(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6411606
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】密閉形鉛蓄電池の再生処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20181015BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M10/12 M
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-180031(P2017-180031)
(22)【出願日】2017年9月20日
【審査請求日】2017年12月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316004192
【氏名又は名称】株式会社BRS
(74)【代理人】
【識別番号】100090712
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 忠秋
(72)【発明者】
【氏名】西田 武次
【審査官】
古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−108511(JP,A)
【文献】
特許第3723795(JP,B2)
【文献】
特開平01−093066(JP,A)
【文献】
特開2011−233262(JP,A)
【文献】
特開2000−040537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00−10/04
H01M 10/06−10/34
H01M 10/42−10/667
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化蓄電池の各セルごとに劣化蓄電池の満充電相当の濃度の電解液を注入し、ベース電流と方形波のパルス電流とを重畳する充電電流により再生処理を施すことを特徴とする密閉形鉛蓄電池の再生処理方法。
【請求項2】
電解液の注入から再生処理の開始までの間に所定の待ち時間を設けることを特徴とする請求項1記載の密閉形鉛蓄電池の再生処理方法。
【請求項3】
電解液の注入に先き立って劣化蓄電池を放電させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の密閉形鉛蓄電池の再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制御弁式鉛蓄電池などの密閉形鉛蓄電池を再生し、再使用するための密閉形鉛蓄電池の再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電流を使用して劣化蓄電池を電気的に再生する再生処理方法が提案され、実用されている(特許文献1)。
【0003】
従来の再生処理方法は、たとえば直流のベース電流に方形波のパルス電流を重畳して充電電流とし、このような充電電流を利用して周期的に休止期間を挟みながら通電することにより、劣化した鉛蓄電池を効果的に再生することができる。なお、パルス電流は、ベース電流の数倍程度の波高値とし、パルス周波数1〜5kHz 程度、デューティ50%未満に設定することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3723795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、劣化蓄電池が通常のベント形鉛蓄電池であるときはよいとしても、劣化蓄電池が制御弁式鉛蓄電池などの密閉形鉛蓄電池であるときは、再生処理後の電池容量が小さく、十分な回復率(定格容量に対する再生処理後の電池容量の割合をいう、以下同じ)が得られないという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、再生処理に先き立って各セルに所定濃度の電解液を注入することによって、実用的に十分な回復率を容易に達成することができる密閉形鉛蓄電池の再生処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、劣化蓄電池の各セルごとに劣化蓄電池の満充電相当の濃度の電解液を注入し、ベース電流と方形波のパルス電流とを重畳する充電電流により再生処理を施すことをその要旨とする。
【0009】
また、電解液の注入から再生処理の開始までの間に所定の待ち時間を設けてもよく、電解液の注入に先き立って劣化蓄電池を放電させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
かかる発明の構成によるときは、劣化蓄電池は、たとえば制御弁式鉛蓄電池であっても、回復率70〜80%以上の実用レベルをほぼ確実に達成することができる。なお、再生処理後の回復率は、非常用電源用の据置式の用途向けでは80%以上、自動車や電気車などの一般用途向けでは70%以上であれば、十分実用的である。また、電解液の注入量は、各セルごとに、電槽底部の突部(いわゆる「くら」)上に支持されている極板の下端部を浸す程度とするのがよい。
【0011】
各セルに注入する電解液の濃度は、劣化蓄電池の満充電相当とするのがよく、鉛蓄電池については、比重1.280の稀硫酸を用いる。なお、精製水を注入したり、劣化蓄電池の50%充電相当の濃度の電解液(比重1.200の稀硫酸)を注入したりしても、いずれも約20〜30%前後程度の低い回復率しか実現できないことが少なくない。
