypercel(商標))、n−ヘキシルアミン(例えば、HEA Hypercel(商標))およびフェニルプロピルアミン(例えば、PPA Hypercel(商標))からなる群から選択されるリガンドを含む。一実施形態では、HCIC樹脂は、n−ヘキシルアミンを含む。
【0042】
HEA、MEPおよびPPAなどのHCICリガンドは、タンパク質の表面疎水性に基づいて分離を可能にするが、疎水性クロマトグラフィー(例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー;HIC)を使用したフィブリノーゲンを精製するためのその他の方法でしばしば見られるリオトロピック塩の添加を必要としないことが利点である。伝統的な疎水性相互作用クロマトグラフィーとは対照的に、HCICは、塩濃度よりもpHに基づいて制御される。HCIC樹脂はまた、高い結合能および速い流速を実現し、研究室および産業規模の精製に理想的である。
【0043】
HCIC樹脂は、床高約2cmから約40cmのカラムに充填されることが多い。産業規模では、床高は通常少なくとも10cmで、典型的には約15cmから25cmの範囲である。産業用カラムのカラム径は、20cmから約1.5mまでの範囲であってもよい。このようなカラムは、HCIC樹脂製造指示書による流速で操作され、典型的な流速は50〜100cm/hrの範囲である。流速に上限があるのは、一部にはHCIC樹脂に圧力の制約があるためである。HEA樹脂では、例えば、操作圧の上限は<3bar(<300kPa)である。HCIC樹脂の典型的な動的結合容量(結合タンパク質の10%が破過する)は、樹脂1mL当たり結合タンパク質約20から30mgである。本発明では、フィブリノーゲンのような豊富なタンパク質はカラムを通過することができる一方、プラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼなどのあまり多くないタンパク質はHCIC樹脂に結合するので、HCICカラムに比較的大量のタンパク質を添加することが可能である。バッチの処理にはサイズのより小さいカラムおよび/またはより少ないカラム使用回数のいずれかが必要となるので、このことは産業規模の製造のために有利である。
【0044】
本発明者等はまた、本発明の方法によってHCIC樹脂を通過したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料のpHは、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの回収率および不純物の除去を制御するために調節できることを発見した。したがって、本明細書で開示した実施形態では、HCIC樹脂を通過したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料のpHは約6.0から約9.5である。特定の実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料は、好ましくは約4.0、5.0、5.25、5.5、5.75、6.0、6.25、6.5、6.75、7.0、7.25、7.5、7.75、8.0、8.25、8.5、8.75、9.0、9.25、9.5または10.0のpHでHCIC樹脂を通過する。特定の実施形態では、HCIC樹脂を通過したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料のpHは約7.0である。特定の実施形態では、溶液または原材料を添加する前に、HCIC樹脂を約4.0、5.0、5.25、5.5、5.75、6.0、6.25、6.5、6.75、7.0、7.25、7.5、7.75、8.0、8.25、8.5、8.75、9.0、9.25、9.5または10.0のpHに平衡化する。
【0045】
本発明の方法はまた、必要に応じて、他の不純物を除去するために複数のさらなるクロマトグラフィー工程を採用し、こうして最終調製物の純度を高めることができる。さらなるクロマトグラフィー精製工程は、本発明によるHCIC樹脂でのフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの精製前後のいずれかに実行することができる。例えば、工程(ii)においてHCIC樹脂から回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を、別のクロマトグラフィー樹脂に通過させることができる。
【0046】
さらなるクロマトグラフィー精製工程は、別のHCIC樹脂を使用してもよい。したがって、本発明の別の態様では、フィブリノーゲン、第VIII因子およびフォンビルブランド因子(VWF)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のレベルを低下させる方法であって:
(i)フィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む原材料を第1の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に通過させること;
(ii)第1の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を通過したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を回収すること;
(iii)工程(ii)で回収した溶液を第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に通過させること;および
(iv)第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を通過したフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含む溶液を回収すること;
を含み、ここでクロマトグラフィー工程の条件は、原材料中に存在するプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質が第1および/または第2の樹脂に結合するような条件であり、工程(iv)で回収した溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の濃度が、原材料と比較して少なくとも50%低下している、前記方法を提供する。
【0047】
一実施形態では、工程(iv)で回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、原材料と比較して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%または少なくとも95%または少なくとも98%低下している。
【0048】
別の態様では、安定した液体フィブリノーゲン溶液を製造する方法であって:
(i)フィブリノーゲンを含む原材料を第1の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に通過させること;
(ii)第1の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を通過したフィブリノーゲンを含む溶液を回収すること;
(iii)工程(ii)で回収した溶液を第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に通過させること;および
(iv)第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂を通過したフィブリノーゲンを含む溶液を回収すること;
を含み、ここでクロマトグラフィー工程の条件は、原材料中に存在するプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質が第1および/または第2の樹脂に結合するような条件であり、工程(iv)で回収した溶液中におけるプラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子およびその他のプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の濃度が、原材料と比較して少なくとも50%低下している、前記方法を提供する。
【0049】
一実施形態では、工程(iv)で回収したフィブリノーゲン含む溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、原材料と比較して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%または少なくとも95%または少なくとも98%低下している。
【0050】
本明細書で開示した実施形態では、第2のHCIC樹脂は、第1のHCIC樹脂とは異なる。本明細書で開示した別の実施形態では、第1および第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂は同じである。工程(ii)でHCIC樹脂から回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を同じHCIC樹脂を通過させる場合、樹脂に結合し得るいかなる不純物も除去するために、工程(ii)の後および工程(iii)で回収した溶液を再度HCIC樹脂に通過させる前に、HCIC樹脂を洗浄することが所望されることがある。
【0051】
さらなるクロマトグラフィー樹脂はまた、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂であってもよい。陰イオン交換クロマトグラフィーにおいて、負荷電を有する分子は、正荷電を有する固体支持体に引きつけられる。正荷電を有する固体支持体は、当業者公知の任意の手段によって調製することができ、固体支持体に負荷電を有する機能的リガンドを共有結合することが通常必要である。適切な負荷電を有する機能的リガンドは、溶液から分離しようとする分子によってほぼ決まる。適切な陰イオン交換樹脂の例は、機能的な第四級アミン基(Q)および/または第三級アミン基(DEAE)またはジエチルアミノプロピル基(ANX)を含む樹脂である。市販の陰イオン交換クロマトグラフィーマトリクスには、限定はしないが、DEAEセルロース、Applied Biosystems社製のPoros(商標)PI20、PI50、HQ10、HQ20、HQ50、D50、GE Healthcare社製のMonoQ(商標)、MiniQ(商標)、Source(商標)15Qおよび3OQ、Q、DEAEおよびANX Sepharose Fast Flow(商標)、Q Sepharose high Performance(商標)、QAE SEPHADEX(商標)およびFAST Q SEPHAROSE(商標)、J.T.Baker社製のWP PEI(商標)、WP DEAM(商標)、WP QUAT(商標)、Biochrom Labs Inc.社製のHydrocell(商標)DEAEおよびHydrocell(商標)QA、Biorad社製のUNOsphere(商標)Q、Macro−Prep(商標)DEAEおよびMacro−Prep(商標)High Q、Pall Technologies社製のCeramic HyperD(商標)Q、ceramic HyperD(商標)DEAE、Q HyperZ(商標)、Trisacryl(商標)MおよびLS(商標)DEAE、Spherodex(商標)LS DEAE、QMA Spherosil(商標)LS、QMA Spherosil(商標)M、Dow Liquid Separations社製のDOWEX(商標)Fine Mesh Strong Base Type IおよびType II Anion MatrixおよびDOWEX(商標)MONOSPHER E77、弱塩基性陰イオン、Millipore社製のMatrex Cellufine(商標)A200、A500、Q500およびQ800、EMD社製のFractogel(商標)EMD TMAE
3 Fractogel(商標)EMD DEAEおよびFractogel(商標)EMD DMAE、Sigma− Aldrich社製のAmberlite(商標)弱および強陰イオン交換体type IおよびII、DOWEX(商標)弱および強陰イオン交換体type IおよびII、Diaion(商標)弱および強陰イオン交換体type IおよびII、Duolite(商標)、Tosoh社製のTSK(商標)ゲルQおよびDEAE 5PWおよび5PW−HR、Toyopearl(商標)SuperQ−650S、650Mおよび650C
3QAE−26−550Cおよび650S、DEAE−65OMおよび650C、ならびにWhatman社製のQA52(商標)、DE23(商標)、DE32(商標)、DE51(商標)、DE52(商標)、DE53(商標)、Express−Ion(商標)DおよびExpress−Ion(商標)Qが含まれる。
【0052】
所望に応じて、陰イオン交換クロマトグラフィーマトリクスの代わりに、陰イオン交換クロマトグラフィー膜を使用してもよい。市販の陰イオン交換膜には、限定はしないが、Sartorius社製のSartobind(商標)Q、Pall Technologies社製のMustang(商標)QおよびMillipore社製のIntercept(商標)Q膜が含まれる。
