特許第6411503号(P6411503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョンソン・アンド・ジョンソン・メディカル・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6411503
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】外科用インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/08 20060101AFI20181015BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20181015BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   A61F2/08
   A61L27/44
   A61L27/58
【請求項の数】24
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-535364(P2016-535364)
(86)(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公表番号】特表2016-527997(P2016-527997A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】EP2014002287
(87)【国際公開番号】WO2015024659
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年6月13日
(31)【優先権主張番号】102013014295.4
(32)【優先日】2013年8月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502074013
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・メディカル・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】プリーベ・ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ハルムス・フォルカー
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/007578(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/036129(WO,A1)
【文献】 特表2015−508310(JP,A)
【文献】 特表2013−532028(JP,A)
【文献】 特表2008−508075(JP,A)
【文献】 特表2008−538300(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0288691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/08
A61L 27/00 − 27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用インプラントであって、
第1の面と第2の面とを有する面状の可撓性で多孔性の基本構造(12、52)と、
前記基本構造(12、52)に付着している再吸収性を有する少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)であって、前記基本構造(12、52)から離れる方向に前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)から出ている中実な複数の突出部(40、62)を備える、少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)と、を備え、
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)が、前記基本構造(12、52)の領域において非対称な形状の構造(20、56)で配列されている、外科用インプラント。
【請求項2】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30)が、密着性の前記非対称な形状の構造(20、56)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の外科用インプラント。
【請求項3】
前記非対称な形状の構造(20、56)が、非対称なパターン(56)で配列された複数の前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の外科用インプラント。
【請求項4】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)に加えて、第2のフィルム片(58)が前記基本構造(52)に付着しており、前記第2のフィルム片(58)のそれぞれが、前記基本構造(52)から離れる方向に前記第2のフィルム片(58)のそれぞれから出ている少なくとも1つの前記突出部(62)を備え、前記第2のフィルム片(58)が染色されていないか、又は前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)と比べて別様に染色されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項5】
前記非対称な形状の構造(20、56)が、少なくとも1つの記号(「E」、54)を画定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項6】
前記非対称な形状の構造(56)が、記号列を画定することを特徴とする、請求項5に記載の外科用インプラント。
【請求項7】
前記突出部(40、62)の少なくとも1つが、ロッド状であること、柱状であること、マッシュルーム形状であること、から選択される特性を備え、各本体(42、43)及び各頭部(44)によって画定される形状を備えており、前記本体(42、43)が前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)から出ているとともに、前記頭部(44)で終端しており、前記頭部(44)が前記本体(42)に対して横方向に突出していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項8】
フィルム(16)が前記基本構造(12)の前記第2の面に付着しており、前記フィルム(16)が、1つの片として設けられていること、複数のフィルム片として設けられていること;再吸収性であること、非再吸収性であること;突出部を備えること、突出部を備えないこと;バリア特性を有すること、バリア特性を有さないこと;という特徴群のうちのそれぞれのうちの1つの特徴を備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項9】
バリア特性を有する前記フィルム(16)が、前記基本構造(12)の前記第2の面に付着しており、このフィルム(16)が、ポリアルケン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素化ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE、ePTFE、cPTFE、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマーとの配合物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、これらの重合性物質のコポリマー、再吸収性ガラス、セルロース、バクテリアセルロース、同種移植片、異種移植片、コラーゲン、ゼラチン、絹から選択される材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項8に記載の外科用インプラント。
【請求項10】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)が前記基本構造(12、52)の孔の中まで延びており、請求項1定義された前記突出部(40、62)が、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)から、前記基本構造(12、52)の前記第1の面から離れる方向と、前記基本構造(12、52)の前記第2の面から離れる方向の両方に出ていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項11】
それぞれが前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)を備えるとともに、それぞれが記号列(56)を画定する、少なくとも2つのストライプ様形状の構造が、前記基本構造(52)に付着していることと、前記第2のフィルム片(58)が、前記ストライプ様形状の構造間の領域で、前記基本構造(52)に付着していることとを特徴とする、請求項4、または請求項4に従属する請求項〜10のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項12】
前記外科用インプラント(10、50)が、腹腔鏡下の留置のために巻かれるか折り畳まれ、トロカールスリーブを通して手術部位に移動され、かつ、手術部位自体に粘着することなく、広がるか開かれるように構成されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項13】
前記外科用インプラント(10、50)は、軟組織インプラント(例えばヘルニアインプラントとして設計されており、前記外科用インプラント(10、50)と筋肉又は脂肪などの軟組織との摩擦が、突出部のない対応するインプラントと比べて、少なくとも一方向において2倍以上増大した状態で、前記軟組織において、少なくとも部分的にインプラント自体を固定するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項14】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)が、合成生体吸収性ポリマー材、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、コラーゲン、ゼラチン、オメガ3脂肪酸で架橋した生体吸収性ゲルフィルム、酸化再生セルロースから選択される材料を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項15】
前記基本構造(12、52)が、ポリアルケン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素化ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE、ePTFE、cPTFE、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマーとの配合物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、これらの重合性物質のコポリマー、再吸収性ガラス、セルロース、バクテリアセルロース、同種移植片、異種移植片、コラーゲン、ゼラチン、絹から選択される材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項16】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)と、その少なくとも1つのフィルム片(20、30、54)から出ている前記突出部(40、62)が一体的に作られていることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項17】
