【文献】
WU, G. et al.,Synthesis-structure-performance correlation for polyaniline-Me-C non-precious metal cathode catalysts for oxygen reduction in fuel cells,Journal of Materials Chemistry,2011年 6月28日,Vol.21, No.30,pp.11392-11405,DOI:10.1039/C0JM03613G
【文献】
MATTER, P.H. et al.,Oxygen reduction reaction activity and surface properties of nanostructured nitrogen-containing carbon,Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,2006年 9月 9日,Volume 264, Issues 1-2,PP.73-81,DOI:10.1016/j.molcata.2006.09.008
【文献】
WANG, H. et al.,Review on Recent Progress in Nitrogen-Doped Graphene: Synthesis, Characterization, and Its Potential Applications,ACS Catalysis,2012年 3月16日,Vol.2,PP.781-794,DOI:10.1021/cs200652y
【文献】
BYON, H. R. et al.,Graphene-Based Non-Noble-Metal Catalysts for Oxygen Reduction Reaction in Acid,Chem. Mater.,2011年 7月18日,Vol.23, No.15,pp.3421-3428,DOI:10.1021/cm2000649
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.燃料電池
図1は、本発明の酸素還元触媒が用いられる燃料電池の概略構成図である。
【0014】
燃料電池1は、固体高分子型燃料電池であって、複数の燃料電池セルSを備えており、これらの燃料電池セルSが積層されたスタック構造として形成されている。なお、
図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSのみを示している。
【0015】
燃料電池セルSは、電解質層4と、燃料側電極2(アノード)と、酸素側電極3(カソード)と、燃料供給部材5、酸素供給部材6とを備えている。
【0016】
電解質層4は、アニオン交換膜から形成されている。アニオン交換膜としては、酸素側電極3で生成されるアニオン成分としての水酸化物イオン(OH−)を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動させることができる媒体であれば、特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0017】
燃料側電極2は、例えば、触媒を担持した触媒担体などの電極材料により、電解質層4の一方の面に形成されている。また、触媒担体を用いずに、電極材料として触媒粒子を用い、その触媒粒子を、直接、燃料側電極2として形成してもよい。
【0018】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素、さらには亜鉛(Zn)などの金属単体や、それらの合金などが挙げられる。
【0019】
これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0020】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。触媒の触媒担体に対する担持量は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0021】
燃料側電極2の厚みは、例えば、10μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、200μm以下、好ましくは、100μm以下である。
【0022】
酸素側電極3は、上記した触媒の代わりに、後述する酸素還元触媒を用いて、電解質層4の他方の面(燃料側電極2が形成される面とは反対側の面)に上記した燃料側電極2と同様の方法により形成されている。なお、酸素側電極3の坪量(電解質層4に対する酸素還元触媒の付着量)は、例えば、0.01〜10mg/cm
2である。
【0023】
また、酸素側電極3の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、10μm以下である。
【0024】
燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2に対向接触されている。燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。また、燃料供給部材5には、その上流側端部および下流側端部に、燃料側流路7に連通する供給口8および排出口9が形成されている。
【0025】
