(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかるバイオセンサの実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各図面において同じ構成部材には同じ符号を付すものとする。また、各部材の大きさや部材同士の間の距離などは模式的に図示しており、現実のものとは異なる場合がある。
【0018】
また、バイオセンサ100は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともにz方向の正側を上方として、上面、下面などの用語を用いるものとする。
【0019】
(第1の実施形態)
バイオセンサ100は、主に第1カバー部材1、第2カバー部材2および検出素子3からなる。第1カバー部材1は、第1基板1aおよび第1基板1a上に積層される第2基板1bを有し、第2カバー部材2は、第2基板1b上に積層される第3基板2aおよび第3基板2a上に積層される第4基板2bを有する。検出素子3は弾性表面波素子であり、主に素子基板10、第1IDT(InterDigital Transducer)電極11、第2IDT電極12および検出部13からなる(
図5参照)。
【0020】
第1カバー部材1と第2カバー部材2とは互いに貼り合わされており、貼り合わされた第1カバー部材1と第2カバー部材2の内部に検出素子3が収容されている。
図4の断面図に示すように、第1カバー部材1は上面に素子収容凹部5を有し、素子収容凹部5の中に検出素子3が配置されている。
【0021】
第2カバー部材2は、
図1に示すように、長手方向(x方向)の端部に検体溶液の入口である流入口14を有するとともに、流入口14から検出素子3の直上部分に向かって延びた溝部15を有している。なお、
図1では溝部15の位置を示すために溝部15を破線で示している。
【0022】
図2に第1カバー部材1および第2カバー部材2の分解斜視図を示す。
【0023】
第1カバー部材1を構成する第1基板1aは平板状であり、その厚みは、例えば0.1mm〜0.5mmである。第1基板1aの平面形状は概ね長方形状であるが、長手方向の一方端は外方に向かって突出した円弧状となっている。第1基板1aのx方向の長さは、例えば、1cm〜5cmであり、y方向の長さは、例えば1cm〜3cmである。
【0024】
第1基板1aの上面には第2基板1bが貼り合わされる。第2基板1bは、平板状の板に凹部形成用貫通孔4を設けた平板枠状とされており、その厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。平面視したときの外形は、第1基板1aとほぼ同じであり、x方向の長さおよびy方向の長さも第1基板1aとほぼ同じである。
【0025】
凹部形成用貫通孔4が設けられた第2基板1bを平板状の第1基板1aと接合することによって、第1カバー部材1に素子収容凹部5が形成されることとなる。すなわち、凹部形成用貫通孔4の内側に位置する第1基板1aの上面が素子収容凹部5の底面となり、凹部形成用貫通孔4の内壁が素子収容凹部5の内壁となる。
【0026】
また第2基板1bの上面には、端子6および端子6から凹部形成用貫通孔4まで引き回された配線7が形成されている。端子6は、第2基板1bの上面のx方向における他方の端部に形成されている。端子6が形成されている部分は、バイオセンサ100を外部の測定器(図示せず)に挿入したときに実際に挿入される部分であり、端子6を介して外部の測定器と電気的に接続されることとなる。また、端子6と検出素子3とは、配線7などを介して電気的に接続されている。そして、外部の測定器からの信号が端子6を介してバイオセンサ100に入力されるとともに、バイオセンサ100からの信号が端子6を介して外部の測定器に出力されることとなる。
【0027】
第1基板1aおよび第2基板1bからなる第1カバー部材1の上面には、第2カバー部材2が接合されている。第2カバー部材2は、第3基板2aと第4基板2bを有する。
【0028】
第3基板2aは、第2基板1bの上面に貼り合わされている。第3基板2aは平板状であり、その厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。第3基板2aの平面形状は概ね長方形状であるが、第1基板1aおよび第2基板1bと同様に長手方向の一方端は外方に向かって突出した円弧状となっている。第3基板2aのx方向の長さは、第2基板1bに形成された端子6が露出するように第2基板1bのx方向の長さよりも若干短くされており、例えば、0.8mm〜4.8cmである。y方向の長さは、例えば、第1基板1aおよび第2基板1bと同様に1cm〜3cmである。
【0029】
第3基板2aには切欠き8が形成されている。切欠き8は、第3基板2aの円弧状になっている一方端の頂点部分からx方向の他方端に向かって第3基板2aを切り欠いた部分であり、第3基板2aを厚み方向に貫通している。かかる切欠き8は溝部15を形成するためのものである。第3基板2aの切欠き8の両隣には、第3基板2aを厚み方向に貫通する第1貫通孔16および第2貫通孔17が形成されている。第3基板2aを第2基板1bに積層したときに、第1貫通孔16および第2貫通孔17の内側には検出素子3と配線7との接続部分が位置するようになっている。第3基板2aの第1貫通孔16と切欠き8との間の部分は、後述するように溝部15と第1貫通孔16によって形成される空間とを仕切る第1仕切り部25となる。また、第3基板2aの第2貫通孔17と切欠き8との間の部分は、溝部15と第2貫通孔17によって形成される空間とを仕切る第2仕切り部26となる。
【0030】
第3基板2aの上面には第4基板2bが貼り合わされる。第4基板2bは、平板状であり、その厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。平面視したときの外形は、第3基板2aとほぼ同じであり、x方向の長さおよびy方向の長さも第3基板2aとほぼ同
じである。この第4基板2bが切欠き8が形成された第3基板2aと接合されることによって、第2カバー部材2の下面に溝部15が形成されることとなる。すなわち、切欠き8の内側に位置する第4基板2bの下面が溝部15の底面となり、切欠き8の内壁が溝部15の内壁となる。溝部15は、流入口14から少なくとも検出部13の直上領域まで延びており、断面形状は、例えば矩形状である。