【0053】
本明細書で開示した一実施形態では、陰イオン交換樹脂は強陰イオン交換樹脂である。本明細書で開示した別の実施形態では、強陰イオン交換樹脂には、第四級アミン機能性リガンド(例えば、MacroPrep(商標)−HQ;Bio−Rad Laboratoriesに見られるような−N
+(CH
3)
3)が含まれる。さらに別の実施形態では、陰イオン交換樹脂は、GigaCap Q−650M(登録商標)などの架橋基を介してヒドロキシル化メタクリル酸ポリマーに接合したトリメチルアミン基である。
【0054】
一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーは、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFに関してポジティブモードで実施される。すなわち、使用した条件は、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料が陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過するとき、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFは樹脂に連結した正荷電を有する官能基に結合し、溶液中の不純物は樹脂からフロースルー(素通り)画分に通過させ、廃棄またはその他の目的のために回収することができるような条件である。フロースルー画分が一旦樹脂を通過したら、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を当業者公知の適切な洗浄緩衝液で洗浄することができる。洗浄緩衝液の構成物および洗浄工程の条件は通常、樹脂に結合したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFが洗浄工程中保持されるように選択する。当業者はまた、洗浄緩衝液を参照する場合は、溶出緩衝液またはクロマトグラフィーに関して類似の緩衝液は、緩衝能が限定された、または緩衝能のない溶液を含むことができることを認識するだろう。
【0055】
本明細書で開示した一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂からフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを溶出する前に、イプシロン−アミノカプロン酸(ε−ACA)を含む洗浄液で樹脂を洗浄する。洗浄緩衝液にε−ACAを添加することによって、最初の通過中に陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合する可能性があるプロテアーゼ(プラスミノーゲンなど)の溶出を促進することができる。適切な洗浄工程の一例は、米国特許第6,960,463号に記載されている。
【0056】
陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合したままのフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを溶出させるために、当業者公知の任意の適切な溶出緩衝液を使用することができる。フィブリノーゲンを含む溶液からプラスミノーゲンおよび/またはt−PAおよび/またはその他のプロテアーゼを除去するために、本発明者等は、約150mMから約300mMのNaClを含む溶出緩衝液が、同様に樹脂に結合することがあるフィブリノーゲン凝集物および/またはその他のタンパク質(例えば、第VIII因子、VWF、フィブロネクチンまたはプロテアーゼ)の溶出を最小限に抑え、陰イオン交換樹脂からフィブリノーゲンモノマーを溶出させることを発見した。したがって、本明細書で開示した一実施形態では、フィブリノーゲンを、約150mMから約300mMのNaClを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。これは、伝導率の範囲が約18mS/cm(150mM NaCl)から約32mS/cm(300mM NaCl)の溶出緩衝液と同等である。
【0057】
別の実施形態では、フィブリノーゲンを、NaCl約150mMから約270mMを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。これは、伝導率の範囲が約18mS/cm(150mM NaCl)から約29mS/cm(270mM NaCl)の溶出緩衝液と同等である。
【0058】
別の実施形態では、フィブリノーゲンを、約170mMから約230mMのNaClを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。これは、伝導率の範囲が約19mS/cm(170mM NaCl)から約25mS/cm(230mM NaCl)の溶出緩衝液と同等である。
【0059】
別の実施形態では、フィブリノーゲンを、約200mMから約220mMのNaClを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。これは、伝導率の範囲が約22mS/cm(200mM NaCl)から約24mS/cm(220mM NaCl)の溶出緩衝液と同等である。
【0060】
別の実施形態では、フィブリノーゲンを、約190mMから約210mMのNaClを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。
【0061】
別の実施形態では、フィブリノーゲンを、約150mMから約190mMのNaClを含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させる。
【0062】
別の実施形態では、溶出緩衝液の伝導率は、18から32mS/cm;または20から25mS/cm;または21から23.5mS/cm;または22から23mS/cmの範囲である。好ましい実施形態では、溶出緩衝液の伝導率は約22.5mS/cmである。
【0063】
本明細書で開示した実施形態では、溶出緩衝液は、フィブリノーゲンの凝集物よりもフィブリノーゲンモノマーの溶出を促進する濃度の遊離アミノ酸を含む。別の実施形態では、溶出緩衝液は、約0.5から10%(w/w)の濃度の遊離アミノ酸を含む。任意の適切な遊離アミノ酸をこの濃度範囲で使用することができる。一実施形態では、遊離アミノ酸はアルギニンである。別の実施形態では、溶出緩衝液は、約4から約10%(w/w)の範囲のアルギニンを含む。
【0064】
その他の実施形態では、溶出緩衝液は、200mM NaCl、0.5%(w/w)アルギニン;または160mM NaCl、1%(w/w)アルギニンを含む。
【0065】
一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーは、フィブリノーゲンに関してはネガティブモードで、第VIII因子および/またはVWFに関してはポジティブモードで実施される。すなわち、使用した条件は、フィブリノーゲンおよび第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料が陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過するとき、第VIII因子および/またはVWFは樹脂に連結した正荷電を有する官能基に結合し、溶液中のフィブリノーゲンは樹脂からフロースルー(素通り)画分に通過させるような条件である。フィブリノーゲンを含有するフロースルー画分が一旦樹脂を通過したら、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を当業者公知の適切な洗浄緩衝液で洗浄することができる。洗浄緩衝液の構成物および洗浄工程の条件は通常、樹脂に結合した第VIII因子および/またはVWFが洗浄工程中保持されるように選択する。
【0066】
一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料を、約150mMから約270mMのNaClの存在下で陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる。これは、伝導率の範囲が約18mS/cm(150mM NaCl)から約29mS/cm(270mM NaCl)と同等である。これらの条件下で、特にモノマー型のフィブリノーゲンは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過し、凝集物ならびにIgGおよびフィブロネクチンなどのその他の不純物を含有するフィブリノーゲンは樹脂に結合する。他の実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または原材料は、約170mMから約230mM(約19mS/cmから約25mS/cm)のNaClまたは約200mMから約220mM(約22mS/cmから約24mS/cm)のNaClの存在下で陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過する。この種の条件下では、第VIII因子および/またはVWFは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合することが予測される。
【0067】
第VIII因子および/またはVWFを、NaClなどの塩を少なくとも300mM含む溶出緩衝液で陰イオン交換樹脂から溶出させることができる。特定の実施形態では、第VIII因子および/またはVWFを、約500mMのNaClでイオン交換樹脂から溶出させる。フィブリノーゲンおよび第VIII因子および/またはVWFが陰イオン交換樹脂に結合する場合、溶出工程は、フィブリノーゲンが最初に溶出し(例えば、前記の実施形態で設定した条件を使用して)、次いで500mM NaClなどのより高濃度の塩を使用して第VIII因子および/またはVWFが溶出できるように実施することができる。
【0068】
陰イオン交換クロマトグラフィー工程を使用する場合、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料をHCIC樹脂に通過させる前および/または後のいずれかで実施することができる。本明細書で開示した一実施形態では、方法はさらに、工程(ii)で回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させることを含む。別の実施形態では、本明細書で記載したように、第1および第2のHCICクロマトグラフィー工程を使用する場合、方法はさらに、工程(ii)および/または工程(iv)で回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させることを含む。
【0069】
本明細書で開示した一実施形態では、方法はさらに、工程(i)の前に、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料を陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させることを含む。
【0070】
当業者であれば、本発明によって使用した追加のクロマトグラフィー工程の数は、最終調製物に必要な純度のレベルに左右されることを理解しているものと予想される。例えば、本発明の方法は、本明細書で開示したように、2、3、4または5回のクロマトグラフィー工程を含んでいてもよい。例えば、方法に2回のクロマトグラフィーが含まれる場合、工程の順番は、HCIC/IEXまたはHCIC/HCICまたはIEX/HCICであり;方法に3回のクロマトグラフィー工程が含まれる場合、工程の順番はHCIC/IEX/HCICまたはHCIC/HCIC/IEXまたはHCIC/HCIC/HCICまたはHCIC/IEX/IEXまたはIEX/HCIC/HCICまたはIEX/HCIC/IEXまたはIEX/IEX/HCICであり;方法に4回のクロマトグラフィー工程が含まれる場合、工程の順番はHCIC/IEX/HCIC/HCICまたはHCIC/HCIC/IEX/HCICまたはHCIC/HCIC/HCIC/IEXまたはHCIC/HCIC/HCIC/HCICまたはHCIC/IEX/IEX/HCICまたはHCIC/IEX/IEX/IEXまたはHCIC/HCIC/IEX/IEXまたはHCIC/IEX/HCIC/IEXまたはIEX/HCIC/IEX/HCICまたはIEX/HCIC/HCIC/IEXまたはIEX/HCIC/HCIC/HCICまたはIEX/HCIC/IEX/IEXまたはIEX/IEX/HCIC/HCICまたはIEX/IEX/HCIC/IEXまたはIEX/IEX/IEX/HCICである;などである(「IEX」は陰イオン交換クロマトグラフィーを示す)。必要な純度レベルは、溶液の企図する使用(例えば、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWF不足の患者の治療のため)および/または水性調製物としてより長期の貯蔵期間が必要である場合によって決定される。
【0071】