酸素供給部材6は、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、酸素側電極3に対向接触されている。酸素供給部材6には、酸素側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。また、酸素供給部材6には、その上流側端部および下流側端部に、酸素側流路10に連通する供給口11および排出口12が形成されている。
【0026】
そして、この燃料電池1では、燃料化合物を含む燃料が、燃料供給部材5の供給口8を介して燃料側流路7に供給され、酸素(空気)が、酸素供給部材6の供給口11を介して酸素側流路10に供給される。
【0027】
燃料化合物としては、例えば、メタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテルなどのアルキル基を有するエーテル類、ヒドラジン類などが挙げられ、好ましくは、アルコール類およびヒドラジン類が挙げられ、さらに好ましくは、ヒドラジン類が挙げられる。
【0028】
ヒドラジン類としては、例えば、ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、炭酸ヒドラジン((NH
2NH
2)
2CO
2)、塩酸ヒドラジン(NH
2NH
2・HCl)、硫酸ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2SO
4)、モノメチルヒドラジン(CH
3NHNH
2)、ジメチルヒドラジン((CH
3)
2NNH
2、CH
3NHNHCH
3)、カルボンヒドラジド((NHNH
2)
2CO)などが挙げられる。
【0029】
このようなヒドラジン類のうち、好ましくは、炭素を含まないヒドラジン類、すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジンなどが挙げられる。ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジンなどは、COおよびCO
2の生成がなく、触媒の被毒が生じないことから、耐久性の向上を図ることができ、実質的なゼロエミッションを実現することができる。
【0030】
このような燃料成分は、単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
燃料は、上記例示の燃料化合物をそのまま用いてもよいが、上記例示の燃料化合物を、例えば、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールなど)などの溶液として用いることができる。
【0032】
そして、例えば、電解質膜4がアニオン交換型の固体高分子膜であり、燃料化合物がヒドラジンである場合には、下記式(1)〜(3)の電気化学反応が生じ、起電力が発生する。
(1) N
2H
4+4OH
−→N
2+4H
2O+4e
− (燃料側電極2での反応)
(2) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (酸素側電極3での反応)
(3) N
2H
4+O
2→N
2+2H
2O (燃料電池1全体での反応)
すなわち、燃料側電極2では、ヒドラジン(N
2H
4)と酸素側電極3での反応で生成した水酸化物イオン(OH
−)とが反応して、窒素(N
2)および水(H
2O)が生成するとともに、電子(e
−)が発生する(上記式(1)参照)。
【0033】
一方、酸素側電極3では、電子(e
−)と、外部からの供給もしくは燃料電池1での反応で生成した水(H
2O)と、酸素(O
2)とが反応して、水酸化物イオン(OH
−)が生成する(上記式(2)参照)。生成した水酸化物イオン(OH
−)は、電解質膜4を通過して燃料側電極2に供給される。
【0034】
このような電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池1全体として上記式(3)で表わされる反応が生じて、起電力が発生する。
【0035】
2.酸素還元触媒
以下、上記した酸素側電極3に用いられる酸素還元触媒について説明する。
【0036】
酸素還元触媒は、必須成分として、フェナントロリンFe錯体の焼成体を含んでおり、好ましくは、フェナントロリンFe錯体の焼成体からなる。
【0037】
フェナントロリンFe錯体は、フェナントロリン系配位子が鉄に配位された遷移金属錯体である。
【0038】
フェナントロリン系配位子は、フェナントロリンまたはその誘導体であり、好ましくは、1,10−フェナントロリンまたはその誘導体が挙げられる。より具体的には、一般式(1)で挙げられるフェナントロリン系化合物が挙げられる。
【0040】
mは、0または1〜3の整数であり、好ましくは、0または1であり、より好ましくは、0である。
【0041】
nは、0または1〜3の整数であり、好ましくは、0または1であり、より好ましくは、0である。
【0042】
kは、0または1〜2の整数であり、好ましくは、0または1であり、より好ましくは、0である。
【0043】
R
1は、単独または互いに独立して、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO
3H)などを表す。
【0044】
R