【0031】
第4基板2bには、第4基板2bを厚み方向に貫く排気孔18が形成されている。排気孔18は、第4基板2bを第3基板2aに積層したときに切欠き8の端部上に位置している。よって、溝部15の端部は排気孔18と繋がっている。この排気孔18は、溝部15内の空気などを外部に放出するためのものである。
【0032】
排気孔18は円柱状または四角柱状など、流路内の空気を抜くことができればどのような形状であってもよい。ただし、排気孔18の平面形状が大きすぎると、流路内に満たされた検体溶液が外気に触れる面積が大きくなり、検体溶液の水分が蒸発しやすくなる。そうすると、検体溶液の濃度変化が起こりやすくなり、測定精度の低下を招くこととなる。そのため、排気孔18の平面形状は必要以上に大きくならないようにしている。具体的には、円柱状からなる排気孔18の場合にはその直径を1mm以下となるようにし、四角柱からなる排気孔18の場合にはその1辺が1mm以下となるようにしている。
【0033】
また、排気孔18の内壁は疎水性となっている。これにより、流路内に満たされた検体溶液が排気孔18から外部に漏れ出ることが抑制される。
【0034】
第1基板1a、第2基板1b、第3基板2aおよび第4基板2bは、例えば、紙、プラスチック、セルロイド、セラミックスなどからなる。これらの基板は、すべて同じ材料によって形成することができる。これらの基板をすべて同じ材料で形成することによって、各基板の熱膨張係数をほぼ揃えることができるため、基板ごとの熱膨張係数の差に起因する変形が抑制される。また、検出部13には生体材料が塗布されることがあるが、その中には紫外線などの外部の光によって変質しやすいものもある。その場合は、第1カバー部材1および第2カバー部材2の材料として、遮光性を有する不透明なものを用いるとよい。一方、検出部13の外部の光による変質がほとんど起こらない場合は、溝部15が形成されている第2カバー部材2を透明に近い材料によって形成してもよい。この場合は、流路内を流れる検体溶液の様子を視認することができる。
【0035】
次に、検出素子3について説明する。
図5は検出素子3の斜視図、
図6は第1保護部材21および第2保護部材22を外した状態における検出素子3の平面図である。
【0036】
検出素子3は、素子基板10と、素子基板10の上面に配置された検出部13、第1IDT電極11、第2IDT電極12、第1引出し電極19および第2引出し電極20を有する。
【0037】
素子基板10は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶または水晶などの圧電性を有する単結晶の基板からなる。素子基板10の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、素子基板10の厚みは、0.3mm〜1mmである。
【0038】
第1IDT電極11は、
図6に示すように1対の櫛歯電極を有する。各櫛歯電極は、互いに対向する2本のバスバーおよび各バスバーから他のバスバー側へ延びる複数の電極指を有している。そして、1対の櫛歯電極は、複数の電極指が互いに噛み合うように配置されている。第2IDT電極12も第1IDT電極11と同様に構成されている。第1IDT電極11および第2IDT電極12は、トランスバーサル型のIDT電極を構成している。
【0039】
第1IDT電極11は所定の弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を発生さ
せるためのものであり、第2IDT電極12は、第1IDT電極11で発生したSAWを受信するためのものである。第1IDT電極11で発生したSAWを第2IDT電極12が受信できるように、第1IDT電極11と第2IDT電極とは同一直線状に配置されている。第1IDT電極11および第2IDT電極12の電極指の本数、隣接する電極指同士の距離、ならびに電極指の交差幅などをパラメータとして周波数特性を設計することができる。IDT電極によって励振されるSAWとしては、種々の振動モードのものが存在するが、検出素子3においては、例えば、SH波とよばれる横波の振動モードを利用している。
【0040】
また、第1IDT電極11および第2IDT電極12のSAWの伝搬方向(y方向)における外側に、SAWの反射抑制のための弾性部材を設けてもよい。SAWの周波数は、例えば、数メガヘルツ(MHz)から数ギガヘルツ(GHz)の範囲内において設定可能である。中でも、数百MHzから2GHzとすれば、実用的であり、かつ検出素子3の小型化ひいてはバイオセンサ100の小型化を実現することができる。
【0041】
第1IDT電極11は第1引出し電極19と接続されている。第1引出し電極19は、第1IDT電極11から検出部13とは反対側に引き出され、第1引出し電極19の端部19eは第1カバー部材1に設けた配線7と電気的に接続されている。また、第2IDT電極12は第2引出し電極20と接続されている。第2引出し電極20は、第2IDT電極12から検出部13とは反対側に引き出され、第2引出し電極20の端部20eは配線7と電気的に接続されている。
【0042】
第1IDT電極11、第2IDT電極12、第1引出し電極19および第2引出し電極20は、例えば、アルミニウムあるいはアルミニウムと銅との合金などからなる。またこれらの電極は、多層構造としてもよい。多層構造とする場合は、例えば、1層目がチタンまたはクロムからなり、2層目がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。
【0043】
第1IDT電極11および第2IDT電極12は、保護膜(図示せず)によって覆われている。保護膜は、第1IDT電極11および第2IDT電極12の酸化防止などに寄与するものである。保護膜は、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化珪素またはシリコンによって形成されている。保護膜の厚さは、例えば、第1IDT電極11および第2IDT電極の厚さの1/10程度(10〜30nm)である。保護膜は、第1引出し電極19の端部19eおよび第2引出し電極20の端部20eを露出するようにして、素子基板10の上面全体に亘って形成されてよい。
【0044】