前記基本構造(12、52)が、3次元構成に形成されており、前記外科用インプラント(10,50)が、チューブ、血管インプラント、ステント、乳房インプラント、整形外科用インプラントから選択される形態で設計されていることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の外科用インプラント。
【請求項18】
請求項1に記載の外科用インプラントを製造するプロセスであって、
キャビティの配列を含む成形型(70)を用意する工程であって、各キャビティが前記突出部(40、62)の形状を有する、工程と、
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)の前記非対称な形状の構造(20、56)を画定するパターン(74)に従って、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)と前記突出部(40、62)とを形成する流体材料(80)を前記成形型(70)に充填する工程と、
前記流体材料(80)を硬化させる工程と、
前記突出部が前記基本構造(72)から離れる方向を向いた状態で、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)を前記基本構造(72)に付着させる工程と、
前記成形型(70)を外す工程と、によって特徴付けられる、プロセス。
【請求項19】
前記成形型(70)が可撓性であり、可撓性材料、シリコーン、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴムという材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)の前記非対称な形状の構造(20、56)を画定する前記パターンが、前記基本構造(72)と、前記成形型(70)に充填される前記流体材料(80)との間に置かれるマスク(74)によって決まることを特徴とする、請求項18又は19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記成形型(70)と、前記基本構造としての外科用メッシュ(72)と、前記マスク(74)と、前記外科用メッシュ(72)よりも融点の低い、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)用のシート状材料(80)と、可撓性プレート装置(84)と、をこの順番で備える層状アセンブリを用意する工程と、
前記シート状材料(80)を、その融点よりも高くかつ前記外科用メッシュ(72)の前記融点よりも低い温度まで加熱する工程と、
前記成形型(70)と前記プレート装置(84)とを互いに向かって押し付け、それによって、前記少なくとも1つの染色フィルム片用の前記シート状材料(80)が、前記マスク(74)を通って前記成形型(70)の中に移動し、前記外科用メッシュ(72)を埋め込む工程と、
前記温度を低下させて、前記成形型(70)を外す工程と、によって特徴付けられる、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記成形型(70)、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)用のシート状材料(80)と、前記マスク(74)と、前記シート状材料(80)よりも融点が高い、前記基本構造(12,52)としての外科用メッシュ(72)と、可撓性プレート装置と、をこの順番で備える層状アセンブリを用意する工程と、
前記シート状材料(80)を、その融点よりも高く、前記外科用メッシュ(72)の前記融点よりも低い温度まで加熱する工程と、
前記成形型(70)と前記プレート装置(84)とを互いに向かって押しつけ、それによって、前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)用の前記シート材料(80)を前記成形型の中に移動させ、前記マスク(74)によって遮蔽されていない領域において、前記外科用メッシュ(72)に埋め込む工程と、
前記温度を低下させて、前記成形型(70)を外す工程と、によって特徴付けられる、請求項20に記載のプロセス。
【請求項23】
前記可撓性プレート装置(84)が、閉じた表面を備えること、可撓性であり、かつ前記複数の突出部(40、62)1つの形状をそれぞれが有するキャビティの配列を有する、第2の成形型として設計されていること、という特性のうちの1つを有することを特徴とする、請求項21又は22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記層状アセンブリを用意する工程は、前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)の前記シート材料(80)と並べて配置された、染色されていないか、又は前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)と比べて別様に染色されている第2のフィルム片(58)用のシート材料(82)を含んで層状アセンブリを用意することを含む、請求項21〜23のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用インプラント、特に、鼠径ヘルニア及び/又は腹壁/瘢痕ヘルニアの修復のための組織補強インプラントに関する。
【0002】
ヘルニア修復は、最も一般的な外科手技であり、毎年全世界で約640万例の手技が施行されている。年間約310万のヘルニア(48%)は、平坦なメッシュで修復されている。
【0003】
ヘルニアの区域は、外科用インプラントとして供するメッシュで補強される。安全に固定を行えるよう、ヘルニアに近い生体組織にメッシュを縫合し得る。しかしながら、縫合工程は、外科手技を遅滞させ、例えば、神経損傷に起因する術後疼痛を患者に引き起こす可能性がある。
【背景技術】
【0004】
国際公開第2011/026987 A号は、ヤーンの配列と、布の面に対して外側に突出している鉤状突起とを備える補綴布(メッシュ)を開示している。固定補助器具として供する鉤状突起は、ヤーンから形成されていてもよく、又は生体適合性材料から生成されるフックとして供する鉤状突起は、布に付着される。布の他の面は、生体再吸収性材料でできた微孔質層を備えている。鉤状突起が概ね鋭利であるのは、切断プロセスに起因する。本製品は、例えば、トロカールスリーブを通して送達が為されるように折り畳まれたときにそれ自体に癒着する傾向がある。この傾向を抑える目的で、水溶性材料でできたコーティングで鉤状突起が被覆される。このコーティングは外科手術中に溶解する。それにもかかわらず、本製品は取り扱いが困難な場合がある。
【0005】
一方の側に小さい把持用突出部を有する網目の大きい軽量なメッシュでは、留置用の右側面の実現は困難であることが多い。特に、一方の側に付着させた透明な癒着バリアフィルムを有するメッシュでは、配向が困難である場合があり、留置ミスが危険な事態となり得る。
【0006】
外科手術において、その外科用メッシュを留置しやすくするために、マーキングの付いた外科用メッシュを用意することが知られている。
【0007】
例えば、欧州特許第1 439 796 B1号は、メッシュのような基本構造と、中央領域のマーキングとを有する面インプラントを開示している。この中央のマーキングを通って、マーキングラインが延びている。
【0008】
国際公開第2011/159700 A1号は、第1の軸沿いの方が延伸性が高く、第1の軸を横断する第2の軸沿いの方が延伸性が低い異方性の外科用メッシュを備える複合インプラントを説明している。位置合わせマーカーが、異方性メッシュの面を覆うとともに、第1の軸に沿って延びているこのメッシュと位置合わせマーカーは、2枚の吸収性癒着防止フィルムの間に挟まれている。
【0009】
欧州特許第2 593 038 A1号は、ベース生地と、プロテーゼを所定の位置に埋め込むために、外科医を誘導するように設計された情報手段とを備える外科用プロテーゼに関する。この情報手段は、ベース生地の色とは異なる色を有するパッチを備える。このパッチには、その表面のうちの1つから突出している鉤状突起が搭載されており、パッチは、その鉤状突起によって、ベース生地の表面上の所望の位置に固定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、例えばヘルニアの修復のための外科用インプラントであって、縫合の必要性を低減し、外科手術中に、容易かつ迅速で安全な方法で操作できる外科用インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1に記載の外科用インプラントによって解決される。請求項18は、このような外科用インプラントを製造するプロセスに関するものである。本発明の有益な実施形態は、従属クレームから導きだされるものである。
【0012】
本発明による外科用インプラントは、第1の面と第2の面とを有する面状の可撓性で多孔性の基本構造を備える。更に、本インプラントは、基本構造(例えばその第1の面)に付着しているとともに、基本構造から離れる方向にその染色フィルム片から出ている複数の中実突出部を備える、少なくとも1枚の再吸収性(吸収性)染色フィルム片を備える。少なくとも1つの染色フィルム片は、基本構造領域において非対称である形状の構造で配列されている。
【0013】
この基本構造は面状であり、面状とは、概ね平坦であることを意味する。基本構造は、必ずしも平面である必要はない。原理上は、第三次元に湾曲している場合があるからである。更に、基本構造は、可撓性かつ多孔質である。有益な実施形態では、基本構造は、ポリマー材で作られており、孔(例えば大きさが少なくとも1mmの孔)を有するメッシュ状の構造を備える(例えば外科用メッシュ又は多孔性フィルム)。これらの孔により、生体組織の内殖が可能になる。このような構造は、当該技術分野において概ね周知である。
【0014】
本発明の外科用インプラントは、少なくとも1つの染色フィルム片を更に備える。その色は、インプラントの基本構造又は考えうる他の構成要素と光学的な対照をなして、概ね良好に視認される。少なくとも1つの染色フィルム片は、非対称な形で配列されている。これは、概ね基本構造の平面内にある軸を中心として、外科用インプラントをひっくり返して、ひっくり返す前と同じ位置から観察すると、少なくとも1つの染色フィルム片は、違って、通常は鏡像として見えることを意味する。
【0015】
少なくとも1つの染色フィルム片は、1枚のみの染色フィルム片を含んでも、複数の染色フィルム片を含んでもよい。
【0016】
1枚のみの染色フィルム片である場合、密着性の非対称な形状の構造を備え、このことは、基本構造の領域内における染色フィルム片の形状が非対称であることを意味する。その場合には、染色フィルム片は、基本構造の領域の大部分(例えばその外周又はその一部を含む)にわたって、例えばストライプ状の配列で延びていてよい。この染色フィルム片は、基本構造に固定された追加の層を局所的に形成するので、このような設計によって、インプラントの剛性が概ね向上する。外科用インプラントが、密着性の非対称な形状の構造をいくつか備えることも考えられる。
【0017】
複数の染色フィルム片が搭載されている場合、非対称な形状の構造は好ましくは、非対称なパターンで配列させた複数の個々の染色フィルム片によって形成されている。その場合には、各染色フィルム片は、左右対称な形状を有してよいが、全体的な配列は、非対称なパターンである。染色フィルム片が比較的小さい場合、基本構造の全体的な可撓挙動は、染色フィルム片の存在の影響をあまり受けない。