【0012】
電解液の注入から所定の待ち時間が経過すると、電解液が極板上に浸潤し、その後の再生処理により回復率を向上させることができる。なお、このときの待ち時間は、約1時間程度で十分である。
【0013】
電解液の注入に先き立って劣化蓄電池を放電させることにより、極板上に局部的な過充電状態の部位が発生することを防止し、再生処理中に過大な温度上昇を生じたりする可能性を最小にすることができる。なお、このときの放電処理は、劣化蓄電池の端子電圧が放電終止電圧に低下するまで継続するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0016】
密閉形鉛蓄電池の再生処理方法は、たとえば
図1のフローチャートに従って実施する。ただし、以下の説明において、劣化蓄電池は、(株)GSユアサ製の制御弁式鉛蓄電池SEB65(定格電圧12V、5時間率定格容量65Ah)を例示する。
【0017】
劣化蓄電池は、まず、受入検査において、再生処理可能であるか否かを判定する(
図1のステップ(1)、以下、単に(1)のように記す)。すなわち、劣化蓄電池は、電槽の割れや膨らみ、端子部の脱落・変形などがなく、内部抵抗値がたとえば35mΩ未満のものを再生処理可能として選別し、それ以外は、再生処理不能として廃棄する。また、劣化蓄電池の端子電圧を併せて測定し、端子電圧が定格電圧12V以上の劣化蓄電池を放電可能とみなし(2)、その電池を放電させる(3)。放電処理は、5時間率定格容量65Ahの定格放電電流13A以下の適当な定電流により、端子電圧が放電終止電圧10.2Vに低下するまで放電させる。
【0018】
次に、劣化蓄電池の各セルごとに所定量の電解液を注入する(4)。電解液は、劣化蓄電池の満充電相当の濃度の比重1.280の稀硫酸とし、電槽底部の「くら」上の各極板の下端部を浸すように、たとえば各セルごとに40ccを注入する。なお、電解液は、たとえば劣化蓄電池の制御弁の上端の排気栓を一時的に取り外して注入することができる。電解液を注入したら、各極板上に電解液を浸潤させるために、約1時間程度の待ち時間の経過を静止して待つ(5)。
【0019】
その後、再生処理を実施する(6)。再生処理は、特許第3723795号公報に開示されている手順に準じ、たとえば直流のベース電流5Aと方形波のパルス電流25A(波高値)とを重畳して充電電流とする。ただし、パルス電流は、デューティ30%、パルス周波数2kHz とし、充電電流は、5分間の充電期間ごとに1分間の休止期間を周期的に挟みながら、たとえば10〜30時間程度のあらかじめ定める設定時間だけ通電を続行する。なお、再生処理中に過大な温度上昇を示したり、所定の充電電流値が流れなくなったり、再生初期の端子電圧が異常に高いもの等は、処理を中止するものとする。
【0020】
再生処理が完了した劣化蓄電池は、通常の充電処理の後、容量試験により再生処理後の電池容量、回復率を確認する(7)。なお、電池容量、回復率は、たとえば定格放電電流13Aにより放電終止電圧10.5Vまで放電させて確認するものとする。ただし、一般用途向けでは回復率70%以上、非常用電源向けでは回復率80%以上を再生合格品とする。そこで、再生合格品のみを満充電状態に仕上充電して(8)、出荷する。
【0021】
劣化蓄電池SEB65の再生処理結果データの一例を
図2〜
図4に示す。
【0022】
図2は、受入検査時の劣化蓄電池の内部抵抗値、端子電圧の実測データである。これらの劣化蓄電池は、いずれも再生処理可能であるが、放電不可であると判定された。
【0023】
図2の劣化蓄電池に対し、
図1のステップ(4)〜(7)を適用したときの再生処理結果を
図3に示す。これによれば、再生処理後の電池容量、回復率は、それぞれ59.0〜72.0Ah(平均65.6Ah)、回復率90.8〜110.8%(平均100.9%)が達成されていることが分かる。なお、
図3には、再生処理後の内部抵抗値、端子電圧が併せて表示されている。
【0024】
一方、
図2の劣化蓄電池に対し、
図1のステップ(4)、(5)を省略し、各セルごとに電解液を注入しない場合の再生処理結果を
図4に示す。これによれば、再生処理後の回復率は、最良でも40.0%(平均26.7%)しか達成できなかった。
【0025】
なお、具体的なデータは省略するが、
図1のステップ(4)において、各セルごとに精製水を注入したとき、50%充電相当の比重1.200の稀硫酸を注入したときの再生処理後の回復率は、それぞれ最良でも25.2%(平均20.7%)、36.3%(平均32.2%)であった。
【0026】
以上によれば、劣化蓄電池の各セルごとに、劣化蓄電池の満充電相当の電解液を所定量注入することにより、再生処理後の電池容量、回復率を顕著に向上させ得ることが分かる。また、この発明は、SEB65以外の他の定格電圧、定格容量の制御弁式鉛蓄電池や、その他の密閉形鉛蓄電池に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明は、再生処理用の充電電流を通電するに先き立って各セルごとに所定濃度の電解液を注入するだけで実用的に十分な回復率を容易に達成することができ、一般用途向け、非常用電源向けなどの任意の用途の密閉形鉛蓄電池に対し、広く好適に適用することができる。
特許出願人 株式会社 BRS
【要約】
【課題】実用的に十分な回復率を容易に達成する。
【解決手段】劣化蓄電池の各セルごとに所定濃度の電解液を注入し、ベース電流と方形波のパルス電流とを重畳する充電電流により再生処理を施す。
【選択図】
図1