クロマトグラフィーは、当業者公知の任意の手段を使用して実施することができる。例えば、本発明によるクロマトグラフィー工程は、GE Healthcare、Pall CorporationおよびBio−Radから入手可能なものなどの軸流カラムを使用するか、またはProxcysから入手可能なものなどの放射流カラムを使用することができる。本発明によるクロマトグラフィー工程はまた、膨張床技術を使用して実行することができる。
【0072】
一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む回収溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、原材料と比較して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%または少なくとも95%低下している。
【0073】
プラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼなどの不純物の除去を最大限にする方法は、溶液中のフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの安定性および効率が、特に長期貯蔵中において明らかに改善されるので、特に有利である。液体形態での貯蔵は、患者にすぐに使用することができるので、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液には特に有利である。精製したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの凍結乾燥調製物の使用では、それらを必要とする対象に投与する直前に、注射用に適切な緩衝液および/または水で凍結乾燥タンパク質を再構成することが必要であるのとは対照的である。
【0074】
フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液からプロテアーゼまたはそれらの酵素前駆体(プラスミノーゲンなど)を除く利点は、残存するプロテアーゼおよび/または酵素前駆体(例えば、プラスミンまたはプラスミノーゲン)を阻害するために抗線溶剤を添加する必要性を最小限に抑えられることである。このような薬剤の例には、プラスミンのウシタンパク質阻害剤であるアプロチニン;神経毒副作用も付随する合成プラスミン阻害剤であるトラネキサム酸が含まれる。
【0075】
他の有利な特性は、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液からHCICによって分離したプラスミノーゲンは、さらに処理して、例えば、臨床使用するためにプラスミノーゲン含有濃縮物を作製できることである。したがって、HCICを使用して単一の開始溶液からプラスミノーゲンならびにフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液の両方を調製することができる。
【0076】
他の有利な特性は、HCIC樹脂の生産費用がアフィニティークロマトグラフィー法で使用するリシン−セファロース(商標)または固定されたリシン樹脂の費用よりもはるかに経済的であることである。
【0077】
他の有利な特性は、プロテアーゼ(例えば、第II因子)を除去するために、HCICを水酸化アルミニウム(例えば、アルハイドロゲル(商標))工程と置き換えて使用できることである。アルハイドロゲル(商標)は現在、第VIII因子およびVWFの商用生産において広く使用されている。しかし、この材料は、バッチ当たり通常使用される100kgではかなり費用が高い。さらに、アルハイドロゲル(商標)は、手動の取り扱いを必要とすることが多く、この材料は1回使用した後に廃棄する。対照的に、HCIC工程は完全に自動化することができ、樹脂は複数のバッチの製造において使用することができる。
【0078】
別の有利な特性は、カラムの洗浄および樹脂の浄化法の最中にウイルスおよびプリオンを含む病原体の不活性化および除去するために使用することができるNaOH1MにHCIC樹脂が適合することである。
【0079】
本発明の方法から得られた液体調製物はまた、費用のかかる貯蔵および輸送手段を必要とし、使用直前に解凍しなければならない凍結調製物を使用するよりも有利である。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを凍結乾燥または凍結した調製物として貯蔵する場合でも、再構成または解凍したタンパク質がより長期間安定であるため有利である。例えば、材料を医療処置のために万一に備えて再構成したが、医学的考察に基づいて使用が必要とされなかった場合、このことは明らかである。こういった材料は、プロトロンビンおよび/またはt−PAおよび/またはその他のプロテアーゼが存在するためにフィブリノーゲンはわずかな短い期間しか安定ではないので、通常は廃棄される。
【0080】
特定の実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含有する本発明の液体調製物は、液体または凍結乾燥または凍結した調製物として貯蔵する。
【0081】
本発明の別の態様では、フィブリノーゲンを精製する方法であって:
(i)フィブリノーゲンモノマーがイオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合するように選択された条件下で、フィブリノーゲンを含む溶液を該樹脂に通過させる工程;
(ii)該樹脂からフィブリノーゲンモノマーを溶出緩衝液で溶出させる工程;および
(iii)工程(ii)からの溶出したフィブリノーゲンモノマーを、孔径が約15nmから約35nmの範囲のフィルターで濾過する工程
を含む、前記方法を提供する。
【0082】
一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶液(工程(i))は、プラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼが疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂に結合し、フィブリノーゲンが該樹脂を通過するように選択された条件下で、フィブリノーゲンを含む原材料を該樹脂に通過させた後で回収する。
【0083】
一実施形態では、イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂または陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から選択する。
【0084】
一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、強陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂または弱陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂である。一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂には、第四級アミノ基が含まれる。例には、第四級アルキルアミンおよび第四級アルキルアルカノールアミン、またはアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノプロピル、アミノ、トリメチルアンモニウムエチル、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチルエタノールベンジルアンモニウムおよびポリアミンが含まれる。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は第三級もしくは第四級アミンが接合したポリマー支持体であるか、または第三級もしくは第四級アミンが接合したヒドロキシル化ポリマー支持体である。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂には、メタクリル酸ポリマー支持体が含まれる。一実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂はMacroPrep(商標)HQである。別の実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂はGigaCap(商標)Q−650Mである。その他の実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂はカラムに充填する。
【0085】
所望に応じて、陰イオン交換クロマトグラフィー膜は、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂の代わりに使用することができる。市販の陰イオン交換クロマトグラフィー膜には、限定はしないが、Sartorius社製のSartobind(商標)Q、Pall Technologies社製のMustang(商標)QおよびMillipore社製のIntercept(商標)Q膜が含まれる。
【0086】
一実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、強陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂または弱陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂である。
【0087】
市販の陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂には、限定はしないが、例えば、スルホン酸をベースにした基(例えば、GE Healthcare社製のMonoS、MiniS、Source(商標)15Sおよび30S、SP Sepharose Fast Flow(商標)、SP Sepharose High Performance(商標)、Tosoh社製のToyopearl(商標)SP−650SおよびSP−650M、BioRad社製のMacro−Prep High(商標)S、Pall Technologies社製のCeramic HyperD(商標)S、Trisacryl(商標)MおよびLS(商標)SPおよびSpherodex(商標)LS SP);スルホエチルをベースにした基(例えば、EMD社製のFractogel(商標)SE、Applied Biosystems社製のPoros(商標)S−10およびS−20);スルホプロピルをベースにした基(例えば、Tosoh社製のTSK(商標)Gel SP 5PWおよびSP−5PW−HR、Applied Biosystems社製のPoros(商標)HS−20およびHS 50);スルホイソブチルをベースにした基(例えば、EMD社製のFractogel(商標)EMD SO3”);スルホキシエチルをベースにした基(例えば、Whatman社製のSE52、SE53およびExpress−Ion S)、カルボキシメチルをベースにした基(例えば、GE Healthcare社製のCM Sepharose Fast Flow(商標)、Biochrom Labs Inc.社製のHydrocell(商標)CM、BioRad社製のMacro−Prep(商標)CM、Pall Technologies社製のCeramic HyperD(商標)CM、Trisacryl(商標)M CM、Trisacryl(商標)LS CM、Millipore社製のMatrex Cellufine(商標)C500およびC200、Whatman社製のCM52(商標)、CM32(商標)、CM23(商標)およびExpress(商標)Ion C、Tosoh社製のToyopearl(商標)CM−650S、CM−650MおよびCM−650C);スルホン酸およびカルボン酸をベースにした基(例えば、J.T.Baker社製のBAKERBOND(商標)Carboxy−Sulfon);カルボン酸をベースにした基(例えば、J.T Baker社製のWP(商標)CBX、Dow Liquid Separations社製のDOWEX MAC−3(商標)、Sigma−Aldrich社製のAmberlite(商標)弱陽イオン交換体、DOWEX(商標)弱陽イオン交換体およびDiaion(商標)弱陽イオン交換体ならびにEMD社製のFractogel(商標)EMD COO−);スルホン酸をベースにした基(例えば、Biochrom Labs Inc.社製のHydrocell(商標)SP、Dow Liquid Separations社製のDOWEX(商標)Fine Mesh Strong Acid Cation Matrix、J.T.Baker社製のUNOsphere(商標)S、WP Sulfonic、Sartorius社製のSartobind(商標)S膜、Sigma−Aldrich社製のAmberlite(商標)Strong Cation Exchanger、DOWEX(商標)Strong CationおよびDiaion Strong Cation Exchanger);ならびにオルトリン酸をベースにした基(例えば、Whatman社製のPl 1)を有するものが含まれる。所望に応じて、陽イオン交換クロマトグラフィー膜、例えば、Sartobind(商標)S(Sartorius;Edgewood、NY)は、陽イオン交換マトリクスの代わりに使用することができる。