【0018】
本発明による外科用インプラントは、例えば、ヘルニアインプラント、骨盤メッシュ、乳房インプラント支持体、又は硬膜用修復パッチとして設計できる。特に好ましい用途は、鼠径ヘルニア及び/又は腹壁/瘢痕ヘルニアを修復するための組織補強インプラントとしての用途である。
【0019】
基本構造から離れる方向に、少なくとも1つの染色フィルム片から出ている複数の中実突出部は、インプラントに自己固定効果を付与する。この突出部は、機械的に生体軟組織とかみ合い、その結果、剪断力及び剥離力に対する耐性が向上する。これにより、外科手術中に、例えば縫合による追加の固定処置の必要性が最小限になり、患者の痛みのリスクが軽減され、外科手術の速度が向上することが期待される。概して、本発明による外科用インプラントは、生体組織に付着するが、にもかかわらず、外科手術中に再配置できる。更に、本発明の外科用インプラントは、折り畳んでも、インプラント自体が付着しあうことがなく、それにより、取扱いやすさに優れる。概して、本発明のインプラントは、容易に作製でき、手術中に容易に取り扱うことができる。組織の集積期間中には、インプラントを適所にしっかり保持し、メッシュの移動を防ぐ。少なくとも1つの染色フィルム片は、再吸収性材料で作られているので、ある時間の経過後に吸収され、最終的には、突出部又は鉤状突起が生体組織に残らないようになる。
【0020】
本発明による外科用インプラントの別の利点も、少なくとも1つの染色フィルム片に由来するものである。少なくとも1つの染色フィルム片は、非対称な形状の構造で配列されているので、開腹及び腹腔鏡手術中にインプラントを正しく留置したことを光学的に示す。更に、非対称な形状の構造によって、インプラントの向き(外科医に面するか、反対方向に向く、基本構造の第1の面)を容易に検出できる。突出部は、正しい方向に向ける必要があるとともに、インプラントの任意の癒着防止層(下記参照)も、正しい側に面する必要があるので、これは重要である。少なくとも1つの染色フィルム片による光学的な補助手段がなければ、特に、手袋を装着しているとき、及びインプラントが軽量なときには、インプラントを正しく留置するのは困難であろう。
【0021】
したがって、少なくとも1つの染色フィルム片は、(突出部によって)生体組織への付着性を向上させること、(フィルム片が染色されており、容易に視認可能であるとともに、非対称な配列であるため、)インプラントを正しく留置しやすくするという2重の機能を有する。この2重の効果により、材料の消費量が減る。これは、患者にとって有益である。インプラントの正しい位置を示すための余分なマーカーが不要となるからである。
【0022】
本発明の有益な実施形態では、少なくとも1つの染色フィルム片の非対称な形状の構造は、少なくとも1つの記号又は記号列を画定する。例えば、複数の染色フィルム片は、語句、例えば商標として配列してよい。あるいは、言葉は、反転した形(ネガ)で、すなわち、語句を表す部分が欠けている1枚のみの染色フィルム片によって表してよい。同様に、文字列、又はポジ若しくはネガの組み合わせも考えられる。概して、記号列は、必要な非対称部をもたらす。記号列が意味を有する場合、正しい向きか鏡像かがすぐにわかる。
【0023】
本発明による外科用インプラントの有益な実施形態では、少なくとも1つの染色フィルム片に加えて、第2のフィルム片(好ましくは再吸収性)が基本構造(例えばその第1の面)に付着しており、その第2のフィルム片のそれぞれは、基本構造から離れる方向にそれぞれの第2のフィルム片から出ている少なくとも1つの突出部を備える。第2のフィルム片は染色されていないか、少なくとも1つの染色フィルム片とは異なる色で染色されている。追加の付着領域が必要な場合には、第2のフィルム片(1枚のみの第2のフィルム片のケースを含むことになる)が有用である。少なくとも1つの染色フィルム片は、その異なる色により、第2のフィルム片と明確に区別可能である。
【0024】
例えば、それぞれの第2のフィルム片のサイズは、メッシュ状の基本構造の孔のサイズと同じか、又はそれよりも大きいことができる。第2のフィルム片は、例えば六角形、丸みを帯びた六角形、三角形、丸みを帯びた三角形、矩形、丸みを帯びた矩形、正方形、丸みを帯びた正方形、円、又は楕円として成形でき、あるいは、十字形、蛇状、又はらせん状であることができる。第2のフィルム片は、規則的なパターンで配列してよい。第2のフィルム片は、基本構造の領域のうち、他のフィルム片のない領域に囲まれていてもよく、この領域の幅は、例えば1mm〜10mmの範囲であってよい。第2のフィルム片は、支柱を介して、例えば対になって(例えば、その対の構成要素間にある1つの支柱によって)、小規模なグループで、又は大規模なグループで、互いに連結しあっていることも考えられる。そのような支柱は、フィルム片と同じ材料で出来たものでもよい。支柱は、比較的幅狭のものであれば、非硬質の継手(connector)として供するため、インプラントの撓み挙動を劣化させずに済む。
【0025】
全フィルム片(すなわち、少なくとも1つの染色フィルム片と第2のフィルム片)の総面積は好ましくは、基本構造の第1の面の面積の50%未満(例えば、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%から選択される値未満)である。基本構造の第1の面の面積の約5%という全フィルム片の総面積でも、突出部による所望の自己固定効果を実現するのに十分であることがある。
【0026】
フィルム片(すなわち、少なくとも1つの染色フィルム片と第2のフィルム片)の厚さは、例えば5μm〜250μmの範囲、又は10μm〜200μmの範囲であることができる。この厚さは、突出部同士の間の領域内にあるフィルム厚である。概して、厚さは変化する場合があり、突出部を含むフィルム片の生産に用いられる元々平坦なフィルム層の厚さよりも有意に小さくなる可能性がある(例については下記を参照のこと)。その原因は、生産プロセスの間に、元々のフィルム層の材料の一部が突出部に移動され得るためである。
【0027】
本発明の有益な実施形態では、少なくとも1つの突出部は、ロッド状、柱状、又はマッシュルーム状である。それぞれの本体及びそれぞれの頭部(該本体がフィルム片から出て頭部で終端し、及び該頭部が本体に対して横に突出するものとした場合)で画定される形状は、一種のマッシュルーム形であるが、多少、より一般的である。そのようなマッシュルーム状の突出部は、特定の有効な自己固定効果を呈し得る。
【0028】
突出部には、フィルム片の表面に対して50°〜90°の範囲又は70°〜90°の範囲の角度で、関連するフィルム片から延びている各長手方向軸があるのが好ましい。突出部の寸法は多種多様であってよく、例えば、突出部の長手方向軸に沿って測定した場合、20μm〜5000μmの範囲、又は100μm〜500μmの範囲、又は20μm〜400μmの範囲であってよい。典型的には、突出部の面密度は、0.5個の突出部/mm〜5個の突出部/mm、又は突出部/mm〜4個の突出部/mmの範囲であってよい。当然ながら、本発明のインプラントは、形若しくは大きさの異なる突出部、又は各フィルム片の上に異なる面密度で設けられた突出部を備えてもよい。フィルム片と各突出部は、一体で作製することができる。製造プロセスの例は下記を参照されたい。
【0029】
基本構造の第2の面にもフィルムが付着していてもよい。このフィルムは、様々な特性を有することができる。例えば、1枚のフィルム片として、例えば、基本構造の第2の面の一部又は全体を覆う連続的なフィルムとして設けてもよい。あるいは、第2のフィルム片と同様に、複数のフィルム片として設けてもよい。更に、第2の面のフィルムは、再吸収性であっても非再吸収性であってもよい。自己固定効果を得るため突出部を含んで構成されていてもよいし、又は突出部がなくて多少滑らかであってもよい。フィルムがバリア特性を有する場合には、生体組織が基本構造の孔に内殖するのを防ぐことができる。癒着バリアフィルムは、透明であり、外科用インプラントのどの面が第1の面で、どの面が第2の面かが概ねわかりにくいことがある。本発明による少なくとも1つの染色フィルム片の非対称な構成は、明確なマーカーを提供するので、この問題が解決する。
【0030】
本発明の別の有益な実施形態では、基本構造の両側(第1の面と第2の面)に突出部を備えるフィルム片の効果は、1つのフィルム片層によって実現する。この場合、少なくとも1つの染色フィルム片は、基本構造に存在する孔の中まで延びており、突出部が、基本構造の第1の面から離れる方向と、基本構造の第2の面から離れる方向の両方で、少なくとも1つの染色フィルム片から出ている。第2のフィルム片又はその一部も同様の方法で設計できる。
【0031】
本発明による外科用インプラントの特に有益な実施形態では、少なくとも1つの染色フィルム片をそれぞれが含むとともに、記号列をそれぞれが画定する少なくとも2つのストライプ形状の構造が、基本構造(例えばその第1の面)に付着している。更に高い自己固定効果が望まれる場合には、染色されていないか、又は別様に染色されている第2のフィルム片であって、突出部を有する第2のフィルム片が、任意に、基本構造(例えばその第1の面)に、ストライプ形状の構造の間の領域で付着していてもよい。例えば、非対称部に起因するマーキング効果が極めて明確となり、自己固定効果を示す比較的大きい領域が設けられるように、記号列は、商標名、又は外科医へのヒントを示すことができる(反復も含む)。ストライプ形状の構造の位置によって、インプラントの実際の位置に関する情報を提供してもよい。上で既に概説したように、記号列は、ポジ(インプラントの可撓性にほとんど影響を及ぼさない)、又はネガ(材料の全厚が厚いことにより、インプラントの可撓性を概ね低下させる)として存在することができる。
【0032】
概して、フィルム片は再吸収性がある。外科手術からある期間経過後は、自己固定効果が不要となるからである。その時点でフィルム片が崩壊した場合、又は吸収が為された場合、基本構造での組織の成長及び癒合プロセスが改善される可能性がある。基本構造も同様に再吸収性である場合、フィルム片の再吸収度は、基本構造より速やかであることが好ましい。
【0033】
再吸収性フィルム片(すなわち、染色フィルム片と再吸収性の第2のフィルム片)の好適な材料は、当該技術分野において周知である。フィルム材料の選択は、例えば再吸収期間によって決まる。本発明によるインプラントの製造方法を考慮すると、基本構造の材料の融点に対するフィルム材料の融点にも依存する(以下参照)。例えば、フィルム片は、ポリ−p−ジオキサノン(「PDS」)、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー(例えば、Johnson & Johnson Medical GmbH製の「モノクリル」)、及び/又はグリコリドとラクチドとのコポリマー(特に、比率が90:10のJohnson & Johnson Medical GmbH製の「バイクリル」)を含み得る。概ね、広範な合成生体吸収性ポリマー材、例えばポリヒドロキシ酸(例えばポリラクチド、ポリグリコリド、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート)、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、合成(ただし天然も可)オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテルを用いることができる。-しかしながら、例えばコラーゲン及びゼラチンのような天然に産出される材料、又は例えばω3脂肪酸に架橋した生体吸収性ゲルフィルムのような天然由来の材料、又は酸化再生セルロース(ORC)も同様に考えられる。
【0034】