1で示されるアルキル基は、好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n−ヘキシル、イソへキシル、シクロヘキシルなどの炭素数1〜6の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基が挙げられる。
【0045】
R
1で示されるアルコキシ基は、好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシなどの炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
【0046】
R
1で示されるアリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、フェニルナフチル、アントリル、フェナントリル、アズレニルなどのアリール基が挙げられる。
【0047】
R
1は、カルボキシル基(−COOH)またはスルホ基(−SO
3H)である場合、これらは、金属塩を形成していてもよい。金属塩を形成する金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
【0048】
R
2は、単独または互いに独立して、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシル基、スルホ基などを表す。
【0049】
R
2に示されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシル基、スルホ基などはR
1と同様のものが挙げられる。
【0050】
R
3は、単独または互いに独立して、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシル基、スルホ基などを表す。
【0051】
R
3に示されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、カルボキシル基、スルホ基などはR
1と同様のものが挙げられる。
【0052】
フェナントロリン系配位子として、具体的には、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
【0053】
フェナントロリン系配位子は、市販品として入手可能であり、具体的には、1,10−フェナントロリン一水和物(東京化成工業社製、キシダ化学社製)などが挙げられる。
【0054】
フェナントロリンFe錯体において、フェナントロリン系配位子は、2座配位子として、例えば、鉄に3分子配位している。
【0055】
フェナントロリンFe錯体としては、具体的には、トリス(フェナントロリン)鉄(II)錯体などが挙げられる。
【0056】
フェナントロリンFe錯体を調製するには、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0057】
例えば、鉄の塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、りん酸塩などの無機塩、例えば、酢酸塩、しゅう酸塩などの有機酸塩など)と、フェナントロリン系配位子とを、例えば、水、アルコール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ニトリル類などの公知の溶媒中で混合することにより、フェナントロリンFe錯体を製造することができる。
【0058】
このように調製されたフェナントロリンFe錯体の溶液または/分散液は、必要により乾燥し、次いで、焼成する。
【0059】
焼成では、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)や、還元ガス(例えば、窒素ガスおよび水素ガスの混合ガス)雰囲気下において、錯体混合物を加熱する。
【0060】
焼成するときの不活性ガスの流量は、例えば、10mL/分・g以上、好ましくは、15mL/分・g以上であり、例えば、40mL/分・g以下である。
【0061】
また、焼成温度は、例えば、850℃以上、好ましくは、900℃以上であり、また、例えば、1500℃以下である。焼成時間は、例えば、1時間以上であり、また、例えば、10時間以下、好ましくは、5時間以下である。
【0062】
なお、フェナントロリンFe錯体は、一段階または多段階で焼成することができる。
【0063】
乾燥する場合、乾燥温度は、例えば、−25℃以上、好ましくは、15℃以上であり、また、例えば、80℃以下、好ましくは、50℃以下である。乾燥時間は、例えば、12〜48時間である。
【0064】
これにより、フェナントロリンFe錯体の焼成体を得ることができる。
【0065】
得られた焼成体のX線光電子スペクトルでは、399eVと401eVとのそれぞれにピークを有し、401eVにおける強度が、399eVにおける強度よりも大きくなる。
【0066】
なお、X線光電子スペクトルにおいて、399eVのピークは、窒素原子を含む六員環構造に由来し、401eVのピークは、窒素原子を含む五員環構造に由来する。
【0067】
この酸素還元触媒によれば、フェナントロリンFe錯体を焼成することにより、X線光電子スペクトルにおいて、401eVにおける強度が、399eVにおける強度よりも大きくなるような、特定の構造を有する焼成体を含有している。
【0068】
その結果、酸素の還元反応を活性化することができ、酸素還元活性能をさらに向上させることができる。
【0069】