【0088】
一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶液のpHは約pH7からpH10の範囲である。一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶液のpHは約pH8である。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、フィブリノーゲンを含む溶液と類似のpHを有する緩衝液で予め平衡化し、フィブリノーゲン添加後に洗浄する。
【0089】
一実施形態では、溶出緩衝液の伝導率は、約18から約30mS/cmの範囲である。例えば、溶出緩衝液の伝導率は、約18から約25mS/cm;または約19から約24mS/cm;または約20から約24mS/cm;または約21から約23mS/cmの範囲であってもよい。一実施形態では、溶出緩衝液の伝導率は約22mS/cmである。その他の実施形態では、溶出緩衝液はNaClを含む。一実施形態では、溶出緩衝液は、NaClを約180mMから約230mM、または約190mMから約210mMの範囲の濃度で含む。一実施形態では、溶出緩衝液のNaCl濃度は約200mMである。
【0090】
一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液は、約0.5から約10mg/mLのタンパク質濃度を含有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液のタンパク質濃度は、約4から約8mg/mLの範囲である。特定の実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液は、約6mg/mLである。
【0091】
一実施形態では、濾過(工程(iii))の前に、溶出したフィブリノーゲンモノマーに、1種または複数のアミノ酸が配合される。一実施形態では、アミノ酸は、アルギニンまたはグリシンまたはそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液におけるアミノ酸の濃度は、約0.5から約10%(w/w)の範囲である。一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液におけるアミノ酸の濃度は、約1%から約6%(w/w)、または約2%から約6%(w/w)、または約2%から約5%(w/w)である。一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶出緩衝液は、約2%、または約3%、または約4%、または約5%(w/w)のアルギニンが配合される。
【0092】
一実施形態では、溶出したフィブリノーゲンモノマーのpHは約pH7から約pH9である。
【0093】
一実施形態では、工程(ii)のフィルターの孔径は、約15nmから約35nm;または約15nmから約30nm;または約15nmから約25nm;または約15nmから約20nmの範囲である。
【0094】
ウイルス濾過は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)または「デッドエンド」濾過(通常フロー濾過としても知られている)のいずれかを使用して実施することができる。ウイルスフィルターは元々、TFFにおいて非対称膜の上部スキン層に隣接した供給流を用いて使用するために考案された。TFFは、濃度の偏りおよび付着を抑えるために、膜表面を掃引することによって高い流速を実現する。しかし、デッドエンド濾過は簡単で費用が低いので、デッドエンド濾過用に特に考案されたウイルスフィルターが普及することになった。TFFとは対照的に、これらのデッドエンドフィルターは通常、供給流に面した膜のより解放された側で操作されるので、タンパク質凝集物およびその他の付着物がマクロ多孔質な基礎部分内に捕捉され、それによってウイルスを保持するスキン層が保護される。使い捨てのデッドエンドフィルターを使用する利点には、系の設計および検証が簡単で、労力および費用が抑えられることが含まれる。
【0095】
デッドエンド濾過には通常、表面から膜内へ流体を向かわせる単一のポンプを使用することが必要である。
【0096】
タンジェンシャル濾過には一般的に、フィルター膜の表面で一定の流速を維持するための第1のポンプおよび膜の裏で陰圧を生じさせることによって膜内へタンパク質を引き込む第2のポンプが必要である。
【0097】
一実施形態では、濾過はデッドエンド濾過によって実施する。
【0098】
一実施形態では、デッドエンド濾過方法は、一定圧濾過または一定速度濾過のいずれかを使用して実施する。一実施形態では、デッドエンド濾過方法は、一定圧濾過を使用して実施する。
【0099】
濾過は通常、本明細書で使用するウイルス除去膜の材料に応じて、膜が持ちこたえられるレベルと同じか、または下回る濾過圧、例えば、約0.2から約3.4barの圧で実施する。一実施形態では、濾過圧は、約0.2barから約3.4barの間で維持する。別の実施形態では、濾過圧は、約1から約3bar;または約1から約2bar;または約1.2から約2barで維持する。別の実施形態では、濾過圧は、約1.5barから約1.9barで維持する。
【0100】
温度は、タンパク質溶液の粘度およびウイルス除去膜による濾過の流速に影響を及ぼすことがある。当業者には、濾過工程で使用する溶液は通常、約0℃から関心のあるタンパク質が変性する温度までの範囲内の温度であることは理解されよう。溶液の温度は、約10℃から約50℃までの範囲内であると適切である。一実施形態では、溶液の温度は、約18℃から約35℃までの範囲内である。別の実施形態では、溶液は、約18℃から約26℃の室温で濾過する。
【0101】
一実施形態では、ウイルスフィルターの能力は、フィルター表面積の1m
2当たり少なくとも0.20kgまたは少なくとも0.50kgまたは少なくとも0.75kgまたは少なくとも1.00kgまたは少なくとも1.25kgまたは少なくとも1.50kgまたは少なくとも2kgのフィブリノーゲンである。
【0102】
場合により、大きなサイズの粒子を除去するために、ウイルス濾過の前に前濾過または清澄濾過工程を使用することができる。一実施形態では、前濾過は、ウイルス除去膜よりも大きな孔径の膜を含むプレフィルターで実施する。一実施形態では、プレフィルターは、孔径約0.1μmの膜フィルターである。別の実施形態では、プレフィルターは、Pallナイロン膜フィルター(SKL 7002 NTP 0.1μmもしくはFTKNI)またはタンパク質凝集物および/または微粒子の除去のために類似の特性を有する市販のその他のプレフィルターから選択する。前濾過は、ウイルスフィルターと並べて、またはウイルスフィルターとは並べずに実施することができる。一実施形態では、前濾過は、ウイルスフィルターと並べて実施する。
【0103】
本発明のこの態様によるウイルス濾過法に適したフィルターは、当業者に公知であろう。一例には、特にPlanova BioEx(商標)が含まれる。このようなフィルターは、時々「小型ウイルス」除去フィルターと呼ばれる。
【0104】
一実施形態では、フィルター膜は、平板シートまたは中空線維膜である。平板シート膜の例には、Pegasus(商標)SV4等級小型ウイルス除去フィルター(Pall Corporation)などの親水化したPVDFフィルター膜が含まれる。一実施形態では、フィルターは、Pegasus(商標)SV4等級である。
【0105】
その他の実施形態では、フィルター膜は、中空線維膜である。中空線維膜は、各中空線維の壁が、細かい毛細管と相互接続した空隙から構成された孔の3次元ウェブ構造を含有するストロー型の中空線維の束を含有していてもよい。中空線維フィルターの例には、中空線維膜形態に親水性に改変されたフッ化ポリビニリデン(PVDF)を組み込んだPlanova(商標)BioEX(商標)フィルター(Asahi Kasei Corporation)が含まれる。一実施形態では、フィルターは、Planova(商標)BioEXである。
【0106】
一実施形態では、2種類以上の小型ウイルスフィルターを連続して使用する。一実施形態では、濾過は、約15から約20nmの範囲の孔径の連続した2種類のフィルターを使用して実施する。このような濾過工程によって、パルボウイルス様MVMのために少なくともLRV6.9logLRVでフィブリノーゲンを製造することが潜在的に可能である。
【0107】
本発明の別の態様では、溶液中に存在するフィブリノーゲンがイオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過するように選択された条件下で、フィブリノーゲンを含む溶液を該樹脂に通過させる。すなわち、イオン交換クロマトグラフィーは、溶液が樹脂を通過したとき、溶液中に存在するフィブリノーゲン凝集体、プラスミノーゲンおよびフィブロネクチンなどの不純物は、樹脂に連結した荷電を有する官能基に結合し、溶液中に存在するフィブリノーゲン、特にフィブリノーゲンモノマーは、樹脂からフロースルー(素通り)画分に通過するような条件下で、フィブリノーゲンに関してネガティブモードで実施される。フィブリノーゲンを含有するフロースルー画分が一旦樹脂を通過したら、イオン交換クロマトグラフィー樹脂を当業者公知の適切な洗浄緩衝液で洗浄することができる。洗浄緩衝液の構成物および洗浄工程の条件は通常、結合した不純物が洗浄工程中樹脂に保持されるように選択する。
【0108】
一実施形態では、イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂または陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から選択する。
【0109】
一実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶液を、約150mMから約270mMのNaClの存在下で陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる。これは、約18mS/cm(150mM NaCl)から約29mS/cm(270mM NaCl)の範囲の伝導率と同等である。これらの条件下で、特にモノマー形態のフィブリノーゲンは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過し、一方、凝集物ならびにプラスミノーゲンおよびフィブロネクチンなどのその他の不純物を含有するフィブリノーゲンは樹脂に結合する。他の実施形態では、フィブリノーゲンを含む溶液は、約170mMから約230mM(約19mS/cmから約25mS/cm)のNaClまたは約200mMから約220mM(約22mS/cmから約24mS/cm)のNaClの存在下で陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を通過する。この種の条件下で、不純物は陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、フィブリノーゲンは樹脂からフロースルー画分に通過すると予測される。
【0110】
本発明の方法によって回収されたフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液は、室温であっても、既存の凍結乾燥調製物よりも安定性が高いフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの調製物を形成するので、有利である。必要に応じて、輸送および/または貯蔵中に低温を確保することができない長期輸送経路において、このことは特に有利であり得る。溶液中におけるフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの安定な貯蔵はまた、多くの点で、製造、使用、輸送およびそれらを必要とする患者への投与を容易にする。本発明によって調製したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFは安定性が高いので、多くの医薬品調製物において、状況によっては望ましくない副作用を導く可能性があるか、または潜在的危険性を低下させるために回避すべき繊維素溶解阻害剤またはフィブリノーゲン溶解阻害剤などの安定剤を添加しないで済ませることが可能である。
【0111】
本明細書で使用した「安定」という用語は、貯蔵前のフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの活性レベルと比較して(例えば、本発明によるフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液の回収直後に測定された活性レベルと比較して)、貯蔵期間後のフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの活性の損失がほとんどないか、または実質的にないことを意味する。本明細書で開示した一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液は、約0℃から約30℃の温度で、貯蔵期間後に少なくとも70%の活性、好ましくは少なくとも80%の活性、より好ましくは少なくとも90%の活性、さらにより好ましくは少なくとも95%の活性、最も好ましくは100%の活性を保持している。当業者であれば、フィブリノーゲン活性は貯蔵期間開始直前のフィブリノーゲン調製物で測定することができ、この初期値を100%活性と指定して使用して、貯蔵期間中の様々な時点で測定したフィブリノーゲン活性をこれと比較したこの初期値に対する割合として表現できることが理解されよう。