基本構造に適した材料もまた、当該技術において周知である。非再吸収性又は再吸収が非常に遅い物質としては、例えば、ポリアルケン(例えばポリプロピレン又はポリエチレン)、フッ素化ポリオレフィン(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はポリフッ化ビニリデン)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン(PEEK)、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、並びにこれらの物質の混合物及び/又はコポリマーが挙げられる。その他の有益な材料(それらの多くが再吸収性である)としては、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、セルロース、バクテリアセルロース、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、それらの重合性物質のコポリマー、再吸収性ガラスが挙げられる。特に有益な材料としては、ポリプロピレン(非再吸収性)、ポリフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマーとの配合物(非再吸収性、例えばJohnson & Johnson Medical GmbHの「Pronova」)、PTFE(非再吸収性、ePTFE及びcPTFEを含む)、ポリシリコーン(非再吸収性)、ポリ−p−ジオキサノン(「PDS」、再吸収性)、グリコリドとラクチドとのコポリマー(再吸収性)、特には、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー(「Vicryl」、再吸収性)、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー(「Monocryl」、再吸収性)が挙げられる。-同種移植片及び異種移植片などの生物学的材料も考えられる。概ね、基本構造に好適な材料も、癒着バリアフィルム(上記参照)用の材料とみなしてよい。
【0035】
要するに、本発明による外科用インプラントは、複数の利点を有する。自己固定特性によって、縫合固定に付随し得る慢性疼痛のリスクが低減するため、結果として、患者にとって快適さが向上する基本構造、例えば外科用メッシュは、組織統合期中に所定位置にしっかりと保持されるため、結果としてメッシュの移動が防止される。その後、突出部を含むフィルム片の吸収が為され得る。
【0036】
更に、外科手術中の時間的効率も改善される。特に、外科用インプラントの調製、及び手術中の取り扱いが容易になり得る。一般的に、インプラントが、巻かれるか又は折り畳まれた状態のときに、それ自体に癒着する傾向がないのは、突出部の設計に起因する。それ故、インプラントは、腹腔鏡下の留置にかなり適している。インプラントは、トロカールスリーブを通して手術部位に送達でき、その後、インプラント同士がくっつき合うことなく、容易に広げるか開かれる。更に、インプラントは自己固定式である反面、再配置に対応しており、一般的に、インプラントを生体組織から剥離して別の部位又は変位した部位に再配置することが可能である。その設計が十分に可撓性を有するものである場合、インプラントは、その解剖学的構造物が平面でなくても、その構造物に十分にくっつくことになる。概して、縫合糸によってインプラントを固定する必要がないので、外科手術が短縮する傾向がある。必要であれば、インプラントは、例えば縫合によって更に定着され得る。
【0037】
少なくとも1つの染色フィルム片の非対称な形状の構造によってもたらされる明確なマーキングは、本発明による外科用インプラントの別の利点である。この構造により、特定の方向に向けるべき正しい面を確実、迅速、かつ容易に判断できるようになる。
【0038】
外科用インプラントが、軟組織インプラント、例えばヘルニアインプラントとして設計されており、筋肉又は脂肪などの軟組織において、インプラント同士が少なくとも部分的にくっつき合うように構成されている場合、突出部のない対応するインプラントと比べて、外科用インプラントと軟組織との間の摩擦が、少なくとも一方向において、2倍以上増大することがある(基本的にインプラントの平面内で測定)。
【0039】
概して、突出部を有する染色フィルム片を付着させる技術は、例えばチューブ、ステント、血管インプラント、股関節インプラントなど、更に顕著な3次元構造を有する他の医療器具でも使用できる。例えば、基本構造(フィルム片及び基本構造に付着しているいずれかの追加の層を含む)は、3次元の構成に形成してよく、その場合、外科用インプラントは、例えばチューブ、血管インプラント、ステント、乳房インプラント、整形外科用インプラントなどの形態で設計される。
【0040】
本発明による外科用インプラントは、キャビティの配列を含む成形型であって、各キャビティが、1つの突出部の形状を有する成形型を用意する工程と、少なくとも1枚のフィルム片の形状の構造を画定するパターンに従って、少なくとも1つの染色フィルム片と突出部とを形成する流体材料を成形型に充填する工程と、この流体材料を硬化させる工程と、基本構造から離れる方向に突出部を向けた状態で、少なくとも1つの染色フィルム片を基本構造に付着させる工程と、成形型を外す工程とを用いて製造してよい。
【0041】
これらの工程が上に列挙されている順序は、以下更により詳細に説明する本発明による製造プロセスが遂行される際の工程の実行順序を必ずしも表すものではない。
【0042】
成形型は、好ましくは可撓性であり、例えば、シリコーン、ポリウレタン、天然ゴム、又は合成ゴムを含んで構成される。シリコーンは、例えば、極度に可撓性かつ熱安定性である。成形型は基本的に平面状であり、フィルム片を形成するための表面が設けてある。この表面から延在しているのが空洞であり、各々の空洞は1つの突出部の形状を有する。例えば、シリコーン成形型を製造し得るには、例えば機械的に生成された金属又はポリマー製のマスター(アレイ状突出部のポジ)をマスター成形型として使用して、このマスター成形型をシリコーン前駆体で充填して反応させる。シリコーンの弾性が大きいことから、反応の終了後にマスター成形型を取り外すことができる。成形型を使用する際、突出部の一部分が横に突出している場合でも、成形型で形成された突出部から成形型を分離させて取り外すことができる。
【0043】
このプロセスの有益な実施形態では、少なくとも1つの染色フィルム片の形状の構造を画定するパターンは、基本構造と、成形型に充填される材料との間に置かれるマスクによって決まる。
【0044】
成形型を、突出部を含むフィルム片を形成する流体材料で充填すること、流体材料を硬化すること、及びフィルム片を基本構造(特に、外科用メッシュ)に付着させることは、例えば、以下の方法で実質的に同時に遂行され得る。
【0045】
この有益な実施形態では、プロセスにおいて、成形型と、基本構造としての外科用メッシュ(例えばポリプロピレン製)と、マスクと、外科用メッシュよりも融点の低い少なくとも1つの染色フィルム片用のシート状材料(例えば紫色ポリ−p−ジオキサノンシート)と、閉じた表面を有する可撓性プレート装置とをこの順番で備える層状アセンブリを用いる。シート状材料を、その融点よりも高くかつ外科用メッシュの融点よりも低い温度まで加熱して、そのシートを流体にする。続いて、成形型とプレート装置を互いに向かって押しつける。このプレート装置は、相対物又はアンビルの一種として機能し、それにより、少なくとも1つの染色フィルム片の材料が、マスクを通じて成形型の中に移り、それと同時に、外科用メッシュを埋め込む。(前述した硬化工程において)温度が下がった後は、流体材料が凝固して弾性が高くなるため、成形型の取り外しが可能になる。このようにして、少なくとも1つの染色フィルム片の非対称な形状の構造が、マスクによって形成され、外科用メッシュにしっかり連結し、突出部が形成され、全ての工程は、ほぼ同時に行われる。
【0046】
後者の実施形態の変形形態では、外科用メッシュと、少なくとも1つの染色フィルム片のシート状材料との最初の位置を入れ替える。この場合、染色フィルム片(単一又は複数)の材料は、成形型の中に移り、マスクによって遮蔽されていない領域において、外科用メッシュに埋め込まれる。
【0047】
可撓性プレート装置は閉鎖表面を備えることができる。代替的に、可撓性で、アレイ状の空洞を含み、各空洞が突出形状を有する第2の成形型として設計される場合もある。この第2の成形型は、他の成形型と同様であり、両面に突出部を備える外科用メッシュインプラントを作製する目的で、メッシュの第2の面の上に突出部を作製するのに用いることができる。
【0048】
第2のフィルム片を作製して、少なくとも1つの染色フィルム片のない領域で、外科用メッシュに付着させるために、多少修正したプロセスを用いることができる。この目的のために、少なくとも1つの染色フィルム片を作製する目的で用いるシート状材料に、第2のフィルム片を作製するためのシート状材料を並べて配置して、各シートが重ならないようにする。このようにしない場合には、プロセスは、上記のとおりである。マスクは、第2のフィルム片の形状と位置も定める。
【0049】
使用される材料及びプロセスの詳細に応じて、溶剤を蒸着させるか、(上記の実施例のように)フィルム及び突出部を形成する反応物質を冷却するか又は反応させることによって、硬化工程が遂行され得る。
【0050】
以下では、少なくとも1つの染色フィルム片のマーキング効果に関わる態様に加えて、本発明のいくつかの態様の全般的な事項を更に開示する。
【0051】
応用例
外科用メッシュのような軟組織修復用インプラントは、軟組織に欠損又は衰弱があるとき、又は組織孔を充填するか若しくは覆う必要のあるときに、主に使用される。
(a)腹部及び鼠径部ヘルニアは、組織、構造、又は器官の一部が、体内の異常開口部を貫通して突出した場合に発現する。これは、腹壁内の弱い箇所を通した腸の突出に関連するのがごく一般的である。ヘルニア修復装置は、多様な形状及び材料で、扁平な装置、基本的には扁平でただし彎曲のある装置、パウチ、袋、又は折り畳まれたプラグの形にて製造され得る。
(b)外科用メッシュ、テープ又は三角巾は、ストレス性尿失禁又は骨盤器官脱出症などの骨盤疾患の分野で使用されている。これらの用途においては、テープ又はメッシュの或る領域において本発明のアセンブリが係止をサポートできるよう、(例えば、骨盤メッシュを用いた場合のように)布を膣壁に接触させるか、又はEthicon,Inc.製のGYNECARE(登録商標)TVTシステムを用いた際のように尿道に接触させて置く必要のある場合がある。
(c)脳外科手術後、硬膜を覆って閉鎖するために、Durapatchを用いる。デュラメータは、堅い非可撓性の繊維シースで、脳及び脊髄を取り囲む3つの層の最も外側にある。市販の移植片は、生物学的材料(異種移植片及び同種移植片を含む)又は合成材料のいずれかから製造される。両側のうちの1つの特定の領域に微小な突出部を有する本発明のフィルムパッチは、インプラントを適所に保つのを助けることがある。
(d)既存組織を使用又は処置して、回旋筋腱板の機能を補助できない場合、回旋筋腱板補強グラフトが最も頻繁に用いられている。
(e)吸収性パウチは、外傷外科手術の分野において出血抑制のための「バイクリルメッシュバッグA」のような肝臓圧縮装置として使用される。