第1IDT電極11と第2IDT電極12との間には検出部13が設けられている。検出部13は、例えば、金属膜と金属膜の表面に固定化された核酸やペプチドからなるアプタマーとからなる。金属膜は、例えば、クロムおよびクロム上に成膜された金の2層構造となっている。検出部13は検体溶液中の標的物質と反応を生じさせるためのものであり、具体的には、検体溶液が検出部13に接触すると、検体溶液中の特定の標的物質がその標的物質に対応するアプタマーと結合する。
【0045】
y方向に沿って配置された第1IDT電極、第2IDT電極および検出部13を1セットとすると、バイオセンサ100にはそのセットが2つ設けられている。これにより、一方の検出部13で反応する標的物質を他方の検出部13で反応する標的物質と異ならせることによって、1つのバイオセンサで2種類の検出を行うことが可能となる。
【0046】
第1IDT電極11は、
図5に示すように第1保護部材21によって覆われている。第1保護部材21は、素子基板10の上面に位置し、
図4(a)に示すように、素子基板10の上面側に開口する第1凹部51を有している。第1保護部材21が素子基板10の上面に載置された状態において、第1凹部51の内面と素子基板10の上面とで囲まれた領域が第1振動空間23である。第1IDT電極11は第1振動空間23内に密閉されている。これにより、第1IDT電極11が外気および検体溶液と隔離され、第1IDT電極11を保護することができる。また、第1振動空間23が確保されることによって、第1IDT電極11において励振されるSAWの特性の劣化を抑えることができる。
【0047】
同様にして、第2IDT電極12は第2保護部材22によって覆われている。第2保護部材22も、第1保護部材21と同じく素子基板10の上面に位置し、
図4(a)に示すように、素子基板10の上面側に開口する第2凹部52を有している。第2保護部材22が素子基板10の上面に載置された状態において、第2凹部52の内面と素子基板10の上面とで囲まれた領域が第2振動空間24である。第2IDT電極12は第2振動空間24内に密閉されている。これにより、第2IDT電極12が外気および検体溶液と隔離され、第2IDT電極12を保護することができる。また、第2振動空間24が確保されることによって、第2IDT電極12において受信されるSAWの特性の劣化を抑えることができる。
【0048】
第1保護部材21は、x方向に沿って配置された2つの第1IDT電極11を取り囲むようにして素子基板10の上面に固定された環状の枠体と、枠体の開口を塞ぐように枠体に固定された蓋体とからなる。このような構造は、例えば、感光性の樹脂材料を使用して樹脂膜を形成し、この樹脂膜をフォトリソグラフィー法などによりパターニングすることによって形成することができる。第2保護部材21も同様にして形成することができる。
【0049】
なお、バイオセンサ100においては、2つの第1IDT電極11を1つの第1保護部材23で覆っているが、2つの第1IDT電極11を別個の第1保護部材23によって覆うようにしてもよい。また、2つの第1IDT電極11を1つの第1保護部材23で覆い、2つの第1IDT電極11の間に仕切りを設けるようにしてもよい。第2IDT電極12についても同様に、2つの第2IDT電極12を別個の第2保護部材24で覆ってもよいし、1つの第2保護部材24を使用して2つの第2IDT電極12の間に仕切りを設けるようにしてもよい。
【0050】
SAWを利用した検出素子3において検体溶液の検出を行うには、まず、第1IDT電極11に、配線7や第1引出し電極19などを介して外部の測定器から所定の電圧を印加する。そうすると、第1IDT電極11の形成領域において素子基板10の表面が励振され、所定の周波数を有するSAWが発生する。発生したSAWは、その一部が検出部13に向かって伝搬し、検出部13を通過した後、第2IDT電極12に到達する。検出部13では、検出部13のアプタマーが検体溶液中の特定の標的物質と結合し、結合した分だけ検出部13の重さが変化するため、検出部13の下を通過するSAWの位相などの特性が変化する。このように特性が変化したSAWが第2IDT電極に到達すると、それに応じた電圧が第2IDT電極に生じる。この電圧が第2引出し電極20、配線7などを介して外部に出力され、それを外部の測定器で読み取ることによって、検体溶液の性質や成分を調べることができる。
【0051】
検体溶液を検出部13に誘導させるために、バイオセンサ100では毛細管現象を利用する。具体的には、第2カバー部材2が第1カバー部材1と接合されることによって、第2カバー部材の下面に形成された溝部15の部分が細長い管となるため、検体溶液の種類、第1カバー部材1および第2カバー部材2の材質などを考慮して溝部15の幅あるいは径などを所定の値に設定することによって、溝部15によって形成される細長い管に毛細管現象を生じさせることができる。溝部15の幅(y方向の寸法)は、例えば、0.5mm〜3mmであり、深さ(z方向の寸法)は、例えば、0.1mm〜0.5mmである。なお、溝部15は検出部13を超えて延びた部分である延長部15eを有し、第2カバー部材2には延長部15eにつながった排気孔18が形成されている。検体溶液が流路内に入ってくると、流路内に存在していた空気は排気孔18から外部へ放出される。
【0052】
このような毛細管現象を生じる管を第1カバー部材1および第2カバー部材2からなるカバー部材に形成しておくことによって、流入口14に検体溶液を接触させれば、検体溶液が溝部15を流路としてカバー部材の内部に吸い込まれていく。よって、バイオセンサ100によれば、それ自体が検体溶液の吸引機構を備えているため、ピペットなどの器具を使用することなく検体溶液の吸引を行うことができる。また、流入口14がある部分は丸みを帯びており、その頂点に流入口14を形成しているため、流入口14を判別しやすくなっている。
【0053】
バイオセンサ100においては、流路の内面全体、もしくは内面の一部、例えば、溝部15の底面、溝部15の壁面などが親水性を有している。流路の内面が親水性を有することによって毛細管現象が起きやすくなり、検体溶液が流入口14から吸引されやすくなる。流路の内面のうち親水性を有する部分は、水との接触角が60°以下になるようにしている。接触角が60°以下であれば、より毛細管現象が起こりやすくなり、検体溶液を流入口に接触させたときの検体溶液の流路内への吸引が、より確実なものとなる。
【0054】
溝部15の内面が親水性を有するようにするには、溝部15の内面に親水化処理を施す方法、溝部15の内面に親水性のフィルムを貼り付ける方法、溝部15を構成するカバー部材2を親水性の材料で形成する方法などが考えられる。