【0112】
本明細書で開示した一実施形態では、本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンは、約2℃から約8℃の温度で溶液を貯蔵して少なくとも4週間後に約90%から100%の活性を保持しており、好ましくは約2℃から約8℃の温度で溶液を貯蔵して4週間後に約90%の活性を保持している。本明細書で開示した別の実施形態では、フィブリノーゲンは、約30℃の温度で溶液を貯蔵して少なくとも4週間後に約60%から80%の活性を保持しており、好ましくは約30℃の温度で溶液を貯蔵して5週間後に約60%から約70%の活性を保持している。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの活性レベルは、当業者公知の任意の手段によって測定することができる。フィブリノーゲンの活性の適切な測定方法の例は、例えば、Mackie等(British J.Haematol.121:396〜404、2003)によってまとめて記載されている。特定の方法には、Clauss(Clauss、1957、Acta−Haematol.17、237〜246)および/または凝固タンパク質(Jacobsson K.、Scand J Clin Lab Invest 1955;7(補足14):1〜54またはFibrin sealant Ph.Eur.Monograph 903、2012)が含まれる。結果は、凝固タンパク質の%;初期凝固タンパク質の%および/またはClauss法または類似法を使用して測定した初期フィブリノーゲン活性の%として報告することができる。
【0113】
当業者であれば、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む回収溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度は、貯蔵の長さおよび/または貯蔵条件(例えば、温度)を決定づける可能性があることを理解しているものと予想される。例えば、回収溶液中のプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度が原材料と比較して80%に低下している調製物は、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む回収溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの濃度が原材料と比較してわずか50%に低下している調製物と比較して、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの活性をあまり不安定化することなく、長期間および/または高温で貯蔵できることが理解されよう。
【0114】
本発明の方法は研究室規模で実施することができる一方、条件をあまり変化させることなく産業規模まで規模拡大することが可能である。したがって、本明細書で開示した一実施形態では、本発明の方法は、産業または商用規模で実施される。好ましくは、本発明の方法は、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの商用規模の製造に適している。例えば、本発明の方法の開始材料として血漿画分を使用するとき、商用規模製造には、少なくとも約500kgの血漿から得られた血漿画分を使用することが必要であろう。より好ましくは、開始血漿画分は、バッチ当たり少なくとも約5,000kg、7,500kg、10,000kgおよび/または15,000kgの血漿から得られる。特定の実施形態では、本発明のフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液および医薬製剤は、血漿画分または組換え原材料から商用規模で製造する。
【0115】
フィブリノーゲンおよび/または第III因子および/またはVWFを含む溶液を、臨床適用または獣医学的適用のため(例えば、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWF不足の対象に投与するため、またはフィブリン糊として使用するため)に使用する場合、当業者であれば、溶液中の活性のあるウイルス含量(ウイルス力価)およびその他の感染の可能性がある因子(例えば、プリオン)のレベルを低下させることを所望されることがあることを理解しているものと予想される。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料(すなわち、開始材料)を血漿から得る場合、このことは特に所望されることがある。溶液中のウイルス力価を低下させる方法は当業者には公知である。例には、低温殺菌(例えば、グリシン(例えば、2.75M)およびスクロース(例えば、50%)などの高濃度の安定化剤および/またはその他の選択した賦形剤もしくは塩の存在下で、溶液を60℃で10時間インキュベートすること)、乾熱処理、ウイルス濾過(溶液をナノフィルター;例えば、20nmカットオフに通過させること)および/または溶液を適切な有機溶媒および界面活性剤で、溶液中のウイルスを不活性化する期間および条件下で処理することが含まれる。溶媒界面活性剤は、特にフィブリノーゲンおよび第VIII因子および/またはVWFを含む血漿由来生成物において、エンベロープウイルスを不活性化するために20年にわたって使用されてきた。したがって、当業界で公知の様々な試薬および方法を使用して実施することができる(例えば、参照によって本明細書に組み入れる米国特許第4540573号および米国特許第4764369号を参照のこと)。適切な溶媒には、トリ−n−ブチルホスフェート(TnBP)およびエーテル、好ましくはTnBP(通常約0.3%)が含まれる。適切な界面活性剤には、ポリソルベート(Tween)80、ポリソルベート(Tween)20およびトリトンX−100(通常約0.3%)が含まれる。溶媒および界面活性剤濃度を含む処理条件の選択は、一部には原材料の特性に左右され、純度が低い原材料は一般的に高濃度の試薬およびより極端な反応条件を必要とする。好ましい界面活性剤は、ポリソルベート80で、特に好ましい組み合わせはポリソルベート80およびTnBPである。原材料は、存在する可能性があるいかなるエンベロープウイルスも不活性化するのに十分な温度および時間で、溶媒および界面活性剤試薬と撹拌することができる。例えば、溶媒界面活性剤処理は、25℃で約4時間実施することができる。溶媒界面活性剤化学物質はその後、例えば、C−18疎水性樹脂などのクロマトグラフィー媒体に吸着させるか、または関心のあるタンパク質を吸着する条件下でイオン交換樹脂の素通り画分へ溶出させることによって除去する。
【0116】
ウイルス不活性工程は、本明細書で開示した方法の任意の適切な段階で実施することができる。一実施形態では、工程(i)の前に、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料にウイルス不活性化工程を行う。別の実施形態では、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー樹脂(すなわち、工程(ii)および/または(iv))から回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液に、ウイルス不活性化工程を行う。本明細書で開示した一実施形態では、ウイルス不活性化工程は、低温殺菌または有機溶媒および界面活性剤による処理を含む。本明細書で開示した別の実施形態では、ウイルス不活性化工程は、ウイルス濾過を含む。ウイルス濾過を使用する場合、本発明者らは、濾過工程前に遊離アミノ酸(例えば、アルギニン)を添加すると、フィルターからのフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの流動速度および回収を顕著に改善できることを見いだした。このような方法の一例は、米国特許第7919592号に記載されている。
【0117】
本明細書で開示した一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料または溶液を陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる前に、該溶液にウイルス不活性化工程を行う。処理した溶液または原材料を陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる前に溶媒界面活性剤処理などのウイルス不活性化工程を使用する利点は、陰イオン交換樹脂では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの樹脂への結合ならびにフロースルー(素通り)画分による有機溶媒および界面活性剤の除去を促進する条件を利用することによって、有機溶媒および界面活性剤を処理溶液から除去できることである。
【0118】
低温殺菌は、フィブリノーゲンを含む溶液(本明細書ではまた、「フィブリノーゲン溶液」と称する)中では特に、タンパク質凝集物およびポリマーを生じ得る。したがって、場合によっては、低温殺菌した溶液中における凝集物/ポリマーのレベルを低下させることが所望されることがある。これは、当業者公知の任意の手段によって実施することができるが、さらなるクロマトグラフィー精製によって便利に実現することができる。本明細書で開示した一実施形態では、低温殺菌した溶液または原材料は、いかなる凝集物またはポリマーもフロースルー(素通り)画分に除去されるように、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFに関してポジティブモードで陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させる。
【0119】
「原材料」という用語は、本明細書ではフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む任意の溶液を示すために使用する。原材料はまた、当業者公知のその他のタンパク質(例えば、治療タンパク質)を含むことがある。例には、血液凝固カスケードに関与するタンパク質が含まれる。本明細書で開示した一実施形態では、原材料はフィブリノーゲンを含む。
【0120】
フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む適切な原材料は当業者に公知である。例には、血漿または可溶化した血漿寒冷沈降物などの血漿画分またはヒトもしくは動物血漿もしくは血漿画分から得られた可溶化した第I画分ペースト、組換技術による細胞培養画分、トランスジェニック動物のミルクから得られた画分などが含まれる。組換フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFタンパク質の原料も本発明による原材料として使用するために適している。原材料が血漿または血漿画分の場合、プールされた輸血血漿であってもよく、または個々のドナーから入手してもよい。本明細書で開示した一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料は、可溶化した血漿寒冷沈降物である。全血から得られるか、またはアフェレーシスによって収集したこの成分は、凍結した新鮮な血漿を1〜6℃の間で制御解凍し、沈殿物を回収することによって調製する。寒冷不溶性沈殿物は、再凍結する。寒冷沈降物アフェレーシス1単位は、全血から得られた寒冷沈降物2単位とほぼ同等である。これは、凍結した新鮮な血漿由来の第XIII因子およびフィブロネクチンなどのその他のタンパク質と共にフィブリノーゲン、第VIII因子およびVWFのほとんどを含有する。フィブリノーゲンのその他の原料は、解凍し、遠心もしくは濾過によって寒冷沈降物を除去することによって凍結血漿から調製することができる第I画分沈殿物である。得られた寒冷上清物を次にエタノールと混合して、第I画分を沈殿させる。例えば、第I画分沈殿物は、約8%(v/v)エタノールをpH7.2で添加し、温度を約−3℃に制御することによって得ることができる(Cohn等、1946、J.Am.Chem.Soc.62:459〜475)。一実施形態では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料は、寒冷沈降物である。
【0121】