(f)乳房再建分野におけるグラフトは、「TRAM弁」による処置とともに用いられ、この処置では、胸部由来の横型腹直筋(TRAM)弁で乳房の自己組織再建を行う。この筋弁の腹壁ドナー部位は、腹壁の脆弱化、隆起、及びヘルニアを起こす可能性がある。ヘルニアを予防するために、殆どの外科医は、腹部を閉鎖する際に合成メッシュを使用する。「Vicryl」メッシュ又は「TiGr matrix」のような再吸収性メッシュなどの布も、豊胸術又は乳房再建術、すなわち、乳腺腫瘤摘出術(lympectomy)又は乳房切除術を含む腫瘍切除術を適切なマージンで行うことと、乳房を即時再建することとを組み合わせたものとして定義されるオンコプラスティックサージャリーに用いられている(Koo et al.2011「Results from Over One Year of Follow−Up for Absorbable Mesh Insertion in Partial Mastectomy」Yonsei Med J 52(5):803〜808,2011)。本発明の装置は、縫合、タック、又は接着剤を最小限に抑えるうえで助けになる。
(g)軟組織修復装置は、例えば、美容外科において注入材、バルク組織として皺取りに使用され、あるいは瘻孔外科手術において瘻孔溝の充填に使用されている。吸収性材料は、意図された用途に応じたものを使用できる。
【0052】
フィルム片のサイズ及び形状
フィルム片は、1mm〜10mmのミリメートルの範囲で、基本構造に与える剛性が大き過ぎず、厚さが5μm〜500μmであるのが好ましい。フィルム片は、例えば、円形、卵形、三角形、長方形、正方形、五角形、六角形、十字形、星形といったような任意の形状を有し得る。
【0053】
微小突出部に加えて、フィルム片の剛性、形状、及び全厚、並びにフィルム片の縁を用いて、触知性のような追加の特徴を付与して、配向しやすくすることができる。
【0054】
フィルム片のパターン及び間隔
意図されたインプラント用途に応じて、フィルム片は、周囲に、中央に、又は区域全体にわたって配列され得る。フィルムの総面積は、インプラント面の面積と比較して50%未満、総面積のパターンに対して特に25%未満であることが好ましい。中央区域又は周辺フィルムパターンのみを有するインプラントの場合、総フィルム面積は、幾何学的な考慮事項に見合うように更に縮小され得る。フィルム片パターンを使用することにより、様々な方向における曲げ剛性のようなパラメータを調整できる。フィルム片パターンは、インプラントにあまり大きな剛性を与えず、不均等な構造に対してもまた適合性を許容するものであること、又は腹腔鏡外科手術中の巻きとりとその状態からの展開、若しくは折り畳みとその状態からの展開といったような特徴に対し悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。
【0055】
フィルム片から基本構造への結合
フィルム片は、挟持配設(sandwich placement)の場合に互いに結合することも可能であるし、かつ/又は基本構造に結合することも可能であり、これらの結合を行うには、例えば、縫合、刺繍縫い、ボンド(熱的手段によるものを含む)、又は超音波溶接を含む熱溶接といったような従来の多種多様な方法がある。溶接技術はまた、広義の意味で(フィルムの融点下での)少なくとも1つのフィルムの熱変形を含む。比較的低融点の生体吸収性ポリマーとしてのポリジオキサノンのような吸収性溶融接着剤は、他のフィルム片材料用の接着剤部材として使用され得る。ポリラクチド、ポリカプロラクトン、又はこれらのコポリマーなどの他の可溶性ポリマーを溶剤型接着剤として使用することもできる。生体適合性であれば、シアノアクリレート若しくはイソシアネート、又はオキシランのような反応性接着剤も用いてよい。
【0056】
特に好ましいのは、微突出部の生成と、多孔質組織修復構造(基本構造)への結合とを、1つの工程で行うプロセスである。大型孔メッシュの場合、フィルム片が孔縁部の少なくとも一部分を覆うように延在することが好ましい。
【0057】
微突出フィルム片は、基本構造の少なくとも一部分を包囲/取り囲むことが好ましい。このことは、PTFE又はポリプロピレンのような低付着性の表面に対してさえも、如何なる表面前処理もなしに、フィルム片部材を付着する助けになる。
【0058】
フィルム片の微突出部
微小突出部(すなわち突出部)は中実であり、20μm〜800μm、好ましくは50μm〜500μm、特に好ましくは250μm〜350μmの範囲でフィルム片領域から突出しているのが好ましい。
【0059】
微突出部は、インプラントの配置中及び/又は内植中に、哺乳類又は人間の軟組織への付着を変更する。
【0060】
微小突出部は、フィルム片の表面から好ましくは45°〜90°突出しており、マッシュルーム、屈曲のあるロッドなどのような複雑な構造を有することができる。
【0061】
密度が約288で、かつフィルム片の面積cm当たりの突出部数が好適である、微小マッシュルームを調製した。例えば、マッシュルーム形を走査電子顕微鏡によって測定したところ、高さが288μm、最下部厚さが410μm、幅の狭い中間部分の直径が177μm、頭部の直径が410μm、マッシュルーム頭部のへりの厚さが約12μmであった。
【0062】
活性成分
例えば、移植後に任意に局所的に放出させることが可能な少なくとも1種の生物学的活性成分又は治療成分を有する本発明のインプラントを提供することが有利である場合がある。活性物質又は治療物質として適当な物質は、天然物質又は合成物質であってよく、これらに限定されるものではないが、例えば、抗生物質、抗微生物剤、抗細菌剤、消毒剤、化学療法剤、細胞増殖抑制剤、転移阻害剤、抗糖尿病剤、抗真菌剤、婦人科用薬剤、泌尿器科用薬剤、抗アレルギー剤、性ホルモン剤、性ホルモン阻害剤、止血剤、ホルモン、ペプチドホルモン、抗鬱剤、ビタミンCなどのビタミン、抗ヒスタミン剤、裸のDNA、プラスミドDNA、カチオン性DNA複合体、RNA、細胞構成成分、ワクチン、体内に天然に存在する細胞、又は遺伝子組換え細胞が挙げられる。活性物質又は治療物質は、カプセル化形態又は吸着形態を含む様々な形態で存在してもよい。このような活性物質によって、患者の転帰を改善できたり、あるいは、治療効果(例えば、創傷治癒の改善、又は炎症の抑制若しくは軽減)をもたらしたりできる。
【0063】
好ましい活性物質のクラスの1つに、例えば、ゲンタマイシン又はZEVTERA(商標)(セフトビプロールメドカリル)銘柄の抗生物質(Basilea Pharmaceutica Ltd.,Basel Switzerlandより販売されるもの)などの薬剤を含む抗生物質がある。用いてよい他の活性物質は、(体液の存在下でも)様々な細菌及び酵母に対する有効性の高い広範な抗菌剤、例えばオクテニジン、オクテニジンジヒドロクロライド(ドイツ、ノルダーシュテットのSchulke & Mayerの消毒剤Octenisept(登録商標)の活性成分として入手可能)、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)(スイスのBraunのLavasept(登録商標)の活性成分として入手可能)、トリクロサン、銅(Cu)、銀(Ag)、ナノ銀、金(Au)、セレン(Se)、ガリウム(Ga)、タウロリジン、N−クロロタウリン、アルコール系消毒剤(マウスウォッシュのListerine(登録商標)など)、Na−ラウリル−L−アルギニンエチルエステル(LAE)、ミリスタミドプロピルジメチルアミン(MAPD、SCHERCODINE(商標)Mの活性成分として入手可能)、オレアミドプロピルジメチルアミン(OAPD、SCHERCODINE(商標)Oの活性成分として入手可能)、ステアルアミドプロピルジメチルアミン(SAPD、SCHERCODINE(商標)Sの活性成分として入手可能)、脂肪酸モノエステルであり、最も好ましくは、オクテニジンジヒドロクロライド(以下、オクテニジンという)、タウロリジン、及びPHMBである。
【0064】
好ましい活性物質のクラスの1つに、アンブカイン、ベンゾカイン、ブタカイン、プロカイン/ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン/ラロカイン、エチドカイン、ヒドロキシプロカイン、ヘキシルカイン、イソブカイン、パラエトキシカイン、ピペロカイン、プロカインアミド、プロポキシカイン、プロカイン/ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン/アメトカイン、リドカイン、アーティカイン、ブピバカイン、ジブカイン、シンコカイン/ジブカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン/リグノカイン、メピバカイン、メタブトキシカイン、ピリドカイン、プリロカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、ロピバカイン、テトラカイン、トリメカイン、トリカイン、これらの組み合わせ、例えば、リドカイン/プリロカイン(EMLA)、若しくは、サキシトキシン、テトロドトキシン、メントール、オイゲノール、及びこれらのプロドラッグなどの天然由来の局所麻酔薬、又はその誘導体などの薬剤を含む局所麻酔薬がある。
【0065】
更に、本発明の装置には造影剤を取り込ませることができる。このような造影剤は、GdDTPAのような金属錯体、又は欧州特許第1 324 783 B1号(参照により援用される)に教示されているような超常磁性ナノ粒子(Resovist(商標)若しくはEndorem(商標))のような、超音波造影又はMRI造影用の気体又は気体生成物質であってよい。欧州特許第1 251 794 B1号(参照により援用される)に示されているように、純粋な二酸化ジルコニウム、安定化二酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭化ジルコニウム、タンタル、五酸化タンタル、硫酸バリウム、銀、ヨウ化銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、三二酸化鉄、あまり磁性を有さないインプラント鋼、非磁性インプラン鋼、チタン、ヨウ化アルカリ、ヨウ化芳香族化合物、ヨウ化脂肪族化合物、ヨウ化オリゴマー、ヨウ化ポリマー、合金化できるこれらの物質の合金を含め、X線視認性物質を含めてもよい。造影剤は、メッシュ内若しくはメッシュ上に、又はフィルム片内若しくはフィルム片上に含まれ得る。
【0066】
基本構造
本発明の有利な実施形態において、基本構造は、孔を有するメッシュ状構造を含む。用語「メッシュ状構造」は、かなり一般的なものと理解すべきである。この用語には一般的な多孔質可撓性シートが包含され、より具体的には、例えば、メッシュ(外科用メッシュ)、テープ、窄孔フィルム、不織布、織布、ニットシート、ニットテープ、編組シート、編組テープ、コラーゲン性原線維シート、メッシュパウチ及びメッシュプラグが包含される。メッシュパウチ又はメッシュプラグにおいて、メッシュは折り畳まれる又は巻かれ、任意に幾つかの地点又は区域でそれ自体に固定されるか、又は対応する構造が幾つかのメッシュ片から提供される。多孔質基本構造の実施例には、それ以外にも、気泡及びスポンジがある。
【0067】
例えば、基本構造は、孔を有する外科用メッシュを備えることができ、その第1の面は、外科用メッシュの一方の側によって形成されている。この場合、例えば、ヘルニア修復にインプラントを使用できる。また、例えば、骨盤メッシュ又は胸部インプラントとして、本発明による外科用インプラントを利用することも考えられ得る。そのような場合、インプラントの基本構造は、所望される目的に合うように適合される。一般的にはメッシュ状構造の面全体に、又はより一般的には基本構造の面全体に、再吸収性フィルム片を付着させる必要はない。
【0068】