【0055】
中でも、溝部15の内面に親水化処理を施す方法および溝部15の内面に親水性のフィルムを貼り付ける方法によれば、検体溶液が親水性の部分に沿って流路内を流れていくため、検体溶液のほとんどが流路に流れ、意図しない場所へ検体溶液が流れるのを抑制して、精度の高い測定をすることができる。また、これらの方法によれば、疎水性の材料からなるカバー部材であっても毛細管現象を起こすことができるため、カバー部材に使用することができる材料の選択肢が増えるという利点もある。
【0056】
溝部15の内面に親水性処理を施すには、例えば、溝部15の内面を酸素プラズマによってアッシングした後、シランカップリング剤を塗布し、最後にポリエチレングリコールを塗布すればよい。その他にも、溝部15の内面を、ホスホリルコリンを有する処理剤を用いて表面処理するという方法もある。
【0057】
また、親水性のフィルムとしては、親水化処理が施された市販のポリエステル系のフィルムあるいはポリエチレン系のフィルムなどを使用することができる。流路に親水性のフィルム34を貼り付けた例を
図9に示す。
図9(a)および
図9(b)は、
図4(a)に対応する断面図であり、
図9(c)は
図4(b)に対応する断面図である。フィルム34は、
図9(a)に示すように、流路の上面、すなわち溝部15の底面のみに形成するようにしてもよいし、
図9(b)に示すように、流路の側面、すなわち溝部15の内壁のみに形成するようにしてもよい。また、
図9(c)に示すように、流路の下面にフィルム34を形成するようにしてもよく、これら
図9(a)〜
図9(c)の態様を組み合わせてもよい。
【0058】
ところで、溝部15によって形成される検体溶液の流路は深さが0.3mm程度であるのに対し、検出素子3は厚みが0.3mm程度であり、流路の深さと検出素子3の厚さとがほぼ等しい。そのため、流路上に検出素子3をそのまま置くと流路が塞がれてしまう。
そこで、バイオセンサ100においては、
図4に示すように、検出素子3が実装される第1カバー部材1に素子収容凹部5を設け、この素子収容凹部5の中に検出素子3を収容することによって、検体溶液の流路が塞がれないようにしている。すなわち、素子収容凹部5の深さを検出素子3の厚みと同程度にし、その素子収容凹部5の中に検出素子3を実装することによって、溝部15によって形成される流路を確保することができる。
【0059】
図3は、第2カバー部材2の第4基板2bを外した状態における斜視図であるが、検体溶液の流路が確保されているため、毛細管現象によって流路内に流入した検体溶液を検出部13までスムーズに誘導することができる。
【0060】
検体溶液の流路を十分に確保する観点から、
図4に示すように、素子基板10の上面の素子収容凹部5の底面からの高さは、素子収容凹部5の深さと同じかまたはそれよりも小さく(低く)しておくとよい。例えば、素子基板10の上面の素子収容凹部5の底面からの高さを素子収容凹部5の深さと同じにしておけば、流入口14から溝部15の内部を見たときに、流路の底面と検出部13とをほぼ同一高さとすることができる。バイオセンサ100においては、素子基板10の厚みを素子収容凹部5の深さよりも小さく(薄く)し、第1保護部材21および第2保護部材22の上面の素子収容凹部5の底面からの高さが素子収容凹部5の深さとほぼ同じになるようにしている。第1保護部材21および第2保護部材22の素子収容凹部5の底面からの高さを素子収容凹部5の深さよりも大きく(高く)すると、第3基板2aの第1仕切り部25および第2仕切り部26を他の部分より薄く加工する必要があるが、第1保護部材21および第2保護部材22の素子収容凹部5の底面からの高さを素子収容凹部5の深さとほぼ同じにしておくことによって、そのような加工の必要がなくなり、生産効率がよい。
【0061】
素子収容凹部5の平面形状は、例えば、素子基板10の平面形状と相似の形状とされており、素子収容凹部5は素子基板10よりも若干大きい。より具体的には、素子収容凹部5は素子基板10を素子収容凹部5に実装したときに、素子基板10の側面と素子収容凹部5の内壁との間に100μm程度の隙間が形成されるような大きさである。
【0062】
検出素子3は、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂またはシリコーン樹脂などを主成分とするダイボンド材によって、素子収容凹部5の底面に固定されている。第1引出し電極19の端部19eと配線7とは、例えば、Auなどからなる金属細線27によって電気的に接続されている。第2引出し電極20の端部20eと配線7との接続も同様である。なお、第1引出し電極19および第2引出し電極20と配線7との接続は、金属細線27によるものに限らず、例えば、Agペーストなどの導電性接着材によるものでもよい。
【0063】
第1引出し電極19および第2引出し電極20と配線7との接続部分には空隙が設けられているため、第2カバー部材2を第1カバー部材1に貼り合わせた際に、金属細線27の破損が抑制される。この空隙は、第3基板2aに第1貫通孔16および第2貫通孔17を設けておくことによって簡単に形成することができる。また、第1貫通孔16と溝部15との間に第1仕切り部25が存在することによって、溝部15を流れる検体溶液が第1貫通孔16によって形成された空隙に流れ込むのを抑制することができる。これにより、複数の第1引出し電極19の間で検体溶液による短絡が発生するのを抑制することができる。同様に、第2貫通孔17と溝部15との間に第2仕切り部26が存在することによって、溝部15を流れる検体溶液が第2貫通孔17によって形成された空隙に流れ込むのを抑制することができる。これにより、複数の第2引出し電極20の間で検体溶液による短絡が発生するのを抑制することができる。
【0064】