これにより、本発明の酸素還元触媒を燃料電池に用いた場合、燃料電池の発電性能の向上を図ることができる。
【0070】
3.酸素還元触媒の製造方法の変形例
(1)上記したフェナントロリンFe錯体の焼成体をアンモニア処理することにより、酸素還元触媒の酸素還元活性をさらに向上させることができる。
【0071】
アンモニア処理においては、上記により得られた焼成体を、例えば、アンモニア雰囲気(100%アンモニアガス)下において、焼成(2次焼成)する。アンモニア処理における焼成条件としては、焼成温度が、例えば、400℃以上、好ましくは、600℃以上であり、また、例えば、1000℃以下である。焼成時間は、例えば、0.5時間以上であり、また、例えば、10時間以下、好ましくは、5時間以下である。
(2)上記したフェナントロリンFe錯体を焼成するときに、フェナントロリンFe錯体の焼成体が凝集および粒成長し、その有効表面積が減少して、その結果、触媒活性が低下する場合がある。
【0072】
そこで、有効表面積を十分に確保するため、好ましくは、遷移金属錯体が凝集および粒成長した粒状物に細孔を形成し、多孔質の焼成体を形成することもできる。
【0073】
多孔質の焼成体を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
例えば、まず、フェナントロリンFe錯体と可溶性粒子との粒子混合物を焼成して、フェナントロリンFe錯体と可溶性粒子とをランダムに含有する複合物を作製し、その後、複合物中の可溶性粒子を除去する方法が挙げられる。
【0074】
可溶性粒子としては、特に制限されないが、例えば、錯体混合物と可溶性粒子との混合時に、錯体混合物に均一に分散でき、また、上記の焼成によって融解することなく複合物に均一に分布し、また、焼成の後に、酸またはアルカリ処理などにより溶解および除去される粒子などが挙げられる。
【0075】
このような可溶性粒子としては、例えば、フュームドシリカ、コロイダルシリカなどのアモルファスシリカ、ポリスチレン、ポリイミドなどのポリマー粒子、および、それらの焼成体などが挙げられる。
【0076】
これら可溶性粒子は、単独使用または2種類以上併用することができ、好ましくは、アモルファスシリカ、より好ましくは、フュームドシリカが挙げられる。
【0077】
この方法では、例えば、まず、上記焼成前に、フェナントロリンFe錯体と可溶性粒子とを混合する。
【0078】
フェナントロリンFe錯体と可溶性粒子とを混合するには、例えば、まず、フェナントロリンFe錯体を、溶媒に、溶解および/または分散させる。
【0079】
溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、例えば、プロトン性極性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリコールなどのアルコールなど)、非プロトン性極性溶媒(例えば、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル、ピペリジンなど)、アミン類(例えば、アンモニア、例えば、トリエチルアミン、ピリジンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)など)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。
【0080】
これら溶媒としては、単独使用または2種類以上併用することができ、好ましくは、テトラヒドロフラン、アセトンなどが挙げられる。
【0081】
フェナントロリンFe錯体と溶媒との配合割合は、フェナントロリンFe錯体100質量部に対して、溶媒が、例えば、1質量部以上、好ましくは、10質量部以上であり、また、例えば、100000質量部以下、好ましくは、50000質量部以下である。
【0082】
次いで、得られたフェナントロリンFe錯体の溶液および/または分散液と、可溶性粒子とを、湿式混合などの公知の方法により混合する。
【0083】
フェナントロリンFe錯体の溶液および/または分散液と、可溶性粒子との配合割合は、例えば、フェナントロリンFe錯体の溶液および/または分散液におけるフェナントロリンFe錯体(固形分)の総量100質量部に対して、可溶性粒子が、例えば、10質量部以上、好ましくは、50質量部以上であり、また、例えば、500質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【0084】
これにより、フェナントロリンFe錯体および可溶性粒子の溶液および/または分散液を得る。
【0085】
次いで、この方法では、得られたフェナントロリンFe錯体および可溶性粒子の溶液および/または分散液を乾燥させる。
【0086】
乾燥条件としては、乾燥温度が、例えば、−25℃以上、好ましくは、15℃以上であり、また、例えば、80℃以下、好ましくは、50℃以下である。乾燥時間は、例えば、12〜48時間である。
【0087】
次いで、上記の焼成条件において、フェナントロリンFe錯体および可溶性粒子の混合物を焼成し、フェナントロリンFe錯体と可溶性粒子とをランダムに含有する複合物を得る。
【0088】
その後、この方法では、複合物中の可溶性粒子を、除去する。
【0089】