メッシュ状の基本構造は、典型的な孔寸法が0.5mm超のマクロ多孔質で、良好な組織統合を支援するものであることが好ましい。しかしながら他の孔寸法も同様に考えられる。既に上述したように、メッシュ、又はメッシュ状の基本構造は、例えば、縦編み、又は横編み、又は鉤針編み、又は製織のような当該技術分野において公知の任意の種類のものを提供し得る。穿孔フィルム又はフォイルとする設計も考えられる。メッシュの任意のフィラメントが、材料に応じて生体吸収性又は非吸収性となり得る。したがって、メッシュは、吸収性(再吸収性)、非吸収性、又は部分的に吸収性であり得る。フィラメントは、モノフィラメント-又はマルチフィラメントとして設計され得る。テープヤーン及び延伸フィルムテープも同様に考えられる。材料と設計の任意の配合、混合又は複合がまた可能である。更に、フィラメントのコーティングも可能である。穿孔シートとして設計されたメッシュも、同様に考えられ得る。メッシュ状構造は概ね可撓性であり、面基本形状(areal basic shape)を有し、例えば、市販のヘルニア修復用メッシュに基づいてもよい。
【0069】
組織修理装置の意図された使用に従い、生体適合性の長期安定型性ポリマーを使用して軟組織修理部材(基本構造)を製造し得る。長期安定型ポリマーとは、徐々に吸収されるか又は分解する、例えば生体内において移植60日後にその最初の引き裂き強度の少なくとも50%を有する非吸収性の生体適合性ポリマー又は生体吸収性ポリマーを意味する。後者の群には、ポリアミドなどの物質が含まれるが、これらの物質は、吸収性材料として設計されたものではなく、一般的には耐久性を有するものとしてみなされるが、長期の間に体組織及び組織液による攻撃を受ける。布補修部材用の好ましい材料としては、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、合成並びに天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリリン酸塩、ポリホスホン酸塩、ポリアルコール、多糖類、ポリエーテル、セルロース、バクテリアセルロース、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、これらの重合性物質のコポリマー、吸収性ガラスが挙げられる。布補修部材用の特に好ましい材料としては、ポリプロピレン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマー及びポリフッ化ビニリデンの混合物、PTFE、ePTFE、cPTFE、並びにシリコーンが挙げられるが、他の従来の生体適合性材料も有用である。布補修部材は、モノフィラメント、マルチフィラメント、又はこれらの組み合わせから構成することができる。布補修部材には、長期安定型ポリマーに加えて、再吸収性ポリマー(即ち、生体吸収性、又は生分解性)が含有され得る。吸収性の長期安定型ポリマーは、モノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを含有してなるものであることが好ましい。再吸収性ポリマー及び生体吸収性ポリマーという用語は、同義に使用される場合がある。生体吸収性なる用語は、その従来の意味を有するものとして定義される。
【0070】
瘻孔プラグの場合のように、短時間の組織支持のみを必要とする際には、いずれの長期安定性ポリマーも用いずに、1つ又は複数の生体吸収性ポリマーから布製修復部材を製造してよい。
【0071】
基本構造を生物学的材料(例えば、同種移植片、異種移植片)から調製してもよい。
【0072】
付加層(1つ又は複数)
メッシュのような組織修復用又は補強用インプラントは、(例えば開放孔又は隙間を設けることにより)一方の面における組織内殖を可能とし、かつ(例えば当該技術分野において従来より癒着バリアと呼ばれる、フィルム又は無孔層などの平滑表面を設けることにより)反対側の面における組織内殖が防止されるように設計することができる。-このことが重要となるのは、例えばヘルニア修復手技において、腹部区域にメッシュインプラントを使用又は移植する際に、インプラントに対する腹膜の癒着(即ち、組織内殖)が所望される一方で、内臓側における組織内殖又は癒着は所望されない場合(即ち、癒着防止の場合)である。幾つかの従来製品が当該技術分野において公知であり、癒着バリアとなる基本的に滑らかな一側面と組織内植のための1つの多孔質側面又は粗側面とを有するものが、市販されている。これらの製品には、完全吸収性、完全非吸収性、又は部分吸収性及び部分非吸収性のものがある。これらの製品は、複数のメッシュ層と癒着防止バリアとを有する複合材料の場合もある。インプラントによっては、パッケージから取り出してすぐ使えるようになっているもの(例えば、Proceed(登録商標)Hernia Mesh、PhysioMesh(登録商標)、Gore DualMesh(登録商標)、及びBard Composix(登録商標)Mesh)もあれば、移植に先立って癒着バリアを膨張させインプラントを患者に移植及び配置できるよう十分軟性にするため、予め水又は食塩溶液に数分間浸漬する必要のある他のメッシュインプラント(例えば、Sepramesh(登録商標)、Parietex(登録商標)Composite)もある。
【0073】
1つ又は複数の付加層は、複数の突出したフィルム片と基本構造との間、若しくは反対側の面のいずれか、又は両方の位置にて、外科用インプラントに追加され得る。その結果として、以下のようなアセンブリが得られる。
フィルム片+付加層+基本構造、又は
フィルム片+基本構造+付加層、又は
フィルム片+付加層+基本構造+付加層。
【0074】
1つ又は複数の付加層は、組織修復用インプラントに対して、剛性付与、又は組織再生若しくは内殖改善のような様々な影響を及ぼす可能性がある。
【0075】
本発明による外科用インプラント器具とともに用いる付加層は、癒着の形成を効果的に防ぐのに十分な厚さのものでなければならない。厚さは、典型的には約1μm〜約500μm、好ましくは約5μm〜約50μmの範囲である。用いるのに適するフィルムには、生体吸収性フィルムと非吸収性フィルムの両方が含まれる。これらのフィルムは好ましくはポリマーベースのものであり、各種の従来の生体適合性ポリマーから形成することができる。非再吸収性又は超遅延型再吸収性(very slowly resorbable)物質としては、ポリアルケン(例えば、ポリプロピレン又はポリエチレン)、フッ素化ポリオレフィン(例えば、ポリ-テトラフルオロエチレン又はポリフッ化ビニリデン)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン(PEEK)、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、並びにこれらの物質の混合物及び/又はこれらの物質のコポリマーが挙げられる。合成生体吸収性ポリマー材料もまた有用であり、例えば、ポリヒドロキシ酸(例えばポリラクチド、ポリグリコリド、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、合成並びに天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリリン酸塩、ポリホスホン酸塩、多価アルコール、ポリサッカリド、ポリエーテルが挙げられる。一方、コラーゲン、ゼラチンなどの天然材料、又は生体吸収性ω3脂肪酸架橋ゲルフィルム若しくは酸素化再生セルロース(ORC)などの天然由来材料を使用することもできる。
【0076】
本発明による外科用インプラント器具で用いるフィルムは、修復布部材(基本構造)の外面全体又はその一部を覆ってよい。場合によっては、修復布の縁と重なるフィルムを有するのが有益である。本明細書において使用するところの「縁」なる用語は、外周縁、又は例えば、精索、若しくはストーマ傍ヘルニアを治療又は予防するために腸などの解剖学的構造を受容する目的でメッシュに穴がある場合には中心縁を意味する。
【0077】
多孔性フィルムは、器具を組み立てる前又は後に穿孔してもよく、あるいは、多孔性フィルムは、そのフィルムが孔を含むようになる方法で製造してもよい。しかしながら、当業者であれば、組み立てた器具を穿孔するときには、インプラントの他の部分の損傷を防ぐための予防措置を講じる必要があることはわかるであろう。
【0078】
フィルムは、様々な従来の方法、例えば、縫合、接着、溶接、及び積層によって接合することができる。接合/連結は、外周付近、中央領域、又はアセンブリ全域で、点による連結、線による連結、又は全域での連結として行うことができる。
【0079】
フィルムは、多種多様な従来の方法、例えば、縫合、接着(熱的手段も含む)によって、一部の領域で(例えば、複数の点で、又は線、又は外周縁などのストリップに沿って)、フィルム同士で及び/又は修復布部材(基本構造)に連結したり、あるいは、超音波溶接を含む熱溶接を行ったりできる。溶接法には、広義には、フィルムのうちの少なくとも1つを(1枚のフィルムの融点以下で)熱変形させることも含まれる。インプラントは、例えばリブ状構造などの補強材として設計された刺繍構造を場合により有してもよい。
【0080】
考え得るフィルム同士の連結では、任意にポリジオキサノンなどの追加の生体適合性溶融接着剤を比較的融点の低い生体吸収性ポリマーとして用いることによって、熱ラミネーション法が適用される。ポリラクチド、ポリカプロラクトンなどの他の可溶性ポリマー、又はそれらのコポリマーを溶剤型接着剤として用いてもよい。また、シアノアクリル酸塩、又はイソシアン酸塩、又はオキシランなどの反応性接着剤も、生体適合性を有するものであれば、使用できる。
【0081】
以下で、本発明について実施形態を用いて更に詳細に説明する。図面において、各図は次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】本発明による外科用インプラントの第1の実施形態の分解図である。
図2図1による実施形態で用いられている染色フィルム片の上面図である。
図3】本発明による外科用インプラントの別の実施形態で用いられている染色フィルム片の概略上面図である。
図4】(a)〜4(h)は、本発明による外科用インプラントのフィルム片の突出部の幾つかの実施形態の三次元表現である。
図5】本発明による外科用インプラントの更なる実施形態の上面図である。
図6図5による実施形態の拡大部分上面図であり、基本構造の一部も示されている。
図7図5による実施形態の一部の拡大3次元図である。
図8】本発明による外科用インプラント、すなわち、図5による実施形態を製造するプロセスの実施形態を概略的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1は、外科用インプラント(10という記号が付されている)の第1の実施形態を部分分解図で示している。
【0084】
インプラント10は、孔14を有する外科用メッシュとして設計されている基本構造12(本実施形態では、Ethiconのメッシュ「Ultrapro」)を備える。「Ultrapro」は、ポリプロピレン(非再吸収性)と、「Monocryl」(グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、再吸収性、上記を参照)との繊維で作られた軽量なモノフィラメントの半吸収性外科用メッシュであり、一方の方向の孔幅は約2.27mm、その方向と垂直な方向の孔幅は約3.17mmである。
【0085】
厚さ20μmの透明な「Monocryl」フィルムは、内臓癒着バリアシート16となる。バリアシート16は、1枚の染色フィルム片20によって、基本構造12に溶融融合されている。この実施形態では、染色フィルム片20は、元の厚さが150μmであるとともに、当該技術分野において周知の紫色染料「D&C Violet No.2」で染色されているポリ−p−ジオキサノン(PDS)シートで作られている。図1による図では、染色フィルム片20は、基本構造12の上に配置されている。溶融融合プロセスの際に、PDSの染色フィルム片20は軟化し、わずかに溶融して、PDS材料が、バリアシート16の上面に達して、バリアシート16を基本構造12にしっかり連結させるようになる。
【0086】