第1仕切り部25は第1保護部材21上に位置し、第2仕切り部26は第2保護部材22上に位置している。よって、検体溶液の流路は、より厳密にいえば、溝部15だけでなく第1保護部材21の溝部側の側壁と第2保護部材22の溝部側の側壁によっても規定される。第1貫通孔16および第2貫通孔17によって形成される空隙への検体溶液の漏れを防止する観点からは、第1仕切り部25は第1保護部材21の上面に、第2仕切り部26は第1保護部材22の上面にそれぞれ接触させておいた方がよいが、バイオセンサ100では、第1仕切り部25の下面と第1保護部材21の上面との間および第2仕切り部26の下面と第2保護部材22の上面との間に隙間を有するようにしている。この隙間は、例えば、10μm〜60μmである。このような隙間を設けておくことによって、例えば、バイオセンサ100を指でつまんだ際などにこの部分に圧力がかかっても、隙間によって圧力を吸収し、第1保護部材21および第2保護部材22に直接圧力がかかるのを抑制することができる。その結果、第1振動空間23および第2振動空間24が大きく歪むのを抑制することができる。また、検体溶液は通常ある程度の粘弾性を有するため、隙間を10μm〜60μmにしておくことによって検体溶液がこの隙間に入り込みにくくなり、検体溶液が第1貫通孔16および第2貫通孔17によって形成される空隙に漏れるのを抑制することもできる。
【0065】
第1仕切り部25の幅は、第1振動空間23の幅よりも広くされている。換言すれば、第1保護部材21の枠体上に第1仕切り部25の側壁が位置するようにされている。これにより、外部からの圧力によって第1仕切り部25が第1中空部21に接触した場合でも、第1仕切り部25が枠部によって支えられるため、第1保護部材21の変形を抑制することができる。同様の理由により、第2仕切り部26の幅も、第1振動空間25の幅よりも広くしておくとよい。
【0066】
第1貫通孔16および第2貫通孔17によって形成される空隙内に位置する第1引出し電極19、第2引出し電極20、金属細線27および配線7は、絶縁性部材28によって覆われている。第1引出し電極19、第2引出し電極20、金属細線27および配線7が絶縁性部材28で覆われていることによって、これらの電極などが腐食するのを抑制することができる。また、この絶縁性部材27を設けておくことによって、検体溶液が第1仕切り部25と第1保護部材21との隙間に、あるいは第2仕切り部26と第2保護部材22との隙間に入り込んだ場合でも、絶縁性部材27によって検体溶液が堰き止められる。よって、検体溶液の漏れによる引き出し電極間の短絡などを抑制することができる。
【0067】
かくしてバイオセンサ100によれば、検出素子3を第1カバー部材1の素子収容凹部5に収容したことによって、流入口14から検出部13に至る検体溶液の流路を確保することができ、毛細管現象などによって流入口から吸引された検体溶液を検出部13まで流すことができる。すなわち、厚みのある検出素子3を用いつつ、それ自体に吸引機構を備えたバイオセンサ100を提供することができる。
【0068】
図7は、バイオセンサ100の変形例を示す断面図である。この断面図は、
図4(a)に示す断面と対応している。
【0069】
この変形例は、端子6の形成位置を変えたものである。上述した実施形態では、端子6を第2基板1bの長手方向の他方端部に形成していたが、この変形例では第4基板2bの上面に形成している。端子6と配線7とは、第2カバー部材2を貫通する貫通導体29によって電気的に接続されている。貫通導体29は、例えば、Agペーストあるいはめっきなどからなる。また端子6は、第1カバー部材1の下面側に形成することも可能である。よって、端子6は、第1カバー部材1および第2カバー部材2の表面における任意の位置に形成可能であり、使用される測定器に合わせてその位置を決めることができる。
【0070】
図8は、バイオセンサ100の別の変形例を示す断面図である。この断面図は、
図4(b)に示す断面と対応している。
【0071】
この変形例では、溝部15によって形成された流路の突き当たりに、検体溶液を所定の速度で吸収する吸収材30が設けられている。このような吸収材30を設けておくことによって、余分な検体溶液を吸収し、検出部13上を流れる検体溶液の量を一定化して、安定した測定を行うことができる。吸収材30は、例えば、スポンジなど液体を吸収することができる多孔質状の材料からなる。
【0072】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るバイオセンサ200について、
図10および
図11を用いて説明する。
図10はバイオセンサ200に使用される実装用部材31およびカバー部材32の分解斜視図であり、
図11は断面図であり、
図11(a)、
図11(b)はそれぞれ
図4(a)、
図4(b)に対応する断面である。
【0073】
バイオセンサ200は、上述した第1の実施形態のバイオセンサ100とは、カバー部材の形状および検出素子3の実装方法が主に異なっている。
【0074】
具体的には、第1の実施形態のバイオセンサ100では、検出素子3は検出部13および第1、第2IDT電極11、12が形成された面を上側(z方向)にして、素子基板3の下面を第1カバー部材1に実装していたのに対し、バイオセンサ200では、検出素子3は、検出部13および第1、第2IDT電極11、12が形成された面を下側(−z方向)にして実装用部材31に実装されている。すなわち、バイオセンサ200においては、検出素子3がフェイスダウン実装されている。
【0075】
検出素子3をフェイスダウン実装するには、例えば、素子基板3に形成された第1引出し電極19の端部19eと実装用部材31に形成された配線7の端部7eとを半田などの導電性接合材33によって接合し、同じく素子基板3に形成された第2引出し電極20の端部20eと実装用部材31に形成された配線7の端部7eとを半田などの導電性接合材33によって接合すればよい。このような半田を用いた接合方法以外にも、例えば、Auなどの導電性バンプによる接合も可能である。
【0076】
第1の実施形態におけるバイオセンサ100のように検出素子3をフェイスアップ実装すると、検出素子3と第1カバー部材1との機械的な接続は素子基板3の下面と第1カバー部材1の素子収容凹部底面との間に介在するダイボンド材によって行われ、素子基板3と第1カバー部材1との電気的な接続は金属細線27によって行われる。すなわち、機械的な接続と電気的な接続とは別個に行われることとなる。
【0077】
一方、バイオセンサ200のように検出素子3をフェイスダウン実装すると、検出素子3と実装用部材31との機械的な接合および電気的な接合を同時に行うことができるため、生産効率がよい。
【0078】
またバイオセンサ200は、第1の実施形態のバイオセンサ100とはカバー部材の形状も異なっている。第1の実施形態のバイオセンサ100では、第1カバー部材1と第2カバー部材2のうち下側に配置される第1カバー部材1に素子収容凹部5を設け、この素子収容凹部5に検出素子3を収容することによって、流路が検出素子3によって塞がれることなく検出部13まで導出されるようにしていた。これに対し、バイオセンサ200では、