明細書において「プロテアーゼ」とは、HCIC樹脂に曝露したとき、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFが樹脂を通過する条件下でHCIC樹脂に結合することができる、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料または溶液中に存在する任意のプロテアーゼおよび/またはその酵素前駆体であってもよい。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ(例えば、プラスミン、トロンビン、トリプシン)、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ(例えば、カテプシンBおよびカテプシンH)、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、ペプシン)、メタロプロテアーゼ(例えば、コラゲナーゼおよびゼラチナーゼ)およびグルタミン酸プロテアーゼを含むいかなる種類であってもよい。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料をヒトまたは動物の血漿から得る場合、プロテアーゼ/酵素前駆体には、プラスミノーゲン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、トロンビン、エラスターゼ、第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、第XIIa因子、第XIIIa因子、血漿カリクレインなどが含まれることがある。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液に関して、除去することが特に好ましいプロテアーゼ/酵素前駆体は、プラスミノーゲンである。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液から除去することが好ましいその他のプロテアーゼ/酵素前駆体は、t−PA、プロおよび/または活性トロンビン(第II/IIa因子)である。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料を細胞培養上清から得るとき、プロテアーゼ/酵素前駆体には、セリンプロテアーゼ(例えば、カゼイナーゼ)、メタロプロテアーゼ(例えば、ゼラチナーゼ、MMP3、MMP10もしくはMMP12を含むマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP))、アスパラギン酸プロテアーゼ(カテプシンD)などの任意の宿主細胞プロテアーゼ、中でも酸プロテアーゼが含まれることがある。
【0122】
場合によって、原材料を工程(i)においてHCIC樹脂に通過させる前に、原材料の不純物を除去するか、または不純物のレベルを低下させることが所望されることがある。原材料から不純物を除去するか、または不純物のレベルを低下させると、クロマトグラフィー精製中のHCIC樹脂への負荷を低下させ、したがって、原材料からのプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼの分離効率を改善することができる。不純物は、例えば、原材料からフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを沈殿させ、沈殿したタンパク質を回収することによって除去するか、または低下させてもよい。フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む原材料からフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを沈殿させる適切な方法は当業者に公知である。一例には、水酸化アルミニウム懸濁液を原材料に添加することが含まれ、これは、ビタミンK依存性タンパク質(例えば、凝固因子II、VII、IXおよびX)ならびにプロトロンビン(第II因子)およびt−PAなどの水酸化アルミニウムに結合親和性を有するその他のタンパク質を血漿または血漿寒冷沈降物から除去するために特に有用である。
【0123】
したがって、本明細書で開示した一実施形態では、工程(i)の前に、原材料からビタミンK依存性タンパク質を除去するか、または低減させる。他の実施形態では、ビタミンK依存性タンパク質を、原材料に水酸化アルミニウムを添加することによって除去するか、または低減させる。水酸化アルミニウムは、アルハイドロゲル(登録商標)の形態で、最終濃度が約10%から約80%w/wになるまで原材料に添加してもよい。いくつかの実施形態では、水酸化アルミニウムは、最終濃度約10%から約50%(w/w)の範囲で原材料に添加する。その他の実施形態では、水酸化アルミニウムは、最終濃度約10%から約30%(w/w)の範囲で原材料に添加する。好ましい実施形態では、濃度は、約15%から約30%(w/w)である。最も好ましくは、最適なフィブリノーゲン回収およびプロトロンビンなどの不純物の除去のために、水酸化アルミニウムは約15%から約25%(w/w)で原材料に添加する。別の実施形態では、ビタミンK依存性タンパク質を、水酸化アルミニウムを使用したバッチ吸着によって原材料から除去する。
【0124】
本発明の別の態様では、本明細書で記載したように、本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液を提供する。一実施形態では、溶液中におけるプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼのレベルは、全タンパク質の20%未満、好ましくは全タンパク質の10%未満、より好ましくは全タンパク質の5%未満、または全タンパク質の1%未満、または全タンパク質の0.1%未満、または全タンパク質の0.01%未満、または全タンパク質の0.001%未満、または全タンパク質の0.0001%未満である。当業者であれば、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液中に存在するプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼのレベルは、溶液の企図する使用または貯蔵の長さに左右され得ることを理解しているものと予想される。例えば、溶液を約0℃から約8℃の室温で少なくとも4週間貯蔵する場合、その溶液が含むプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼが(全タンパク質の)約10%より多いことは許容され得る。溶液を約30℃の温度で少なくとも4週間貯蔵する場合、その溶液が含むプラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼが(全タンパク質の)約10%未満であることが所望され得る。
【0125】
本明細書で開示した一実施形態では、本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンを含む溶液を提供する。別の実施形態では、溶液は、全タンパク質の少なくとも80%のフィブリノーゲンを含む。
【0126】
本発明の別の態様では:
(a)全タンパク質の少なくとも75%のフィブリノーゲン;
(b)全タンパク質1mg当たり50pg未満の組織プラスミノーゲン活性化因子;および/または
(c)全タンパク質1mg当たり1μg未満のプラスミノーゲン
を含む溶液
を提供する。
【0127】
一実施形態では、溶液は、全タンパク質1mg当たり1.5×10
−5U未満の第II因子をさらに含む。
【0128】
本発明の別の態様では:
(a)全タンパク質の少なくとも90%のフィブリノーゲン;
(b)全タンパク質1mg当たり50pg未満の組織プラスミノーゲン活性化因子;および/または
(c)全タンパク質1mg当たり150ng未満のプラスミノーゲン
を含む溶液を提供する。
【0129】
一実施形態では、溶液はさらに:
(a)全タンパク質1mg当たり3.5×10
−6U未満の第II因子;および/または
(b)全タンパク質1mg当たり150μg未満のフィブロネクチン
を含む。
【0130】
本発明の別の態様では:
(a)全タンパク質の少なくとも90%のフィブリノーゲン;
(b)全タンパク質1mg当たり50pg未満の組織プラスミノーゲン活性化因子;および/または
(c)全タンパク質1mg当たり10ng未満のプラスミノーゲンを含む溶液を提供する。
【0131】
本発明の別の態様では:
(a)全タンパク質の少なくとも90%のフィブリノーゲン;
(b)全タンパク質1mg当たり20pg未満の組織プラスミノーゲン活性化因子;および/または
(c)全タンパク質1mg当たり10ng未満のプラスミノーゲンを含む溶液を提供する。
【0132】
一実施形態では、溶液はさらに:
(a)全タンパク質1mg当たり2.7×10
−6U未満の第II因子;および/または
(b)全タンパク質1mg当たり15μg未満のフィブロネクチン
を含む。
【0133】
本明細書で開示した方法によって回収した溶液中におけるフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの濃度および不純物(例えば、プラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼ)の濃度は、当業者公知の任意の手段によって測定することができる。フィブリノーゲンを測定するための適切アッセイ法の例は、Mackie等(Br J.Haematol.2003 May;121(3):396〜404)に記載されている。サイズ排除HPLCはまた、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子を含む溶液中におけるフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子または不純物の濃度を測定するために使用することができる(例えば、Cardinali等、2010、Arch.Biochem.Biphys.493(2):157〜168;およびKosloski等、2009、AAPS J.11(3);424〜431)。HPLCはまた、当業者によるフィブリノーゲンのモノマーと凝集物の間の区別を可能にする。さらに、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFの濃度は、使用するアッセイの感度によって異なることがある。例えば、Claussアッセイを使用して測定した溶液中のフィブリノーゲンの濃度は、HPLCによって同じ溶液で測定した濃度よりもわずかに低いことがある。
【0134】
本明細書で開示した一実施形態では、溶液中におけるモノマーフィブリノーゲンの濃度は、サイズ排除HPLCによって測定すると全タンパク質の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%である。
【0135】
本発明の別の態様では、本明細書で開示した方法によって回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液および薬学的に許容される担体を含む医薬製剤を提供する。薬学的に許容される希釈剤および/または賦形剤を含む適切な薬学的に許容される担体は、当業者には公知である。例には、溶媒、分散媒、抗真菌剤および抗菌剤、表面活性剤、等張剤および吸収剤などが含まれる。
【0136】
医薬製剤はまた、適切な安定化剤、例えば、アミノ酸、炭水化物、塩および界面活性剤の組み合わせを添加することによって製剤化することができる。特定の実施形態では、安定化剤には、糖アルコールおよびアミノ酸の混合物が含まれる。安定化剤は、糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)、糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール)およびアミノ酸(例えば、プロリン、グリシンおよびアルギニン)の混合物を含むことができる。好ましい実施形態では、製剤は、アルギニンなどのアミノ酸を含む。その他の実施形態では、製剤は、最高100mMの濃度の二価金属イオンおよび米国特許第7045601号に記載されたような複合体形成剤を含む。特定の実施形態には、米国特許第7045601号の実施例1に記載されたような製剤1から7が含まれる。特定の実施形態では、製剤は、いかなる抗線溶剤またはアルブミンなどの安定化タンパク質も添加することなく製剤化する。実施形態では、製剤がフィブリノーゲンを含む場合、pHは、好ましくは約6.5から7.5であり、浸透圧は少なくとも240mosmol/kgである。
【0137】
医薬製剤はまた、分注および長期貯蔵の前に濾過によって滅菌してもよい。好ましくは、製剤は、少なくとも2、4、6、8、10、12、18、24、36カ月またはそれ以上の月数間、元の安定特性を実質的に保持する。例えば、2〜8℃または25℃で貯蔵した製剤は通常、6カ月以上貯蔵しても、HPLC−SECによって測定すると、実質的に同じ分子サイズ分布を保持することができる。医薬製剤の特定の実施形態は、2〜8℃および/または室温で貯蔵したとき、少なくとも6カ月、12カ月、18カ月、24カ月、36カ月またはそれ以上であっても、商用の薬学的使用のために安定であり、適切であり得る。
【0138】
本明細書で記載したような本発明の溶液および医薬製剤は、注射製剤などの多くの可能な剤形のいずれかに製剤化することができる。製剤およびその後の投与(投薬)は、当業者の範囲内である。投薬は、治療する対象の応答性に左右されるが、所望する効果(例えば、フィブリノーゲンの正常な血漿レベルへの回復)が必要な限りずっと継続する。当業者は、最適な投薬量、投与方法および反復数を容易に決定することができる。