図2は、染色フィルム片20を更に詳細に示している。染色フィルム片20は密着性であり、外周マーキング領域22と、中心軸マーキング領域24と、短軸マーキング領域25と、2つの同心円状の内側マーキング領域26とを含む非対称な形状の構造をしている。「E」の文字によって、非対称部28が導入されている。染色フィルム片20を上下反対に見ると、「E」の文字は鏡文字となる。染色フィルム片20は、その紫の色により良好に視認され、容易に検出可能なマーキングをもたらして、インプラント10を挿入するための外科手術を補助する。具体的には、マーキング領域22をよく見れば、インプラント10の外周の位置を、マーキング領域24/25をよく見れば、インプラント10の方位角の向きを、マーキング領域26をよく見れば、インプラント10の中心領域を容易に推定できる。「E」の文字により、バリアシート16の正しい向きを容易に制御可能になる(「E」の文字は、インプラント10の下側に位置することになる)。
【0087】
複数の中実突出部が、基本構造12及び癒着バリアシート16から離れる方向に、すなわち体壁側の方に、染色フィルム片20から、本実施形態では、マーキング領域22、24、25、及び26の全てから出ている。突出部の例は、図4によって説明されている。図1及び2には、突出部は示されていない。これらの突出部は、インプラント10に自己癒着性を付与する。突出部は、染色フィルム片20の全領域から出ているので、インプラント10を生体組織に、その外周領域及びその中心領域で安全に付着できる。必要に応じて、インプラント10は、付着後に剥がして、再配置及び再付着できる。突出部の全体的詳細も、上に更に説明されている。
【0088】
したがって、染色フィルム片20は、マーカーとしての役割を果たすとともに、自己癒着性を付与するという2重の機能を有する。いずれの効果も、インプラント10を留置するための外科手術を大きく容易化する。
【0089】
インプラント10は、図7によって以下で更に説明されている方法と同様の方法によって製造してよい。
【0090】
図3は、別のインプラント用の染色フィルム片30を示している。染色フィルム片30も、密着性の非対称な形状の構造として設計されている。しかしながら、そのマーキング領域は、インプラント10のものよりも狭く、染色フィルム片30の存在によって基本構造の可撓性が受ける影響が、インプラント10に比べて小さくなるようになっている。マーキングには、外周マーキング32、中心軸マーキング34、短軸マーキング35、及び非対称な内側マーキング36が含まれ、これらはいずれも、基本構造から離れる方に出ている突出部を有する(図3には示されていない)。
【0091】
図4(a)〜4(h)には、数種類の中実突出部が示してあり、それらの突出部は全て参照番号40で表されている。大部分の突出部40は、軸部42(それらのうちの幾つかは、明らかな脚区間43を有する)と、軸部42に対して少なくとも部分的に横に突出した頭部44と、を具備する。図4(a)〜4(e)及び4(g)を参照のこと。幾つかの突出部は、頭部44を越えて延在するスパイク46を含む。図4(c)、4(e)及び4(g)を参照のこと。図4(f)に準ずる突出部は、スパイクとして完全に設計される。図4(h)には、屈曲のあるロッド48として成形された突出部が示してある。特に有利な形態は、マッシュルーム状である。図4(d)を参照のこと。
【0092】
詳細には、図4(a)では、軸部42と頭部44は六角形であり、頭部44は、軸部42に対して横方向に、左右対称に突出している。図4(b)において、軸部42及び頭部44は六角形である一方、頭部44は軸部42に対して対称的に配列されている。図4(c)では、突出部は、図4(b)の突出部と同様であるが、三角錐のスパイクを有する。図4(d)の突出部はマッシュルーム状であり、円錐台形の脚区間43と軸部42の先細の中間区間と比較的平坦な頭部44とを有する。図4(e)において突出部は図4(d)と類似しているが、加えてピラミッド状スパイクを有する。図4(f)の突出部は円形ベース区間43を含み、この円形ベース区間の直径は、尖った先端部(即ち、スパイク46)に向かうほど狭くなっている。図4(g)は、図4(e)の突出部と同様のマッシュルーム状の突出部であって、頭部44に、いくつかの切削部が含まれている突出部を示している。図4(h)の突出部は、互いに対して傾いている3つの直線部で作られた屈曲ロッド48として成形されており、異なる形態では、その全長に沿って、滑らかに屈曲している。
【0093】
突出部の典型的な寸法及び数密度は、上に更に開示されている。
【0094】
図5は、外科用インプラントの更なる実施形態(50という記号が付されている)の上面図を示している。
【0095】
インプラント50は、基本構造52を備え、図5には、その外周線のみが示されている。個々の染色フィルム片54が複数、基本構造52に付着している。この実施形態では、染色フィルム片54は、非対称なパターンで配列されており、すなわち、いくつかの非対称な形状の構造を形成しており、1つ1つが、記号列56、すなわち「ETHICONETHICONETH」となっている。すなわち、それぞれの文字又は記号は、2枚の染色フィルム片からなる「O」の文字を除き、1枚の染色フィルム片54で作られている(図5参照)。染色フィルム片54は、染色(紫色)ポリ−p−ジオキサノン材から形成されている。
【0096】
記号列56の間の領域では、第2のフィルム片58が基本構造52に付着している。本実施形態では、第2のフィルム片58のそれぞれは、六角形状をしており、ポリ−p−ジオキサノン材で作られているが、染色されていない。
【0097】
図6は、第2のフィルム片58の一部を概略的に示しており、透明(無染色)で軽量なポリプロピレンメッシュから作られている基本構造52の孔も示している。
【0098】
図7には、第2のフィルム片58のそれぞれが、基本構造52から離れる方向に出ている複数の突出部62を備えることが示されている。この実施形態では、突出部62は、マッシュルームの形状をしており、軸部64と頭部66とを備える。図4に示されているような他の形状も考えられる。図5(「上面」図)の用語を用いると、突出部62は、下方に出ている。第2のフィルム片58のシート状材料は、元々は基本構造52の「上」側に配置されるが、このシート状材料は、製造プロセス(下記を参照)中に基本構造52の孔に入り込み、突出部が「底部」側に形成される。このようにして、基本構造52の材料が第2のフィルム片58に埋め込まれる。
【0099】
染色フィルム片54にも、同様のマッシュルーム状の突出部(図示なし)が備わっており、この突出部も、「底部」側に出ており、染色フィルム片54は、第2のフィルム片58と同様の形で、基本構造52の材料を包み込んでいる。
【0100】
外科用インプラント50の可撓性は主に、その基本構造52の可撓性によって決まる。染色フィルム片54と第2のフィルム片58は、比較的小さいからである。記号列56は良好に視認され、インプラント50の向きを明確に示す。第2のフィルム片58の突出部62と、染色フィルム片54の突出部により、インプラント50は、顕著な自己付着性を有する。
【0101】
図8は、外科用インプラントの製造プロセス、すなわち、図5〜7によって既に説明したインプラント50の製造プロセスの実施形態を概略的に示している。このプロセスは、下記の例によって説明する。
【0102】
第1の工程では、キャビティの配列(各キャビティは、1つの突出部の形状を有する)を含む成形型70を2液型シリコーン前駆体キット(エラストマーキット)から作製した。図8による図では、これらのキャビティは、成形型70の上側から利用可能であるが、図8には示されていない。成形型70を作製するために、例えば全高約250μm、頭部径約375μm、軸部径約200μm、最下部径約340μmのマッシュルーム状の突出部を288個/cm、1つの表面に備える、ポリプロピレンのポジ型(マスター)を用いた。液体シリコーンエラストマーを液体シリコーンポリプロピレンマスターに鋳込み、オーブンの中に入れて水平位置を維持しながら高温(50℃〜80℃)にて数時間硬化させた。室温まで冷却後、突出部のマッシュルーム状のネガを含むシリコーン成形型70をポリプロピレンマスターから外した。
【0103】
インプラントの基本構造として、ポリプロピレン繊維を含む非再吸収性メッシュである無染色の「Prolene」メッシュ(Ethicon)を用いた(外科用メッシュ72が、図5の基本構造52に相当する)。メッシュを金属製型枠で固定することにより、移動及び収縮を防止できる。
【0104】
キャビティを上にして成形型70を金属型に入れてから、外科用メッシュ72を入れた。次に、マスク74として機能するとともに、図5に示されているように成形された薄い有孔ゴム層を外科用メッシュ72の上に配置した。このマスクには、記号列56を表す開口76と、六角形の形状の第2のフィルム片58を表す六角形の開口78がある。
【0105】
図8に示されているように、記号列56を作製するためのシート状材料80(斜線)と、第2のフィルム片58を作製するためのシート状材料82をマスク74の上に、交互に並べて配置した。この例では、シート80は、染色(紫色)ポリ−p−ジオキサノン(厚さ150μm)で作製し、シート82は、無染色ポリ−p−ジオキサノン(厚さ150μm)で作製した。ポリ−p−ジオキサノンの融点は、外科用メッシュの材料(ポリプロピレン)よりも低い。最後に、プレート装置84(この例では、柔らかい独立気泡発砲材)をシート80及び82の上に配置した。
【0106】
このアセンブリを熱プレスに入れ、130℃をやや下回る温度まで、数分間、約0.5MPa(5バール)の圧力下で加熱した。これらの条件下では、シート80及び82のポリ−p−ジオキサノン材は非常に柔らかくなり、マスク74のそれぞれの開口76及び82と、メッシュ72の孔を貫通して、成形型70のキャビティ、すなわち、マスク74によって遮蔽されていないキャビティを満たし、その結果、メッシュ72に十分に付着しているとともに、メッシュ72から離れる方に出ている突出部を備える染色フィルム片54(すなわち、複数の記号列56)と六角形のフィルム片58を形成させる。アセンブリを周囲温度(すなわち、50℃未満の温度)まで冷却後、圧力を解放することができ、成形型70、マスク74(フィルム片54、58に用いられなかった残りのシート状材料80、82を含む)、及びプレート装置84を取り外すことができた。シリコーン成形型70は、可撓性に優れるため、支障なしに突出部から取り外すことができた。
【0107】
独国特許第10 2013 004 574 A号、及び独国特許第10 2013 004 573 A号は、更なる例を開示しており、これらは、本発明の目的に容易に適合できる。これらの文献は、参照により援用する。
【0108】
〔実施の態様〕
(1) 外科用インプラントであって、
第1の面と第2の面とを有する面状の可撓性で多孔性の基本構造(areal, flexible, porous basic structure)(12、52)と、
前記基本構造(12、52)に付着している少なくとも1つの再吸収性染色フィルム片(20、30、54)であって、前記基本構造(12、52)から離れる方向に前記染色フィルム片(20、30、54)から出ている複数の中実突出部(40、62)を備える、少なくとも1つの再吸収性染色フィルム片(20、30、54)と、を備え、
前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)が、前記基本構造(12、52)の領域において非対称な形状の構造で配列されている、外科用インプラント。
(2) 前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30)が、密着性の非対称な形状の構造を備えることを特徴とする、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(3) 前記非対称な形状の構造が、非対称なパターン(56)で配列された複数の個々の染色フィルム片(54)によって形成されていることを特徴とする、実施態様1に記載の外科用インプラント。