図11に示すように、実装用部材31とカバー部材32のうち上側に配置されるカバー部材1の下面に素子収容凹部5を設け、この素子収容凹部5に検出素子3が収容されるようになっている。これによって、厚みのある検出素子3をカバー部材の中に収容しつつ、検出部13の下の領域まで導出された流路を確保することができる。
【0079】
図10に示すように、実装用部材31は第5基板31aおよび第6基板31bからなり、カバー部材32は第7基板32aおよび第8基板32bからなる。
【0080】
第5基板31aは、平板状であり、基本的には第1の実施形態における第1基板1aと同じものである。一方、第5基板31bに貼り合わされる第6基板31bは、第1の実施形態における第2基板1bとは異なっており、切欠き8が形成されている。このように切欠き8が形成された第6基板31bを平板状の第5基板31aに積層することによって、一方端に流入口を有し、その流入口から延びる溝部15を有する第5カバー部材31が形成される。
【0081】
カバー部材32を構成する第7基板32aおよび第8基板32bのうち、下側に配置される第7基板32aには凹部形成用貫通孔4が形成されている。このような凹部形成用貫通孔4が形成されている第7基板32の上面に平板状の第8基板32bを積層することによって、下面に素子収容凹部5を有するカバー部材32が形成されている。なお、第8基板32bは、基本的には第1の実施形態における第4基板2bと同じものである。
【0082】
また、バイオセンサ200では、
図11に示すように、親水性のフィルム34が溝部5の底面に形成されている。一方、第6基板31は疎水性の材料によって形成されている。これによって、検体溶液は基本的には溝部5によって形成された流路内に流れ、第1保護部材21と第6基板31の上面との隙間および第2保護部材22と第6基板31の上面との隙間には検体溶液が入り込みにくくなる。これによって、検体溶液によって第1引出し電極19の端部19e同士などが短絡することが抑制される。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係るバイオセンサ300について、
図12乃至
図15を用いて説明する。
【0084】
バイオセンサ300は、上述した第1の実施形態のバイオセンサ100と比較すると、補助基板35を備える点および検出素子3の第1振動空間23および第2振動空間24を形成する部分の構造が主に異なっている。
【0085】
補助基板35は、
図12に示すように、第1カバー部材1と第2カバー部材2との間に介在する基板であり、外形および大きさは、例えば、第2基板1bと同じである。また補助基板35の厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。補助基板35は、接着剤または両面テープなどを介して、下側の第2基板1bおよび上側の第3基板2aに貼り付けられている。
【0086】
第1の実施形態でも述べたように、検出素子40を収容する素子収容凹部5は、検出素子40の平面形状よりも若干大きくなっている。そのため、検出素子40の側面と素子収容凹部5の内壁との間には隙間が形成される。補助基板35はこの隙間を塞ぐ役割を果たすものである。同時に、補助基板35は検出素子40上の流路の一部を形成している。
【0087】
補助基板35が検出素子40の側面と素子収容凹部5の内壁との間の隙間を塞ぎつつ、流路を形成している態様を、
図13および
図14を用いて説明する。
図13(a)〜
図13(c)は、バイオセンサ300から所定の部材を省いた状態の斜視図である。具体的には、
図13(a)は、第2カバー部材2および補助基板35を省いた状態の斜視図であり、
図13(b)は第2カバー部材2を省いた状態の斜視図であり、
図13(c)は第2カバー部材2の第4基板2bを省いた状態の斜視図である。また、
図14(a)は
図4(a)に対応する断面図であり、
図14(b)は
図4(b)に対応する断面図である。
【0088】
図13(a)に示すように、素子収容凹部5に検出素子40が収容された状態において、検出素子40の側面と素子収容凹部5の内壁との間には隙間が形成されている。この隙間は、
図13(b)に示すように、第2基板2bに積層された補助基板35によって塞がれる。
【0089】
ここで、バイオセンサ300に使用されている検出素子40の構造について説明する。
図15はバイオセンサ300に使用されている検出素子40の斜視図である。検出素子40は、素子基板10の上面に配置された枠体37を有する。枠体37は、2つの検出部13を露出させるように中央部に貫通孔を有するとともに、各IDT電極を露出させる貫通孔も有する。すなわち、枠体37は検出部13と各IDT電極を個別に取り囲む部分を有する。
【0090】
図14(a)に示すように、枠体37の枠になっている各部分は補助基板35によって塞がれている。このように、補助基板35は、検出素子40の側面と素子収容凹部5の内壁との間の隙間を塞ぐとともに、枠体37の枠になっている部分を塞ぐ蓋としての機能も果たしている。第1IDT電極11を取り囲む部分が塞がれることによって第1振動空間23が形成され、第1IDT電極11は第1振動空間23内に密閉された状態となる。同様にして、第2IDT電極12を取り囲む部分が塞がれることによって第2振動空間24が形成され、第2IDT電極12が第2振動空間24内に密閉された状態となる。また、検出部13を取り囲む部分も塞がれることにより、この部分に空間38が形成される。
【0091】
枠体37の上面は、第2基板1bの上面と同じ位置にある。換言すれば、枠体37の厚みは、第2基板1bの厚みと素子基板10の厚みとの差に等しい。枠体37をこのような厚みで形成することによって、検出素子40の側面と素子収容凹部5の内壁との間の隙間を塞ぐと同時に、枠体37の枠になっている部分を塞ぐことができる。枠体37の厚みは、例えば、50μmである。
【0092】
図13(b)に戻って、補助基板35には第1孔部41と第2孔部42が形成されている。これら第1孔部41と第2孔部42は、いずれも枠体37の検出部13を取り囲んだ部分の枠内に通じている。
【0093】