【0139】
本明細書で開示した一実施形態では、本発明の医薬製剤は、少なくとも5mLの容量を有し、フィブリノーゲンを少なくとも5mg/mL含む。別の実施形態では、医薬製剤の容量は少なくとも5mLで、フィブリノーゲンを少なくとも20mg/mL含む。特定の実施形態では、医薬製剤の容量は少なくとも5mLで、フィブリノーゲンを約20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、35mg/mL、40mg/mL、45mg/mL、50mg/mL、55mg/mL、60mg/mL、65mg/mL、70mg/mL、75mg/mL、80mg/mL、90mg/mLまたは100mg/mLの濃度で含む。別の態様では、少なくとも5mLの安定した薬学的に許容されるフィブリノーゲン溶液を含有する容器であって、フィブリノーゲンの濃度は少なくとも20mg/mLである、前記容器を提供する。
【0140】
本発明の別の態様では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWF不足に関連した症状を治療または予防する方法であって、本明細書で開示したように本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液または本明細書で開示したような本発明の医薬製剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む、前記方法を提供する。
【0141】
本発明の別の態様では、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWF不足に関連した症状を治療または予防するための医薬品の製造における、本明細書で開示したような本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液の使用を提供する。当業者であれば、フィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWF不足に関連した症状の種類はよくわかるであろう。一実施形態では、このフィブリノーゲン症状は、無フィブリノーゲン血症、低フィブリノーゲン血症および異常フィブリノーゲン血症からなる群から選択される。一実施形態では、第VIII因子および/またはVWF症状は、出血障害である血友病A(例えば、血小板機能欠陥、血小板減少症またはフォンビルブランド病)、血管損傷、外傷もしくは手術による出血、抗凝固療法による出血、肝臓疾患による出血からなる群から選択される。
【0142】
本明細書で開示したように、本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンおよび/または第VIII因子および/またはVWFを含む溶液で治療することができるその他の症状には、大怪我および重篤な出血および熱傷が含まれる。低フィブリノーゲン血症および無フィブリノーゲン血症の場合、本発明によって調製したフィブリノーゲンを含む溶液は、フィブリノーゲン不足の状態を補うためにそれらを必要とする患者に静脈注射することができ、投薬量は不足の程度に基づいて当業者が決定することができる。
【0143】
本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンを含む溶液はまた、プラスミノーゲンおよび/または組織プラスミノーゲン活性化因子および/またはその他のプロテアーゼが不安定レベルではないため、フィブリン糊(フィブリンシーラント(fibrin sealant)としても知られている)の使用において有利である。tPAは、プラスミノーゲンを活性型プラスミンに変換し、これは次にフィブリン血餅を消化することから、局所適用(例えば、止血)において血餅形成を低下させる。
【0144】
フィブリン糊は通常、2種類の成分:(i)フィブリノーゲン(第XIII因子およびアプロチニンなどの線溶阻害剤と一緒であることが多い)および(ii)トロンビン(カルシウムイオンと一緒であることが多い)を含む。2種類の成分は、すぐに使える接着剤を調製するために再構成される。フィブリン糊は、カルシウムおよび第XIII因子の存在下でフィブリノーゲンとトロンビンの組み合わせを使用して架橋したフィブリン繊維を形成することによって、血液凝固の最終工程を刺激するために、臨床適用および獣医学的適用に使用する。フィブリン糊は、臨床薬および獣医薬において、止血、創傷閉鎖、癒着予防および創傷治癒を含めて様々に応用される。フィブリン糊はまた、密封縫合ならびに骨、軟骨および腱などの結合組織を結合するために、皮膚の創傷(皮膚移植を含む)を閉じるために使用することができる。したがって、本明細書で開示した別の態様では、本明細書で開示したように、本発明の方法によって回収したフィブリノーゲンを含む溶液を含むフィブリン糊を提供する。
【0145】
当業者であれば、本明細書で記載した本発明では、特に記載したもの以外の変更および改変も許容されることがわかるであろう。本発明には、精神および範囲内に入るこのような変更および改変が全て含まれることを理解されたい。本発明はまた、本明細書で述べるか、または示した工程、特徴、組成物および化合物全てを、個別に、または集合的に含み、前記工程または特徴の任意の2種以上のありとあらゆる組み合わせも含む。
【0146】
ここで本発明の所定の実施形態を以下の実施例を参照にして記載するが、これらは単に例示することを目的とするものであって、前述した一般原則の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0147】
〔実施例1〕
HEA、PPAおよびMEP疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)樹脂によるフィブリノーゲンの精製
プールしたヒト血漿寒冷沈降物を開始材料(すなわち、フィブリノーゲン含有原材料)として使用した。簡単に説明すると、プールした血漿寒冷沈降物は、20mMクエン酸3ナトリウム、200mMイプシロン−アミノカプロン酸(ε−ACA)、60IU/mLヘパリンおよび500mM NaCl(pH7.2±2)を含有する抽出緩衝液中において31±2℃で30分間可溶化した(緩衝液4g当たり寒冷沈降物1g)。次に、水酸化アルミニウム2%(w/w)を可溶化した寒冷沈降物に25%(w/w)の濃度で添加した。その後、水酸化アルミニウムゲルを遠心または深層濾過のいずれかによって除去し、フィブリノーゲン含有上清をHCICクロマトグラフィー樹脂によるクロマトグラフィーでさらに精製するために回収した。
【0148】
フィブリノーゲン含有上清を、HEA、PPAまたはMEP Hypercel(商標)樹脂のいずれか1.8mLを充填したクロマトグラフィーカラムに添加した。クロマトグラフィーカラムを、6.5から8.5の範囲の様々なpHの25mMトリスで予め平衡化した。フィブリノーゲン含有上清を、クロマトグラフィーカラムに約11mL/mL樹脂の比で添加した。HCIC精製は、フィブリノーゲンに関してネガティブモードで実施され、フィブリノーゲンを未結合フロースルー画分に素通りさせ、一方、t−PA、プラスミノーゲンおよび第II因子のほとんどは樹脂に結合して維持した。
【0149】
図1から3は、HEA Hypercel(商標)、PPA Hypercel(商標)およびMEP Hypercel(商標)を使用したフィブリノーゲン、プラスミノーゲン、t−PAおよび第II因子のポストクロマトグラフィー精製後の工程回収率を示す。結果は、pHはこれらの樹脂へのプラスミノーゲン結合にはほとんどまたは全く影響を及ぼさず、一方、樹脂へのt−PAの結合は、低いpH範囲で最も効果的に見えることを示す。HEA Hypercel(商標)カラムは、素通り画分において最も高いフィブリノーゲン回収率を示し、試験した操作pH範囲では、PPAおよびMEP Hypercel(商標)カラムの両方で認められた回収率と比較して、フィブリノーゲン回収率にほとんど影響を及ぼさないようであった。PPAおよびMEP両カラムは、pH8.5で素通り画分において最高のフィブリノーゲン回収率を示した。
【0150】
〔実施例2〕
HEA Hypercelによって低下したフィブリノーゲン溶液における不純物レベル
実施例1によって調製したフィブリノーゲンを含有する可溶化寒冷沈降物約48.5mLを、pH6.5、7.0、7.5、8.0または8.5のいずれかの25mMトリスで予め平衡化した5mL HEA Hypercel(商標)カラムに添加した。HCIC精製は、フィブリノーゲンに関してネガティブモードで実施され、フィブリノーゲンを未結合フロースルー画分に素通りさせ、一方、t−PA、プラスミノーゲンおよび第II因子は樹脂に結合して維持した。
図4aは、HEA Hypercel(商標)を使用したポストクロマトグラフィー精製後のフィブリノーゲン、プラスミノーゲン、t−PAおよび第II因子の工程回収率を示す。結果は、pHはHCIC樹脂へのプラスミノーゲンおよび第II因子の結合にはほとんどまたは全く影響を及ぼさず、一方、樹脂へのt−PAの結合は、6.5〜7.0の低いpH範囲で最も効果的に見えることを示す。フィブリノーゲンの回収率は、カラム洗浄を実施しなかったにもかかわらず、様々なpH条件下で、素通り画分において90%を上回った。
図4aに示したように、これらの結果は、HCIC樹脂によって可溶化寒冷沈降物などの粗フィブリノーゲン含有原材料中におけるプロテアーゼが効果的に除去されることを示している。例えば、pH7.0で実施した実験条件は、可溶化寒冷沈降物溶液からの第II因子は≧99.9%、t−PAは≧88.3%およびプラスミノーゲンは≧%98.2%低下することを示した。
【0151】
フィブリノーゲンは、室温(約20℃)で少なくとも6日間溶液中で安定に維持された。結果は
図4bおよび
図4cに示す。
【0152】
〔実施例3〕
HEA Hypercelによって精製されたフィブリノーゲン溶液中における不純物のレベル
実施例1によって生成したアルハイドロゲル(商標)吸着工程後に得られたフィブリノーゲン含有上清約500mLを、25mMトリスpH7.0で予め平衡化したHEA Hypercel(商標)の樹脂36mLを充填したXK16/30カラムに添加した。素通り画分は、フィブリノーゲン、プラスミノーゲン、t−PAおよび第II因子を試験するために収集した。結果の概要を以下の表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
〔実施例4〕
HEA Hypercelによって精製したフィブリノーゲン溶液中における不純物のレベルに対するグリシン沈殿の効果
実施例1によって生成したアルハイドロゲル吸着工程後のフィブリノーゲン含有上清に、グリシン2.4M、2.7M NaCl、2.1mM CaCl
2および23mMクエン酸3ナトリウムを含む生理食塩水(pH6.6〜7.3)を添加することによって、さらに沈殿工程を行った。可溶化した沈殿物を30℃まで温めてから、同様に30℃でインキュベートしたグリシン緩衝液を、生成物の緩衝液に対する比1:2で添加した。混合物を10分間撹拌し、得られた沈殿物を遠心によって液相から回収した。主にフィブロネクチンおよびIgGを含有する液相を廃棄して、フィブリノーゲン含有沈殿物を収集し、100mM NaCl、1.1mM CaCl
2、10mMクエン酸3ナトリウム、10mMトリス−(ヒドロキシメチルメチルアミン)および4.5mMスクロースを含有する可溶化緩衝液(pH7.0)に再懸濁した。可溶化したフィブリノーゲン中間体(250mL)は、1μmフィルターを使用して清澄にしてから、HEA Hypercel(商標)樹脂36mLを充填し、25mMトリスpH7.0で予め平衡化したXK16/30カラムに通過させた。素通り画分は、フィブリノーゲン、プラスミノーゲン、t−PAおよび第II因子を試験するために収集し、結果の概要を以下の表2に示した。
【0155】
結果は、プラスミノーゲン、t−PAおよび第II因子のHEA Hypercel(商標)樹脂への結合は、実施例2で記載した条件下で観察されたものと比較して、これらの処理条件下でより効果的であることを示している。解析結果は、工程の回収率がフィブリノーゲン約93%、プラスミノーゲン6%、t−PA12%および第II因子5%であることを示した。
【0156】
【表2】
【0157】
〔実施例5〕
血漿寒冷沈降物から精製したフィブリノーゲンの調製
処理工程1−血漿寒冷沈降物の可溶化;
処理工程2−可溶化した血漿寒冷沈降物のアルハイドロゲル(商標)(水酸化アルミニウム)吸着(アルハイドロゲル(商標)濃縮物:標的15から20%w/w、10から50%w/wの範囲)および遠心または濾過助剤の存在下での深層濾過などの方法を使用したフィブリノーゲン含有上清の回収。あるいは、この工程は、フィブリノーゲンに関してネガティブモード(素通り)のHCICクロマトグラフィー工程またはフィブリノーゲンに関していずれもネガティブモードのHCICおよび陰イオン交換クロマトグラフィーの組み合わせによって置き換えることができる。HCICおよび陰イオン交換クロマトグラフィーの両方を組み合わせて使用する場合、処理工程3を選択する;
処理工程3−工程2のフィブリノーゲン含有上清からのフィブリノーゲンのグリシン沈殿。あるいは、この工程は、フィブリノーゲンに関してネガティブモードの陰イオン交換クロマトグラフィーによって置き換えることができる;