例えば、可溶性粒子としてアモルファスシリカが用いられる場合には、焼成により、アモルファスシリカが結晶化し、シリカ(焼成体)となる場合がある。このような場合において、そのシリカを除去するためには、例えば、複合物を、アルカリ処理する。
【0090】
アルカリ処理としては、複合物に、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を含浸させる。これにより、複合物中の可溶性粒子が溶解されて、細孔が形成され、その結果、多孔質の焼成体が得られる。
【0091】
このような多孔質の焼成体によれば、焼成によりフェナントロリンFe錯体が凝集および粒成長する場合にも、細孔により、フェナントロリンFe錯体の有効表面積が十分に確保されるため、優れた触媒活性を維持することができる。
【0092】
なお、可溶性粒子を除去する方法としては、上記に限定されず、可溶性粒子の種類に応じて、例えば、水に浸漬する方法、酸処理する方法など、適宜選択することができる。
(3)本発明の酸素還元触媒は、上記した焼成体以外の任意成分を含むこともできる。そのような任意成分として、担持体が挙げられる。
【0093】
担持体としては、例えば、カーボンブラックなどのカーボンが挙げられる。酸素還元触媒が担持体を含む場合、焼成体は担持体に担持される。焼成体を担持体に担持させるには、公知の担持方法を採用することができる。
【0094】
例えば、含浸法では、上記したフェナントロリンFe錯体の溶液および/または分散液に、担持体を混合した後、上記した焼成条件にて焼成する。担持体の混合割合は、フェナントロリン系配位子100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、50質量部以上であり、また、例えば、500質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【実施例】
【0095】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0096】
1.酸素還元触媒の調製
実施例1
1,10−フェナントロリン(東京化成工業社製)500mgを配位子として、エタノール25gおよび水10.5gの混合溶媒中に添加し、分散させて、配位子分散液を調製した。
【0097】
この調製した配位子分散液に、鉄酢酸32.205gを添加し、分散させた。次いで、カーボンブラック(Cabot社製、BP2000)500mgを添加し、分散させた後、乾燥させた。
【0098】
その後、得られた乾燥物を、不活性ガス雰囲気中(不活性ガス流量:25mL/分・g)において、焼成温度1000℃で2時間焼成した。これにより、酸素還元触媒を得た。
【0099】
実施例2
焼成温度を900℃にした以外は、実施例1と同様にして、酸素還元触媒を得た。
【0100】
比較例1
焼成温度を800℃にした以外は、実施例1と同様にして、酸素還元触媒を得た。
【0101】
比較例2
不活性ガス流量を7mL/分・gにした以外は、実施例2と同様にして、酸素還元触媒を得た。
【0102】
評価方法
1)成分分析
各実施例および各比較例において得られた酸素還元触媒の組成を分析するため、硬X線光電子分光(HAXPES)測定を実施した。
【0103】
光電子分光アナライザーには、VG−SCIENTA社製R−4000を用いた。Pass Energyは、200eV、スリットサイズは、0.5mmとした。光源は、SPring−8の標準型真空封止アンジュレータ、モノクロメータは、Si111結晶を用いた傾斜配置直接水冷型二結晶モノクロメータを採用した。モノクロメータとミラーの間にチャンネルカットモノクロメータ(Si111結晶の444反射)を用いた。ビームサイズは、0.5mm(H)×0.5mm(V)でサンプルの固定には、銅版に直径2mmの穴をあけて、そこに電極触媒粉末を押し込むことでサンプルを形成した。入射エネルギーは、7940eV、光電子出射角度は、80°で、酸素還元触媒中の主な元素であるFe、N、C、OについてX線光電子スペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
【0104】
2)酸素還元活性評価
回転リングディスク電極(Rotating Ring−Disk Electrode:RRDE)を用いて酸素還元の活性を測定した。
【0105】
酸素還元触媒とアイオノマーを有機溶媒中に分散して調製したインクを、グラッシーカーボン上に滴下し、測定電極(担持量0.51μg/mm
2)とした。
【0106】
なお、インクは、酸素還元触媒10mg、超純水0.8mLおよび2−プロパノール0.2mLを混合して1次インクを調製し、得られた1次インク0.1mL、超純水0.75mL、2−プロパノール0.1mLおよび0.5w%ナフィオン溶液0.05mLを混合して調製した。
【0107】
そして、得られた測定電極を用いて、酸素で飽和した1mol/L水酸化カリウム水溶液を入れた3電極型セルを作製した。
【0108】
3電極型セルにおいて、参照電極には、水銀−水銀酸化物電極(Hg/HgO)、カウンター電極には、白金線を用いた。
【0109】
測定温度は、30℃で、回転数は、1600rpmとした。走査速度は、0.01V/sとし、高電位から低電位に向けて走査した。
【0110】
10
−5Aにおける電位(反応開始電位)、および、最大電流値の半分の電流値における電位(半波電位)を測定した。反応開始電位および半波電位の値が高いと、酸素還元活性が優れている。結果を
図3に示す。