このように、第1孔部41および第2孔部42が形成された補助基板35の上面に、切欠き8を有する第3基板2aが積層されている。第1孔部41と第2孔部42は、第3基板2aを補助基板35に積層したときに切欠き8と重なる位置に設けられている。切欠き8は溝部15となる部分であるから、これらの第1孔部41および第2孔部42によって溝部15と空間38とが繋がることになる。第1孔部41は、検体溶液の流入口となる切欠き8の開口側の端部寄りに形成されており、第2孔部42は、第1孔部41よりも切欠き8の開口側の端部から離れた位置に形成されている。また、切欠き8の第1孔部41と第2孔部42との間の部分には、仕切り壁43が形成されている。第1孔部41および第2孔部42の平面形状は、円形状あるいは矩形状など任意の形状が可能であり、第1孔部41と第2孔部42とで形状および大きさを同じにしてもよいし、違うものにしてもよい。
【0094】
このような構造からなるバイオセンサ300における検体溶液の流路について、
図14の断面図を用いて説明する。第1の実施形態において説明したように、流入口14に検体溶液が触れると、溝部15によって形成された流路内に検体溶液が毛細管現象によって流れ込む。流れ込んだ検体溶液が第1孔部41まで到達すると、そのまま毛細管現象によって第1孔部41を介して空間38内に入り込み、空間38が検体溶液で満たされる。このとき、空間38内の空気は第2孔部42から抜けていく。この状態で検体溶液の測定が行われる。このように、バイオセンサ300では、空間38が流路の一部となっている。毛
細管現象が起こりやすくなるように、補助基板35は、少なくともその表面が親水性を有するようにしている。なお、仕切り壁43を形成しているため、仕切り壁43まで到達した検体溶液はそこで堰き止められ、第1孔部41を介して空間38の中に入っていく。
【0095】
図14(a)に示すように、空間38と第1振動空間23および第2振動空間24とは、枠体37および補助基板35によって仕切られた空間となっているため、空間38に流れ込んだ検体溶液が第1振動空間23および第2振動空間24に流れ込むのを抑制することができる。また、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間の隙間が補助基板35によって塞がれているため、その隙間に検体溶液が流れ込むことも抑制することができる。
【0096】
したがって、バイオセンサ300によれば、検体溶液が不要な部分に流れ込むのを抑制することができ、配線7同士の短絡の発生が抑制される。また、流路に流れる検体溶液の量を一定化することができる。
【0097】
また、バイオセンサ300においては、上述した実施形態と異なり、配線7を一番下の層である第1基板1aに設けている。そのため、配線7と検出素子3の第1および第2引出し電極の端部19e、20eとを接続する金属細線27は検出素子3の上面から下方に打ち下ろされることとなり、金属細線27の山なりになっている部分はそれ程高くならない。よって、金属細線27の頂点を枠体37の高さよりも低い位置にすることが容易となり、金属細線27が補助基板35に接触しないようにするための加工を別途する必要がなくなるため、生産効率が向上する。ただし、配線7の位置はこれに限られるわけではなく、例えば、第1の実施形態と同様に第2基板1bに設けてもよい。金属細線27をそのままボンディングすると補助基板35に接触するような場合には、枠体37の厚みを大きくしたり、補助基板35の金属細線27の直上領域に貫通孔を設けたりすればよい。
【0098】
図16は、バイオセンサ300の変形例301を示す、
図14(a)に対応する断面図である。上述したバイオセンサ300では、補助基板35が枠体37の蓋としての機能も果たしていたが、この変形例は、補助基板35とは別に第2枠体37bを設けている。
【0099】
図17に、変形例301に使用される検出素子41の斜視図を示す。検出素子41は、
図15に示した検出素子40とは枠体37の構造が異なっている。変形例301における枠体37は、第1枠体37aおよび第1枠体37aに積層された第2枠体37bの2層構造からなる。第1枠体37aはバイオセンサ300における枠体37と同じ構造からなり、2つの検出部13および各IDT電極を取り囲む部分を有している。第2枠体37bは第1枠体37aと平面視における外形および大きさが同じであるが、第1IDT電極11および第2IDT電極12に対応する部分に貫通孔は形成されていない。よって、第1IDT電極11を取り囲む部分が第2枠体37bによって塞がれて第1振動空間23が形成され、同様に第2IDT電極12を取り囲む部分が第2枠体37bによって塞がれて第2振動空間24が形成されている。一方、第2枠体37bの検出部13の直上領域には、第1枠体37aと同形状で同じ大きさの貫通孔が形成されており、この部分が補助基板35によって塞がれて、流路の一部になる空間38が形成される。
【0100】
枠体37をこのような構造とすることで、補助基板35と枠体37との接触面積が増えるため、補助基板35を蓋体39に強固に接着することができる。
【0101】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係るバイオセンサ400について、
図18乃至
図20を用いて説明する。
【0102】
バイオセンサ400は、上述した第1の実施形態のバイオセンサ100と比較すると、補助基板44を備える点が主に異なっている。
【0103】
補助基板44は、
図18に示すように、第1カバー部材1と第2カバー部材2との間に介在する平板状の基板である。補助基板44の外形および大きさは、第3基板2aと同じである。また、補助基板35の厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。補助基板44は、接着剤または両面テープなどを介して、下側の第2基板1bおよび上側の第3基板2aに貼り付けられている。補助基板44には、補助基板44を第1カバー部材1に重ねたときに検出素子3の検出部13が露出するように、孔部45が設けられている。また、孔部45の両隣には、後述するように、第1の実施形態におけるバイオセンサ100の第3基板2aに設けた第1貫通孔16および第2貫通孔17と同様の機能を果たす第3孔部45および第4貫通孔46が設けられている。
【0104】
補助基板44は、検体溶液の流路を検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間にできる隙間から隔離するための役割を果たすものである。これを