処理工程4−可溶化した工程3のグリシン沈殿物をフィブリノーゲンに関してネガティブモードのHCICクロマトグラフィー樹脂に通過させる;
処理工程5−病原体を不活性化するために、工程4で回収した精製フィブリノーゲン溶液を溶媒もしくは界面活性剤で処理するか、または低温殺菌する;
処理工程6−工程5の処理溶液をフィブリノーゲンに関してポジティブモードの陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させ、弱く結合したタンパク質を樹脂から洗浄し、フィブリノーゲンを樹脂から溶出させる;
処理工程7−工程6の陰イオン交換樹脂から溶出したフィブリノーゲンにナノ濾過(35nmまたは20nmまたは35/20nmの組み合わせ)を行い;
処理工程8−工程7で濾過したフィブリノーゲンを限外濾過(50、100、200および300kDa膜フィルター)する。
【0158】
〔実施例6〕
HCICおよび陰イオン交換クロマトグラフィーの組み合わせによる精製フィブリノーゲンの調製
HEA Hypercel(商標)カラムを使用した混合型クロマトグラフィー工程で、実施例1から3で記載した工程によって、寒冷沈降物約100gを調製した3回の実験室規模の実験を完遂した。
【0159】
主にフィブリノーゲンを含有するHEA Hypercel(商標)カラムからの素通り画分に、ウイルス不活性化のため溶媒/界面活性剤処理を一晩行った。
【0160】
次に、ウイルスを不活性化した溶液を25mMトリス(pH8.0)を使用して≦10mS/cmまで希釈してから、25mMトリス(pH8.0)で予め平衡化したMacroPrep(商標)−HQ樹脂約412mLを充填した陰イオン交換カラム(XK50/30、GE Healthcare)に添加した。フロースルー画分を廃棄し、MacroPrep(商標)−HQカラムを90mM NaCl、50mMトリス、20mM EACAを含有する洗浄緩衝液(pH8.0)4カラム容量で洗浄した。これらのクロマトグラフィー条件下で、最初のフロースルー画分および洗浄画分は主にプラスミノーゲンおよびt−PAを含有し、一方、フィブリノーゲンはクロマトグラフィー樹脂に結合したままだった。モノマー型のフィブリノーゲンはMacroPrep(商標)−HQカラムから、200mM NaCl、10mMトリス、10mMクエン酸3ナトリウム、46mMスクロースおよび1.1mM CaCl
2を含む溶出緩衝液(pH7.0)を使用して選択的に溶出し、フィブリノーゲン凝集物および低分子量タンパク質はMacroPrep(商標)−HQ樹脂に結合したままにした。
【0161】
MacroPrep(商標)−HQクロマトグラフィー溶出物に通過した、可溶化寒冷沈降物から生じた生成物中間体の特徴を、フィブリノーゲン、t−PA、プラスミノーゲン、フィブロネクチンおよび第II因子のレベルならびに様々な処理段階でのこれらのタンパク質それぞれの処理工程回収率によって明らかにした。表3に示した結果は、研究室規模で一貫して行った3回の別々のバッチの平均値を表している。血漿寒冷沈降物から開始してMacroPrep(商標)−HQ溶出物までの、処理全体のフィブリノーゲンおよび同時精製したタンパク質の回収率を
図5に示す。
【0162】
MacroPrep(商標)−HQクロマトグラフィー樹脂から回収したフィブリノーゲンの純度は、サイズ排除HPLCクロマトグラムの分析によって明らかなように、95%を上回った。TSKGel(商標)G4000SWXL(Tosoh Corporation)で分析したフィブリノーゲンのHPLC特性の代表例を
図6に示す。
図6に示したように、フィブリノーゲンモノマーは約17.4分の保持時間で溶出し、全ピーク面積の96.6%に当たり、一方フィブリノーゲンダイマーおよび/またはその他の高分子量タンパク質は約14.8分の保持時間で溶出した。
【0163】
実施例5および6で記載した方法に従って、他のフィブリノーゲンバッチをパイロット規模(血漿同等物81kg)で製造した。フィブリノーゲン調製物の特徴を表4に示す。
【0164】
〔実施例7〕
精製したフィブリノーゲンのウイルス濾過
MacroPrep(商標)−HQ溶出工程に190mM NaCl緩衝液(21.5mS/cm)、200mM NaCl緩衝液(22.5mS/cm)、210mM NaCl緩衝液(23.5mS/cm)または1%(w/w)アルギニンを含有する200mM NaCl緩衝液(25mS/cm)のいずれかを使用した実施例6の方法に従って、20nmウイルスフィルターによる濾過性を得られたフィブリノーゲン調製物で調べた。
【0165】
この方法では、調製物に3%(w/w)アルギニンをpH約7.5で配合することが必要であった(試料のタンパク質濃度は約6g/Lであった)。次に、配合した調製物は、ウイルス濾過工程前に0.1μmフィルターを使用して濾過した。ウイルス濾過工程は、47mmPall SV4(商標)フィルターを用いて、デッドエンド様式で、定圧1.8barを使用して実施した。結果は、190mM、200mMまたは210mMのいずれかを使用してMacroPrep(商標)HQカラムから得られたフィブリノーゲン調製物は、類似の濾過特性を生じることを示唆している。対照的に、1%(w/w)アルギニンを含有する200mM NaCl緩衝液を使用してMacroPrep(商標)HQカラムから溶出したフィブリノーゲン調製物は、フィルターに迅速に付着した(
図7)。
【0166】
〔実施例8〕
安定性試験
前記の実施例5で記載した方法によって回収した精製フィブリノーゲン溶液を滅菌濾過し、9/7週にわたって2℃〜8℃または30℃で安定性試験を行った。2℃〜8℃に置いた液体フィブリノーゲン調製物は、貯蔵期間9週間後にClauss法によって測定したところ、元の活性の約90%を保持していた。30℃に置いた液体フィブリノーゲン調製物は、貯蔵期間2週間後に元の活性の約70%を保持し、少なくとも5週間はさらなる活性の喪失はなかった。60%を下回る活性のさらなる低下は、30℃で7週間インキュベートすることによって認められた。30℃でのフィブリノーゲン活性の喪失は、プロテアーゼ阻害剤(C1エステラーゼ)を添加しても貯蔵期間5週間にわたるフィブリノーゲン活性の損失を阻害しなかったので、タンパク質分解よりも熱変性によるものと考えられる。安定性データの概要を
図8に示す。
【0167】
【表3】
【0168】
【表4】
【0169】
〔実施例9〕
HEA Hypercelを使用した第VIII因子および/またはVWFを含有する溶液中における血漿プロテアーゼレベルの低下
この実施例は、HCICクロマトグラフィー工程も、第VIII因子および/またはVWF含有調製物中におけるプロテアーゼを低下させるために使用できることを示す。この方法には、実施例4から得られたフィブリノーゲン含有溶液を、深層フィルターを使用して清澄化してから、清澄化した溶液を第2の疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)樹脂に通過させることが必要である。HCIC工程は、プラスミノーゲンなどのプロテアーゼが樹脂に結合し、一方、第VIII因子およびVWFが樹脂を通過することができる条件下で操作した。特に、XK50/30カラムにHEA Hypercel(商標)樹脂340mLを充填した。カラムは、50mMトリスpH6.7で予め平衡化した。次に、実施例4によって調製した清澄なフィブリノーゲン溶液をこのカラムに添加し、カラムを50mMトリスpH6.7で洗浄した。素通り画分を収集し、第VIII因子、VWF、プラスミノーゲンおよびt−PAのレベルを測定した(VWF:RCo=フォンビルブランドリストセチンコファクター)。4回の個々の実験から得られた平均結果の概要を、表5に示す。結果は、HCICクロマトグラフィー工程は第VIII因子およびVWFを含む画分からプラスミノーゲンおよびtPAなどのプロテアーゼを効果的に除去したことを示す。さらに、第VIII因子およびVWFの良好な回収率が認められた。
【0170】
【表5】
【0171】
〔実施例10〕
様々な方法から精製したフィブリノーゲンの比較研究
実施例6で記載したように、本発明の方法によって製造したフィブリノーゲン調製物を国際公開第2001048016号、国際公開第2012038410号および国際公開第2013135684号で記載された方法によって製造したフィブリノーゲン調製物と比較した。
【0172】
(a)国際公開第2001048016号で記載された方法の好ましい実施形態によって製造されたフィブリノーゲン調製物。
【0173】
簡単に説明すると、この方法には、抽出緩衝液(0.8M NaCl、5mM EACA(イプシロン−アミノカプロン酸)、20mMクエン酸Na、60IU/mLヘパリン、pH7.3)中に第I画分ペーストを懸濁することが必要である(抽出緩衝液8.33gに対して第I画分1g)。次に、この溶液を37℃で1.5時間混合してから、2%Al(OH)
3(アルハイドロゲル)溶液50gを第I画分1gに添加した(10.8%)。この混合物を室温で15分間攪拌して、次に5000gで10分間遠心し、ペレットを廃棄した。アルハイドロゲル処理した上清にグリシン/NaCl緩衝液(グリシン2.1M、20mMクエン酸Na、3.6M NaClおよび2.4mM CaCl
2)を添加した(いずれの溶液も30℃に予め平衡化した)。上清の緩衝液への添加は、約4.5分で完了した(緩衝液2.05部に対して上清1部)。次に、この混合物を30℃で20分間攪拌してから5010gで10分間遠心した(上清を廃棄した)。次に、沈殿物を緩衝液D(100mM NaCl、1.1mM CaCl
2、10mMクエン酸Na、10mMトリス、45mMスクロース、pH6.9)に室温で2時間混合して再溶解した(第I画分を再懸濁するために使用した量の1/3の量)(国際特許第0148016号、実施例1、1.1.1〜1.1.6項)。次に、再溶解したフィブリノーゲンを含有する溶液をMacroPrep(商標)HQカラム(床高20cmのXK26)に添加した。カラムを、少なくとも1.5カラム容量(CV)のMQ緩衝液(50mMトリス、100mM NaCl、20mM EACA、pH8.0、10mL/分(113cm/hr)で予め平衡化した。カラム後の伝導度が調製した緩衝液の90〜110%になるまで、平衡化を継続した。次に、フィブリノーゲン溶液をこのカラムに添加し、カラムを6CVのMQ緩衝液で洗浄した。フィブリノーゲンは、ME緩衝液(500mM NaCl、1.1mM CaCl
2、10mMクエン酸Na、10mMトリスおよび45mMスクロース、pH7.0)を使用して単一ピークとして溶出した。カラムは、2CVの1M NaClを使用して再生することができた(国際公開第2001048016号、実施例2)。
【0174】
(b)国際公開第2012038410号および国際公開第2013135684号で以前に記載された方法の好ましい実施形態によって製造されたフィブリノーゲン調製物。
【0175】
確立された方法によって血漿から生産した寒冷沈降物をほぼ中性のpHで再構成または可溶化し、Al(OH)
3による吸着を行い、得られたゲルを遠心によって除去した。次に、溶媒/界面活性剤(S/D)処理によって上清のウイルスを不活性化した。S/D化合物、トリトンおよびTnBPを植物油で抽出し、水相をFractogel(登録商標)EMD−TMAEと接触させた。フィブリノーゲンがゲルに結合せず、したがってフロースルーまたは上清に見いだされるクロマトグラフィー条件(pH値6.9〜7.1および浸透圧570〜610mosmol/l)を使用した。結合していないフィブリノーゲンの溶液は、グリシン添加後(最終濃度1mol/lでpH=7.4)、フィブリノーゲンを沈殿させるために20mM EDTAの存在下で約90分間撹拌した。その後、フィブリノーゲン含有沈殿物を遠心によって分離して、中間体フィブリノーゲンペーストを生成した。中間体フィブリノーゲンペーストを20mMトリス緩衝液(pH=約8.0)に再懸濁した。次に、得られた懸濁液を濾過し、限外濾過/ダイアフィルトレーションを行った。次に、得られたフィブリノーゲン含有溶液をGigaCap Q−650M(登録商標)に添加し、フィブリノーゲン溶液を添加する前に、再懸濁するために使用したのと同じトリス緩衝液でクロマトグラフィーゲルまたは樹脂を予め平衡化した。緩く結合した物質を平衡化緩衝液で、次いで洗浄緩衝液(pH=約7.0および伝導率約12.0mS/cmに調節したクエン酸ナトリウム1.5g/l、塩化ナトリウム6.0g/l)で洗浄した。次に、フィブリノーゲンを溶出緩衝液(洗浄緩衝液と同じpHに調節し、約7.0g/lのNaCl、伝導率約13.1〜15mS/cmに調節したクエン酸ナトリウム1.5g/l、グリシン10.0g/l)でクロマトグラフィーカラムから溶出した。
【0176】
国際公開第2001048016号、国際公開第2012038410号および国際公開第2013135684号で記載された方法から得られたフィブリノーゲン含有溶液の全タンパク質(ビウレット)、フィブロネクチンおよびプラスミノーゲンレベルを試験した。さらに、2〜8℃および30℃で試料の安定性試験を行った。
【0177】
フィブリノーゲン調製物の特性の比較を表6に示す。試験の結果は、本発明の方法から製造されたフィブリノーゲンは、その他の方法と比較してプラスミノーゲン含有レベルが低いことを示す。
【0178】
【表6】