(4) 前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)に加えて、第2のフィルム片(58)が前記基本構造(52)に付着しており、前記第2のフィルム片(54)のそれぞれが、前記基本構造(52)から離れる方向に前記第2のフィルム片(54)のそれぞれから出ている少なくとも1つの突出部(62)を備え、前記第2のフィルム片(58)が染色されていないか、又は前記少なくとも1つの染色フィルム片(54)と比べて別様に染色されていることを特徴とする、実施態様1〜3のいずれかに記載の外科用インプラント。
(5) 前記非対称な形状の構造(20、56)が、少なくとも1つの記号(「E」、54)を画定することを特徴とする、実施態様1〜4のいずれかに記載の外科用インプラント。
【0109】
(6) 前記非対称な形状の構造(56)が、記号列を画定することを特徴とする、実施態様5に記載の外科用インプラント。
(7) 少なくとも1つの突出部(40、62)が、ロッド状であること、柱状であること、マッシュルーム形状であること、から選択される特性を備え、各本体(42、43)及び各頭部(44)によって画定される形状を備えており、前記本体(42、43)が前記フィルム片から出ているとともに、前記頭部(44)で終端しており、前記頭部(44)が前記本体(42)に対して横方向に突出していることを特徴とする、実施態様1〜6のいずれかに記載の外科用インプラント。
(8) フィルム(16)が前記基本構造(12)の前記第2の面に付着しており、前記フィルム(16)が、1つの片として設けられていること、複数のフィルム片として設けられていること;再吸収性であること、非再吸収性であること;突出部を備えること、突出部を備えないこと;バリア特性を有すること、バリア特性を有さないこと;という特徴群のうちのそれぞれのうちの1つの特徴を備えることを特徴とする、実施態様1〜7のいずれかに記載の外科用インプラント。
(9) バリア特性を有するフィルム(16)が、前記基本構造(12)の前記第2の面に付着しており、このフィルム(16)が、ポリアルケン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素化ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE、ePTFE、cPTFE、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマーとの配合物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート(polyhydroxyvaleriates)、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、これらの重合性物質のコポリマー、再吸収性ガラス、セルロース、バクテリアセルロース、同種移植片、異種移植片、コラーゲン、ゼラチン、絹から選択される材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、実施態様8に記載の外科用インプラント。
(10) 前記少なくとも1つの染色フィルム片が前記基本構造の孔の中まで延びており、実施態様1で定義されているような突出部が、前記少なくとも1つの染色フィルム片から、前記基本構造の前記第1の面から離れる方向と、前記基本構造の前記第2の面から離れる方向の両方に出ていることを特徴とする、実施態様1〜7のいずれかに記載の外科用インプラント。
【0110】
(11) それぞれが少なくとも1つの染色フィルム片(54)を備えるとともに、それぞれが記号列(56)を画定する、少なくとも2つのストライプ様形状の構造が、前記基本構造(52)に付着していることと、任意に、実施態様4に定義されているような第2のフィルム片(58)が、前記ストライプ様形状の構造間の領域で、前記基本構造(52)に付着していることとを特徴とする、実施態様1〜10のいずれかに記載の外科用インプラント。
(12) 前記外科用インプラント(10、50)が、腹腔鏡下の留置のために巻かれるか折り畳まれ、トロカールスリーブを通して手術部位に移動され、かつ、手術部位自体に粘着することなく、広がるか開かれるように構成されていることを特徴とする、実施態様1〜11のいずれかに記載の外科用インプラント。
(13) 前記外科用インプラント(10、50)は、軟組織インプラント、好ましくはヘルニアインプラントとして設計されており、前記外科用インプラント(10、50)と筋肉又は脂肪などの軟組織との摩擦が、突出部のない対応するインプラントと比べて、少なくとも一方向において2倍以上増大した状態で、前記軟組織において、少なくとも部分的にインプラント自体を固定するように構成されていることを特徴とする、実施態様1〜12のいずれかに記載の外科用インプラント。
(14) 前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)が、合成生体吸収性ポリマー材、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、コラーゲン、ゼラチン、オメガ3脂肪酸で架橋した生体吸収性ゲルフィルム、酸化再生セルロースから選択される材料を含むことを特徴とする、実施態様1〜13のいずれかに記載の外科用インプラント。
(15) 前記基本構造(12、52)が、ポリアルケン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素化ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE、ePTFE、cPTFE、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとのコポリマーとの配合物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、グリコリドとラクチドとのコポリマー、比率が90:10のグリコリドとラクチドとのコポリマー、ラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、グリコリドとラクチドとトリメチレンカーボネートとのコポリマー、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレリエート、ポリカプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトンとのコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−p−ジオキサノン、合成及び天然オリゴアミノ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、多価アルコール、多糖類、ポリエーテル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、これらの重合性物質のコポリマー、再吸収性ガラス、セルロース、バクテリアセルロース、同種移植片、異種移植片、コラーゲン、ゼラチン、絹から選択される材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、実施態様1〜14のいずれかに記載の外科用インプラント。
【0111】
(16) 前記少なくとも1つの染色フィルム片(20、30、54)と、そのフィルム片から出ている前記突出部(40、62)が一体的に作られていることを特徴とする、実施態様1〜15のいずれかに記載の外科用インプラント。
(17) 前記基本構造が、3次元構成に形成されており、前記外科用インプラントが、チューブ、血管インプラント、ステント、乳房インプラント、整形外科用インプラントから選択される形態で好ましくは設計されていることを特徴とする、実施態様1〜16のいずれかに記載の外科用インプラント。
(18) 実施態様1に記載の外科用インプラントを製造するプロセスであって、
キャビティの配列を含む成形型(70)を用意する工程であって、各キャビティが1つの突出部の形状を有する、工程と、
前記少なくとも1つの染色フィルム片の前記形状の構造を画定するパターン(74)に従って、前記少なくとも1つの染色フィルム片と前記突出部とを形成する流体材料(80)を前記成形型(70)に充填する工程と、
前記流体材料(80)を硬化させる工程と、
前記突出部が基本構造(72)から離れる方向を向いた状態で、前記少なくとも1つの染色フィルム片を前記基本構造(72)に付着させる工程と、
前記成形型(70)を外す工程と、によって特徴付けられる、プロセス。
(19) 前記成形型(70)が可撓性であり、可撓性材料、シリコーン、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴムという材料のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、実施態様18に記載のプロセス。
(20) 前記少なくとも1つの染色フィルム片の前記形状の構造を画定する前記パターンが、前記基本構造(72)と、前記成形型(70)に充填される前記材料(80)との間に置かれるマスク(74)によって決まることを特徴とする、実施態様18又は19に記載のプロセス。
【0112】
(21) 前記成形型(70)と、前記基本構造としての外科用メッシュ(72)と、前記マスク(74)と、前記外科用メッシュ(72)よりも融点の低い、前記少なくとも1つの染色フィルム片用のシート状材料(80)と、可撓性プレート装置(84)と、をこの順番で備える層状アセンブリを用意する工程と、
前記シート状材料(80)を、その融点よりも高くかつ前記外科用メッシュ(72)の前記融点よりも低い温度まで加熱する工程と、
前記成形型(70)と前記プレート装置(84)とを互いに向かって押し付け、それによって、前記少なくとも1つの染色フィルム片用の前記材料(80)が、前記マスク(74)を通って前記成形型(70)の中に移動し、前記外科用メッシュ(72)を埋め込む工程と、
前記温度を低下させて、前記成形型(70)を外す工程と、によって特徴付けられる、実施態様20に記載のプロセス。
(22) 前記成形型と、前記外科用メッシュよりも融点が低い、前記少なくとも1つの染色フィルム片用のシート状材料と、前記マスクと、前記基本構造としての外科用メッシュと、可撓性プレート装置と、をこの順番で備える層状アセンブリを用意する工程と、
前記シート状材料を、その融点よりも高く、前記外科用メッシュの前記融点よりも低い温度まで加熱する工程と、
前記成形型と前記プレート装置とを互いに向かって押しつけ、それによって、前記少なくとも1つの染色フィルム片用の前記材料を前記成形型の中に移動させ、前記マスクによって遮蔽されていない領域において、前記外科用メッシュに埋め込む工程と、
前記温度を低下させて、前記成形型を外す工程と、によって特徴付けられる、実施態様20に記載のプロセス。
(23) 前記可撓性プレート装置(84)が、閉じた表面を備えること、可撓性であり、かつ1つの突出部の形状をそれぞれが有するキャビティの配列を有する、第2の成形型として設計されていること、という特性のうちの1つを有することを特徴とする、実施態様21又は22に記載のプロセス。
(24) 前記少なくとも1つの染色フィルム片の作製に用いるシート材料(80)と並べて配置されたシート材料(82)から、実施態様4に記載の第2のフィルム片を作製することを特徴とする、実施態様21〜23のいずれかに記載のプロセス。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図4(d)】
図4(e)】
図4(f)】
図4(g)】
図4(h)】
図5
図6
図7
図8