図19および
図20を用いて説明する。
図19(a)〜
図19(c)は、バイオセンサ400から所定の部材を省いた状態の斜視図である。具体的には、
図19(a)は、第2カバー部材2および補助基板44を省いた状態の斜視図であり、
図19(b)は第2カバー部材2を省いた状態の斜視図であり、
図19(c)は第2カバー部材2の第4基板2bを省いた状態の斜視図である。また、
図20(a)は
図4(a)に対応する断面図であり、
図20(b)は
図4(b)に対応する断面図である。
【0105】
図19(a)に示すように、素子収容凹部5に検出素子3が収容された状態において、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間には隙間が形成されている。これに補助基板44を積層すると、
図19(b)に示すように、補助基板44に設けた孔部45から検出素子3の一部が露出する。孔部45は、その外周が検出素子3の外周よりも内側に位置するような大きさに形成されている。これによって、バイオセンサ400においては、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間に形成される隙間のうち、x方向の両端に位置する隙間(y方向に沿った隙間)は、補助基板44の下に位置することとなる。すなわち、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間に形成される隙間のうち、x方向の両端に位置する隙間は、補助基板44によって塞がれる。一方、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間に形成される隙間のうち、y方向の両端に位置する隙間(x方向に沿った隙間)は、第3貫通孔46および第4貫通孔47から露出している。
【0106】
第1カバー部材1に積層された補助基板44の上面には、切欠き8を有する第3基板2aが積層されている。補助基板44には検出部3を露出させる孔部45が形成されているため、
図19(c)に示す状態において、平面視したときに切欠き8から検出部13が露出する。
【0107】
このような構造からなるバイオセンサ400における検体溶液の流路は、
図20の断面図に示すように、基本的には第1の実施形態におけるバイオセンサ100と同じである。すなわち、流入口14に検体溶液が触れると、溝部15によって形成された流路内に検体溶液が毛細管現象によって流れ込み、流れ込んだ検体溶液がそのまま検出部13に到達し、測定が行われる。
【0108】
このとき、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間にできる隙間のうち、溝部15と重なる部分は、
図20(b)に示すように、補助基板44によって塞がれているため、検体溶液が隙間に入り込むことが抑制される。また、検出素子3の側面と素子収容凹部5の内壁との間にできる隙間のうち、溝部15と直交する方向における隙間(
図20(a)において現れる隙間)は、補助基板44で塞がれていないものの、補助基板44によって検体溶液がこの隙間に入り込むのを抑制することができる。これは、
図20(a)に示すように、補助基板44の孔部45と第3貫通孔46との間の部分である第3仕切り部48と、補助基板44の孔部45と第4貫通孔47との間の部分である第4仕切り部49とによって、流路と隙間とが仕切られるからである。
【0109】
したがってバイオセンサ400によれば、検体溶液が不要な部分に流れ込むのを抑制することができ、配線7同士の短絡の発生が抑制される。また、検体溶液が流路以外の不要な部分に流れることがほとんどなく、測定する検体溶液の量を一定化することができる。
【0110】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0111】
上述した実施形態においては、検出部13が金属膜と金属膜の表面に固定化されたアプタマーからなるものについて説明したが、例えば、検体溶液中の標的物質が金属膜と反応する場合には、アプタマーを使用せず金属膜だけで検出部13を構成してもよい。さらに、金属膜を用いずに、圧電基板である素子基板10の表面における第1IDT電極11と第2IDT電極12との間の領域を検出部13としてもよい。この場合は、素子基板10の表面に検体溶液を直接付着させることにより、検体溶液の粘性などの物理的性質を検出する。より具体的には、検出部13上の検体溶液の粘性などが変化することによるSAWの位相変化を読み取ることとなる。
【0112】
また、上述した実施形態においては、検出素子3が弾性表面波素子からなるものについて説明したが、検出素子3はこれに限らず、例えば、表面プラズモン共鳴が起こるように光導波路などを形成した検出素子3を用いてもよい。この場合は、例えば、検出部における光の屈折率の変化などを読み取ることとなる。その他、水晶などの圧電基板に振動子を形成した検出素子3を用いることもできる。この場合は、例えば、振動子の発振周波数の変化を読み取ることとなる。
【0113】
また、検出素子3として、同じ基板上に複数種類のデバイスを混在させても構わない。例えば、SAW素子の隣に酵素電極法の酵素電極を設けてもよい。この場合は、抗体やアプタマーを用いた免疫法に加えて酵素法での測定も可能となり、一度に検査できる項目を増やすことができる。
【0114】
また、上述した実施形態においては、第1カバー部材1が第1基板1aおよび第2基板1bにより形成され、第2カバー部材2が第3基板2aおよび第4基板2bにより形成されている例を示したが、これに限らず、いずれかの基板同士が一体化されたもの、例えば、第1基板1aと第2基板1bが一体化された第1カバー部材1を用いてもよい。
【0115】
また、上述した実施形態においては、検出素子3が1個設けられている例について説明したが、検出素子3を複数個設けてもよい。この場合、検出素子3ごとに素子収容凹部5を設けてもよいし、すべての検出素子3を収容できるような長い素子収容凹部5を形成するようにしてもよい。
【0116】
また、第1の実施形態におけるバイオセンサ100の変形例を第2の実施形態におけるバイオセンサ200にも適用したものなど、各実施形態に記載したバイオセンサの変形例および各構成部材の態様は、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で他の実施形態のバイオセンサに適用することができる。